黙示録騎蝗~不撓なる刃

作者:小鳥遊彩羽

「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 深夜。しとしとと雨が降る中、不退転侵略部隊のリーダーであるヴェスヴァネット・レイダーが、ローカスト達の前で声を張り上げた。
 この問いに、隊員達――ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカスト達は『否っ!』と声を揃えて答える。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 当たり前のように定められた死を恐れず、意気軒昴と吠え猛る不退転ローカスト達に、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」

 ――彼らは、黙示録騎蝗の尖兵となって今後の戦いに必要な大量のグラビティ・チェインを獲得することを太陽神アポロンに命じられていた。
 それは、単騎で人間の住む街に攻め入って多くの人間を殺し、可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない決死の作戦であった。
 ヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、次々に雨に濡れる夜の森へと消えてゆく。
 不退転侵略部隊のローカスト達の最後の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。

●不撓なる刃
「まずはローカスト・ウォー、お疲れ様でした」
 トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)は労いの言葉と共に笑みを浮かべたが、すぐにさて、と表情を真剣なものにして続けた。
 先のローカスト・ウォーにおいて撤退した太陽神アポロンが、ローカストの軍勢を動かそうとしているのだという。
「ローカストのゲートは消失したけれど、彼らにとっての『黙示録騎蝗』はまだ終わってはいない。太陽神アポロンは大量のグラビティ・チェインを求めていて、不退転侵略部隊をグラビティ・チェインを集めるための捨て駒として使い捨てようとしているみたいなんだ」
 不退転侵略部隊のローカスト達は一体ずつ別々の都市に出撃し、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるらしい。
 だが、予知にあった場所の住民を避難させてしまうと別の場所が狙われてしまうため、被害を完全に防ぐことは出来ないのだという。
「でも、ローカスト達が人々の虐殺を行うのは太陽神アポロンのコントロールによるもので、決して彼らの本意ではない。皆の想いや言葉で、彼らに戦士としての誇りを取り戻させることが出来れば、その時は彼らもひとりの戦士として君達と向き合ってくれるはずだよ」
 不退転侵略部隊のローカストに対して正々堂々と戦いを挑み、戦士として誇りある戦いをするよう説得することが出来たなら、彼らは人間を虐殺する手を止め、ケルベロスと戦うことを選んでくれるだろう――ということらしい。
「彼らは不退転の名の通り、降伏も逃走もせずに死ぬ直前まで戦い続けるだろう。文字通り、命を賭けている。だからこそ激しい戦いになると思うけれど……」
 それでも、ケルベロスとして彼らに敗北と死を与えて欲しいとトキサは言った。
「ローカストが出現するのは滋賀県草津市。皆の相手はカブトムシのローカストだ。全身がメカっぽくて、ツノが刀のような形状をしているようだよ」
 だから使用する技は日本刀のそれに近いとトキサは続け、脚力を活かした強烈な蹴りにも注意して欲しいと付け加える。
 そして、トキサは意を決したように続く言葉を口にする。
「……さっきも言ったように、到着はローカストが出現してからになる」
 つまり、一般市民への被害は既に少なからず出始めているということだ。だが、ケルベロス達の行動や言葉によって、その被害を最小限に食い止めることは出来るだろう。
「ローカストは自らの死を顧みず、戦いの場に来ている。けれど、それは決して罪のない人々の命が理不尽に奪われていい理由にはならない。人々を守るためにも、――頼んだよ」
 静かにそう締め括り、トキサはケルベロス達へ後を託した。


参加者
苑村・霧架(真銀のフィリニアス・e00044)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
シグリッド・エクレフ(虹見る小鳥・e02274)
月桜・美影(オラトリオの巫術士・e21666)
水限・千咲(それでも私は生きている・e22183)

