飛空オーク高層ビル決戦~オーク・ラストスクランブル

作者:大府安

 ここはとある高層ビル街。コンクリートジャングルと言った言葉が似合うような街。地上から空を見れば、幾多の高層ビルが天を支えるように建っている。そんな高層ビルの中でも『超』高層ビルの屋上では、不気味な光景が広がっていた。
「わーおッ!」
 怪しい男が奇声を上げながら何かの機械を操作している。さらに周辺の壁は高層ビルなのにレンガ造りだったり石壁だったりとファンタジックな外観であり、さらに天井は最上階をぶち抜いて作られている。
 ここは、此処のところ騒ぎを起こしている飛空オーク及びそれを研究しているラグ博士の研究所だ。
 そんな研究所を遠くから双眼鏡越しに見つめる視線があった。
「あの高層ビルの屋上が飛空オークの生産拠点となっている模様です」
「予測通りでしたね。オークを改造する恐ろしい研究が、あそこで行われている……」
 そう考えて動いていたのはクノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052) とアーネスト・シートン(動物愛護家・e20710)。
 そんなアーネストの背中には冷たい汗が一滴、流れる。遠くからでも分かる恐るべき雰囲気がそうさせたのだろうか。反面、クノーヴレットは好奇心を目に宿している様子。研究と好奇心は強い関係がある。
「やはり、あそこが飛空オークの研究所で間違いありませんわね」
 さらに別の方向から調査していたエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)も加わる。
 三人の調べた情報を総合すると、あの屋上には数人を同時に空へ打ち上げる事が可能な投石器のような機械があり、さらに屋上で働く飛空オーク達も確認が出来た。
「これは、皆さんに知らせないといけませんね」
 クノーヴレットの言葉に頷くエイダとアーネスト。大切な情報を手に撤退するのだった……。

「決戦、決戦ね……。作戦を説明するわ」
 衣鎧・レナ(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0217)は緊張の面持ちだった。声も少し上ずっている。
「ケルベロス有志の調査により、マッドドラグナー・ラグ博士が飛空オークを放っていた拠点を発見することができたわ。
 ラグ博士は、50階建ての高層ビルの最上階及び屋上を改造、飛空オークを放つための拠点としてたの。
 目標は、研究所の制圧及びラグ博士の撃破。ただし、ここからが大事よ」
 レナの背後のスクリーンには、ビルの屋上部分と、さらにその上空に飛行するヘリオンの簡略画像が表示されている。
「ビルの地上部分から攻略しようとすると、侵入を察知したラグ博士は研究成果と共に魔空回廊を利用して撤退してしまうの。
 ラグ博士に脱出の暇を与えず撃破するために、今回は空中からの降下作戦を行うわ。空中のヘリオンから降下し、直接ビル屋上への到達を目指すということ」
 レナは手に持っているタブレットPCをタッチする。画像のビル屋上部分から、上空へ向けた砲台が表示された。
「ただし、空中からの襲撃はラグ博士も警戒しているわ。研究所には飛空オークを打ち上げる対空オーク砲台が設置されているの。降下作戦を開始したら、相手は飛空オークをこちらへ打ち出してくる。
 飛空オークとの空中戦になるわ。戦闘経過によって、降下地点の変化は避けられない。ラグ博士の研究室に近い地点に着地出来れば有利になるけど、飛空オーク達も当然阻止しようとしてくるから、何らかの工夫が必要でしょうね。
 ラグ博士の研究室は、最上階のほぼ中央にあるわ」
 レナが画像を進めると、ヘリオンは空中に3つ表示されている。今回はここにいるケルベロス達のチームを含め、3チームで作戦を行うということだ。
「対空迎撃に出てくるオークは3体ずつの計9体。普通に降下作戦を行えば、それぞれのチームで3体ずつの飛空オークと戦う事になるでしょうね。
 研究室周辺には多数の飛空オークがいるみたいだけど、対空迎撃に出てくる飛空オーク以外は、油断してだらけているようね。
 勿論、襲撃があれば慌てて迎撃に出てこようとするでしょうけど、かなり混乱した状態だから、うまくかく乱すれば、あまり戦わずにラグ博士の元に向かう事ができるわ。
 ラグ博士が撃破されると、飛空オーク達は、ビルから飛び降りて滑空して逃げ出していくわ。
 逃げ出したオークは、後日討伐する事が出来るから、無理にオークと戦う必要はない。
 逆に、時間をかけすぎたり、多数のオークと正面から戦う事になれば、作戦を遂行する事は難しくなるから、他のチームとも連携して、うまく作戦を運ぶ必要があるわ」
 画像は変わり、マッドドラグナー・ラグ博士が表示された。
「ラグ博士はドラグナーだけど、研究に特化している為、戦闘力はあまり高くないと想定されるわ。
 ラグ博士の元に消耗せずに到達する事ができれば、1チームの戦力でも撃破する事が可能だけど、できれば複数チームで包囲して戦いたいところね。
 ラグ博士が使用してくる技は3つ。
 一つ目は観察記録のページを飛ばしてまとわりつかせてくるわ。
 二つ目は虹色の液体が入った試験管を投げつけて、こちらに毒を与えてくる。
 三つ目はその場でターンしてマントを翻し、呪的防御を破る衝撃波を放つわ。とりあえず、こんなところかしら」
 レナは一つ息をつくと、表情を引き締め、ケルベロス達を真正面から見つめて、澄んだ声と共に敬礼した。
「汚らわしいオークに翼なんてつけて、随分とやりたい放題やってくれたラグ博士も、年貢の納め時よ。もう彼の研究を終わりにして、また一つ事件に決着をつけましょう。大丈夫、あなた達ならできるわ。ケルベロスに勝利を!」


