ドン・ピッグ決戦~寝台で膨らむは女の恐怖と豚の肉欲

作者:質種剰

●広大な地下迷路
 レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)は、オーク達の触手に担がれたまま、周囲の空気の変化を感じ取っていた。
 ラブホテル街の初夏の熱気はもはや遠く、地下独特のひんやりした風が、さっきまで火照っていた身体を撫でていく。
 ぐったりしたフリを続けながらでも、マンホールを降りて下水道へ入ったと判った。
(「鈴に助けられちまったな……」)
 オーク達に弄ばれていた最中、胸の谷間から零れ落ちた鈴を回収する余裕は無かった。
 それでも、あの鈴が大きな音を立てたおかげで、レテイシャを押し流す快楽の波からひとときでも逃れる事ができたのだ。
 あの鈴は確かにお守りだった――それが今のレテイシャを気丈夫にしている。
「なぁ、オレを一体どこへ連れてくつもりだ?」
 下水道から繋がる隠し通路は、予想以上に複雑怪奇なもので、レテイシャを運ぶオーク達は何度も交差した道を曲がって歩いていた。
「ブヒヒヒヒヒ……」
 オーク達は下卑た笑い声を立てて答えた。
「すぐに俺達がぶち込んでやりたいところだが、まずはドン・ピッグのお眼鏡に叶うかどうか献上するブヒ」
「お前はハーレム部屋でドン・ピッグが来るのを待つブヒよ」
「デカチチをドン・ピッグが気に入れば、ハーレム部屋へドン・ピッグがやって来るブヒ」
「気に入れば、って。顔も見ねえ内から何を気に入るってんだよ」
 話の内容から不審を感じたレテイシャが更に問う。
「ブヒヒ、全てのハーレム部屋はドン・ピッグのおわす所から丸見えなんだブヒ」
「ふうん……」
「ドン・ピッグは何事においても慎重だブヒ。攫った女もすぐには頂かないんだブヒ」
 このアジトだって、一度に五ヶ所も六ヶ所も同時に位置がばれて攻め込まれない限り、絶対陥落する事は無いブヒ。
 と、オークは聞いてもいないアジトの数と構造までを自慢してくれた。
 口の軽いオークどもで助かる、と内心思うレテイシャ。
「着いたブヒ。せいぜいドン・ピッグに気に入られるよう頑張れブヒ」
 ドン、とオークに突き飛ばされ、部屋の床へ放り出されたレテイシャだが。
 ぼすっ。
 彼女の身体を受け止めたのは、程良い硬さのベッドであった。
 室内を見渡すと、床一面が巨大なベッドと化し、白いシーツが波のようにうねっている。
「デカ過ぎだろ」
 巨大ベッドの趣味の悪さをレテイシャがぼやくと、オーク達はその目にありありと欲望の色を湛えて、
「当然ブヒ。ドン・ピッグに気に入られてる間はドンの相手だけで良いブヒが、もしも気に入られなければ……」
「俺達全員の相手をする事になるからブヒ」
 はっきりと言い放って、ハーレム部屋の扉を閉めたのだった。


「グレイ殿達が、ドン・ピッグのアジトへの潜入に成功なさったであります」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が、真剣な面持ちで語り始める。
「彼女達が連れ去られたルートは確認できております。ドン・ピッグのアジトは、下水道のかなり広範囲に作られていて、秘密の通路で移動するようでありますよ」
 ドン・ピッグがどのアジトに現れるかは判らない。
「皆さんには、囮となったグレイ殿達を救出した上で、6方面からアジトのオーク達を殲滅しつつ、アジトの完全制圧およびドン・ピッグの撃破をお願いしたいのであります」
 ドン・ピッグは、自分の安全を最優先に動く為、配下を犠牲にしても逃げ出そうとするだろう。
「逃がさず倒すには、他班と連携しつつ、逃げ道を塞ぐように追い込んでいく事が必要かもしれないでありますね」
 首を捻るかけら。
「アジトには多数のオークがいますが、アジトの場所がばれないように、普段は3~5体程度の小さな群れで行動しているようであります」
 また、一部のオークが襲撃された場合は、その群れを見捨てて他のアジトへの影響を食い止めるという戦略の為、戦闘中に援軍が現れる事はまず無い。
「本来は、侵入者が一部のオークと戦っている間に、隠し通路を崩すなどして、侵入者をアジトから切り離すのでありますが、一度に複数の地域へ侵入者が攻め込む事で、隠し通路への細工が間に合わない状況を作ることが出来るでありましょう!」
