七夕モザイク落とし作戦～豊穣の女神を打ち砕け

■リプレイ

●揺れるのは敵か味方か
　ドリームイーターが出現する予定の区民センターへと、ケルベロスたちは駆け込んだ。
　妙に胸の大きなケルベロスが多いのはただの偶然か、それともなにかの導きか。
　ともあれ、８人の男女は七夕飾りがあるホールを目指す。
「七夕を狙いドリームイーターも動き出しましたわね…巨乳になりたいという、乙女の切なる願いを利用するとは……許せませんわ……！」
　力をこめて、ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）が言った。兎耳をつけているが、ウェアライダーではない。
　まだ幼い少女の背丈は年相応のものだったが、胸は大人顔負け……というか並の大人をしのぐほど育っている。
「胸ですか～。まあ有って困るものではないですが～」
　エレファ・トーン（メガトンレディ・e15392）が間延びした声を出す。
　象のウェアライダーである彼女もミルフィに勝るとも劣らぬ豊満な肉体を備えていた。
「とりあえずよく食べて適度に運動するのが良いと思いますよ～。なんのかんの言って、これほとんど脂肪ですし～」
　その言に、仲間の１人から刺すような視線が飛んだが、おっとりとしたエレファが気づくことはなかった。
「胸、ですか。シンシア、まだ小さいから分らない悩みなのです。でもゆくゆくはどうなるのでしょうか。……善い機会ですし試してみましょうかね」
　シンシア・ジェルヴァース（兇劍継承・e14715）が思案顔になった。
　もっとも、今回は時間制限がある。試すなら戦いが始まる前にやらなければならない。
「７分以内に倒さないといけないなんて、緊張感がありますね！」
　今回のメンバーで唯一の男性だった秋空・彼方（英勇戦記ブレイブスター・e16735）は少年らしい気合の入った声で呼びかける。
　仲間の幾人かと話すとき、首から下をが目に入るとそらしてしまうのも少年らしさか。
「でも、おっぱいで侵略なんて……ドリームイーター的にも、それどうよ？」
　呟いたのは、とんがり帽子の魔女だった。
　もしここで取り逃がせば、あるいはおっぱいのエネルギーによって『モザイク落とし』が発生してしまうかもしれないのだ。
　ノーザンライト・ゴーストセイン（のら魔女・e05320）の一見ぼんやりとした表情から、紡がれる歴史への焦燥を読み取れた者が果たしていただろうか。
「でも、ヘリオライダーさんの説明はちょっとおおげさだったよね。いくらなんでも……まあ、緊張をほぐすために冗談半分で言ってたんだろうけど」
　日向・向日葵（向日葵のオラトリオ・e01744）が苦笑する。
　オラトリオの頭の両側には名前と同じ向日葵が咲いていたが、それよりも胸に実った大きな２つの果実が目を引く。
　ともあれ向日葵はホールの扉に手をかけた。
　ホールには区民から集めた無数の短冊がぶら下がった笹が展示してあるはずだった。
　だが７人のケルベロスたちにそれを見る暇はなかった。
　無数の短冊が集まって、ドリームイーターが姿を現したのだ。
　最初、それはまるで半分に切った卵が並んでいるように見えた。
　表面はあくまで滑らかで、傷１つ、シミ１つ見つけることはできない。
　ただ、それを構成しているのが卵のような硬いものではなく、人よりも明らかに大きな肉の塊であることに、皆はすぐに気づいてしまった。
　いや最初からわかっていたことなのだ。
　ヘリオライダーの説明には誇張も何もなく、ただ予知した事実をそのまま伝えていたのだと、全員がはっきり認識した。
「はぁァ！？　何あれ？！　おっぱいが生命体の様に？！」
　向日葵の声が思わず裏返った。
「……えーと、こ、これは僕はどうしたら……！」
