黙示録騎蝗～亡き戦友と共に

■リプレイ

●戦士の誇りを見せてみろ！
「そこまでだ！」
「そこのローカスト！　ケルベロスが来てやったぜェ！」
　騒ぎをいち早く発見し、現場に駆けつけた立花・恵（カゼの如く・e01060）とククロイ・ファー（鋼鉄の襲撃者・e06955）は、不退転侵略部隊のローカストに対し声を張り上げる。
　そうしてデウスエクスの注意を引き付けると、周囲の一般人達に今の内に逃げるようにと促すのだった。
　ククロイによる割り込みヴォイスは、人混みで騒々しい中でも的確に声をローカストの元へ届けることができ。
　女性に間違われることが悩みである恵も、アルティメットフォームにより雄雄しき姿となったオウガメタルの銀色の輝きで、周囲の者にしっかりと『頼れる男』であると印象付けられた。
「ケルベロス……」
「ケルベロスだ……！」
　突然の殺戮者の出現にパニックになりかけた人々が、目に見えて落ち着いていく。
「なんだキサマら！　邪魔をしようというのか！？」
　振り向くローカストの周囲には、既に血に染まり、動かなくなったバス待ちの人が幾人か倒れている。
　間に合わなかったのか。
　助けられなかったという現実が、激情を誘う。
「俺達はケルベロス！
　地球に住む人々のため、地球を守るためにお前の前に立っている！！
　お前たちの覚悟は受け取った。だが、俺達も引くことは出来ない！
　……だからこそ、地球の存亡をかけて、俺達と戦え！」
「虐殺する為に右目を強化し、戦友の遺品を自分に移植したワケじゃねえだろう？
　あるはずだ……心の奥底で燃え上がる殺意や復讐心がァ！！
　俺達と戦おうぜ、ローカスト！　正々堂々ぶっ殺してやっからよォ！」
　恵とククロイの言葉に、全てを捨てて任務に当たっているはずのローカストの『戦士の魂』が疼きだしたらしい。
「っ……」
　だが、まだ理性の方が勝っているようだ。
　不退転部隊の兵は、思わず動きかけた右腕を、もう一方の手で押し止める。
「――機械化した右目にチェーンソーの大顎……ダモクレスじゃないよな？」
　そんな緊迫した空気を破る声。
　二人に一足遅れで駆けつけたものの、ローカストの異様な姿に思わず尋ねてしまう、樹海育ちの野生児、狩魔・夜魅（シャドウエルフの螺旋忍者・e07934）だ。
「抵抗できない一般人殺すよりも、一人でも多くのケルベロスを地獄に道連れにした方が、不退転部隊の戦士として誇りある最後を迎えられるってもんだぜ。
　それに何よりも、先に地獄で待ってるお前の戦友に、自慢ができるぜ」
「ん、戦えない人達を一方的に殺すのがローカストの戦士の流儀だったの？
　違うのかな？
　なら、どうするの、あなたの戦友の仇のケルベロスがここにいるんだよ？」
「みぎゃぁ？」
「それにあなた達だって捨て駒にされてるって気がついてるんだよね？
　なら、自分の納得できる戦場で死ぬ方がいいんじゃないかな？」
「がうぅ？」
　一般人を殺すよりも、自分達と戦うようにと説得する夜魅。
　誇りで目的を曲げるのはどうかと思いつつも、その方が都合がいいので、白いふわもこボクスドラゴンのステラを伴ったリアトリス・エルス（冥途忍者さん・e01368）も、不退転部隊を煽っていく。