 勿論、オークの殲滅や探索に手間取れば、隠し通路を崩されてそれ以上の探索を行えなくなる可能性があるので、素早くオークを倒して迅速な移動を行い、オーク達に対応する隙を与えないのが肝要である。
「ドン・ピッグ配下のオーク達は、あまり戦闘は得意じゃないようで、戦闘力は低めであります」
 ドン・ピッグも、オークにしては強敵だが、単体ならば、それほど脅威にはならない。
「ただ、配下のオーク達は、ドン・ピッグの命令には決して逆らわないように訓練されている為、周囲に配下のいる状態でのドン・ピッグの動きには注意が必要でありますね」
 ドン・ピッグは誘拐されたケルベロス達を覗き見した後、最も魅力的と思った女性から順番に訪問するつもりのようだ。
 戦闘後に逃走する場合も無意識の内で、捕らえた中でも魅力的と感じた女性の居る場所から順番に逃げ込もうとするので、この習性を利用して、ドン・ピッグを追い詰める事ができるかもしれない。
「皆さんにお願いしたいのは、レテイシャ・マグナカルタ殿の救出となります」
 彼女が連れ去られた経路は確認しているので、マンホールから下水道に入り、隠し通路を通って救出に向かって欲しい。
「他の救出班とは、経路が全く違うので別行動になりますが、内部で合流できるかもしれないであります」
 そう説明を締め括って、かけらはケルベロス達を激励する。
「囮となって誘拐された、勇気ある女性陣の為にも、今回の作戦、必ず成功させてくださいね。宜しくお願いします」


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
アルシェリーア・ヴィルフォーナ(シャドウエルフの音符術使・e00823)
毒島・漆(心は中年・e01815)
ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)
ソル・ログナー(夜闇を断つ明星・e14612)
レテイシャ・マグナカルタ(ドンピッグのアジトなう・e22709)
ジゼル・アリオール(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e24299)
リルシャーナ・フローライト(無垢なる欲望・e27980)

■リプレイ

●下げ渡し
 ドン・ピッグの数あるハーレム部屋の内の一室。
「誰がテメー等の相手なんざするか!」
 そこに閉じ込められているレテイシャ・マグナカルタ(ドンピッグのアジトなう・e22709)は、ビシィと中指を立てて、どこから室内を覗き見ているか判らぬドン・ピッグや手下オークを罵っていた。
「絶対脱出してやるからなっ!」
 と、逃げ道を探すフリをして部屋中を調べ、隠し通路のひとつも無いか淡い期待を抱くレテイシャ。
 事実、彼女は囮としてここへ来たのだから自ら逃げ出す必要は無い。
「あーもー畜生っ、何も抜け穴とかねえのかよ! ここから出しやがれ!」
 女として貞操の危機にある不安は拭えずとも、レテイシャは恐怖を必死に押し殺して、仲間を信じ気丈に振る舞い続けた。
「出せーっ!」
 ドンドンと扉をぶっ叩いたり引っ張ったり、鍵のかかったそれがどれくらい頑丈か見極めていると。
 ドサッ。
 急に扉が開いたので、勢い余ったレテイシャは床一面を埋める高級ベッドの上へ背中から倒れ込んだ。
 そこへドッと雪崩れ込んで彼女を取り囲むのは、手下オーク達だ。
「ドン・ピッグ様から連絡がきたブヒ。お前のような反抗的な奴はいらないから、お前達で好きにしろとなブヒ」
 1匹が言うのへ、レテイシャは眦をますます吊りあげる。
「何だと!? テメー等の好きにさせてたまるか!」
「お下がりじゃない女とやれるなんて、ラッキー」
 だが、オーク達は彼女の怒号などお構いなしに、しなやかに伸びた手足を抑えつけ、オレンジのビスチェトップスを剥ぎ始めた。
 レテイシャが幾ら暴れたところで多勢に無勢、健康的な肌の上をヌルヌルした触手が這い回る。
「この野郎、やめっ……離……あんっ……!」
 ぷるんと零れ出た見事な爆乳を幾本もの触手で激しく弄ばれ、男勝りな口調の中に喘ぎ声が混じるレテイシャ。