　目をそらす彼方の顔は真っ赤に染まっていた。
　見なければならない、７分で倒さなければならないのだと己を叱咤するが、１６歳の少年にはちょっと刺激が強い。
「なんという、大きき……！　これが、ドリームイーターの、デウスエクスの、力……！　……い、いえ、別に、その、うらやましく、なんて……！」
　カティア・アスティ（憂いの拳士・e12838）はじっと自らの胸に目を落とした。
　成長期もとうに終わった２８歳。もう諦めたつもりだったが……こうも格差を見せ付けるような相手との遭遇は、やはりつらい。
「いくらなんでもこれはないでしょう……ドリームイーターももう少し考えてほしいものです……。ものには限度がありましてよ？」
　黒岩・りんご（禁断の果実・e28871）はあからさまにドン引きしていた。
「あと、胸大きくてもそんないいことがあるわけじゃないですよ？　それでも大きくしたいのなら、日々の栄養と健康的な生活です」
　願いを書いてしまった者たちがこの場にいるわけではないとわかっていても、ついそんな言葉をかけてしまう。
「俗に揉めば大きくなるとはいいますが、……可愛い女の子なら手伝ってあげるのもいいですけどねぇ」
　ついりんごのほうを見てしまったカティアの前で、彼女は大きく息を吐いた。
「それはともかく」
　気を取り直して、りんごがグレイブを構える。
　他のケルベロスたちも得物を構えた。
　きらきらと光を放ちながら１８歳に成長した姿でシンシアもホールに入ってくる。
「揉み心地とか気になるけど、タイムアタックスタートォッ！」
　向日葵が叫び、７分間の戦いが始まった。

●蠢く双球
　攻撃の意思を感じ取ったのか、それは動き出した。
　カティアは一瞬で目の前に肌色の壁が迫ってきたことに気づいた。
　衝突の衝撃はなく、ただ柔らかいものが全身に押し付けられる息苦しさにまず襲われ、それから体が挟み込まれ押しつぶされる痛みが続く。
　もがき、逃れた彼女はさらに精神的な追い討ちを受けることになった。
「……うふふ、おっぱい、おっきな、おっぱい……たわわな、やわらか、むちむち、おっぱい……！　……うふふ……あはは……！」
　一気に肥大化した胸がカティアの防具を破損していた。
　もっとも、防具に傷がついたことより、大きくなった喜びが錯乱させているようだ。
「御心配には及びませんわ……わたくし用のこの特注のブラをお貸し致しますわ――」
　すかさずミルフィがカティアをフォローする。
「そんなフォローはいいから攻撃しなよっ！　７分しかないんだよ！」
　向日葵の言葉にミルフィは残念そうな顔をした。
「まずは凍らせるよっ！」
　彼方が氷の矛で、傷１つなかった双球を突き刺す。
　ブラを手にしたまま跳躍するミルフィと、壊れた笑いを上げながら加速するカティア。
「おっ、ぱ、い……！」
　声に合わせて床から炎が巻き起こり、ドリームイーターを包み込む。
　空中でスター形態に変化した靴でミルフィも凍ったおっぱいに蹴りを叩き込んでいた。
「前は任せた」
　ノーザンライトはさっそくの惨状を後ろから眺めていた。
　しっかりと張った胸は、あえて増やしてもらう必要もないくらいにはある。
　もちろんただ眺めていたわけではない。
　狙うのはただ一点……ピンク色をしたゴルフボール大の突起。
「あそこが弱点……間違いない。違っても狙わないと、失礼」
「いったい何に失礼だってのよ……」
　前衛に後衛に、向日葵は突っ込みに忙しかった。
　スルーして、ノーザンライトは槍騎兵を召喚する。
　しっかりと狙いをつけた騎兵は、慎重に突起を槍で突く。
　慎重すぎてむしろ優しいと言えるその一撃に、突起がブルブルと震えた。
　他のケルベロスたちも攻撃を加え、向日葵は仲間たちを回復する。
　１分が経過し、突起の震えが強くなった。