　続けて二人は、周囲に被害が及ばぬよう殺界形成を使い、人々をこの場から遠ざける。
「ここは戦場になる。手早く避難しろ」
　スムーズに避難が進むように、白いスーツに黒ネクタイという紳士然とした格好の神藤・聖一（白貌・e10619）が、冷静な声で人々に逃げるように促す。
　このような決死の作戦など馬鹿らしいと思う聖一だが、その覚悟と気概は認めているのだ。
　ならば、こちらも侮らず、しっかりとプロとして務めを果たすのみ。
　夜魅とリアトリスに要請を受けた夏川・舞に、それに付き合うアディアータ・リンディ（ヴァイオレットウィッチ・e08067）、さらには事件を聞きつけ駆けつけた機理原・真理も、人々の誘導にあたる。
「不退転部隊……決死、か。
　その心意気は称賛に値するが、人々を虐殺するのは看過できないね」
　一般人が周囲から離れた段階で、キープアウトテープを使って一般人が立ち入らないように封鎖してきた粟飯原・明莉（闇夜に躍る枷・e16419）も、ローカストとの戦いの場に合流する。
「戦う力を持たぬ者を力持つ者が蹂躙するなど決して許すわけにはいかないのでございます。
　それを成すというのなら私達の屍を超えてからにするのでございます」
　明莉を手伝いテープ張りを行っていた、見た目１０歳なメイド服の洋人形、コッペリア・オートマタ（アンティークドール・e00616）も、その小さな体でローカストの前に立ちふさがる。
「ねぇ、あなたたちの誇りって、そんなものなの？
　まずは目の前に居るあたし達と戦ったらどう？　正々堂々と、ね
　それともなに？　死を恐れないって言うのはポーズだけなのかしら？」
「退かぬと言うなら、我々との戦いからも逃げはすまい？
　……それとも、楽な虐殺に走るか？」
　一通り避難させ終え、後は舞に任せて戻ってきた飲んだくれ魔女のアディアータと聖一も、不退転部隊のやり方を非難する。
「……いいだろう。オレも、このような任務、本意ではない。
　必要なグラビティ・チェインは、キサマらを殺していただくとしよう！」
「ん、それじゃ正々堂々９対１で勝負かな？」
「がぅぅ？」
　リアトリスの言葉に、首をかしげるステラ。
　数で囲むのが正々堂々なのか、という疑問を持ったのか。
　あるいは、『自分達サーヴァントが入っていないぞ？』とか『舞さんいないですけど？』とか、そういうのかもしれない。
　だが、そんなボクスドラゴンの様子を気にとめている場合ではない。
「見せてやるぞ、不退転侵略部隊の真の力をな！！」
　ターゲットを一般人からケルベロスに切り替えたローカストは、自らの体に取り付けたクワガタの大顎を、威嚇するようにカチカチ鳴らす。
「生きる意志がないのならきっかりここで殺すッ！
　それが俺からの処方箋だァ！！」
　ローカストにとって先の戦争が終わっていないのなら、最後まで付き合ってやるだけだと、ククロイが吼える。
「ローカスト達もこの先生き残るためには、ヴァルキュリア達みたいに定命化するしかないんだろうけど……今はまだ無理か」
　ならば、不退転部隊の決意に応える為にも、真正面から戦い、打ち破ってやる。
　夜魅は強い意気込みを見せつつ、戦闘態勢をとる。

