黙示録騎蝗~命を捨て、命を潰す歯車

作者:質種剰


 深夜。
 しとしとと雨の降る岩場に、敗残のローカストの一群が集っていた。
 ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転のローカスト達である。
 彼らは、太陽神アポロンより、黙示録騎蝗の尖兵となって今後の戦いの為に必要な大量のグラビティ・チェインを獲得するように命じられたのだ。
 それは、単騎で人間の町へと攻め入り、多数の人間を殺して可能な限り多くのグラビティ・チェインを太陽神アポロンに捧げるという、生還を前提としない決死の作戦であった。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった! これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
 不退転侵略部隊リーダー、ヴェスヴァネット・レイダーが、声を張り上げる。
 その問いへ、隊員達は、『否っ!』と声を揃えた。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 未だ意気軒高な不退転ローカストの面々へ、指揮官ヴェスヴァネットも拳を振り上げて応える。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 このヴェスヴァネットの檄を受け、不退転侵略部隊のローカスト達は、1体、また1体と移動していく。
 不退転部隊の最後の戦いが始まろうとしていた。


「皆さん、先日のローカスト・ウォー、お疲れ様でありました! かけらは皆さんが勝たれると信じていたでありますよ!」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)は、集まったケルベロス達へそう伝えてから、
「あの時撤退していった太陽神アポロンでありますが、再びローカストの軍勢を動かそうとしているみたいであります」
 中でも、最初に動き出したのが、ヴェスヴァネット・レイダー率いる、不退転侵略部隊だという。
「太陽神アポロンは『黙示録騎蝗』の為に大量のグラビティ・チェインを求めていて、不退転侵略部隊をグラビティ・チェインを集める為の捨て駒として、使い捨てようとしているのであります」
 不退転侵略部隊は、1体ずつ別々の都市へ出撃し、ケルベロスに殺される直前まで人間の虐殺を続けるらしい。
「予知で見た場所の住民を避難させると、他の場所が狙われてしまう為、被害を完全に抑える事は不可能なのであります……」
 しかし、不退転侵略部隊が人間の虐殺を行うのは、太陽神アポロンのコントロールによるものであり、決して彼らの本意では無い。
「不退転侵略部隊のローカストへ正々堂々と戦いを挑み、誇りある戦いをするようにと説得が出来たなら、彼らは人間の虐殺ではなく、ケルベロスと戦う事を優先してくれるでありましょう」
 不退転侵略部隊のローカストは、その名の通り絶対に降伏する事は無く、死ぬ直前まで戦い続け、逃走する事も無いだろう。
「激しい戦いになると思いますが、彼らに敗北と死を与えるべく、頑張ってください」
 頭を下げるかけら。
「今回向かって頂きたい現場は大阪府の街中で、カマキリ型のローカストが凶行に及ぶでありますよ」
 その巨大カマキリは戦闘力を強化すべく改造手術を受けていて、殺傷力の高い両腕の回転鋸で攻撃してくる。
 まるで車輪のように回るギザギザの刃から繰り出されるのは、チェーソー斬り、惨劇の鏡像に似た攻撃。
 また、青い複眼からフロストレーザーを撃つ事もあるという。
 ポジションはジャマーだ。
「不退転侵略部隊は死を覚悟して戦場へ来るでありますから、降伏も撤退も望むべくもありません。人々を守る為には戦うしかないのであります。どうか宜しくお願いします……」
 かけらは説明を締め括り、改めてケルベロス達へ懇願した。


参加者
織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634)
美城・冥(約束・e01216)
トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)
揚・藍月(青龍・e04638)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
エドワード・エヴァンズ(太陽の笑顔・e26026)
マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)

■リプレイ


 大阪府の昼間。
 回転鋸カマキリローカストが、罪も無い一般人達へ兇刃を振るっている最中の商店街へ、ケルベロス達は降り立った。
「やめなさい……!」
 竜縛鎖・百華大蛇を伸ばして、カマキリの気を引こうと攻撃するのは、旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)。
 礼儀正しくお嬢様然とした清楚な振舞いを心がけているも、その仕種は艶っぽく、身の内から湧き出る色気を隠しきれぬサキュバスの女性だ。
 強者との闘いを好み戦闘に快楽を感じる戦闘狂であり、それ故か誇り高い戦士たるローカストを好ましく思っている
 回転鋸カマキリは、竜華の猟犬縛鎖に鬱陶しそうな顔をするも、一般人を斬り刻む手を休めようとはしない。
 己の苦痛よりも任務の遂行を優先していた。
 奴の意識をこちらへ向けさせるには、何より説得を試みるしか無い。
「あの戦争で戦ったローカスト達はいずれも強く、故郷・同胞の為に戦う方々ばかりでした……私は以前、一般人の少年の為――少年への虐めに怒って少年の為に戦おうとしたローカストを知っています……」
 竜華は感情を抑えて語り始めた。敵とはいえ誇りある相手へは敬意を払う彼女だけに、その物言いは丁寧だ。
「そんな誇りある彼等に比べ、貴方はアポロンの捨て駒として虐殺を行おうとしているだけ……それが本当に貴方達の名に恥じない戦いと言えますか? 誇りある戦いと言えますか?」
 竜華の言に、回転鋸カマキリがようやく動きを止めた。
「誇りある戦士であるならば、私達を倒し、グラビティ・チェインを奪ってみせなさい……!」
 竜華が凛とした声音で言い放つ後方では、織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634)が、まだ息のある一般人へ声をかけて、避難を促している。
 地球人ならではの隣人力で相手の警戒心を解くとフィルムスーツを用いたアリアドネの糸で避難経路を示して、戸惑う彼らが効率的に避難できるよう努めた帝。
 とはいえ、事前に避難経路を調べる余裕など無いので、彼女自身が戦場を奔走してルートを探している途中でもある。
 今回の事件は一般人の『被害を完全に抑える事は不可能』。なればこそ、被害を少なくする為には、一般人を逃がすより先にカマキリを説得するのが得策と言えよう。
 一般人を避難誘導する合間にも、カマキリが攻撃を続けていれば被害は増えるばかりなのだ。
「不退転、背水の陣……こうなった相手が一番怖い。何をしでかすか判らんからな」
 油断せず、そして敬意を以て、真正面から叩き潰させて戴こう。
 帝もそれに気づいたのか、回転鋸カマキリへ彼女の抱く思いを率直な言葉でぶつける。
「グラビティチェインが欲しければ、まずは我らケルベロスを相手取って見せよ、不退転の勇士よっ!」
 武人のような威風堂々たる宣言は、回転鋸カマキリの心へも届いたに違いない。
「これ以上好き勝手にはさせたくありませんわね。食い止められるものなら身を挺してでも食い止めましょう……」
 一方、トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)は、きっぱりと説得を仲間に任せ、自分は負傷した一般人を気力溜めで治癒している。
 それはそれで、やはり治療を受けている者がカマキリに攻撃される可能性もあるのと、カマキリの刃に倒れて事切れた者には効果が無い故、被害を劇的に減らすのは難しい。
「皆さん、どうぞ速やかにお逃げ下さいませ!」
