七夕モザイク落とし作戦~彩纏うはゆめまぼろし

作者:螺子式銃


 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」


 それは、京都のとある街角。
 町屋が両脇に並ぶ石畳の路地を抜ければ、さらさらと川が流れている。
 張り出す緑の柳も鮮やかで、――だから、だろうか?
 控えめに飾られた七夕の短冊には、同じ願いがいくつも並ぶ。
『来年は浴衣を着たい』
『浴衣であのひとと歩けますように』
『新しい浴衣とお揃いの髪飾りが欲しい』
 そんな他愛もなく微笑ましい願いへと、モザイクの卵が忍び寄っていく。
 幾つもの色とりどりの短冊を集め飲み込み、――現れるのは一体のドリームイーターだ。
 結い上げた黒髪には星を飾るような華やかなかんざしをじゃらじゃらと、身に纏うは勿論の如く浴衣だが男女のものを種類様々にちぐはぐに切り合わせたかのような出で立ち。それだけでは飽き足らず、後光の如く、無数の反物を背負っていた。
 背は異様に高く、3m程度はあるだろうか。モザイク化した短冊を体内に取り込んだドリームイーターは――今はただ、待ち続ける。


「今日もお疲れさま。――じゃあ、始めようか」
 招集に応じてくれた皆へと一礼すると、トワイライト・トロイメライ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0204)は資料を手に話を始める。今回彼が説明するのは、七夕を利用して行われるモザイク落とし作戦の事件だ。ドリームイーターが七夕を利用して、大規模な作戦を行うことが判明したのだという。この件については、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、多数のケルベロスが予測して調査してくれた事で事前に知る事ができたのだと前置いて、改めて言葉を続けた。
「鎌倉奪還作戦時に失敗した、『モザイク落とし』作戦の再試行と言うわけでね。残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄にすることでモザイク落としのエネルギー源にしようって寸法だ」
 少しばかり憂う表情になるのは、この作戦が成功したときの懸念故か。モザイク落としが成功すれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する。すると、大量のドリームイーターが出現して、日本中に混乱を引き起こすだろうことは想像に難くない。資料を閉じて、トワイライトは顔を上げる。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは、出現してから七分で自動的に消滅する。そして、消滅すればモザイク落としの儀式エネルギーに変換されてしまうだろう」
 続けてトワイライトが説明するに、ドリームイーターの発生現場は京都の古い町並みが残る住宅地だ。繁華街ではないが、七夕ともなればそれなりに人通りはある。周囲に街灯があるため、ある程度は明るくもあるようだ。また、ドリームイーターは発生した後、七分だけその場にとどまり消滅するという行動をする為、周囲に被害をもたらす心配はない。
「浴衣が着たい、という願いを取り込んだドリームイーターだ。着飾らせようとする幻影を主に使用してくるらしい。色々と状態異常を仕掛けてくるようだから、気を付けて。
 そして、大事なのはこのドリームイーターは七分だけしか撃破の機会がないという点だ。時間内に撃破失敗した場合は、消滅してモザイク落としのエネルギーとなってしまう。もし、今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としの作戦は実行されるだろう。
 逆に、ほぼすべてのドリームイーターを撃破出来たのなら、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるだろうという予知も得ている」
 つまり、同時多発的に起こるこの七夕作戦で過半数が阻止に失敗すればドリームイーターの思惑は成功、逆にほぼ完璧にケルベロス達が成功すればモザイクの卵による事件の根絶に繋げることが出来る。
「折角の七夕に託した願いが悲しみに繋がらぬよう、君達の力が必要なんだ。どうか無事に戻ってきてほしい、それから君達も良い七夕を。――いってらっしゃい」
 トワイライトは最後に皆の顔を一人ずつ見渡して、穏やかな笑みでケルベロス達を見送る。


参加者
ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)
クリス・クレール(盾・e01180)
シオン・プリム(花・e02964)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)
レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)

