夏の山へ落武者狩りに行こう

作者:天枷由良


 草木も眠る丑三つ時。
 山の中に、懐中電灯とスマートフォンを手にした女性の姿があった。
「……落武者め、必ず見つけてやるんだから」
 誰に聞かせるでもなく呟いた通り、彼女は山の中を徘徊するという落武者を探している。
 それは夏になれば湧いてくる、よくありがちなうわさ話。
 多くの者は一時の話の種にするだけだが、彼女は証拠を掴むために現地まで来てしまったのだ。
「覚悟しなさいよ。このスマートフォンでバッチリ撮影――って、ひゃぁ!」
 ガサッ! と、大きく木々が揺れる音がして、女性は四方八方へ懐中電灯を振り回す。
 落武者か? 落武者なのか?
 僅かな痕跡も見逃さぬと目を見開いた彼女の心臓に、闇の中からぬるりと現れた大きな鍵が突き刺さった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 鍵の主、真っ白な顔に黒いローブを纏ったドリームイーターが呟く。
 糸が切れたように、意識を失って崩れ落ちる女性。
 その隣に現れたのは、彼女の強い興味を具現化した、落武者ドリームイーターだった。

「ドリームイーターによる、新たな事件が起きたわ」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は、集ったケルベロスへ切り出した。
「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人がドリームイーターに襲われてしまうの」
 そのドリームイーターは興味を奪ってすぐに姿を消してしまったようだが、奪われた興味を元に現実化した怪物型のドリームイーターが、人を襲おうとしている。
「被害が出る前に、この怪物型ドリームイーターを撃破してほしいのよ。興味を奪われた人は意識を失って倒れているようだけれど、怪物型ドリームイーターを倒せば、目を覚ましてくれるでしょう」
 現れる怪物型ドリームイーターは、夏の山を徘徊する落武者を探していた女性の『興味』から生まれた。
 首元にモザイクの掛かった落武者の姿をしており、女性が倒れている地点から更に山を降りて、山道の入口を通りかかる人へ「拙者は何者でござろうか」と問いかけるのだと言う。
「その問いに正しく答えられたなら、見逃してくれるそうよ。……まぁ、皆がどう答えようと、この落武者とは戦って貰わないといけないのだけれど」
 また、落武者は自分の事を信じていたり噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるそうだ。
 うまく利用して誘き出せば、有利に戦いを挑めるかもしれない。
「攻撃方法は落武者らしく、日本刀を二本操って戦うわ」
 力任せでなく、流れるような動きで戦う。手練の剣士、といった感じだろうか。
「不思議な事に興味を持つっていうのは、とっても良いことよね。……実は私も、この手の話は好きなのよ。けれど、その興味を使って怪物なんか生み出されたらたまらないわ。一般の方々に被害が出る前に、落武者ドリームイーターを倒してきて頂戴ね」


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)
真上・雪彦(血染雪の豺狼・e07031)
フローネ・ハイデルベルク(レプリカントの鎧装騎兵・e14831)
一羽・歌彼方(槍つかいの歌うたい・e24556)
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)
玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)