参加者
リーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)
ラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361)
アニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)
イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)
睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)
アドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
アーネスト・シートン(動物愛護家・e20710)

■リプレイ

●空より落ちて
 上空に待機するヘリオン3つ。そのうちの一つでは、開いた扉の前に立つティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)がビル屋上を見下ろしている。
 見えるのはラグ博士のラボ、飛空オーク達。そしてビルに取り付けられた投石器のような飛行オーク発射装置。
「空中戦だって。ちょっと楽しみだね。……行くよ、プリンケプス! 私たちが最初に!」
 ティの掛け声とともに、8人のケルベロス達が一斉に降下した。同時にビル屋上からは、発射され翼を広げて上昇するオーク3体。
(「あくまで1班にあてるオークは3体ずつ……だけど、それなら当初の予定通りに!」)
 ティがバスターライフルで狙いをつける隣で、イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)がいち早く武神の矢を放った。
「いざ、推して参ります!」
 イピナは翼を広げてグライダーのように姿勢制御する。狙いをつけた矢はオーク1体へ命中、そのオークへティのフロストレーザーが続けざまに着弾する。
「いきますっ!」
 矢と銃撃を受けたオークへ急速降下する影、落下速度とブースター噴射を合わせたアニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)の雷刃突がオークの腹へ突き刺さる。
 だがその隙に8人の間に他のオーク2体が入ってきた。アニエスが攻撃したオークも、アニエスに触手で巻き付いて離れない。
「そういうとこは変わらんなあっ!」
 ラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361)がアニエスに取りついたオークを雷刃突で弾き飛ばす。吹き飛んだオークは肉が抉れ、断末魔と共に墜落していく。
 だがその間にオーク2体は前衛を通り過ぎ、中衛のケルベロス達へ向ってきている。睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)は自身の服を破り、あられもない姿を披露してオークを誘惑する。
「オークさ~ん! あたしと気持ちいいこと、しよ?」
「ブヒイイ!!」
 奇声を上げ冬歌へ向かうオーク達へ、アーネスト・シートン(動物愛護家・e20710)含めたメンバーが遠距離攻撃で返答した。
「まず、1体でも数を減らすべきですね!」
 アーネストは対D-EX用連弾「狼」(ウルフ)の射撃を命中させた後、離れた場所で他のチームが行っている戦闘の光を見た。
 中央に来た2体のオークと乱戦する中、リーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)とアドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413)も隣の戦闘風景を確認する。
「あっちのオークも引き付ける、よ」
「ええ、援護するっすよ!」
 1チームさえラグ博士の元にたどり着ければ十分に撃破可能。事前の打ち合わせで、ある程度このチームが潰れ役になることは決定していた。
 なにより、リーズグリースとアドルフが武器を構え援護しようとしているチームには、ラグ博士を宿敵とするアルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)がいる。
「彼女のために、やるっすよ!!」
「いけ」
 アドルフのバレットストームと、リーズグリースのファミリアシュートが、隣の降下チームに相対するオークへと飛ぶ。アドルフの銃撃は隣のオーク3体にダメージを与え、さらにリーズグリースのファミリアシュートが1体を墜落させる。
 攻撃を分散させたことで、残ったオーク達の攻撃は熾烈を極めた。アドルフが攻撃の間に度々入るものの、アニエスと冬歌へオークが触手ごと取りつく。
 しかし所詮はオーク、冬歌が回復し、アニエスも触手の中武器をオークへ突き立てる。ティのプリンケプスのブレス、アドルフのガブリオレのガトリング掃射も絶えずオークを攻撃し続ける。
「!」
 その時ビル屋上は間近。ケルベロス8人とサーヴァント2体、オーク2体それぞれの着地音と振動が響き渡った。

