七夕モザイク落とし作戦~願いは鉄塊と化して爆走し

作者:夕狩こあら

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
 
 ――紫紺の穹より幽々と墜下する「それ」は、軒端に連なる五色の短冊が涼風に揺れる傍らに降り立ち、刻下、息吹く。
 直径1m程度のモザイクの塊――ドリームイーターの卵は、金銀の砂子を散りばめた紙片を漸う巡ると、
『大型一種免許試験、一発合格!』
 やたら漢字の書かれた1枚に目を付け、そこから1枚、また1枚――と、似たような願いの短冊を集めては喰らっていく。
『トラック運転手になれますように』
『かっこいいデコトラがほしい』
 少年の絵が添えられた最後の1枚を吸収すれば、丸みを帯びたそれは光に揺らめいて形を成し、角ばった函――否、トラックへと変化していく。
 そして。
 キーを回し、エンジンを噴かせた鉄塊は、爆音を轟かせて暴走を始めた。
 
「聞いて欲しいっす! ドリームイーターが七夕を利用して大作戦を行う事が判明したんす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の詰め寄るような声に驚く間もない。その麗顔は更に言を重ねた。
「この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さん他、多数のケルベロスが予測と調査に動いてくれたお蔭で事前に知る事ができたものなんすけど、どうやらドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているみたいなんす」
 モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する為、大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事が予測されている。
 敵は、残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にするつもりだ。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは、出現してから7分間で自動消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されるっす」
「つまり……ドリームイーターの出現地点に向かって、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいって事?」
 ケルベロスの声に首肯し、ダンテが力強く言う。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは、集めた願いの内容に合わせたグラビティを使用して戦うっす」
 出現するトラック型のドリームイーターは、体長は3m程度、体内にモザイク化した沢山の短冊を取り込んでいる。
「火の玉と化した爆走や烈しいスピン攻撃、また派手にデコレーションされた外装にはガトリングが積んであって、攻撃方法はライドキャリバーに類似しているっす」
 ドリームイーターを7分以内に撃破できなかった場合、自動消滅してしまうので、撃破は不可能となる。
「今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としが実現してしまうっす……」
 無論、その事態は何としてでも避けたい。
 7分――突き付けられた時間に、ケルベロスが拳を固くする。
「逆に、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるっすよ」
 絶望と冀望が表裏する今回の事案に、否応にも闘志は赫々と燃える。
「七夕の夢を食い物にモザイク落としをしようなんて、言語道断っす!」
 許すまじ、と佳顔を鋭くしたダンテに見送られ、ケルベロスは颯爽と戦場に向かった。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
シィ・ブラントネール(エンジェリックスレイヤー・e03575)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)

■リプレイ


 紫紺の天蓋の南北に亙る天の川。
 蒼白き焔と煌く雲漢に、今宵は牽牛と織女の逢瀬を見守らんと、地上の灯は慎ましく光を抑えていた。
 ――のだが。
「……怒ッ、弩弩弩弩……ッッ……」
 赤に橙、黄に緑と、鮮やかな発光を婚星の如く尾に引きつつ、一際煌びやかな函が闇を裂くと、その轟音は猛々しく大気を震わせて静謐を破った。
「怒怒怒怒怒ッ! 弩弩弩弩弩ォッ!!」
 流星と違って鋭角を描いたのは、交差点にてドリフトをしたからだろう。
 直線道路に進入した電光の塊は、軒端に揺れる短冊を爆風に突き上げて疾走した。