■リプレイ


 ぽつ、ぽつ、ぽつ。
 闇の中、朧気に浮かび上がる光。
 人魂、ではない。もちろん霊の類でもない。
 それは落武者狩りにやって来たケルベロスたちが手にする、幾つかの灯りであった。
「――さて、落武者さんがでるっていうのはこの辺りですかね」
 山道の入口に差し掛かったところで一羽・歌彼方(槍つかいの歌うたい・e24556)が呟き、足を止める。
 予知によれば、落武者はこの辺りで獲物を探しているらしい。
 それを半数のケルベロスが噂話で引きつけ、残る半数が隠れて急襲する手はずなのだが……。
(「……よく考えたら、ここってガチで『幽霊の噂』があるんだよな……?」)
 狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)は少し顔を強張らせて、灯りを左右へと振った。
 敵は荒唐無稽な噂に対する『興味』から具現化したドリームイーターであって、噂の正体とは違う。
 落武者狩りに合わせて和装で提灯など提げてきたものの、今更ながらに気付いてしまった事実は朔夜の背筋へ冷たいものを走らせた。
 しかし殆どの仲間たちは怖がる素振りなど見せず、むしろ楽しげな様子。
「ん? 朔夜、どうしたの?」
「……いや、別に。さっさと始めよう。誰か通り掛かるとも限らないし」
 身を隠せそうな木々を探すアーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)に尋ねられ、朔夜は小さく首を振りながら、もっともらしい理由で作戦開始を促す。
「そうだね。……あ、あの木ならちょうど良さそうじゃないかな?」
 アーシィは生い茂る木々の一角に近づくと幹の裏に回り込んだ。
 幹の太さは光の翼を収めれば身を隠すに十分で、山道の様子を伺うために障害となるものもない。
 誘き出された落武者を急襲するには、絶好のポイントであるように思える。
 アーシィに続いて罪咎・憂女(捧げる者・e03355)、真上・雪彦(血染雪の豺狼・e07031)が幹の陰や樹上に潜み、最後にクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が幹の上部へ鎖を伸ばしてから、枝にお化け提灯を吊るした。
「この方が雰囲気が出るでござるよ」
 怪しげな光を発する提灯は辺りを照らしつつ、夜の山にそれらしい雰囲気をもたらすためのアクセントとなる。
 朔夜も同じように提灯を吊るして、その間にクリュティアは幹をひょひょいと登っていった。
 樹上では態勢を整えた雪彦が、右手で刀の柄を握ってニヤリと笑っている。
「手練の剣士と聞いちゃ、やり合うのが楽しみで仕方ねえぜ」
「まぁまぁ、後はエモノが来るのを待つだけでござる。闇討ちは忍耐が肝要でござるよ」
「闇討ちかぁ……ねぇねぇ、なんだか悪役みたいでドキドキしないっ?」
「落武者の幽霊を待つ悪役とはいったい……いえ、そもそも敵は幽霊……ではなくなんでしょう? 落武者という偶像……?」
 ひそひそと潜めた声を踊らせて、敵を待つ四人。
 その中でふと、クリュティアは落武者を具現化させた存在に意識を向ける。
「興味に興味を持つとは、いったい何者なのでござるか?」
「……新たに事件を起こし始めたパッチワークなる魔女ドリームイーター集団。その一体であることは確かなようですが……」
 憂女も思考を僅かに傾けて、しかしすぐさま目の前の事件に戻した。
「そちらも気にはなりますが、まずは興味を奪われた女性を助けなければなりませんね」
「ふむ、その通りでござるな」
 憂女の言葉に頷くクリュティア。
 それきり四人は口をつぐんで、敵の出現を待った。
 

「古の戦場、武功求めて彷徨う侍。怪談しながら階段上ろう、悪い落武者どこ行った?」
「なんですか、それ?」
「星灯りのランプを点けて、皆で歩けば怖くない……これの説明書に書いてあったのよ」
 首を傾げた歌彼方に、闇色の外套を纏った玄乃・こころ(ナイトメアハンター・e28168)がランプを掲げる。
 誘き出し役の四人は、仲間が潜む木々の側で噂話を始めていた。
「それにしても……落武者さんは何を思って、こんな所を彷徨っているんでしょうか……」
 ちらちらと木陰から頭を覗かせるアーシィとは違い、光の片翼を広げたままの歌彼方が切り出すと、まずはこころが噂に尾ひれをつける。
「首よ、首。自分の首を失くした恨みを晴らすのに、他人の首を求めてるのよ」
「私が聞いた話だと、落武者はこの辺りで討手に捕まって斬首されたそうだ。……玄乃の言う通り、首を探して彷徨ってるのかもしれないな」
 背びれを添える朔夜。
 そこに手足と羽根まで付け加えたのはフローネ・ハイデルベルク(レプリカントの鎧装騎兵・e14831)。
「落武者が探しているのは、なんでも……刀だとか」
 三人をより近くへ招いたフローネは、後ろ手に隠したスマートフォンを操作しつつ話を続ける。
「落武者の霊は、昔この辺りにあった砦で壮絶な最後を遂げた武者のものらしいのです」
 武者の無念は凄まじく、恨みを募らせるあまり砦の跡地に取り憑いてしまった。
 そして毎夜、こう言っているのだという。
「刀の数を数えて……一本、二本、三本……一本足りなぁい!」
 びくっ。
 演技か本気か、身体を震わす三人。
「……どうでしょう。定番のオチと聞きましたが」
 フローネが聞くと、一際身を固くした朔夜が新たな問いを投げかけた。
「な、なぁ。さっきから何か聞こえないか? ほら、笛と太鼓の音みたいな……」
 一同がよくよく耳を傾けてみると、確かに何か聞こえてくる。
 ……ひゅ~……どろどろ……ひゅ~どろどろ……。
 落武者の登場かと四方を見回す仲間に、フローネはスマートフォンを差し出して見せる。
「すみません、盛り上がるかと思いまして」
 画面を軽くタップすると、音は程なく止んだ。
 ほっと胸をなでおろす朔夜。その肩を、代わってこころが叩く。
「……ねぇ、あれ何かしら」
 今度は何を仕込んだのか。
 些か気持ちの余裕を持って彼方を見やった一同は、暫くの間、瞬きすることを忘れた。
 こころが指し示した方角にふわりと浮かんだ人影が、みるみるうちに近づいてボソリと問いかけてきたのだ。
「――拙者は何者でござろうか」
 白い顔、ざんばら髪の頭、刺さっている矢、壊れた鎧、汚い刀。
 全身で「私は落武者です」と自己主張するものが突然現れて、嫌でも心臓が跳ね上がる。
 だが、ここで慌てては役目も果たせない。
「さて。唾棄すべき怪物か、誇りに殉じた武士か……どうせなら、後者の方であって欲しいですね」
 落ち着いて正面から問いかけに応じた歌彼方は逆に聞き返す。
「貴方はどう思いますか?」
「……問うているのは拙者でござる」
 落武者は腹を立てたのか声を一段低くして、刀に手を掛けた。
「これがサムライ……武者鎧! はぁ……壊れていても良いものです……はっ」
 恐怖より好奇心が勝ってしまったフローネは敵が武器を抜こうとしたところで正気に戻り、表情を引き締めて答える。
「怪談ならば、過去も素性も重要なんですが……今の貴方は武者、戦士。ただそれで十分かと」
「……斯様な姿の拙者を武者と呼ぶか」
 身なりは見窄らしくとも、心は一端の侍であるのだろう。
 語気を緩めて少しばかり満足したような落武者に、しかしこころはミミックのガランを呼びつけながら冷酷な一言を浴びせた。
「教えてあげるわ。お前はただの抜け殻よ」