●かく乱の役目
 アニエスは着地の直前、身を翻してオークの上になり剣を突き立ててそのまま着地していた。
「ブヒイイイ!」
「くっ!?」
 しかしオークは、落下の勢いで突き刺さった剣をそのままに起き上がって触手をアニエスへ。リーズグリースはすぐさま催眠魔眼でオークの動きを鈍らせ、その隙にイピナのブラックスライムがオークの頭を喰らいつくす。
「残り1体は任せとき!」
「他班との通信をお願いします!」
 ラックスが残り1体のオークへ向かい、ティはバスターライフルを天に向け信号弾を放つ。これでこちらの現在位置が他班にわかる。
「もうー! ブサイクなのはやだー!」
 冬歌は触手を這わされながらも、メディカルレインを味方前衛へ放つ。触手がさらに冬歌の下着と肌の間に入ろうとしたが、ラックスが触手を切り裂き、アドルフがさらなる触手をガードする。
「これでまずは、ひと段落です!」
 アーネストのクイックドロウが、オークの心臓を抉った。迎撃に来たオーク3体を撃破したところで、リーズグリースが無線機で状況確認を終える。
「こちら無事着地した。他班、状況を。――了解した。予定通りに」
 空中でオークと乱戦になったゆえ、この班の着地点はラグ博士のラボから一番遠い。リーズグリースは簡潔にメンバーに伝える。
「では私たちは目立つように戦いオーク達をかく乱、他班のラボ突入を援護、ということですね」
 イピナが言いながら、かく乱担当を示す信号弾を空へ放った。他班も戦闘中ならば、視覚的にもわかりやすいほうがいいだろう。
「なら、出来る限りラグ博士の下へ向かってからオークを引き付けましょう。相手もラボの周りを固めているはずです」
 アーネストは言いながら、付近でまだ寝こけているオークを見つけて隠密気流を発動する。他のケルベロス達も賛成した。
 隊列を立て直し、8人はラグ博士のラボへと向かう。途中少数のオークと遭遇したが、襲撃されている状況を掴めていないのか反応が遅く、たいした相手にはならない。
「あれは……!? どうしました!?」
 前衛で先行していたアニエスが、他班のバルタザール・エヴァルト(おっさんの刀剣士・e03725)を見つけた。付近にはバルタザールが所属する班のメンバー全員も健在だった。
「研究室に近いがオークが邪魔な最短ルート、研究室に遠いがオークがいない迂回ルートがあるんだ」
(「これは……」)
 状況がわかったアニエス。バルタザールの班は明らかにこちらより消耗が少なく、また班のメンバーにはラグ博士を宿敵とするアルメイアがいる。
 アニエスは一度振り返り、会話を聞いていた自班のメンバーへアイコンタクトした。全員が頷く。アニエスは最短距離への道筋へ向かい、バルタザール達へ叫ぶ。
「ここは私達に任せて先に行ってください!」
「いたぞぉ! ケルベロスブヒっぶぎゃ!?」
 アニエスがキャバリアランページで最短距離の道へ突撃し、オーク集団の一番前にいた1体を吹き飛ばす。他の7人も後に続き、前列のオーク達を吹きとばしていく。
 その中で、アドルフとティはオークを銃撃しながらアルメイアへ叫んだ。
「アルメイアさん! 宿敵討伐の成功祈ってるすよ!」
「是非その手で、決着を着けてください!」
「ああ。ここまで援護をしてくれたお前たちのためにも、絶対にあのトカゲ親父をぶっ飛ばしてやるぜ」
 アルメイアは空中戦での礼も忘れなかった。これでアルメイア達の班は消耗少なくラグ博士の元へたどり着ける。

