黙示録騎蝗~逆襲のチャリオット・パイル

作者:鹿崎シーカー

 ゴロゴロゴロゴロ……。
 雨降る岩場を、ひとつのボールが転がり落ちる。雨水を弾き、猛烈な速度で走る巨大球体。それ、いや彼の辞書に『停止』の二文字はあり得ない。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 否。進む。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
 是。転がる。
「ならば、ゲートなど不要」
 是。落ちる。
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
 是。そのために走るのだ。
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
 是。なればやることはひとつ。
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
 是! 当然、そのために来た!
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 了! しかしただでは死なぬ!
 指揮官ヴェスヴァネットの声を背後に、ダンゴムシは加速する。自らに課せられた使命を、その身をもって果たすために。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 黙示録騎蝗成就の為に! 心の中でそう叫び、ダンゴムシ型ローカストは、岩場を真っ直ぐ転がり落ちた。


「戦争、もう終わったのに……」
「まだ負けてないって思ってるんだろうねえ。実際、戦ってるわけだし」
 ミッシェル・シュバルツと渋い顔を合わせ、跳鹿・穫は溜め息をついた。
 過日のローカスト・ウォーは、ケルベロス側の勝利で終わった。しかしながら、戦争の発起人『太陽神アポロン』を始めとし、多くの残党がまだ残っている。
 太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを求めており、グラビティ・チェインを集めるために、ヴェスヴァネット・レイダー率いる『不退転侵略部隊』を捨て駒にしようとしているらしい。
 今回行動が確認されたのは、グランドロンと言う名のダンゴムシ型のローカストだ。彼は大阪に出撃し、ケルベロスに殺されるその時まで、虐殺を繰り返すつもりのようだ。
 予知にあった場所の住民を避難させれば、他の場所が狙われる為、被害を完全に抑える事は不可能。放っておけば都市ひとつが全滅する可能性すらある。
 ただ、彼らの行動は太陽神アポロンの支配によるものであり、決して彼らの本意では無い。
 不退転侵略部隊のローカストに対して、正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いをするように説得する事が出来れば、あるいはケルベロスと戦ってくれるだろう。
 グランドロンが現れるのは、大阪のランドマーク、通天閣周辺だ。
 年を通して観光客の多いここは、当然のごとく人でごった返している。しかし、グランドロンはかなり派手に暴れるため、居場所はすぐにわかるだろう。
 グランドロンは先に説明した通り巨大なダンゴムシ型だが、両側面に高速回転するホイールソーを持ち、背中に大量のトゲを備えている。これらを使った突進攻撃を武器として使う他、トゲを使って壁面を走るなどの芸当もやってのけるようだ。
 こんなものに襲われれば、一般市民など路上のアリのごとく殺されてしまう。全員助けることはできないにしても、より多くの人々を救うため、このローカストを倒してほしい。
「ここで集められた力は、絶対よくないことに使われる。不退転ローカストを、なんとか退治してほしいんだよ!」


参加者
鉄・八郎太(時雨に佇む・e00805)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)
葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)
久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208)
ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)

■リプレイ

●死線を抜けて
「ま、待って……待ってくれ!」
 必死で逃げ去る人々に、男もまた必死になって手を伸ばす。だが、恐怖に駆られた人々は、見向きもしない。うっかり転倒した男性は、慌てて立ち上がろうとする。早く、早くしなければ。あの死神がやってくる!
