
7月7日、七夕の夜。東京上空……。
大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
…………。
いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
だから、残った卵を私に頂戴。
あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
同日、四国地方某所。
この日、海開きを迎えたとある浜辺にて、波打ち際の貸しボート小屋に設置された七夕飾りが海風に揺れていた。笹に託された短冊に書かれた願いが、揺れる――。
――泳げる様になりますように。
――もっと泳ぎが上手くなりますように。
――かなづちがなおりますように。
泳ぎが達者でない人も、もっと上をと目指す人も、願いは等しく。
そこへ、音もなく現れた直径1メートル程のモザイクの塊は、海に遊びに来た数多の人の願いの中から『上手に泳ぎたい』という願いを集め糧として、大きく膨れ上がった。
そして、孵化した『それ』は、遠目には貸しボートの一つの様にも見えたかもしれない。
波打ち際にぷかぷか漂うビッグサイズのシャチフロート。ネイビーブルーのつやつやボディで体長は3メートル程。時折ばたつかせるヒレは、その全てがモザイクに覆われていた。
●節句に臨み
「いよっすー、おっつー。ま、ま、聞いてくれよ皆」
ヘリポートに待機していた久々原・縞迩(ウェアライダーのヘリオライダー・en0128)は軽い挨拶を放ちつつ、ケルベロスの足を止めるべく、すかさず言葉を継いだ。
「ドリームイーターが七夕を利用して大作戦やンぞってのが判明してよ。それについちゃあ、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)君ら、多数のケルベロス達の予測と調査のおかげでこうして事前に知る事ができた訳だが、どうやら、ドリームイーターは鎌倉奪還戦の時に失敗した『モザイク落とし』作戦とやらを、再びやろうとしてるみてぇだぜ」
モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する為、大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事が予測される。
今回、敵は残存するモザイクの卵を使用して日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしているらしいと、彼は言う。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現から7分間で自動的に消滅。モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されちまう」
軽く中空をつまむ様に揃えた指先を、ぱっと開いて、掌を見せるヘリオライダー。
次いで、ゆるっとした笑みさえ浮かべて口にする『頼み事』。
「で、だ。皆に頼みたい事がひとつ。ドリームイーターの出現地点に向かい、7分以内にそいつを撃破してくれないか?」
場所は判明している為、心配は要らない。
四国。瀬戸内海を臨む、ごく一般的な施設を有する海水浴場だ。七夕の日は海開き当日だが、夜ともなれば人は殆ど居なくなる。浜の砂地はキメ細かく、波は穏やかであるという。
そして、貸しボート小屋近くの、そんな穏やかな波打ち際に『それ』はいる。
「よくある塩ビ製のデカい浮き輪っつーか、なんとかボート的な『シャチ』の奴。シャチボート……シャチフロートってのか。ま、そんな感じの見た目の奴でよ」
色はネイビーブルー。
やたらツヤツヤ、ぷかぷかしている。沖に流されもせずに。
しかしながら、そんな外観でもれっきとしたドリームイーターではあるので、浮き輪ボートを相手にするのとは訳が違う。
「んでもって、奴さん、あまり泳ぎが得意じゃない感じの動きで仕掛けて来るぜ。俺はその動きを『ばたばたバタフライ』、『ばたばたバタ足&ターン』と名づけようと思う」
ゼブラ柄の襟巻きを撫でつけながら、ヘリオライダーは真顔でのたもうた。
モザイク化した胸鰭尾鰭を見苦しく振り回すバタフライ(?)からの背面アタックは、 水と星の飛沫を散らし、背びれによる斬撃と共に機動力を奪うだろう。
同じく、がむしゃらに尾鰭を振り回す回転撃は周囲の者を守りごと薙ぎ払う。
そしてもう一つ。
「この攻撃が一番ドリームイーターらしいか。ばたばたバタ足と動きは似てるが、飛距離がある。水飛沫と一緒に飛ばすモザイクで悪夢を見せて来るみてぇだ。気ィ付けてくれ」
夢を喰らうその攻撃を、彼は『藁掴スプラッシュ』と呼称した。
更に、幾つかの注意点が語られる。
7分のリミットを越えると敵は消滅、即ち『撃破出来なくなる』という事。
今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなかった場合は、モザイク落としが実現してしまう事。
「逆に、今回あちこちに出現するドリームイーター共を粗方撃破出来れば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるかもしんねーな」
頑張ろうぜ、と縞迩は笑みを浮かべた。
「七夕に見るささやかな夢、モザイクなんぞに喰われて堪るかよってンだ。なァ?」
参加者 | |
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![]() リーディス・アングレカム(在りし日の幻奏・e00142) |
![]() 真柴・隼(アッパーチューン・e01296) |
![]() レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650) |
![]() 深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454) |
![]() ムジカ・レヴリス(花舞・e12997) |
![]() レクト・ジゼル(色糸結び・e21023) |
![]() ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503) |
![]() 暮沢・たしぎ(ハードボイルド・e29417) |
●SET!
