「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げる。
ここは、細かい雨が降り続ける山の岩場である。そこには、敗残のローカストの一群が集っていた。
ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカストたちだ。
彼らは、太陽神アポロンより、黙示録騎蝗の尖兵となり、今後の戦いのために必要な大量のグラビティ・チェインの獲得を命じられたのだ。
それは、単騎で人間の町に攻め入り多くの人間を殺して可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない、決死の作戦であった。
彼の問いに、隊員達は、『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
このヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と移動を開始していく。
不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。
「みんな、ローカスト・ウォー、お疲れさんやったな。それに、良くやったで……」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、目の前のケルベロス達に話し始めていた。戦争で勝利し、大運動会も控えているというのに、絹の表情は何処か浮かない表情だった。そこへ、リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が横に並ぶのを確認すると、絹は口を開いた。
「依頼や。それも、ローカストがらみやねん」
その言葉に、勝利にまだ少し浮かれ気味であったケルベロス達は、はっと息を飲む。
「戦争には勝ったけど、太陽神アポロンの行方が分からへんかってん。この辺りは知ってるかな?」
太陽神アポロンは先の戦争で、生き残ったローカストである。まさか、とケルベロス達が呟く。
「せや、アポロンは日本にまだおる。そんで『黙示録騎蝗』を続行しとる。それには大量のグラビティ・チェインが必要や、と言う事は……人間の虐殺が起こる」
絹の少し青ざめた表情の意味が分かったケルベロス達は、ごくりと唾を飲み込みながら続きを促す。
「どうやら、太陽神アポロンは不退転侵略部隊を、グラビティ・チェインを集める為の捨て駒として使い捨てようとしているらしいわ。
不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃して、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるちゅう事まで分かったわ」
人間の大量虐殺が起こる。ケルベロス達は予測していた回答であったが、驚きを隠せない。
「うちらヘリオライダーは、襲われる場所は予知できた。でもな、住民を避難させれば、他の場所が狙われるんや、被害を完全に抑える事は不可能やねん」
何とか方法はないのかと問うケルベロス達。
「コレばっかりは、あかん。
でもな、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのコントロールによるもので、決して彼らの本意では無いらしいわ。
不退転侵略部隊のローカストに対して、正々堂々と戦いを挑んで、誇りある戦いをするように説得する事が出来れば、彼らは人間の虐殺やなく、ケルベロスと戦う事を選択してくれる可能性が高いねん。
不退転部隊のローカストは、その名の通り、絶対に降伏する事は無く、死ぬ直前まで戦い続け、逃走する事も無いやろう。
激しい戦いになると思うねんけど、彼らに敗北と死を与えてやってくれへんかな」
その言葉に、ケルベロス達はまだ戸惑いながらも頷き、詳細を尋ねた。
「ありがとう。皆に向かってもらうのは、大阪府と京都府の県境付近にある遊園地や。そこで、ヒーローショーが行われているんやけど、夏休みに入ったちびっ子でいっぱいや……」
その言葉に察しの良いケルベロスが、驚きと憤りの表情を浮かべた。
「そこに、1体の不退転侵略部隊のローカストが現れることを予知した。トノサマバッタのローカストで、身体が少しメカっぽい。せやから、新しいヒーローと勘違いしてしまうかもしれんけど、れっきとしたデウスエクスや。
攻撃方法は、攻撃力を上げたキック、鎧強化での回復。それと、破壊音波や。このローカストのキックは強力で、必殺技のように放ってくるから、注意してな」
