時刻は深夜。じっとりとした雨が降る岩場に、敗残のローカストの一群が集っていた。ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカストたちだ。
彼らは太陽神アポロンより、黙示録騎蝗の尖兵となり、今後の戦いのために必要な大量のグラビティ・チェインの獲得を命じられている。
それは、単騎で人間の町に攻め入り多くの人間を殺して可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない、決死の作戦であった。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
不退転侵略部隊のリーダーであるヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げる。
隊員達は、『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
このヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と移動を開始していく。
——不退転部隊、最後の戦いが始まろうとしていた。
●ヘリポートにて
「ローカスト・ウォー、無事に勝利できて何よりだ。私も嬉しく思う」
だが、とウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は険しい顔になる。
「太陽神アポロンが『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを求めており、グラビティ・チェインを集める為の捨て駒として不退転侵略部隊を使い捨てようとしていることが予知された」
この不退転侵略部隊は1体ずつ別々の都市に出撃し、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるという。
しかも、予知にあった場所の住民を避難させれば、他の場所が狙われることになるため、被害を完全に抑える事は不可能だ。
「この不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのコントロールによるものだ。……決して、彼らの本意では無い」
不退転侵略部隊のローカストに対して、正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いをするように説得する事が出来れば、彼らは人間の虐殺ではなく、ケルベロスと戦う事を選択してくれるだろう。
「不退転部隊のローカストは、その名の通り絶対に降伏する事は無く、死ぬ直前まで戦い続ける。逃走する事も無いだろう。激しい戦いになると思うが——彼らに敗北と死を与えて欲しい」
ウィズの予知によると、現れるのは「改造されて成人男性ほどの大きさとなったトラツリアブ」だそうだ。
「……本来ならばモコモコしていて小さく可愛らしいトラツリアブではあるが、今回戦うことになるこいつの羽は強化ガラスのように改造されているし、体毛は一本一本がごく細い刃のように研がれている。攻撃方法も凶悪だ」
花の蜜を吸うように体液を吸って自らを回復する攻撃、ガラスの羽をこすり合わせて不快な催眠音波を放つ攻撃、体毛を刃のように硬化させて体当たりする攻撃を使い分けてくる、とウィズがタブレット端末を見ながら説明する。
「このローカストは名前を『鋭刃(エイジン)』という。宮城県仙台市に現れ、ケヤキの美しい定禅寺通を歩く人々を虐殺するようだ」
説明を終えたウィズは、厳しい顔のままタブレット端末の画面を消した。
「最初に動いたのは不退転侵略部隊、か……。後の作戦の為にグラビティ・チェインを奪うのが目的のようだ。くれぐれも気をつけて事に当たってくれ」
ウィズはうなずき、頼む、と呟いた。
参加者 | |
---|---|
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638) |
永代・久遠(小さな先生・e04240) |
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104) |
笑福道・回天(混沌と笑顔を振舞いまくる道化・e06062) |
深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454) |
撫子桜・千夜姫(双刃一体・e12219) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704) |
●並木の下で
