ドアを開けたら……びっくり仰天!

作者:秋津透

 外で、ガレージに車が入ってくる音がします。
「あ、お母さんが帰ってきたんだ」
 留守番をしていた子供が、買い物に出ていたお母さんを迎えようと、子供部屋のドアを開けます。
 すると、びっくり!
 ドアの向こうには、青黒く膨れた顔をして、経帷子をまとい、額に三角の布を巻いた、純日本式の幽霊が立っていたのでした。
「きゃあ!」
 子供は目を回して倒れてしまいました。

「……夢だったの?」
 目を覚ました子供が、ベットに身を起して呟く。ドアを開けて、幽霊と対面する瞬間まで、いつもの生活と何も変わらない夢だったから、驚きも大きい。まだ心臓がどきどきと……。
 と、その心臓が、いきなり鍵で貫かれる。
「!」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 鍵を手にして呟くのは、12人のドリームイーターの魔女の集団「パッチワーク」の一人、第三の魔女・ケリュネイア。
 心臓を貫かれた子供は、ベットに倒れ込み、意識を失う。
 そして、ベットの横には新たなドリームイーターが……現れた。
 その姿は、幽霊ではない。ドアだ。表面をモザイクに覆われたドアが、前後左右の四方向についている箱で、鍵を持った手と短い足が生えている。
 そして、ドアを開けたらいったい何が姿をみせるのか……それは、今はまだ誰にもわからない。

「千葉県銚子市で、子供がドリームイーターに夢を奪われ、新たなドリームイーターが生じてしまうようです」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、真剣な口調で告げる。
「今回奪われる夢は、夢想とか願望とかではなく、文字どおり、眠っていてみた夢です。この子は夢の中で、ドアを開けたとたんに変なモノにでくわして、びっくり仰天して目を覚ましてしまったのですが、ドリームイーターは、その『驚き』を奪ったようです。『驚き』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消していますが、奪われた『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが、人を驚かす事件を起こそうとしています」
 急ぎ現場に向かい、ドリームイーターが一般人を驚かす前に接触して倒してください、と、康はプロジェクターに地図や図面を出す。
「夢を奪われた被害者の家は、ここです。時間は深夜で周囲は寝静まっており、新たなドリームイーターは、家から大通りの方へ、ふらふらと出てくるようです。大通りまで出られてしまうと、深夜便のトラックなどが走っていますが、そこまでの間の道には人気はありません」
 そう言って、康は図面を切り替える。
「新たなドリームイーターの姿は、おおむねこんな感じです。四面にドアがついた箱で、人を見かけるとドアが開きます。中に何がいるのかはわかりませんが、どうやら、出てはこないで姿を見せるだけのようです。箱の中を見て驚いた人は襲われますが、驚かなかった人は、何というか、どうも優先して襲われるようです。攻撃方法は普通のドリームイーターと変わらず、鍵で突いてきたり、ドア表面のモザイクを飛ばして攻撃と自己治癒を行うようです」
 そう言うと、康は真面目な表情で告げる。
「四面ドアのドリームイーターを倒さないと、夢を奪われた子供は目を覚ますことができません。どうか、夜のうちにケリをつけて、ちょっと変な夢をみてびっくりした、というだけのことにしてあげてください」
 子供も、その家族も、デウスエクスに襲われたなんて凶事を気づかずに済めば、それに越したことはありませんから、と、康は一同に頭を下げた。


参加者
不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
宇部・敦子(おおきないきもの・e13759)
ガブリエラ・フォルトゥナ(今どきのフサリア・e19763)
ポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)
出口・ひろま(ドラクター・e30092)

