黙示録騎蝗～熱砂の飛蝗

■リプレイ

●空より来たりしもの
「あそこだ」
　鳥取砂丘上空。光の翼で瀕死の人を感じ取ったエルフリーデ・バルテレモン（鉾槍のギャルソンヌ・e24296）が告げる。
「了解だよ」
　メイザース・リドルテイカー（夢紡ぎの騙り部・e01026）はオラトリオの翼を広げて彼女を追う。
「ちなみに、着地は各々でなんとかしてくれよ」
　千軒寺・吏緒（ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749）は両手を使い暮沢・たしぎ（ハードボイルド・e29417）とエスカ・ヴァーチェス（黒鎖の銃弾・e01490）の手を引いていた。
「わかった。一刻も早く助けてやろう」
　降下場所を調整してもらいながら、たしぎは事件現場を目視する。
　一般人の避難場所を調べてはいたが辺りは一面砂ばかり。結局砂丘から脱出してもらうのが一番だった。
　たしぎは一度大きく息を吸い込むと、割り込みヴォイスで大声を上げる。
「やめろ！！！」
「っ！？」
　その声に反応したサバクトビバッタ型ローカストは、観光客の腹から脚を引き抜き、空を見上げる。
「もう、追手が来たか……！」
　光の翼を仕舞い、不毛の大地に舞い降りるアデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）。
　そして砂丘に倒れ伏したまま動かない２人の人間を見た。周囲の砂が血を吸って赤くにじんでいる。
　一刻も早く虐殺を止めなければ。アデレードは口を開く。
「かつて我々ヴァルキュリアも洗脳され一般人を虐殺してしまったことがあったらしい。我らケルベロスは一般人とは比べ物にならないグラビティ・チェインを持っておる」
　武器を構え、声を大にして主張する。
「大義のために集める主らと比べるべくもないが、武人として戦利品を得るならば虐殺によって奪うのではなく、我らと闘い勝利の栄光とともにグラビティ・チェインを集めてみてはどうかのぅ？」
「………」
　ローカストがケルベロスたちに向き直る。
「俺に下された最後の任務は、できるかぎり多くの人間を殺すことだ」
　鋼鉄の具足には返り血が滴っている。すぐに説得とはいかなかったが、話に耳を傾けるつもりにはなったようだ。
「私達は『地球の番犬』として正々堂々勝負を挑みに来た。不退転の名に誇りがあるのなら、この勝負、受けてくれるかな？」
「俺たちと正々堂々戦わずに死に恥をさらすか、戦ってその誇りを見せつけるのか二つに一つだ。不退転部隊の誇りってやつを見せてもらいたいもんだな」
　メイザースと吏緒の説得に、ローカストは首を横に振る。
「１人を大人数で囲うのを、この星では『正々堂々』と言うのか？　それならば、俺が死ぬ瞬間まで、弱き者を殺したほうが得になるだろう」
「民を守るためと言いながら非力な民を殺す……それが貴方達の掲げる正義ですか」
　口を挟んだのはアリシア・メイデンフェルト（マグダレーネ・e01432）だ。
　たしぎと共に倒れていた人間を癒そうとして、すでにその命の炎が消えているのを悟る。
「戦うよりほかに道がないというのならば、まずは私達が相手になりましょう。力無きものを屠って誉れなどと、戦士ならば言えないでしょう？」
　メイザースも言の葉を重ねる。
「なるほど、確かに正々堂々ではないかもしれない。だが、戦場において勝つための最善を為さぬことの方が余程礼を失するだろう？」
「よく回る舌だ。そのような戯言には付き合わんぞ」
　逃げた観光客を追おうとするローカスト。その間へ割り込みながら、エルフリーデが声をかけた。鉄槍を地に刺し、礼をする。
「私は、先日、アリア騎士アープルマンと名乗るローカストと戦ったよ」
「退け」
「敵とは言え、本当に天晴な心意気と最期だった。同じく戦場に立つ者として、魂が震えたぜ」
「退けと言っている」
「私は……貴殿も、アリア騎士と同じ、高潔な魂を持っていると信じている。貴殿も私達も、負ければ冥府に逝く身だ。だからこそ、この戦を恥じる事の無い立派な死合にしてみないか？」
「貴様の尺度で俺を測るな！」
　鋼鉄の蹴りがエルフリーデの腹を襲う。
　直撃した。そう思ったとき。
「不退転部隊は堂々とした誇り高き戦士であったと聞きます。今迄に出会ったローカストの多くもそうでした」
　腹と具足の間に、エアシューズが挟まっている。エスカの足だ。
「弱者の虐殺等と言う事に命を懸ける様な輩では無かったはずなのです。先の戦の敗北でローカストは戦士から蛮族になり下がったのですか？」
「……俺をなじるのは好きにすればいい」
　ローカストの目の色が変わる。
「だが、ローカストを侮辱する発言は許せん！　我らの誇りをかけて、貴様たちを撃滅する！！」
　それまで説得を仲間たちに任せていたケイヴァーン・ドライゴ（浄化者の鉄鎚・e28518）のモノクルが煌めく。
「ならば、殺し合いだ。その健気な信念は何一つ実を結ぶ事はないと知るがいい」
　それが、戦いの始まる合図だった。

