黙示録騎蝗~死出の旅路

作者:白石小梅

●出撃
 時は深夜。雨の滴る岩場。
 群れ集う蟲人の目が薄く光っている。
「戦いに敗北してゲートを失ったローカストは、最早レギオンレイドに帰還する事は出来なくなった!」
 ヴェスヴァネット・レイダーと呼ばれるローカストが、声を張り上げる。語り掛けるのは、機械的な改造を施された同志たち。
 その名を、不退転侵略部隊。
「これは、ローカストの敗北を意味するのか?」
『否っ!』
 声を揃える隊員。
 その中に、蜉蝣を模した形状の機甲兵が一人。
(「太陽神様から与えられた僕らの任務は、これからの闘いに必要なグラビティ・チェインの確保……望んだ闘いとは、少し違うけれど……」)
 周囲から、次々と荒い声が上がる。
「不退転侵略部隊は、もとよりレギオンレイドに戻らぬ覚悟であった」
「ならば、ゲートなど不要」
「このグラビティ・チェイン溢れる地球を支配し、太陽神アポロンに捧げるのだ」
「太陽神アポロンならば、この地球を第二のレギオンレイドとする事もできるだろう」
「その為に、我等不退転ローカストは死なねばならぬ」
「全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
「おぉぉぉ!」
 雄叫びに合わせ、蜉蝣の少年兵も涙を拭って胸を張る。
(「僕たちは死んで黙示録騎蝗の尖兵となり、可能な限りのグラビティ・チェインを太陽神様に捧げるんだ!」)
 ヴェスヴァネットが、拳を振り上げてそれに応えた。
「これより、不退転侵略部隊は、最終作戦を開始する。もはや、二度と会う事はあるまいが、ここにいる全員が、不退転部隊の名に恥じぬ戦いと死を迎える事を信じている。全ては、黙示録騎蝗成就の為に!」
 この檄を受け不退転侵略部隊の最後の進軍が始まる。
「不退転侵略部隊員、エフェメラ! 行ってまいります!」
 蜉蝣の少年兵もまた最後の別れを告げる。ヴェスヴァネットは、少年兵の肩を優しく叩いて送り出した。
 黙示録騎蝗、不退転侵略部隊。
 その最後の戦いが始まろうとしていた……。
 
●黙示録騎蝗の再開
「ローカスト・ウォーの勝利、おめでとうございます。敵総司令官ジューダスは討ち果たされ、皆さんは史上初のゲート破壊に成功。めでたい限りです」
 望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)は笑みを浮かべて、予知で覚えた嫌悪を覆った。
「さて、お祭りの後はお片付けの時間です。敗残の民族を引き連れて破滅の一途を突き進むハーメルンの笛吹男が動きだしました」
 居並んだケルベロスは皆、それが誰のことか良く知っている。
「太陽神アポロン。彼は黙示録騎蝗の継続のため、大量のグラビティ・チェイン収奪を計画。敵将ヴェスヴァネット・レイダー率いる不退転侵略部隊を玉砕させるつもりのようです」
 不退転侵略部隊は散開して潜行。一体ずつ別の場所で、命尽きるその瞬間まで虐殺を続けよと命を受け、解き放たれてしまったという。
「悔しいですが、先手を打たれました。今から下手に避難を行っても、素通りされて虐殺位置がずれるだけです。とにかく、駆けつける以外にありません」
 小夜はため息を落として言う。
「彼らが虐殺を行うのはアポロンの命と扇動によるものであり、彼らの本意ではありません。彼らは本来『仲間の未来のため、誇り高く敵と闘って死ぬ』運命を選んだ戦士。ですが、そのズレが付け入る隙でもあります」
 不退転侵略部隊に対してケルベロスの側が正々堂々と闘いを挑み、誇りある闘いをするよう上手く心を煽れれば、彼らは人間の虐殺をやめてこちらとの闘いに集中するという。
「どちらにせよ彼らはその名の通り、降伏も逃走もせず、死ぬまで闘います。今回の任務は、この不退転侵略部隊の撃破となります」
 