●助攻の果てに
「とりあえず、ここまで作戦は成功でええんやろ?」
 ラックスが雷刃突でオークを突き倒しながら駈け、先頭を走るアニエスの背を見る。
「ええ。あとはこの数を凌ぐだけです!」
 囮と化したケルベロス達にオーク達が大挙して押し寄せる。だが、その中でアドルフとイピナは不敵に笑った。
「ついにこれを使う時が来たっすね!」
「ええ、お願いします!」
 アドルフがバイオガスを発動して付近を覆う。アドルフはMP3プレイヤー、イピナは携帯スピーカーを取り出しながら叫び、再生スイッチを押した。
「全員、攻撃の手を緩めないで! 殲滅するのです!」
『オオオオオオッ!!』
「なっ!?」
 オーク達から驚きの声が上がった。アドルフが流したのは、あらかじめ他班から録音させてもらった音声。バイオガスと共に、ケルベロス達の人数を誤認させるものだ。
「前をもっと固めるブヒ! こいつらを止めなけれっ!?」
 付近へ指示を与えていたオークをアーネストがグラビティブレイクで殴り飛ばし、隣のティはプリンケプスと背中を庇い合いながら前へ前へと進んでいく。
「これで囮役として上々。さて、博士の部屋はもうすぐですかね」
「ええ、そろそろ扉の前のオークを……目標補足」
 ティがラボの扉前にいるオーク一体を狙撃。扉前のオーク達は驚いた後、怒りの雄たけびを上げながら前進してくる。
 その直後、アルメイア他突入班がラボへと入っていった。
 リーズグリースは前進してきたオークの触手に抱え上げられ、胸の谷間にオークの触手が侵入しようとしていた。だが、
「――調合調整、錬成終了」
「ブヒ!?」
 リーズグリースが即時調合した薬品を足元へ投げつけ、拘束してきたオークだけでなく付近のオークも痺れさせる。
 リーズグリースは触手の拘束を解いて着地、すぐに冬歌のウィッチオペレーションを受ける。
「惜っしい! もう少しでリーズグリースちゃんのがペロンって出たのにぃ! でも、傷はすぐ治してあげるからね!」
「……ありがとう、そろそろ」
「あっ」
 オークをかき分け前進していたリーズグリースや他のケルベロス達が止まる。もう、ラボと道の間にオークはいなかった。
 だが、後ろには大量のオークが来ている。これを引き連れてラグ博士の元へはいけない。全員反転した。
「ブヒイイイ!!」
 オーク達の最後の突撃が来る。

