七夕モザイク落とし作戦～幼く純粋な願い

■リプレイ

●兄妹が欲しいと願うと言うこと
　７月７日の七夕の日。
　とある幼稚園に現れた、モザイクの卵は星空の下、少しずつ願いの形に姿を変えていた。
　そんな時、天の川から舞い降りる様に、８人の人影がその幼稚園に降り立った。
「あれが、モザイクの卵ですね。今の状態で攻撃しても意味は無いんでしょうね」
　山田・ビート（コスプレ刀剣士・e05625）が、園児達の願いの短冊を食い荒らし、ドリームイーターへと姿を変えようとしているモザイクの卵を見ながら呟く。
「園児達の願い……凄く良く分かります。私も昔は、凄く憧れましたからね」
　そう青紫色の瞳を細めるのは、レイラ・クリスティ（氷結の魔導士・e21318）だ。
（「お父さん、お母さんに無理言って困らせたっけ……」）
　過去の自分を思い出し、少しだけ笑うレイラ。
「だからこそ、子供達の純粋なその願いを利用するのは許せません。この作戦の成功の有無が、モザイクの卵の事件に関わってもいますし、気は抜けませんね。……全力で当たりましょう！」
　言うと、レイラは初撃を撃ち込む為のグラビティを高めていく。
「実は私も小さい時は、弟や妹みたいな存在が欲しいと言って、育ての親を困らせていたことがあるので、気持ちは分かります。そんな気持ちを利用されるのは許しておけないですね」
　レイラに同調する様に、柊城・結衣（常盤色の癒し手・e01681）も幼い頃、自分が育ての親を困らせた事を口にする。
　兄妹が欲しいと言う願いは、幼い一人っ子が一度は持つと言ってもいい、無垢な願いだ。
　欲に塗れた様な願いとは、程遠い。
　だからこそ、怒りを燃やす者も居る。
「本当に酷い話ですよね。純粋な願いを、祈りを、夢を、こんな風に扱うなんて。モザイク落としなんてさせませんよ。そんな思惑、ぶち壊します！」
　清楚な言葉の中に、ドリームイーターへの怒りをしっかり詰め込み、一羽・歌彼方（槍つかいの歌うたい・e24556）が、片手に得物であるゲシュタルトグレイブ『フェローチェ』を構える。
「そろそろ孵化するみたいだな。先制でグラビティをぶち込もうぜ」
　ゾディアックソードを鞘から抜き、狼のウェアライダーである、グレイン・シュリーフェン（ウェアライダーの降魔拳士・e02868）が仲間達に言う。
「人の願いをこんな風に使うなんざ、許しちゃおけねえな。子供の願い事なら尚更だ。想いをモザイク落としの力に、使わせてやるかってんだ」
「同感ですね。万が一失敗すれば、どれ程の事になるのか想像出来ませんからね。厳しい状況ですが、我々の力を合わせれば大丈夫！　きっとなんとかなります！」
　グレインの言葉に答える様に、自らに言い聞かせる様に、ビートが力強く言う。
　失敗などあってはいけないのだからと。
（「ですが、倒すべき相手とは言え、園児の姿の相手を攻撃するというのは気分の良いものではないですね」）
　孵化が完了し、３ｍの幼稚園児となったドリームイーターを見ながらビートが思っていると、ドリームイーターが口を開く前に、
　顔面に向かって、凍れる弾丸が放たれた。
　その射線上には、ドリームイターの大きな身体の３分の１の身長しかない小さな少女、矢武崎・莱恵（オラトリオの鎧装騎兵・e09230）がサファイアの瞳に強い意志を込めて立っていた。