●蜉蝣・エフェメラ
 敵と場所の情報は。その問いに、小夜は頷いて。
「虐殺の起こる場所は島根県出雲市。夜間ですが、まだ車通りのある大通りです。敵は蜉蝣型の昆虫人間一体ですが、不退転侵略部隊は戦闘能力の向上のため、無理な強化手術を受けて昆虫と機械を合わせたような姿となっています。翅は大きな硝子状になり、イルミネーションのように全身を発光させるようですね」
 その鋭い硝子翅と破壊音波。目に焼き付く幻影を駆使して攻撃してくるという。
「彼らは無理な改造により、地球の環境はもとより母星でさえ長時間生存できない個体です。その道を選んだのは彼ら自身とはいえ……この度予知された個体は、精神的にまだ幼い少年兵のようなのです」
 小夜は嫌悪に顔を歪める。
「若者の純真さを煽って尖兵として利用し尽くした挙句、玉砕を命じるとは。アポロンのやり口には、反吐が出ます。せめて今回の敵には闘いの中で、死んでもらうといたしましょう」
 それでは出撃準備をお願い申し上げます。
 小夜はそう言って、頭を下げた。


参加者
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)
ナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
空木・樒(病葉落とし・e19729)

■リプレイ

●業炎
 大きな道路をひた走る、八人のケルベロスの影。
「子供の純真さを利用する非道……敵とはいえ許し難い所業ね。けれども戦は始まった。お互い引く事は許されない……」
 呟きながら、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が殺界を展開していく。これで、後方からやって来る車の流れは迂回するだろう。新たに一般人が迷い込むことはない。
 だが。
 歯を食いしばったランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)の視線の先では、赤い光がちらちらと道路を彩っている。
(「忠誠こじらせ系か……多摩川を思い出すぜ……。真っ直ぐ進もうが道を外れりゃ外道に堕ちるってのによ……」)
 前方に滞っている多数の車。逃げ惑う人々の悲鳴。
 救出の、強い決意の中でも、僅かに迷いを走らせる仲間たちを横目に、空木・樒(病葉落とし・e19729)は思う。
(「可能な限り被害を出さない。重要な点はそれだけ。此度の任務こそ、心痛まぬわたくしのような外道が率先して動く領分。急ぐとしましょう」)
 現場は、すでに戦場と化している。
 逸る心を抑え、番犬たちが跳躍する。

「太陽神アポロンの御名において!」
 主への賛美を唱えながら、様々な色に煌めく翅の幻影が周囲を薙ぎ払う。血飛沫と共に人は倒れ、車両は爆破してくるくると宙を舞う。
 子供を抱きしめる母親へ、一台の車が降り注ぎ……。
「そこまでにしておけい」
 瞬間、空中で車両が二つに割れた。ナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263)が、親子を翼で包み込んで破片から守る。
「……!」
 蜉蝣が、こちらに向き直る。一般人にも目につくように、車の上に飛び乗ったのは木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)。リリーと共に、その装備をそれぞれのモードに輝かせ、現場の視線を集めつつ。
「誰が呼んだか流浪のキッド。お呼びとあらば即参上!」
 ボクスドラゴンのポヨンは怪我をした人々のところへ走り、一般人たちは一目でそれと分かるケルベロスの登場に、僅かに勇気づけられたようだ。一瞬の沈黙の後、助け合って逃げだし始める。
 蜉蝣の視線がそちらへと移るのを許さず、リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)が進み出て。
「やぁやぁ! 音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは、ケルベロスにして地球の守護者、リモーネなり! 戦う術を持たぬ民を虐殺する事が汝らの正義か! 少しでも誇りがあるならば、正々堂々と勝負せよ!」
「……ケルベロスか! 今は、お前たちに構っている暇なんてない!」
 言いながらも、蜉蝣はこちらを無視できていない。
 本質としてはここで闘いたい。しかし、任務がある。
 その逡巡を逃さぬよう、鋼・柳司(雷華戴天・e19340)が重ねて問う。
「その改造を重ねた姿、ローカスト不退転部隊の者だな? 最期の瞬間まで戦い抜いた黄金の不退転ローカストに連なる戦士よ、誇りが有るならば正面から戦って欲しいものを勝ち取るが良い」
 迷いを払い、身を翻そうとしていた蜉蝣が、ぴたりと動きを止める。
「あの人達は……最後まで闘ったのか」
「ええ。とは言え、私もまた聞きに過ぎませんが……」
「その最期は見事であったと聞くぜ!」
「力無き民を襲うしか出来ないなんて、先達はどう思うかしらね、少年」
 リモーネとランドルフ、そしてリリーが結んだ言葉に、蜉蝣が振り返る。
 最後の一押しは、別の切り口から。
「おう、餓鬼が勝てなかったからって無抵抗の市民をいたぶる真似かよ! 指揮官やら神やらのお里も知れるってェモンだなァ!」
 ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)の言葉に、闘いを受ける動機を見出したのだろう。蜉蝣の翅が輝いた。
「太陽神さまや、不退転ローカストを愚弄するのは許さないぞ! ケルベロス!」
「悔しかったら。手前ェに誇りってェモンがあンのなら……かかってこい。受け止めてやる」
 蟲の羽音に似た駆動音を響かせて、蜉蝣は飛びあがった。
「いいだろう! 不退転の覚悟を、見せてやる! 僕の名はエフェメラ! 正々堂々、勝負だ!」
 翅が輝き、八人の影が戦場に散る。
 虐殺は終わり、そして闘いが始まった。