■リプレイ

●星に願い
 浴衣でそぞろ歩く人も多い街中へと、ケルベロス達が降り立つ。
「着物好きだわ。風情があって」
 周囲の人通りをあらかじめ確かめながら、エルフ耳をぴこぴこ揺らすのは、ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)。可憐な少女らしい大きな瞳が、楽しげに周囲を見渡している。
「七夕に浴衣か。涼しげでいいのだ」
「浴衣か。甚平なら持っている」
 柔らかく目を細める月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)に、ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)の方は、真面目な面持ちで応じる。
 他愛ないやり取りに仲間達の口許も緩むが――すぐにその空気は突如現れるモザイクの卵によって掻き消される。現場への到着と、ほぼ同時の出現だ。
「ドリームイーターが来るわ! みんなここから離れて!」
「ここは戦場になるよ、みんな避難してください」
 ティリクティアが途端に冷えた殺気を放ち遠ざける一方で、灯音は人好きのする優しげな笑みを浮かべて注意を促す。他の皆も口々に声をかけ、避難を促すのにわっと人が逃げていく。
 卵は見る間に孵り、生まれつつあるのは願いを喰らい膨らんでいく異形の姿。
「――気に食わないな」
 普段は感情の起伏が薄いせいか、ともすれば無気力にも見えるレテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)がくしゃりと指先で髪を掻き上げる、そのついでのようぽつり、言葉が零れる。行きましょうか、と声をかければ傍らのウィングキャットも羽ばたきを強めて。
「ああ、全く無粋なこった。――ケルベロスが来たぜ! 後は任せて安心して逃げろ!!」
 傍らを走っていた八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)も、その動作の間に僅かな頷きを挟む。
 声を張り上げ、人々に活力と安心を伝える一方で、戦闘態勢へと素早くケルベロス達は移行していく。
「この先は、私達がお相手しよう」
「遊んであげるから、さっさとかかっておいで」
  四辻・樒(黒の背反・e03880)が薄く形だけの笑みを浮かべて歩み寄るその立ち位置は、人々への遮蔽となるもの。傍らに寄り添う灯音を確かめるように見た時だけ、殺気を纏う彼女の眼差しが柔らかく綻ぶ。
「皆、無事に避難してくれたようだ」
「ああ、――行くか」
 手分けして一般人の逃げ遅れを確認していたシオン・プリム(花・e02964)がクリス・クレール(盾・e01180)と頷き合う。絡み合う紫と赤は、互いの武運を願う気持ちをその刹那に重ねて。
「…願いをただ踏み躙るだけの行為。…許す訳にはいかない」
 踏み込んだガーネットの姿が見る間に変貌する。耳元からアンテナが起動し、ゴーグルが装着される。始まりの合図のよう、名の如き紅い瞳が光を帯びた。
「目標を確認。状況を開始する」
 ドローンの群れが前衛へと飛び交う中、更に進み出る姿はもう一つ。
「目標複数、導け」
 クリスが命じれば、禍々しい黒のオーラもまた後を追って行く。攻防、それぞれを助けるものとして。
「今回も頼りにしてるぜ、二人とも」
 馴染んだ彼等の姿と力を目にすれば、少しばかり爽の唇が弧を描く。走り出す刹那、軽く肩をぶつければ微かな頷きが帰ってきて――それだけで十分だった。
「伏して願う。戦場に身をおく我が友等に 汝が加護を授けんこと。出ませ、焔姫!」
 戦場に凛とした声が響く。灯音が呼ばわるは、緋色の焔。現れた紅蓮は鮮やかな軌跡で舞い踊り、消える間際には囁くような笑い声と確かな加護を残す。
 数々の援護を受けて、樒と爽は同時に力を解き放つ。凍える螺旋、時空すら凍らせるオラトリオの秘儀。共に、ドリームイーターへと纏わりつくと浴衣の端から氷結させていき。
 オーラの塊と、研ぎ澄まされた矢――ティリクティアとレテが先払いの援護を飛ばし、そのすぐ後に紫の姿が駆け抜ける。シオンが叩き込むはルーンアックスの一撃。
「火力は十分。けれど、――硬いですね」
 味方の力に感嘆しながらも、敵の負傷と手応えを測ればレテは静かに時間を確かめる。
 七分、――彼等に与えられた時間はあまりにも短い。