■リプレイ

 血に濡れたアスファルト。飛び交う悲鳴。倒れて動かない人々。
 駅から百貨店やショッピングセンターへと繋がる歩行者回廊の只中で、唐突に始まった虐殺の中に佇む一体の異形――ローカスト。
 言葉を発することもなく、ただ粛々と『命令』に従うまま。感情の一切を排除した刃が逃げようと足掻く人々を一人、また一人と斬り捨ててゆく。
 そこに、朗々と響き渡った声があった。
「やあやあ我こそは鯖江より来たりし眼鏡の戦士メリッサ・G・ニュートン! 勇猛なりしローカストよ、いざ尋常に勝負!」
 メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)の堂々たる口上に、ローカストが血に塗れた顔を向ける。
 同時に、戦場へと足を踏み入れるケルベロス達。
「自分達が盾になる。その間に逃げろ!」
 地獄化した紫の炎を声と共に吐き出しながら、ベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)が足が竦んで動けなくなっている人々へ叫ぶと、人々は我に返ったようにこの場から離れていった。
 ベリザリオの呼びかけは賢明だった。もしも人々に声を掛ける者が誰もいなかったなら、人々はすぐに逃げ出すことが出来ずに被害がさらに拡大していた可能性があったと言っても過言ではない。
 彼らの姿を隠すような位置につきながら、シグリッド・エクレフ(虹見る小鳥・e02274)は真っ直ぐにローカストを見据えて告げた。
「わたくし達は、ケルベロスですわ。……不退転の覚悟とは、弱者をいたぶるためのものでしたの?」
 ローカストの傍らに倒れてもう動かない、誰かの亡骸。ありふれた日常を生きていたはずの、――救えなかった命。
 もしかしたらまだ生きている者もいたかもしれないが、治療するだけの時間をローカストが与えてくれるとは思えなかった。
 痛ましげに表情を歪ませるシグリッドの言葉に、ローカストがぴくりと肩を震わせた。
「誇り高き戦士の心は、今や翳ってしまっている。仮に太陽神アポロンのためと謳ったところで、罪もなき弱者をいたぶることが君達の使命なのかね」
 さらにマニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)が畳み掛けるように言葉を重ね、白い騎士の装いに身を包んだ苑村・霧架(真銀のフィリニアス・e00044)が続いた。
「この惨劇はキミが望んだモノ? キミの誇りは捨ててしまった?」
「……それは」
 ローカストが言い淀む。その心に生じたであろう僅かな迷いを、ケルベロス達は確かに感じ取った。
「あなたの戦士としての誇りは、命を賭けた戦いの中にあったのではないのですか?」
 不退転とは、決死の覚悟。
 早く止めなければと強く思いながら、月桜・美影(オラトリオの巫術士・e21666)が訴えかける。
「死を恐れないのと、その死を受け入れるのとは違うんじゃないかな。……弱い者いじめの間に訪れる死を受け入れられるの? 私達に背を向けて、私達に勝てる道理はないよ」
 このまま再び背を向けるというのならそういうことだと、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)ははっきりと言った。
 戦士としての死か、卑怯者としての死か。武人たるローカストへ、ケルベロス達は静かに問う。
「……もっと相応しい相手ならば、ここにいます!」
 命を賭けてまで戦うという決意。それを無抵抗の人々を虐殺するなどという形にしてしまっても良いのかと、水限・千咲(それでも私は生きている・e22183)が声を上げる。
 ケルベロス達は正面からローカストと向き合い、各々がその胸に宿る想いを口にした。
「お前達と戦えと、そう言いたいのか」
 ローカストの迷いを秘めた問いに、そうだ、と言うようにベリザリオが頷いてみせる。
「群れの栄光のため己を殺し殉ずるのもいいだろう。だが同じ死ぬなら見事な死に花を咲かせたくはないか?」
 自分達は命を賭けた勝負を挑むつもりで来たのだと、口の端を釣り上げるベリザリオ。
「受けずに単なる虐殺者として死ぬもよし、受けて戦士として死に花を咲かせるもよし。……さあ、貴様はどんな生き様を見せてくれるんだ?」
「私は――」
 ベリザリオの言葉に、ローカストがようやく、ケルベロス達と真正面から向き合った。その瞳に、地獄の番犬達だけを映すかのように。
「もし貴方が。屠殺者としてじゃなく、戦士としての終わりを望むなら。――私達こそが、キミが望む戦場だ!」
「あなたの、そして私達の、決意と誇りのために! ――来てください! 全力と全力で、向き合いましょう!」
 ノーフィアが、千咲が、真っ直ぐな想いをぶつける。
「私達が地球の戦士として戦おうではないか。貴様の武を存分に振るうといい。我々も身命を賭して応えよう」
 マニフィカトもまた、さらなる想いを紡いで。
「その胸に矜持があるのなら戦おう。ボク達が相手になってあげる」
 赤いマントを翻し、霧架は自身の身の丈を超える巨大な鉄塊剣を勇ましく突きつけた。その姿は、まさに騎士そのもので。
 彼に騎士としての誇りを思い出してほしい。そして、自分達のことも、彼が相手をするに相応しいと認めてもらいたい。
「貴方が求めているものは、貴方が倒すにも、倒されるにも相応しい戦士の筈」
 シグリッドの、そしてケルベロス達の言葉を受けて、ローカストが静かに構えた。
「――わかった。推して参ろう」
 ローカストの出した『答え』に、ケルベロス達もまた自らの武器を手に散開する。
 ――互いの想いと技をぶつけ合う、誇りある戦いを、いざ。