「ドン・ピッグ様は用心深いからな、反抗的な女は嫌いなのさ」
 集団のリーダー格らしいオークは、レテイシャのスカートを器用に触手で脱がし切ると、両の太ももを割り開いてまずはぶっとい触手をあてがった。
「ぅんっ、ふっ、んんーーっ……!」
 口の中にまで触手を突っ込まれたレテイシャは、必死に抵抗したが、次第に無理やり高みへ押し上げられて意識が薄れていく。
「うぁっ……!」
 それでも触手の縛めへ負けじと足をばたつかせ、貞操を守ろうとしたレテイシャ。
 ついに気を失いかけた時、扉が再び開いた。
「レテイシャさん! ――ここだ、ソル君!!」
 毒島・漆(心は中年・e01815)が駆けつけざまにククリで斬りかかり、オークへ不意の一太刀を浴びせる。
 『虚』の力纏いし刃がリーダーの丸い背中を真っ赤に切り裂いて、開いた傷口から生命力を簒奪した。
「侵入者ブヒ!」
 手下オーク達全員が部屋に入ってきたケルベロス達に応戦すべく立ち上がった為、レテイシャはまたもシーツに落とされた。
「大丈夫ですか?」
 そこを漆が助け起こす。
 この日の漆は、軍用暗視ゴーグルをかけて衝撃吸収ブーツを履き、目立ちにくいように暗色の薄汚れたコートを着込んでいる。
「慈悲は無し。黄泉路への案内、仕る」
 ほぼ同時に駆けつけたソル・ログナー(夜闇を断つ明星・e14612)は、オーク達を睨みつけ、武器に手をかけた。
 そして憤怒を隠しきれぬ歯軋りが聞こえたと思った時には、既に侵食植物・禍はソルの手を離れ、ツルクサの繁みを茂らせたような形態でオーク1体をギチギチと締め上げていたのである。
「無事か。何もされては――」
 だが、一糸纏わぬ姿のレテイシャを見て、思わず言葉に詰まるソル。
「無事、だ……」
 それでもレテイシャ自身が強く断言し、同時にぐったりとベッドに身を沈めた。仲間が来てくれた安堵で意識を手放したのだろう。
 元より手下オーク達へひん剥かれる前に痛めつけられていた彼女である。
「……よく頑張ったな。後は俺らに任せろ」
 ソルはレテイシャへ自分の上着をかけ、トランシーバーで他班へドン・ピッグの訪れが無い事を報せようとしたが。
「チッ」
 通じなかった。
「きゃああっ、何なんですかこの部屋……それにレテイシャさんに何て酷い事を……!」
 さて、女性らしく怯えた様子で悲鳴を上げるのは、村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)。
 露出度の高い衣装を着る事で手下達の注意を引き、触手攻撃すら我が身で受けんと覚悟しての行動だ。
「お、黒髪の女ブヒ!」
「嫌ぁぁっ!? 何これっ、熱くてぬるぬるして気持ち悪いッ……!」
 しかも、実際に触手で服を引き裂かれれば、恥ずかしがりオロオロと狼狽えて、苛めたいオーラを纏う程の、徹底した演技を見せた。
「拘束制御術式三種・二種・一種、発動。状況D『ワイズマン』発動の承認申請、『敵機の完全沈黙まで』の能力使用送信ー限定使用受理を確認」
 それでいて、反撃とばかりに「拘束制御術式」を解放して発動。
 眼鏡をターゲットスコープとして手下オークををホーミング、体中に無数の魔方陣を出現させ、そこから大量の霊鎖をけしかけた。
 霊鎖はオークへどこまでも喰らいつき、ベルも霊鎖を通じて雷を放出、1体を追い詰めていく。
(「被害が出る前にオークは殲滅です」)
 一方、アルシェリーア・ヴィルフォーナ(シャドウエルフの音符術使・e00823)は、その優しげな表情の奥に強い決意を秘めていた。
 絹のような長い銀髪と思慮深い光を湛えた紫水晶の瞳、雪白の肌を保つシャドウエルフの美少女で、上品な装いも相俟って何処か儚い雰囲気を醸し出している。
 レテイシャと共に囮作戦へ参加した時、アルシェリーアは朝の路地裏で、彼女の落とした鈴を拾っていた。
 それを直接手渡す為にも、今回の作戦へは決死の覚悟で挑んでいるのだ。
「来たりて舞うは治癒の翼、飛翔し切り裂くは斬撃の翼、舞え、我が呪符よ」
 アルシェリーアは、鋭利な翼に変じて治療者の攻撃へ追随する効果のある呪符を取り出し、ベルの体力を回復させた。
「レテイシャさん……もう大丈夫ですからね」