風を受けて、ケヤキの葉がざわめく。不吉な兆候などまるでない日常に、人々の悲鳴が重なった。横断歩道の上で、ひとりの男がローカストの脚に胸元を貫かれたのだ。騒音まがいの蝉の声は、それをきっかけに急に止む。
「それでもローカストの戦士か! わし等ならば、ここにおるぞ!」
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)が声を荒らげると、成人男性ほどの体躯をしたトラツリアブ型ローカストが振り返った。さらにシャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)が上空から急降下し、ローカストの眼前に綺麗に着地する。
「貴様の道はここまでよ。Uターンもさせないけどね」
次いで歩み寄るのは、神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)だ。
「初めまして、神藤・聖奈と申します。……名前をお聞かせしていただいても? ローカストの方」
次々と現場に現れるケルベロスたち。ローカストはシャルロットと聖奈を交互に見て、ゆっくりと口を開く。
「今さら戻る気はありませんよ。私の名は『鋭刃』と申します。あなたたちはケルベロス、ですよね?」
「誇りある死を、虐殺の果てに得られるとお思いで? ……失敗の許されない唯一無二の戦い、相手は選んで然るべきかと思いますが」
聖奈は首を縦に振り、静かに問う。
「……黙示録騎蝗成就の為、私たち不退転ローカストはグラビティチェインを集めなければならないのです」
機械的な鋭刃の言葉に、永代・久遠(小さな先生・e04240)は声を張り上げた。
「無抵抗の民間人を虐殺するのが、不退転の覚悟を決めた誇り高き戦士のする事なんですかっ! ——ここは正々堂々と勝負……と言いたい所なのですが、民間人の避難が終わるまで少し待って下さい。お互いが全力を尽くした誇りある死闘があなた達、不退転侵略部隊の望む物ですよね? 巻き添えを気にしながらだと全力で戦えないのです」
久遠の視線は、少し離れたところに向けられる。そこには、撫子桜・千夜姫(双刃一体・e12219)の剣気解放で無気力になった一般人に声をかけ、避難誘導をする深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454)の姿があった。
鋭刃はふむ、と呻り、興味深そうにその様子を眺めている。
「やめときな。こいつら一般人を平気で殺ろうとする連中だ。正々堂々なんて誇りと一緒にポイっと捨てちまったんだろうよ」
とは、笑福道・回天(混沌と笑顔を振舞いまくる道化・e06062)の言葉。蔑むような目で、鋭刃をちらりと見ている。対して、剣気解放を終えて仲間と並ぶ千夜姫の視線は冷たく、厳しいものだった。
「弱い者の血だけで染めた刃が貴方の誇りですか? 私は戦士としてそのような恥知らずの刃を持ったまま死ぬなど御免ですけどね……その刃に強者の血の彩りを添えたいのなら私達と戦うですよ」
子どもの頃から修行と戦いばかりで普通の女の子に憧れてはいる千夜姫ではあるが、その言葉からは半生を戦士として過ごしてきた矜持が垣間見える。
「元よりそのつもりです。弱き者たちがこの場から失せるのを待つとしましょう」
狙い通り、と回天は心の中でほくそ笑む。
一般人の避難を終えた夜七が戻ってきたのを確認して、千夜姫は殺界を形成した。これで戦場に一般人が立ち入ることはない。
「アンタは凄い奴だな、たった一人なおも戦おうとしている。自分がただの消耗品でしかないと知った時、俺はダモクレスであることを捨てた。もはや戦う道しか残されていないが、違う形で出合いたかったぞ」
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)のかける言葉に、鋭刃はふっと笑った。
「ならば折角の機会です。お互い、全力で戦うとしましょう」
「さぁ、真っ向勝負といこうじゃないか!」
ケルベロスたちに歩み寄る鋭刃に向けて、夜七は刀を抜く。
「SYSTEM COMBAT MODE READY ENGAGE」
「撫子桜千夜姫、推して参ります」
マークと千夜姫の声が、戦場に響いた。
●鋭刃
「さぁ来い! 今の俺は大地にそびえる二足歩行の要塞! お前の攻撃じゃかすり傷以上重傷未満の傷しかつけられんわ!」
威勢よく長方しばき丸を掲げる回天を見遣りながら、鋭刃は楽しそうにガラスの羽を震わせた。それは前衛に催眠効果のある音波を見舞う動きだ。
すかさずマークとオルトロスの彼方が、シャルロットと千夜姫の前に立ち塞がる。直後、久遠がすぐさま光の壁を展開した。
「これで何とか……!」
「耐性付与確認。——重力装甲展開」
マークを中心に、グラビティの防護膜が展開される。敵からの攻撃を反発する効果があるものだ。
