七夕モザイク落とし作戦~肉食女子の願い

作者:千咲

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
 
●肉食女子の願い
 ――神奈川県平塚市。
 水平線が窺える海岸、海の家。
 もう夏ではあるけれど、さすがに平日は盛況とまでは言い難い。が、それでも若者を中心にそれなりに人の出入りがある海の家には、日本各地の例に漏れず、七夕飾りがあり、たくさんの短冊が付けられていた。
 平塚市の中心部は七夕まつりで有名で、各地から多くの観光客が訪れるものの、逆に少し離れた砂浜はいつもより幾分寂しいくらい。とは言え、数十人程の若者が集ってはいるけれど。

 そんな海の家にある七夕飾りの元に、いつから置かれていたのか分からない謎の物体。
 その物体は直径にしておよそ1mほどの歪な球状。よくみれば何やらモザイクのようなものが覆って――というよりモザイクそのものであるかのようで何とも適切な表現が見当たらない、いわゆる丸っこい塊。
 そんな謎の塊は、きっと日本中のあちこちに点在するのだろう。
 その日、七夕飾りから零れ落ちた小さな光が、あるいは近隣から飛んできたと思われる光が、何か不思議な『力』によって振り分けられるかのように塊へと吸い込まれてゆく。
 その光とは、つまり、短冊に込められた人々の願い。
「もっとお肉が食べたい」
「美味しいニク~!」
「ステーキ、しゃぶしゃぶ、焼肉、ハンバーグにローストビーフ……」
 ここにある塊に吸い込まれていたのは、そんな願いの数々。それが塊に吸い込まれて暫く経った頃、不意にその塊がピクピクと動き始める。まるで鳥の雛か何かが誕生する前のように。
 つまり、どうやらその塊はモザイクの卵という事らしい。そして集まっていた光は、卵が孵るためのエネルギー。
 やがて、モザイクが弾けて霧散するように消え去ると、そこには大きな大きな恐竜ティラノサウルスレックスのような姿の怪物が出現。
 体長3mほどの恐竜――しかも全身にモザイク化した短冊が取り込まれた奇妙な化け物。
 そう、肉食系な人々の願いによって生まれた、新たなドリームイーターの誕生であった。
 
●勝負は7分間
「緊急事態なの。みんな、聞いてくれる?」
 赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)は、そんな台詞とともに、ケルベロスたちに話を切り出した。
「ドリームイーターが、七夕を利用して大作戦を行う事が判ったの。この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さんや、他にも多くのケルベロスの皆が予測して調査してくれた事で察知することができたんだけど……ドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦をもう一度起こそうとしているみたいなの」
 途方もない事態――そんな月並みな表現しかできないようなことを告げる陽乃鳥。
 何しろモザイク落としなんて真似をされれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下し、大量のドリームイーターが出現。日本中が大混乱となるのは想像に難くない。
「敵は、残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーターとし、それを生贄に捧げる事で、モザイク落とし実現の為のエネルギー源にしようとしているようなの。そしてこの七夕の願いから生まれたドリームイーターは、出現してからの7分間で自動的に消滅……モザイク落としの儀式のエネルギーへと変換されてしまうの」
 だから……。
 陽乃鳥はゆっくりと一息付き、小さく頷いてから一気に告げる。
「勝負はたった7分間。皆さんには、ドリームイーターが現れる場所に行って、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいの!」
 七夕の夜。ケルベロスには、楽しい筈のイベントの代わりに、過酷なタイムアタックミッションが舞い込んだ。
 続いて陽乃鳥は、タイムアタックの状況について説明。
「戦いの場になるのは海の家の前、かな。周囲にはまだ若い人たちが結構いると思うから、まずは巻き込まないように注意してね。そんな中に生まれるドリームイーターは、お肉を食べたい、おいしいお肉を……という切なる欲求が具現化して現れるみたいなの。そしてその姿形は、肉食の頂点ともいえる古代生物、ティラノサウルスに似てるみたいなの」
 なんとなく気持ちのこもった口調で語る陽乃鳥。姿はともかく、お肉を食べたいと思う気持ちだけは理解できるらしい。
「ドリームイーターは、強靭な顎で喰らいつく単純な攻撃だけじゃなく、『肉の壁クラッシュ』『脂身シュート』と言った、お肉を無駄にするような技を使うみたい。なんだか違和感が拭えないけどね」
 などと敵の能力を訝しむ様子を見せながらも、緊急事態には変わりないと、気持ちを切り替える。
「ここでドリームイーターの企みを完全阻止できれば、モザイクの卵による事件は2度と発生しなくなるから、大変だとは思うけど頑張ってね」
 無事に片付いたら、お祭りでも楽しんでくれば? と微笑む陽乃鳥だった。


