黙示録騎蝗～跳躍のスパイラル

■リプレイ

●虐殺の不退転
　ヘリオンから降り立ち、現場へと急ぐケルベロス達。全員が女性メンバーのチームである。
「アポロンが動き始めましたか……」
「アポロだかポアロだか知らないが、はた迷惑なやつだな」
　イリス・フルーリア（銀天の剣・e09423）の呟きに、ラーヴル・アルージエ（燭を秉りて夜遊ぶ・e03697）が本音を漏らす。一度引っ込んだのなら、そのままフェードアウトしてくれればいいのに、と。
　とはいえ、ローカストもなりふり構ってはいられない状況ではあるのだろう。
「ローカストの必死さが伝わってきますが、必死なのは此方も同様。一歩も引く気はありません」
「人々の平和な生活を乱すことを許さないにゃ」
　レクシア・クーン（ふわり舞う姫紫君子蘭・e00448）は、人々も仲間も守ると意気込みを見せる。ここは自身の力を発揮する場面と、志穂崎・藍（ウェアライダーの降魔拳士・e11953）もやる気を見せていた。
「絶対に、彼の作戦を阻止しなくてはなりません！」
　イリスもそうして、自らと仲間を奮い立たせる。地球の人々の為、そして……誇りある戦いを望む、不退転侵略部隊の為にも。

