ドン・ピッグ決戦~灰色の偽姫

作者:蘇我真

「入るブヒ」
 グレイ・エイリアス(双子座の奪還者・e00358)の足元にぽっかりと大きな黒い穴が開いていた。
「ここって……マンホールじゃないですか」
 か弱い女性口調のまま、グレイが不安そうにオークたちを見る。
「いいからとっとと行くブヒ。上下の移動は自分でしてもらわないと大変ブヒ」
「………」
 グレイは覚悟を決めてマンホールを降りていく。
「うっ……」
 じめっとした空気、なによりもその臭さで思わず顔をしかめる。視界の端を横切るゴキブリを見ないようにした。
「きりきり歩くブヒよ」
 下水道を歩かされるグレイ。途中、オークたちが壁の前で立ち止まった。
「ブヒっとな」
 オークが壁の一部を押しこむと、スライドして隠し通路が現れる。
「下水道に隠し通路なんて……」
「隠し通路はまだまだあるブヒよ。アジトは広いし俺らだって構造を全て把握してないブヒ!」
 自慢気に話すオーク。
 変わり映えのしない光景。似たような角を何度も曲がり、似たような隠し通路を何度も抜け……たまりかねたグレイが口を開いた。
「あと、どれだけ歩くんですか?」
「もうすぐブヒよ……えーっと、確かここの隠し通路を通るブヒね」
 オークは紙切れを取り出して道を確認しはじめる。
「迷ってないですか?」
「地図があるから安心するブヒ。アジトの最も遠い部屋同士で3km以上離れているから移動も大変ブヒよ……」
「なんでそんなに離れてるんですか」
「敵にばれたとき用ブヒ。もしアジトがばれたら、隠し通路を崩して区画ごと閉鎖して逃げるブヒ」
「隠し通路は簡単に崩せる仕掛けがあるブヒよ。この前つい壊しちまって、親父にケジメとして触手1本斬られたブヒ」
 物騒な話題なのにほがらかに笑いあうオークたち。
「そんなわけだから、一度に五ヶ所も六ヶ所も同時にアジトの場所がばれて攻め込まれない限り、このアジト全てが陥落する事は無いブヒよ」
(「思いっきりフラグ建てたな……」)
 そんなことを考えているとついに監禁場所へと案内された。
「ここは……」
 部屋の中、一面に巨大なベッドがあった。
 下水道よりも清潔だが、何の用途として使うのかは明白だ。
「この部屋の中は、親父……ドン・ピッグ様のハーレム部屋ブヒ!」
 オークたちはグレイを部屋へ押し込んでいく。
「この部屋の様子は、親父の部屋から覗くことができるブヒ。他にも女を捕らえたらしいから、親父は気に入った女のところに行くブヒよ」
(「どうやら他の子も囮になれたみたいだね……」)
「親父に気に入られている間は親父の相手だけをしていればOKブヒ。でも、もし親父に飽きられたら……」
 オークたちは触手をうねらせながらグレイを卑猥な視線で見る。
「ブヒヒヒ……そのときは俺達が好きにしていいことになってるブヒ。俺達全員を相手にしたら……きっと壊れちゃうブヒねえ」
 子供を産ませるため、殺されはしない。しかし度重なる蹂躙で心は完璧に破壊されてしまうだろう。
「まぁ、できるだけ親父に気に入られるように頑張るブヒね。ブヒヒヒヒ!!」
 オークたちの下卑た笑い声と共に出入り口は閉じられ、カギを掛けられる。
「……行ったね」
 グレイは自分のスマートフォンを確認する。
「……駄目だ、圏外か。地下じゃGPSも無理だね……」
 自分から居場所を伝える手段はない。グレイは仲間たちが救出してくれるのを信じて待つしかないのだった。

