異世界への『興味』

■リプレイ

●未知なる世界
　茨城県某所。
　この地にやってきたケルベロスは、住宅地に隣接したスギ林へと移動していた。
「未知の世界への探求！　いいわね！」
　違う世界への冒険や探索はまさに浪漫と、フレック・ヴィクター（武器を鳴らす者・e24378）は語る。
「異世界への探求。その探求心はあたしらヴァルキュリアもまた抱く夢よ」
　自分達も死神の世界の探求に向かった、探求心マックス種族と主張するフレック。
　別の異世界に跳べば、色々な文明に触れることができるかもしれない。しかし、この地球にだって、廃墟や滝の光景、青い海がきれいな洞窟とまだまだ未知に溢れた場所がある。何から何まで新鮮に思える彼女は、この世界で探求を続けたいと考えている。
「僕も去年までは唯の一般人でしたから、そういうのに憧れる気持ちは良く分かります」
　そこで、森沢・志成（なりたてケルベロス・e02572）も同意の言葉を口にする。
「でも、それを奪われて利用されるなんてあってはいけません。例え思い出したら叫び出したくなるような事でも！」
　処分したいノートがあるという志成。それは、発火しそうなほどに顔が真っ赤になる内容なのは間違いなさそうだ。
　そして、見知らぬ世界に対する少女の『興味』を利用しているドリームイーター、第五の魔女・アウゲイアス。
「今度は小刻みにやり出したか」
　クララ・リンドヴァル（錆色の鹵獲術士・e18856）はそのドリームイーターの出方を考えていた。
「ドリームイーターの魔女……その術、殺して鹵獲したい」
　残念ながらここに姿を現すことはないようだが、その魔女にノーザンライト・ゴーストセイン（のら魔女・e05320）が無表情のまま興味を示していた。

　さて、雪村・達也（漆黒を纏う緋色の炎剣・e15316）がスマフォの地図を確認しながら、林の中で立地を確認する。彼はある程度人気のない場所に当たりをつけていた。
　クララがランプで照らす中、ケルベロス達は敵をおびき出す作戦を始める。
　実際に学生であるメンバーも多いこともあり、ケルベロスはとある学校のオカルト研究部員といった格好でやってきていた。フリックなどは光の翼を隠し、シャドウエルフの一般高校生を装っている。
「異世界とは魔術における基本概念の一つであり、異世界に此方から干渉する術こそが魔術です……」
　淡々と語るクララは異世界とその住人を信じるよう振る舞い、熱心に語って話を広げようとしていた。
「今はまだ群盲象を撫づといった所ですが、何れ魔術が異世界の存在証明に王手をかける日が来るでしょう……」
　その間も、無関係な一般人が来ないとは言い切れない。矢武崎・莱恵（オラトリオの鎧装騎兵・e09230）は人がいないかと注意を払っていたし、達也もいつでもパニックテレパスを使用して誘導できるようにと構えていた。
　人が来ないようメンバーが見張っている間、別のケルベロス達は地面に魔方陣を描き始める。
「この林に閉じ込められ、今なお彷徨う、黒き魔を呼ぶ術法……」
　周囲に被害に遭った少女、希望が倒れてないことを確認した後、ノーザンライトがそこらの枝で地面に魔法陣を描く。
「あ、この漫画のこれとかも入れましょうよ。それっぽいし」
　割とノリノリで、志成が怪しげな物体を差し出していた。彼に限らず、敵を誘い出す為に色々と話し合うメンバー達。
「おー、魔法陣を使って召喚とか、何かドキドキするね！」
　ボクスドラゴンのタマと一緒になり、莱恵はわくわくしながら召喚の儀式を見つめていた。
「異世界から来た怪物が現れるらしいですよ」
「怪物なんて本当にいると思うかい？」
　エピ・バラード（安全第一・e01793）がそんな噂話を始めると、達也が半信半疑といった反応で、それでいて期待を抱いたような素振りでその存在の有無を問う。
「きっと、凄い怪物が召喚されるんだよね。ボク信じてる！！」
「あっあっ、せっかく異世界から来るなら、怪物じゃなくって白馬の王子様がいいです！」
　莱恵の意見に、エピが首を振って叫ぶ。異世界に興味津々といった会話を演じるも、本音に聞こえるのは気のせいだろうか。
「右目が、疼く……」
　そこで、詠唱を続けるノーザンライトは途中で突然呻く。
　その様子を、フレックは目を輝かせながら見つめる。本当に異世界から何か来るのではないかと思いつつ。
（「この光景……ある意味、ドリームイーター召喚の儀式と言えるのかも……？」）
　伊上・流（虚構・e03819）はそんなことを考えるが、召喚した者が魔方陣からは現れないことが唯一の問題である。
「もし異世界の『怪物』に知性があったら、我々が共通の興味を抱いてくれる確率が最も高い学問分野をご存じ？」
　それは数学であり、純粋に抽象的なものは明晰であるからだと、クララはさらに語る。逆に、物理学はその世界の位相に従う為、独自の物理学を築き上げているから困難ではないだろうか、と。
「異界の門を開き、来たれ……魔女の使い魔」
　ノーザンライトによる詠唱も続いていた。
（「これで来てくれなかったら、適当に噂話するもん……」）
　散々仲間達も、異世界に付いて語り合っている。若干すねた顔でノーザンライトが魔方陣を見つめていると……。
　そいつは木陰からゆらりと姿を現した。全身が黒い毛で覆われた怪物。その左腕はモザイクに包まれていた。こいつこそ、『興味』より生み出されたドリームイーターだろう。
「これぞ、召喚魔法（物理）」
　無表情なのに楽しそうにドヤ顔をするノーザンライトはさておき。メンバー達はその対処の為、身構える。
「私は……何？」
　対して、怪物はこちらにゆっくり歩み寄りながら、低い声で問いかけてきた。
「現れましたねドリームイーター！　貴方が何者か？　悪い夢の怪物です！」
「あなたは、今の自分とかけ離れたものへの憧れですよ」
　エピ、志成の返答はいずれも正解ではないようで、怪物は危害を加えるべくさらに近づいてくる。
　仲間が返答する中、達也、流は黙していた。
「あんたは、異世界にあたしらを連れてってくれる夢の存在だろう？」
　異世界に行けば、何かものすごい力を授けてくれるのではないかとフレックが応えるが、それも違うようだった。
「あなたは、名も与えられなかった可哀想な魔物。歪められた少女の夢――異世界への『興味』。帰るべき場所に、帰してやる」
　明瞭にノーザンライトが指摘すると、それも正答ではないらしく怪物は首を振ってこちらへと仕掛けてくる。
　クララが最後に正答狙いで呼びかけようとするのを待たず、ドリームイーターはモザイクを投げ飛ばしてきたのだった。

