黙示録騎蝗～其の誇り高き意志

■リプレイ

●命の光
　響く悲鳴、飛び散る血飛沫、奪われていく命。
　平和だったはずの街は今、地獄の光景へと変貌していた。繁華街の一角、ショッピングセンター内で阿鼻叫喚の現状を作り出しているのは一体のローカスト。
　不退転侵略部隊が一体、ダグリズ。
「ギャクサツなんて……ぜったい……ゆるせない……！」
　其処にラウラ・ロロニ（荒野の琥珀・e00100）の声が響き渡る。
「あん、何だァ？」
　ダグリズは今しがた人間に突き刺した刃を引き抜き、声がした方向に振り向いた。血に塗れた角は彼が既に何人かを殺している事実を物語っている。
　天那・摘木（ビハインドとお姉さん・e05696）は広がる惨状に口許を押さえたが、気を強く持ちながらビハインドの彼を伴い、仲間と共に駆ける。
「あちらもそれだけ、本気だったのね」
「今だ、逃げろ！」
　鷹野・慶（魔技の描き手・e08354）は拳を握り締めながら、まだ襲われていない一般人達に呼び掛けた。灰木・殯（釁りの花・e00496）は泣く子供の手を引きながら、死体が目に入らぬよう視界を塞いでやる。
「間に合いませんでしたが……残る人々だけでも」
「これ以上一般人を傷つけてしまったら元も子もありせんからね」
　黍乃津・桃太郎（白き桜華・e17781）は静かに頷き、逃げ遅れた人々の避難誘導を行った。ブリュンヒルデ・マークザイン（輝ける戦い・e26897）も一般人に駆け寄りヒールを施した。
「怖いかもしれないけれど、今は助かることを考えて！」
　ブリュンヒルデは人々を励まし、店の出口を指差す。
　その間にリフィルディード・ラクシュエル（ヴァルキュリアのガンスリンガー・e25284）と佐竹・勇華（パルメザンパルチザン・e00771）が敵の前に立ち塞がった。
「お前らは……ケルベロスか！」
　ダグリズが此方を一瞥する中、リフィルディードは問い掛ける。
「ただの捨て駒として終わるのがその決死の覚悟なのかな？　戦えない者達を相手にしるのが不退転の恥じぬ戦いをすることなのかね？」
「テメエ、俺達を馬鹿にする気か！」
　リフィルディードが啖呵を切ったあとに武器を構えれば、敵は荒々しく声を荒げた。すると、勇華は首を振る。
「貴方達は誇り高い戦士だと聞く。貴方達が本心から虐殺を望んでいない事は分かる。わたし達も一般人の犠牲は望まない。だからわたし達と戦いなさい！」
　――そう、お互いの戦士の誇りを賭けて。
「ちッ……其処まで言われちゃあ応えるしかねえな！」
　勇華の言葉によりダグリズは此方に向き直る。
　説得の人数を絞り、他が誘導に回ったことで既に避難は無事に完了していた。唯一、到着前に殺されていた数人以外は――。
「たくさん……血……」
　亡骸から目を背けたラウラはボクスドラゴンのトゥルバと共に布陣を整えながら、双唇を噛み締める。慶も頭を振り、ウイングキャットのユキに視線を送った。
「面倒くせぇ、なんて言ってる訳にもいかないな」
「それも王の命故に、ですか。せめて彼が武人として戦えるよう舞台を整えましょう」
　殯は頷きを返し、犠牲者のことを思うならば今は戦うべきだと己を律する。
　それが此度、自分達の出来る最善の治療なのだから、と。

●誇りと志
　ケルベロスとローカスト。双方のみが残った店舗内で視線が交差する。
　身構えた桃太郎は星の守護を描き、敵を見つめた。
「虐殺を止めた誇りには敬意をはらいます。仲間のために闘うその精神、僕は正々堂々と闘うことを誓いますよ」
　癒しの援護が広がっていく最中、オルトロスの犬丸も唸り声をあげた。
「かかって来い！　来ないならこっちから行くぜェ！」
　そう言ったダグリズが床を蹴った刹那、鋭い刃が勇華を襲おうと迫る。
