黙示録騎蝗~メガララ・ガルーダ

作者:そうすけ


 深夜。
 音もなく降り出した雨が、泥にまみれた傷だらけの外骨格を洗う。
 帰る星を失った。
 が、それがどうしたというのだ。
 雨よ、ケルベロスたちよ!
 濡れる岩場に集う我らは敗残兵であり、生き残った自分たちはこの青き星に飛び散った小さな破片にすぎぬと笑うか。
 
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げる。
 この問いに、隊員達は、『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 ヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達が一体、また一体と戦いに赴いていく。
 
 不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。
 

 ケルベロス・ウォーの発動により、ローカストとの大戦で地球史上初のゲート破壊に成功したケルベロスたち。
 全世界から続々と祝福の声が寄せられる最中、ヘリポートからの呼び出しを受ける者たちがいた。

「ごめんね」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、居並ぶケルベロスたちを前にして手を合わせた。
「勝利の祝いに水を差すようなことがもうすぐ起こってしまうんだ。だからまた、みんなの力を貸してほしい」
 忌々しくも地獄の番犬たちの牙から逃れた太陽神アポロンは、『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを欲していた。
 グラビティ・チェインを得るために、不退転侵略部隊を捨て駒にするつもりらしい。
「不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃し、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるよ。先回りして凶行を止めることはできない。なぜって、予知にあった場所の住民を避難させると、他の場所が狙われちゃうから」
 しかし、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのマインドコントロールによるものであり、決して彼らの本意では無い、とゼノはいう。
「正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いをするように説得できたなら、彼らは人間の虐殺をやめてケルベロスと戦う事を選択してくれると思うんだ。でも、絶対に降伏する事はない……。悲しいことだけど、それが彼らの宿命なんだ。敗北と死をもって、愛なき呪いから解放してあげてほしい」
 これよりヘリオンは白鷺城に向かう。
 ゼノはケルベロスたちに搭乗を促した。
「城下町を襲うのは、全身が真っ黒、羽まで黒い巨大な蜂型ローカストだよ。大きな顎は巨大なスタンガンになっていて、常に青白く光る高圧電流が流れている。接近して攻撃する時は、挟まれなくとも触れないように気をつけてね」
 全員の搭乗を確認すると、少年はヘリオンに上昇を命じた。
「この戦いは始まりに過ぎない……そんな気がするよ。だから、勝って。でも、くれぐれも無茶はしないで」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
グレゴリー・ドンスコイ(お節介探偵・e19976)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)

■リプレイ


 殺して、奪って、奪い尽くして。
 まったく心傷まぬわけではない。悔いがないわけではない。恨みに満ちた母の目に射抜かれながら、子の体を引き裂いてまでして得たグラビティ・チェインのすべてがあの疫病神、アポロンに吸い上げられていくのだ。あのアホロンに!
 ゲートの再建と母星への凱旋は限りなく不可能に近い。だが、ゼロではない――それどころか大いにあり得る、とあの疫病神はうそぶく。アホか。そのご神託を心底信じて戦っているものがどれだけいると思っているのだ。いや、いるかもしれない。でも私は違う。
 しかし、私は落ちぶれたとはいえ、不退転侵略部隊の戦士である。王の命令には逆らえない。
 
 メガララ・ガルーダは長い大顎で、泣き叫びながら黒い腹を拳で叩く母親の頭を、上から挟んでかみ砕いた。割れた骨のあいだから脳があふれだし、顎の下にぶらさがる温かい体を血まみれにする。
 突如、現れたデウスエクスにより、お祭り時の歩行者天国は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄と化した。背後に見える青い空と真っ白な城の壁が、血にまみれた黒い悪魔の姿と対になって、恐怖に満ちた異常な世界を構築している。
「――ぬ!」
 凛とした声が、叫びながら逃げ惑う人々のけたたましい悲鳴の間を駆け抜けて、親子を殺したメガララ・ガルーダの耳殻を震わした。    
 黒蜂は顎を開いて死体を地に落とすと、大きな羽を震わせて体ごと振り返った。
「メガララ・ガルーダ殿とお見受けしました。どうか、これ以上、武門の誉れを汚すことのなきよう……この『紫水晶の盾』と『青氷壁の盾』がお相手致します!」
「何も不名誉な死を選ぶことはなでしょう。グラビティ・チェインなら私たちケルベロスの体にも豊富にあります。抗うすべを持たぬ者ものたちをなぶり殺すような真似はやめて、私たちと戦いなさい!」
 血と肉で埋めた道の先に、紫水晶の楯をフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)とミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)が並び立っていた。
 見上げれば、雲一つない空に点々と複数の影が、徐々に大きくなりながら落ちてくる。
「ケルベロス……やっと来たか」
 どこかホッとした様子で、血の池に立つ不退転ローカストは呟いた。
 