■リプレイ

●驚の一
「くぁ! 驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキに洗濯機、やって来た来たムテキの赤ペン。ヒナタさんココに参上のオチね~!」
 高らかに叫びながら、ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)が深夜の住宅街を疾走する。
 あらま、この声で目を覚ましちゃう人がいるかもね、と、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は小さく肩をすくめたが、目覚めた住民が不審がって様子を見に出てくるまで、もたもたしているつもりはない。
「……言ってもしゃぁねぇこたぁ百も承知だが、手前で出向いて欲しいとこだなぁ」
 一方、不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)はいつになく真剣な表情で、低く呟きながら走る。
「年端もいかねぇ少年を利用しようなんざ、けったくそ悪ぃじゃねぇか」
「そうよねぇ。驚きが欲しいなら万国吃驚ショーでも見てなさいよ、って感じね」
 こちらはゆったりした感じで、宇部・敦子(おおきないきもの・e13759)が相槌を打つ。
 するとポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)が、真面目な口調で尋ねる。
「万国吃驚ショー……そういう催しが定期的にあるのですか? 万国というと、それなりに国際的な規模で……万国博覧会のようなものでしょうか?」
「えーと……万博とはだいぶ違うけど、まあ、あるというか、あったのよ、昔」
 若い子には通じないのね、と、敦子は小さく溜息をつく。
 そこへ、ガブリエラ・フォルトゥナ(今どきのフサリア・e19763)が大きな声をあげた。
「いたぞっ! あれだろう?」
 深夜の街路、常夜灯の淡い光に……と言いたいところだが、最近はLEDが普及して、あまり情緒なく明るい光の中に、ドリームイーターらしき異形の姿が浮かび上がる。
 四方に扉のある縦長の箱という姿そのものは、廃棄された木製の古ロッカーじみた雰囲気で特に異様でもないが、それに手足が生えて、大きな鍵を携え動きまわっているというのは、付喪神や百鬼夜行を思わせ不気味である。
「あそこにいるやつなのだ! すごく変わった格好なのだ!」
 七歳幼女ドラゴニアンの出口・ひろま(ドラクター・e30092)が、歓声をあげて突進する。
 するとドリームイーターは、思いのほか太く力の籠った声で叫んだ。
「ででん! ぱあ!」
 その声とともに、ケルベロスたちの方に向いたドアが、ばたんと勢いよく開き、ドリームイーターの魔力なのか、中のモノが一同の前に浮かび出る。
 それは、古代エジプトのファラオ、ツタンカーメンの黄金マスク。と、見えた途端、マスクが斜めにずれ、一部を包帯に覆われた乾燥死体、ミイラが顔をのぞかせ、ぎらりと目を光らせる。
「きゃあ!」
「うわあっ!」
 ひろまがびっくりして尻餅をつき、和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)が悲鳴のような声をあげる。
「で、でた、でた、ミイラ……!」
「くぁ? 何そのしょぼいの。そ~んなモンで驚くか~~!」
 涙目の紫睡を尻目に、黄金マスクが出た時点で、ミイラが来るのは予想がつくわい、芸がなーい! と、ヒナタが怒涛のダメだしをかます。
「ま、ゾンビあたりは予想ついてたし、黄金マスクでミイラ、というのは分かりやすいわね」
 芍薬も平然としてうなずくが、ディフェンダーを務めるヒナタと芍薬以外のメンバーは、程度の差はあるが、それなりに驚いてちょっと下がる。
 そして、ばたんと音をたててドアが閉じると、ミイラの姿は消え、ドリームイーターがヒナタに襲いかかる。
「きさまぁ! おどろけぇ!」
「くぁ、驚かんわい! もっと凄いもん、出してみせるオチよ!」
 そんな程度じゃ、ヒナタさんの鋼のココロには通用しないオチ! と勝ち誇った瞬間、ドリームイーターが突きだした鍵が、ヒナタにぐさりと突き刺さる。
「くぁ、不意討ちとは卑怯オチ!」
「お、おのれ、おどかして襲うなんて、ひどいですよ。ゆ、許しませんよ!」
 涙目でビクビク、ドキドキしながらも、紫睡が敢然と反撃に出る。
「燃えよ、燃えよ、幾何学の徒よ、我が心の迷いを燃やし、虹色(こうしょく)の光をもって我が道を照らせ!」
「ぐわあっ!」
 ビスマス鉱石を魔力で溶かして武器とし、魔法攻撃で強烈なダメージを与える必殺技『幾何学の徒(ビスマス・ウォール)』が発動、ドリームイーターのドアの一つを、ほとんど半壊状態まで斬り破る。
「くぁ、ムテキ・サイキョーのヒナタさんを攻撃して、無事で済むなどと思うなオチよ!」
 ドリームイーターの攻撃で、もしかするとトラウマが出ているのかもしれないが、外見的にはまったく通常と変わらない不思議反応を示して、ヒナタがアームドフォートの主砲を一斉発射し、全力反撃する。 
 続く芍薬はリボルバー銃を撃ち放ち、ドリームイーターの頭部……がどこかはよく分からないが、とりあえず、紫睡がダメージを与えたあたりに追い討ちをかける。サーヴァントのテレビウム『九十九』はヒナタに応援動画を送り、傷とトラウマを癒す。 
 そしてポネシーが、強烈な雷電でヒナタの傷を癒やし、攻撃力を上げる。サーヴァントのテレビウム『レウム』も、ダメ押しの応援動画をヒナタに送る。
「さてと。ドア四つ、全部付き合う気はねぇからな」
 銜えた長楊枝をぷっと吐き捨て、梓が斬霊刀『Gelegenheit』を振りかぶる。雷電の力を帯びた神速の突きが、ドリームイーターのドアの一つを、ざくざくと抉る。
 続いてガブリエラのサーヴァント、ライドキャリバーの『コイン』が重騎兵よろしく突撃し、ガブリエラ自身は速射の銃撃で、ドリームイーターの持つ鍵に損傷を与える。
「それじゃ、いきます、ねっ!」
 掛け声をかけて、敦子が強烈な重力蹴りを繰り出す。ばきんと音をたててドアの一つが割れたが、モザイクが散って中は見えない。
 そしてひろまのサーヴァント、ミミックの『フランクリン』が、ドリームイーターの短い足にがぶりと噛みつき、ひろま自身は前衛に雷電を送り、防御耐性を高める。
 するとドリームイーターは、高々と宙に跳んで叫んだ。
「ででん! ぱあ!」