参加者
風空・未来(ボクらはもう独りじゃない・e00276)
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)
葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212)
アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)
ビィ・エイディ(幻奏想・e27686)
カリュクス・アレース(過去に囚われし戦士・e27718)

■リプレイ

●逃げろっ!
「ふ~ん。肉食系ってお肉食べたい方の肉食系か~」
 期待と違うことに、楽しみが半減したかのように言う、アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)。サキュバスとは言え、『他の楽しみ』を知っている6歳も末恐ろしいけれど。
「肉を食いたい……ね。そういう思い、願い、まぁよく分かる気はするが……」
 平塚上空を飛ぶヘリオンの中で、リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)は、落ち着いた様子ながらも、生まれてくるであろうドリームイーターに思いを馳せた。
「確かにね。時期的にはどうしても冷たいものが欲しくなるけど……肉もいいよね、うん。俺も食べたいよ」
 と応える、葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212)。ついついお気楽な方に思考が向くのは性分なので仕方ない。
「しかし、こんなドリームイーターはまたとんでもない。肉食極まれり、と言ったところだな」
 そして、砂浜に降下したケルベロスたちは、すぐに目的の海の家へと向かう。
「お兄さん、お姉さんたち! もうすぐココに危ない敵が現れるよ。だから……すぐに避難して!!」
 集まっている若者たちに訴えるリュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)。しかし、子どもの言う事だからとすぐに動かない者も多く、続けてビィ・エイディ(幻奏想・e27686)も声を掛ける。
「本当に危険、よ。すぐにここから離れて。落ち着いて避難してくれれば、まだダイジョウブ……」
 デウスエクスが現れる――命惜しくばすぐにでも、と。

 しかし、最後まで避難に付き合ってばかりも居られない。すぐに七夕飾りの元にある、モザイクに覆われた物体の周りに集まる。
 七夕飾りに集まるのは人々の願い。
 お肉をお腹いっぱい食べたいという、女子(?)たちの切なる願いだった。

 ピクッ、ピクピク……。
 塊が僅かに揺れる――それは、何かが生まれる前の胎動。やがて、モザイクの塊が弾けて霧散してゆく……。
 その後に現れしもの――つまり卵から孵ったモノは、3mほどの大きな恐竜。
 図鑑などでも有名な、かの肉食恐竜ティラノサウルスレックス。
「逃げたまえ、デウスエクスだ! 落ち着いて、あわてずに避難してくれたまえ!」
 フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)が、逃げ遅れた(一部は逃げなかった)者たちを強制的に排除すべく殺界を形成。迸る殺気が人々を遠ざけてゆく。
「ま、ヒーローショーだと思って、巻き添えにならないところで楽しんでいきたまえ」
 ……確かに。
 自分の身を自分で守れるのなら、ケルベロスたちの戦いも一種のヒーローショーと言えるかも!?