 蓋し、刻下。
 その爆走は幽々たる影に止められる。

「あちき知ってるっす! こういうの『男の城』って言うっす!」
「――トラック、か。意外に現実的な物体が出来上がったな」
 重厚たる鉄塊に真正面からぶつかったのは、鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)と篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)。
 守堰と踏み出た両者は、やや開けた十字路の中央で巨塊と邂逅すると、
「貴様を看過すれば、多くの命が踏み躙られる……悪いが叩き潰させて貰うぞ」
「7分間のガチタイムアタックバトル、ぶっちぎってやるっす!」
 魔神を宿した閃拳と、鋼鬼と化した剛拳を合わせ、その凄まじいスピードを押し殺した。
「怒号ォッッ!!」
 焦げたタイヤの臭いが鼻腔を掠める間もない。
 交差点の両脇からは、綺羅星の如く冴撃が降り落ち、
「御意見無用、天下無敵のスーパーヒロイン、スーパージャスティ参上!」
 躯体型式番号SRXK-777、大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)は紫穹に名乗りを挙げて颯爽と、
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪、参ります」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は当主の証【神霊剣・天】の刀身を、刀印を結んだ指でなぞりつつ、爪先を弾いた。
「七夕の夜は私が守る」
「我が一刀は空を断つ」
 右翼より赫々と散るは爆炎の魔弾。左翼には神雷に輝く貫突が一閃。
「弩弩弩嗚嗚ォォッ!!」
 機動の要、後輪を狙った一撃は覇気漲る回転に弾かれたものの、間断を許さぬ挟撃に荷台が揺れれば、その背には夜空より深い濡羽色に白銀を挿した艶髪が躍り――迫る。
「七夕様は彦星さんと織姫さんのデートの日だって聞いてるし、静かな夜に悪いコトして騒ぐなんて、そんな野暮はダメだと思うのだよ!!」
 まだ幼さの残る声の主――叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が振るは神速なる冴刃。
「戯戯戯戯ギギィ!」
 十字路という地形を活かした三方からの強襲は、敵のサスペンションを激しく軋ませ、
「タナバタって、年に一度の特別な日なのよね? 離された夫婦が出会う素敵な日に、皆の夢を食べちゃうなんて許さないわ!」
 更に正面、前衛の双楯を割って巨大ライフル銃【benediction】の筒先を覗かせたシィ・ブラントネール(エンジェリックスレイヤー・e03575)は、燦然と紅弾を浴びせ、車体を焔に包んだ。
「怒怒怒ヲヲォォッ!!」
 この奇襲でない連撃を斯くも凄然と成功させたのは、後衛より届けられた確かなる支援のお陰で、
「ゴツゴツした外装が余計についている分、大きく見えるし威圧感も半端無いね、これは」
 ギラリと彩を放つ巨躯をエメラルドの瞳に仰いだスマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)は、極光と輝くオウガ粒子を放出して仲間の超感覚を覚醒させ、
「あはっ、カッコいいトラックだけど、みんなの夢を守る為にもここで倒させて貰うよ」
 仄かな街灯に艶然を浮かび上がらせたアンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)は、黄金の果実が迸る聖光に楯陣の耐性を高めていた。
 両者の炯眼は、敵味方双方のダメージ量を計って凡その戦闘時間を算出し、次手の立ち回りと戦術を冷静に見極めていく。
「怒怒怒怒怒ッッ……弩弩弩弩弩弩ッッッ!!」
 何知らぬ鉄塊は身に走る激痛に憤怒を募らせ、天を轟音に貫いた。


 制限時間は7分。
 ドリームイーター『デコトラ』に相対したケルベロスは、攻め手を多く用意してその鉾を磨きつつ、敵に対しては弱体を重ねて逸早く損耗させる――スピード重視の布陣と戦術を敷いていた。
「元々はタマゴの貴方だって、急激な寒暖は辛い筈よ!」
 回復の術を持たぬ暴悪の塊には持続ダメージが有効か、ジャマーに据わるシィは氷牢と炎檻の温度差地獄に苛み、
「雄雄雄雄雄ッッッ!!」
 敵が電飾を明滅させ、烈々たるスピンに激痛を引き離した矢先には、その高速回転を捕捉した秋櫻がスパイラルアームを衝き入れる。
「敵、出力を解析。出力なら負けません」
「駑駑オォ!」
 双方の廻旋が閃光を散らして角逐し、鉄塊が矜持を煽られる。
 漢の度胸――『片道燃料』と行灯を光らせたデコトラは、質量の差で押し返し、更にアクセルを踏んで驀進すれば、
「最初から全力、ガンガン行こうぜ! でやっつけるの!」
「神速の一撃、見切れると思うな」
 天翔ける双翼――蓮と沙雪が雷光の迸る刃を揃えて巨躯を串刺した。
 刹那、星空を白ませた二筋の稲妻は、車体を電撃に貫き、
「怒怒ヲヲヲ!!」
 痛痒に楔打たれて尚も猛る頑健に、一同が息を飲む。
(「――硬い!」)
 速攻が求められる戦闘で、若しか攻撃の要であるクラッシャー陣が強き絆に結ばれていたならば、敵に先んじて連撃を割り入らせ、より早く攻勢を得ていただろうが――今は言うまい。
 何より固き連環を為した中・後衛のサポートが十分にそれを補い、
「堅牢なる楯は強靭なる鋒である、ってね」
 嫋々と笑む糸目は穏やかなる儘、漆黒の鉄鎖が描く魔法陣に前衛を支えるアンノは、秘めた紅瞳に狂気を隠して何処か危うげに、
「走り回るトラックを7ターンでどうにかしようって、これ無理ゲーじゃない?」
 スマラグダは火球の如く突進する巨塊を前に沈着を崩さず、星辰の煌剣を十字に結ぶと、熾烈なる超重力に御した。
「……ッッ悪悪悪悪悪!!」
 勢を殺がれたデコトラは、足を止めた矢先にド派手な鉄筒を開門して一斉掃射し、無数の火花が夜の帳を暴けば、ケルベロスの麗顔が白く浮かび上がる。
「マネギ、ゴー! 肉盾の役目果たして来るっす!」
「にゃふん!」
 突如むんずと掴まれ、その射線に投げ込まれた翼猫マネギは、キャットリングに光弾を往なしつつ、主人の五六七がフロントガラスに飛びつく瞬間を刮目して見た。
「こーんばーんはー! 運転手さんはおいでっすか!」
 呻る鋸刃を挨拶に中を覗けば、其処にはモザイク化した大量の短冊が揺らめき、蠢き。
「……人の夢が動力とは悪趣味な」
 強き義憤の波動に軍庭を突き上げた鷹兵は、雄々しき紅翼を広げて仁王立つと、
「星の光よ、闇を切り裂け! ノーザンクロスブレェェェェェドッ!!」
 手裏剣状の閃光を連射し、疾る狂暴を切り刻んだ。
「戯戯ギギ戯戯戯戯ギィィ!!」
 其は輝ける白鳥の羽撃き。
 十字の刃は電飾を割り、硝子を飛散させ、キラキラと舞う破片が暗路に沈むより先、仲間の追撃が迫る。
「――悪悪嗚嗚嗚乎ッ!!」
 時は3分を経過し、天蓋を彩る星は変わらず瞬いていた。


