黙示録騎蝗～切り裂くモノ

■リプレイ

●神の意志と誇り
　和歌山県和歌山市の繁華街。
　ほんの数分前までは、普段通りの日常だった。
　それが一変したのは、緑色の輝きを纏ったカマキリに似たデウスエクスが飛来してからだ。
『彼』グリンリッパーは、何も言わず、その緑のレーザーを物質化した鎌を大きく一閃すると、人々に死を与えて行った。
　恐怖する人々の悲鳴を無視するかのように機械的に……。
　その時、視界を遮る様に辺りがガスで覆われる。
「なんだ……」
「曰く、戦いは足が八割、打が二割。そいつを極限まで追求すると、こうなる」
　グリンリッパーが突如現れたガスに言葉を漏らすと、ガスの向こうから人の声が聞こえて来る。
　次の瞬間、ガスの中から現れた、黒谷・理（万象流転・e03175）は、神速の踏み込みで、グリンリッパーの懐に飛び込み、強烈な一撃を与える。
「『仲間の為に命をかける』そのガッツは認めるぜ。戦士としちゃあ、敬意を感じる……お前らの気概は嫌いじゃねえ。だが、こっちもそうは言ってらんねえしな」
「……ケルベロスか」
　理の言葉にほんの少しだけ反応するも、グリンリッパーは理の後ろに見える人々に向かって、飛翔する鎌を振る。
「止めろ！　俺は、村雲左雨、俺があんたの相手になるぜ。手合わせ願おうじゃねえか！」
　叫ぶように言うと、村雲・左雨（月花風・e11123）は、爆破スイッチを押しカラフルな爆発を起こす。
「脅え、逃げ惑う者を狙い、あなたに戦いを挑まんとする者を無視するのがあなたの本意ですか？　オウガメダルを保護する時に戦ったローカストとは随分と様子が違うようですな。違うというなら一手、手合わせ願いましょう」
　逃げ惑う人々とグリンリッパーの間に入り、御業を編みながら、林崎・利勝（影として・e03256）がそう口にする。
「お前が、グリンリッパーか。俺は、ゼフト。お前と力比べをしに来たぞ。もちろん、勝敗はどちらが死ぬまでだ」
　人々に勇気を与える様に姿を変えながら、ゼフト・ルーヴェンス（影に遊ぶ勝負師・e04499）も名乗りを上げる。
（「本当は、騙し討ちやイカサマの方が得意分野なんだがな……正々堂々はどうも慣れん」）
　心の中で呟きながらもゼフトは、グリンリッパーを睨み据える。
「アンタはグラビティ・チェインが欲しいから一般人を殺そうとする。だが俺らは、それを防がなきゃならない。だから俺達は、あんたに真正面から戦いを挑む。数が多いのはハンディキャップでいいだろ？」
　天谷・砂太郎（は一般人・e00661）が挑発する様に言う。
「戦いの前に名乗らせてもらう……。俺は螺堂セイヤ……。おまえ達は、部隊の名に恥じぬ戦いを望んでいると聞く……。それが、一般人を虐殺して回るとは……。それが本当に部隊の名に恥じないと言えるのかっ！」
　辺りに横たわる人々、流れる鮮血を視界に入れ、激情を抑えきれず、螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）が叫ぶ。
「わたしは神竜に仕えし巫女、ミラン・アレイ！　誇り高き魂を持つ貴方にわたしたちは決闘を申し入れます！　いざ尋常に刃を交えんことを！」
　星剣『スターメイカー』の切っ先をグリンリッパーに向けながら、ミラン・アレイ（蒼竜・e01993）は強く名乗るが、心の中は悲しみで溢れていた。
　依頼を受けた時点で『全ての人を救うことは出来ない』とハッキリ言われていた。
　覚悟もしていた。
　だが、実際に死した人達を見てしまえば、救えなかった命を割りきることなど出来なかった。
「以前来た、メガルムというローカスト。彼の御仁は、確かな意思と覚悟の元に正面から闘い、最後まで誇りを持ったまま、戦い抜いたと聞いているであります」
