七夕モザイク落とし作戦～らぶどりーむ

■リプレイ

●始まり
「さて、お仕事です。掃除屋としての」
　三廻部・螢（掃除屋・e24245）の手にはタイマーが握られている。鳴動を六分後に設定したアラームをズボンのポケットに滑らせる螢は、あるいは、と独りごちる。
「ケルベロスとしての」
　ポケットから引き抜かれた手にアラームはない――あるのは、簒奪者の鎌だ。
　ケルベロスたちの眼前に立ちはだかるのはドリームイーター。八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）は胸元で輝く何でも屋さんのエンブレムの縁を指でなぞり、ドリームイーターを見やる。
「ほんまこういう行事ん時は必ず湧いてくんなぁあいつら。どんだけ鋭い嗅覚やねん。ウェアライダーのうちもびっくりやわ」
　心底うんざりした引き顔の瀬理。
　一方、ドリームイーターに鉄塊剣『退魔の撞木』を叩きつける葉月・静夏（戦うことを楽しもう・e04116）は楽しそうなにこにこ顔。
　静夏が笑顔でいるのは、戦いの中にいるというだけの理由ではない……七夕というイベントを利用した『七夕モザイク落とし事件』が、ドリームイーターの焦りを反映しているようだと思ったからだ。
「デストロイブレイドッ！」
　全力でもって振り下ろされた静夏の剣に、風が起こる。
　旋堂・竜華（竜蛇の姫・e12108）は己の唇にかかった赤い髪を払うと、ごきげんよう、と声をかける。
「さて、楽しませて頂きましょうか……♪」
　告げる竜華の握る竜縛鎖・百華大蛇は、一直線にドリームイーターへと突き進んだ。
　戒めを受けながらもドリームイーターは静夏へと初撃を加え、瀬理は満月の輝きによって癒しを送った。
「支援はうちに任し！　あんたは存分にぶん殴って来ぃや！」
　静夏が瀬理から癒しを送っても夜の戦場が明るいままなのは、ケルベロスたちが持ち込んだ光源があるから。
　今回のドリームイーターは七分以内に撃破しなければ消えてしまう――だからこそ、余計なことに気を回さずに済むようにと準備をしていたのだ。
　そして、目的の達成の為にと鋼・柳司（雷華戴天・e19340）は全力でもってドリームイーターを蹴りつける。
　蹴りに伴う煌めきもまた、一瞬とはいえ闇夜を照らすランプの役目を果たしていた。
　空波羅・満願（優雄たる満月は幸いへの導・e01769）のオウガメタル『銀閣』が取るのは竜の形。翼を大きく広げると、オウガ粒子が辺りに散らばった。
「糞神風情が人の色恋沙汰の願い事貶める様な真似してんじゃねぇぞ」
　低くつぶやく満願の横をかすめ飛ぶのは、螢の鎌――更に、炎弾も続いた。
「攻撃に専念しますね」
　マチルダ・ベッカー（普通の女子大生・e09332）は言葉通りに狙い澄ました連撃を叩きこみ、それからふわりと横にずれる。
「１年に１度の再会の日に出てくるなんて……」
　先ほどまでマチルダのいた位置に着地した大上・さとり（夢見る天使・e15358）はぷんぷん怒り顔。追従するキルシュは筆に似た尾を振って、仲間への癒しを送り届ける。
「でもね？　例え短冊に願っても、モザイク落としは叶えさせないのです」
　さとりの胸で燃えるのは闘志。縛霊手とマインドリングの準備が整っているのを確かめ、さとりは天を仰ぐ。
「迷い猫神社の白狼。宣伝も兼ねて全力で行かせて頂きますっ！」
『ヘスティアーランプ』に火が灯る――エネルギー光球は、白銀に散った。