淡々と話す絹だが、その表情は浮かない。しかし、きっと口を結び、ケルベロスのほうを見る。
「ほんまは、あんまり言いたくは無いねんけど、この虐殺をゼロに防ぐことは不可能やねん。急いで行っても、既にローカストは現場におる。そこに飛び込んでいくことになると思う。でも、一人でも多く助けて欲しい、お願いや!」
絹の必死の声にリコスが頷いて応え、ケルベロス達に向き直った。
「彼らは死を覚悟して戦いの場に来ているらしい。降伏も撤退もしないようだな。人々を守るためには戦うしかない。さあ、皆行こう!」
ケルベロス達は足早にヘリポートに向かっていくのだった。
参加者 | |
---|---|
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182) |
皇・絶華(影月・e04491) |
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155) |
常葉・メイ(刀剣士・e14641) |
灰縞・沙慈(小さな光・e24024) |
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469) |
常磐・まどか(赤月を翔ける・e24486) |
ヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063) |
●口上
ケルベロス達がヘリオンから降り立つと、既に現場は騒然としていた。
屋外ステージから放射線状に逃げ惑う人々、子供達。
悲鳴と泣き声が、現場を覆っていた。その中心には、一体のバッタの顔を持ったローカストがいた。そのローカストの装甲が、日光と熱中症予防のミストを受け、彼が動くたびにギラリと光を反射する。
そして、その脚が一人の係員の男性の腹を貫き、絶命している姿がケルベロス達の目に映し出された。
ケルベロス達は即座に、人々の流れに逆らい、行動を開始した。
「私はメイ。ケルベロスの一人、常葉 メイという! こっちはねこだ。 逃げる人を一方的に傷つけるのは戦いではないと思う。 だから、まずは、我々と戦ってもらおうか!」
常葉・メイ(刀剣士・e14641)が割り込みヴォイスでローカストに名乗り、すぐさま身体から凄まじい殺気を放つ。隣でウイングキャットの『ねこ』も同様に威嚇するように毛を逆立てる。
その言葉に、ピクリと反応し、ケルベロス達を見るローカスト。
「我が名は皇絶華。貴様がローカストの勇者か? 我らは貴様に挑みに来た! 貴様の武に我らの武を以て挑み打ち勝つ為に! 我らが挑戦受けるか否か!?」
「止まりなさい! 無抵抗の相手を虐殺する、それが貴方の誇りですか!? 私達ケルベロスがお相手します。お互い引けぬものがある身、受けて立ちましょう!」
皇・絶華(影月・e04491)と、常磐・まどか(赤月を翔ける・e24486)がローカストの前に立ち、口上を述べる。
「……来たか。ケルベロスどもめ」
ローカストはそう言い、脚付いた返り血を、ブンという音と共に、振り払う。
「ケルベロスで無い者はデウスエクスにダメージを与えることはできない。反撃を受けない者たちを一方的に殺すのがお前の正々堂々か! 我らはこちらだ、向かって来い!」
「そして、出来るのなら、俺達を倒してからチェインを集めるのだな」
ヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063)とパーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)も続く。
「正々堂々? ……だと? ハッ……笑わせる。我ら不退転侵略部隊。元より汚れ役など、承知の上だ……」
ローカストはそう言うと、その場で腰が抜けて動けない、小学校低学年程の男の子に向かい突進した。
ガツッ!!
ステージ上を鈍い音が響く。
「子供や戦えない者達を虐殺する事が、それが戦士の誇りのある者の行動か?」
咄嗟に子供を庇い、そのローカストの脚を受け止めたムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)が、押し殺した声で威圧しながら声を出す。
「俺の名前はムギ・マキシマム、死掠殲団の誇りある戦士の一人。俺達はお前に勝負を申し込む」
ムギは受け止めた脚を弾き飛ばし、更にローカストを威圧する。
ジリジリと距離を詰めるケルベロス達。ミストがふわりと舞い落ち、そして消える。
「助けられなくて、ごめんなさい……。この赤色は、だいっきらい。赤色がこれ以上、増えないように……」
