黙示録騎蝗~天牛邁進

作者:刑部

 深夜、しとしとと雨が降る岩場に集う一群……それはヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカスト達。
 彼らは、太陽神アポロンより『黙示録騎蝗』の尖兵となり、今後の戦いのために必要な大量のグラビティ・チェインの獲得を命じられたのだ。
 それは、単騎で人間の町に攻め入り多くの人間を殺して可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない決死の作戦であった。

「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 不退転侵略部隊リーダー『ヴェスヴァネット・レイダー』が、大きな声で問うと、隊員達は即座に『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 意気軒高な不退転ローカストに、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 その檄に気持ちを昂ぶらせた不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体とその場を離れてゆく。
 今、不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。

「先ずはローカスト・ウォーはみんなの頑張りもあって勝利する事が出来た。これは喜ばしい祝い事や」
 手を叩く杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が笑うと、その口元に八重歯が覗く。
「せやけどローカスト達を殲滅出来た訳やあらへん。現に撤退した太陽神アポロンが、ローカストの軍勢を動かそうとしとる」
 続く千尋の言葉に、ケルベロス達にざわめきが起こる。
「太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為に、大量のグラビティ・チェインを求めとって、先ず手初めに不退転侵略部隊が動き出したみたいや。
 不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市に出撃し、ケルベロスに殺されるまでひたすら人間の虐殺を続けてグラビティ・チェインを集めるつもりの様や」
 ローカスト達の動きについて説明を続ける千尋。
「予知に見えた場所の住民を避難させたら他の場所が狙われよる。被害を完全に抑えるんは不可能や。せやけど、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うんは、太陽神アポロンのコントロールによるものや。決して彼らの本意っちゅー訳や無い。
 不退転侵略部隊のローカストに対し、正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いをするよう説得できたら、彼らは人間の虐殺ではなく、戦いがいのある相手、つまりケルベロスと戦う事を選択してくれると思うねん」
 千尋の説明に幾人かのケルベロス達が頷く。
「不退転部隊のローカストは、その名の通り絶対に逃亡もしくは降伏する様な事はせーへん。死ぬ直前まで全力で戦い続けるやろう。
 激しい戦いになると思うけど、寄る辺ない奴さんらに敗北と死を与えたらなあんやろ」
 と千尋は頷きながら瞳を閉じる。

「不退転侵略部隊のローカストの1体……斑模様が発光するカミキリムシ型が現れんのは、鳥取県のJR津ノ井駅の駅前や。
 カミキリムシは分かるかな? 長い一対の触角をもった昆虫で、これをベースにしたメカメカしい感じの個体や。2m程の大きさで直立しとるで。体は全体的に黒く、背中に白い斑模様がありこれが発光しとる……遠目から見る分には綺麗なんやけどな」
 目を見開き、現れる不退転侵略部隊のローカストの説明を続ける千尋。
「発光する光は周囲に障壁を張り、長い触角は鞭や鎖の様に襲い掛かってくるで、あと顎の一撃が一番強烈やから喰らわん様に気ぃつけや」
 と説明を締め括る。

「奴さんらもゲートを閉じられて必死や、気ぃ抜いたらあかんで。そんで、こいつら全部駆逐したらローカストとはおさらばや。気合入れて害虫駆除しよか」
 千尋の口元に再び八重歯が光るのだった。


参加者
福富・ユタカ(殉花・e00109)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
荒耶・四季(進化する阿頼耶識・e11847)
藤堂・十字(全ての理は肉体に通ず・e14845)
フレア・ガンスレイブ(白銀姫・e20512)
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)
五十嵐・崇仁(わん公・e27210)
チェシャ・シュレディンガー(神出鬼没の灰色猫・e27314)