●灰色の偽姫
「東京都足立区の下水道だ」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)が端的に告げた。
「そこでグレイのGPSの反応が消えた。彼女が連れ去られたルートは確認できている。地下のアジトは広大で、隠し通路で移動するようになっているようだ」
 複数の区画からなるドン・ピッグの隠れ家。それでも少なくともグレイの監禁された部屋までは迷うことなくたどり着ける。
 だというのに、瞬の顔は険しかった。
「ドン・ピッグがアジトのどの区画に顔を見せるかまではわからない。囮となった女性陣を救出した上で、6方面からアジトのオークたちを殲滅、アジトの完全制圧および、ドン・ピッグの撃破を行ってほしい」
 救出だけならともかくドン・ピッグを倒さねばならないのだ。
「ドン・ピッグは、自分の安全を最優先にして、配下を犠牲にしても逃げ出そうとするだろう。逃がさずに倒すためには、他のチームと連携しつつ、逃げ道を塞ぐように追い込んでいく必要があるかもしれない」
 更に電波が届かない地下でチーム間の連携まで要求された。
「アジトには多数のオークがいるが、アジトの場所がばれないように、普段は3~5体程度の小さな群れで行動しているらしい。
 また、一部のオークが襲撃された場合は、そのオークたちを見捨てて、他のアジトへの影響を食い止めるような戦略を取っているため、戦闘中に援軍が現れる事はほぼないだろう」
 ドン・ピッグの用心深さを示す用兵だ。その考えはアジトの隠し通路にも表れている。
「本来は侵入者が一部のオークと戦っている間に、隠し通路を崩すなどして、侵入者をアジトから切り離すつもりのようだ。だが、一度に複数の地域に侵入者が攻め込む事で隠し通路への細工が間に合わない状況を作ることができるだろう」
 勿論、オークの殲滅や探索に手間取れば、隠し通路を崩されてそれ以上の探索を行えなくなる可能性はある。
 素早くオークを倒す迅速な移動が求められていた。
 続いて、瞬はオークの強さについて説明を行う。
「ドン・ピッグ配下のオークたちはあまり荒事は得意ではなく、戦闘力は低い。ドン・ピッグもオークにしては強敵だが、単体ならばそれほど脅威にはならないだろう」
 問題は複数いるとき、それに戦ってくれるかどうかなのだと瞬は言外に告げる。
「配下のオークたちは、ドン・ピッグの命令には絶対に逆らわないように訓練されているため、周囲に配下のいる状態のドン・ピッグの動きには注意が必要だろう」
 続いて、ドン・ピッグの動きについても予知できたものを説明していく。
「ドン・ピッグは誘拐されたケルベロス達を覗き見した後、最も魅力的と思った女性から 順番に訪問しようする。また、戦闘後に逃走する場合も、無意識に魅力的だった順番に捕らえた女性のところへと逃げ込もうとするようなので、この習性を利用して、ドン・ピッグを追い詰める事ができるかもしれない」
 そこまで順に語った後、瞬は救出目標を再確認した。
「皆に救援を頼みたいのは、グレイ・エイリアスだ。
 彼女が連れ去られた経路は確認できているので、マンホールから下水道に入り、隠し通路を通って救出に向かってくれ。
 他の救出班とは経路が全く違うので、別行動になるが……内部で合流できるかもしれないな」
 救出や敵自体はそれほど難しくない。だが、全ての目標を達成するとなると話は違ってくる。
「大変な任務だが……オークに泣かされる女性を無くすため、皆の力を借してほしい」
 瞬は最後にそう頭を下げた。


参加者
グレイ・エイリアス(双子座の奪還者・e00358)
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)
雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140)
ドットール・ムジカ(変態紳士・e12238)
因幡・素兎(掃除屋・e12904)
エシャメル・コッコ(しあわせ村のコッコさん・e16693)
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)

■リプレイ

●優しくしてね
 グレイ・エイリアス(双子座の奪還者・e00358)は待っていた。
 パーフェクトボディでキラめく肢体。服をはだけさせ、艶めかしい肌と大胆な水着をチラ見えさせる。
 この美貌にドン・ピッグが釣られるそのときを待っていた……のだが。
「とうっ!」
 まさかベッド、マットレスの下から飛び出てくるとは思わなかった。
「えっ!?」
 驚くグレイをよそに、白いシーツのお化けと化していたドン・ピッグが身に纏ったシーツをはぎ取った。
「全く、とんでもない邪魔が入った……」
 見れば尻が傷ついている。他の場所でケルベロスたちに襲われたのか、それともそういうプレイだったのか。
「さあ、やるぞ! 俺っちの子供を孕もうぞ!」
「は、はい、貴方の望むままに……」
 グレイは従順なふりをしつつ、チラリと扉のほうを見た。
 オーク数人が部屋の守りについている。仲間はまだきていない。
 コトをする以外にもなるべく時間を稼ぎたかった。
「ですが、その前に怪我の治療をさせてください。化膿してしまうかもしれません」
「ん、そうか? 膿んじゃうのは嫌だな……」
 口からのでまかせだったが元来慎重派、むしろ臆病ですらあるドン・ピッグには存外効いた。
「それじゃ頼んだ……その、優しくしてね」