「反応あった。やっぱり弱点？」
「違います、たぶん攻撃っ！」
　シンシアが叫んだとき、毒液が吹き出した。
　乳白色の液体が向日葵に降り注ぐ。
「うわ、なにコレ。ぺっ。赤の他生物の体液とか気持ち悪」
　向日葵は口の中にも入ってきた液体を吐き出す。
　服はスク水なので問題ないが、感じる強い悪寒の原因が、不快感だけではないのがわかる。冗談のような見た目だが毒性は冗談ではなかった。
　１８歳になったシンシアが一気に接近し、グラビティを乗せた銃撃を叩き込む。
「まずは自分をどうにかしないと……」
　他の仲間たちも攻撃を加えている間に、向日葵は有利な位置へと移動した。
　２分が経過し、敵は再び双球の餌食を求めて動き出した。
　りんごは再び狙われようとしたカティアの前に立ちはだかった。
　肌色の壁が迫る。
「ちょっとこれは揉むどころではありませんし……押し付けられても嬉しくもありませんわ？！」
　女の子は好きだが、これはさすがに射程圏外だ。
「うえぇ……」
　顔をしかめて胸から逃れた彼女は先ほどの犠牲者であるカティアと目が合った。
「うふふ……りんごさんも、おっきくなったね……おそろいだね……！」
「……そうですわね」
　むしろ大きくなる前の彼女に悪戯したかったが、なんにせよそんな時間はなかった。
「いきますよ～」
　エレファがライドキャリバーのハラカに乗ったまま、加速の勢いを乗せて大きな胸から降魔の一撃を加える。
　ケルベロスたちは反撃し、３分が経過した。

●巨乳滅びたり
　桃色の霧が双球の周囲を漂い始める。
　シンシアが警告を発するが、急速に広がった霧は後衛たちを包み込む。
「くっ……絵面は白濁液よりマシですが……」
　りんごとエレファがシンシアと向日葵をそれぞれかばった。
「熱い…ぅっく。力が、入らない」
　人を惑わすその霧にノーザンライトの顔が紅潮する。脂汗がわき出てきて、体が大きく震える。無意識に半開きになった口から涎が垂れた。
　彼方はいまだに敵を直視できなかった。
　攻撃するときはもちろん見ているが、ずっと見続けることなどできそうもない。
　目をそらすと……カティアとりんごが目に入った。
　むしろ『大きくなったのを見て欲しい』くらいの表情を向けてきたカティアから、彼方は慌ててまた目をそらす。
　体が熱を帯びているのは、霧を浴びたせいだろう。
「こ、これは強敵だ……！　主に精神的に辛いよ！」
　でも、ヒーローとして彼方は戦わねばならない。
「胸は柔らかさが命……この拳で、揉みほぐして差し上げますわ……！」
　ミルフィが『鋼の鬼』と化した拳を叩き込むのに続いて、彼方も左手を握る。
「ブレイブスター！　アクションモジュールファイブ！　アメノヌボコ！　来い！」
　ガントレットについた宝石から、巨大な氷の矛を具現化する。
　一直線に飛んだ矛は敵を貫き、さらに凍結させる。
　ノーザンライトが御業で敵の突起を鷲掴みにすると、敵は暴れ回って逃れようとした。
「狙い通りに、行かない。動きが激しくなる」
　呟きに、彼方は思わず激しく咳き込んだ。
　４分が過ぎた。
　次に胸の犠牲になったのはミルフィ……でなく、彼女をかばった彼方のライドキャリバーだった。
「ヤタガラスっ！？」
　彼方が攻撃しながら悲痛な声を上げる。
　鋭角な鳥を思わせるフォルムのフロントカバーから、２つの肌色をした巨大なふくらみが出現していた。
　向日葵が大きな口を開けて絶句する。
　シンシアは１８歳になった長身の姿で弓を構えた。
　９０ｃｍはあろうかというバストも含めて十分に育っている。
　ライドキャリバーすら巨乳化する敵の力は脅威だが、彼女には必要ない。
「残念だけど、私は間に合っているの、よ！」
　魔力で生成した鋒を弓につがえて、ドリームイーターを狙い撃つ。