　鳥取の街に現れた、バッタの様な姿のローカスト。
　そいつは高く跳躍し、逃げる人々に刃と化した腕を突き入れる。それによって、一般人は倒れてしまう。……夥しい量の血を流して。
　そこへ駆けつけてきたケルベロス達。ニーナ・トゥリナーツァチ（幽愁暗恨に呑まれて・e01156）は遠目にそのローカストの魂を視る。
「操られたあの魂、とっても鈍い色をしているわ」
　その枷……アポロンから解放しないと。そうニーナは考える。
「待ちなさい！」
　声を荒げるイリス。それで敵の動きが止まったのを見計らい、レクシア、藍、妻良・賢穂（自称主婦・e04869）が体を割り込ませる用にして、ローカストと一般人の間に入っていく。
「不退転侵略部隊の一員、跳躍のスパイラル殿とお見受け致す」
　振り返るローカストは、瞳を爛々と輝かせる。
「主婦のケルベロス、妻良・賢穂と申しますわ」
「ボクは志穂崎藍。ケルベロスの末席なれど、一手ご指南をお願いしたい」
　賢穂は正々堂々とした態度で名乗りを上げ、藍はやや挑発的な眼差しを向け、『跳躍』に決着を申し込む。
　一般人を守るべく、敵の気を引くメンバー達だったが、残念ながら、足元に倒れる人々は紅く染まっていて……。見ただけでもう助からないと分かってしまう。
「貴方、弱い人を狙うなんて、不退転の名に恥じた行為をするのね」
　ニーナは感慨を入れることなく、淡々と語る。だが、ほとんどのケルベロス達は唇を噛み締め、ローカストへと呼びかける。
「不退転部隊の面子やな。うちは、ケルベロスの八蘇上瀬理や」
　八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）も敵に正面きって相対し、自らの名を語る。
「あんたに守りたい同胞がおるように、うちにも守りたい家族と仲間がおる。あんたも戦士なら、後は、分かるやろ……？」
　一通り自らの主張を行った彼女は、ぐっと敵に拳を突きつける。
「貴方に使命がある様に、私達にも人々を護る使命があります」
　レクシアも呼びかける。仲間達が次々に呼びかけを続ける中、誰１人として攻撃を仕掛ける事はしない。これも、敵の虐殺の手を止める為だ。
「どうしても無抵抗の人々を一方的に手に掛けたいというのなら、私達を倒してからにして頂きます」
「不退転とは戦場で引かない事。なら、戦場で相手をしないといけないのは私達よ？」
　レクシアに続き、ニーナもまた相手の魂へと直接訴えるように呼びかけを続ける。
「私達も不退転なのよ。だから、互いの魂の誇りを掛けて、戦いましょう？」
　しかし、スパイラルに前向きな反応が見られず、藍が敢えて挑発を試みる。
「まさか、跳躍のスパイラル殿がケルベロス怖さに怖気づくなんてことはないであろうな」
「貴様らに何がわかる……！」
　バッタのような顔からは表情が読み取りづらいが、様々な感情が入り混じり、表情を歪めていることだけは分かった。
（「なんか悲壮感漂ってる感じなんだけど、一方的に搾取されてあげる義理はないんだよね」）
　ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）はそのやりとりを黙って聞いていたが、敢えて話の流れを変えようと言い放つ。
「先に、私達の相手してもらうよ」
　ロベリアを含め、こちらのメンバー達は仕掛けこそしないが、構えだけは崩さず言葉を投げかけ続ける。
「僕の名はラーヴル・アルージエ。死ぬまで戦おうという強い決意、覚悟、実に見事だ」
「貴方達の不退転の覚悟……、敵とはいえ尊敬します」
　同族の為に死ぬまで戦おうという気概。ラーヴル、イリスは敵ながらに敬意すら抱く。
「ですが……、貴方達が望むのは虐殺ではなく、誇りある戦いのはず！」
　イリスがそう指摘する。虐殺はあくまでも太陽神アポロンによるもの。スパイラルの本意ではないはずなのだ。
「……僕は、そんな君と、命尽きる瞬間まで殺し合いたい」
「武人なら、私達と正々堂々勝負しなさい！　跳躍のスパイラル！」
　ラーヴル、イリスの言葉に、跳躍はしばし思い悩んでいたようだ。
「貴方達は同族の為に自身の命を躊躇なく投げ打てる、誇り高き戦士ですわ……。この戦いで、わたくし達の記憶にも貴方の名が刻み込まれるでしょう」
　前に立ったまま、仲間達の説得の間を見て賢穂が伝え聞く黄金の不退転ローカストの顛末を語る。
　彼らは誇り高く戦い、自身の役割に殉じた。賢穂は直接その戦いに参加はしていなかったが、同じケルベロスには違いない。
「――仇討ち、それも十分な戦う理由になり得ますわ」
「いいだろう」
　メンバー達の主張を全て耳にしたスパイラルはケルベロスとの戦いを了承し、やや屈んだ耐性で刃となった両手をこちらへ突きつけてくる。
「自分らの大事な同胞の為にっちゅう気持ちは分からんでもない。なら、こっから先は互いの守るもんを賭けた真剣勝負や」
　瀬理は言葉を紡ぎ、仲間を庇う為に前へ進み出る。
「うちは、うちの大事なもんを守るだけや……！　奪わせへんで、絶対なぁ！」
　瀬理が叫ぶのと同時に、跳躍はその二つ名の通り、ばねとなった足を生かして高く跳躍していくのだった。