●戦場に彩
「……浴衣ヲ着テ、私モキレイ二」
 無数の他愛ない願いを喰らった異形は毒々しいまでに鮮やかな彩の反物でもって、前衛を狙って絡みつく。その彩鮮やかな布は触れた途端業火へと変わり。
 巻き起こる火の波へとシオンが飲み込まれる寸前、クリスは力強く体を抱き寄せるよう背へと庇う。猛々しい朱に晒される可憐な紫の花を、焔より鮮やかな紅の盾が守り切る。護り手の彼ですら肌を焼かれる苦痛は強く、攻撃の鋭さを示していた。
 だからこそ皆の盾となることを改めてクリスは己に誓う。シオンは彼の傷を心配げに見ながらも、敢えて心を殺すよう表情を押さえて攻勢に向かう。破壊に意識を落とし込むのは、彼女にはとても難しかったけれど。
 大事で頼りになる皆の傍らに立つものとして、恥じぬよう。身軽な跳躍から、己が腕を叱咤して武器を打ち込む。
「負けないで。全力で支えるわ」
 炎に傷つけられた仲間達へ、伸びやかなティリクティアの声が響く。胸に手を宛がい、奏でるのは奥深き森の木々がそよぐような、清浄な水の流れるような癒しのうた。破壊に満ちた炎を鎮め、慈しみに満ちた曲に合わせてウィングキャットものびのびと翼を羽ばたかせる。傷を癒されたガーネットは、空中へと舞い身軽な一回転で加速して上より狙いを定める。
「…特製の弾頭だ、しっかり味わえッ!」
 叩きつける声と共に追加装備を展開する。赤を基調とした巨大なミサイルコンテナが発射する弾丸は、雨あられと降り注ぎ着弾と同時に冷気を巻き起こす。幾重にも重なる氷はドリームイーターを冷却し、時に鋭い氷柱となって引き裂いていく。
 しかしその一方で敵もまた搦め手を使いだす。
「私なら灯には反物は白地に金魚藍萩文だな」
 黒地に咲き誇るは、緋の鮮やかな牡丹。戦いのさなかに生み出された幻影は灯音に反物を撒き付けるのだが、妻を傷つけた返礼とばかり的確にナイフをドリームイーターの腹に埋め込み切り裂きながら樒は涼しげに言葉を紡ぐ。尚、髪には小さめの花飾りが御勧めだそうだ。
「そんな所で張り合わなくていいのだ。花の髪飾りに白地に金魚藍萩文……むぅ、浴衣をきてみてもいいかな」
 肌を焼く痛みも何のその、伴侶が作った傷口に駄目押しのよう蹴りでつま先を叩きつけながら、気恥ずかしげにそっと灯音も笑う。
「それも似合ってるけど、きっととっても素敵ね」
 すかさず気力を灯音へと注ぎ込んで癒すティリクティアは黄色の地に可憐な花の咲く浴衣の出で立ちで、白い項も涼やかにアップに纏めた金の髪との対比を見せる。そんな彼女にはドリームイータがこれもお似合いでは、みたいに鮮やかな空色に白と紫の小鳥が舞う反物も勧められていたりしたが。
「わぁお、別嬪さんがさらに別嬪に!」
 まじまじと、けれど不躾ではない様子で女性陣を堪能していた爽の髪はあっという間にドリームイーターに結われてしまう。
 流れる青を結い上げ色とりどりの蝶が目立つ大ぶりの簪に纏められてのハーフアップ。
「お、いい趣味してんじゃん……これが敵じゃなくってお姉さんにやって貰えたらサイコーなんだけど」
 アレンジだけで済まずに更に絡みつこうとする金銀飾りをウィングキャットに払い除けて貰う。機嫌の良いテンポの侭、軽くターンを決めれば両のナイフを逆手にくるりと返し敵を切り裂いていた。
「後、三分です。このまま押し込んでいきましょう――ッ」
 華やかな気配に息を和ませる暇もあればこそ、レテがタイムキーパーの役目を果たそうとする瞬に、襲い来る流水紋の反物。しかしすかさず猫が割り入って、後ろへとレテを突き飛ばす。
「……成る程、そう来ましたか」
 となればどうなるかというと、せんせいが大変なことになるのである。淡い紫の和布でリボンじみてきゅっと首を結ばれたウィングキャット。猫のドヤ顔は揺るがないが、冷静なコメントにレテの足を肉球でてしりと叩いた。はい、と返事をしてガトリングの連射へと切り替える。狙いは過たず敵の腹を穿ち。
 緊迫感のある戦場だが、時折に小さく零れるやり取りが空気を緩和していた。攻撃手を多めにした構成と、状態異常を上手く絡めていく手法もまた有効のようだ。だが、それでも、まだ紙一重の攻防は続く。