 と、横たわった仲間を気遣わしげに見やるのは、ジゼル・アリオール(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e24299)。
 流れるような金髪と褐色の肌、深い藍色の瞳と唇が色っぽい、美貌のヴァルキュリアである。
「これ以上、彼女へ手出しはさせません……!」
 ジゼルは、すらりと伸びた脚で地面を蹴り、宙空へ跳び上がる。スカートのスリットから覗く黒いガーターベルトが艶かしい。
 黒タイツの足先に履いたエアシューズへ重力と煌めきが宿って、リーダーの頭部へ重い飛び蹴りが炸裂した。
「ふふっ、個人的にアナタ達の事は嫌いじゃないの」
 他方、悪戯っぽい笑顔で手下オーク達へ笑いかけるのが、リルシャーナ・フローライト(無垢なる欲望・e27980)。
 ツーサイドアップにした橙色の髪と愛嬌ある赤い瞳が可愛い、活発そうなサキュバスの少女だ。
 多少大人ぶってはいるものの、女性らしい口調には変な癖などついていない。
 それも、表向きは妖艶な色気を纏うサキュバスを意識して振る舞っているが、素顔は純情で心優しい性根のお陰だろう。
「けど、熱い欲望があるからって嫌がる事を無理やりするのは、やっぱりダメね」
 ぺろと舌を出したリルシャーナは、ブラックスライムを鋭い槍が如く伸ばして、手下オークの腹をぶち抜く。
 貫かれた傷口からオークの体内へと毒が広がり、その醜い身体はみるみる内に汚染されていった。
 その傍らでは、黒いウイングキャットのモリオンが、リルシャーナの意思に忠実に仲間の前へ出て、オークへ猫引っ掻きをお見舞いしていた。
「Ms.レテイシャ、無事か!」
 ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)は、ライドキャリバーのタイムチェイサーに騎乗しながら飛び込んできた。
 ずっと通路に居るだろう手下オークを警戒して、足音を出さぬよう心がけていたピアディーナだが、奴等がハーレム部屋へわらわらと入っていくのを見れば、何より仲間の救出が先決。
 レテイシャが戦闘不能に陥っているのを見るや、ピアディーナは手下オーク達へ向き直った。
 テンガロンハットがトレードマークの可愛らしい牛耳褐色メイドさんである彼女はスタイルも良く、カウガールメイド服に包まれた肢体が健康的な色気を振り撒いている。
「Ms.レテイシャの痛みを思い知れ!」
 普段は平静そのものな藍の瞳を怒りに燃やして、ガトリング『ドラゴンパイル』を連射するピアディーナ。
 嵐のようにばら撒かれた弾丸が、オーク達へただならぬ激痛と威圧感を与えた。
 すぐにタイムチェイサーも彼女を乗せて激しいスピンをかけ、同じ個体2匹の足を轢き潰し、その衝撃で両方を死に至らしめた。

●触手を貫く弾丸
「ブヒッ……ドン・ピッグの手がついてない女をヤれるまたとない機会……逃してたまるかブヒィィィィィィ!!」
 リーダーが欲望に塗れた咆哮を上げ、自らの傷を気合いで塞ぐ一方。
「女は捕らえてヤるのも良いブヒが」
 2匹の手下オークの内、片方がアルシェリーアを穢らわしい触手で縛り上げようと目をギラつかせ肉薄した。
「男に用は無いブヒな!」
 もう片方は汚らしい触手を鋭く尖らせ、漆を刺し殺さんと迫る。
 だが。
「危ない!」
「ふふっ、そうは思い通りにさせないわよ」
 アルシェリーアをジゼルが、漆をリルシャーナが身を挺して庇い、その少なくないダメージや動きの阻害をも、代わりに受けてみせた。
「"重撃殲攻"……重弾猟域ッ!!」
 漆は、遍在するグラビティを自身の支配下に置き、斥力と引力を操って自身が跳弾の様にその支配域内で跳ね回った。
 重力加速を得て、更にその速度は段々と増していく。
「ブ、ブヒィィィィィィ!?」
 漆に翻弄されたリーダーの身体は、至る所から出血していた。
「い、行きますよっ!」
 服を溶かすスライム【ワンオフ仕様】をけしかけて、手下オークの丸呑みを狙うのはベルだ。
「ブヒぁああああッ!?」
 まさか自分が『食べられる側』になるなど想像だにしなかっただろうオークが、何とも情けない悲鳴を上げた。
「回り道しても、ゼロ秒だ。……悪いケド、見切らせないよ」
 ピアディーナは、類稀なる妙技で跳弾を起こし、弾道予測を困難にしながらも一瞬とかからぬ間にオークの土手っ腹へ着弾させる。