 だが、隣人力と割り込みヴォイスを活かしたトウコの避難誘導は、実にテキパキとしている。こんな逼迫した事態でさえなければ、本当に犠牲者をゼロに食い止められたかもしれない。
 そう思わせる程、帝とトウコの連携は取れていた。
 互いに信頼する上司と秘書故、呼吸がぴたりと合ったのだろう。
「彼らに譲れぬものがある以上俺たちにも譲れぬ物はある」
 他方、揚・藍月(青龍・e04638)は、その線が細い外見に似合わぬ男らしい口調で決意を語り、回転刃カマキリへ近づいていく。
 青く美しい長髪と切れ長で意思の強そうな瞳を持つ、人派の美形ドラゴニアンである藍月。
 連れているボクスドラゴンの紅龍とは、強い絆で結ばれているようだ。
 そんな藍月は、カマキリの現れる地点周辺の地図及び人の混雑状況の把握に努め、避難経路や戦場を探して皆へ伝えるつもりだったが、そうこうしている間にもカマキリは一般人を殺戮している為、すぐさま説得にかかる。
「藍月という。貴殿等に武をもって挑みに来た。貴殿等は我らの挑戦を受けるや否か」
 シンプルながら迷いのないその声は、回転鋸カマキリの心へ、幾許かの揺らぎを与えた。
「戻らず、不退転。……けど、僕らにも護りたいものが有るんだ」
 相手にも共感出来るが、虐殺は許せないね。
 こちらは、プリンセスモードにて変身した姿で逃げ惑う人々を励ます、マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)。
 黄金色に輝く長い髪と病的に白い肌、理知的な菫色の目が印象的なレプリカントの美少女。
 上流家庭を思わせる爽やかなセーラー服の上から黒いケルベロスコートを羽織り、彼女の誇りと意思の象徴たるKirchenliedを携えている。
 年齢を感じさせぬ聡明さを持ち、良い事には相応の良い報いを、と考え、性善説を信じてもいる。
「同胞の為に戦うのは間違いではないけれど……その行動が虐殺では、その武が泣くよ!」
 かように大人びたマルガレーテだから、回転刃カマキリへ呼びかける声音は真に迫り、簡潔な言葉には説得力があった。
「その武も怒りも、僕が受け止めてみせるよ。来ると良いっ!」
 ディフェンダーらしく堂々たる仁王立ちを見せて言うマルガレーテの挑発は、元は誇り高い性根であった回転鋸カマキリにも、きっと響くものがあるだろう。
 マルガレーテの側では、ウイングキャットのルドルフもその目を光らせて強い視線をカマキリへ向けている。
(「帰る場所を失ったローカストさんが地球を侵略する、あの方達にとってこれは必然の選択肢なのでしょう」)
 さて、常ならぬ険しい表情でカマキリと対峙するのはニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)。
 赤いリボンで結った茶色いポニーテールの可愛い健啖家のドワーフで、なかなか身長の伸びない事が悩みだとか。
「許しません、そしてもう勝負は決した、この事を確と認識させなくてはいけません」
 にこにこ愛想の良いメイドさんたる彼女が、これ程までに厳しい態度を取ろうとするのは、非常に珍しい事だ。
「戦意の無い方を襲うのが好みですか? この言葉を痛いと感じたなら私達と戦って下さい」
 回転鋸カマキリへ強い語調で懸命に言い募るニルス。
 本当はそれ以上に言いたい事もあったのだろうが、不退転の決意であるカマキリに何を言っても通じはすまいと、ぐっと堪えた。
「聞きなさい、ローカスト兵士! 私たちがケルベロスです!」
 美城・冥(約束・e01216)は隠密服由来の特殊な気流を纏い、存在感を消して回転鋸カマキリへ近づいた。
「なぜあなた方はその刃を、無辜な市民に振るい、何故死にゆこうとしているのですか!」
 大音声で名乗りを上げ、カマキリの注意を引こうとする冥の語り口は凛々しい。
「不退転ゆえに死ななければならない、なんておかしいんですよ 命はそんなに軽いものじゃない、そんな気概が悲劇を生むんです!」
 彼自身、命の重さを最近仲間達に教えられたからか、実に含蓄のある理屈である。
「誰も無駄な犠牲になんてさせない、来なさい! その不退転の誇り、私が受けて差し上げましょう!」
 自分達ケルベロスが殲滅しきれなかったからという理由で一般人に被害を出して良い訳が無い。