　どんなに急いでも、現場レベルで最善を尽くしても、被害を避けられないことはある。
　だが、これ以上の被害者を出さないことは、自分達の努力次第だ。
　人々の命を守るためのケルベロスの戦いが、照りつける夏の日差しに熱せられたバス発着場のコンクリートの上で始まるのだった。

●不退転侵略部隊の刃
「まずは、大口を叩くだけの力があるか見させてもらおう！」
　ケルベロス達が動き出すよりも早く。
　唸りを上げて回転する大顎の刃が重なり削り合い、標的となった者の心身を侵す音を発する。
　音の力はローカストを中心に放たれ、前衛陣５人と１体をその餌食にする。
「させるか」
　攻撃役を守るために跳び出した聖一が、己が身を盾として、コッペリアの小さな体を魔性の音から遠ざける。
　同時に、避難誘導を終えて仲間を助ける為に戻ってきた真理が、ライドキャリバーの速力を生かして割り込みをかけ、ククロイの身を護る。
「やってくれるじゃねぇかッ！」
　こちらの機先を制すキツイ一発に、ククロイの闘志が燃え上がる。
「硬い外殻だろうと脆いところはあるッ！」
　こちらからも喰らわせてやると、ローカストの身を包む殻の弱所を割り出し正確に貫く！
「ッ！？」
　鎌による強烈な一撃を受け、仰け反る不退転部隊兵。
　だが、それで終わりではない。
　ククロイの攻撃に合わせて背後から間合いを詰めていたリアトリスが、影の如きしのびやかな斬撃で、ローカストに追い討ちをかける。
　そうして主が攻撃をしている間に、唯一の回復役であるステラが、二人分のダメージを受けている聖一の治療にあたる。
「そっちがその気なら、あたしだって本気でいかせてもらうわよ？」
　リアトリスが稼いだ時間を生かし、アディアータはかつて喰らった魂を降ろし、全身に紫の呪紋の浮かぶ『魔人』へと変ずる。
「癒しを広げるよ」
　合わせるように明莉も地面に守護星座を描き、前衛へささやかな回復と共に、心身の健康を蝕む悪しき力への抵抗力を与える光を浴びせかける。
「ツバキ、やれ」
　ステラの癒しにより調子を戻した聖一は、ビハインドのツバキに攻撃を仕掛けさせつつ、紙兵散布で回復と状態異常への耐性付与を重ねていく。
「突き立てろ、獣の牙！」
　一歩引いたところにいたために音攻撃の被害を受けなかった夜魅は、『螺旋掌・獣牙』により螺旋の力を高め、位置取りのせいで破壊力で劣るのを補わんとする。
「炸裂しろ！　灼熱の星の衝撃よ！」
　仲間達が回復に強化にと忙しいところを狙われないように、恵が不退転部隊へ攻撃を仕掛ける。
　スターダンス・メテオブレイク。
　高々と跳躍した恵が、闘気を籠めた銃弾を次々と撃ち出す。
　高エネルギーを与えられた弾丸は、花火のように煌きつつ超高速で着弾、敵の急所を確実に貫くのだ。
「この程度の豆鉄砲ではな！」
　だが、ローカストは硬い外甲を抜いて傷を負わされても、大したことはないというように笑い飛ばしてみせる。
　歴戦の兵（つわもの）は、このくらいで動じることはないのか。
「魂さえ凍てつく氷棺の中で己が罪を知り、己が罪を悔い、己が罪を詫び、己が罪を償え」
　ならばこれでどうかと、コッペリアが追加の一発をお見舞いする。
　大紅蓮地獄『摩訶鉢特摩』。
　八寒地獄の八番目、最も広大でもっとも寒い地獄の名を冠したこの技は、地獄の業火で熱を奪い、凍てつかせるもの。
　あまりの寒さによって体が折れ裂け流血し、紅蓮の花の如くになるという。
「これが地獄？　随分と生温いな！」
　虫といえば低温に弱いもの。
　そう相場が決まっているが、さすがにデウスエクスともなると、それほど甘いものではないらしい。
　癒し手を削り、攻撃重視のフォーメーションを組んだものの、その破壊力で一気に勝負を決める――とはいかないようだ。
　だが、自分達が敗れれば、このローカストは再び人々の虐殺をはじめるだろう。
　そのような事態を阻止するためにも、なんとしてもこの場で倒さなければならない。
　ここが、地獄の番犬としての力の見せ所なのだ。

●不退転にて死に臨む
「通さないよ」
　付かず離れずの距離から、動きを抑えようと攻撃を繰り出す夜魅。
　そんな目障りな彼女を狙った折れた角の一撃は、寸前で明莉によって受け止められる。
　だが、折れてなお鋭さを残す角はしっかりと明莉の体を斬り裂き、生命力を吸い上げる。
「まだやれるか」
　明莉の傷の深さを見て取った聖一は、オーラによる治療を施す。
　既に、三枚目の盾だったツバキは倒されている。
　メディックがサーヴァントしかいないため、護りの要は盾役である聖一と明莉である。
　その一方に、今倒れられるわけにはいかない。