 相手が撃ってきた、と認識した時には既に、弾が標的を貫いている――彼女の射撃の冴えはやはりもの凄まじい。
 また、タイムチェイサーも機動力を遺憾なく発揮して、炎を纏った車体で手下オークへ突撃していた。
「子分オークは、できうる限り、殲滅するべきでしょう……!」
 と、装備したオウガメタルへ意思を通わせるのはアルシェリーア。
 すぐさま惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』が具現化され、手下オーク達へ絶望の黒光を照射。
 3体の内1体の息の根を止めた。
「……皆も、オークの触手には、気をつけるのよ?」
 リルシャーナは誰にともなく注意を促しながら、黒色の魔力弾を撃ち出し、手下オークに悪夢を齎す。
 そこへモリオンがキャットリングで追い討ちをかけた。
「喰らいなさい……」
 己が光の翼を暴走させるや、全身を『光の粒子』へと変じるジゼル。
 そのまま手下オークへ突撃をぶちかまして、トドメを刺した。
 残るは手下オークのリーダー格のみ。
 こいつは他のオークより頭が回るのか欲望の咆哮でしぶとく持ち堪えていたが、漆やソルの息の合った連携や、ベルやピアディーナの渾身の攻めに、いよいよ追い詰められてきた。
 そして。
「貴様らに慈悲は無い」
 静かに怒りを爆発させたソルが、魔人降臨によって身に宿した数多の魂を右の拳に集める。
 同時に、身に刻まれた忌まわしき呪紋も拳へ集約、ソルの魂に呼応して激しい光を放ち始めた。
「――――疾く散れ!」
 ソルは、輝く拳を高めた力ごとリーダーの頭に叩き付け、勢いのまま壁へねじ込んだ。
 手下リーダーは、事切れている。
 突入したケルベロス達から見ても、手下オーク達がレテイシャを襲おうとしたのは明白。
 それはドン・ピッグが彼女を気に入らなかったという事であり、何より他班の仲間達や囮の作戦が成功していれば、今頃ドン・ピッグはケルベロス達と交戦中の筈である。
 そんな最中に、わざわざ手下オークの増援を寄越すとも思えなかった。
 ケルベロス達は安心して、レテイシャが目を覚ますのを待った。
「貴方の夢を、叶えてあげる……♪」
 中でもリルシャーナが濃縮した快楽エネルギーを虹色の霧として拡散。
 レテイシャへ霧を浴びせて、己が欲望に満ちた甘い白昼夢を見せる事で、体力と意識の回復を願った。
「……すまねえな、みんな……敢えて挑発してドン・ピッグを誘き寄せようとしたけど、やり過ぎちまったぜ……」
 目を覚ましたレテイシャが開口一番に言ったのは、ドン・ピッグへ気に入られるアピールをしくじった謝罪であった。
「レテイシャさん、あなたが無事だっただけで、私は良かったと思うわ」
 ジゼルが優しい微笑を浮かべて励ます。
「そうですよ。お助けできて本当に何よりでした」
 ベルは、このハーレム部屋へ来るまでの隠密行動を思い出して、安堵の息をついた。
 この班全員の共通認識として、『オークの群れを2組以上発見した時は、戦闘を仕掛けずに隠れてやり過ごす』というものがあった。
 それが現実になった訳だが、それもその筈。
 元よりハーレム部屋の周りを警護していた群れに加えて、ドン・ピッグ直々にレテイシャを下げ渡され、意気揚々と襲いに向かう一団が増えていたのだから。
 実際、この近辺には2組の群れが徘徊していた事になる。
 ケルベロス達は、それらの群れをやり過ごしてから、気配を殺して迷路の探索を続け、何とかレテイシャのハーレム部屋へ辿り着いた訳である。
「そう言えば、路地裏で鈴を拾ったんですけど?」
 アルシェリーアは懐から鈴を出して、レテイシャへ手渡す。
「ありがとな」
 レテイシャは笑顔を見せて鈴を受け取り、孤児院の弟妹達を想う。
「総員無事。脱出だ」
 ソルがここへ来て初めて穏やかな語調で言った。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月29日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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