ミミズは益虫と言われてもキモいものはキモい

作者:あき缶

●ミミズ団子
 ここは日本海のとある港。釣り客が車を置く広場に、ズカズカとキャミソールにミニスカ、ミュールでオシャレした女がやってきた。
 まだ日も落ちていない駐車場に戻ってくる釣り客などいないので、広場にはこの女一人である。
 もう最悪! と唐突に女はトンビも驚くような大声で叫ぶ。
「なにあれ、超キモい! もう無理! 最悪! 帰る!!」
 女はブチキレながら、カラーコーンを蹴り飛ばす。
「ぜっったい二度と釣り趣味の男となんか付き合わない。ミチルに文句言わなきゃ! 釣り趣味の男は合コンに呼ぶなってキツく言わなきゃ!」
 女は露出した腕を寒そうに擦る。
「うー、まだ鳥肌たってる……。釣りの餌ってミミズなのかよ……しかもぎっしり団子になってタッパに……! ああもう二度とタッパに麺類いれられねーじゃん!」
 とブツブツ言う女の背後に緑色の魔女が、ぬうと立つ。
 そして魔女は手にした鍵で女の心臓を貫いた。
 女は悲鳴も言わずに砂利の上に転がる。
 緑色の魔女――第六の魔女・ステュムパロスは、あははと笑った。
「私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 そして女の傍らで『嫌悪』はドリームイーターとなって現世に生まれ落ちる。
 ところどころがモザイクになった巨大な巨大なミミズ団子のドリームイーターが……!!

●巨大触手モザイク団子
 あー気持ち悪いーと怖気をふるいながら、香具山・いかる(ウェアライダーのヘリオライダー・en0042)は、ヘリポートにやってきた。
「あのさぁ、キモいもの見ると『嫌悪感』って湧くやんか」
 といかるは切り出した。
「その『嫌悪』からドリームイーターを生むドリームイーターがおるらしいねん。僕、その予知みてからまだサブイボがとまらんのやけどね。
 ドリームイーターを生んだ犯人の行方は補足でけへんかったんやけど、そいつが生んだドリームイーターが悪さしようとしてるから、倒してきて欲しいんよ」
 どのようなものから生まれたとしてもデウスエクスはデウスエクス。被害が出る前に倒さねばならぬ。
 今回の被害者は、合コンでひっかけた男に釣りデートに誘われたものの生き餌の気持ち悪さにブチキレて帰ろうとしている最中に、デウスエクスに襲われたようだ。
 嫌悪から生まれたドリームイーターが倒れれば、心臓を貫かれた被害者も元に戻るので、人命救助も兼ねた依頼だといかるは言った。
 敵のドリームイーターは一体のみ。直径五メートルくらいの巨大な巨大なミミズ団子の形をしている。
 場所は人気のない広場になるので、一般人の退避も考えなくていいだろう。
「うぞうぞーって、ああああキモイ!!」
 身震いし、涙目のいかるは頑張って続けた。
「トラウマというか、ドリームイーターは幻のミミズを相手に巻きつけて攻撃するんや。あと、ミミズ団子の中に取り込む。飲み込むっていうか。想像するだにめっちゃきしょいけど」
 きもいけど、頑張ってな……と言ういかるはまだ涙目であった。


参加者
ペテス・アイティオ(目指せ魚肉ソーセージ・e01194)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)
エゼルフィ・セールヴァンツ(さまようメイドール・e07160)
綺羅星・ぽてと(三十路・e13821)
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
水流・瞳(藍は本に沈む・e28858)