「夏! 海! 水着! テンション上がるな~、地デジ!」
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)は揃いのゴーグルを着けたテレビウムの『地デジ』を抱え、拳を天に突き上げた。
波音砕ける浜辺にて。
水着にサンダル、軽く羽織った上着……海辺の戦闘に備えて、一行は万全の装いで揃えて来た。深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454)の水着は縞々のショートパンツタイプで溌剌と、旅装めく上着を羽織ったムジカ・レヴリス(花舞・e12997)はシンプルなビキニながら、よく焼けた素肌と見事な脚線美が実にエキゾチック。華のタイプは異なれど、どちらも躍動的で魅力的だ。判り易く紅二点の水着姿に視線を惹き寄せられている隼のテンションに釣られて、夏だ海だと合いの手など入れていたリーディス・アングレカム(在りし日の幻奏・e00142)は、訳あって水は少々苦手なのだが……それでも浮き足立ってしまうのは季節の所為か、陽気な仲間と一緒だからか。或いは両方か。その空気は、初任務に臨むお子様、暮沢・たしぎ(ハードボイルド・e29417)にも伝わっていた。
「なんだかとても。楽しそうなアレ、なんですけど。ケルベロスの仕事というのは。こういうもの、なんでしょか」
テンション低く無表情ながらも、やる気満々の格好で、何はともあれと気合を入れるたしぎ。一方で、普段は勝気なレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が妙に大人しい。何事か己に言い聞かせている風だ。
(「カナヅチなどではないぞ! 決して! ……多分」)
泳いだ事がない。故に己の地力が計り知れない。加えて……。
(「『レプリカントは沈むらしい』なんて、根も葉もない、ただの噂だ」)
足のつく波打ち際だし、何ら支障はない筈だ。
兎角ここで狙われている願いは他人事とは思えないものばかり。いずれ己も克服しなければならない問題と自覚しつつ、彼は雑念と幾許かの緊張を振り払う様に言った。
「この願い、奴等のモザイクに吸わせてやる訳にはいかんな!」
「七夕に集ったみんなの願い、悪用なんかさせないよ!」
大好きな海が舞台とあってか、夜七の言葉にも自然と力が入る。
笹に揺れる沢山の短冊の一つ一つがこの海に遊びに来た人々の願い事。
「七夕とは魅力的な行事にございますね。僕もひとつ『世界平和』と添えたい気持ちでございます」
ほわと笑みを湛えてラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は、初めての海、初めて触れる文化に興味津々。ムジカは灯明片手に星空を見上げた。
「星に願いを託すのはどの国でもあるものなのね……」
今日が海開きだったとあって日中はさぞかし賑わっていた事だろう。一行が浜に到着した時には殆ど無人となってはいたが、七夕の夜をそのまま浜辺で過ごそうとしていた若干名も居ないではなかった。レッドレークの勧告による人払いに、レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)が放つ言い知れぬ殺気が更に人の足を遠ざける。
充分に場が整ったと見るや彼は口を開いた。
「流れ星ならともかく、モザイク落としなんて困りますからね。しっかりと倒しましょう」
「そうね。ここで止められなかったら、ケルベロスである意味なんてないわ」
決然とムジカが呟く。沢山の願い事がかけられる夜を悲しい日にはさせられない、と。
特別な夜を象徴する様に、貸しボート小屋の笹飾りは仄かにライトアップされている。
――そのやわらかな灯の陰で何かが蠢いた。