●肉、にく、ニク!
「とにかく、早く倒せばいいんだよね? 分かった、とにかくゴリ押しだーっ!」
 本物にこそ遠く及ばないとは言え、自身より遥かに巨大なティラノサウルス相手に、風空・未来(ボクらはもう独りじゃない・e00276)は怯むことなく初手から大技で攻める。
「紅に染まれ! 殺戮の牙!」
 懐より取り出したのは狐型のカード。振れば巨大な白狐に変わるそれは、脇目もふらず恐竜の元まで疾駆、レックス以上に大きく開いた顎で、思いっきり喰らい付いた。
「まさか、自分が食べられる側になるなんて思ってなかったよねっ!」
 ――与えられたのは7分という制限時間。力の温存なんて意味もない。
「確かにこれは話し合う余地も無さそうだ、倒させて貰うよ。偉大なる青の名を冠する魔術師よ、契約に従いその義務を果たせ」
 サーヴァント、ヴァイスリッターに攻撃を任せ、藤次郎自身は詠唱により青き魔術師の霊を召喚。同じ前衛の仲間たちに命中の加護を与える。
 その効か、仲間たちの攻撃が次々とヒット。
「みんながこれからも安心して短冊を書けるように……クゥ、ここで食い止めよう」
 リュートニアが語り掛けると、付き従うように飛んでいたボクスドラゴンのクゥが、自らの主に風属性をインストール。代わりに彼自身は、かつての調停者としての力の片鱗を『微笑みの弾丸』に込め、前衛に立つ面々に分け与えた。
「恐竜、ですか……さすがに戦ったことはありませんが、頑張りましょう!」
 やんわりと告げるカリュクス・アレース(過去に囚われし戦士・e27718)。だが、その間にも極めて的確にガードを躱し、アメジスト・グレイブの刃が恐竜の巨躯を深々と貫く。
 しかし、その刃先を引き抜いたその直後、ティラノは反撃然と顎を大きく広げ、横向きに喰らい付く……かと思いきや、喰らったのは目の前の宙空。
 ――瞬間、左右からモザイクで構成された肉壁の圧力が彼女を襲う。
「くっ……」
 その様子を目の当たりにしたリーファリナは、肉食もこれほどか……と嘆息しつつ、頭頂部に届くそのタイミングを逃さなかった。
(「今だっ!」)
 神速の蹴りが頭蓋の芯にヒット。かなり小さいであろう、その脳を揺らす。
「ふん、お祭りでお腹がすくのは分かるがね。だからって肉とは風情に欠ける……さっさとお引き取り願おうか!」
 そう言って指先で恐竜を指すフリードリッヒ。その腕から、氷結の力が螺旋を描くように恐竜の足元を貫いた。さらに巨体ながらも意外と攻撃を躱すほどの機敏さを見せる相手に、ケルベロスたちの攻撃は続く。
 が……そんな猛攻にも身じろぎ1つせず、再び宙空を喰らうティラノ。新たなモザイクの肉壁がリーファリナの左右から迫る。
「いや~、ホントに肉尽くしだね~。ぼくも食べたくなっちゃうよ。みんな頑張って」
 などと仲間の方に注力できるのもサーヴァントがブレスで注意を引いているお陰か…!?
(「ドラゴソ……ありがとね」)
 と、アリスは仲間に向けて電撃を放つ。その刺激が身体に満ちてゆくのを感じた未来は、仲間たちの攻撃に組み合わせ、リズムを刻むようにグリッサンド・シューズで砂を蹴ると、まさにタイミングを計って、加速の勢いで発した炎を纏って敵を蹴り抜いた。
「お肉はじっくり焼かなきゃねっ!」
 焦げた匂いが一瞬だけ辺りを覆う。しかしティラノは、その身を焦がす熱にすら微塵も怯むことなく大きな首を振るう。
 すると、その動きにリンクするようにモザイク化した脂身の塊がアリスを直撃。どうやらサーヴァントと主という関係性を本能的に解しているらしい。
「コレが、恐竜? ドラゴン、とはちょっぴり、ちがう? よくわかんない、けど」
 初めて目にする種類の生物を、不思議な表情で観察するビィ。しかしここまでの戦いで、既にこれが倒さねばならない敵であることは十分認識している。
 ゆえに手を抜くような戦い方は見せられないと思いつつ、胸部を開いてエネルギー光を一閃。サーヴァントのソゥが放ったリングが恐竜の巨躯にヒットした瞬間、その間を射抜くように胴体を穿つ。
「いいね。このまま一気に撃破してバーベキューでも楽しもうか」
 そう言って砂を蹴っただけにも関わらず高々とした跳躍を見せた藤次郎が、恐竜の頭上から流星のような鋭い蹴りを放った。
 当然、他の面々も攻撃を重ねる。しかし恐竜は、そこなしとも思える体力に加え想像以上に鍛え抜かれた素早さで翻弄。
 時間という制約が逆に縛りとなって、なかなか決め手となる攻撃につなげられない。
 むしろ、返す刀で放たれた脂身シュートが襲う。それをいち早く察していたサーヴァントが身代わり――思いのほか強烈な攻撃に一撃で力尽きた。
「くっ! 肉にかけるその欲望……なんとも恐ろしい。が……お返しだ、肉は叩いて柔らかくしなきゃあなぁ!?」
 リーファリナが辛うじて肉壁から逃れ、呟く。そして、その尽きぬ欲望を打ち砕くべく、異界の力を借りて敵を撃ち滅ぼす『術式』を紡ぐ。
「全てを打ち砕く界の怒りよ。力の猛り、轟きをもって我が敵を討ち滅ぼさん」
 詠唱を終えた瞬間、見たこともない炎が音を立てて燃え盛り、短く刻む震動が、予兆のように砂浜を揺らす。
 それらの純然たる『力』が、強烈な一撃を構成するかのようにティラノを襲う。その間に描いた魔法円からは数多の砲門を召喚。さまざまな形の砲門が、次々と炸裂して爆炎のようなものをあげた。
 そして続くカリュクスもまた、にくにくしい肉の壁に挟まれてはいたが、辛うじて脱出。
 これまでの戦いで傷付いた箇所を狙って、重ねるように鋭い蹴りを放つ。
 大きく声をあげるティラノ。
 覆うモザイクに乱れが生じ、敵の巨躯が大きくブレる。が、それもほんの一瞬のこと。
 体制が戻ると同時に、純粋な『肉』の壁に挟まれていたリーファリナに急接近、料理を待ちきれず、下ごしらえを終えただけの食材で妥協したかのように、とにかく巨大な顎を限界まで開いて一気に喰らい付く!
 その勢いたるや、傷付いた身体には到底耐えきそうにない。躱せないと悟った瞬間、覚悟を決めた。
 しかし、ティラノの牙がその身体を穿つ寸前、横合いから飛んできたリュートニアが彼女を突き飛ばし、代わって恐竜の顎に捉えられていた……。