■リプレイ


 逃げ惑う者、斬られた者の悲鳴が響く中、返り血に塗れる『それ』が最初に認識した声は、唯一割り込みヴォイスを使えたチェシャ・シュレディンガー(神出鬼没の灰色猫・e27314)の言葉であった。
「はろーそこのローカストちゃん。アタシ達が来たのに無視かな? それとも貴方達の不退転の覚悟とやらはその程度なのかしら?」
 だが『それ』……カミキリムシ型のローカストはチェシャを一瞥し、他にも得物を構え、幾人かのアルティメットメードになる者も含めたケルベロス達を視認したにも関わらず、視線を逸らし、
「あっ……」
 短い悲鳴にも似た声を上げたフレア・ガンスレイブ(白銀姫・e20512)が動くより早く、足元で泣き叫んでいる中年男性に触角を振るい絶命させる。
「俺の名は荒耶四季だ。名も知らぬローカストよ……。いざ尋常に勝負しろ……!」
「それ以上は、拙者を倒してからにして頂きたく」
 だが、その間に一気にローカストの前まで踏み込んだ荒耶・四季(進化する阿頼耶識・e11847)が、他の一般人を庇う様に立ち塞がり、福富・ユタカ(殉花・e00109)も紙兵を散布してローカストから一般人への射線を遮る。
「やあ、やあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは地獄の番犬、五十嵐・崇仁なり。不退転を征伐するためにここに参った。此処に一人当千の兵がいる。我と思わん者は、かかってこい!」
「どけケルベロス供。我は後続の為に道を血で舗装すべく忙しいのだ」
 五十嵐・崇仁(わん公・e27210)の啖呵を聞き流し、まるで関係ないのに出しゃばって来るなと言わんばかりのローカストの言葉に、
(「スルーですか……まぁ、一度言ってみたかっただけなのでいいんですが……」)
 崇仁が少し遠い目をし、
「一般人の虐殺等よりも、その生命尽きるまで俺達と戦え! その方が名誉ある戦いだろう!」
「……僕も全力全開でお前へと戦いを挑もう……弱い奴を、卑怯にも狙うのが君らの誇りというならそれでも良いが……どうせなら強い奴等と戦いたいだろう? ……あぁ、不退転と言いながら、強き相手から逃げる為に口実なんだね」
 ドン! と胸を叩いた藤堂・十字(全ての理は肉体に通ず・e14845)に続き、シルクハットを取った手を胸の前にやり一礼した上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)の言葉に、長い触角がヒュン! と風を切った。
「ほざくかケルベロス!」
 その間に手近な攻撃できる一般人が逃げおおせた事もあり、ケルベロス達に向き直るローカスト。
「確かにケルベロスだが、御同輩だよ。元、が付くけどね。ランヴォイア一二姉妹が六姉、スマラグダ。ケルベロスとなった今も、ヴァルキュリアとしての矜持は常に共に在る。常に誇れる自らで在り続けられる様に」
 両耳の碧い焔を揺らし、双剣の切っ先を突き付けるスマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)。
「エインヘリアルの使いっぱしりになった敗北者に、矜持も誇りもあるまい。まぁいい……命とは言え、人形を斬り刻む『作業』にも飽きて来たところだ。我、不退転のゴマダラグレアス。先に貴様らをことごとく屍に変えてやろう」
 スマラグダの言を鼻で笑ったローカスト……ゴマダラグレアスは、背にある白い斑模様が発光して不可思議の盾を張ると、顎を打ち鳴らして襲い掛かって来た。


