深夜――雨が降り始めていた。しとしとと濡れる岩場に、集う一群は――ローカストの敗残兵。
ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカスト達だ。
今や、彼らは黙示録騎蝗の尖兵。今後の戦いの為に必要な大量のグラビティ・チェインの獲得を命じられている。
――それぞれ単騎で人間の町に攻め入り、多くの人間を殺せ。可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げよ。
下された命令は、生還を前提としない、決死の作戦であった。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
雨夜の静寂に、不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーの声が響き渡る。その応えは隊員全員、声を揃えて――否っ!
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
意気軒高な不退転ローカスト達に、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
ヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と動き始める。
ある者は東へ、或いは西へ、南へ――不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。
「皆さん、ローカスト・ウォーの参戦、お疲れ様でした。デウスエクスのゲート破壊という歴史的瞬間に立ち会えた事は、私も感動を禁じえませんでした」
相変わらずの堅苦しい口調、表情で、集まったケルベロス達を見回す都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)。
「……ですが、ローカストのカリスマとも言える太陽神アポロンが健在の為、『黙示録騎蝗』は継続状態に在ります」
ケルベロスと刃交える事無く撤退した太陽神アポロンは、すぐさま、ローカストの軍勢を動かそうとしている。
「最初に動き出したのは、ヴェスヴァネット・レイダー率いる『不退転侵略部隊』です」
太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為、大量のグラビティ・チェインを必要としている。不退転侵略部隊を、グラビティ・チェイン収集の捨て駒として使い捨てようとしているようだ。
「不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃、ケルベロスに殺される直前まで人間を虐殺し続けようとします」
仮に予知にあった場所の住民を避難させれば、他の場所が狙われる。被害を完全に抑える事は不可能だ。
「ですが、不退転侵略部隊が虐殺を行うのは、太陽神アポロンの命令に因るもので、決して彼らの本意ではありません。不退転侵略部隊のローカストに正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いを求め、説得する事が出来れば……彼らは人間の虐殺ではなく、ケルベロスと戦う事を選択してくれるでしょう」
不退転部隊のローカストは、その名の通り、絶対に降伏する事は無く、死ぬ直前まで戦い続け、逃走する事も無いだろう。
創がタブレット画面に映し出した地図は――岡山県倉敷市。大阪市に次ぐ西日本を代表する工業都市である一方、倉敷川沿いの白壁の町並みは「美観地区」として有名な観光地だ。
「不退転侵略部隊のローカストは『美観地区』の観光客を狙って現れます。その姿は……薄型スピーカーを翅にした巨大鈴虫、といえば良いでしょうか」
薄翅スピーカーから様々な音波を発して、攻撃するようだ。
「大音量で敵群を圧倒する『プレッシャーノイズ』、指向性音波を発して敵単体に継続的ダメージを齎す『ポイズンウィスパー』、そして、音波を収束して敵単体に大ダメージを与える『ソニックブレイド』です」
不退転侵略部隊は、戦闘能力を向上させる強化手術を受けている為、昆虫がメカニカルに改造されている外見の者が多い。
「薄翅スピーカーの鈴虫は『エコーズ』と呼称されています。見た目はメカニック昆虫ですので判然としませんが……恐らくは男性体でしょう」
創の表情は心なしか険しい。先手を打たれたが故に、被害無くして不退転ローカストを討ち果たす事は、ヘリオンの演算を以てしても不可能となってしまった――それが心苦しいのだろう。
だが、その被害を軽微に抑える事は、まだ可能だ。ケルベロス・ウォーを支援してくれた、多くの一般人を守る為には、今、戦うしかない。
「既に覚悟完了の敵との戦いです。激戦となると思いますが……何としても、ケルベロスの皆さんの手で、彼らに敗北と死を。皆さんの武運をお祈り致します」
参加者 | |
---|---|
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
岬・よう子(金緑の一振り・e00096) |
ル・デモリシア(占術機・e02052) |
レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206) |
餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298) |
林・瑞蘭(彩虹の戰巫女・e15365) |
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414) |
鍔鳴・奏(モフリスト・e25076) |
●正々堂々
岡山県倉敷市――白昼堂々、美観地区に響き渡った雑音は、忽ち観光客を混乱の渦に叩き落す。
「……」
災禍の爆心に在る季節外れの鈴虫は、殺戮の音波を黙々と撒く。悲鳴にも怒号にも、命乞いの叫びにも反応せず、今しも音の斬撃で1人を血の海に沈めたその時。
「我らはケルベロス! 誇り高きレギオンレイドの戦士よ、貴方と正々堂々と戦いに参った!」
メガホンを構える鍔鳴・奏(モフリスト・e25076)は、肩で息していた。
叶うなら、ヘリオン降下の最中から声を掛けたかったが、降下地点は精密に定められる訳ではない。拡声器を携えたとして降下の風圧に負けぬ発声は厳しく、割り込みヴォイスは「本人の声量以上の範囲」には届かない。
やむを得ず、もどかしさを堪えて災禍の中心へ駆け寄った。息を整える暇も惜しんで光の翼を広げ、朗々とした叫びは今度こそ虫影へ届く。
「今、貴方が行おうとしているのは、貴方の本意か? 違うのであれば、この決闘に応じ願いたい!」
「敵と知り、唯々諾々と頷く痴れものと思われたか。侮られたものだな」
背に負う薄型スピーカーから響くローカストの声は、男性的ながら涼やかだった。次々と駆け付けるケルベロス達を、複眼が冷ややかに睥睨する。
「決闘と称するなら、1対1で為すが筋であろう」
「人数差は人間と神との闘い故当然である」
渦巻く雑音に呑まれ、又1人崩れ落ちる――殺戮の音波を割くように、凜と言い放つ岬・よう子(金緑の一振り・e00096)。数の不公平は最初から承知の上。だが、ケルベロス単身で太刀打ち出来ぬのも、歯痒いながらよく判っている。
「我輩は剣士、岬よう子。地球の為の一振りの剣也」
だからこそ、外道相手なら語るべくもない所を名乗り上げる。彼方が神であるが故に敬い、此方が人間であるが故に殺す――それが、よう子なりの敬意。
「不退転の一柱と見受ける。我らこの身の重力を以て貴殿らの目論見を縛さんとす。どちらが進むか、決闘にて議したく候」
敢えて、揶揄された『決闘』の二文字を改めて使った。
「私は林瑞蘭、ここに集う者と同じく冥府の番犬。異星の勇者よ、地球を新たな故郷とするなら、先ず番犬たる我らを滅ぼしてこそ戦士の誉れだろう」
声は掛けども、決裂と知るまで攻撃はしない。いつでも動ける体勢で、成り行きを注視する林・瑞蘭(彩虹の戰巫女・e15365)。
(「たとえ皆を救えなくとも……せめて1人でも犠牲を減らす」)
「危ないから、皆逃げて」
一方、声を張る仲間を遠目に、レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)はラブフェロモンを振り撒き、観光客らに避難を促している。
「貴方が欲しているのは虐殺では無く、誇り高い戦士として戦いの筈だ!」
尤も、敵の武器が『音』ならば、間に割り込んだ所で容易くその命を刈ろう。ケルベロスに注意を向けようと、奏は尚も呼び掛ける。
「自分は鍔鳴奏。貴方の名前を教えて頂きたい」
眼前のローカストの名は、既にヘリオンの演算から知れている。だが、互いに名乗る、これも礼儀に則るならば。
「……エコーズ」
暫時の沈黙を経て、静かな応え。藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は、思わず溜息を吐く。問いに答えられた、そこに説得の余地を信じて。
「ご機嫌よう、エコーズさん。死をも恐れぬ決意、まさに不退転の言葉に相応しい。捨て駒として散らねばならぬならば、最期は華々しく一切の悔いも残さぬ侭に散った方が良いでしょう?」
「捨て駒、な……先刻から、我が意を見通したかのような口ぶりだ」
「弱者を一方的に虐殺するような戦いではなく、その命を誇りある戦いで使いませんか?」
けして気取られてはならぬ、情報源。不審が深まる前に、餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)が畳み掛ける。
「我々は貴方との真剣勝負を望みます。実力勝負を仕掛けてきたローカストの指揮官メガルムのように」
「メガルム殿、だと……」
名を呼んだ声が、険を帯びたのを聞き取った。確かに、彼ら不退転侵略部隊はヘルクレスト・メガルムの最期を知りたがっていた。だが、思わせぶりな言葉に、撒き餌で意を通そうとしたと判じたか。
「重ねて問う。戦う術持たぬ者をただ殺すだけが、大義の為命を捨てた不退転侵略部隊の最期であってよいのか」
徐に動く薄翅スピーカーに剣呑を察し、瑞蘭は急ぎ口を挟む。
「相手ならボク達がなるよ! お互いに誇りをかけた戦いをしよう。だから、今はこれ以上、一般の人達を巻き込まないで」
既に犠牲者は出てしまった。本当は僅かだって許せない。これ以上、虐殺なんてさせない――その一心で、シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は華奢な外見に違う声を張る。
「民から奪うならば、先ず我輩から奪え」
敢えて自らの斬霊刀を手放し、エコーズの前に立つよう子。
――――!