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)が、犠牲になった係員の目をそっと閉じさせ、ゆっくりと横たえる。そして、ウイングキャットの『トパーズ』と共に、ローカストを睨み付けた。
「今この場に居るのは所詮『一山いくらの一般人』だ」
それまで黙っていたクオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)が唐突に口を開いた。
「……」
ローカストは、その声の主を一瞥する。
「それよりも一騎当千『ケルベロス』のグラビティ・チェインの方が効率が良いだろ?」
そう言うと、彼女はおもむろにゲシュタルトグレイブで、『自分』の腹を突き刺した。
「クオンさん!?」
「な、何を……!?」
その行動に沙慈とまどかが声を上げる。だが、クオンは槍を引き抜きながら、更に語りかける。
「……さあ戦士よ、誇り高きローカストの戦士よ! 改めて我らは貴殿に勝負を申し込む!」
注意深くローカストの様子を見ていたパーカーが、その目の色が変わった事を見て、リボルバー銃を握りなおす。
「我が名はクオン・ライアート! 見事我が命、我がチェインを奪って見せよ!!」
ステージを響かせる、魂の声。その声に、ローカストは晴れ渡った上空を見上げ、ケルベロスに向きなおす。
「オレの命、ここまでだな。ならば、せめて……」
そう呟くと、ローカストは完全にケルベロスに向き、構えを取った。
「我が名はグレイ! 相手になろう……ケルベロス!」
●不退転
「始まった……な。良し、皆こっちだ。巻き添えを食うぞ!」
リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)がステージ付近の子供達を誘導していく。しかし、何人かの子供は、恐怖で思うように動けていない。
「リコス嬢、その子はわしが引き受けますぞ。ほれ。こっちじゃ」
リコスに善田・万造が声をかける。
「マンゾー。こっちだよ! こっちの建物から抜けれるよ!」
マヒナ・マオリが上空で翼を広げて飛行しながら、万造と子供達を道案内していく。
「みなさんこちらへお逃げください!」
その先に、セレスティン・ウィンディアが待ちうけ、混乱して迷っていた親達に案内していく。
ステージでは、玉榮・陣内と守屋・一騎が子供達とステージの中央に立ち、避難の様子を見ながらじりじりと下がっていっていた。
「さあ! ここから先は俺達が絶対に食い止める。だから、お前達は逃げるんだ! ……一騎。そっちは任せるぞ」
陣内の声に一騎が答える。
「分かってるっス。ここを死守する。無茶だろうがなんだろうが、皆を護るっス」
陣内と一騎が攻撃が飛んでこないように、避難の様子を見ながらじりじりと下がっていっていた。
バラッ! ババババババッ!!
グレイの強烈な羽音が響き、注意を引くように移動していたパーカーが吹き飛ばされ、地面へと叩きつける。
パーカーはよろよろと起き上がるが、頭の中に他の意思が進入してくる。
「……ッチ!」
そう舌打ちをしながら、頭を振るパーカー。そこへトパーズが駆け寄り、属性インストールを施していく。すると、傷の回復は完全とは言えなかったが、頭の中が晴れたのを感じた。
軽くトパーズに手をかざし、感謝の礼をするパーカー。そして己は更なる集中を開始する。
「さあクオンさん! あなたも!」
パーカーの回復を見た沙慈が、クオンのその腹の傷を癒そうと駆け寄る。しかし、彼女は首を振り、ゲシュタルトグレイブを構えて突進した。その槍が炎を上げてグレイに襲い掛かる。
ギン!
しかし、その槍はグレイの腕によって弾かれる。その勢いでクオンの腹から血が滴り落ちる。
「くっ流石にキツイ、倒れそうだ……」
クオンは後ろに下がりながら、呟く。
「俺の筋肉を舐めるなぁああ!!!」
ムギが叫びと共に、まどか、ヴィルヘルミナ、そして沙慈とトパーズの背後にカラフルな爆発を発生させる。さらにねこが、清浄の翼を同じ4人に与え、防御効果を高めていく。
「私も職業故にな……堂々と暗殺させて貰う!」
惨殺ナイフに相手の姿を映しながら、絶華がグレイに切り付ける。
「ぬ……!」
そのナイフがグレイの中央の左腕をかすめると、一瞬グレイの動きが止まる。まどかはその隙を見逃さない。
『此処より先は人の領域である、止まれ!!』
まどかのアームドフォートより飛び出した弾丸が、グレイの腹部にヒットした。すると、その弾丸が獣のような咆哮を上げる。
「クソ……!」
その衝撃に膝を付くグレイ。
「手加減はしない……。これがわたしの戦い方だ」
メイが続けてケルベロスチェインで、グレイの身体を縛った。すかさず、ヴィルヘルミナが弾丸を撃ち込んでいく。
ダンダンダンダン!