「私の名前はマニフィカト。君の相手をする番犬の一角だ。覚えていただけると光栄なのだが」
「覚えておこう。我が名はギヴルス。――お前達か私か、どちらかが死に逝く迄」
 ギヴルスと名乗ったローカストの刃が、マニフィカトに向いた。月のように緩やかな弧を描く斬撃は、しかし間に割って入った霧架によって受け止められる。
「ふふっ、いいカオになってきたね。それじゃ、やろっか」
 霧架は微かに笑って、ルーンの輝きを帯びた斧を振り下ろす。
 その背後から、マニフィカトが力ある言葉を解き放った。
 ――その矢、鏃は沈黙。その矢、矢羽は葬列。
 刹那、ローカストの頭上に現れた数多の氷の刃が、雨の如き勢いで降り注いだ。
「すぐに回復いたしますわ、霧架さん!」
 シグリッドが魔術切開を行使して霧架の傷を癒し、その脇を抜けるように地を蹴った千咲が、ローカストが斬ろうとしたように緩やかな月の弧を描く斬撃でローカストを斬った。
 感情の一切を排した千咲の瞳が、ローカストを見つめる。
「――お前」
 何かを感じ取ったらしいローカストが口を開いたが、その体をどこからともなく放たれた凍結光線が貫いた。
「黒曜牙竜ノーフィア・アステローペ! 相棒はペレ! 正々堂々、お相手願うよ!」
 バスターライフルを傍らに、勇ましく名乗りを上げるノーフィア。ボクスドラゴンのペレもまた、名乗る代わりに自らの箱ごとローカストに突っ込んでいく。
「眼鏡に包まれて在れ……」
 言葉と共に、メリッサの頭上に展開する巨大な眼鏡。そこから降り注ぐ光がメリッサに守りの力を施す傍ら、ベリザリオもまた自らの全身を地獄の炎で覆い、身体能力を大幅に強化した。
(「早く……止めなきゃ」)
 美影はきゅっと唇を引き結び、半透明の御業を己の身に宿す。巨大な御業がローカストを鷲掴みにするその動きに合わせ、ボクスドラゴンの真桜が勢い良くブレスを吐き出した。
 ――繰り返される攻防の最中、激しい剣戟の音色が周囲を満たす。
 ケルベロス達は互いに声を掛け合い、息を合わせて戦っていた。だが、相手も手練のローカストであり、研ぎ澄まされたその力は決して油断出来ないものだった。
 ローカストは流水の如き動きで刃を振るい、前衛陣を一息に薙いだ。ケルベロス達とサーヴァントを合わせ列減衰の効果はあったものの、それでもこちらが受けるダメージは低いとは言えなかった。
 すぐに前衛を覆ったオーロラのようなやさしい光はシグリッドの手によるものだ。さらに美影が色鮮やかな風を吹かせ、同胞達の背を確かな力で彩った。
「……強い、ですわね」
 ケルベロス達ヘ向けられる、迷いのない刃。
 死を覚悟した者はこんなにも強いのかと、シグリッドは素直な賞賛の言葉を口にする。
「だけど、ボク達も負けられないんだよね!」
 巨大な鉄塊剣をを腕力だけで振るい、シンプルな、けれど重厚無比の一撃を繰り出す霧架の表情は、純粋にこの戦いを楽しむ者のそれだった。
 ――『彼』が、望んでしたわけではない虐殺を忘れられるように。
 一人の戦士として、思う存分に戦い続けられるように。
 ローカストが相手取るのは、八名のケルベロスと二体のサーヴァント。
 その強さは並のケルベロス八名と同程度とは言え、ケルベロス達には積み重ねた経験と力、そこから導き出した作戦があった。
 ローカストの強力な一撃は霧架とメリッサ、そして二体のボクスドラゴン達という厚い壁を作り上げたディフェンダー達が受け止め、そして彼女達が受けたダメージををメディックのシグリッドと美影がすぐさま癒し――残るケルベロス達は、その間にも粘り強く攻撃を重ね、ローカストの動きを封じていった。