 走馬燈めいて蘇る、通天閣前のあの光景。虫のように踏みつぶされた、名前も知らない誰かと、斬り刻まれた売り子やスタッフ、観光客。クモの子を散らして逃げる中で、いくつか聞こえた悲鳴。そして。
「……ひぃっ!」
 CRAAAAASH! 男の背後で、屋台が粉々に吹き飛んだ。少し離れた場所で、異変に気づいた人々が振り返る。通りに現れたのは、高速回転する巨大な球体。側面についたふたつのホイールソーが、甲高く叫ぶ。まるで喜んでいるかのように。
 足が震え、立ち直りかけた膝が折れる。恐怖に尻もちをつく男の前で、ダンゴムシ型ローカスト、グランドロンはギャリギャリと見せつけるように火花を散らし、加速した。
「また、一人……」
「ひっ……う、うわぁぁぁあああああッ!」
 恐怖と絶望の悲鳴を上げる男性に、無慈悲な殺人機械が迫る。地面をえぐり、幾人かを肉にしてきた死の一撃が、ノコギリの歓声とともに迫り……。
「そこまでにして貰おうか!」
 燃え上がる夕焼けから、清廉な光が降り注いだ。爆発する地面。瞬時の判断でグランドロンは逆回転し後退。丸めた体を開き、八本足で制動をかける。トゲのついた甲殻が油断なくきらめく。
「……何者だ」
「何者だって? つれないなぁ」
「ええ。先日のローカスト・ウォーで剣を交えたこと……もうお忘れになりましたか」
 光の残滓と煙の中から、人の影が歩み出る。ウェスタン・スタイルの葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)、黒ゴス衣装のミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)。同じく進み出た鉄・八郎太(時雨に佇む・e00805)は、遠くにそびえる通天閣と、その周囲に昇る黒煙を見た。
「やれやれ、ずいぶん暴れてくれたみたいじゃないか。……悪いけど、これ以上好きにさせる訳にはいかないな。お相手願おうか」
 桃色のひげをつまみながらウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)、光の駿馬を従えた葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)、ガントレットを打ち鳴らす久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208)。
 ギュルギュルとその場で回転を繰り返し、グランドロンは無感情に助走をかける。
「ローカスト・ウォー……ケルベロスか。奥の二人もか?」
 仲間の後ろのカリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)がぴくっと震える。しかし、男を素早く立たせると、ダイナマイト変身で人々を励ますロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)に合図を送る。
「あのね、ここは危険なの。でも慌てちゃだめ。落ち着いて避難してほしいの」
 こくこくとうなずく男性と、固唾を飲んで見守る人々の前で、ユニコーンがいなないた。
「ここは任せて、避難誘導に従って下さい! さあ、早くッ!」
「行かせると思うか!」
 柊夜の声をかき消すように、グランドロンが弾けた。地面を削り、ノコギリをうならせ、真っ直ぐに突撃をしかける。ウィゼと眞白は、即座に拳を握って飛び出した。
「眞白おねえ!」
「ああ、止めるぞッ!」
 踏み込み、腕が振り下ろされる。アスファルトがメキリとへこみ、亀裂が走る。春日通りを通り抜け、クレバスめいて引き裂いた! 足を取られるグランドロン!
「行って。ミッシェルちゃん!」
 破砕音を貫き、カリーナの合図が飛ぶ。山びこのように放たれたのは冷たい殺気。背を叩く気配に押され、人々はまた走り出す。不安定な体勢のまま、グランドロンはさらに加速。ホイールソーが地面を削る。
「おのれ! 逃がすものかッ!」
「おっと、待ってくれ」
 爆発。雷鳴とともに、グランドロンが吹き飛ばされる。刃を抜き放った八郎太は、コートの上から電光をまとう。
「侮られたものだね。余所見できる状況なのかい?」
「私達も、仲間のために失敗できない。この襲撃は、なんとしても止めさせてもらう!」
「こわっぱ共が……ならば望み通り肉にしてくれるわ!」
 忌々しげなうめき声が擦過音に混じる。炎めいた夕焼けの下、刃が赤く輝いた。

●VS不退転の突撃兵
「退けぇぇぇいッ!」
「どかないの。カリーナの誇りは、逃げずに立ち向うことなの! かまぼこ!」
 カリーナの頭からウイングキャットがぴょんと飛ぶ。片手で弓を、もう片方で黒豚を器用に操り、心を震わす矢を放つ。しかし、グランドロンは甲殻に刺さった矢を粉砕、決断的に突き進む! 立ちふさがる敵をひき、民間人もひき殺す腹づもりなのだ!
「させるか……! 援護頼む!」
「了解だ」
 突撃してくるグランドロンに、眞白が対抗。その頭上を八郎太の手裏剣は螺旋軌道を描いて飛び越え、命中。回り続ける手裏剣に組み付かれてもいまだ止まらぬ戦車を、ガントレットががっちりつかんだ。火花散らす鋼と鋼、踏ん張る眞白は地面を砕き押し戻される。重い!
「くっ……敵ながら、己の命すら犠牲にするその覚悟、見事だ。故に!」
 ガントレットの指が甲殻を握る。止まらない……だが減速している! グランドロンとは逆に回転する手裏剣が、装甲を斬りつけながら勢いを徐々に緩めていく。指が食い込む!
「こちらも、相応の覚悟で相手させて貰う!」
「ぬおおおおッ!?」
 眞白、思い切り背を反らせ、グランドロンを投げ飛ばす。宙を舞うダンゴムシ。ホイールソーが夕日を反射、むしろ好都合とばかりにその回転を増していく。進行方向の斜め下には逃げ惑う人々!