「遅いわ!」
 黒蜂は透ける黒い羽を激しくこすりたてると、逃げ遅れた市民に向けて破壊音波を発した。
『アメジスト・シールド、最大展開!!』
 フローネはすかさず二つ名のもとになった紫水晶の楯を前面に展開した。音波の攻撃を防ぐと、楯の後ろで市民たちに急いで避難するように呼びかける。
「そんな弱者いびりやめて、おらの歌きくっぺーー!」
 山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)が、紫と青の楯の後ろで流れ出した曲に合わせてステップを踏む。
 歌うは『殲剣の理』だ。
 ほしこは山彦のエクソーサイズマイクの柄を両手で握りしめ、幾度となく卑劣な侵略者たちに踏みにじられた地球の歴史と同胞の苦しみに思いをはせながら、決して絶望しない魂を切々と歌い上げる。
「それが何だというのだ! 侵略者だ? お前たちも生きるために他の生き物を殺して食うだろう!」
「確かに。しかし、我々は……感謝の気持ちを忘れない。あなたたちのように欲望のままにふるまい、殺しはしはしません」
 ミチェーリは流れるメロディに流星の煌めきを乗せて駆けた。黒蜂が繰り出した大ぶりのバンチをダッキングかわすと、その反動を生かして垂直に飛び上がった。黒蜂の頭に切れのある重い蹴りを叩き込んだ。
 メガララ・ガルーダの長顎がガチリと音をたてて閉まり、長い触覚が黒い顔の上で跳ね踊る。黒蜂は顔をのけぞらせてよろめくと、ブロック塀にもたれかかった。
「お……のれ……言わせておけば!」
 それは違う、と喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)が、着地した青氷壁の盾の後ろから飛び出した。首筋めがけて回し飛ぶ脚が、流星の煌めきを放つ。
「舐めるな!」
 黒蜂は重心を低くした姿勢で蜜蜂の一撃をかわすと、アルミニウム生命体を表皮に集めて黒鎧化した。
 黒き羽の後ろでブロック塀が吹き飛ぶ。裏に少し離れて駐輪されていた車のフロントガラスが砕け散り、衝撃でボンネットが開いた。壊れたクラクションが鳴り響く。
 メガララ・ガルーダは身を起こすと、首を回してケルベロスが放った蹴りの威力を確かめ、長顎をカチリと噛み合わせた。
 黄と黒のツートンカラーがトントンと軽快に跳ねながら、口を開く。
「続けて同じ技を放ったのは、話し合いの機を得るため。決してあなたを侮ったわけでも、屈辱したわけでもないわ」
「……では聞こうか、サキュバスの小娘よ」
 波琉那は跳躍をやめると簒奪者の鎌を体の前で回し、構えた。
「身勝手な思いで飢えを、怒りを、惑星レギオンレイドに満たしている神のために、あなたの誇りを殺させたくないの……」
 だから私たちと戦って、戦う力を持たぬ人を傷つけないで、と簒奪者の鎌を黒い胸鎧へ向けた。
 半月の刃が太陽を反射して白く光り、メガララ・ガルーダの目を刺した。まぶしさに顔を横向ける。
「わ、私は一介の兵士にすぎん。任務に私情を挟むことは許されないのだ。仮に、アホロ……アポロン神の命がなくとも私は……兵士として守るべき同胞たちの為にグラビティ・チェインを狩り集めなくてはならぬ! この戦い、負けられぬのだ!」
 いきなり体を回すと、黒蜂は逃げ遅れた市民たちに向けて破壊音波を撃った。
 フローネは敵が流した視線の動きで、攻撃の方向と範囲を予測していた。自身が展開するアメジスト・シールドですべてを防ぎきれないと判断するや、位置指示のために横へ右腕を薙ぎつつ戦友の名を叫んだ。
「ウェンディさん!」
「はいはーい♪」
 ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)が倒れた老人の前に立ったのとほぼ同時に、黒蜂が放った破壊音波がアメジスト・シールドを波打たせ、ヴァルキュリアの光の翼を震わせた。
「言い直す必要はありませんよー。あんなやつ神でもなんでもないですー。アホなくせに権力を持っている性質(たち)の悪いアホです。だからアホロンでいいですよー」
 私たちにもアホロンで通じますから~、と光の翼から抜き取った羽根で空にさらさらと魔法陣を描き込む。
 魔法陣が光を放ちながら消滅すると、ケルベロスたちの背後で爆発が起った。八色の風が熱を奪いながらアスファルトの上を駆け抜けていく。「不退転部隊のみなさんは戦争の前の戦いでも、お仲間たちのために喜んで散っていきましたー……。その心意気は立派ですが、あたしたちが負ける理由にはなりませんー」
「ぬかせ!」
 ボクスドラゴンのクリスチーナが火を噴いて、前に出てきた黒蜂の動きを牽制する。
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)は、星々の加護を受けた剣を構えると、朗々と響く声で名乗りを上げた。
「貴殿もまた、アポロンの洗脳を受け、知らずのうちに不本意な虐殺を強いられていると思っていましたが……。我ら騎士にとって戦いとは、故郷を、民衆を救うためのものであったはず。民を滅亡に導く悪神と分っていながら、なぜ従うのです? なぜ、立ち上がらない!」