次の瞬間、音速の刃が金髪を幾筋か切り払う。それでも揺ぎ無い剣士の翠の眼差しを、エコーズの複眼が真っ向から見返す。
「……良かろう。盾ならんとするその意気に敬意を払おう」
(「ほんに不器用じゃな。じゃが、そういうのは妾、嫌いではないぞ?」)
一先ず虐殺は避けられた模様。フ、と唇を緩めるル・デモリシア(占術機・e02052)。
「やぁやぁ、我こそは地獄も恐れぬケルベロスなりィ。腕に覚えしデウスエクスはかかって参れィ!」
「……何、それ?」
「ぬ? 大昔の地球人の戦い前の儀式みたいなもんじゃ」
一般人の避難に区切りを付け、皆と合流したレナードの不思議そうな面持ちに、ルは悠然と説明する。
「ふーん……オレ、レナード。サキュバスで、22歳」
小首を傾げ、エコーズに向き直ったレナードは、訥々と自己紹介。
「名乗りってこれでいいか? これで正面から戦えっていいのか?」
「……不退転侵略部隊が壱、エコーズ、参る」
応えは静かな名乗り。ゆらりと動いた薄翅スピーカーは、遠巻きの観光客でなく、身構えるケルベロスらに向けられた。
●白昼の決闘
「なぁに、御心配なく。デウスエクスに遅れは取りませんよ」
流れるような挙措で、サークリットチェインを繰り出す。心配そうな遠巻きの視線に、景臣は穏やかに笑んで見せた。一転、眼鏡を外した紫の双眸は、刹那好戦的に煌く。
――――!!
「っ!」
だが、耳をつんざく大音量に、前衛の面々は思わずたたらを踏んだ。
「不退転侵略部隊エコーズ、お相手願いましょう」
ガキィッ!