●折り返し
　戦闘は最長でも七分間。
　それまでに敵を撃破しなければいけない、という意識は全員が持っていたが、戦闘中に時間を確認する者はいなかった。
「今いくよー！」
　静夏がバトルオーラを立ちのぼらせると、ひらりとスカートが揺れて必殺悩殺勝負下着が僅かに覗く。だが、静夏はそれを気にする様子もなく、仲間へと笑顔を見せた。
「どんどん追い込んじゃおう！」
　支援を受けた柳司は拳にオウガメタルを纏わせ、破らんばかりの勢いでドリームイーターを突く。
　乱されたモザイクの隙間から、紙片が覗く――全貌は分からないが、辛うじて『大好きな』という言葉が読み取れた。おそらく、願いの書かれた短冊なのだろう。
「まぁ七夕ともなれば恋愛的な願いも多いか」
　俺にもそんな頃が――そこまで考えてから柳司は首を振り戦闘に集中することにした。
　螢もまた、昔一度だけお願い事をしたことを思いだしていた。
　叶ったのかどうか以前に、どんなお願い事だったのかすらもう覚えていない。懐かしさばかりが、螢の胸を満たしていた。
「今のお願いは、そこのモザイクを綺麗さっぱりお掃除することです」
　どうか叶いますように、と言って傍らの柴犬の頭に手を置けば、柴犬はデッキブラシ状の杖へと変わる。
「……なんてね」
　自ら叶えれば良いのだから、願いは必要ない。
　魔法の矢を全身に受けるドリームイーターに視線を向けたまま、マチルダはシャーマンズカードを天高く放る。
　放り投げられたカードがひらひら落ちる軌道に生まれたのは弾丸。アカシアの花のように鮮やかな色のそれらを、マチルダはドリームイーターへと向けた。
　赤い精霊石の指輪に口づけ、濡れた瞳で見つめれば黒いものが竜華の周囲に浮かぶ。誘うような竜華の眼差しを辿るように、トラウマボールはドリームイーターの下で炸裂した。
　仲間への支援を終え、瀬理も攻勢に打って出る。
「あんたらにくれたる願いは短冊一枚分もない。とっとと帰り！」
　屋上のドアめがけてドリームイーターを殴り飛ばす瀬理。吹き飛ぶドリームイーターは、怒りを込めてケルベロスたちを鍵で裂いた。
　瀬理を狙った攻撃は、しかし艶めく銀が阻む。
「そう易々と俺と銀の字を掻い潜れると思わない事だな」
　ドリームイーターの攻撃を受けた満願。
　その視界の隅には、懐かしい姿がいる気がした――涙を流している気がした――『うそつき』と言っている気がした――それは、あの時の。
　内臓と心に抱いた地獄が満願すらも焼くかのように熱い。赤い瞳に宿る敵意は、狂気と紙一重のものだった。
「てめぇだけは殺す、絶対に殺す……！」
　憤激のままに叩きつける拳。勢いあまって床にまで叩きつけてしまったせいで皮膚が裂けたが、痛みはろくに感じなかった。
「夢見る巫術の集大成！！」
　仲間たちが傷を負っているのを認めて、さとりは【夢見る天使】で前衛の面々を癒す。マジカル☆フリルリボン♪が愛らしく揺れ、キルシュも楽しそうに耳を動かしながらひっかき傷を敵に負わせるのだった。

