黙示録騎蝗～武士道とは死ぬことと見つけたり

■リプレイ

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　平和な観光街が恐怖の悲鳴に溢れていく。
　空を裂く刃と、地響きのような銃声。人々は突如現れたローカストを前に、ただただ無力に逃げ惑う。
「拙者の忠義のため、『黙示録騎蝗』のため、ローカストの未来のため、恨みは無いが……死んでもらう！」
「そこまでじゃ！　ローカストよ！」
　四本の手で握られた刀刃が、逃げ遅れた一般人に襲いかかる――その瞬間、悲鳴を上書きする壮大な銅鑼の音が街に響いた。
　その音に微かに鈍った刃を、飛び出したラティクス・クレスト（槍牙・e02204）の槍と刑部・鶴来（狐月・e04656）刀が、それぞれ２本ずつ受け止める。
「どんな理由があれ……虐殺を見逃すわけにはまいりません」
「こんな一方的でつまらねぇ虐殺より、俺たちと真正面から手合わせさせてくれよ、その方が心踊るだろ？」
　二人がかりで抑えるのがやっと、と言う重みを前にして鶴来が笑みを浮かべる。
　ギリギリの鍔迫り合いから先に退いたのはローカストだった。
「……拙者は武人として主君の望みに忠義を尽くす。例えこの身が朽ち果てようと、一人でも多くの人間を道連れにするのみ！」
　他のケルベロスたちを警戒しつつ、ローカストはその腕を真っ直ぐ一般人へと向ける。
　すると、身を包む鎧が膨れ上がるように変形し、中からは無数の銃身が姿を現した。
「この馬鹿者が！　状況がどうあれ、無抵抗の一般人を貪り食って糧を得よう等、最早武人の風上にもおけぬわ！　目を覚ませ！」
　直後、ローカストの射線を遮ったのは呂・花琳（鉄鍋のファリン・e04546）が投げ付けた、先ほど鳴らしていた銅鑼。
　そして、それを抜けた銃弾を龍爪の如し斬撃が弾き落とす。
「ローカスト、おめぇと勝負がしてぇ。闘う術のない奴を殺してもつまらねぇだろ？　それとも、お前の言う武人ってのは、自分より弱い奴としか闘えない腰抜けか？」
　銃弾を斬り落とし、ローカストの前に躍り出たのは武田・克己（雷凰・e02613）だった。
　鋭い刃に闘志を乗せて、ローカストへと突き付ける。
「貴公……拙者を侮辱するか……」
　殺気と敵意の入り混じった視線が、ケルベロスたちを一瞥していく。
「無抵抗な人たちを殺すことが、挑んでくる相手を無視して別の相手を攻撃することが武士のすることなの？」
「お前自身が武人を侮辱してないって言えるのか？　――なあ。自分の頭が正気の内に正々堂々とやんねぇか？」
　次第に薄れていく人々の気配。
　静けさの増す空気の中、突き付けられた吉野・雪姫（桜白雪姫・e04533）のケルベロスカードと、鵜松・千影（アンテナショップ店長・e21942）の言葉に、ローカストは無言の威圧を返す。
「貴方の誇りの在処は、此処に」
「……」
　短く、仄かな炎のような京・和紗（白毛金狐・e18769）の声に、ローカストは兜の奥で何かが揺らめく。
「最早、語る言葉は持たぬ……」
　いずれにせよ、ケルベロスの包囲を突破しなければローカストはグラビティ・チェインを奪いにはいけない。
　だとすれば、やるべき事は決まったとばかりに、刀を構え直す。
「丁度良い、我もそう思っていたところだぜ。語るのは戦いで、それで良いだろ？」
　ふわりとドレスを漂わせ、喜多・きらら（単純きらきら物理姫・e03533）は鮮やかな色彩の髪を指で弾く。
　その瞬間、華やかな衣装にオウガメタル『熾輝』を纏わせ、彼女を中心に広がった殺気が戦場を包んだ。

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「先手必勝！　参る！」
　研ぎ澄まされた殺気を斬り裂くように、ローカストが地面を蹴る。
「来るぜ、全員気張れよ！」
　敵の疾走と同時に、きららがオウガメタルに覆われた腕を掲げる。
　舞い散るのは黒金に輝き、感覚を覚醒させるオウガメタルの粒子。
「貴様の武士道、まだ腐っておらぬと言うなら我らを正面から切り伏せてみせよ！」
「語る言葉は持たぬの申したッ！」
　重い踏み込みから花琳に向けて繰り出されるのは、四本の刀刃による鋭い刺突。
　それを受けるは彼女を包む地獄のように紅い、鉄塊剣。そして……。
「……」
　和紗の放つ鎖が描く魔法陣の守護。
　続けざまに繰り出される斬撃を完璧に防ぎ切るには至らないが、受けた傷は地獄の炎が埋め合わせていく。
　直後、甲高く響く激しい剣戟を重厚な轟音が遮った。　
「その身体だ、コイツは卑怯なんて言わないよな？」
　千影の構えるガトリングガンの銃口から、立て続けに爆炎の弾丸が撃ち出され、ローカストは咄嗟に花琳から距離を取る。
「とにかく真っ向勝負で！　行きます！」
　弾丸の雨に追い込まれた所に、雪姫の気咬弾が炸裂する。
「小癪な――」
　飛び道具の嵐にローカストの足が止まった瞬間、弁当箱が――否、千影のミミック、ベンさんがその足に喰らい付く。
「あなたの相手は、私たちが務めましょう！」
　弾幕によって舞い上がった土煙が晴れる。その瞬間、鶴来の穿つ白刃がローカストを襲う。
「叢雲流槍牙、ラティクス・クレスト――」
「風雅流１０００年。神名雷鳳――」
　そして、左右からはラティクスと克己が迫る。
　下段からすくい上げるように振り抜かれるラティクスの穂先が風刃を放ち、それと同時に克己の脳天を叩き割るような神速の斬撃がローカストを襲う。
「悪いが、この名を継いだ者に敗北は許されてないんだよ。それが俺の武の道だ」