「コシャク、なれど好都合!」
「そうは行きませんよっ!」
 花弁のような形状の、光の翼ひるがえし、ロージーが飛来。空色のクロスを、全身の装備を、まばゆい粒子で覆っていく。
「思い出してくださいっ! あなたのその力は、罪も無い、力もない人々を殺すためのモノじゃないハズです! 本当に戦うべき相手は、その力を使って戦うべきはっ! 私達ケルベロスではないのですかぁぁぁっ!」
 スピードスター! 光の奔流と化したロージーはグランドロンと宙で激突! 流れに逆らう殺人回転、しかし振り払えない! さらに回転!
「知った口を利くな小娘ッ! 我が力は種族のために! 我が命は主君のためにッ! 我が全ては、二度とは合えぬ仲間のために捧げたのだッ! 下郎は寝ておれ。貴様らの覚悟がいかほどかッ!」
 キュイイイイ! ホイールソーが喚き散らす。光を吹き飛ばそうとするものの、空中では踏ん張りがきかない。グランドロンは押し流されて、別の通りへ弾かれた。流星めいて落下する彼を追うのは、軒上を駆ける銀河色の一角獣。またがっているのは柊夜と唯奈!
「どうせならクォーターホースがよかったぜ。西部劇みたいなさ!」
「文句言うな。来るぞ!」
 CABOOM! 光ロージーと共にグランドロンが地面に激突! 唯奈は即座に馬の背を蹴り、ターゲットを真下に捉える。跳ね上がる撃鉄、BLAMBLAMBLAM!
「オラオラオラオラオラァッ! 踊りやがれッ!」
 壁や電柱を足場に銃弾が方向転換。全方位にばらまいた弾丸は跳弾と化してグランドロンを囲む。光に取りつかれたグランドロンは危険を察知、コマめいて横に回転! 硬質な音を立て粒子と弾丸を振り払う。
「まだまだですっ!」
 空中で光が収束。復活したロージーは全身の火器を同時展開、一斉掃射! CRAT-TOOOOM!
 商店街を飲み込む飽和爆撃。炎上の中心にいるであろう敵に、ウィゼは宙を蹴って接近。植物を伸ばし、ワイヤーアクションめいて飛ぶ!
「あたしたちとて、ぬるい覚悟で来てはおらぬ。守るべきものを持つ力、見せてやろうぞ!」
 勢いをつけ、植物から手を離す。出現したスライムを斧に変え、ウィゼもまたコマめいて回転。爆炎に飛び込むドワーフのサイクロン。応えるように、グランドロンが炎を貫き走り出す! 黒い刃と地獄車が正面衝突。その下を潜りミントは銃を引き抜いた。
「もう皆さんが言ってますが……決死の覚悟とその執念、尊敬に値しますよ」
 しのぎを削るトゲと斧。ぱらぱら落ちる欠片を浴びつつ、雄叫びを上げるホイールソーに狙いを定める。
「しかしこちらとて必死。ご自慢の武器は破壊させてもらいます」
 BLAM! 吠える銃口、さらに響くひづめの音。迫る気配にグランドロンはノコギリをうならせ横回転。削られた斧を破壊し、銃弾を弾く。ダメージはある。だがまだ浅い! 再度斧を解除し殴りかかるウィゼ。反対側では唯奈がユニコーンから飛び降りる。
「くたばれボール野郎ッ!」
「こわっぱ共が! 調子に乗るなッ!」
 着地と同時に縦回転するグランドロン。ウィゼの拳を避け、高速後退……否、唯奈に突撃! 追いすがる地割れを引き離す。
「唯奈さんッ!」
「ハッ、来てみやがれってん……っ!?」
 二丁拳銃の引き金を引く手が凍る。弾は出ない。不発!
「ウッソだろ……がはっ!」
「かまぼこ、急いで!」
 クラッシュ! 直撃を食らい吹き飛ぶ唯奈に、子猫のかまぼこが急ぐ。カリーナも癒しの歌を口ずさもうと試みるが、急カーブしたグランドロンが地割れを避けるついでに彼女の足場たる店を破壊。カリーナは慌てて飛び退くも隣の店も崩落。さらにその隣も崩落!