●誇り高き戦いを……！
　高く飛び上がった跳躍のスパイラル。そいつは刃を下に向けて落下してくる。
「銀天剣、イリス・フルーリア――参りますッ！！」
　そこで、イリスは名乗りを上げて仕掛けていく。
　盾役のカバーよりも速く動いた敵は、イリスに狙いを定めて落下する。スパイラルの狙いは脳天へと一撃必中。
　だが、イリスもそれだけではやられぬと身を反らす。
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ！　銀天剣・零の斬！！」
　敵の刃を左肩に受けながらも、彼女は全天から斬霊刀と翼に光を集め、その刀で地に降り立ったスパイラルを薙ぎ払う。
　その一太刀で時間を停止させられた敵。イリスはそいつ目がけ、翼より数十本の光の剣が発射され、同時に超高速斬撃を叩き込んでいく。
　後方で飛び回りつつ、敵を翻弄し始める藍。
「跳躍力なら、ボクも負けてないにゃ」
　先ほどのスパイラルのようにただ一直線に跳ぶのではなく、彼女は宙で複雑な跳躍軌道を描いていた。その上で藍は距離を取りつつ、魔力を込めた咆哮を放つ。
　光の剣による痺れと、咆哮による足止めを受けたスパイラルへ、瀬理が叫びかける。
「なりふり構わん略奪にさえ走らんかったら、分かり合う道もあったかも知れへんのにな！」
　周囲には、物言わぬ躯となった人々が横たわる。そう至らしめた跳躍のスパイラルを絶対に許すわけにはいかない。
「この場で潰すで！　グゥルァァアアアアッッッ！！！！」
　それは、ウェアライダーである彼女の、猛虎の咆哮。瀬理のものは相手の肉体ではなく精神へと働きかけ、強い危機感を抱かせた。
「追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ」
　ただ、敵に躊躇する間などはない。地獄の翼をはためかせるレクシアが詠唱を始めていたのだ。彼女の周囲に、蒼く小さな地獄の炎弾が浮かび上がる。
「彼の者を喰らい、縛れ――迦楼羅の炎」
　それらはレクシアの合図で一斉に放たれ、命中した箇所からスパイラルの生命力を奪い取っていく。炎弾はそのまま敵の新たな枷となっていたようだ。
　仲間が足止めする不退転の敵。ラーヴルは正面から切り込んでいく。
「宣言通り、殺し合いをしようじゃないか」
　唸らせたチェーンソー剣で彼女は強化されたローカストの体をも切り裂き、装甲を砕いていく。
「さすがは、ケルベロス……」
　攻撃に耐えていたスパイラルも、足のばねを使って再び跳躍する。ケルベロス達の攻撃を幾度も受けてなお、その跳躍力は変わらない。
「だが、この跳躍のスパイラル、たやすく倒せると思うな……！」
　敵は足を伸ばし、勢いをつけて瀬理へと落下し、ばねの足で蹴りかかって来た。ばねは衝撃を吸収しそうなものだが、そこはグラビティ・チェインを働かせているのだろう。鮮烈なる蹴りで瀬理の体が吹き飛んでしまう。
　まだまだ捕縛や足止めが足らないと判断した賢穂。彼女は半透明の御業を降ろして敵に向かわせる。そして、大きな隙ができる着地の瞬間を狙い、御業の力でスパイラルの体を鷲掴みにしてしまう。
　さらに、ニーナが鎌を振るうのを合図とし、具現化した黒い太陽。その光はまるで黒い死神のように舞い降り、不退転の体を覆っていく。絶望の黒光。それを浴びたスパイラルをさらなる枷が苛む。
「やはり、こうでなくてはな……」
　ぼそりと呟いたスパイラル。口元が吊り上っているようにも見えたが、彼なりにこの戦いを楽しんでいるのかもしれない。戦うケルベロスはグラビティを繰り出しながらそう感じたのだった。