 どれほど傷ついても、勝機を見出だせなくとも、その先に待つのが死だと知っていても――ローカストは決して退かず、果敢に攻め込んできた。
 ローカストの振るう刃を、メリッサが受ける。
「これくらいでは、倒れませんよっ!」
 眼鏡をきらりと光らせ、その場に踏み留まったメリッサはすぐさま反撃に打って出ると、チェーンソー剣の刃を唸らせて、ローカストの傷口を抉るように斬り広げてゆく。
「回復はお任せください!」
 すぐに美影が声を上げ、メリッサの前に光の盾を展開させた。
「――斬って刻んでばーらばら」
 次の瞬間、千咲がローカストの袂に踏み込んだ。
 先程と同じ、感情の灯らない瞳でローカストを見つめながら、千咲はただ息をするように刀を振るい続けた。
 刀を持ち、振るう。ただそこに斬るべき存在が生きているから、斬る。そこには善悪の境界も、躊躇いも、情けの欠片もない。
 それが、千咲にとって当然のことで、唯一つの真実。
「くっ……!」
 無から繰り出される千咲の刃に斬られ、ローカストが膝をつきかける。
 それでもなお戦い続けようとするローカストの頭上から――文字通り声が降ってきた。
「ペレ、頼んだ!」
 翼を羽ばたかせて空高く舞い上がり流星のように飛び込んできたノーフィアが、電光石火の蹴りを叩き込む。
 同時に、ペレがブレスを吐き出した。
 竜の炎に焼かれるローカストへ叩きつけられた地獄の炎は、ベリザリオのものだ。
「……そうだ、この角は貰ってもいいか? 貴様と戦った証に」
 何気なく問いかけたベリザリオに、ローカストは呻きながらも否、と答える。
「この刃は我がいのちの証。――何人であろうと折らせはせぬよ」
 命であり、誇り。容易く人の手に渡せるものではないとローカストは言った。
 戦いの終わりは、すぐそこまで来ていた。
 すでにローカストは満身創痍であり、とても戦う力が残されているようには見えなかった。
 ――ケルベロスとして、ローカストたる彼に終焉を。
「終わらせてあげる」
 静かに呟き、ノーフィアはローカストを指先で指し示した。
 ――我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり。然れば我は求め訴えたり、奪え、ただその闇が欲する儘に。
 ノーフィアの口から力ある言葉が紡ぎ上げられると同時、立体的な魔法陣が描かれ、そこに漆黒の球体が生み出された。球体はローカストの体を瞬時に引き寄せて取り込み、超重力で圧し潰す。
「ぐっ……!」
 強靭なローカストといえど、激痛は耐え難いものであったらしい。
 ローカストは苦悶の声を漏らすが、それでもまだ戦場に立ち続けていた。
「神話の蠍の輝き、此処に」
 凛と声を響かせながら、シグリッドは銀光の蠍を宿した杖を振るった。
 星の蠍は掲げた毒尾でローカストを穿ち、鋭い痺れと痛みを深く刻み込む。
「皆を護る力よ、今この光に宿れ!」
 憧れは覚悟となり、闇を祓う光となる。
 霧架が渾身の力を込めて煌めく光を帯びた剣の一撃を叩き込むけれど、――まだ、ローカストは倒れない。
 最期のその瞬間まで立ち続けることを望むローカストの前に、マニフィカトが一歩、歩み出た。
「例え君が倒れても、私は君の名を覚えていよう。――ギヴルス」
 マニフィカトは再度、海神の三叉槍を解き放った。自身の心に深く根を下ろす魔術。それが、葬送には相応しいと思ったから。
「……光栄だ、マニフィカト」
 紡がれた声は、どことなく満足気な響きを帯びていて。
 水の刃に裂かれ、ローカスト――ギヴルスはとうとう地に倒れた。
 そして、その体はゆるやかに砂のように崩れてゆき――彼がその身に抱いていた刃のような角ごと、溶けるように消えていった。