●油断無く確実に
「タマ！　ブレスお願いだよ！」
　莱恵が相棒のボクスドラゴンのタマに言えば、普段の人懐っこさを隠し、きりりとした表情でブレスを吐くタマ。
「兄弟、か……」
　呟きながら、ドリームイーターの急所の狙いを定めるのは、ベルンハルト・オクト（鋼の金獅子・e00806） 。
（「俺には沢山の姉がいる。そして妹もいる。守られている、という感覚はあまりないが……その実、彼女らの優しさに無自覚に守られている事も多いだろう」）
　考えながらドリームイーターの急所を見定めると、ベルンハルトは妖精弓を構える。
（「守り、守られ。教え、教わり。そういった相互の関係である事が多い。……泣いて欲しがるばかりじゃいけないよ」）
　ゆっくり、矢をつがえるとベルンハルトはグラビティを高めた。
「兄弟かぁ……ボクは考えたこと無いなー」
　呟きながら、ティクリコティク・キロ（リトルガンメイジ・e00128）は、対デウスエクス用のヒール阻害カプセルをドリームイーターに投げつける。
　レイラと結衣も続く様にカプセルを投げれば、ドリームイーターが悲鳴を上げる。
（「ケルベロスの皆さんって……年上の人が多いから、お兄ちゃんやお姉ちゃんが居る感じは何となく分かるかも？　弟や妹がいるっていうのはよくわかんないけど。……どんな感覚なんだろう？　ま、いいや」）
　そんな事を考えながら、ティクリコティクは、カプセルの貯蔵を確認する。
（「時間も無いことだし、とりあえず……逃さず確実に仕留める。この作戦の成功が奴らの勢いに関わるんだ、気を引き締めなきゃ！　兄弟のことは、それが終わってからじっくり考えればいいよね！」）
　そのティクリコティクの前をビートが日本刀・童子切安綱に闇夜に輝く雷を纏わせながら駆けると、一気にその刀身をドリームイーターに突き刺す。
「……聞いていた通り、硬いですね」
　ビートが想像していたより、刃がドリームイーターの身体を抉らないのだ。
「お兄ちゃん助けてー！！」
　ドリームイーターが絶叫するように叫ぶと、ドリームイーターの身体の周りを取り込んだであろう短冊が舞い、兄の幻影となって障壁を作る。
「残念、そいつはまやかしだぜ！」
　ドリームイーターが作り出した兄の幻影をグレインが打ち消し、そのまま刃をドリームイーターに向ける。
「ただでさえ硬いんだろ？　時間も無いんだ、幻影は逐一消させてもらうぜ！」
「グレインさん！　しゃがんで下さい！」
　声が聞こえると、グレインは腰を落とす。
　その上を、炎を纏った歌彼方の蹴りが通り過ぎる。
　ドリームイーターに蹴りを決め、回転しながら着地すると、彼方は逆の脚にグラビティ・チェインをすぐに注ぎ込む。
「タイムリミットは７分。限られた手数を無駄には、出来ません。無垢な願いを、無粋な輩に好き勝手に利用させはしない為――いきます、全身全霊で！」
「私も、精いっぱい……できることを全力で！」
　ジャンプすると同時に回転させた槍の穂先に稲妻を込め、力の限り穿ちながら、レイラが叫ぶ。
「時間制限の限り、だが討ち漏らさぬように慎重に……一手も気を抜く気は無い」
　妖精の加護を受けし矢を放ちながら、心静かにベルンハルトが口にする。
「まずは、動きを制限するところからですね」
　結衣の放った攻性植物が蔓草となって、ドリームイーターの脚を絡め取る。
「みんな、しっかり狙ってね！　ボクのオウガメタルも力を貸してくれるから♪」
　莱恵弾むような声で言うと、莱恵の纏ったオウガメタルから光輝くオウガ粒子が弾け、ケルベロス達の集中力を高めていく。
（「今日はボクの誕生日だもんね！　そんな日に悪いことはさせないよ。兄ぃと姉ぇはいないけど、ボクは頑張るんだからね！！」）
「七夕だから７分なのかな？」
　疑問を投げかけながら、七夕に降る流星の如き蹴りをドリームイーターに決める、ティクリコティク。
「……中々厳しい時間制限だね」
「それでも成し遂げます！　焼け付く炎を刃に纏え！　霊刀解放！！」
　炎を纏った鬼神の力を刀に宿し、ビートが刀を横に薙ぐ。
　その炎の刃は、ドリームイーターを切り裂いたが一瞬の隙を生む。
「お星様ー！！」
（「まずい！」）
　ビートに向かって降り注ぐ流星のエネルギー……しかし！
「ぐおぉおお！」
　その流星を受けたのは咄嗟にビートを庇ったグレインだ。
「ケルベロスとして、守り手として、守りたいのは……仲間と子供達の願い！」
　グレインは、吠えると剣を力強く振り下ろす。
「やだー！！」
　叫ぶドリームイーターは、ヒールグラビティを高めていく。
「みんなー！　ドリームイーターの回復量を上回るだけの攻撃をどんどんやっちゃってー！　みんなに傷は付けさせないから！　なるべく早く！　モザイク落としのエネルギーになる前にだよっ！」
　莱恵の叫びに、ケルベロス達は積極攻勢に移るのだった。