●いくさ火
 すでに、現場から一般人は離れた。樒がスーとポヨンという二匹のボクスドラゴンと共に、人々を戦場外へ送り出している。
「俺らに勝ったとしても、もう命は長くないと聞いておる。これが最後じゃ。誇り高く、勝負と行こう」
 スーの主人、ナギサトは色とりどりの幻翅の斬撃から仲間を庇って見せる。
「どうだ!」
「なんの、まだまだ。こちらの番じゃな。見切ってみせい!」
 挑発を交えつつ、抜き打ちに剣閃を走らせる。斬霊斬が当たるものの、体の内部まで改造してあるのだろう。響くのは、硝子質の高い打音。
「こちらも譲れない戦いだ。だが、もしお前が勝ったなら……その時は誇ってくれ。それが敗者への手向けってもんだ……辞世の句は詠み終ってるか? 行くぞ!」
 そう言うは、ケイ。閃いた剣閃は桜吹雪となり、発火を伴って硝子の蜉蝣に傷を穿つ。
「堂々と挑んできたケルベロスがいたことは、覚えておいてやる!」
 蜉蝣の複眼から表情は読み取りにくいが、跳ね回るような動きは、どことなく……。
(「虐殺している時と、全く動きが違う。まるで……」)
(「……サッカーでもしながらはしゃぐガキそのものだぜ」)
 そう思うのは、リリーとウォーレン。前衛に耐性の加護を施し、穿たれる呪いへ布石を張って。
 己の中に滲む迷いを掃い、進み出るのはランドルフ。
「そうだ! お前が虐殺者ではなく『戦士』なら! 詠え! 聴かせろ! お前の『魂』の叫びを! 響きをッ!」
「言われなくても!」
 分身を施した移動術でエフェメラを翻弄しつつ、銃弾が輝く翅と馳せ合って。
 それを横目に見ながら、前衛に走った痺れを祓うのは、樒。
「……一般人への攻撃が任務であったことなど、もう忘れ去っていますね、あれは」
 いちいち返ってくる返事。釣れば釣るほど、戦闘へのめり込む態度。冷徹に任務を遂行する暗殺者の視点で見るならば、敵の行動は付け入る隙だらけだ。
「ケルベロスも少年兵という部分で他を非難できる組織では無いが……それでも、未帰還が前提とはやるせないものだ。負けるわけにはいかない、が……」
 治癒の電磁波を受けながら、柳司が呟く。
 せめて最期は一人の戦士として、悔いのない最後を遂げさせてやりたい。時世に翻弄されながら、最前線で干戈を交える者同士として。
 今回の面々の多くはそう思っている。
 樒の表情は変わらないが、それでも仲間の想いは感じ取っている。
「ご安心を。わたくしが居る限り、皆さんは決して崩させはしませんよ」
 その言葉に頷き、柳司は闘いに飛び込んでいく。
 鋭く息を吐き、飛び回る蜉蝣の下に潜り込むと跳躍。それはそのまま、蹴りとなって蜉蝣の態勢を崩す。
 くるりと受け身を取ったエフェメラ。しかし。
「焔立つ、夏の夜空に……」
 その背後には、すでにリモーネが身構えている。
「……!」
 三又の稲妻のように閃いた突きが、態勢の崩れた蜉蝣を刺し貫いて。
「……稲光。お粗末でした」
 弾き飛ばされた蜉蝣は車をひしゃげさせながら激突する。
 しかし前衛が追撃に飛び込もうとするや否や、破壊の音色がその周囲を打ち据えた。
 とっさに前に出たのは、ウォーレンとスー。仲間たちを庇い、細かな傷を刻まれつつも、受け身を取る。
「へっ……この程度じゃヘコたれねェか。そうこなくっちゃなァ」
「もちろんだ……僕は、負けない!」
 激しく打ち合う主人を援護すべく、ポヨンが己の属性で心惑わす呪縛を祓う。
 しかし、催眠の呪縛とは違う迷いは、仲間たちの心に揺蕩っている。