●決着の時
「七夕の逢瀬を邪魔なんかさせないのだ。――ね?」
 着実に削りながらも、決定打は未だ齎されていない。契機を切り開こうと、灯音は信頼を込めた笑みを傍らに向ける。
「もちろんだ、灯」
 その信頼に樒が応えぬ筈もない。振り返らずとも、樒が灯音に見せる背中は凛と頼もしく。だから、灯音はその四肢へと銀色を纏う。心を通じ合わせたオウガメタルは彼女の意を汲んで、拳へと力を集約させ――反動を撓め一気に飛翔する。握り締めた拳は、深々とドリームイーターを覆う短冊や反物を貫き装甲を剥がしていき。
 タイミングや呼吸なんて、流れる空気だけで分かった。漆黒のコートが翻るその気配すら、灯音には伝わる。拳を叩き込む瞬間間近に樒が触れるだけで切れそうな尖った殺気を纏って肉薄してきても、少しも怖くはない。樒もごく自然に彼女が剥がした装甲を抉り、純粋なる斬撃を繰り出す。その手元は、己でも驚く程に滑らかに深く敵を切り裂くことが叶った。
 だが、その接敵の瞬間を狙って反物が大きくしなり離れようとする灯音を撃ち据えようとする。
「灯音――!」
 咄嗟に、シオンの声が上がる。身を挺してでも彼女を守りたくて、けれど自分が出来るのは――相手を引き裂くこと。振り上げた武器はずっしりと心まで持ってかれそうに重い。守る為ではなく、戦う為の。
「大丈夫だ」
 その背にそっと触れていく紅い気配は、一陣の風のよう素早く灯音を庇って酸に片腕を焼かせながら墨色に紅の炎が揺らぐ反物を薙ぎ払う。狙われた灯音と庇ったクリスを見れば敢えて押さえていた感情が少しだけ零れれそうになる。それも、つかの間。
「打って出る。――後は、どうか」
 冷静に整えたシオンの意識は、最善を弾き出す。瞬間の演算思考――仲間が切り開いた道を、次につなげる為に己を一振りの武器として。その細腕にはあまりにも大きなルーンアックスで、ドリームイーターの腹部を引き裂く。心を殺し、力を籠めて。短冊じみた内部の構造が曝け出されていくまで。
 ティリクティアはそのタイミングで攻勢に転じる。全身のオーラを波立たせ、気の流れを集中させる。まだ弱いけれど、と彼女は思う。だからこそ支えようとする意志は、回復の要として的確に皆を癒す役目を果たすことが出来た。そして今作り上げる力も彼女が一つずつ積み重ね、鍛えてきた確かな強さだ。
「特別な日の素敵な夢を返しなさいドリームイーター! それは貴方の夢じゃない!」
 全力を振り絞って叩きつけるオーラが眩しく弾けるのに合わせて、レテが光翼を翳せば流れ水の如くその姿は光の奔流へと姿を変える。
 もう後は詰めだと判断してお願いしますと、間際に声を向けたのは彼の猫へ。
 先んじて飛ぶせんせいは飛び方でも示すみたいにくるりと宙返りを交えて、敵の顔面を縦横無尽に引っ掻きに行く。光の軌跡を辿る彼がその横腹を貫けば、針穴を貫くが如く精密さで一気に多くを削り取る。
「目標の損傷状況、確認。援護に移行する――砕け」
 状況を検分して、ガーネットは両腕の装甲から研ぎ澄まされた刃を構えた。予備動作無しで重装甲に覆われた身体が跳ね上がり、瞬間の接敵。引き上げた腕の勢いと重みを乗せて、ドリームイーターの左肩を文字通り砕き割りに強烈な一撃を放つ。その時には、もう右側にはクリスが駆け抜けていた。彼の殺気に合わせて膨れ上がる、禍々しき黒色。獲物に食らいつく顎の如く威圧を増して、ガーネットの反対側から敵を撃ち据える。二人が刹那、見るのは――爽だ。
「ああ、――悪夢を終点にご案内、ってな」
 ちらりと片目を瞑り、身に着けていた鉱石を空へと翳す。石を媒介具として現れるのは、まるで輝石を砕いたかのように色鮮やかな魔術陣が空へと浮き上がる。無数の陣から生み出された膨大な魔力は撓められ、――その力の放出を涼しげな顔で受け止める爽は指先一つ、ドリームイーターの中心を示す。途端、鮮やかな色彩が溢れ、弾け、注ぎ込まれていく。
 光の洪水の後には、ただ無数の短冊だけが散っていた。