「わっ……」
「カリーナおねえ、危ないのじゃ!」
 ガラガラ崩れる家屋へ、かばいに走るウィゼ。だがすぐそばの家屋を破壊しグランドロンがクラッシュ。八郎太は氷の螺旋を放ち大破寸前の建物全てを氷像に変えて崩落を防ぐ。
「油断も隙もないな。柊夜、向こうは頼むよ」
「わかったッ! ロージーさん、注意逸らしてくれ!」
「はいっ!」
 駆けるユニコーンを追い越し、再び光と化したロージーが特攻。グランドロンはさっきのおかえしとばかりに身をひるがえし、真っ向から迎え撃つ。弾ける閃光を置き去りにユニコーンは屋根を飛び降りウィゼのそばに着地。素早く回収! その背後ではロージーが弾かれた!
「二度も同じ手を食うてかッ!」
「ぐふっ!?」
 ギャルルルルル! 恐るべき咆哮が猛る! 加速し、追撃を狙う彼を大きな地鳴りが震わせた。
「数多の力、今ここに」
 氷像爆砕! 荒々しく叫び現れたのは、全身に禍々しい紋様を浮かべた巨大な龍! 鼻先には、浅黒い肌に邪悪なアザを浮かべた眞白が立つ。
「鬼神降臨、血肉と化せ荒神の魂!」
 額から伸びる二本角、鋭く尖る犬歯を光らせ、跳躍。脈動するガントレットを振り上げる! 鎌首をもたげた龍は大口を開け、どす黒いブレスを吐いた!
「ぐおおおおおッ! なんの、これしきィッ!」
 地獄めいた黒炎の中、グランドロンはコマめいて回転。立ち上る炎、黒い竜巻の中心に、小柄な鬼が身を投げる。頭を下向け、空を蹴った!
「拳魂一擲ッ!」
「ぐおっ……!」
 一瞬にして落下した拳が硬い甲殻を捉える。度重なる攻撃で傷ついた鎧に、クモの巣状のヒビ。地面が潰れ、トゲがガントレットを貫通、指に刺さるが、眞白は痛みを無視してさらに押し込む。弾け飛ぶ黒炎のうず!
「唯奈さん、無事ですか」
「無事なわけねえだろチクショウ。くそ、痛ってぇ……」
 ミントが手にした小瓶から、不思議な香りがあふれだす。ざっくり裂けた肌を、子猫の風が癒していく。銃を片手に、ミントは唯奈を助け起こした。
「行けますか?」
「たりめーだ。むしろ……」
 飴に歯を立て、噛み砕く。残った棒を吐き捨て、唯奈は再び銃を構えた。
「面白くなってきたってんだよッ!」
「わかりました。では行きましょう」
 三丁の銃が、へこんだ地面の一点を狙う。グランドロンは眞白の圧力に抵抗し、動けない。
「珍しくちゃんとチェックしたんだ。頼むぜブラザーッ!」
 BLAMBLAMBLAM! 絶え間なく銃声が響く。元の姿に戻った眞白は拳を引き抜き退避。解放されたグランドロンは次の攻撃を防御すべくコマめいて回る。はじき返される銃弾の数々、だがそれらは宙で不可思議な動きで軌道変更。食らいつく!
「なんだとッ!? なぜ離れない!」
 回転の中から、初めて動揺の声が上がる。何度弾いても戻ってくる弾丸の嵐。そこに柊夜は足を踏み入れオーラをまとう。
「その身に受けろ、地を這う烈風ッ!」
 駿馬がいななき、溶けて崩れた。地を這う青い旋風が悲鳴めいて叫ぶホイールソーにからみつく。足を狩るように連続して投げられるオーラは、さざ波となって動きを縛る。そして。
「よし……ここだ」
 一閃! 一条の光が台風の目を突き抜けた。ホイールソーを足場に、刃を突き立てるのは電光をまとった八郎太! ボロボロになった装甲に半ばまで埋まる刀。
「ぐおっ、ぐわぁぁぁぁッ!」
「やっぱりそうか。回っているからわかりづらいけど、横回転中は真上からの攻撃は防げない。あともうひとつ」
 オーラに巻かれながらも、振り払おうと死力を絞るグランドロン。コートからのぞく八郎太の腕が、バチバチ鋭く電光を放つ。
「組みつかれたら、離せない。電磁抜刀!」
 放電。鋼鉄の体が雷を噴く。突き刺した刀を伝って流れる稲妻。蛇のウロコめいた柄を握り、八郎太は垂直に跳ぶ。仲間の離脱を見たロージーが、手持ちの火器を全て展開。カリーナの歌うブラッドスターをBGMに、グランドロンを狙い定める。荒波のごとくうねる柊夜のオーラ。
「殺すために進むのならば。僕らは救う為に剣を取ろう。……なに、退屈はさせないさ……『雷霆』ッ!」
「全弾、フル・バーストッ!」
 飛び交うミサイル、弾丸、レーザー。集中射撃がアスファルトを炎で包む。たちまち燃え上がる眼下に、限界までひねった腕がギロチンめいた雷撃を落とした。爆炎引き裂き、ミントが斬りこむ!