●襲撃
「は~、極楽極楽♪」
 グレイの膝枕を堪能しているドン・ピッグ。尻にはシーツを破って作った包帯が巻かれている。
「この柔らかい膝に俺っちのを、ぐへへへ……」
 性欲が昂ぶりつつあるドン・ピッグだったが、そのとき部屋の外で異変が起こった。
「な、なんだ貴様ら!」
「見つかっちまったか……なら豚には容赦しねェ、アタシの出番だぜェ!」
 因幡・素兎(掃除屋・e12904)が部屋の前にいたオークたちへとタンカを切っていた。
「さっきまでは『豚、倒す、です』とかカタコトだったのに、戦闘となると人が変わっちゃうのね」
 苦笑いを浮かべているノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)もいた。ケルベロスたちがグレイの囚われている部屋までやってきたのだ。
「……!」
 一般人のふりをしているので声を出せないグレイ。喜色満面の彼女に対して、ドン・ピッグは青い顔をしながら膝枕から飛び起きていた。
「ま、まずいだろ……! ここの秘密の通路はさっき崩しちゃったぞ!」
 ベッドと出入り口の扉を交互に見るドン・ピッグ。どうやら逃げ場がないらしい。
「ドン・ピッグ様……」
 さりげなく腕を絡ませ、逃げづらくしようとするグレイ。
「ぐぬぬ……!」
 ドン・ピッグはどうすべきか、逡巡し始めたのだった。

●決意
「オークさん、覚悟してください!」
 星の力を込めたティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)の飛び蹴りが、見張りオークの顔面に決まった。
「ブヒー! 前が見えないブヒ!」
 靴がめり込んだまま悶えるオーク。
「死ねぇ、豚ぁ!!!」
「ぐはぁ、生気が吸われるうぅ……」
 鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)のドレインスラッシュが別のオークを袈裟切りにし、生命力を奪っていく。
「悪い豚ちゃんは加工して出荷なー!」
 後ろからはエシャメル・コッコ(しあわせ村のコッコさん・e16693)が気力溜めで前衛をサポートしている。
「そんなー! ってーか人数が違いすぎる、こっちは3人で向こうは7人とか!」
 愚痴るオークの攻撃をケルベロスチェインで受け止めていたドットール・ムジカ(変態紳士・e12238)。
「3『人』?」
 ペストマスクで表情は見えない。しかし、その声色は低く、凄みがあるものだった。
「違うだろう。3『匹』だ。君たちは豚なんだよ。そんな豚に……」
 続く言葉を飲み込んで、ドットールは医療用伝弦『最終舞曲』を発動した。
「そんな豚に……!!」
 目の前のオークへ針付き伝導性縫合糸を撃ち込むと、雷の魔力を直接流し込む。
 筋収縮によってのた打ち回る姿はさながら死へのラストダンスに見えた。
「む、無理だぁ~」
「勝てないブヒよ~」
 数も力も違いすぎる。士気は最低のオークたち。そんなときだった。
「おりゃああぁぁ!!!」
 ドン・ピッグがグレイを連れてハーレム部屋の扉を蹴り飛ばして現れたのだ。
「なっ……! もう部屋にいただと!? 入るところは見てなかったぞ!?」
 雨宮・流人(紫煙を纏うガンスリンガー・e11140)が驚愕の声を上げる。
 それはオークたちも同じだった。
「ドン・ピッグの親父、いつの間に!?」
「親父だ! 親父が助けにきてくれたブヒ!!」
 めり込んでいたオークの顔が戻る。
「ドン・ピッグ様さえいれば、おまえらなんて……オレの仇を打ってくれる……だって俺たちはドン・ピッグ一家、ファミリーだから……」
 痙攣して倒れたままのオークが、ドン・ピッグを見上げる。皆、突如出現した家長に全幅の期待と信頼を寄せていた。
 オークたちの視線を受け、ドン・ピッグは宣言する。
「よし……おまえら! 俺っちはここを強行突破して逃げる! おまえらは壁な!!」
「「「えっ」」」
 一瞬硬直するオークたち。
「あの……俺たちはファミリー……」
「何言ってんだ。俺っちの家族はこの『ムスコ』だけだ」
 まだまだビンビンの下腹部を見せつけるドン・ピッグ。
「最低のゲス野郎だな……!」
 その場にいた皆の気持ちを代弁したのは、ノルンだった。
「引き籠り豚野郎、てめぇはここで消し炭にしてやる!!」
「お前、アタシのこと言えねぇじゃねぇか」
 先程の意趣返しとしてツッコミをいれる素兎。
「最低だろうがなんだろうが、俺っちは逃げる! この人質を連れてな!!」
 そう言って無理矢理に押し通ろうとするドン・ピッグの腕の中には、グレイがいた。