●願いの行く末
「完全に殲滅できたようだな」
 各々で周囲の修復を終えてからクリスが小さく息を吐く。周到に確かめていたガーネットも顔を上げて頷いた。
「…モザイクが晴れたらどうなるか。実験する気にはならないな」
 真剣な二人の肩に手を置いていつもの笑みを浮かべるのは、爽だ。
「難しいことはおいおい考えるとして。折角だし七夕祭りとか参加してこーぜ」
 なんたって京都なのだ。七夕の夜、観る場所には事欠かないだろう。皆を誘う人懐っこい笑みに、なるほどとレテが頷く。
「京都は、きっとどこも賑やかでしょうね」
「今回はドリームイーターのチョイスになってしまったが、改めて皆で浴衣を着て七夕を堪能したいものだ」
 樒も軽く笑って提案をまた重ねる。示すのは、七夕の短冊。
「皆も七夕の願いを書いてはどうだろう」
 周囲を見渡せばペンや短冊もあり、願い事を書くスペースが設置されている。早速楽しげに灯音はペンを取りながら、親友へ柔らかに笑いかける。
「シオン、みんな。お疲れ様だったのだ」
「――ああ、無事でよかった」
 そう告げながら何処か静かな表情のシオンは、短冊を丁寧に見てそちらの無事も確認していく。その後は、密やかに姿を消すつもりで。
 想いは、人それぞれにあるのだろう。そして、寄り添う思いもまたきっと。
 ふっと薄い雲が流れると空は鮮やかに晴れて、星が煌めいていた。
 そして、見事に輝く空の川。
「今日は晴れているから星がとっても綺麗ね」
 ティリクティアが無邪気に指差して確かめる、織姫と彦星。そうして、蜜色の髪に彩られた表情がふわりと笑う。宝物に気づいたみたいに。
「今日だけは会えているのよね」
 別たれた二人が出会う切なくも幸せな夜だから。この日を待ち望んだ皆が楽しめればいいと周囲を見ると、人々がまた思い思いに短冊をつるしている。
『来年も灯と一緒に七夕を祝えるように』
『トマトで世界征服!』
 並ぶ短冊と同じよう、寄り添う二人がいて灯音は皆に手を振って笑う。
 幾つもの幸福や願いは色とりどりに飾られた短冊に込められ、ちらりと目端に捕らえたレテはほんの少しだけ唇を上げる。彼には珍しい微かな笑い。

 他愛ない夢を幾つも無邪気に人が願い、七夕の祭を憂いなく祝う。
 彼等が守ったのは、そんな日常のひとかけら。
 思い思いに祭りに帰路に足を進める彼等の願いも、叶えばいいと。
 護られた人々はまた、新しい短冊に願う。

作者:螺子式銃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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