 振るわれる触角が、いとも簡単にユタカの散布した紙兵を元の紙片に変える。
「流石、不退転を謳うだけあって攻撃が苛烈ですね。ですが、守ってみせます」
「私の矜持を鼻で笑った事を後悔させてあげるわよ」
 最後の方は口の中だけで呟いた崇仁が、切っ先で地面に紋様を描いて前衛陣に耐性を付与すると、スマラグダもオウガ粒子を放出して味方の感覚を覚醒させる。
「……来な、ローカスト」
 四季と十字に触角を振るうゴマダラグレアスの間隙を突き、In Morpheus’ Armenの裾を翻して零。
 呪詛を固めた様な漆黒の刃でその触角を斬り裂く。……しかし、その細さとしなやかな動きとは裏腹に、衝突音が響き押し返される零。
「流石に不退転の決意を持つだけあってやる様でござるな。だが、退けない決意ではこちらも同じ、負けないのでござー」
 その零と入れ代る形で、くるっと回したクナイを逆手に構えたユタカが、風を切って振るわれる触角を掻い潜って一撃を見舞い、ギロリと睨み繰り出したゴマダラグレスの顎は、フレアの撒いた紙兵を裂いただけで宙を咬んだ。そこにチェシャの放った銃弾が爆ぜ、
「やるな、ケルベロス」
 畳み掛ける様な波状攻撃に、感嘆の言葉を漏らしたゴマダラグレアスが跳び退く。
「……お褒めに預かり光栄だね。でも逃がさないんだよ」
 そう言って目を細めた零に続き、十字と四季もゴマダラグレアスに追い縋る。
「危ない、罠です!」
 崇仁の上げた声は少しだけ遅く、跳び退いたゴマダラグレアスの翅が開くと、その背からジェット噴射の様なものが吹き出し、空中から再び押し出し、虚を突かれた十字と零をその触角で絡め取っ……、
「やらせないのでござる」
「チッ、小賢し……」
 そこにチェシャが飛ばした気咬弾と共にユタカが割って入り、舌打ちしたゴマダレグレアスは2人を絡めるのを諦め、ユタカの左肩に大顎を突き立てた。
「その汚い口を離しなさいよ! 玖之秘剣ヘロヤセフ!」
 間髪入れず踏鳴を起こして一気に仕寄るスマラグダに対し、刃を突き立てるユタカに食らい付いたまま、触角を振るうゴマダラグレアス。
「なにっ……」
 だが、その触角が裂いたのは虚像であり、あらぬ方向から一撃をスマラグダに見舞われたゴマダラグレアスは、ユタカから顎を外し、見えざる障壁を張り直し、その間に崇仁やフレアがユタカに回復を飛ばす。
 初撃から、牙が折れんばかりの勢いでぶつかるケルベロスとローカスト。それは互いの不退転の意志のぶつかりあいでもあった。

「……離せよ……」
 二の腕に食い込む大顎を見て、歯を見せて笑った十字が音速の拳を叩き込むが、顎を外したゴマダラグレアスは、その拳に掠められながらも跳び退き、そのタイミングを見計らって矢を放った四季ら、前衛陣に触角を振るう。
「一つ問おう。定命化する気はないのか?」
「愚問なり」
 頬をかすめた触角に穿たれた傷口を押え、血の付いた指を見て問う四季に、ゴマダラグレアスは短くそう返し、四季に続いた崇仁とユタカにも触角を振るう。変幻自在に動く触角は、張られたエンチャントを砕き消しケルベロス達に出血を強い続けており、
「回復が追い付かない……」
 フレアが次々と紙兵を散布し、崇仁も次々と星座を描いてフレアの回復を後押し、なんとか戦線を支えていた。
「なかなかしぶといわね。でも……その足を止める!」
 その触角が零に絡み付き、引き寄せようとする隙を突いたチェシャが跳び蹴りを見舞うと、スマラグダが双剣を振るって零を絡める触角を打つが、ゴマダラグレアスは触角に絡めた零を離そうとはしない。
「考え方を変えりゃ、お前の武器も1つ封じられているという事だ」
「大いなる火龍よ、煉獄の炎により敵を焼き尽くせ……」
 十字が向けた掌と四季が向けた掌。それぞれ現れたドラゴンの幻影が乱れ絡まり、双竜となってゴマダラグレアスを焔に焼くと、流石に抗し難いと感じたのか、ゴマダラグレアスは零を離して距離をとる。
「ギギッ、侮っていた事を謝罪するぞケルベロス供……」
 ゴマダラグレアスが言うと、その体からメカメカしいパーツが幾つか剥がれ落ちる。
「気をつけて、禍々しいオーラが増しています」
 零に光の盾を飛ばしたフレアが声を上げる。言われるまでもなくその異変はその場に居る全員が認識しており、踏み込むべきか出方を窺うべきか、逡巡と共に交わされるアイコンタクト。
「待って状況が良くなる気がまったくしないわね。一斉に行くわよ」
 言うや否やチェシャは素早く抜いた銃の口を向け弾丸を撃ち放ち、仲間達もそれが合図であったかの様に次々と躍り掛かった。