「終わりましたね……」
 眼鏡を軽く押し上げ、メリッサが息をつく。
「皆さん、お疲れ様でした」
 安堵の息を吐き、美影は仲間達へと笑いかけた。
「――もしかしたら、まだ助かる方がいらっしゃるかもしれませんっ!」
 刀を収めた千咲は、戦いの最中にローカストへ見せた表情を欠片も残してはおらず――歳相応の、どこにでもいるような普通の少女らしい感情を宿した瞳で周囲に倒れている人を見回した。
「そうですわね! すぐに治療に当たりますわ!」
 シグリッドも駆け出し、そして倒れている人々の元へ向かう。
 すでに事切れている者は、少なくはなかった。ケルベロス達が到着した時には、もう間に合わなかった人々だ。
 だが、まだ息のある者もいた。
 美影やシグリッド、そして霧架を中心に、ケルベロス達は手分けをしてヒールを施し、負傷者の治療と戦いで傷ついた周囲の修復を行った。
 ローカストが消えた場所を見つめながら、ベリザリオは地獄の炎を交えた息を吐き出す。
 形に残る物があれば、もっと愛してあげられたのに。――過った想いは外には出さず、地獄の炎と一緒に心の中に仕舞い込んで。
(「――貴方のような戦士との戦いを、忘れたりしませんとも」)
 ギヴルス。その名を胸中で繰り返し、シグリッドは消えていったひとりの戦士を想う。
 マニフィカトもまた、散っていった戦士へと想いを馳せた。
(「地球の戦士として、相応しい戦いが出来ただろうか」)
 その答えはわからない。けれど、最期に己の名を呼んだ彼のどこか満ち足りたような声が、そうだと言ってくれているような、そんな気がした。
「戦争が終わっても、まだまだ油断ができないってことだね」
 出来る限り、被害を大きくしないように何とかしなければ。
 負傷者の手当てを終え、霧架は改めてそう思う。

 ――戦いは、まだ終わらない。
 それでもこの日、ケルベロス達の手で確かに守られた未来がここにある。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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