「勝利のためには手段を選ばぬこと、何が悪いのか。僧侶の嘘は方便、武門の嘘は戦術なのだから」
ヴィルヘルミナの放った弾丸は、グレイの脚を貫いていった。しかし、そのダメージに屈することなく、ゆっくりと立ち上がる。
「……そうだ、これが戦いの痛みだ。そして、まだ、オレは生きているぞ、ケルベロス!」
グレイはそう叫ぶと、メイのケルベロスチェインに縛られたまま、大きく跳躍した。
●覚悟
「我が渾身の一撃! 受けてみよ!」
上空から太陽の光を背に受け、勢いを増した必殺の蹴りが、クオンを襲う。
ゴガッ! ドン!!
鈍い音と共にステージが弾け、その衝撃がステージ上を駆け巡る。
「あ……!?」
その蹴りを受けるつもりであったクオンの前に、刀を構えた少女が立っていた。
「させない」
静かに刀を中段に戻し、グレイの明けた穴を見据えるメイ。グレイの一撃は、メイが刀で受け流したのだ。そしてメイは、クオンを一瞥し、少し口を開いた。
「あなたも、傷つけさせない。それが、わたしの覚悟」
隣でねこも、ステージの穴を見据える。
そこへ、まどかがクオンに話しかける。彼女の髪が白く染まっていく。
「あなたは、大切な戦力のひとりよ。あなたの誇りは尊重するわ。でも、あなたひとりで戦っているわけでは無いのよ」
普段のおっとりとした口調とは違い、淡々と意見を述べるまどか。
「その通りです。あなた一人で戦っているわけではありません。私も、戦っています。そして、コレが私の戦い方です」
沙慈が続いてクオンに向かい言葉を投げる。
『綺麗なツルの贈り物』
グラビティの折鶴をいくつも周りに吹き飛ばし、その一つがクオンの腹の傷を癒す。そして、トパーズもそれに習いクオンの傷を癒した。
「……皆、覚悟を背負ってここにいるのね。それならば、正々堂々の意味。果たせるわね」
クオンはそう言い、鉄塊剣とゲシュタルトグレイブを構えた。
「礼は言わんぞ。戦いはまだ終わっていない」
ダン!
突如大きな音が上がり、グレイが穴の開いたステージから飛び出した。今度は超低空で近くに居たムギに超速の蹴りを放つ。
「ぐ……。ぐおおおおおおお!」
ムギは雄たけびを上げ、足を踏ん張りながら、両手でグレイの足を受け止める。だが、そのグラビティの勢いで腕が弾かれ、足先がムギのみぞおちに入り込む。しかし、ムギは倒れない。
「……耐えたぞ、次は俺の番だ」
ムギはニヤリと笑い、体中の筋肉を爆発させながら、拳を握り、自らが食らった箇所と同じ場所、グレイの腹に、それを叩き込む。
『この一撃に迷いなし、筋肉は爆発だ!!!』
ムギがそう言うと、その拳から爆発が起こり、グレイを吹き飛ばした。
ドゴッ!
ステージの壁に激突するグレイ。そこへ、絶華が正面に飛び込んでいく。
「あああああああああ!!」
グラビティ・チェインをバトルオーラ『牙狼魂』に乗せ、拳の連打を浴びせる。
「これは技術って奴だぜ……」
そして拳を打ち続ける絶華の身体を避けるように、グレイの横っ腹へと、パーカーの跳弾が打ち込まれていく。
「ガ……!」
絶華がその場から離れると、ゆらりとグレイの身体が前に落ちる。だが、ヴィルヘルミナが追い討ちをかけるようにフォートレスキャノンの掃射を行う。
その掃射が終わった時、ドサっという音と共に、グレイがその場に倒れこんだ。
●誇り
「やった……のか?」
ヴィルヘルミナがグレイの様子を伺う。
「いや、まだ終わっていない……。見ろ」
絶華の言葉が終わりきらないうちに、再びグレイは立ち上がり、自らの身体を癒し、強化していった。。
「さあ、それで終わり……か?」
「強い……ね」
まどかがグレイの言葉を聞き、武器を直す。そして、白兵戦の構えを取り、電光石火の蹴りを放った。
ケルベロスとグレイの戦いは、よりその激しさを増していった。幾度もダメージを与えるも、立ち上がるグレイ。
その時、ケルベロス達の背後から、予想していなかった声が聞こえてきた。
『がんばれえ! お兄ちゃんたち!』
傷つきながらも戦う姿に、その場を離れず見ていた子供達が声を上げたのだ。