 ぱちぱちと、火花を散らしていた街灯が、沈黙する。
 闘いが始まって、しばらくが経った。
「さあ、どうした! 俺達の首を持ってあの世へ逝くんだろうッ! 只ではくれてやれんがなッ!」
 ランドルフの熱い叫びに共鳴した銃弾が舞う。蜉蝣の翅が弾かれ、その硝子質にひびが入るも、それでも負けじと七色に明滅する。
「ぐぅ……! この威力!」
 心を穿つ焼き付きがランドルフを庇ったナギサトを苛み、幻影となって立ち上る。
 得意になった蜉蝣は身を翻し、ウォーレンと柳司に向き直る。
(「……威力はなかなか。幻影も、まともに相手をすれば厄介極まりなかろう。だがな」)
 しぶとく重ね続けた浄化を促す耐性が発動し、三体現れた幻影もすぐさまその身を細らせていく。とどめを刺すように、樒の分身がナギサトを覆い、幻影たちを祓い飛ばした。
「あの翅が如何に優れようとも、あれでは勝ち目はないでしょう。あの未熟な闘い方は、戦場では一切通用しません」
 冷ややかな評価を、樒が呟く。ポヨンはこの隙にすでにウォーレンを癒しに向かい、スーもまたリモーネに耐性をもたらしている。
「まぁ、言うてやるな……」
 冷静に闘っている者たちは、すでに気付いてしまっている。
「ケルベロス、リリー……推して参るわ! あの黄金の不退転戦士に名を連ねる誇り高きローカスト戦士と闘えるなんて、光栄よ!」
 努めて熱く振る舞うリリー。その蹴りが蜉蝣と打ち合うと、彼の標的はくるりと彼女に代わる。何故、支援型ジャマーであるリリーが攻撃に回り始めたのか、その思案はない。
(「耐性は行き渡った。流れは掴んだわ……」)
 そう。すでにこちらには、支援に回るべき者が攻撃に回り始める余裕が生まれつつある。
「どうした! 不退転部隊ともあろうものが戦いから逃げるのか?」
「そんな真似するか!」
 ケイの挑発に乗り、翅から無数の斬撃が飛び散る。それは後列を薙ぐものの、ケイは構わず飛び込んだ。
「武士が敵に情けを掛けられるは恥……そうですよね」
 横から合わせて飛び込むのは、リモーネ。
 絶空斬。二つの剣閃が、重なり合って蜉蝣を斬る。翅のみならず、蜉蝣の体にひびが走る。
(「避けられない戦いになっちまった以上、中途半端はよくねえよな。誇りある戦士として死なせてやらなきゃな」)
(「迷うわけにはいきません。彼は……この惨状を作り出した張本人なのだから」)
 挑発的説得を試みたものが少数であれば、そこに攻撃が集中しエフェメラは厄介な敵となったろう。
 しかし、ケルベロスたちはほぼ全員で彼の誇りを煽った。結果として、エフェメラは煽られるたびに標的をずらし、その呪縛を分散させてしまった。
「くっ……うぅ」
 ぜいぜいと息を弾ませながら、エフェメラはひびの入った体を起こす。その痛々しい姿に眉を寄せつつも、立ちはだかるのは柳司とウォーレン。
「ここに呼び寄せたのは一人一人が熟練の傭兵だ……戦場の空気ってェのを教えてやらァ!」
 ドッグタグを握り締めたウォーレンの周囲に展開しているのは、傭兵たちの亡霊。
「舐めるなぁあ!」
 敵は咆哮と共に飛び込んでくるが、足止めは体中に回り、もはや身軽な動きもままならない。亡霊たちの弾雨の中を、硝子の砕けていく音と共に突撃する。
 それでもなお、その翅の残りが輝いた。
「受けて立とう。雷華戴天流、絶招が一つ……」
 斬撃が繰り出されるその瞬間。その懐に潜り込んでいるのは、柳司。
「……!」
「迅雷拳!」
 放たれるのは、神速のカウンター。腹底まで響く衝撃に、硝子が割れる決定的な音が響く。
「あ……」
 小さな叫びと共に、蜉蝣は遂に砕け散る。破片がきらきらと舞い、蜉蝣は腹部と翅を失って、滑落した……。