●この世界にふさわしくない怪物へ……
　左腕のモザイクを飛ばしてくる怪物。それを、エピが受け止めた。体の痺れを覚える彼女は、テレビウムのチャンネルと一緒に仲間の盾となりつつ、紙兵を撒いて自身と同じく前に立つ仲間の守護をさせる。テレビウムは画面を光らせ、敵を挑発していたようだ。
　その後ろから、ノーザンライトが魔女らしく詠唱を行う。古代語の詠唱によって発動した魔法の光線が怪物の右手に命中し、一部を石と化してしまう。
「『不変』のリンドヴァル、参ります」
　クララも同じく錆色の鹵獲術士として、詠唱を行う。紡ぐはオーソドックスな古代語魔法。彼女の光線は右足へと命中していた。
　怪物をここで沈めるべく。フレックは背中に光の翼を展開させて攻め入り、雷の闘気を纏わせた魔剣「空亡」を手にして突撃していく。
　流は相手の問いかけを無視して戦いを行っていた。答える義理もないと考え、彼もまたマインドリングから具現化した剣で雷刃突を喰らわせる。
　痺れを体に走らせる怪物へ、志成がバスターライフルから魔法光線を放射する。
「行くよ、タマ！　融合だぁ～！！」
　肩にタマを乗せた莱恵は、ルーンアックスを振り回して突撃する。莱恵の斬撃と共にタマが鳴き声で怪物を挑発していく。
　仲間が気を引いているうち、達也は呼びかけを試みる。
「お前が何者かは知らんが、俺が何かは教えてやろう。お前を屠る地獄の番犬、ケルベロスだ」
　彼は２本の鉄塊剣を携えて怪物を十字に切り裂く。そうして、叩き込んだ傷口を地獄化させ、怪物を毒に侵してしまう。それはいいのだが、達也の予想通りというべきか、そいつからは返答がない。
（「やはり、このドリームイーターには直接関係はないか」）
　魔女アウゲイアスが気になったからこそ、試みていたのだが。そう簡単に尻尾は出さないということだろうか。
　瞳を光らせる怪物。そいつはなおも左腕のモザイクを飛ばし、ケルベロスへと悪夢を見せつけようとする。
　ただ、怪物の怒りは莱恵とテレビウムのチャンネルに向けられている。相手は単体攻撃のみの相手だ。彼女達が抑えてくれている間に、他メンバーはさらに攻め入っていく。
「また別の世界の法則をお見せしましょう。オープン・セサミ」
　クララは足元に展開した魔方陣から、魔界の森に住まう蜘蛛を解き放つ。それらはまるで黒い波のように怪物へと襲い掛かった。それもまた、異世界の住人。怪物はそれを感じて、何やら興奮して叫んでいたようにも見える。
　暗くなってきていた林の中。月夜の光に気分を高揚させるノーザンライトは、獣の拳で怪物を殴り始めた。
「ソラナキ……唯一あたしを認め、あたしが認めた魔剣よ……。今こそその力を解放し……我が敵に示せ……時さえ刻むその刃を……！」
　フレックは愛用の魔剣とグラビティを共鳴させ、怪物を時空ごと切り裂く。崩れかけた敵へ、志成が相手に向けた銃口に精神を集中して発射する。着弾と同時に、怪物の体へと爆発を巻き起こした。
　怪物は傷を負いながらも、モザイクを投げ飛ばし続ける。それを莱恵が受け止め、ボクスドラゴンのタマがすぐさま翼を羽ばたかせて、彼女の体の不浄を取り払う。クララも癒しの雨を降らせることで、盾となる彼女達をさせていたようだ。
「オウガメタルって便利だよね！」
　そして、格好いいフォルムに変形させたオウガメタルを纏わせた拳を、莱恵は力いっぱい叩きつける。
　達也が地獄の炎弾を飛ばし、残り少なくなってきた怪物の体力を吸い取ると、エピがドリルのように回転させた腕を怪物へと突き入れる。
「好奇心はヘビーオモイ転がすとか何とか言いますけど、人を動かす大切な心です。奪わせはしません！」
　ちょっとだけ日本語の認識を間違えているエピ。彼女のアームが引き抜かれるのと同時に、怪物の全身にモザイクが溢れ始める。そいつの限界が近いのだろう。
「日常に害為す異端なる存在は狩り屠る」
　流が言葉を発する音に合わせるように、白い文字列・数式が右肩一か所に収束する。それは白い焔の翼の形を取り、流の詠唱が止まったタイミングで、白い焔の刃が彼の右手に握られていた。
「……貴様の概念情報。全て浄め祓い滅する！」
　流の刃が振り下ろした刃が、怪物へと炸裂する。全身をモザイクと変えたそいつは自らが出した問いの答えを語ることなく、完全に滅して宙へと消え行く。
　その跡へ、クララは長手袋を脱ぎ、ふわりと落としたのだった。