繰り出されたラギッドのデストロイブレイドは、絶妙のタイミングのソニックブレイドに軌道を逸らされ、大地を抉る。
「見惚れちまったら命はねぇぜ……って言いたい所だけど」
指先の動きひとつ、視線ひとつ、言葉のひとひら。それら全てに込められたサキュバスの魔性も同じく、機械鈴虫の意を絡め取るに至らない。
微かに頭を振るレナード。常ならば、首魁相手でも早々外れぬ得意技だ。だが、脳内を掻き乱す雑音に惑い、目測を誤った。
前衛を圧倒するプレッシャーを見て取り、瑞蘭は紙兵を撒く。
「ふむ、お主は妾が見る運命予測を越える者かや?」
紙兵の霊力を感じながら、いっそ挑発めいて呟く。ルの両腕より迸るケルベロスチェインが虫影を捕えんと――だが金と黒の縛鎖を、ローカストは的確にかわす。
「むぅ……」
メディックたる瑞蘭の紙兵散布をして、厄が掃いきれぬとなれば、敵のポジションは唯1つ。
(「ジャマーか」)
微かに眉を顰めるよう子。ジャマーの厄をかわすならば、ジャマーのキュアを充てるのが1番手っ取り早いが、よう子はヒールを活性化していない。
それでも、凛とした眼差しは、鋭くローカストを見据える。
「決闘とは全力を尽くす事。今日の全力は、貴殿を絡めとることだ」
殊更、敏捷に秀でるよう子は、歴戦の実力を以て御先の旗印を確りと掲げる。華やかなる振舞いは、敵の目を奪う。ジャマーならその効果は……だが、範囲の技で単身に厄を齎すのは些か分が悪い。
「くそ! 俺の前でノイズを撒き散らせやがって!」
ボクスドラゴンのモラに前衛へ属性インストールさせながら、思わず怒る奏。ミュージックファイターとして、悪意ある音は許せない。スピーカー象る薄翅をぶち破りたい所だが、眼力を以て知れる命中率――見通せる利は多けれど、容赦ない現実も突き付けられる。単純に当てるならまだしも、部位狙いはよくよく狙っても厳しいだろう。
故に、奏は全身から光輝くオウガ粒子を放出する。超感覚を覚醒させ、前衛の刃が一刻も早くローカストを穿つように。
(「アタッカーの攻撃を当たりやすくするためにも!」)
薄紅の二対の翼が広がる。金髪に綻ぶ花は勿忘草――大きく縛霊手を振り被るシエラシセロ。一気にエコーズへ肉薄し、強かに殴り付けた瞬間、網状の霊力が虫躯を縛する。
白昼の決闘は威風堂々。美しき川沿いに、お互い一歩も退かぬ立ち回りを繰り広げる。
(「単身不退転で挑むしかないとは。同情せざるを得ませんがね」)
内心は欠片も見せず、地獄の炎弾を放つラギッド。ルのナパームミサイルが文字通りに火を噴く。一方で、シエラシセロは旋刃脚、奏はハートクエイクアローとパラライズ、催眠技を繰り出すが、強力な厄は中々発動しない。景臣とよう子の絶空斬が次々と閃くも、ジグザグが付加する厄はランダムだ。どの方向に厄を重ねていくか、ある程度厳選するべきだったか。
「お前にも見たくないモノはあるか?」
レナードの問いに、エコーズは答えない。薄翅スピーカーが後衛へ向けられるや、幾許かの囁きが直截、瑞蘭の精神を冒す。メディック故に接敵を避けた位置取りであったし、モラの属性インストールは引き続き前衛に掛けられたが、『音』は遠くまで届くもの。地力高いジャマーの継続ダメージは侮れぬ。無理せず気力を溜める瑞蘭。
「別に答えなくてもいい、けど、そいつを見てもらう」
その間に、放たれたレナードのトラウマボールが見せた悪夢はどんなものか。
与ダメージの程は、眼力でも量れない。敵の反応から効果的な攻撃を探るレナードだが、表情乏しいローカストからは窺い知れぬ。
それ以前に、まず攻撃が命中しなければ、分析も侭なら無い。
今回、1つの能力が突出して高い者が比較的多い。プレッシャーさえ被らなければ、格上相手にも善戦叶う技を出せるのは重畳だが、見切りが発生すれば無為となる。1つが突出すれば、他の要素に基づく技の命中率は相対的に下がる。戦況は全体的に「命中率50%」と言えた。
序盤はけして優勢と言えない。だが、手数が多彩こそ、多で狩るケルベロスの優位ならば。
●我、退かず
「あなたの相手は私です」
転機は、1度は相殺されたラギッドのデストロイブレイド。重厚無比の一撃は、単純故に敵の怒りを誘う。