「そういえば、忘れていました。貴方のホイールソーと、私のチェーンソー。どちらが上か見せてあげます」
「ヌウウウウッ!」
 砕け散る大地を蹴って、加速するグランドロン。爆轟の中、振り下ろされたチェーンソー。ミントの背後へ抜けた二枚のホイールソーが、半ばから切断されてガレキに刺さる。限界を迎えたトゲたちも、耐えかねたようにへし折れた。
「な……馬鹿なァァァァッ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。やっと効いたようじゃのう」
 ナマクラになったホイールソーの刃を見、ウィゼは尊大に笑う。一合斬り結び、粉々にされたスライムの斧。その破片が、刃とトゲを削っていたのだ。
「おのれッ! おのれおのれおのれッ! たかがわっぱが……こわっぱがッ! 邪魔をするなアアアアアアッ!」
 BASH! 残ったホイールソー、削れたトゲを全てパージ! 装甲すらも崩壊寸前、だがその闘志は衰えず。欠片をこぼしながらも回転! 最大の力で突撃を敢行! 半壊したガントレットでそれを受け止める眞白。血が噴き出す手に、カリーナは力いっぱいのオーラを注ぐ。回転止まらぬグランドロンに、大地を砕く拳が刺さった。バキリと音を立て、吹き飛ぶ球体。はがれた甲殻が落ちるとともに、丸くなった体が開いた。
「……言い残すことは、ありますか」
 油断なく武器を構え、ロージーは硬い声で問う。上向けた腹と八本足を震わせて、グランドロンはうめくように笑った。
「ググ、ググ……これで、終わりではない。この身捧げて打ち取ったモノは、必ずや、我らが神の力となろうぞ……まだ何も、終わってなど、いないのだ。貴様らは、死ぬさだめ……」
「そうかよ。けど悪いな。まだ俺たち、死ぬ気はねえから」
 BLAM! 銃声が空を割る。重力を込めた弾丸は、節くれた腹の中央に当たり、戦士の体を四散せしめた。

●拈華微笑
「はい、これで手当てはお終いです」
「うむ……柊夜おにい、かたじけないのじゃ」
 手早く処置を終えた柊夜が、ウィゼに肩を貸しつつ立ち上がる。
 Boom……破裂音が、こだまめいて聞こえてくる。一足先にヒールを始めたカリーナのものだ。辺りはほぼ焦土になり、まるで怪獣映画のエピローグのようだった。
 壊れに壊れた通りに、番犬たちは一点を見下ろす。グランドロンが消えたそこに、唯奈は握った空薬莢を置く。
「お墓、ちょっと小さいかな」
「大丈夫だと思います。大きくしたら、怒られそうですし」
 小瓶の栓を抜きながら、ミント。ふわりと香る青薔薇の匂い。漂う神秘的な香りに包まれ、誰からともなく目を閉じる。母星のために命を燃やした戦士への弔い。無言の敬意がそこにはあった。
 そうして数分の時が過ぎ、カリーナがひょっこりと顔を出す。
「あのあの、そろそろ手伝ってほしいの。カリーナとかまぼこだけじゃ大変なの」
「おっとそうだ。今回は敵も味方も少々派手にやっちゃったからねえ……」
「あ、私お手伝いします!」
「僕は遺体の回収に」
「じゃあ、私は避難した人呼んでくる。また後でね」
 弔いを終え、それぞれ持ち場に散っていく。カリーナは、残る八郎太を呼んだ。
「八郎太君?」
「……命令通り動く機械と、妄信する存在。違いなんて分かったもんじゃない。僅かばかりでも。彼が自分の意思でここに居たならいいんだが」
 首を傾げるカリーナに、八郎太はハットを目深にかぶり直す。
「……いや。やはり、太陽神アポロンは捨て置けない存在だと思ってね」
「ふうん……?」
 夕日は既に落ちかかり、空は藍に染まり始める。
 ぬるい夏のそよ風が、空薬莢を小さく揺らした。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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