●鳴動
　ポケットからの音を感じて、螢は仲間へと声をかける。
「残り一分。一気にけりをつけましょうってやつですね」
　ファミリアロッドを持ち直せば、螢の魔術回路と杖の回路がほとんど強制的に接続される。
「知ってます？　デッキブラシは、魔法の杖なんですよ」
　閃光の、火焔の陣が展開され。
「塵芥も、モザイク一つも残さずに」
　氷結が続く。
「隅から隅まで、塵芥も残さずに」
　最後は稲妻――翠の回路は、戦場に存在する汚れも命も許さない――めくれ上がったモザイクの裏にあった短冊、その端に散るインクの染みすら。
　――瀬理の体が沈んだかと思えば、あっという間にドリームイーターに肉薄していて。
「暗い夜道、冥い黄泉路、独り寂しく、黙って逝け」
　白虎そのものの迅速さで張りついた瀬理は、ドリームイーターの気脈の中心に掌を押し当てる。
「虎撃・暗夜寂逝」
　見た目には何の変化もないまま、ドリームイーターは内側だけを乱される。
　気血の乱れがドリームイーターを苛み、破壊する。内部破壊に耐えられないという風に膝をつくドリームイーターを見下ろし、満願はこう吐き捨てた。
「けっ、腑抜けた御霊だな。腹の足しになりゃしねぇ」
　満願の足は膝をつくドリームイーターの頭の上にある。
「糞神風情が人の色恋沙汰の願い事貶める様な真似してんじゃねぇぞ。落とし前ぁてめぇの命でつけてもらおうか」
　百華龍嵐を纏う右腕を口元にやれば、胃袋からせり上がってきた地獄の黒炎が出現する。
　炎は見る間に魔獣を作り出す――咆哮を上げる大顎と共に、満願は拳を振り抜く。
「喰い潰してやる」
　ドリームイーターの肉体が、魂が喰われる。
　腹部に大穴を開けてなお立ち上がろうとするドリームイーターの目の前に飛び込んだ静夏は、そのままの勢いで渾身の頭突きを喰らわせる。
「暑い夏は冷えたスイカがいいよね！」
　上半身を大きく逸らせた甲斐あってか、その一撃はただの頭突きと侮れないほどに苛烈。
　立ち上がろうとした半端な姿勢のまま凍りつくドリームイーターへと、マチルダはシャーマンズカードを投げつける。
　次々にドリームイーターの体に貼りつくシャーマンズカード。一枚をマチルダが指で叩くとそれは燃え上がり、残るカードも次々に炎弾と化した。
　火だるまになりながらも繰り出されるドリームイーターの攻撃は、決して無視できないダメージをケルベロスたちに与える――しかしさとりは、先ほどまでのように仲間を癒すことはしない。
「これが最初で最後の全力攻撃です！」
　気合の入った声に応じるように、キルシュもリングをドリームイーターにぶつける。
　キルシュがドリームイーターの前からさっと引くのと同時に、さとりも炎でドリームイーターを取り囲むのだった。
　柳司は機身に内蔵の魔道回路を呼び起こし、その手に力を集わせる。
「雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃！！」
　断ち斬る一閃。
　竜華は背後に火柱を噴き上げさせる――柱は八本の鎖に分かれると、各々の軌道を描いてドリームイーターへと巻きついた。
「全て燃えて砕け！」
　力強いひと声。
　鉄塊剣を掲げて、竜華はドリームイーターへと最後の一撃を加える。
「炎の華と散りなさい！！」
　剣が走れば、モザイクは赤く燃える――引き裂かれて散らばる様子は、確かに花の満開なのにもよく似ていて。
　ドリームイーターの命は、ここで散った。

●
　戦いの後、ケルベロスたちは戦場の処理を始めた。
「無事なのもありますね～」
　マチルダが拾い上げたのは短冊の一枚。そこには『彼女ができますように』という願いが書きこまれていた。
「あ、勝手に願い事見たらあかんよ？　そういうのんって他人に見られたら恥ずかしいやん……なぁ？」
　口では止めながらも、瀬理は興味津々といった風に尻尾をゆらゆら揺らしていた。
　戦闘に巻き込まれ残骸となってしまったものも含めて、短冊はたくさんある。その全てに願いが詰まっているという素敵さに、マチルダは微笑を浮かべる。
「折角の七夕の夜なのですから～私も一つ短冊に願いを書いてみようかな～」
　たくさんの願いを見つめながら、マチルダは呟く。
　満願は恋愛ごとの願いそのものにはあまり興味がないのか、瀬理の持ってきた笹に短冊をくくりつけている。
　満願にとって、愛ならば家族に対するものの方が馴染み深く、だからこそ糞神――デウスエクスどもが許せない。
　見せつけられた幻影を思い出すたび乱れそうになる心を落ち着けるように、満願は紫水晶のバスカニアを抱いて、笹を願いで飾っていく。
「見当たりませんわね……」
　憂えるように溜息をついたのは竜華。
　赤ずきんのドリームイーターの尻尾を掴めたら、と何かがないかを探す竜華だったが、ドリームイーターは何かを残すことなく消え失せてしまった。
　しかし、事件の終わった今後も調査をすることで何かが見付かる可能性はある……竜華はそう思い直し、辺りへと癒しを送り届ける。
（「年一回の再会の時くらい静かに過ごせるようになったかしら？」）
　さとりは空を見上げ、そんなことを考えている。
　キルシュもまたさとりに寄り添い、小さく喉を鳴らしていた。
　柳司もぐるりと周囲を見回すが、戦闘によって破壊されたものは全て癒されている。静夏も夜空を肴に、純米大吟醸を開けたところだ。
　煙草を口に、螢も夜空を見上げる。
「今日は星が綺麗ですね」
　美しい夜空を見上げて、ケルベロスたちは勝利の余韻を味わうのだった。

作者：遠藤にんし	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 0
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