　きつくグリンリッパーを睨みながら、クレンセント・アルバトロス（ヴァルキュリアアーミー・e26594）が、不退転侵略部隊の死した隊長『ヘルクレスト・メガルム』の名前を口にする。
　その時、一瞬だけグリンリッパーの表情が変わった様な気がしたのは、利勝の思いすごしだっただろうか。
「目の前の敵を無視して行く、それは不退転の覚悟と言えるでありますかな？」
　クレンセントの言葉は聞こえているのだろうが、グリンリッパーは新しい鎌へ更にグラビティ・チェインを込めて行く。
「貴公らにメガルムに劣らずの覚悟と誇りがあるなれば、その誇りで我らの誇りを打ち砕いてみるであります！」
「アポロンの言うがままに、逃げる人々の背を狙う。そんなことで先に散って行ったローカストたちに顔向けできんのか？」
　クレンセントの言葉に続く様に、左雨も言葉を紡ぐ。
「ナイト・シーカーを知ってるか……？　ヤツはあの戦争で最後まで誇りを持って戦い、そして散っていった……。それに対し、今のおまえは何だ？　部隊の名に恥じない戦いを望むというなら、誇りを持って俺達を倒してみろっ！」
　セイヤが強く叫んだ時だ。
　グリンリッパーの腕が大きく振られると、ケルベロス達に鋭い鎌の衝撃が走る。
「見くびるなケルベロス！　私は誇りある不退転侵略部隊が一人、グリンリッパー！　同胞と同じ覚悟が無いと思うか！　死など先刻承知！　誇りを汚されるならば、この一時だけ私は神に背こう！　我が誇り、お前達の目に焼きつけろ！」
　退かぬ事を知らぬ戦士『グリンリッパー』は、ケルベロス達との誇りある戦いを選んだ……神『アポロン』の意に反して……。

●グリンリッパー
「多勢に無勢は卑怯か？　だが、沢山のお前の同胞を殺したのは、俺達ケルベロスだ。無念を晴らす為にも１人でも多くのケルベロスを殺した方がいいんじゃないか？　勝てればの話だがな……！」
　捕食の形をとった、ブラックスライムを放ちながら、ゼフトが言えば、グリンリッパーは、低い声で答える。
「ローカストの兵は誇りを持って戦い、そして敗れただけ。負ければ死ぬのは理。この戦いの意義は私の誇りを護り抜く事にあり！」
「俺達も負けるワケにはいかない……。全力で相手をさせて貰う……！」
　流星の軌跡を描きながらグリンリッパーに蹴りを放ち、セイヤが言う。
「名乗るのが遅れたな、ケルベロスの黒谷。……地獄への案内人だ。地獄へようこそってな」
　己が拳に魔を降ろすと、理がグリンリッパーの緑の装甲を打ちすえる。
「俺は一本気な奴は、嫌いじゃない。だがここには、お前達の居場所は無い。……お引き取り願おうか」
　砂太郎は、グリンリッパーに銃口を向けた瞬間、引鉄を引く。
「私を舐めるなよ、ケルベロス。リッパーの名は伊達では無い！」
　セイヤに向かって、グリンリッパーの鎌が振り下ろされるが、溢れ出る鮮血はセイヤのものでは無く、咄嗟に庇った左雨のものだ。
「アンタの刃は、俺に向けてもらうぜ」
　左雨は、纏った縛霊手に炎を帯びさせると、鮮血を散らしながら炎の拳をグリンリッパーに叩きつける。
「慈悲深き神竜の御業を以ってキミを癒すよ！」
　胸元で両手を組み、竜の星印を形作ると、ミランの身体に神竜の力が降臨する。
　神竜の力は、聖なる光となって、左雨の流れる血を止める癒しとなる。
「傷ついてもわたしが治してみせるから！　みんなは戦いに全力を尽くして！」
　ミランの叫びは、街の人々も仲間達も、もう誰一人として死なせないと言う誓いそのものだった。
「推して参るであります！」
　クレンセントは、旋風を起こしながら回転すると、鋭い蹴りをグリンリッパーの首元めがけて放つ。
（「自分達との戦いを選んだ以上、人々に危害は加えない筈。ならば、我々がこの戦いに勝利するのみであります」）