 若枝の騎士は胸の底に怒りを沈め、地に降ろした切っ先で静かに守護星座を描いた。星々が眩く輝きながら浮き上がり、エリオットを中心に渦を巻いて広がっていく。
「悪しき主君であっても弓は引けぬというのであれば、せめて武人の名に恥じぬ、誇りある戦いを……!」
「私一人を複数で相手取りながら誇り云々……よく言うわ!」
 憎々し気に言い放った黒蜂の声がかすかに震えていた。
 天より飛来した白竜の羽ばたきによる風圧で、黒く透ける四つ羽がこすれ、苦悶の形によじれる。
「叶うならば一対一……と行きたいが、正直敵わないからな。形振り構わぬのはこちらも同様。ならば、振り絞りきるまで……!」
 星の加護を受けたリーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)は、着地と同時に稲妻を帯びた選定者のハルバードを突き出した。
「白黒つけるぞ、黒蜂!!」
 黒蜂は刃のような鋭いトゲを立たせた腕を振った。その真下をかいくぐるようにして、白龍が黒き鎧を流電で突き刺す。
「ぐっ!」
 長い黒髪の先が、アルミニウムシックルによって斜めに切り飛ばされ、風に散らされていく。リーフは灰色の車道に落ちた髪に目をやって唇をかんだ。
(「あとで美容院に行って、髪を切りそろえないと。……少しでよかった」)
 痺れて棒立ちになっている不退転ローカストから、ゆっくりとハルバードを引きぬく。
 黒い鎧に穿った穴の縁から、落雷が枝を伸ばすようにしてひびが広がった。
「ま、まだだ。この程度で……私を止められると思うな。まだまだ、グラビティ・チェインを奪えるぞ」
 黒蜂が飛んだ。
 紫、青、黄の、市民を守る三つの楯に背を向けて、得物――逃げ遅れている人間を探し始める。
 無防備にさらした背中が、早く止めてくれ、と言っているようなものだった。
 グレゴリー・ドンスコイ(お節介探偵・e19976)は、ああ、と青空に向かって息を吹きあげると、三つ揃いの内からガトリングガンを抜き出した。
(「不器用な方故に神に付け込まれたようですね……」)
 神聖なる白き翼を広げて空の高みへ上がると、黒蜂の前に回り込み、長顎と触覚の間にねらいをつけて鈍色の銃口を向ける。
「わかりました。その苦しみから解放してあげましょう」
 グレゴリーの体内でグラビティ・チェインが爆発し、巨大なエネルギーを生み出した。破壊の力は神経の上を、血の中を流れて、手にしたガトリングガンのマガジンにとめどなく流れ込んでいく。
『Принесите дождь звезды』
 撃ち出された弾は周囲の明るさを取り込んで熱を放ち、薄闇の中を燃える星の雨となって敵の頭上に降り注いだ。
 メガララ・ガルーダの四つの羽根はたちまちのうちにズタズタになってしまった。地に落ちて倒れると、黒い体の上に小さなキノコ雲が立ち昇った。
 満身創痍。それでも膝に手をついて長顎を噛み鳴いらしながら立ち上がった黒蜂は、紫水晶の楯の後ろに怯えた顔を透かして見ると、気合いを発して黒い腕を振り上げた。黒刃の棘を逆立たせて、雄叫びながらアスファルトを蹴る。
 フローネは一歩も引かなかった。フェンス・オブ・アメジストを構えて黒い腕の斬撃を受け止めると、力いっぱいメガララ・ガルーダをはじき返す。
「これが『紫水晶の盾』の力です! ――ミチェーリ! ウェンディさん!」 
 ウェンディは巫女の技を使って半透明の巨大な御手を降ろし、ふらふらと体を揺らしながら後退する黒蜂を鷲掴みにした。
「どうぞー」
 真冬の太陽のように。ミチェーリは白く輝くトナカイの角を突き出しながら、青氷壁を割って出た。恋人がはじき返し、友が捕えた標的に向かって突撃する。
「その隙は逃さない! 穿ち貫け『сосулька(サスーリカ)』!」
 ガントレットから打ち出された氷杭が、黒蜂の腹を貫いて飛びぬけ、後ろで砕け散った。
「ふ、不退転の部隊名は伊達ではないぞ! まだ倒れぬ、この程度の苦痛で倒れるわけにはいかぬ!」
 メガララ・ガルーダは腹から流れ出る大量の血を、再び活性化させたアルミニウム生命体の鎧で覆って止めた。
「その意気やよし。なら、おらも真摯な気持ちでアンコールに応えねばだべ」
 ほしこは山彦のシャーマニックマイクを握りしめた。
「心で聞いて感じてください。奉納歌、『日帰りの追憶』」
 歌には人を楽しくさせ、悲しい気持を癒し、慰める力がある。逆に、歌には人を傷つけ、生きる活力を奪い、壊す力もある。音と音の間には、目に見えない水流のようなものが渦巻いていて、歌い手は気持ち一つ、声の響きで奇跡を起こす。
『♪急いて 泊まらず! エド夢羅ワールドスクウェアリング 来てよ バブルよ もういちど! 奇岩の川の 玉手箱☆』
 無数の切り立った奇岩が、黒蜂の足元から次々と突きあがる。
『♪岩間に流れる深碧の流れに、ああ、湯けむり染みる素通りの宿』
 最後はありったけのグラビティ・チェインをこんこんと沸き立たせ、熱い間欠泉に変えて奇岩に翻弄される黒蜂を打ち、その身を包んでいたアルミニウム黒鎧をすべて洗い流した。
 