●屍をさらせ
 囮作戦は成功した。しすぎたと言っていい。
「もっと仲間を集中させるブヒ! こいつらさえ倒せれば勝ちブヒ!」
 煙幕と音声、そしてオーク達の指揮系統の混乱によって、オーク達はラボへの最短距離の道にケルベロスが結集していると誤認した。
 つまり、ビル屋上にいる残り全てのオーク達が8人に波状攻撃をしかけてくる。
「あぐっ!? まだ……行けます!」
「なろっ!? うじゃうじゃと、どんだけいるんやっ」
 アニエスやラックスが目の前のオークを斬り倒しても、すぐに違うオーク2、3体の触手攻撃が来る。
「回復が追い付かないよ~」
 冬歌がウィッチオペレーションとメディカルレインを使い分けているが、前衛の戦線は限界だった。
「自分も協力するっす! 我は優しき北風に希う、万難排す一陣の風をここに!」
 アドルフは防御をガブリオレに任せ、風神の激励(フウジンノゲキレイ)で回復要因に加わる。
 他班が屋上のオークを減らしてなければ、とっくに全滅していたかもしれない。徐々にオーク達は進軍し、中~後衛のケルベロスにも攻撃が届き始めた。
「くうっ……! ありがとうプリンケプスっ」
 ティは飛んできた溶解液に顔をしかめながらも、プリンケプスがボクスタックルですり抜けてきたオークを弾き飛ばす。
「少しまずい、かな? でも、ここを守れば」
「ええ。他班がきっと、ラグ博士を倒してくれます」
 リーズグリースのファミリアシュートと、アーネストのクイックドロウがそれぞれオークを撃破する。だが間を入れず、その屍を超えて新たなオークがどすどすと突進してくる。
 特にアドルフと冬歌のダメージが深刻だった。味方を庇い続けたアドルフと、回復専門の冬歌。2人が倒れれば、絶え間ないオークの攻勢にすぐ戦線は瓦解するだろう。
 オークと1対1ならまず負けるメンバーではない。
(「ですがこのままでは……!」)
 イピナが思ったその時だった。無線機が鳴ったのは。
「ラグ博士は、綺麗に消し飛ばしました!」
「ラグ博士の撃破、成功です!」
 イピナの無線機からアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)とエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)の声が続けざまに響く。
「っ!! ありがとうございます!」
 イピナは目の前の触手を払いのけ、オーク達へ、そして隣で戦い続ける仲間達全てに聞こえるように宣言した。
「聞けオーク達! マッドドラグナー・ラグ! 我等ケルベロスが討取った!」
「なっ!?」
 戦うオーク達の動きが、一瞬止まった。ケルベロス達は一斉に反撃の狼煙を上げる。
「エクセレス流槍術・番外! ヒュージ……スピアァァァ!!」
 アニエスが巨大な破城槍で突貫、オーク一体を突き穿って吹き飛ばす。腹に穴の開いたオークの残骸が後方のオーク達へ降り注ぐ。
「ブ、ぶひいぃぃい!?」
「誘う揺らぎ、朧なる閃き。春夏秋冬・陽炎(カゲロウ)」
 火の精霊の力を纏い幻惑へ誘うイピナの斬撃が、前衛のオーク複数を切り裂く。
「ひぎゃあああ!?」
 攻撃の当たったオーク全てを倒したわけではなかったが、重傷を負ったオークが盛大に悲鳴を上げる。流れは変わった。
「いけそう、だね」
「ええ」
 リーズグリースとティもファミリアシュートと精密射撃で密集しているオークを狙い撃ちする。オークは死骸と化した仲間を見て、恐慌状態に陥った。
 ティの精密射撃で起こった爆発で、仲間の死体を見てもいないオークの怯えの声を、ラックスは聴いていた。
「一撃一殺狙い撃ち。俺の忍術とくと見よ!」
 我流忍術破鎧射ち(ガリュウニンジュツハガイウチ)、小型爆弾がついたクナイが1体に命中し爆発。ダメージだけでなく、爆発の轟音がさらにオーク達の恐怖を掻き立てる。
 とはいえ、先ほどまでは数で勝っていたオーク達。アーネストはアドルフと冬歌の回復を受けながら、オークへ最後の心を折りにいく。
「オオカミたちのチームワークを模したこの銃撃。早く逃げないと、食い荒らされますよ?」
 オーク1体が、グラビティを込めた複数の弾丸を食らいハチの巣になって倒れ伏す。そしてアドルフと冬歌の言葉が止めになった。
「よし、とりあえず危険じゃないとこまでは回復完了っす!」
「こっちも! さあどうするオークちゃんたち?」
「……うっ……うわあああああ!! 逃げるブヒイイイ!!」
 それはまさしく敗走だった。オーク達は我先にと屋上を逃げ出し、羽を使うのを忘れてそのまま墜落するものもいる。
 ラックスとイピナ他前衛はできる限りオークを倒し、アーネスト始め後衛も射撃してオークの数を減らしていく。
 静寂が訪れ、アドルフがバイオガスを解いたとき、あたりはオークの屍で埋め尽くされていた。一つの依頼でこれだけ倒したケルベロスチームもそうはいないだろう。
「皆お疲れさま、ね。これでオークも当分見なくて済む、かな?」
「またドラゴンは何かしらやってきそうですけどね。でも今は」
 リーズグリースとアーネストの言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
「とりあえずゆっくり休みたい、よ」
 皆疲れた仕草をしたが、その表情は晴れやかだった。

作者:大府安 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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