■リプレイ

●うねうねぐちゅぐちゅした肉塊
 潮騒が聞こえてくる夏の駐車場は、ジリジリと日射熱と放射熱で暑い。
 昼間ということもあって、暑さはピークである。
 そんな汗だくな不快な天候に、眼前には気味の悪い巨大ミミズ団子デウスエクスである。
「わたしですね、ぬるぬるしたものってホントにダメなんですよ。
 うにゃうにゃしたものって本当にダメなんですよ。モロヘイヤとか食べられないし。
 夏場にアスファルトの上に死にそうになってるミミズさん頑張って助けたりはしますけど、これはホントにムリ……」
 涙目でペテス・アイティオ(目指せ魚肉ソーセージ・e01194)は闇ウーロンを飲んで気分をごまかしている。
「確かに免疫を持ってない人にはきついですよね」
 自分は幼少期に見慣れたから平気だと、舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)は平然としつつ、ペテスを慰めていた。
(「私としても、これはこれでアリかと思うんだけど……」)
 デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)は心のなかでひとりごちた。職種団子もありっちゃありなところ、流石サキュバスである。だが、ティーンエイジに見える外見の割に内面は大人な二十二歳は、周囲の空気を読んだ。
「うわあ、気持ち悪い!」
「G(ゴキブリ)と毛虫芋虫の次にミミズは嫌な虫だわさ……」
 青ざめ、雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)は呟く。少しでも離れようとやゆよは一歩下がる。後衛担当だからしょうがないと言いながら。
「……一匹ずつなら大丈夫なんですけどねぇ」
 鳥肌がたつ腕を擦り擦り、水流・瞳(藍は本に沈む・e28858)はミミズ団子から目をそらす。
「は、初のディフィンダーを務める相手がこれかぁ……」
 綺羅星・ぽてと(三十路・e13821)は全身から『気持ち悪い』という感情を発露させながら、ドリームイーターに立ちはだかる。
「ひどい目にあうのはバラエティで慣れているんだけど、でも……ううう、でも、ここは体を張ってでもこのミミズ団子を止めなければ!! ……ってぎゃー! きたァ!」
 迫り来るミミズ団子に、ぽてとは顔の上半分を縦線で覆う。
 しかし避けてはいけない、自分がディフェンダーなのだから、でもやっぱ気持ち悪いものは気持ち悪い!! とぽてとが葛藤していると、彼女の前にヴァルキュリアの少女が割り込む。
「ぽてと様はボクが守るであります!」
 の言葉とともに、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)はミミズ団子に飲み込まれた。
「ああっクリームヒルトちゃん!」
 ぽてとが思わず声を上げる。
 ぐちゃっぐちゅとミミズ団子がクリームヒルトを咀嚼している音が響いた。
 ぞーっと一同を寒気が襲う。
「むきゅううううあああああああ?! 無理無理無理ですー!!」
 ペテスがクリームヒルトの受けているであろう被害を想像したのか、びいびい泣きながら巨大なスマホをばしばしタップ……というよりもしばき倒した。
 グラビティアプリが起動し、なんやかんやでミミズ団子の真理が歪み、デウスエクスにダメージを与える。
 ペッと吐き出されたクリームヒルトはネトネトの粘液まみれであった。
「ほひょぉおおお! き、気持ち悪いですううう!!」
 と、悲鳴を上げて怖気をふるっているペテスに、
「目を瞑って見なければ大丈夫よ」
 と瑠奈が戦闘するにおいては自殺級のアドバイスをしてあげている。
「クリームヒルトさん、大丈夫?」
 オウガメタルによる鋼の拳でミミズ団子を殴り飛ばて距離を作ったデジルが『あっこれ気持ちよさそう』と内心では思いつつ、旅団仲間に尋ねるとクリームヒルトは悲壮な表情で、生まれたての子鹿のように藻掻きながら立ち上がった。
「ううう、正直気持ち悪いであります……し、しかし、しかし、ボクは盾の騎士でありますから……」
 ボクスドラゴンによる属性のインストールと、ぽてとによる「ブラッドスター」で勇気を取り戻した盾の騎士様は勇ましく高速演算で算出した敵の弱点めがけて、グレイブ片手に突撃していった。吹き飛ぶ粘液が光の翼に照らされて軌跡を描き美しい。
 瑠奈が爆破スイッチを押して、ミミズ団子を爆破させれば、粘液と肉片が青空に散った。
「ひぃ、うねうねみっしり……でもアレを倒さなきゃいろんな意味で被害が沢山出るのよさ」
 死にかけた目でやゆよはライトニングロッドをかざした。
 仲間を守る電撃の壁が出現する。
「ディフェンダーの方のためにも速攻、ですね」
 瞳が魔導書を開いて石化の効果をもつ光線を放つ。
「ミミズ……うねうね……っと、変なこと思い出してはいけませんでしたっ。今は討伐に集中しましょうっ」
 ぼーっとしかけていたエゼルフィ・セールヴァンツ(さまようメイドール・e07160)は、気を取り直して、分身の術をクリームヒルトにかけてやる。
 とにかくこんな気持ち悪い敵はさっさと殺すに限る、と女性ケルベロスのみのパーティの気持ちは一つになっていた。