気付けば波間にポンと浮かんでいる。
「あらあら……」
朧光の下でも褪せない煌き、つやつやネイビーブルーの澄まし顔は勇ましくも可愛らしい。思わず綻ぶムジカの口元。甦る思い出と憧心を擽られて隼も身を乗り出した。
――ピッ。
すかさず夜七がアラームをセットする小さな音に隼は我に返る。鯱フロートがモザイクに覆われた鰭でじたばたと海面を叩く、酷い動きを見た所為かもしれない。
びたんびたん。
「何つーか……あの頃憧れたシャチフロートほど格好良くないっつか」
「けれど、可愛らしいのが何だか悔しいでございます……」
確かにこれはこれで和みはするが。ラグナシセロの弁には頷きつつ、絶句の隼。そもそも悠長に眺めている時間もないのである。ムジカの声が楽しげに揺れる。
「背に乗って大海原へ駆け出したい所だけれど、しっかり撃破しないとネ」
「っしゃあ!」
気を取り直して隼も揚々と掌に拳を打ちつけた。
「戦闘もバシッと決めて、イイ夏の始まりにしようぜ!」
●1 to 3
「『そこで大人しくしているが良いぞ!』」
愛器『赤熊手』を浜に叩きつけるレッドレークの『YIELD-FIELD:E』――地中を奔る衝撃に興された尖鋭な石巖の刃が、不恰好に海水を叩いていた鯱の身体を突き上げた。避ける間もなく、気付いた時には身体が浮くインパクト。
初手から全力攻撃に徹するケルベロス達の一方攻勢から戦いは始まった。
派手に飛沫を上げて着水した横っ腹を、『鋼の鬼』と化したオウガメタルを纏うリーディスが裂帛の拳で穿ち、舞う様な足捌きで奔る光波――ムジカが螺旋軌道で咲かせる鋭い一蹴は淡紅の小花が咲く如く。探る様な一撃、十二分に手応えは感じるが確証には足りない。
「さぁ、シャチさん……お相手願おうか!」
びちびちと悶える鯱に次いで喰いついたのは、夜七の雷電纏う抜刀術とオルトロス『彼方』が咥えた刃の一閃。身を切らんばかりの鋭い風が、彼女の刃を追いかける。
胸鰭も尾鰭も繰り出す隙を与えず、その背後から仕掛ける金髪のビハインド『イード』の追撃に重ねてレクトは凍て付く螺旋を放ち、更に後方、ラグナシセロが後列を黄金の果実が齎す聖なる光で包むと共に、たしぎも紙兵を同範囲に散らした。
後に続けとばかり、凶器を手にした地デジの残虐ファイトと共にナイフ片手に隼が鯱に斬りかかり、傷口を抉り上げる。
「何かイイ感じ的な~? この調子で次も――っと!?」
だが、鯱とてやられっぱなしで居てはくれない。
突然ばたばたと激しく尾鰭で海面を叩き始めた、かと思うと尾を跳ね上げて身を捻る反撃。砂波巻き込む巨大な平手打ちが、先刻、特に強大な一撃を与えたリーディス達を襲う。
「ええい暴れるな貴様!」
腕を翳して飛沫から身を庇いレッドレークが怒声を上げた。『潮気に当たりすぎるとパーツが錆びる』と思い込んでいる彼の、怒りで散らす狼狽振りに見ている夜七もハラハラ。
そして、怒れる彼の拳は音速を超えた。
やれば出来ると信じる想いより何よりまず先に、ただただ全てを打ち砕く拳をぴちぴちの鯱ボディに突き立てるのみ。浮き輪を思いっきり押し潰した様にひしゃげるボディ。感触も浮き輪そのものだった。比較にならない程、丈夫という点だけが異なる。
拳に伝わる強い反発力に弾かれる様にレッドレークは後ろへ跳んだ。入れ替わる様に、ムジカと共に再度踏み込むリーディスの手にはきらきら輝く色とりどりの流れ星。有効打は未だ判然としない、が、いずれにせよ短期決着を狙うのみと、ムジカが惜しげもなく曝す麗しの凶器から放たれる旋刃脚を横目に、彼もまた星を振り被る。
「俺の思いを乗せた願い星は夜空に煌く星にも引けを取らないんだから。とくとご覧あれだよ! という訳で――『きらきら星を、君にもおすそわけ♪』」
(「泳げるようになりたい、それも確かに俺の願いだけれども」)