●この世界への『興味』
　ドリームイーターを撃破したケルベロス達。
「女の子を安全なところまで運びましょうっ！」
　エピが叫ぶ。メンバー達は当たりをつけていた場所の１つで、倒れていた設楽・希望を保護することができた。
「お姉ちゃんは大丈夫かな？」
　莱恵は念の為にと、ルーンの力で手当てを行う。目覚めた彼女の目の前には、ボクスドラゴンのタマが顔を近づけていて。
「きゃっ！」
「目を覚ましたみたいですね。ああ、ケルベロスです。妖しいものではないですよ」
　志成が声をかける。ヒールはもう必要なさそうだが、目に付くのは少女の左手に巻かれた包帯だ。
「あら……、さながら現代の反成魔女といった所……。でも、何だか変わった宗派ですのね……？」
　クララは包帯を指差し、冗談めかしてくすくすと笑う。
「異世界なんて求め始めたら身動きとれなくなっちまうぜ？　俺達はこの世界で足掻くしかないんだよ」
　フォローをと考えるケルベロス。達也は多少キツいかもしれないと思いつつ、少女にアドバイスを送る。
「ここじゃないどこかを追うしかなくなった、それ以外の事が出来なくなったヤツを知ってるんだよ」
　意味深な言葉で告げる達也。そうならないようにと少女に釘を刺しながら。
「異世界に興味を持つのは別に否定しないけど、それに溺れて周りが見えなくならないように気を付けるんだぞ？」
　本当の自分と言うものは取り戻すのではなく、気付くもの。流もまたフォローの台詞を口にする。
「異界に逃げ、現の縁を置き去るのは哀しい……その弱さは、魔に魅入られる」
　ノーザンライトも希望へとそう訴える。
「あなたに必要なのは、己が内を視る感知の術と、自分を変える――否、己を高める勇気の魔法。先ずはスピリチュアルな感性を磨くべし」
　ウィザードハットを被り、如何にもな魔女といった姿のノーザンライトに目を輝かせる希望。中二病を否定してくれなかったことは今の彼女に救いとなったかもしれない。
「君にとって本当の自分を取り戻せるか分からないけど、試しにその異世界の興味を別の道に活かしてみるのはどうだろう？」
　この世界で生きていく為の手段として、その異世界の憧れを漫画や小説といった創作方面へと生かしてみようと流が諭す。
　それならとフレックが自身の記憶にある限りの、デウスエクス時代の冒険を語る。そして、地球に降り立ってからの冒険も。
「あたしらにとっては、この地球こそ遠き異世界ね！」
　まさに異世界人と言えるヴァルキュリア。その話に、希望は食い入るように聞き入っていた。
　この世界にも、目にすることで感動する遺跡、そして絶景がある。少女は自身の世界の未知なる場所に想いを馳せるのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 4
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