 波琉那はメガララ・ガルーダの頭の横に膝をつくと、胸に腕を伸ばし、生命エネルギーが減少して艶を失った手を握りしめた。
「ごめんなさい……私達はまだ未熟だから……こういう方法でしか悪い因縁を絶つことが出来なかった……」
「謝る必要はない、サキュバスの小娘よ。お前たちは……己の義務を忠実に果たしただけのこと」
 本来であれば、ケルベロスとして人々の前で敵に同情するべきではない。なんといっても、この場で命を落とした人たちがいるのだ。しかし、波琉那は流れる涙を止めなかった。
 ここに横たわっているのは、不条理な運命にもてあそばれた犠牲者に過ぎない。ならば涙で見送ってもよかろう。
「なあメガララ。こんな先の見えねえ戦いになんの意味があるだ。不退転とか死ぬの前提なら定命化の道探ったってよかっぺ? 他の種族がそうしたみてえにさ」
 ほしこのつぶやきに、不退転の兵士は輝きを失った黒目を向けた。
「少しで、いい。ほんの少しあれば……ローカストに……定命化は必要、ない」
 エリオットは体の横で拳を固めた。あふれ出る涙を閉じた目蓋でせき止める。
(「アポロンさえいなければ、もっと別の形での出会いもありえたかもしれません……」)
 それだけに残念に思えてならない。
「さあ、トドメを。横たわったまま静かに逝ったのでは、先に散った同胞たちに顔向けできぬ」
 これも騎士の務め、と胸の前で剣を掲げ持ったエリオットを、リーフが押しとどめた。
「その役目、私にやらせてもらえぬか」
「貴女はそれでいいのですか?」
 紫と青の楯は互いに、つないだ手に力を入れて握りしめ、悲しみに満ちた目を南十字星の騎士へ向ける。
 リーフは微かに顎を引いて頷いた。
「もし、来世があるならば……だが、今この時は。御然らばだ、強敵(とも)よ」
 天より「南十字の聖なる騎士槍」を招来し、翼を広げて飛び立つと空中で受け取り白い尾に宿した。
『星を貪る天魔共! グランバニアの勇者を恐れよ! 聖なる南十字を畏れよ!! ……流れ去れ!』
 光子となって十字に散る骸の上に、涙が一粒落ちた。
(「勇士を扇動し、外道へと奔らせる……飢饉の偽太陽神アポロン、討たねばならぬ!!」)
 グレゴリーがケルベロスを代表して祈りをささげる。
「誇りをかけた者に敬意を……今はゆっくり眠ってください」
 垂れた頭から、またも涙が一粒落とされた。
 傾きだした陽の光が涙を貫いて、グレゴリーの翼から抜け落ちた白い羽の上に悲しみの虹を架けた。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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