 火力を極限まで高め、且つ、一撃も無駄にせず。
 ドリームイーターの『第二次モザイク落とし』を破るに与えられた時間は、起こりうる惨事に反して余りに短く過酷であったが、彼等の「確実に仕留める」という気概が、その刃を犀利に研ぎ澄ませていた。
「あはっ、堅守が逆転してきたねー」
 自陣を強化し尽くしたアンノが飄然とそう零したのも一瞬。
「折り返し、このまま畳み掛けていこー!」
 自らセットしたアラームの鳴動を耳に口角を持ち上げた彼は、攻勢に転じる機を見たか、静寂の裡に活眼すると、反転世界・【黒天】を形成して檻を成す。
 ――星喰らう影、天を蝕む黒き水泡、因果を捻じ曲げ、理を歪めよ。
「怒怒……怒怒怒怒怒ヲォッ!」
 頬笑のペルソナに潜む狂おしい殺気は惨憺と挙動を奪い、
「まだ目映いな」
 鷹の如き鋭眼を細め、電飾の数――その照度を確かめた鷹兵は、激痛を叫ぶも輝きを失わぬド根性にバトルガントレットを構え、
「受けよ! 時空凍結弾ッ!!」
 十色に煌く光をも凍結せんと、凄撃に射止めた。
「弩伍ヲヲヲッ!」
 金銀の砂子すら翳る絢爛は、ここに点滅を繰り返して光を零し、ダメージを蓄積した車体は愈々軋み始める。
 尚も爆走せんと回る後輪を、地獄の炎弾で的確に捕えたスナイパーのスマラグダは、
「これ、変形してロボットにならないのかな? 私にいい考えがある、って司令官ぽい感じで」
 観察に優れた瞳が疑問を抱かせたか――横滑りする躯体に声を投げた、その時だった。
「……荷台が……開く?」
 視聴者――否、美女の期待に応えぬは漢に非ず。
 翼を広げる如くバンボディの両扉を展開した鉄塊は、荷室より灼光を放つと同時、渋い演歌を流してウイングモードをアピールした。
 ででーんと光は5倍増し。大音量のBGMも揃えて雄渾と。
「見れば見るほど……これも日本、ということかしら?」
 フランス出身の大富豪のお嬢様には理解も難しかろう。
 シィは一面に走る漢字『日本列島男一人旅』に小首を傾げ、
「ギンギラギンで派手派手で……ちょっと乗ってみたいかも……!!」
 星空の瞬きより乗り物の輝きにこそ心躍る、やっぱり蓮は9歳のお子様。
 秋櫻は納得の表情を浮かべて首肯を一つ、
「デコトラは浪漫。日本の文化ですし、走る芸術品です」
 並みならぬ蘊蓄を語る、筋金入りのデコトラマニア。
 蓋し吃驚に見上げた三者の反応は三様とて、今の変形で予知以上の能力を得た筈もなく、当初の頑強と機動力を奪われた鉄塊に、活動限界が近付いていたのは事実。
 可憐なる白翼の戦乙女は一陣の風と成り、
「廃車にするって皆で決めたから!」
 ――その一閃は夢の様な、奇跡の様な、正に須臾の煌めき。
 夜空に一筋を成した【C'est fini】は、電飾の煌く片翼をボディから切り離し、
「今度、お姉ちゃんに頼んで本物のデコトラさんを見に連れてって貰うのだー!!」
 ドリームイーターなデコトラさんはご退場をと、無邪気な少年は時を裏切る居合の技にて、更に片翼を斬り落とした。
「デコトラが好きだから。だから止めて見せる。それが正義の味方の務めでもあるから」
 秋櫻が超技【スーパージャスティハイパーバレットラッシュ】に全霊を注ぐのは、深い愛ゆえに。
 近接高速格闘モードを起動した彼女は、出力最大、零距離で炸裂する打突と蹴撃に、漢の浪漫を粉砕し、
「怒怒怒怒雄雄雄雄雄ッッッ!!」
 敵が衝撃にスピンしながら全砲を噴くのは、激痛によってか忿怒によってかは分らない。
 狂気に染まり暴走したデコトラは、炎塊となってケルベロスに襲い掛かったが、
「ちっこくても頑丈っすよ!」
「轟轟轟轟轟轟ッッ!!」
 ぐわし、とバンパーを鷲掴んだ小柄な少女――五六七と、主人に合わせて行灯を引掻いたマネギが、ここに男一匹の魂を砕いた。
「スクラップにしてやるっす!」
「にゃっ」
「怒怒怒怒弩弩弩嗚嗚オオオッッ!!」
 両翼を捥いだとはいえ、車体を持ち上げるとは怪力にも程があろう。
 己を中芯にデコトラを回転――ジャイアントスイングした華奢は、邀撃に構える沙雪の眼前にそれを差し出し、
「鬼魔駆逐、破邪聖剣! ……邪悪な意思はこの一刀で断ち切る!」
 死の守人――四乃森流陰陽道は、兇悪の塊に【破邪聖剣・追儺】を手向けた。
「……怒怒ッ……怒……怒……ッッッ!」
 音を置き去りに疾走した斬撃は炎を裂き光を断ち。
 今際の絶叫か、爆風と轟音に戦場を駆け抜けた波動は、頓て寂寞を連れた。
「7分……間に合ったな」
 弾指に日常の空気へと戻してアラームに目を遣れば、残り時間は40秒。
 騒音ではなかろうが、これ以上の音は無用とカウントを解除した彼は、その耳に星の囁きを聴くべく、そっと天漢を見上げた。