 闘いは終わった。ケルベロス側に犠牲はない。完勝だった。
「負け、ちゃった……僕、情けない……ね」
 エフェメラはその体のほとんどが砕け散り、すでに抵抗する力はない。その傍には、敵の最後を見届けるべく、男たちが寄り添っている。
「そんなことはない。不退転侵略部隊、ここにあり。そう言われるに相応しい闘いだったぜ」
 そう言うのは、ケイ。
「ああ。今回は数もあって俺たちの勝ちだったがよ、次やったらわかンねェだろ! ちょいと、休憩しようや。目ェ覚めたら、またやろう」
 ウォーレンは、その隣に座り込んで。
「そう、かな……うん。次は……負けな、い……」
 次など、あるはずもない。それでも、ホッとしたようにエフェメラは体の力を緩めた。瞳から光が落ち、その体が完全に砕けて散る。
 それを見届けて、ナギサトはため息を落とした。
「国として、世界として。死にもの狂いなんじゃろうな、ローカストも。……昔の大戦も、こういう感じじゃったんじゃろうか」
 ウォーレンが、大地に拳を叩きつけて。
「まだ、ガキじゃねェか……! 親御さんの温もりが恋しい年頃だろうが……あの煽動屋だけは、許さねェ……!」
 その隣でランドルフはそっと涙を落としながら、蜉蝣の破片を拾い上げる。鋭い割れ硝子がその指に紅い筋を穿っても、彼はそれを拭わない。
「同情も、憐憫も、侮辱にしかならねえのはわかってる! それでも俺は……コイツのために泣いてやりたい……! 間違ってると思うか……?」
「わかっている。間違っていないさ。こいつがしたことは間違っていたが……子供が犯した罪を背負うべき者は、他にいる」
 柳司が、その肩をそっと叩く。
 戦士として戦士を看取った男たちに対し、女性陣は現場の収集と救急隊の支援を行っている。
「見目の被害に比べて、死者は三人に抑え込めました。敵を素早く闘いに引き込めたことで、とどめを刺す時間を奪えたのでしょう。もちろん、悲劇には違いありませんが」
 スーとポヨンを指揮してヒールを行いつつ、現場の状況を救急隊に伝えているのは、樒。
 彼女の指摘通り、敵をこちらに向けられなければ、十倍以上の犠牲が出ていたことだろう。
 だが、犠牲者が出たことに変わりはない。
 ナギサトが護り抜いた母子を見付け、リモーネが頭を下げる。
「ごめんなさい……私、『ローカストの侵略を永久に阻止する事』を約束したのに……守る事ができませんでした。ごめんなさい……」
 母親は、目の前に居るのが全世界同時放送を行ったケルベロスであると気付いたようだ。
「いいえ。体を張って闘い、護ってくれた皆さんのおかげで、私たちは助かったんです。ありがとう、ございました……」
 頭を下げる母親の手を、リモーネがぎゅっと握る。
 声のない二人のやり取りを見届け、リリーがそっと母親に毛布を掛けて救急車へと案内する。
(「恨みっこなしのサバイバル……そう、割り切れたら、ね。誰もこんなこと望んでいないはずなのに……」)
 天を仰げば、星々が光っている。全ての死者を平等に、悼むように。

 決戦は、終わった。
 残るのは、血みどろの殲滅戦。
 それは、時代が闘いを選ぶ限り逃れられぬ宿命。
 様々な想いを抱きながらも、戦場を走る者たちは闘い抜いていくしかない。
 生き延びた者には、次なる戦場が、待っているのだから……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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