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　不退転。その名が示す通り、どれほど傷付こうともローカストが後退の意志を見せる事は無かった。
「ッ……流石に、一筋縄じゃいかないか……！」
　強靭な四本腕から繰り出される斬撃より仲間を庇ったラティクスは、巧みに槍を操りその衝撃を受け流す。
　しかし、ケルベロスと言えどその一身で受け切るのは難しく、ダメージは確実に蓄積していく。
「ほらほら、我も混ぜろよ！」
「勝負は最後の直線が勝負です！　現れて、紅のミスパーフェクト！」
　斬り結ぶ二人の間に割り込むように穿たれる、きららの蹴撃。
　その一撃を避けようと跳び退いたローカストを、紅色の影と雄々しい蹄の音が捉えた。
　雪姫が呼び出したのは紅のオーラを纏うサラブレッド。その駿足が突撃するだけで、最早下手な重火器よりもよっぽど強力な武器となる。
　激しい攻防は続き、やがて戦いの意義を問う言葉は消えていく。
「そうだ、それでいい。道を違えた以上、俺たちは正面からぶつかるだけだ」
　飛び交う弾丸越しであっても、纏わり付く鋭い殺気に千影はローカストの姿を真っ直ぐ見据える。
　今あそこにいるのは、一人の武士だ。逃げ惑う群衆では無く、立ちはだかる強者と正面から戦い、斬り伏せる事のみに生を見出す、修羅。
「そうじゃ、それでこそ武人と言うものじゃ！」
　ばら撒かれる弾丸を中華鍋状のオウガメタルで弾きつつ、花琳はローカストの懐へ入り込む。
　全力で振り抜かれた紅一文字がローカストを弾き飛ばした。
　和紗の作り出した満月状のエネルギー球は花琳の腕力を限界まで引き上げ、痛烈な一打を生み出す。
「ぬ、ぐ、ぁあああああッ！！」
　倒れまいと深く踏み締め、膝を付くまいと地に刀を突き刺す。
　四本の内、二本は無残に折れ、最早使い物にはならない。そして、そこに迫る、克己の一閃。
「例え刃折れ、この身が朽ちようとも――拙者は折れぬ！」
「こっちだってな、伊達や酔狂でこいつを持ってるわけじゃないんだよ！」
　岩をも斬り砕く勢いのローカストに対し、克己の振るう剣は緩やかに弧を描き、相手の刃をいなし、芯から断ち切る。
「これで、終わりにさせていただきます！」
　入り乱れる戦場の中、鶴来の視線が一瞬だけ、交差する。
　鞘に収めた刀を低く構え、疾駆する鶴来。一方のローカストに残ったのは最後の一本となったボロボロの刀。
「キェェェエイッ！」
　上段に構えたローカストの一刀が裂帛の気迫と共に、振り下ろされる。
　勝負は一瞬のうちに幕を下ろす。二人の刃がすれ違い、風すらも息を潜めるように、沈黙が戦場を包んだ。

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「貴公……名は？」
　静寂を破ったのは、ローカストだった。背中を向け合わせたまま、鶴来はゆっくりと口を開いた。
「刑部・鶴来です」
「そうか……刑部殿……ケルベロスたちよ……良い、死合であっ……た」
　ローカストが手放した刀が、地面に突き刺さる。それを追うようにしてローカスト自身も崩れ落ちた。
　それが、幕引きの合図だった。
「……終わったか」
「うむ……武士道とは死ぬこととみつけたり、か……」
　不退転と言う意志を貫いた敵に、胸中で敬意に似た感情を抱きながら、克己は刀を収める。
「最後の一太刀、銃で迎撃もできた筈だ」
　花琳の言葉にラティクスは地に突き立った刀を眺める。
　生きるためとは言え、人々の脅威となった彼を称える事はできないが、彼は刀に全てを込める事で最後に武士としての尊厳を貫いたのだ。
　ケルベロスの中には、そんな彼の死に様に思うところがある者もいるかもしれない。
「……」
「え？　あ、そうだよね。まだ負傷者もいるかもしれないし、街の様子を確かめないと」
　和紗が身振り手振りでローカストに襲われた街の方を促す。
　戦闘直前の避難は滞りなかったが、恐らくまだ街は混乱しているだろうし、襲撃による怪我人もいるかもしれない。
　和紗に付き添い雪姫は街の方へ、それに続いてケルベロスたちもそれぞれ救助や修復作業に入っていく。
「どうやら、我々もローカストも、戦争が終わってもまだまだ立ち止まれねぇな」
「戦争、か……」
　戦場を後にするきららの言葉を耳にして、千影はローカストの倒れた場所を見下ろす。
「……お前たちは、本当にこんな戦いで本望なのか？」
　不退転部隊が命を賭した戦いを続けているのは、ここだけではない。
　その忠義の名のもとに、太陽神アポロンの暴走とも言える采配に付き従い命を散らす。その戦いはあまりにも……。
「お前はどうだったんだ？」
　グラビティを失い、静かにそよぐ風にローカストの身体が消滅していく。
　千影の問いかけの答えもまた、風の中に消えて行くのだった。

作者：深淵どっと	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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