その瞬間を逃さず、相次いで、グラビティがローカストに爆ぜた。
実を言えば、シエラシセロの捕縛技は足止め程、即効性は高くない。又、奏の使役修正は厄を積むのに些か分が悪い。
それでも、幾許かでも敵の動きを鈍らせた事で、ジャマーの本領を発揮出来たよう子と足止め技の相性の良さは幸いであった。
「恐るることはない、奢るることはない、戦場で共に踊ろう」
「世迷言を!」
「ほら、他を攻撃している暇はありませんよ?」
誇らかなよう子の言葉に忌々しげなエコーズだが、ラギッドの重撃が気を逸らすのを許さない。
「微力ながら、尽力させて頂きます……ね?」
ラギッドを抉らんとした音速の刃を、景臣が庇う。標的を強制する『怒り』は1度の付与でも頻度は高い。ディフェンダーが庇うならば尚の事、被ダメージを前衛に固定する事で、瑞蘭も回復に集中し易くなる。
そして、標的が分散しなければ、自己回復で火力が減じる事もない。レナードの血襖斬りが不退転の意気を啜り、ルのデスバイハンギングは今度こそ虫躯を捕えて何度も地に叩き付ける。手数の優位が一気に戦況を傾けていく――。
「……ッ!」
エコーズの薄翅スピーカーが、不自然に強張る。轟音の災禍が発せられなかった、今こそ好機。
「エコーズ! これで終わりだ!」
ボクスブレスを吐くモラと息を合わせ、奏の戦術超鋼拳がローカストの装甲を抉る。
「覚悟を」
サイコフォース――よう子の静かな言葉と共に、エコーズの体躯が爆ぜる。
「小さき意思とて侮ってはならぬぞ?」
居丈高な号令に従い、ルの背中のコンテナよりわらわら現れたルそっくりの自律型アンドロイドは、次々とエコーズに取り付き自爆していく。(ちなみにル本人は見てるだけ)
(「俺の最大のグラビティだ。お前の強さに敬意を持って放とう」)
ラギッドの全身より滲み出る地獄化した胃袋が、歯牙を剥き出しにして幾度も幾度も喰らい付く。
ぐ、ぎ、ぎぃぃ――。
全身を食い千切られ、初めて、スピーカー越しで無いエコーズの肉声が聞こえる。トドメを刺せたと思うのも束の間。辛うじて踏み止まる瀕死の呈に、レナードの降魔真拳が深々と抉り込まれて尚、膝を突くを良しとせぬ不退転の意志を見る。
「ふふ、熱いですねぇ。然し嫌いではありません」
微笑み浮かべたまま、流れるような挙措で弾速のナイフでエコーズの急所を断つ景臣。
(「……彼らは私達と同じだ」)
瑞蘭は実感する。仲間や故郷を思い、その為に命を捨てる事も躊躇わない――だからこそ、残らず殺さなければならない、と。
元凶の暗君ぶりに思う所はあろうとも、巫女の端くれとして、彼らの神をけして悪し様には言うまい。
「祖霊よ、我らに力を」
瑞蘭は只祈りを込めて、熾炎業炎砲を撃ち放つ。
「……っ」
炎に包まれたエコーズの向こうに、幾人もの倒れる人影を見る。
(「ごめんね……ごめん」)
また全てを護りきれなかった、忸怩たる思いを次の強さに変えるべく。
翼を震わせ響け、祈りの光響歌――シエラシセロの頭上に顕れる巨大なる光鳥。高く舞い上がるや、光の弾丸となってエコーズへ激突する。
――――!
風切る音は祈りの歌声の如く、舞い落ちる光羽は祝福の如く。幸祈の只中で、機械鈴虫は潰える。
「あーあ……、こういう戦いは苦手だなぁ」
こんなスピーカーがあれば、良いセッション出来るのに――ぼやく奏の前で、鈴虫の薄翅は硝子のように砕け散った。
語る言葉は総て『戦響』として――残響という名そのままに、ローカストは逝った。
だが、生き残ったケルベロスらは感慨に耽る前に身体を動かす。避難した観光客の様子を見に行くレナードと奏。大半は無事で、ラギッドは安堵する。
「せめて、どうか安らかに」
だが、救えなかった命には心が痛む。粛々と遺体を整える景臣。シエラシセロはルと建物のヒール、よう子と救護活動にと駆け回る。
喧騒の最中、瑞蘭は塵失せた跡を見下ろし、手向けを囁く。
「貴様が、虹の橋を渡れるかは知らぬが」
さらばだ、異星の戦士。貴様は紛う事なき不退転の勇者であった――。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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