●灰色の偽姫
「ケルベロス様がまさか人質を見殺しにするわけないよなあ? これが俺っちの出した冴えたやり方ってやつよ!! ヒャハハハハ!!!」
 哄笑しながら通ろうとするドン・ピッグだが、ケルベロスたちは動じない。
「まだ気づいてなかったんですね、救えないです……」
 ティオが憐みの混じった視線を向ける。
「え、なにを……?」
 ドットールが、一歩前に踏み出す。小さくグレイが頷いた。
「彼女は私の恋人で――」
「ケルベロスだよっ!」
 それまで従順にしていたグレイがドン・ピッグの腕にかぶりつく。
「痛あぁぁっ!!」
 思わず腕の拘束が緩む。その隙に、胸の谷間に隠していたブラックスライムを展開した。
「逃がさない……俺みたいな奴を増やさないためにも! 粘液濁流現象!」
 グレイの服も一緒にブラックスライムになり、そのすべてがドン・ピッグに向けられる。
「そっ、そんな、こいつも……!?」
 至近距離からの不意打ち、ドン・ピッグの尻に巻かれた包帯が破けて落ちた。
「豚に彼女の裸を見せるのはこれが最初で最後です」
 ドットールはグレイの武装を投げ渡すと、ペイント弾を撃ち込んでいく。
 ブラックライト発光の無色塗料をドン・ピッグへと浴びせていた。
「よくもやりやがったな!!」
 同時に投げつけられた複数のペイントボールを触手で弾き返しつつ吠えるドン・ピッグ。
「グレイのおっぱいはムジムジのものな!」
 エシャメルの炎弾がドン・ピッグへと向けられる。
「くらうかっ!!」
 ドン・ピッグは痺れ倒れていた子分を触手で抱き起こすと盾にして炎弾を防ぐ。
「うぅ……俺はディフェンダー……ファミリー、万歳……」
 裏切られながらもドン・ピッグを庇って事切れる子分。忠義に厚い、いいシチュエーションなのだが、通路には焼豚の香ばしい匂いが漂うのだった。
「おまえらも、俺っちが突破した後は奴らを足止めするんだぞ!」
 死体を盾にして強行突破を図るドン・ピッグ。
「させるかっての!」
 流人はシケモクを咥えたまま凄まじいスピードで手配書を作成する。逃げてもウォンテッドで追いかけるつもりだ。
「技の集大成、耐えてみな!!」
 素兎による三方向からのラビット・チェイン・アタック。
「そんなの当たったら死んじゃうだろ!」
 かく乱するはずの一撃だが、ドン・ピッグは戦場から離脱とするという一心しかない。死体の盾を捨てて一直線に突進してくる。
「ラビットハリケーンをかわしたっ!?」
 後衛へと肉薄するドン・ピッグ。後衛で今動けるのはノルンのみ。
「颯壊旋撃……いや、当たらねぇ! ならっ!」
 それでもノルンは冷静だった。一番命中率が高いライトニングボルトでドン・ピッグを麻痺させようとする。
「ぐうっ!!」
 当たった。痺れるドン・ピッグ。だがその歩みを止めようとはしない。
「俺っちは、逃げるんだ……それで股間のロケットを打ち上げてやる!!」
 お返しとばかりに全体重をかけたラリアットを見舞う。
「!!」
 そこへテレビウムが割り込んできた。ノルンのサーヴァントだ。
「ディア!!」
 ラリアットを受けて吹っ飛ぶテレビウム。それに目もくれずドン・ピッグは戦場を突破した。
「待ってください!」
「待つのはお前らブヒィ……!」
 追いかけようとしたティオを子分の1体が羽交い絞めにする。
「くそぅ、どうせ最期に抱くならガキじゃなくて美女が良かったってのによぉ……!」