その傍にはリコスや、避難誘導を終えた他のケルベロス達が控えている。
ケルベロス達の戦う姿に見初められてしまった子供達であった。
スタイリッシュモードで身を包み、颯爽と現れた、我らがヒーロー。その眼差しは、憧れのそれであった。
その声に、ムギが一歩前に出て、口を開いた。
「誰かを護る、その為に鍛え上げたこの肉体………そう簡単に越えられると思うな」
「ハアッ……ハアッ……」
グレイは明らかに、疲弊していた。それでも倒れないのは、彼のその確固たる意思に他ならなかった。
「まだ……。オレは生きている、ぞ」
強がりであることは、明白であった。ただ、自分の最後の相手に納得したいのだと、それ故の気概が身体を動かしているのだと、ケルベロス達は理解した。
『我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門…「窮奇」……開門…!…ぐ…ガァアアアアアア!!!!』
絶華が魔獣の力をその身に宿し、超速の斬撃でグレイを何度も切り裂いていく。
「こんなに強い奴を使い捨てとはなぁ。アポロンとやらは優秀な仲間は嫌いなのかね?」
パーカーは、幾度も攻撃を加えた相手に、敬意を抱きながら弾丸を正確に命中させる。
「ねこ、みんなをお願い」
メイはねこに回復を指示し、ぴたりと停止し、集中を開始した。
『私はその守りを斬り崩す、一手となる』
メイの放った斬撃がグレイの装甲を砕き、まどかが追い討ちをするように、砕かれた装甲の箇所へ蹴りを打ち込む。
「終わらせよう! 行くぞ!」
ヴィルヘルミナはゆらゆらと揺れるグレイの元へと突進し、駆け抜ける。そして光の翼を展開しながら飛び上がると、素早く反転して停止した。
『シュテルング・・・フォイアアアアアアァァ!!!ロオオオオオオオォォォスゥゥゥ!!!』
ヴィルヘルミナが、収束させた強烈な赤いグラビティ光線を射出させた。その光線は一直線にグレイへと伸び、その身体を貫いた。
「さあ、決着をつけろ! クオン! これが我らの戦いであると示せ!」
ヴィルヘルミナが叫ぶ。
「ああ……」
クオンはそう言い、右手に持ったゲシュタルトグレイブに、グラビティの力を集めていく。
『その魂、在るべき場所へ・・・選定の槍の力を以って今、還さん』
クオンはそう言うと、絶叫と共に一直線にグレイへと突撃し、ゲシュタルトグレイブを突き刺した。
「あ……」
グレイはその深々と突き刺さった槍を確認し、もう一度、晴れ渡った上空を見上げた。
「……之で良かったのか? お前達は結局使命を果たせなかった。お前が正々堂々に応じなければ、恐らくお前の本当の使命を果たせた筈だ」
薄っすらと消え逝くローカストに、絶華が尋ねた。
「……これぞ、求めていた戦い。戦士のまま……死ねる……」
槍を貫かれながらも、グレイはそのまま倒れる事はなく、消えていった。
カラン……。
彼の命を砕いた槍が、その場に落ちた。
グレイを倒し、現場や、傷ついた人たちをヒールした彼らはヘリオンへと乗り込んでいった。
幸いにも、ケルベロス達の活躍のおかげで、一般人の被害は最小限に留められた。
「ねえ。ドラゴニアンさん……」
最後に乗り込もうとした沙慈に、同じくらいの年頃の地球人の女の子が話しかけた。沙慈が先程傷を癒した少女であった。
「あ、まだ何処か痛むのかな?」
そう言いながら、沙慈は、子供達の心の傷を思い浮かべた。
「助けてくれて、有難う」
それだけ言うと、その女の子はぺこりと頭を下げ、後ろで控える両親の元へと帰っていった。その両親も会釈をすると、沙慈はゆっくりと深くお辞儀を返した。
こうして遊園地での死闘は、幕を下ろした。
ローカスト達との戦いはまだ続いている。しかし、これからも負けるわけには行かない。
ケルベロス達は、この戦いを胸に刻み込んだ。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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