「我の奥の手を見せてくれよう」
 ゴマダラグレアスは直立形態から変じて四足形態をとり、触角を巧みに振るって波状攻撃を仕掛けるケルベロス達と鍔迫り合いを演じて跳び退くと、本物のカミキリムシの如く……いや、それより速いスピードで襲い掛かり、崇仁の足にその大顎を突き立てる。
「痛ぅ……」
 ギリっと牙を噛んだ崇仁は、そのゴマダラグレアスの背にジグザグに変じた刃を突き立てようとするが、それより速く崇仁の血を散らしながら弾む様に跳ね、助けようと仕寄っていたケルベロス達を触角で薙ぐ。
「ちょこまか鬱陶しい……」
 チェシャも仕留めようと気咬弾と銃弾で撃つが、当たりはするものの、動きを止めるには至らない。それを止めたのは意外な一手。
「対象補足、簡易AI設定、浮遊機雷射出します」
 回復に専従していたフレアが、あえてこのタイミングで大量の機雷をばら撒き、それに触れたゴマダラグレアスが強烈な雷撃に晒されたのだ。
「くお……」
 苦悶に顔を歪めたゴマダラグレアスの背中、斑模様が光って回復を図ろうとするが、
「させない! あなたがバカにした私の矜持を受けなさい!」
 腕を左右に振り被ったスマラグダが、その双剣を叩き付け更なる麻痺を刻む。……が、回復を止め、カウンターで伸ばされた触角がスマラグダの左太腿を貫き、その足が鮮血に染まった。
「まだまだぁ! その身、治す事能わず」
「黒き魔槍よ……射出せよ」
 崇仁がスマラグダに回復を飛ばすのを見て、十字の放った紫色をした生命力の塊が、ゴマダラグレアスの回復を阻害し、斑模様が光を失うと、四季の放った漆黒の槍と化したブラックスライムが、昆虫採集の標本の如く、ゴマダラグレアスを地面に縫い付ける。
「綺麗に咲かせてやるよっ!」
 四肢をばたつかせるゴマダラグレアスを前に、ユタカがゴーグルを取り隠していた瞳を晒すと、その瞳に魅入られる様に、手足の動きを止めるゴマダラグレアス。そしてその耳朶を打つ詠唱。
「……生と死の境界線―希望を喰らう常闇よ―絶望を貫く輝きよ―その身を通して思い知れ―刹那の時に沈め―……黒き触手の……招来……ッ!」
 Fiamma Del Neroを紐解いた零の詠唱に呼応して宙が裂けると、現れた触手が幾重もの槍に変じ、その穂先がゴマダラグレアスに降り注ぐ。
 ……だが、それでも尚、
「おおっ、我が力及ばす此処が死地となるか、黙示録騎蝗成就、黙示録騎蝗成就を……!」
 と、トドメを刺そうとした十字と四季を触角で薙ぎ払うと、首を延ばしてユタカに大顎で食らい付……こうとしたその眉間に、クナイを突き立てられた。
「……キサマのナを聞こう」
「忍の名前など、聞いておいても仕方あるまい」
 呂律の回らない口で問うゴマダラグレアスに、そう返したユタカの視線の先、四季の放った漆黒の巨矢がゴマダレグレアスの体を貫くと、ゴマダラグレアスはそのまま地面に伏して動かなくなったのだった。

 凄惨な有様だった。
 ゴマダラグレアスの流した体液と、ケルベロス達の流した鮮血、そして哀れにも被害にあった一般人の血で、辺りの地面は赤黒く染まっていた。
 それでも、ケルベロス達は深手を負いながらも一人の脱落者も出す事なく、不退転のローカストを撃破したのだ。
 被害は最小限に抑える事が出来たと信じて良いだろう。
 ケルベロス達はヒールを施しながら、黙示録騎蝗を必ず止めてみせると、決意を新たにしたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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