「重力の鎖よ、紡げ。幻想の衣」
さらに千夜姫の想起した衣装のイメージが、前衛を守護するバリアとして発生する。
幾重もの加護を受けたシャルロットは、エアシューズで鋭刃をなぞる。その顔には、不快そうな表情がにじみ出ていた。戦闘好きのシャルロットではあるが、この戦いは楽しめないのだ。
「——捨て駒として戦っている相手は、戦士じゃない」
その呟きは、ドルフィンの炎の息にかき消される。炎が消えた後、回天は無殺刃【MINEUCHI】と長方しばき丸を振るい、空間ごと鋭刃をぶった切るのだった。盾役は初めてとはいえ、まるで気後れはしていない。役割を果たしつつもフルボッコにする心づもりのようだ。
そう、誰もが相応の覚悟とともに戦っていた。
「もう誰かが死ぬを、見てるだけのぼくじゃない……!」
夜七は、ごく真剣な表情で刀を抜き、鋭刃の前に踏み込んだ。
「この一撃、通してみせる!」
夜七が雷電を帯びた刀で鋭刃を斬りつければ、眼前には鎌鼬のような風が抜けてゆく。続く彼方も、咥えた刀で鋭刃の足元を払う。
その攻撃で後ずさる鋭刃の足元を狙って、聖奈が爆発を起こす。爆風で聖奈の顔を覆うフードが揺れると、微笑のようなポーカーフェイスがちらりと見える。
「ふむ、口先だけではないようですね——行きますよ」
鋭刃は羽を羽ばたかせ、ドルフィンへと肉薄した。
「む、来るか」
身構えるドルフィンの前に、回天が割り込む。瞬間、体当たりする鋭刃の体毛が回天に突き刺さり、軽く後方へと吹き飛ばされた。
「刃の毛がなんぼのもんじゃあ!」
「ほう、持ちこたえますか! なるほどなるほど、面白い! 面白いですよ!」
鋭刃は楽しくてしょうがない、というようにケルベロスたちを見渡す。
今のうちに治癒をしようと、久遠が医療バッグから特殊弾マガジンを取り出す。慣れた手つきでP239にマガジンをセットし、銃口を回天に向ける。
「治癒弾、ロード完了! いきますよーっ!」
久遠は引き金を絞り、癒やしの力を封じ込めた弾丸を放った。
受けた傷はヒールグラビティで癒やすことができる。ただ、それは生きている場合のみで。ケルベロスたちが到着した時に犠牲となった者は、もう生き返ることはない。
「私達が助けられる光には限りがある……悔しいけど」
しかし、手の届く範囲であるならば全力で。苦々しい顔をしながらも、シャルロットはオウガメタルを変形させて鋭刃を殴りつけた。オウガメタルごしの衝撃は確かなものではあるのだが。
(「こんなに面白くない戦いは久しぶり……」)
シャルロットは不快そうな顔で鋭刃を見遣った。
●戦士
戦いの余波で舞う葉の間を抜け、ドルフィンは鋭刃の気脈を断つ。翅の動きが一瞬止まるのを見て、自然とドルフィンの顔に笑みが広がった。
「カッカッカッ! 流石にそう簡単には倒れてくれんか!」
「あなたこそ。何度も私の攻撃を受けながら、その程度の傷とは……相当鍛えていらっしゃるのですね?」
鋭刃は翅を振るわせ、跳躍する。さてのう、とうそぶくドルフィンが立ち位置を変えると、夜七のエアシューズがうなりを上げ、真正面から打撃を加える。
「君の矜持に報いる為にもぼくは全力で、君を倒す!」
「ほう……真っ直ぐな良い目をしていますね」
夜七を見遣る鋭刃に、彼方が地獄の瘴気を放って牽制する。
「次の戦いのために命を捧げて戦い抜く。文字に起こせばかっこいいが、やってる事は虐殺だ。そんなのさせるわけにはいかんなぁ!」
超無縫なスゴ味オーラを練り、弾丸を撃ち込む回天。重ねて弾丸の嵐が鋭刃を襲った。
「着弾確認」
マークの20mmガトリング砲から放たれたものだ。煙を上げる銃口をそのままに、マークは仲間との距離を調整する。マークのいた場所、そのすぐ後ろから千夜姫が飛び出し、鋭刃にそっと触れた。
「ぐっ、……」
内部から破壊される衝撃に、鋭刃は体勢を立て直そうと羽ばたいて距離を取った。しかし、聖奈はそれを逃さない。
「Alea iacta est」
聖奈の冷静な声に応えるように、はるか上空に巨大な魔法陣が形成される。降り注ぐは、擬似的に創造した隕石群。その質量と速度は、鋭刃の体力を大きく削いだ。
ケルベロスたちを相手に、舞うように攻撃を仕掛け、時には回避する。
次はどんな攻撃が来るのか。どれほどの威力か。放たれるグラビティひとつひとつを吟味するように、鋭刃は戦闘を楽しんでいた。
もちろん、ケルベロスたちの攻撃は容赦ない。次第に「楽しむ」余裕を無くしてゆく鋭刃の攻撃を警戒しながらも、ケルベロスたちは的確に打撃を与え、鋭刃の攻撃を抑え、状態異常を蓄積させてゆく。
鋭刃の脚や翅にはいくつもの傷がついていた。時折刀のように硬化する体毛も、既にいくつかが折れ、欠けている。消耗具合は、本人が一番把握しているのだろう。