●L2T
「「あぁーっ!!」」
 ちょっとした衝撃映像に驚きの声が上がる。
 が、その声の中、最も早く動きを見せたのがアリスだった。その場で目を瞑り、驚異的な集中による霊的な緊急手術。手を触れることもないまま傷が塞がってゆく。ドラゴソはその間も主に類が及ばぬよう、細かく位置を変えながらタックルをかます。
「そろそろ、終わりに、しよう……無粋よね。せっかくの逢瀬の、日。大人しく、消えて」
 ビィが一層の気合いを込め、体内で練り上げたオーラを弾丸に変えて放つ。その流れるように飛ぶ弾は、躱そうとする恐竜のスピードをも上回り、喉元に喰らい付く。
 ゴボッ!
 衝撃にむせ返る恐竜。ケルベロスたちはその隙を逃すことなく攻め立て、一気に天秤が傾いてきた。
 ――勢いを駆って、さらに攻勢を強めようと囲んだ瞬間。
 その躯から見てあり得ないであろう跳躍を見せ、ケルベロスたちの足が止まる。
 恐竜は、跳躍前とさほど変わらない位置に着地するも、宙で物色していたのか、肉の脂にまみれたままのアリスに、思いきり喰らい付いた。
(「だ、大丈夫。まだ……」)
 まだ戦う意思は十分あったけれど、意識がついて行かなかった……