今叶えたい願いは唯一。
「『みんなの笑顔を護りたい』、ただそれだけ!」
至近距離から直接、叩き込む星の形をした何かの、群を抜く破壊力たるや。
「海での横暴は、ぼくが許さないよっ」
もんどりうつ鯱に、空の霊力を帯びた刃で夜七が、雷の霊力を帯びた刃でラグナシセロが斬りかかる。
「畳みかけましょう」
レクトがガトリングを構えれば、たしぎと隼も応える様にバスターライフルを構えた。
「シャチに対抗。してみま」
と言う、たしぎのライフルには申し訳程度の鯱キャップ。鯱口が銃口と重なる微笑ま仕様。そして、鯱を照準した彼らの銃口が一斉に火を噴いた。否、無数の弾丸を吐き出す前者に比し、後者は冷結光線を双方向からぶっ放したのだ。
ビニールが擦れる様な音をたてて、鯱が身悶える。
大きくのたうつ巨体の下から跳ねる海水。
「――!」
「モザイク、来ますよ!」
「皆様、お気を付けて!」
波の飛沫にモザイクが混ざったとて、動じない。
(「飛沫も悪夢も、女として身だしなみ乱れる事以上に怖い事なんてないんだから!」)
ムジカのメイクは頼もしい強力ウォータープルーフ。何ら恐れず、飛沫に混じるモザイクに備えて構える彼女の眼力を、避ける様に視界の端を通過したソレ。
最前線で共に高火力を叩き出していたリーディスが、次の瞬間、目測を違えた様に同列の味方にその脅威的な力を向ける。
「あっ、ご、ごめ……!」
気付いた所で引っ込めようもなく――放たれた弾丸が、纏う冷気が風を切る。
●3 for BREAK!
「……ッ」
鯱を穿つべく赤熊手を砂浜に叩きつけたレッドレークは、己に向かって飛んで来る弾丸を睨み遣った。直後、彼の視界を塞いだのは弾道に飛び込んで来たレクトの背。
「レクト――貴様、無茶をする」
「皆さんを護るのが俺の役目。本望ですよ。それに、無茶という程でも……」
実際そう大したダメージではないと、遠間でばつが悪そうに謝意を示すリーディスに手振りで返すレクト。ラグナシセロが遣わすボクスドラゴンの『ヘル』が彼の状態異常を逸早く属性で上書きすれば、彼は兄弟分でもある友へと感謝のアイコンタクト。時間差でリーディスの元にも浄化の力が届く。
「ついでに、皆。回復しま。――『だいたい勘です』」
「「勘?!」」
――勘で。
実戦経験は及ばなくとも、仲間をサポートすべく、たしぎの鍛え上げた感覚と高速演算能力がフル回転して弾き出す――『スポッター・スポット』。
手の空いている仲間達はこの間にも暴鯱への攻撃を絶やさない。ハウリングフィストで殴りかかった隼は、何かを確信した様に笑みを浮かべた。
「トラウマもしっかり効いているみたいだな」
「トラウマですか……なんでしょう、あの必死な姿が鯱にあるまじきで可哀想に見えます」
ぽつり、とレクト。
頻りに鰭をばたつかせて殆ど進めず消沈する鯱を眺める一同の思いも様々。
(「……これは、俺の方が泳ぎ上手なのでは?!」)
漲る謎の自信と共に立ち直ったリーディスは、レッドレークが撃ち込む拳に重ねて、二本のグレイブを捌き逆襲の斬撃と突きを鯱の身体に浴びせて行く。
「さっきはごめん」
「……潮気のある攻撃よりは大分マシだがな」
皮肉の様でいて、本音の色濃い言葉が返ってきた。
「なんか本当にごめん。 モザイク鯱さんには夢の海に還ってもらおうね!」
仲間達へと、もう一度言葉を落とした後はリーディスも攻撃に集中する。
鯱は相も変わらず無様に鰭を動かし、跳ねる様に前進する勢いから背を見せた。最接近したムジカを本日の最大威力が襲う。煌く飛沫は星混じり、必死に跳ねる鯱が可愛らしく思えてならない彼女は、背鰭の斬撃に怯む事無く反撃の刃を振るった。振り下ろす断罪の刃に『死』の影を乗せるも、狩り切れず。
その時、夜七の声が走った。