 もう1体も、死を覚悟しながら素兎へと抱き付いていた。
「命を懸けて庇うなんて……!」
 島津家の捨てがまりを想起させる撤退戦術。その振る舞いに、命は敵のオークとはいえ、かつて自身を救った女性の姿がダブり、武器を持つ手が鈍る。
「グレイ、ドットール! ここは任せろ。こいつを持って奴を追ってくれ!」
 手配書を渡してグレイとドットールを送りだす流人。続いて命へと声をかける。
「ノルン、ディア……命! ふたりを任せた!」
「……ああ! 弱気は、ヘリオンに置いてきた!!」
 アリアドネの糸を近くに張り、ふたりを追う命。転がっていたディアを抱えてノルンも続く。
「私は21歳、大人の女性です。少しは喜んでください!」
「見た目がガキじゃ駄目ブヒよ……あぁ、ドン・ピッグの親父の命令には逆らえないブヒ……」
「起動! クロノスハート!」
 泣きながらも命令を絶対遵守するオークへ、ティオは腕の粉砕機を起動させた。
「粉砕レベル金剛石! 砕け散ってください!」
「ブヒイイィィ!!」
「豚のくせに嫌がるとかふざけやがって! すり身よりひでェ状態にしてやるぞ!」
 素兎も足止めするオークに向けて、再びラビット・チェイン・アタックを仕掛ける。
「死ねぇッ!!」
 ラビットハリケーンで串刺しにし、大龍嵐で空中へと放り投げる。
「ぐぼらぁッ!!」
 トドメのスパイラル・アタック。アジトの天井へオークが張りつけられた。
「捨て駒な豚ちゃんなんてこま切れなー!」
 そこへ間髪入れずコンビネーションでエシャメルが続く。
「いくよ、こっこ!」
 サーヴァントのミミックがオークの脚に喰らいつき、傷を負わせたのを見計らって手元の爆破スイッチを操作し始める。
「おまえはコッコを怒らせた……プリンを3つ出されてもコッコの機嫌は直らない。コッコのきゅーきょくおーぎでオシオキしてやる……!」
 いつもより複雑な操作をした後、最後にボタンを押すとエシャメルのデフォルメイラストがプリントされた弾頭が虚空より出現する。
「や、やめるブヒィ! 痛いブヒィ!」
 弾頭は、天井のオークへと向かってロケットブースターを吹き出しながら疾走していく。
「ブ、ブヒィ――」
 ヒマワリを象ったキノコ雲と共に、良い笑顔のオークが遺影のように視界の片隅をよぎった。
「俺が出る幕もねぇか。やっぱ女ってのはたくましいねぇ」
 パラパラと舞い落ちてくる細かい瓦礫を払いのけ、流人は煙草に火をつけるのだった。

●付託
「やられましたね」
 眼前、崩落した通路を見てドットールは手配書を握りつぶした。
 反応は塞がれた通路の向こうにある。この区画は、ドン・ピッグによって隔離されたのだ。
「……でも、結構傷は与えられた。きっと他の班が倒してくれる」
 自分の手で仕留めたかった。気持ちを押し殺してグレイが笑う。
「君は……強いですね」
 自らのマスクを手で押さえながら、ドットールは言葉を漏らす。
「みんなが、いてくれるからだよ」
 グレイが振り向く。命のアリアドネの糸を手繰って残りのケルベロスたちも追いかけてきていた。
「みんな……ありがとう。他の班のみんな、任せたよ」

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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