「抜け……殻?」
 落武者は言葉を反芻して、やがて瞳に怨念の炎を湛えながら刀を抜く。
「おのれ小娘、斬り捨ててくれる!」
 怒りを噴出させた落武者は刃をこころに向かって――振り下ろす最中で、飛び降りてきた雪彦に背をばっさりと斬り裂かれた。
「待ちくたびれたぜ! 落武者野郎!」
 噂話をしている四人に気を取られ、まるで警戒していなかった方向からの襲撃。
 振り向いた落武者へ樹上から飛んだクリュティアが苦無を機関銃のように浴びせ、その中に紛れて憂女が稲妻のような槍撃を、光の翼を展開したアーシィが緩やかな弧を描く斬撃を放つ。
 次々に繰り出された攻撃は全て落武者の身体を捉え、より惨めな姿へと変えた。
「ドーモ。初めまして。落武者ドリームイーター=サン。クリュティア・ドロウエントにござる。ここは首オイテケと言うべきでござるかな?」
「うーん、幽霊の正体みたりー! って感じで、ちょっと残念かなー?」
 着地したクリュティアと、刀を収めたアーシィが落武者に告げる間、ザックから縛霊手を取り出した朔夜を始め、誘き出し役の者たちも戦闘態勢を整える。
「戯れの物語を、ただの物語のままにしておく為に――いきます。全身全霊で!」
 哮るような声で、バイオレンスギターを手に歌い始める歌彼方。
「ボリューム全開! お腹の底の底から声出して! 歌います。響き渡れ、熱狂の歌――!」
 勝利に向かってひた走れという歌から闘志を呼び覚まされつつ、クリュティアは緋色の太刀を逆手に構えてなお続けた。
「お主、自分が何者か聞いていたでござるが……お主はデウスエクス。夢喰らいのデウスエクス。ただのドリームイーターにござるよ。迷わず地獄へゴートゥーヘル致すでござる!」
「訳のわからぬことを、この卑怯者め……」
 唸る落武者。
 その前に一歩踏み出た憂女は、雪彦とともに腰元の灯りを点けながら尋ねる。
「初撃は失礼を。私は罪咎という。あなたに名前を聞いてもいいだろうか?」
「貴様らのような者に名乗る名など持ちあわせておらぬ!」
「……それは残念だ」
 言い終わるが早いか、落武者は刃を閃かせて憂女へと斬りかかった。
 上段に構えた刀は空中に月を浮かべるような剣筋で憂女を斬り裂こうとして、しかし朔夜の突き出した縛霊手によって半ばで受け止められる。
 だがドリームイーターは弾かれた刀をあっさり引っ込めると、反対の手に持つ二本目の刀を下段から振り上げた。
 地を擦りながら向かってくる刃に片足をバッサリと裂かれ、膝が力を無くして崩れ落ちそうになる。
 鼻先にまで迫った落武者の形相を振り払うように退き、朔夜は霊力を帯びた紙兵を撒き散らした。
 自らも含めた前衛の仲間を守護する紙兵に、こころが放つオウガ粒子も混ざって傷は幾らか埋まっていくが、腱を痛めたのか上手く力が入らない。
 攻撃、回避、肝心な所で影響が出なければいいと思いながら朔夜が顔をあげると、刀を構えた雪彦が落武者に向かってゆらりと足を踏み出して――姿を消した。
 次の瞬間、雪彦は既に落武者を通り過ぎていて、落武者には特殊な歩法で間合いを詰めた憂女が斬りかかっている。
「…………疾ッ!」
 翼と尻尾で姿勢を調整しながら、合金製の小刀で敵を斬り抜ける憂女。
 剣閃は繊月を描くようにして鞘へと収まる、が……。
「……伊達に武者の姿を取っていないということか」
「チッ、スカしやがって」
 憂女は感心するように、雪彦は笑顔を浮かべながらも不満気な声で漏らす。
 目にも留まらぬ速さで放たれた二人の斬撃は、落武者が両手に持つ刀で受け流されていた。
「この程度の技で拙者を斬ろうなど、笑止!」
 構えというには頼りない、しかし何処から斬りかかっても受け止められそうな体勢で言い放つ落武者。
「ならばその首、拙者が頂戴致すでござる!」
 続いて向かったクリュティアは、逆手に構えた太刀で正面から敵の首元を狙う。
 捻りのない剣筋に余裕を見せる落武者。
 しかし刃が届く前に、クリュティアの身体は急加速して浮かび上がると落武者を通り過ぎた。
「何っ!?」
 落武者は慌ててクリュティアの姿を追うも、右腕に巻きつけた鎖を操って木々の間を飛び交う忍びは追跡を振りきって背後を取り、侵食する影の弾丸を撃ち込んで再び消える。
「えぇい、ちょこざいな――」
 苛立ちを露わにする敵。
 その懐に飛び込んで、今度はアーシィが空の霊力を纏う刃を振るった。
 咄嗟に刀を突き出そうとした落武者よりも早く一太刀入れて抜けると、歌彼方の歌で戦意を高めるフローネがアームドフォートの主砲から放った一撃が落武者を飲み込む。
 光はすぐに消えて、踏みとどまった落武者はまだ形を残していた。
 落武者はガランが撒き散らした偽の金銀財宝をたたっ斬り、叫ぶこともなく静かにケルベロスたちへ向かってくる。
 まるで水のようなとらえどころのない剣捌きで足を引きずる朔夜を斬ったあと、仲間を庇ったこころとガランに一太刀入れて雪彦にも一撃。
 だが些か欲張り過ぎた攻撃だったか。
 一度に沢山の目標を狙った結果、どの斬撃も踏み込みが浅く大きな傷を残せない。
「さぁ、盛り上がっていきましょう――!」
 歌彼方が立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏でると傷もほぼ無かったことになり、ケルベロスたちは勢いのまま、雪崩れ込むように攻撃を浴びせていった。
 不敵な笑みを浮かべて斬りかかった雪彦が、右手の刀を囮に螺旋の力を込めた左拳を打ち込むと、後ずさる落武者にクリュティアが再び苦無の雨を降らせる。
 こころは鎧のように纏ったオウガメタルで作る鋼の拳で殴りつけ、フローネは電光石火の蹴りを一撃。
「ぶっとばす!」
 狼の獣人らしくしなやかな動きで、地を駆け敵の元へ飛び込んだ朔夜が闘気を放出しながら渾身の体当たりをぶちかますと、落武者が吹っ飛んだ先には居合の構えを取るアーシィ。
「よし……いきます!」
 冷えきった落武者を一閃。
 太刀筋の代わりに細氷を散らし、アーシィの放った斬撃は落武者を真っ二つにして消滅させた。