　空中で無数に分離した鋒は、すべてノーザンライトの集中攻撃で弱った突起を貫いた。
　もうすぐ、残り２分。
「いまヴェールするよ！」
　向日葵がオーロラの光で後衛の仲間たちを包んで催眠状態から覚ます。
　白い毒液がミルフィを頭から汚した。
「ふぁっ……こんな……ミルクまみれになってしまいましたわ……」
　猛毒は顔に、胸に降り注ぎ、メイド服の中にまで浸透する。体がふらつくが、もう回復している時間はない。
「総攻撃の時間ですわ……。そろそろ……イッて頂きましょうかしら……！」
　残り２分になれば、もはや回復は考えないとケルベロスたちは決めていた。
　電子音が響くと共にホワイトマーチラビットが変形し、少女の両脚に炎が纏う。
　敵へと加速すると同時に炎は時計の針のような形に変わっていく。
　両脚がタイミングをずらして回転し、幾度も蹴りを叩き込む。あたかも炎の時計が回転しているかのようだ。
　カティアが笑いながら左手で敵の巨体を引き寄せ、漆黒の右手で打ち砕く。
「もう恥ずかしがってる暇なんてないんだ！」
　彼方がバトルオーラにグラビティを乗せて拳を叩き込み、ノーザンライトも続いた。
「大きすぎるのも、魔乳や超乳といったのも、萌えませんからっ」
　地獄の炎をまとったグレイブをりんごが振り下ろす。
　向日葵がアームドフォートから時空凍結弾を生成したがドリームイーターはその弾を巨大な谷間にすり抜けさせた。
　エレファは最後の突撃をしてきた双球からミルフィをかばう。
「私がこれ以上大きくなったらどうなっちゃうんでしょうか～」
　挟まれて苦痛にあえぎながらも、彼女は首をかしげる。答えはすぐわかった。元より重量感のあった胸を覆う布地が一気に弾けとんだのだ。
「残り１分……我が意のままに生まれ出でよ、ゴーレム」
　ノーザンライトが敵に劣らぬ巨大なゴーレムを作り上げる。
　ゴーレムはドリームイーターをつかむと思い切り回転しながら投げ上げ、天井に叩きつける。落ちてきたところに、ケルベロスたちが最後の攻撃をしかける。
　敵から逃れたエレファはハラカに乗ってＵターンした。
「それにしてもなんと言うか……凄いビジュアルの敵ですよね～。バランス良く大きくならなきゃダメですよ～」
　ライドキャリバーが突撃する。
「重くなっちゃいましたね～、今、軽くなりますからね～」
　ハラカを跳躍させた彼女は空中で象の力を解放して飛び降りる。一気に敵よりも巨大化したエレファの大きな尻が、ドリームイーターを押し潰した。

●夢がかなうことを願って
　エレファの体はすぐに元に戻り、同時にドリームイーターが消えて胸も戻った。
　もちろんりんごやヤタガラス、カティアもだ。
「……今なら、ちっぱい至高明王に、なれそうな、気がします……」
　カティアが暗い表情で自分の胸元を見下ろしていた。
　彼方はヤタガラスに駆け寄って安堵の息を吐いている。
「自分の胸についている『これ』とタイムアタック形式で戦うとは思わなかったよ。ところで、織姫様と彦星様は今年は出会えたかな？」
　向日葵がホールの窓を見上げる。
　年に一度しか出会えぬ夫婦の星を、夜空に探した。
　壊れたホールを直していたミルフィは、ドリームイーターがいた場所に願いの短冊だったものが残っているのを見つけた。ノーザンライトも目を止める。
　もはや判別不能の状態だが、ここに書かれていた願いに罪はない。
「皆の願いが、叶いますように」
「ええ。乙女達の願いが、叶います事を……」
　七夕の空に２人はそう願った。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 2
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