鋭刃は素早く移動し、シャルロットとの距離を詰める。口元からストローのような器官を伸ばし、突き立てようとする——が、マークがシャルロットの前に立ち塞がった。突き刺さる鋭刃の器官から体力を吸い取られる奇妙な感覚に、マークはよろけ、地面に手をつく。
「……EMER……GENCY」
「マークさんっ! 緊急縫合術式、開始しますっ!」
かなりの体力が削れたマークに、久遠がウィッチオペレーションを施した。久遠による本職顔負けの手つきで行われる外科手術を施され、マークは前衛と中衛をいつでも庇える位置へと戻る。
「ローカストの存在を私は……許さない」
シャルロットは鋭刃を見つめて零す。鋭刃からの反応はないが、彼女にとってはどうでもいいことだ。シャルロットの全身を、蒼いオーラが覆ってゆく。
「竜の羽ばたきの如く、敵を圧倒し、翼風と共に散れ!」
高速で移動しながら、次の動きを読み取る。そのまま振るった剣は鋭刃の胴体を確かに切り裂いた。仰け反る鋭刃を捕まえ、組み伏せるのはドルフィンだ。
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
鋭刃の脚が、翅が、奇妙な方向に曲がる。同時に送り込んだオーラで、体内からも衝撃を加えるのだった。
「こうなればローカストの装甲も関係あるまい! カカッ、壊れるがよい!」
「……ふ、これは、流石に……」
やっとのことでドルフィンから解放された鋭刃は、今すぐ倒れてもおかしくないほど、全身余すところなく傷を負っていた。
「ふふ……戦いというものは本当に楽しいですね。しかし、ほら、私はまだ——」
「お前が正々堂々真正面から戦いを挑む誇り高い系なのはわかった! そいつはきっちり俺達の胸に刻むから、このまま永久の眠りにつきやがれ!」
回天は鋭刃の言葉を遮り、手にする武器を光り輝くハリセンへと変えた。
●明日への思い
思い切り踏み込んだ回天が、ハリセンを振りかぶった。
「なんじゃぁい!」
ハリセンを振り下ろす軌跡は輝く光となり、鋭刃の横っ面へと叩きつけられる。輝く星が舞うが早いか、距離を詰めていた夜七が達人の一撃を放った。続けざまにマークのDMR-164Cから凍結光線が放たれれば、鋭刃に纏わり付く氷がまた増えてゆく。
これほどの攻撃を受けてなお、鋭刃は戦意を喪失していないようで。不自然な歩みでケルベロスたちのグラビティを受け止めていた。人間であったならば口の端から一筋の血でも流れていることだろう。
千夜姫が斬霊刀を一閃すると、既につけられた傷跡から鮮血のような体液が派手に飛び散った。
「ッ……!」
鋭刃は動かない。否、動けない。自重を支えきれなくなった脚が折れると、仰向けに倒れ、弱々しく脚や翅を動かす。
斬霊刀に付着した体液を払い、千夜姫は鋭刃へと歩み寄る。
「もしも地獄というものがあるのなら、そこでまた逢えるでしょう。その時は互いに誇りを持った戦士として死合いたいものですね」
「それも悪くない、ですね……なかなかどうして、楽しかったです、よ——」
仰向けに倒れる鋭刃の動きが、急速に鈍ってゆく。震えていた脚は静止し、頭の先から徐々に崩れ始めた。
「壊れてしまってはあっけないものじゃて。さて、次へと行くとするかのう」
ドルフィンは大きく息を吐き、武器をおさめる。彼の目は、既に次の敵、次の戦いを求めて輝いていた。
つい先ほどまで鋭刃のいた路上を見て、嘆息をつくのは聖奈だ。
「……満足なのですかね、これで。理解しかねますよ、本当に……」
フードで表情を隠し、聖奈は抑揚のない声で小さく呟く。
「おやすみ……鋭刃さん」
夜七は完全に消え去る鋭刃を見つめ、心の中で悼んだ。
(「そして……ごめんね」)
少しだけ顔を上げた夜七の視界に入るのは、亡くなった一般人がいた、横断歩道。そこに残る血痕。重なる故郷。この場を後にする仲間の背。泣きそうな自らを省みて、夜七はフードを被った。
「ぼくは……まだ弱い……っ」
涙をこらえる主を見上げた彼方は、一度だけ尻尾を振った。次の瞬間、夜七はいつもの表情に戻り——戦闘で破損した箇所にヒールを施す千夜姫と負傷者を探す久遠のもとへ、駆け出した。
「割れた地面はこれでよし、ですね。さて、次はお店の窓に取りかかりますですよ」
「負傷されている方はいませんかー! ケルベロスです、戦闘は終わりましたよー!」
「千夜姫さん、久遠さん! ぼくも手伝います!」
風が通り抜け、ケヤキの葉がざわめく。舞い戻った蝉の鳴き声が、うるさいまでに辺りを満たしている。
ケルベロスたちは、それぞれの目指す明日へと向かってゆく。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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