「クレンセント君！」
　自分の名前が聞こえると、すぐにクレンセントは大地を蹴る。
　グリンリッパーの前から、クレンセントが消えると迫って来るのは、利勝が御業を炎として構成した炎撃だ。
（「残されたローカストは、もう帰還できない状況。……なりふり構っていられませんよね。生きる為にグラビティ・チェインが必要なのは分かりますが、その為にこのような蛮行に及ばれると流石に止めざるを得ませんね。アポロンの意志ですか……」）
　ローカストを支配する神の意志。
　統合王と言われた、ジューダスすら逆らうことが許されなかった、神の意志。
（「厄介ですね……。それでも私達がやるべきことは……」）
「手を緩めず、参ります」
　敵を捕縛する意志を御業に込め、利勝はグラビティ・チェインを高めていった。

●不退転
「回復支援が、戦局の流れを変えることだってあるんだよ！」
　言葉と共に、星の力を借りた聖域を作り出すミラン。
「回復など無駄だ！」
　吠える様に言うと。グリンリッパーは理を両手の鎌で十字に裂く。
「回復支援行きます」
　言うと利勝は、符で折った鐘を空中に投げ、仲間達を癒す鐘の音を響かせる。
（「もう随分ダメージを与えている筈なのに」）
　次のヒールグラビティを放つ為の、グラビティ・チェインを高めながら、ミランがグリンリッパーの負傷度を量る。
　戦闘を開始して、ゆうに１０分は経っていた。
　確かにグリンリッパーの戦闘力は高かった。
　だが、ミランが回復に徹する事で、可能な限り仲間達の体力を保っている。
　それに引き換え、グリンリッパーに回復手段は無い。
　戦闘が長引けば長引く程、グリンリッパーの装甲に新しい傷が増え続ける。
　それでも、グリンリッパーは一歩も引かず、猛攻を続けている。
（「不退転の意志なんだね……。けど、目には目を不退転には不退転を、だよー。みんなを守りたいっていう不退転の意志、見せてあげるよ！」）
「ジャマーと聞いていたが、攻撃力も十分あるじゃねえか……チッ！　清めの炎を其の身に受けよ」
　バックステップで、グリンリッパーとの距離を取りながら、左雨が浄化の炎を呼び出し、仲間達の動きを阻害するグラビティの流れを断ち切る。
「おい、まだいけるか？」
　左雨が相棒のボクスドラゴンに聞けば、強い瞳でブレスを吐き出す。
　仲間達を庇い続けることで、左雨のボクスドラゴンの身体は傷つき、次に重い一撃を受けてしまえば、倒れてしまうのではないかと言う程だ。
　それでも懸命に仲間の一員として、最後まで戦場に立ち続けようと、脚を踏ん張っているのだ。
「あいつも、無傷じゃねえんだ。絶対勝つ」
　口元に笑みを浮かべながら、左雨はボクスドラゴンに声をかける。
「うおらあ！」
　叫ぶと、流れる様な蹴りを力の限りグリンリッパーの装甲に叩きつける砂太郎。
（「俺の火力の限りをぶつけてるのに、一歩も退かないとは……。不退転とはよく言ったものだな。それでも負けられないぜ！」）
「てめぇの刃も十分鈍らせたはずだぜ」
　精神力そのものをグラビティとしてぶつけながら、理が言う。
「私達には勝利しかないのだ！　退く事など無い！」
「ったく、面倒くせぇな」
　そう口にしながらも、理にもグリンリッパーの覚悟、そして誇りが分かっていた。
　だからこそ……。
（「終わらせてやんねぇとな」）
「強いでありますな。そして一つ一つの攻撃から感じる決意」
　妖刀『姫紫』に手をやりながら呟くと、クレンセントは息を吐くように笑う。
「ふっ……けれど決意なれば、こちらも負けてはいないでありますよ！　姫紫が一閃、括目せよであります！」
　一気に間合いを詰めると、クレンセントは姫紫を抜刀する。
　その刀身は紅に染まっており、放たれた剣閃は雷を帯び、グリンリッパーに更なる拘束を与える。