 その時、藤次郎のアラームが鳴り響く――それはラスト1分を告げる警報。
「時間がないよ、一気に押し切ろう!」
 自身のオーラを鋭く尖った形状に変え、敵の硬い皮膚を突き破る。
 さらにカリュクスによる降魔の一撃。
 恐竜の全身が大きく傾いだ。さらにそれを後押しする未来の拳。
 そこにフリードリヒがまるで余裕を見せるかのように煙草の煙を燻らせる。
「さぁ、タネも仕掛けもございます、ってね」
 冗談混じりにおどけたセリフに合わせ、煙が上空で大きな槍の形を紡ぐ。
「それでは皆さん、お祭り前のショー、これにて閉幕とさせて頂きます」
 応援メッセージが書かれた短冊を槍の柄に投げつける。それが柄に巻き付いた瞬間、上空から真っ逆さまに落下した槍が恐竜の脳天を直撃。砂浜まで、文字通りの串刺しにしてのけたのだった。

●湘南ひらつか七夕まつり
「いやいや、危ないところだったね……まぁ、これからは夏だからな。肉を思いっきり食べたくたって、気になって食べられない者は多いだろう――特に女子には、さ」
「わ、わかります。チュロス、クレープ、アイスにお肉……世の中にはとても美味しい物が溢れています。お腹いっぱい食べたい、たくさん食べたい、でもカロリーが……」
 倒したドリームイーターの残骸を見下ろしながら、藤次郎は、そんな願いが恐竜の姿を取って具現化したのだろうと読み、皮肉めいた因縁を感じずには居られなかった。
 実際、同じ世代の女子として、カリュクスにもその願いはとってもよく理解できる。短冊にまで書きたくなるその気持ちも――好きなだけ食べておきながら短冊に『痩せたい』なんて書くのは違うと思うから。
 要は『本能の赴くままに食べてみたい』という、ある種の根源的な欲求から生まれたドリームイーターと言えよう。
「まぁいいさ。何にしても終わったことだし、俺たちも焼肉パーティか何かする?」
 真面目なことを言っていて暗くなったのでは意味もない。せっかく一仕事終えたのだから……ということで、藤次郎が場の空気を一変させる提案。
 思わず笑いが零れ、その間に意識を取り戻したアリスともども、皆の表情に余裕が戻った。
 ――神奈川県平塚市。
 ここの七夕まつりは、七夕かざりを競いあう有名な祭の1つで、この時期は街中が祭ムード一色。
 もちろん、各種の露店もたくさんあり、地元の商店会を中心とした神奈川グルメの店や、それにとどまらず、全国のグルメ/B級グルメのお店まで。
「さて、いろいろ食べ歩いてみるか……」
 リーファリナは、海の家に置かれていたマップを見ながらプランを練る。
 時期も時期だけに、ペアで訪れる人々も多いかも知れないけれど。
「そうだねー。折角だから皆で何か食べていこうか?」
 敢えて意図を読まずに誘うフリードリッヒ。
「皆でお祭り、ですか? それって、たこ焼きとか焼きそばとか、わたあめとかりんごあめとか……」
 ゴクリと唾を飲んだカリュクスは、途端に我に返って、思わず耳まで真っ赤。
「いい、ね。ソゥ、なにか食べたいものある?」
 そこまで大仰ではないものの、嬉しげにサーヴァントに尋ねるビィ。
 そんな会話を聞いていたアリスは、祭の名物でもあるスティック状のお好み焼きが食べたい、などとちゃっかり調べた小ネタを披露。
「じゃ、行こう」
 ――こうして無事に迎えることができた七夕の夜は、楽しげに更けていくのだった。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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