「そうはさせませんよ」
　即座に摘木が飛び出して仲間への攻撃を肩代わりした。ありがとう、と告げた勇華は駆け出し、己の思いを口にする。
「この戦いは先の戦争でわたし達がアポロンを討てなかったから起きてしまったようなもの……ならばこそ始末は付ける！」
　先の戦いを思いながら勇華は電光石火の蹴りを見舞う。其処にリフィルディードが続き、身に纏う鋼の鬼を振るう。
「この力もあり得たかもしれない道の一つだったのだろうけど」
　もうその道は無い、とローカストとオウガメタルの両方に目をやったリフィルディードはひといきに敵を穿つ。更にラウラが暴風の蹴りを放ち、慶は具現化させた光の剣を振り下ろした。ユキも尻尾の輪を飛ばすことで主人に続く。
　されど、ダグリズは未だびくともしていない様子。
　殯はそれでこそだと頷き、自らの名を告げる。
「私の名は灰木・殯。貴方はさぞ名のある武士とお見受けします。その覚悟、ぜひ我等が武にてお受けしたく」
　傷を受けた摘木に魔術切開による癒しを施し、殯は正々堂々の姿勢を示した。その穏やかな佇まいを見遣り、敵は悪くねえと呟く。
　ブリュンヒルデも仲間と敵の遣り取りを瞳に映しながら、高く跳躍した。
「そちらにあるように、私たちにも誇りはある。私にとっては、大切な隣人である地球の人たちを守ること」
　――だから、全力で倒す。
　そんな思いを込めたブリュンヒルデは流星めいた蹴撃を放った。続けて犬丸が地獄の瘴気を放ち、トゥルバも翼を広げて癒しの援護に入る。
　ラウラは背を守ってくれる相棒竜に信頼を寄せ、手にした槍を振りあげた。
「おおきい……クワガタ……まぶしい………」
　小柄な少女から見ればローカストは大きい。見上げる視線に戦いへの意志を込め、ラウラは高速の回転撃を放った。
　そして、ビハインドの彼が金縛り攻撃を仕掛ける最中、合わせて雷撃を放った摘木はダグリズを真っ直ぐに見つめる。
「もし。もし今の貴方の戦いを、貴方の母国の皆が想像しているなら、きっと恐ろしく強い戦士と戦っているのだと、思っているはずだわ」
　それが弱いものを薙ぐだけの戦いとも言えないことをしているだなんて。そんな話ってないわ、と首を振った摘木は相手の境遇を思う。
　だが、ローカストは既に一般人を虐殺している。どうであろうと敵は敵だ。
「はん、こっちだって負ける気はねェぜ！」
　チェーンソーめいた角を振り回し、ダグリズはリフィルディードを狙った。とっさにユキが身を挺して庇い、鋭い痛みを受ける。
　慶はユキに頑張れ、と声をかけつつ自らも更なる攻撃に出た。
「……こういう戦い方する日が来るとは思ってなかった」
　普段は使役武器ばかりを扱う慶はナイフを振り翳し、硬質な敵の身を直に切り刻んでいく。誇りを忘れぬダグリズとは直に刃を交えたい。そう感じたからこそ、慶は敢えて不得手な武術で臨んでいた。
　不慣れ故にぎこちなく粗野。決して美しいとは言い難い戦い方だが、慶の姿を見たダグリズがニヤリと笑った気がした。
「へえ、やるじゃねえか」
「舐めてかかったら痛い目みるよ。遠慮はしない！」
　勇華は凛と言い放ち、突き放った指先で以て気脈を断とうと狙う。敵の身を縛った一撃が上手く巡ったことを感じ取り、摘木と彼が頷きあった。
　敵は強く巨大だ。だが、此方には仲間の存在と揺らがぬ意志がある。
「ふたりでなら大きなものも動かせるわ」
　何の事もなく口にした摘木はビハインドの彼がポルターガイストを巻き起こす動作に合わせ、幽霊の悪戯を発動させる。心霊現象めいた力が敵を襲っていき、その力をじわじわと削った。
　そちらに引けぬ理由もあるが、此方も背負う物がある。リフィルディードは手にした刃を掲げ、雷の霊力を得物に纏わせた。