●不退転の行く末は……
　戦場を跳躍するローカスト、スパイラル。
「高く跳ぶだけだと思うな……」
　そいつは敢えて高度を抑えて縦横無尽に跳び回り、ケルベロス達を薙ぎ払ってきた。
　それを主に、前衛メンバーが抑える。
　ロベリアのビハインドも前に出て、スパイラルを抑えてくれる。彼女の名はイリス。同じ名の２人が前列に並び立ち、戦う形だ。
　レクシアもまた敵の攻撃を抑えていた。本来、高機動戦を好む戦闘スタイルの彼女。だが、今回はディフェンダーとして、敢えてその攻撃を受け止める。
　不退転の者達には、並々ならぬ決意があるはずだ。ケルベロスにとって、彼らは悪でしかない。犠牲者だって出てしまっているのだ。
　それでも、彼らの立場を考えれば、頭ごなしに否定することもできない。レクシアはそう考える。
「貴方の使命と信念、受け止めた上で……断たせて頂きます」
　敵の刃を浴びたレクシアは、地獄の翼で舞い上がり、重力を宿したエアシューズでの一撃を叩き付けていく。
　蹴りを受けたスパイラルはその場から跳びすさって、体勢を整え直していた。
　１対１での戦いなら、負けていた可能性も高い。実際、相手は８人がかりでもこちらを苦しめる攻撃を繰り出してくるのだ。
　しかしながら、ケルベロス達は敵の動きを想定し、その足止めを行ってこちらの攻撃から逃げられぬようにと攻め入る。
　藍も負けじと高速で飛び回る。彼女は白猫のウェアライダー。猫だって跳躍して獲物を狙う。
「呪われし槍よ、敵を射殺せ」
　瞳を輝かせた藍。視線は槍となって跳躍の名の敵を射抜いていく。それだけではない。呪われた視線による傷口は肉体を侵食し、溶かしてしまう。
「ほら、どうしたのにゃ」
　くすりと笑い、藍は敵を挑発してみせる。
　しかしながら、敵はそれ以上に怒りを抱かせた瀬理を執拗に狙う。足のばねを生かして小刻みに飛び回り、幾度も瀬理の体を刻んでいく。
　その攻撃はかなり痛いが、盾に徹する彼女は耐えつつ、ケルベロスのイリスへとエネルギー光球を飛ばして力を高め、さらにオウガ粒子を飛ばし、ラーヴルや賢穂に感覚を覚醒させていた。
　傷つく瀬理には、ロベリアが積極的に癒しへと当たる。全力で光の盾を展開し、さらに気力で傷口を塞ぐ。自身の力不足で味方が倒れるとあってはならないと彼女は全力で仕事に当たっていた。

　敵は１体だけ。だが、かなりのタフさを持つ。元々強力な力を持っていたローカストだが、それ以上に彼らの決意が力を高めているのかもしれない。
　イリスはエネルギーを受けて力を高めながらも、斬撃や突きを使って攻め込み続ける。
「これならどうです！？」
　緩やかな弧を描き、イリスは敵を切り裂く。狙いは、敵の攻撃の要ともなる足のばねだ。
　さらに、賢穂がマインドリングから生み出す武器を力の限り叩きつける。大地すら割るほどの威力を持った一撃に、スパイラルの足がついにもつれた。
「いい加減に鬱陶しいよ」
　ケルベロスチェインを伸ばし、ロベリアが敵の体を縛り付ける。
　そこで、ニーナが敵の死角から近づき、鎌を振り下ろす。まるで影のような斬撃をスパイラルは見切ることができず、腕の刃に、足のばねに、亀裂が走っていく。
「――その首、僕が頂こう。散華閃光流の妙技、とくと味わうがいい」
　正面から近づくラーヴル。彼女は動きが鈍った敵へ、嬉しそうな笑みすら浮かべて飛びかかる。
「椿のように潔く死ね」
　まるで花ごと落ちてしまう椿のように。ラーヴルは居合いによって敵の首を斬り落とす。
　確実な手応え。満足のいく感触に彼女は満面の笑みをたたえる。
「見事、だ……」
　スパイラルはそうして、崩れ去っていく。そいつの魂をニーナが刈り取り、口にした。
「……ん、なんかとっても不思議な味ね」
　一体、どんな感触を覚えたのか。ニーナはご馳走様とその遺体に向けて言葉を投げかけていた。

●撃破はすれど……
　ローカストの命が散った後、ケルベロス達は人々の救護に当たる。レクシアはなんとしても助けようと気力を撃ち出すのだが。その人に温かみは戻らない。
　スパイラルの刃を受けた一般人は６人。その全てが息を引き取っていた。
「無理だって分かってるけど、犠牲者なんて出したくなかったな……」
　ロベリアはその死体から目を反らすことなく口にする。しかし、他の不退転部隊は街を襲っているはず。まして、地球に現れる敵はローカストだけですらないのだ。
　この犠牲を胸に刻みつつも、ロベリアは気持ちを切り替える。ケルベロス達は新たなる戦いに踏み出していくのだった……。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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