 そんな憤懣遣る方無い気持ちから、冥はカマキリへ正々堂々と言い放った。
 妹の死を決して忘れまいと彼女と同じ服装に身を包む冥。
 生来の童顔もあってともすれば女性に間違われがちだが、この時ばかりは彼が本来の身の丈以上に大きく感じられた。
 それだけの気迫が、冥の説得にはこもっていたのだ。
「僕たちはケルベロス! 皆、助けに来たよ!」
 と、避難している一般人達を安心させるべく先ず声を張るのは、エドワード・エヴァンズ(太陽の笑顔・e26026)。
(「後始末はきっちり付けないとね!」)
 彼もまた、冥同様に苦い思いを抱えているのかもしれないが、そんな内心を感じさせない普段通りの笑顔を見せていた。
 長い金髪の半分程を地獄化した髪と純真無垢な瞳が特徴の、いつも明るく元気で真っ直ぐな心根の少年である。
「不退転のローカスト! 正々堂々、僕たちと勝負だ!」
 裏表のないひたむきな性格のエドワードの呼びかけには、少年らしい健やかさに満ち、欺瞞や打算を疑う余地など無いように響いた。
「この市民虐殺も本当は本意じゃないんでしょ? 最期くらい納得がいく戦いで死にたくない?」
 それでいて思慮深いエドワードだから、回転鋸カマキリの辛い立場を斟酌する優しさも持ち合わせている。
「それとも、僕たちの挑戦から逃げるのかな? 不退転部隊なのに」
 子どものエドワードにそこまで言われて、回転鋸カマキリも思うところがあったのか、潔くケルベロス達へと向き直り、
「某は……某は……決して逃げも隠れもせぬ!」
 ようやくアポロンの洗脳を振り切った様子で、その青い目から凍結光線を撃ってきた。
「そなたらの宣戦布告、しかと承った! 悔いの残らぬ戦いにこの命、捧げてみせようぞ!」
 ビキビキビキッ!
「仲間に手は出させない。僕が受け止めてみせる……!」
 すかさずマルガレーテがトウコを背中で庇い、その凄まじい冷気を我が身に浴びた。腕の表面が凍結している。


 竜華は重い鉄塊剣を軽々と振り上げ、地獄の炎を纏わせて回転刃カマキリへ叩きつける。
「貴方の誇りと命を賭けた戦い……私も全力で望みましょう……!」
 その声音は強者との――殊に誇りある戦士との闘いを楽しんでいるように聞こえる。
 カマキリの節張った腕や肩、胴の一部が焦げて、何とも言えない異臭を放った。
「……嘗て俺は、災害とも違う……人々による唯憎悪を奪う為の殺戮を許してしまった事がある」
 爆破スイッチを握る藍月の声には、真剣さが滲んでいた。
「だから……今度こそ俺は『それ』を止める」
 ちゅどん!
 色とりどりの爆発で前衛陣の士気を高めつつ、悲壮な決意を固める藍月。
 その傍らでは、
「きゅあきゅあっ!」
 紅龍が何やら叫びながら回転鋸カマキリへ体当たりをぶちかましていた。
 その様子を見て藍月が呟く。
「ああ、そうだな、如何なる理由があろうと殺戮が許されるはずはない……」
 傍目には以心伝心に見える彼らだ。
「ただひたすら、自分が正しいと思う道を進むんだ。その為の力は、此処に有る」
 マルガレーテは、地脈を通して自らの思考や感覚を伝播させ、精神感応を引き起こす。
 穏やかな燐光が辺りを覆い、己の知覚した情報を飛ばす事で仲間達の命中率を上げると同時に、自分の傷も癒した。
 一方で、彼女の意思に忠実に動くルドルフが回転鋸カマキリへ肉薄、猫引っ掻きをお見舞いしている。
「竜血により命ずる! 魂をも縛り堕とす重力鎖よ、捕えよ!」
 と、太い鎖をぶん回して回転鋸カマキリへぶち当てるのは帝。
 その鎖は超高濃度グラビティ・チェインが可視化したもので、高い命中精度により、カマキリの巨体をするすると縛め、締めつけてダメージを与えた。
「我が息は神の御息也、神の御息は我が息也。御息をもって吹けば穢れは在らじ、残らじ、阿那清々し――」
 冥は回転鋸カマキリの懐まで飛び込み、相手の視線を己が動きへ引きつけたまま、神威・双雷と神威・霊雷の二刀を振るう。
 死角より放たれし斬撃が、回転刃カマキリの背中や翅をズタズタに切り裂いた。
 他方、天空を指差したかと思うと、次いでその指を下ろし前衛陣を指し示すトウコ。
 ピシャァァン!