「あっ、お姉さんはっけーん!」
 伸ばした掌を額に付け、きょろきょろと見回しながら光の翼で山中を飛び回っていたアーシィが倒れていた女性を見つける。
 歌彼方が手当して、程なく目覚めた女性にこころが魔女の事を問うも、目ぼしい情報は得られない。
「帰り道でまた襲われたりしたら洒落にならねェからな。俺が送ってくぜ」
 メンバー唯一の男性である雪彦が女性をエスコートして下山を始め、残るケルベロスたちもぞろぞろと続いていく。
「しかし、昔この辺りでイクサでもあったのでござるかな?」
「おい、もういいだろ怪談話は……」
 うんざりとした顔の朔夜に、クリュティアはけらけらと笑う。
「怪談だなんて大袈裟な、単なる好奇心でござるよ」
「……でも、こんなホラーって全部終わったと思ったら実は本当の幽霊がいました……みたいな……?」
 フローネの言葉は尻すぼみになって、そのうち歩みが止まった。
「……? どうかしたの?」
「あ、あれ……」
 疑問符を浮かべたこころに、フローネはゆっくりと彼方を指し示す。
「……さて、最後に一つ問題発生でしょうか?」
 憂女は小さく息を吐いて、状況を理解できていない――またはしたくないのであろう朔夜を山頂へ向き直らせる。
「だってあそこに……ほら」
 遠くで揺らめく人影のようなもの。
 煙のように消えたそれを呆然と見つめた後、ケルベロスたちは脱兎のごとく山を駆け下りていった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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