●驚の二
「そ、その声だけで充分に驚きますよ……うわああああっ!」
 表情を引き攣らせる紫睡の前で、割れたドアがばたんと開き、中のモノが浮かび出る。
 それは、半袖Tシャツにスカート、髪をまとめ帽子をかぶった、ごく普通の女性の後ろ姿。しかし振り返ると、その顔は……肉も皮もない髑髏だった。
「ぎゃああああああっ!」
「くぁ? ミイラの次は、ドクロ? 連続で屍怪? しょぼい、しょぼすぎるオチ~! そ~んなモンで驚くか~~!」
 派手に悲鳴をあげる紫睡を尻目に、ヒナタは敢然とダメだしをかます。本当は、一撃目を喰らっているのだから、ここは驚いてみせて芍薬に受け手を譲るのが利巧なのだろうが、ムテキ・サイキョーのヒナタさんは、退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! なのである。
「この女の人は、夢を奪った子のお母さん? 悪趣味な真似するわねー」
 芍薬は、声に怒りを含めて言い放つ。他のメンバーは、紫睡ほどではないにせよ、おおむねそれなりに驚いてみせる。
 そしてバタンとドアが閉じると、ドリームイーターはヒナタに向かって、破れたドアを覆っていたモザイクを飛ばす。
「きさまぁ! おどろけぇ!」
「くぁ、驚かんとゆーとるオチ!」
 昂然と言い放つヒナタに、モザイクが襲いかかる……と見た瞬間、サーヴァントの『九十九』が飛び出し、攻撃を肩代わりする。
「おのれ、これ以上はやらせません!」
 涙目の紫睡が幻影のドラゴンを召喚し、強烈なブレスを叩きつける。ヒナタは、かぶりものの赤ペンの足をうにょんと伸ばし、刃のように鋭い蹴りをドリームイーターに見舞う。
「くぁ、キサマの無芸な驚かしは、もう飽きたオチ! 残り二つは見せなくていいから、とっとと潰れるオチ!」
「そーね。決められるもんなら、決めちゃいましょ」
 どうせ、残り二つの片方は幽霊と分かってるし、と、言葉には出さずに呟き、芍薬は必殺の『火葬(インシネレイト)』を放つ。
「エネルギー充填率……100%! いくわよ、インシネレイト!」
 冥土の土産よ、とっとと夢の中へ帰れ! と、芍薬は熱エネルギーを集中させた真っ赤な手刀を打ち込む。ばき、と、音をたててドアが破れたが、まだドリームイーターが倒れるには至らない。
「ふん……意外にタフね」
 わずかに眉を寄せ、芍薬は呟く。『九十九』は自分に対して応援画像を……どうやって使っているのかちょっと疑問は生じるが、とりあえず使い、ポネシーと『レウム』も、身代わりで傷を負った『九十九』を癒やす。
「ったく、悪趣味この上ねーな」
 憮然として呟くと、梓は『Gelegenheit』を一閃させる。今度は空の力を帯びた刀が、ドリームイーターの傷を更に深く抉る。
「しかし、こいつ倒して夢の中に追い返したら……母親が髑髏になっちまった夢を子供に見せるのかね? そりゃ、あんまりよろしくねーか」
「いや、悪夢は倒せば消える。少年の夢に戻ったりはしないよ、きっと」
 炎を纏って『コイン』が突撃し、ガブリエラはルーンアックスを豪快に振るう。ばきばきと派手に破壊音があがるが、ドリームイーターはまだ倒れない。
「『子供だまし』レベルじゃ、おばさんは納得させられないわよ? お化け屋敷から修業始めてきなさい」
 言い放つと、敦子が地獄の炎を纏った鉄塊剣を叩きつける。ばきいっ、と、またも大きな破壊音があがった。