●君を這いまわる気味の悪いミミズ
 ドリームイーターは悪夢をもたらす。
 数合ケルベロスとミミズ団子が刃を合わせ、いや刃とミミズを合わせた結果、ケルベロスは粘液か幻のミミズに体を包まれてしまっていた。
 エゼルフィに付与された幻の成人なみの長さと太さを持つミミズが彼女に巻きついて、苛んでいる。
「こ、これと一夜を……!? こ、こんなのにお仕置きされたら私……お、お許しくださ、ひああああぁっ!」
 歴訪してきたご主人様のひとりとの思い出を励起されてしまったか、エゼルフィは混乱状態で叫んでいる。
「うぅ、見てるだけで辛いのよさ」
 やゆよが熱血ロボアニメソングのような激しく雄々しい曲を奏でて、仲間を励ます。
 そんな彼女自身も幻のミミズに絡まれている。
 顔を覗き込んでくる彼女にしか見えないミミズから必死に顔を背けつつ、やゆよは死んだ目で呪文のように呟いていた。Gよりマシ……毛虫芋虫よりマシ……と。
「やぁん、そこ、触っちゃだめぇ! くすぐった、いやぁ! だ、だめ、それ以上は、あぁん!」
 トラウマによってサキュバスらしい艶っぽい悲鳴をあげているデジルだが、これはこれで……と内心は思っているので、半分冷静な彼女の操る攻性植物が的確に敵を締め上げていた。
「ぐすっ……触手依頼で頑張って、オラトリオはえっちな種族じゃないって、証明しないと……えぐ」
 どこの誰が言っていたんだその評価、という風評被害を払拭しようとペテスは頑張っているのだが、ミミズ団子に咀嚼されて服も髪もネットネトである。
 気持ち悪過ぎて気絶しそうだが、ペテスはケルベロスなのでそうそう簡単に気絶は出来なかった。
 気持ち悪過ぎて暴走したくなるが、ケルベロスなペテスはそう簡単に暴走も出来なかった。
「ひぃい、どうしたらいいんですかあ! むきゅあああああ! もう地球ごとこのミミズさんたち滅ぼしてやりたいんですけど!」
 ペテスは絶叫するが、この状況を打破するにはドリームイーターを倒すしか無いのである。地球ごととかスケールでかいこと言わなくても、目の前のドリームイーターだけ倒しておけば大丈夫である。
「もう暴走しちゃいたいですー!」
 暴走した後の自分に全部託そうにもそう器用なことは出来ないので、ペテスは半分八つ当たり半分殺意でオウガメタルによるパンチをドリームイーターに見舞った。
 瑠奈のケルベロスチェインがドリームイーターを的確に追い詰めていく。
「ミミズ自体には害はないのだけどね。苦手な人もいるから……」
 ミミズ団子が平気な瑠奈が軸とならないと、士気自体が下がりそうだ。
「みんな、しっかり!」
 ぽてとがラスボスクロスをド派手な衣装(アルティメットモード)に変化させて前衛に君臨し、挫けそうなケルベロスを励ます。
 それを見たクリームヒルトはポツリと呟いた。
「ぽてと様はアイドルというより芸人なイメージでありますね……」
 甲龍タングステンが同意を示すようにブレスを吐いた。
 だがミミズ団子の命も風前の灯である。
「あぁ、ほら、あそこに良い玩具がありますよ!」
 瞳が召喚した水のシャチが興味津々に肉塊へと向かっていく。
「ほらほら、遊んでいらっしゃい。玩具なら沢山ありますよ?」
 あぐあぐとシャチに齧り回され、ドリームイーターは苦しげにミミズをうねらせた。