振り抜く刃は雷気を纏い風を連れ、腕に煌く時計の盤面と針が目に触れる。
「折り返しだよ、みんな!」
「あら、じゃあ――折角だから、アラームが鳴る前に決着をつけたいわね」
軽口で応じるムジカは、それが決して不可能ではない手応えを感じていた。
不敵な彼女の言葉に仲間の士気も高まる空気。
レクトはイードと共に仕掛け、遅れまいとラグナシセロも続く。氷片煌く螺旋舞う中、奔る雷が切っ先の鋭さを増して表皮を削る。次いで、たしぎが流星の軌道を描く蹴打に重力を乗せて鯱に打ちかかる。発するは一言。
「気合」
「なあ鯱くんよ」
畳みかける隼はダメ押しのジグザグスラッシュで傷口を抉る。
「キミを生んだのはこの海に遊びに来た人達の切なる願いだ。仕留めさせて貰うぜ、皆の願いを星に届ける為にもな」
最後の一画を刻んだ後は、仲間にバトンタッチ。
暴れる鯱が苦し紛れに跳ねたモザイクがたしぎに喰らい付く。が、それが戦列に影響を及ぼすより早く、衰え知らずの攻手達の強烈な集中攻撃に耐え切れず弾け飛ぶ鯱ボディ。
石巖の刃が、無数の星が、淡紅色の小さな花が、鯱の体内を駆け抜け、その裡に溜め込んでいた願いの欠片を夜空に撒き散らす。
解放された願いは在るべき場所へ。
短冊が物理的に破損していなかった事を確認して、ラグナシセロとリーディスはホッと胸を撫で下ろした。皆も無事で何より。
そして、『5分後』のアラームが鳴り響く。終わりを告げる様に。
●PRAY&PLAY
不届き者が消え去り、平穏を取り戻した海。
緩やかなリズムで時を刻む波音が耳に心地良い。
(「天の川では恋人達が逢瀬してる頃かなァ」)
満天の星空を見上げて、隼は思い出した。そういえば今年は短冊を書いていない。
(「『彼女作って一緒に海で遊びたい』って書いときゃ良かった!」)
持ち前の軟派気質というかチャラさ全開の魂の叫び。は、ともかく。
波打ち際を駆け回る仲間の歓声に顔を上げた時、彼は既に遊興モードだった。
「撃ち足りない。ので」
物騒な事をさらりと言いながら、たしぎが水鉄砲2丁で仲間を狙っている。
「ガンスリの本領。お見せしま」
弾道に嬉々として飛び込んで行くリーディスと夜七。全力で避けるレッドレークの姿も在る。既に散々海水を浴びて何を今更だが、反射的な反応故に、彼にもどうしようもないのかもしれない。夏の海は心洗われるほど美しくはあるのだが。
(「……いずれは克服する。いずれはだ!」)
七夕の夜に、レッドレークが固める誓い。
「ほら、シャチの飛沫に負けなかったんだから頑張ってー!」
楽しそうに見守るムジカの無邪気な声も飛ぶ。
夜の海。だが、はしゃぐ皆の姿が眩しく思えて、レクトは目を細めた。
「レクト様、僕達も皆様と御一緒しませんか」
「そうですね」
ラグナシセロの誘いに余裕ぶって応えていたら、海水が飛んで来た。面食らう2人に、悪戯っぽく微笑むムジカ。両手にたっぷり海水を湛えて。
一頻り遊んだ後は――。
「えっと、夜の海って聞いて花火持ってきたんだけど……よかったら、どうかな?」
ちゃっかり。大好きな海を仲間達と一層楽しむ為に夜七が用意して来たアイテムは、ラグナシセロやたしぎの『初めて』記念と労いに、もう一華添える事になりそうだ。
――さて。
「色とりどりの願い事は星に届いたかな」
余韻冷めやらぬ中、改めて夜空を仰ぐ隼に、リーディスも笑顔で倣う。
「みんなの七夕の夢、叶うといいね」
祈る様に。
見守る様に、海風に揺れる笹の葉、短冊、七夕飾りが潮騒と共に奏でる軽やかな音色を聴きながら。
作者:宇世真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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