「同胞を倒した力は、その程度かケルベロス！」
「一寸の虫にも五分の魂とは言うが、まさか誇りを持つ虫もいるとは……いやはや世界は広い」
　グリンリッパーの言葉を茶化す様に、ゼフトが言う。
「じゃあ、俺とゲームを始めよう。運命の引鉄はどちらを選ぶかな」
　いつの間にか、グリンリッパーの真横に立ったゼフトは、グリンリッパーの眉間にリボルバーの銃口を当てると、ゼロ距離で引鉄を引いた。
「ぐお！」
　その隙を、ケルベロス達は見逃さない。
　セイヤの降魔刀『叢雲』が奔り、利勝のナイフがグリンリッパーに枯れ果てたレギオンレイドの幻影を見せる。
「負けられぬのだ！」
　グリンリッパーの鎌の先がミサイルとなって、ミランを襲うが、その射線上で理がそのミサイルを受けると、そのままグリンリッパーに駆け寄り、己が拳を叩き込む。
　理の傷は、左雨のボクスドラゴンが自らの属性を注ぐことで癒される。
　相棒の動きを確認しながらも、左雨は敵に喰らいつくオーラを振り絞る様にグリンリッパーに向けて放つ。
　ミランが竜の幻影を撃ち出せば、同じ早さで全身を光の粒子と化したクレンセントがグリンリッパーに突撃する。
「そろそろ、チェックメイトだな」
　影を纏った様にグリンリッパーに忍び寄ると、ゼフトは得物のトランプでグリンリッパーの喉元を切り裂く。
「あんたとはこういう形で無く、もっと違う形で戦いたかったよ」
　砂太郎はそう呟くと、大気中の静電気を自らに帯電させ、拳に凝縮する。
「マッサージなんて比じゃないぜ、弾けて爆ぜろ！」
　猛き雷神すら思い起こさせる雷を拳に乗せ、砂太郎はグリンリッパーの装甲を撃ち抜く。
「おまえ達の事は、決して忘れはしない……。同胞の為に最後まで戦おうとした、本物の戦士として……。だから、これで眠れ！」
　漆黒のオーラを纏ったセイヤの右腕は黒竜の形を成し、グリンリッパーの全てを喰らおうとその顎を開く。
「打ち貫け！　魔龍の双牙ッッ！！」
　黒竜がグリンリッパーを打ち砕く瞬間、セイヤは見た。
　ほんの一瞬……グリンリッパーの口元が笑みの形を作った様を。

●『黙示録騎蝗』
「見事な覚悟、と申しておきます。手合わせありがとうございました」
　横たわるグリンリッパーに、利勝がデウスエクスとしてでは無く、誇り高き戦士としての彼にそう言う。
　グリンリッパーは僅かに息をしていたが、死するのも時間の問題だった。
「何か言い残す事はあるでありますかな？　その言葉、然りと胸に刻み込んでおくであります」
　クレンセントの言葉にグリンリッパーはゆっくりと口を開く。
「……戦士として死ねる事を感謝する。最後の瞬間、私は神の呪縛から解かれ、不退転の戦士として戦えたのだ。……私が奪ったものは戻らぬが、それが『黙示録騎蝗』だ。お前達も覚悟を決めることだ。……私達の神に慈悲など無いのだから……」
　そう言うとグリンリッパーは、永遠の眠りについた。
　理は誇り高く戦った戦士に敬意を込めて拳礼を捧げる。
「犠牲者を確認しよう……」
　黙祷を解くと、セイヤが仲間達に言う。
「……怪我した人達をヒールしなくちゃ」
　ミランは避難した人々の方へと駆けて行く。
「折角、和歌山まで来たのにな……血が流れすぎたな……」
　砂太郎の言葉にケルベロス達が苦い顔をする。
　グリンリッパーこそ倒したが、死した人は蘇らない。
　アポロンの暴走を止めない限り、犠牲者は更に増えていくだろう。
『黙示録騎蝗を終わらせる』
　ケルベロス達の胸には、その思いが強く残ったのだった。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
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