●窮ミミズ団子ケルベロスを噛むも
 シャチに食いちぎられ瑠奈に爆破されミミズ団子はボロ布のような状態であった
「あとちょっとなのよさ!」
 やゆよが言い、デジルに賦活電気ショックをかける。
「これあげるから、アレをもっと強くぶちのめしてくるのよさ」
「オッケー、そろそろおしまいってことね。ちょっと名残惜しいけど……」
 デジルは全身をバネのように弛め、目にも留まらぬ速度で足をドリームイーターに叩きつける。
 ぐちゃあっとバットの真芯で捕らえられたボールのように身を歪め、ドリームイーターは転がった。
「悠久の時の果てには宇宙の法則すら崩壊する。万象は流転する。変わらないものなど存在しない。絶対に正しいものなど存在しない。わたしは真理を否定する! アクセス:コードフランケン!!」
 今度は冷静にアプリを起動できたペテス、詠唱と共にドリームイーターの真理を歪める。
 ぽてとのチェーンソー剣が唸りを上げ、瑠奈の爆破によって質量を減らされたミミズ団子の肉片を更に削っている。
「うああああ、気持ち悪いぃいい!」
 と悲鳴を上げながらも、ぽてとの手は止まらない。
 エゼルフィのゲシュタルトグレイブが稲妻ごとドリームイーターに迫るも、それは避けられた。
 クリームヒルトとボクスドラゴンの連携攻撃でミミズ団子は倒れかけ……しかし、最後の一本になっても、ドリームイーターは生きてはいた。
 ビュルルッと高速でミミズはエゼルフィの生命力を吸い取ろうと跳びかかっていく。
「!」
「させるか!」
 ぽてとが身を挺してエゼルフィを守るも、ギュンギュンに力を吸い取られてしまった。
「よくもよくも……」
 ブチーン! と色んな感情によってキレちまったぽてと……。
「ちょっと、楽屋裏来いや、ゴラァ!」
 謎の結界『楽屋裏』を形成したぽてとはドリームイーターごとその中に引っ込んだ。
 ドカッバキッと不穏な音が漏れてくるが、見た目は美しいお花畑の風景と綺麗な音楽が漂い、『しばらくおまちください』というテロップが掲げられている。
 思う存分リンチしたことでスッキリしたらしく、ぽてとは晴れやかな表情でボロボロのミミズ団子と現世に帰還。奪われたエネルギーも取り返したらしい。
 二冊の魔導書により、ミミズよりも禍々しい黒い触手を呼び出した瞳。生死の境界線を知る黒い触手はドリームイーターを死の世界へと引きずり込んでいった――。

●悪夢は去り空は青
 今まで大騒ぎで聞こえなかったが、蝉の鳴き声が海辺の駐車場に戻ってきた。
「……はぁ」
 誰ともなくため息を吐く。瑠奈とデジルを除き、精神的にも肉体的にも辛い依頼であった。
「お風呂入りたい……シャワーでもいいです……あとお洗濯したい……ストレス溜まり過ぎでのどかわいたです……み、みず……」
 ウーロン茶ジャンキーのはずのペテスだが、今欲しいのは水らしい。
「あぁ気持ち悪かった……まだミミズが這ってるような気がしてならないのよさ。早くお風呂に入ってあの感覚を忘れたいだわさ」
 やゆよも気持ちは同じらしく、死んだ目のまま呟いていた。
「クリーニングしますよ。気休めでしょうが、気持ち悪いままなのも辛いですからね」
 瞳がドロドロの仲間たちの体と服だけでも、とスッキリ清潔に戻していく。
 水のペットボトルを片手に瑠奈は駐車場の隅で気絶していた被害女性に向かっていく。
(「些細な事で相手を振るのはどうかと思います」)
 手当をした後は、彼女をたしなめて、彼と合流させるつもりの瑠奈であった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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