　不退転侵略部隊との戦いは、思った以上に長引いていた。
　それは、攻撃を受ける機会の多い盾役である聖一が破壊音波によって錯乱し、ローカストを回復。
　これまでの戦闘で積み重ねていた状態異常を、複数解除してしまう――という、不運に不運が重なったためではある。
　だが、やはり複数人の傷と状態異常を一気に回復させる手段が無いのは痛かった。
　催眠状態に陥った仲間は利敵行為の可能性があるので、優先的に治してやる必要があるが、単体を対象とする手段しかないのでは、いざという時に厳しい。
　唯一、聖一だけは自身と周囲の仲間を正常に戻す『白之残照』を扱えるが、こちらはこちらで傷を癒す力が小さい為、生命力を回復させるのにもう一手必要となる。
　――とはいえ。
　運の悪さで苦戦した、といっても。
　ビハインドのツバキが倒されるまで攻撃を受けてくれたこともあり、傷の深い者こそ少なくないが、戦闘不能にまで追いやられた者は誰もいない。
　対する不退転部隊の方は、ケルベロス達の絶え間ない攻撃により、ゆっくりと、だが着実に追い詰められていっていた。
「さすがに、唯一我等を殺し得る存在。やるではないか。
　だが――っ！」
　自慢の硬く強靭な外骨格は、幾つもの箇所が破れ、砕け、中身同様損傷著しい。
　それでも、この程度ではまだ死なぬと、抗うローカスト兵。
「悪いが動きを止めさせてもらうぜ」
　その不穏な動きを、狙い済ましたように突き出したグレイブに籠めた雷の力で抑え込む夜魅。
「星の煌きよ、大地の鼓動よ、私に力を」
　さらにコッペリアも、流星の煌きと重力を載せた蹴りを不退転部隊の頭上から落とし、攻撃を躱すための素早さを奪いにかかる。
「お誂え向きのグラビティだ！　受け取れェッ！！」
　地球のグラビティに引かれ、動きの鈍ったローカストへククロイが仕掛ける。
　シャドウブラスター。
　シャドウエルフのデータを用い、胸部を変形させて出した発射口より、『絶対に殺す』という意志と魔力が詰まった黒いレーザーを無数に撃ちだす技だ。
　放たれた黒い光は敵を追尾し、逃すことなく殲滅する。
「ぐっ、ぁっ……」
　動きに精彩を欠いたローカストの兵士は、高い威力を誇る黒の光に貫かれ、戦士にあるまじき苦悶の声を漏らしてしまう。
「ん、なかなかしぶといね？」
　ククロイに続き、リアトリスが標的を侵食する影の弾丸を放ち、畳み掛ける。
　その間に、回復係のステラは明莉の治療にあたる。
「無数の傷をつけてあげるよ」
　危ういところを持ち直した明莉は、『烈風拷刃鎖』を発動。
　先端に刃の付いた鎖を縦横無尽に振るってローカストを切り刻むと共に、体液を奪い取って自身の傷を癒していく。
「もういい加減楽になったら？　ね？」
　アディアータはローカストに語り掛けつつ、腰につけたランプを掲げる。
　ホーンテッドランプ。
　雷で絡めとった標的の魂を閉じ込めるもので、その魂は後でアディアータが美味しくいただくのだが――。
　残念ながら、相手にはまだ、捕獲に抵抗できるだけの生命力が残っていたようだ。
「まだだ、まだ、もう一太刀――」
「不退転……大した覚悟だよ。それだけ追い詰められてたってことか」
　四人の連携攻撃を、瀕死の状態になりつつも生き延びたローカスト兵。
　その様子を見た恵の口からは、自然と一種賞賛するような言葉が飛び出すのだった。
「でも、同情はしねぇ。同情したって、お前たちは救われない。そうだろう？」
　だからここで、きっちり終わらせてやる。俺達の未来の為に」
　跳躍から放つ、スターダンス・メテオブレイク。
　戦い続けたローカストを死の世界へ送るように、灼熱の星が輝きを見せる。
　衝撃と轟音。
　コンクリートを破壊し巻き上がった土煙が晴れると、その中心に倒れていた不退転部隊の兵は、もう動くことはなかった。
「見事だったよ、あんた。この地球で語り継いでやる。ローカストの勇者の話をな」
　――少しだけ……出会う時が違ってれば、分かり合うことも出来たろうによ」
　手の内でリボルバーを回し、ホルスターに収めた恵の表情は、どこかしら寂しそうにも見えたのだった。

●大団円
「命令に従い悪行を成そうとしたとはいえ、彼は立派な武人でございました。
　ならば倒した私達にできることは武人として弔うことだけでございます」
　コッペリアのその言葉に、ククロイも彼が戦友の元へいけた事を願う。
「ローカスト達と共存できる道があったとしても、先ずはアポロンどうにかしないとな……」
　全ての元凶である存在を取り除かなければ、何も始まらない。
　夜魅はそんな風に、責任感と決意のこもった言葉を漏らすのだった。
　ともあれ、この場での戦いはしっかりと決着が付いた。
　無事に――というには、残念ながら犠牲者をゼロに抑えることは出来なかったが、少なくとも彼らは最善を尽くしたのだ。
　今はただ、虐殺を止められた事を喜ぶべきだろう。
「ん、でもニンジャが正々堂々ってどう思います？？」
「みぎゃ～？」
　そんなちょっとしんみりしている人達の横で、リアトリスはようやく戻ってきた舞にそんなことを尋ねるのだった。
「ま、まぁ、ボクもコブシで戦う『殴り忍者』だからね」
　そういう忍者がいるのも、別にいいんじゃないかと返す舞。
　ただ、今回殴るどころか、全く戦闘に参加できていないので、何を言ってもわりと虚しいのですが。

　そうして、残っているのは後始末。
　明莉は用の済んだキープアウトテープを回収し、周囲に被害が出ていないかを確認する。
　さいわい、助けが必要な人はいないようだ。
　戦いで壊れた物については、アディアータが修復を担当。
　しばらくの作業の後、全てを終えたケルベロス達は、しっかりとした成果を手にして帰還するのだった。

作者：紫堂空	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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