●熱砂の飛蝗
「ぬんっ！」
　ローカストは両脚でエスカの足を挟むと、回転しながら倒れ込む。足を根元からもぎ取らんとするドラゴンスクリューだ。
　エスカは回転に合わせるようにして倒れ込み、ダメージを軽減させる。
「誇りも矜持も無くした簒奪者の攻撃など軽いものですね、幾らでも受け止めてやるのです」
　足を引き抜くと口内に入った砂を吐き捨て、殺界を作り出した。
「じゃ。死合といきましょ」
　唇をぺろりと舐め、たしぎが倒れたままのローカストへ流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを決める。
「くっ、このっ！！」
　一撃をどてっぱらに喰らったローカストは、逆立ちすると脚をカポエラのように回転させて反撃する。
「その動き、見切った！」
　ローカストがカポエラならケイヴァーンは八極拳だ。砂漠に巻き起こる竜巻のような動きにも臆せず一気に踏み込み、ジグザグに胴体を切り裂いてみせた。
　吹き飛ばされ空中で回転、脚から着地するローカスト。
　その着地点を見計らってアデレードのフロストレーザーが発射された。
「はっ！」
　息もつかせぬバク転でギリギリ回避するローカスト。
「『不退転』なら、下がるんじゃねえ！」
　これ以上の後退は許さないとばかりにエルフリーデの槍が伸びる。稲妻のような突きがローカストの腹を掠める。
「俺を痺れさせたか、少しはやるようだな」
　戦いを無視しようとしていたローカストも、やはり武芸者。強敵たちを前に血がたぎってきたようだ。
「回復役はおまえだな！？　俺の脚の前にひれ伏せ、トカゲ野郎！」
　後衛の吏緒目がけて突進する。
「なっ……速い！」
　割り込もうしたエスカとアリシア、それと彼女のサーヴァントのシグフレドだが、ローカストは砂地とは思えない速度で横をすり抜けていく。
「砂地はな、走るんじゃねえ。前へ跳ぶんだよッ！！」
　そう、ローカストは己の特性を活かすように地面スレスレを跳躍しながら一足飛びに吏緒へと向かっていた。炎を纏った横蹴りが吏緒の脇腹に突き刺さる」
「ッ……ただでさえ暑いってのに、熱いんだよ、バッタ野郎！！」
　炎上する服を纏ったまま、気力で耐える吏緒。
「傷つけはさせません！」
　アリシアの気咬弾がローカストの外骨格へと食らいつく。
「へっ、ケルベロスってのはこの程度か！？」
　跳びすざっていくローカストを見て、メイザースは呟いた。
「やはりその脚力は脅威的だね……」
　ならば、とばかりにブラックスライムを砂中へと沁み込ませていく。
「空翔る者、地駆ける者、等しく重力の枷を――さあ、行っておいで」
　ブラックスライムが砂の中、さながらサンドワームのように静かにローカストへと向かい、鋼鉄の具足に絡みつく。
「くっ……！　ことごとくいやらしい手を使ってくるッ！！」
「そっちは足癖が悪いでしょ。悪事から足を洗うんだね」
　たしぎのフロストレーザー。
「足を洗う？　悪いが、こっちも足元から火がついてるんでなッ！」
　ブラックスライムごと具足を振り抜き、炎を発生させるローカスト。グラインドファイアによりフロストレーザーが相殺される。
「一つ、教えてあげようか」
　コンビネーションだ。メイザースの投げつけた死神の鎌が具足を穿つ。
「ぐうっ……チイッ！！」
　急激な温度変化に耐えきれなかったか、鋼鉄の具足にヒビが入った。
　苦痛のうめき声を上げるローカストへ、メイザースは宣言する。
「端から死ぬ気でかかっているようでは生きて、守って勝つつもりの者には勝てないよ？　何せ貪欲さが違うからね」
「調子に乗ってると、足元を掬われるぞ！！」
　砂塵を巻き上げ、レガリアスサイクロンが前衛を襲う。
「それは誤用じゃの。正しくは『足を掬われる』じゃ」
　砂嵐の回し蹴りを食らいつつも、アデレードが回転しつつ鎌を振るう。暴風の遠心力を利用した鎌、炎の刃がローカストの軸足を刈った。
「が、はッ！！　この野郎……揚げ足を取りやがって……ッ！」
　蹴りの勢いが弱まり、軸足の具足が粉々に砕ける。
　それを見て、エルフリーデは竜巻の蹴りで破壊された武装をパージしていく。ひとつ、ふたつと砂に埋もれゆく装備たち。
「アリア騎士を討ち取ったコイツで、貴殿に最期の勝負を申し込む！」
「一騎打ちか……？　酔狂な……だがいいだろう、この足一本と道連れにしてやるッ！！」
「私の得物は相棒だけだ――逃げも隠れもしねぇ、正面から行かせて貰うぜ！！」
　１人と１匹が駆ける。片方は鉄槍を突きだし、片方は具足でハイキックを見舞う。
「うおおおおぉぉぉッ！！」
　鉄槍が、具足ごとローカストの脚を貫いた。
「まだだぁッ！！」
　ローカストは両の素足でエルフリーデの首を挟むと、戦闘開始時のように全身を捻って倒れ込んでいく。全身全霊をかけた突き故に、エルフリーデは反応できず、倒れ込んで勢いを殺すこともできない。
　それを悟って、エルフリーデは最後に笑った。
「……やるじゃねぇか」
　鈍い、骨の砕ける音。１人と１体が倒れ込む。
「バルテレモン様！！」
「今のはまずいぞ……！」
　あわててアリシアと吏緒が気力溜めでエルフリーデを集中回復する。
「あークソ痛ぇ！！　だがな、言っただろう……足一本と道連れにしてやるとッ！」
　ローカストは足を貫いたままの鉄槍を引き抜くと、杖代わりにして立ち上がる。傷つきなお君臨し続けるその姿は幽鬼のようだった。
「いやー、その生き様、ハードボイルドだね……」
　たしぎが苦笑し、バスターライフルを構える。発射されるエネルギー光弾が、鉄槍を弾き飛ばした。
　支えを失ったローカストが前のめりに倒れる――と思いきや、一歩、また一歩と倒れる前に足を前へと踏み出して向かってくる。
「グラビティを燃やして……この一撃にっ！！」
　その歩みは徐々に早くなる。ゆるやかな砂丘を駆け降りてケルベロスたちへと向かう。
「止まりなさい！」
　歩みを止めようとエスカの雷刃突が迫る。
「断るッ！！」
　脇腹の肉を削がれながらもローカストは止まらない。意思の力が肉体を凌駕するように、熱砂から跳び立った。
「不退転。では、その名に違わぬ末路を与えてやろう」
　ケイヴァーンが迎撃に立つ。
「シリンダーセット……」
　駆動音と共に機械式の籠手へ薬剤が装填される。
「破っ！！」
　飛来するローカストキックにタイミングを合わせ、一歩前へと踏み込んだ。
　足首まで砂に埋まる。同時に、ケイヴァーンの拳がローカストの素足を打つ。
「―――ッ！！！」
　力と薬剤がその体内へと浸透し、全身へと回る。
　力なく、ポトリと落ちるローカストの肉体。舞い上がる砂塵。
「貴様の重ねた信仰と闘争の一切が無駄に終わった。朽ちるがいい」
　冷めた言葉と共に礼をするケイヴァーン。
　砂丘が、彼の墓標となった。