 その指先へ導かれるように、善なる者を護り助ける雷が天空より降り注いで、仲間の命中率を更に高めた。
「アポロンという方はあなた方に死ねと仰ったのですか? 臣下を思う主君なら、そんな酷い事、絶対に言いませんっ!」
 ニルスは回転鋸カマキリへアポロンがいかに暗君かを必死に訴えながら、強烈な一撃を繰り出す。
 大地をも断ち割るような破壊力が、回転刃カマキリの後脚を竦ませ、決して少なくないダメージを与えた。
 更に、トライザヴォーガーがニルスを乗せたまま炎を纏って突撃、回転鋸カマキリの腹を打ち砕いている。
「足を止めるよ!」
 と、髪の毛の地獄を赤々と燃え上がらせるのはエドワード。
 流星の煌めき宿したエアシューズで、渾身の飛び蹴りを喰らわせた。
 ――ゴスッ!
 重力の乗った重い蹴りが回転鋸カマキリの脚へ炸裂、機動力を奪う。
「主君の為に果てるのも忠義よ!」
 回転鋸カマキリは両前脚を振り下ろし、ニルスをズタズタに轢き潰さんとするも、
「させません!」
 今度は冥が仲間を庇って代わりに斬りつけられた。
「大丈夫ですの?」
 トウコがすぐにブレイブマインで体力を回復させる。
「貴殿等は良かったのか? アポロンの愚策に使い潰される今で、それとも……それも忠義か?」
 言っても詮無き事か、と嘆息してカマキリを水球に閉じ込め、刃を刺し通すのは藍月。
「恥でも何でも武器を捨てて生きましょうよ……殺し合いなんて、悲しいです……」
 ニルスはとうとう抑え切れなくなった本音をぶつけながら、ゼログラビトンを仕掛ける。
「貴方の事、私は忘れはしません……炎の華と散りなさい!!」
 竜華は、真紅の炎纏いし鎖8本を操り、それぞれ別方向から回転鋸カマキリを串刺しに貫いて動きを封じる。
 締めにはオーラを纏った爪や剣でカマキリを容赦無く切り裂いた。
「吹き飛んじゃえ!」
 精神を極限まで集中させ、カマキリの顔面を遠隔爆破するのはエドワードだ。
「……そうか。ならば、貴様の忠義へ我も礼儀を尽くして、全力でもって殺してやるぞっ!」
 ローカストへ畏敬の念を抱く帝は、彼女ならではの真摯な姿勢で熾炎業炎砲をぶっ放し、ついに回転鋸カマキリの息の根を止めたのだった。
 ケルベロス達は一斉に戦場跡の修復に努めるも、街がみるみるうちに綺麗になるにつれて、失われた命が戻って来ない現実が胸に重くのしかかってくる。
 それでも、彼らが回転鋸カマキリを正々堂々と戦うよう説き伏せたからこそ、一般人の犠牲は闇雲に増えなかった。
「死を強いる指導者なんかに真実なんてないのに……」
 哀しそうに呟くエドワードが、回転鋸カマキリと彼に殺された数人の一般人へ、黙祷を捧げる。
(「誇りある戦いに殉じる、そういう生き方もあるのでしょう。でも、誰の血も流さず穏やかに日々を過ごす生き方……そんな選択肢は、無かったのでしょうか……」)
 同じく黙祷するニルスの瞼から、堪えきれず涙が零れ落ちた。
 藍月も紅龍も静かに彼らの冥福を祈った。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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