 軽やかなハイタッチが涼風に乗り、安堵の吐息を零した少年が年相応の笑顔を見せる。
「モザイク落とし作戦、阻止成功なのだよ!」
「何とか押し切れたわね、お疲れ様」
 後半の2分は怒涛であったと、手元の腕時計を一瞥したスマラグダは、制勝に喜ぶ蓮の子犬の様な可愛らしさと幼さに頭を撫でてやり、健闘を讃えてやる。
 その純然かつ無垢なる歓喜が示す様に、終わってみれば闘いは終始優勢を譲らぬ「快勝」であった。
 無論、未だ警戒を解かぬ鷹兵が懸念する「数」の問題もあろう。
「他の戦場も気になる所だが……今は信じるしかないな」
 周囲の被害を確認し、その損傷度合に敵の強さを改めて知る――難敵と時を制した彼等は、距離を隔てた何処かで戦う仲間を、静かに、強く、応援した。
 ヒールを掛けるべく軒端を巡ったアンノは、夜風に揺れる短冊を眺めて微笑むと、
「折角だから何かお願いをしようかな」
「いいわね! ワタシも短冊にお願いごと書いていこうかしら!」
「あちきも!」
 シィと五六七が佳声を揃えてペンを取り出す。
「とは言ってもボク、願い事とかないんだよねー」
 誰かのお願いを代わりに願うのはダメ? と、玉容が柔らかくそう言えば、

『素敵な出会いがありますように』

 既にシィが己が願いをそっと笹に結んでおり、その真直ぐな想いに「いいね」と笑みが深まった。
「………………」
「………………にゃふ」
「おっす! 決まったっす!」
 一方の五六七は、相棒のデブ猫の緩いボディラインを凝視しており、未だ筆は走らぬものの、書かれる願いは何となく不安だ。
 秋櫻は、愛すべきデコトラを星に捧げて辛い思いもしたろうが、
「やはりデコトラのフロントスクリーンに書く文字は……」
 短冊には我が浪漫を精密かつ詳細に書き上げ、情熱は爆走中。
 彼女の熱いデコトラ講座はまだまだ続きそうだ。
 沙雪は元の短冊へと戻った願いの1枚1枚を確かめると、
「……この少年の所には、格好好いデコトラが来るといいな」
 件の1枚――子供らしい文字と絵に籠められた純真に微笑しつつ、より星光が当たるよう結び直してやった。

 斯くして星夜に降る災厄を取り除いたケルベロスは、笹と短冊のサラサラと揺れる風間に影を隠して去ったのだが、その帰路を辿る足は、牽牛と織女の咲むような煌きに明るく照らされていたという――。
 

作者:夕狩こあら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。