●砂上の太陽
「ん……うぅ……」
　エルフリーデが目を覚ました。起き上がろうとするのをアリシアが制止する。
「急に動かないほうがいいです。バルテレモン様の首、折れていましたから……」
「一般人だったらまず間違いなく死んでたぞ」
　吏緒の言葉に、エルフリーデは辺りを見渡す。
　自分の鉄槍と、ローカストが転がっていた。
「傷は勲章みてぇなもんだから気にすんな。だけどよ……名前を聞けなかったな」
　わずかに目を伏せ、犠牲者と、先に冥府へと旅立った強き者への冥福を祈る。
「許せねー部分もあるが、誇りってやつはちゃんと見させてもらったわ」
　吏緒もしはじ目を閉じ、亡くなった２名の犠牲者へと哀悼の意を表していた。
「他の観光客はみな無事だよ。怪我を負った者はいたが、命に別状は無いね」
　ウィッチオペレーションで緊急手術を終えたメイザースが報告する。
「ローカストはともかく、遺体はどこかしかるべきところに移したほうがいいだろうな。遺族のためにも」
　犠牲者の遺体をできる限り整えながらたしぎが告げる。
「アポロン、あの戦争で確実に殺しておくべきだったか……」
　ケイヴァーンは強く拳を握りしめた。その心のうちはわからずとも、吏緒は二の句を継いだ。
「こんなこと起こしてんだ、アポロンだけは許さねぇし、逃がさねーからな、絶対に……！」
　助けられない人がいるのはわかっていた。それでも、助けたかったのだ。
　吏緒は砂丘に君臨する太陽まで届かんばかりに、ただ叫ぶのだった。

作者：蘇我真	重傷：エルフリーデ・バルテレモン（鉾槍のギャルソンヌ・e24296）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。