●驚の終
「がんばるのだ!」
 ひろまの声援を受け、『フランクリン』が手にした凶器でドリームイーターを強打する。ひろま自身は、傷を負っているサーヴァント『九十九』を癒やす。
 もはや全身ずたぼろ状態のドリームイーターは、それでもぐるんと身体を回し、太い声で叫ぶ。
「ででん! ぱあ!」
「ひっ……あれ? 箱?」
 三つ目のドアが開いて現れたのは、小さな木箱。そして、いきなり箱の蓋が開き、中から大きな火の玉が飛び出した。
「わあああああっ!」
 悲鳴をあげた紫睡を、火の玉がぎろりと睨む。火の玉と見えたのは、全面を炎に覆われた人の首で、苦痛か憤怒か、恐ろしい表情でケルベロスたちを見据えている、と、そこまで見極めないうちに、紫睡は頭を抱えてうずくまってしまったが。
「くぁ? ビックリ箱かと思ったら、火吹入道? 古いオチ、陳腐オチ、しょぼすぎるオチ~! そ~んなモンで驚くか~~!」
 最後の最後まで敢然と、ヒナタがブレることなくダメだしをかます。
「火の玉飛び出してきてもねぇ……こっちまで来ないってわかってるから、まあ、どってことないわよね」
 でも、こうして出揃ってみると、幽霊以外の三つは、正体見せるまでワンクッションあるわけね、と、芍薬は冷静に評する。
「工夫してるとも言えるけど、単純なインパクトは幽霊に劣るわね」
「きさまぁ! おどろけぇ!」
 ドアをバタンと閉め、ドリームイーターは芍薬に襲いかかる。すると、またも『九十九』が飛び出し、ドリームイーターが突きこんできた鍵を受け止める。
「いいかげんに……潰れなさいっ!」
 憤怒と、脅かされ続けた幾分かの徒労感を籠めて、紫睡がルーンアックスを重そうに持ち上げ、横薙ぎに振るう。ばきっと音をたて、刃が深く食い込むが、まだドリームイーターは倒れない。
 そして紫睡は、背後を見やって叫んだ。
「ガ、ガブリエラさん! すみません、お願いします!」
「はーいっ! お願いされたよっ!」
 快活に応じて、ガブリエラが元気よく飛び込む。ルーンアックスが真っ向唐竹割りに叩きつけられ、ドリームイーターを完全に縦に両断した。
「ぐわあっ!」
 断末魔の絶叫とともに、ドリームイーターは左右に両断されて倒れる。割れた箱の中からは、大量のモザイクが噴き出し、宙に舞い上がって消えた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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