「決死の覚悟をするほどの勇の誇り、戦乙女の名を持つ種としてあなたの覚悟、受け止めて見せましょう！」
　鋭く告げた言葉と共に神速の突きが見舞われ、その衝撃によって火花が散る。
　しかし、敵も攻撃の手を緩める事はなかった。殯は仲間の負傷具合を後方からしかと判断し、優しい癒しの力を施してゆく。
「誇り持つ者でありながら大義を全うするその意志には感服します。武に恥じることなき戦いを約束しましょう」
　その視線は鋭く、殯は敵に不適な笑みを差し向けた。
　一瞬、殯とダグリズの視線が重なる。彼等の間に二人だけにしか分からぬ刹那の感情が交差し、戦いは激化していく。
　続く攻防の中。犬丸は向けられる一閃を受け止め、その隙を狙った桃太郎が時空を凍結させる弾で鋭い氷を与えていった。
「ローカストの背水の陣ですか。十分に気を付けないといけませんね」
　現状を整理して呟いた桃太郎は翼をはためかせ、戦場を縦横無尽に飛ぶことで敵を翻弄しようと動く。
　ラウラも攻撃を続け、蹴りを放ち続けていった。しかし、足止めはなかなか付与できていない。徐々に此方が押されてきている状況が分かったが、ラウラは首を振った。
「……ぜったい……まけない……」
　誓いにも似た言の葉を口にしたラウラは掌をぎゅっと握り締める。
　ブリュンヒルデも破鎧の衝撃を敵に与え、この戦いからは決して目を逸らしてはいけないと心に決めていた。
「私は私の誇りを持ってダグリズを止めたい。いや、止める」
　かつて、ブリュンヒルデには彼等のように人々を虐殺しようとした過去がある。洗脳されていたとはいえ、その事実があるからこそ思いは深く巡った。
　二度と悲しみを繰り返させぬ為に、その強い志こそがケルベロスたる所以だ。

●其の意志は
「てめえらとの戦いは何だか熱くなるなァ！　ほら、もっと来いよ！」
　容赦のないダグリズの攻撃が見舞われ、仲間達は体力を削られていた。相手の一撃が巡る度に殯が癒しに回り、トゥルバやユキも援護に入る。
　だが、既に犬丸が倒れ、体力の続く限り庇いに回っていた摘木も膝をついた。
「ごめんなさい、ね。もう……立っていられないみたい」
　その場に倒れ込んだ摘木を見たダグリズは鋭い角を新たな標的に向ける。
「大丈夫、休んでて」
　勇華は倒れた仲間にそう伝えた後、ローカストの構造弱点を見抜いていった。続けて放たれた痛烈な一撃は敵を穿ち、その装甲を僅かに剥がす。
　ラウラは次は自分が皆を守る番だと気を引き締め、唇を引き結んだ。
「トゥルバ……やろう……」
　相棒の名を呼んだラウラはこくりと頷き、槍の一閃で敵を貫く。彼女に合わせて動いたトゥルバも元気いっぱいに跳躍して応え、竜の吐息を浴びせかけた。
　更にリフィルディードが鳳凰旋を見舞うべく戦場を駆け抜ける。
「廻り、舞われ」
　瞬時に敵を斬りつけた後、リフィルディードは廻るような動作で銃弾を撃ち込む。慶は距離を取った方がいいと感じ、古代語魔法を紡いだ。
「命ず、眇たるものよ転変し敵手を排せ」
　敵の強さが分かっているからこそ、この一手は全力で。尖った瓦礫が魔力を与えられ、鋭い牙を持つ狼めいた姿に変貌した。その一閃がダグリズを穿つ中、ブリュンヒルデが光の翼を広げて翔ける。
　戦士である以上、闘いが始まれば倒すか倒されるかだけ。だからこそ、一切の情けをかけずに最後まで戦うとブリュンヒルデは決めていた。
「守る為に生き抜く戦いというものを教えてあげましょう」
　そして、ブリュンヒルデが放ったのはニブルヘイズ・ペイン。自らの武器に氷の力を集めて切り刻み、更なる氷撃を喰らわせる。
　更に倒れた摘木に寄り添うように身構えたビハインドの彼が、怒りのような表情を向けて金縛り攻撃を放つ。まるでそれは主人の分まで自分が戦うという意志を示しているかのようだった。