●最後の猛攻
「そろそろ仕掛けていきましょうか。大きな音がするので気をつけてくださいね」
　言うと結衣は、特製の小包をドリームイーターに投げつける。
　小包はドリームイーターに直撃すると、鳳仙花の種が弾ける様に大きな音を発し衝撃波となって、ドリームイーターにダメージを与える。
　だがすぐに、ドリームイーターは偽りの兄の幻影で自らを治癒する。
「もう６分を過ぎます！　皆さん、一気に畳み掛けて下さい！　間に合わなくなります！」
　結衣が手元の時計で時間を確認しながら、仲間達に叫ぶ。
「ウィルス達がドリームイーターの回復力をかなり下げてます。ダメージで押すしかありません！　……慈悲なりし氷の精霊よ。その力で彼の者に手向けの抱擁と終焉を」
　レイラが魔法詠唱をすると、ドリームイーターの真下に魔法陣が展開される。
「氷の牢獄、これで……砕けなさい！」
　魔法陣から現れた巨大な氷塊は、ドリームイーターを氷結するとドリームイーターごと砕こうと、亀裂を作り割れるが、右足を氷結されたドリームイータにはまだ息がある。
「私もスパート、かけますよ――！」
　言うと、歌彼方は、命を輝かせる決意の歌を紡ぎながら光の翼をはためかせ、翔ける。
「響け。轟け。私の歌よ、彼方まで。輝け。私の翼、私の刃、私の命――！」
　フェローチェをくるりと回すと、一気に狙いを定めて突撃する歌彼方。
「――いきます。ぶち抜きます！」
　高速の連撃はドリームイーターのグラビティ・チェインを確実に削って行く。
「七夕の星と月の元、消えて下さい！」
　月光の力を宿した斬撃を放ちながらビートが叫ぶ。
「お前のお兄ちゃんなら５メートルは必要だよな！」
　グレインが螺旋の力を放ちながら、ドリームイーターに言う。
「みんな！　回復は纏めてあとでするからねー！　ぶーーーんなぐるっ！！」
　莱恵は、その身体に見合わない大きな翼で空へと飛ぶと、槍をハンマーの様に持ち、ドリームイーターに急降下すると、鈍器として打ち下ろす。
　ドリームイーターは、あり得ない質量の攻撃に膝を付く。
「お兄ちゃんが欲しいって、ずっと言ってたけど、それはお前の夢じゃなくて、他の誰かの夢だろ。ましてや、それを食い物にするお前らに、ボクらは負けるわけにも逃がすわけにもいかないんだ！　.357マグナム弾、全部持っていけっ！！！」
　ティクリコティクが子供達の願いを捻じ曲げたドリームイーターに、ありったけの銃弾を撃ち込む。
「君を守る。そのために君を倒す。矛盾しているが、矛盾はしていない。そこに心があるから、優しさは生まれる。……恨むなよ」
　ベルンハルトは一ノ太刀で右袈裟にドリームイーターを裂くと、一度背を向け神速の早さで回転し、ドリームイーターの胴を横薙ぎした。
　二つに分かれるドリームイーターの身体、それはやがて無数のモザイクとなって消えていく。
　そして最後に残された、数十枚の短冊は夏風にさらわれ、天の川へと飛んで行った。
「モザイクの卵……諸悪の根源か……消えてしまうんだな……」
　ベルンハルトが誰に言うでもなく呟いた。

●それぞれが七夕の夜に願うこと
「ドリームイーターのモザイク落としエネルギーへの変換、阻止成功です♪」
　歌彼方は、勝利した喜びを笑みにして、空を見上げる。
「他の現場はどうなんでしょう？　モザイク落としが本当に阻止できたのか……確認して来ます」
　それだけを仲間達に言うとビートは、近くの戦闘域へと駆け出した。
「……これで、ドリームイーター達の脅威が減ればいいのですが。……あ、流れ星。……ふふっ、子供たちの願い、叶う気がしてきました。短冊にかける、想いは、きっと……」
　レイラが風になびくロングヘアーを手で押さえながら穏やかに言う。
「子供達の願いが詰まった笹は、無事だったんだな……」
　グレインは、安心したように優しい口調で呟くと、そっと笹の葉に触れる。
　そしてグレインが静かにヒールグラビティを放つと、植物のイメージが投影された形で周りが修復されていく。
「……ドリームイーターの今後の動きも気になりますわね」
　同じくヒール作業をしていた、結衣が不安を口にする。
「きっと、これからも大丈夫だよ。七夕の日に勝てたんだよ♪　願いは届くよ」
　莱恵の言葉は、ケルベロス達から笑顔を引き出す。
　そんな中、一人離れた場所である事を考えていた、ティクリコティクは何度も頭を捻っていた。
「うーん、やっぱよくわかんないや」
　兄妹がいると言うことは、どんな感覚なのか……いつか自分にも分かる時が来るのか来ないのか、そんな事を考えながら、ティクリコティクは空に流れる天の川を見上げるのだった。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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