　皆が攻撃を続ける中、殯も生命を喰らう一閃を放ちに向かう。過去を思い返した殯はダグリズと間近で対峙した刹那、しかとした口調で問い掛けた。
「貴方達ローカストの中に、定命の……地球を愛し、移住の意志持つ者は居られないのでしょうか。貴方の想いを、教えては頂けませんか」
　躰を一切傷付けず、生命力のみを奪う一撃が敵を穿つ。その際、躰を震わせたダグリズは答えの代わりに咆哮した。
「俺は不退転侵略部隊が一体！　この身は全て黙示録騎蝗成就の為にあるッ！」
「………」
　その声を聞いたラウラは其処に強い意志を視た。
　だが、少女と手デウスエクスを憎み、使命を感じ、戦いに身を投じている。互いに歩み寄ることは出来ないのだと桃太郎も感じ取り、刀に手を駆けた。
「参ります。我が剣技の神髄ここに有り」
　桃太郎が翼を広げた刹那、髪に咲いた桜花が舞う。鋭い緊張感と共に放たれた華舞断は、その名の如く、戦場の空気ごと敵を切り裂いた。
「ぐっ……」
　敵が揺らぎ、あと僅かで勝負がつく気配が感じられる。リフィルディードと勇華は止めに向けて畳み掛けるべきだと察し、頷きを交わした。
「死して華を咲かせてあげましょう」
「この一撃で繋げる！　うおぉぉぉぉ！！　勇者パァァァァァンチ！！」
　リフィルディードが放つ光翼の一閃に続き、高く跳躍した勇華が全体重を乗せた拳を全力で叩き込んだ。
　おそらく後一撃で決まる。光の剣を手にした慶はひといきに駆けた。
「終わらせようぜ。……これで」
　次の瞬間。甲高い衝突音が響き、刃と刃が拮抗する。
　迸った光が敵の躰を斬り裂き、鋭い角が地面に落ちた。誇りである角が折れたことによりダグリズは敗北を悟る。
「俺の、負けか。ああ……悪いな、人間を殺しちまってよ……だが、テメエらに譲れない物があるように俺達にだって――」
　そして最期に、なかなか楽しかったぜ、と呟いた彼はその場に崩れ落ちた。

●誓い
　力を失い、伏したローカストは死を迎えた。
　その躰が見る間に崩れ、塵のように舞い散っていく様を見つめた慶は俯く。
「戦士として散れたよな、きっと」
　彼の最期の言葉はしかと聞き届けた。誇りを胸に去れただろうと、この戦いを想い返した慶はユキをそっと撫でた。
　ラウラも疲弊したトゥルバを抱き締めて労い、戦いを思う。
「手ごわかった……な……」
「あれがダグリズの戦士の誇りか」
　ブリュンヒルデは微かに呟き、静かに両目を閉じた。
「決死の覚悟が咲かせた徒花、かな」
　リフィルディードも残骸が光を受けてきらきらと光っている様を見遣り、小さく呟いた。桃太郎はそうかもしれないと答え、辺りを見渡す。
　そして、桃太郎からの介抱を受けた摘木は立ち上がる。心配そうに近付いてきたビハインドの彼に手を伸ばし、健闘ぶりを誉めてやった摘木は仲間に呼びかけた。
「お片付けを急ぎましょう。もしかしたら、生存者がいるかもしれないわ」
「そうだね、壊れたこの辺りも直さないと！」
　勇華は大きく頷き、仲間と共に駆け出す。建物を修復しても犠牲になった人達は治しようがないが、せめて少しだけでも、と。
　殯はダグリズを含む死者へと静かに黙祷を捧げ、遠い空に目を向ける。
　愚かな王を屠り、ローカストとの戦いを完全に終わらせよう。勇華が強く誓う中、殯も思いを言葉へと変えた。
「妨げが太陽神アポロンだというなら、私達は彼らを討つでしょう」
　其の誇り高き意志を繋げる為。
　そして、愛しいこの地球を守る為に――戦いは未だ続いて往く。

作者：犬塚ひなこ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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