七夕モザイク落とし作戦~クリエイターの卵

作者:中尾

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

●七夕の願い事
『世界一カッコイイ、イラストが描けるようになりたい』
『大賞に受賞しますように』
『夢見た小説家になれますように』
『液タブが欲しい』
 そんな、クリエーターの卵達の願いがその笹の短冊には込められていた。
 ここは東京都のとあるクリエイター系専門学校の玄関前。
 今、学生たちの願いを元に、モザイクの卵からドリームイーターが生まれようとしていた。
 モザイク化した沢山の短冊を取り込んで現れたのは、ペンや原稿用紙、パソコン、絵の具を集め固めたものに手足を生やしたドリームイーター。
「プロのクリエイターになりた~い!」
 そんな産声をあげ、ドリームイーターは何をするでもなく、夜空――光る星々を見上げた。

●卵の願い
「皆さん、大変です。ドリームイーターが、七夕の願いを利用しての大作戦を行うようです」
 雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197) はどこか慌てた様子でそう告げた。
「この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さん他、多数のケルベロスが予測し調査してくれた事で事前に知る事ができたのですが……どうやら、ドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているらしいのです。モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下するため、大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事が予測されます」
 そんなことが本当に起こったら……。
 考えるだけでも恐ろしいとシズは小さく震える。
「敵は残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしているようです。七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現してから7分間で自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまうでしょう。皆さんには、ドリームイーターが現れる地点に向かい、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいのです」
 尚、発生したドリームイーターは、生贄になる為にその場に留まり7分間待つという行動を優先する為、一般人を襲いに行く事はないようだ。それだけは不幸中の幸いと言えるだろう。
「場所は専門学校、玄関前。星空の見える屋外です」
 プロのクリエイターになりたいという夢から生まれたこのドリームイーターが扱うグラビティは3つ。
 使用しているツールを強制終了して相手にトラウマを植え付ける『ツール強制終了』。
 描いた絵や文字を取り出し投げつける『制作活動』。
 プロのクリエイター意識に目覚め自身を回復すると共に奮い立たせる『プロの目覚め』である。
「また、注意して欲しいのは、ドリームイーターを7分以内に撃破できなかった場合は、消滅してしまい倒す事ができなくなることです。今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としが実現してしまうでしょう。逆に、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるとも言えます」
 可能ならば、完全阻止を狙いたい一件である。
「楽しい筈の七夕を、モザイク落としに利用しようとするなんて……。皆さん、どうかドリームイーターのこの作戦を阻止してください」
 そう言ってシズは頭を下げたのだった。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
一后・鈴蘭(君影草・e00183)
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)
シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)
アルベリク・リュミエール(泡沫の調べ・e24073)
フラーヴェン・メザ(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e29633)

■リプレイ

●タイムリミットは7分
 ヘリオンから降り、ケルベロス達が急いで学校の玄関前へと駆け寄ると同時にそれは現れた。生徒たちの願いを中心にペンや原稿用紙、パソコン、絵の具を身にまとい、手足を生やしたドリームイーターだ。
 敵の出現に、真っ先に動いたのはアーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)だった。
「ローカスト共の動きに合わせてモザイク落としを狙ったか? だが、やらせはせぬよ」
 そんな推理を口にして1本のヒマワリを生やしたオラトリオは時空凍結弾を放つ。物質の時間を凍結する弾丸は見事、ドリームイーターへと命中し、体の一部であるパソコン画面がフリーズする。
 アーティラリィの攻撃を受け、呻き声をあげながら両手を大きく広げる敵の正面に飛び込む形で、円を描くようにドリームイーターの胸を蹴りあげたのは鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)だ。
 両親の死後、学校に通えなくなった彼にとっては、専門学校など夢のまた夢。学生は眩しくも遠い存在である。正直、――羨ましい。でも。
(「夢を追う姿勢は自分と何ら変わらない……!」)
「……この夢を悪用するなんて、絶対に認めない」
 流星を模した武器飾りが揺れる。
「はあい、こんばんは。素敵なお願い事をお聞きしたのよ。きっとあなたの夢を悪用したりなんてさせないわ」
 戦闘開始と同時にタイマーをスタートさせ、シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)は敵の動いていない現段階では回復を不要と判断し、その拳でドリームイーターの胴体を殴り飛ばす。音速を超える攻撃に、ドリームイーターは吹っ飛び、玄関の扉へと激突する。
 ガラスが飛び散るもすぐさま立ち上がるドリームイーターに歯車の形をしたキャットリングを当てるのはシャルロッテとお揃いの衣装を着たウイングキャットのアースガルズだ。
「鎌倉奪還戦で阻止したモザイク落としを再び狙いますか。今度も阻止して二度とその作戦が出来ないようにしましょう」
 風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)は日本刀、煌翼を振るう。その刀線は右肩から左腰までを斬り込み、深い深い傷を作る。もしも通常の生物であれば血が飛び散っていたであろう傷口を押えながら、ドリームイーターは後ろによろめく。
「せっかくの七夕の夜にみんなの願い事を利用して、こんな事をするなんて……。モザイク落とし、絶対に止めてみせる!」
 オウガメタルに全身を覆って貰い、鋼の鬼と化したアルベリク・リュミエール(泡沫の調べ・e24073)は、その鋼の拳でドリームイーターの脇腹を殴りつける。戦術超鋼拳の衝撃によって、ドリームイーターを構成していた原稿用紙が飛び散った。
「わたしたちの初陣だねぇ、ゲッペル君。華々しく勝利を飾ろうよ」
 フラーヴェン・メザ(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e29633)はウイングキャットのゲッペルに声をかけ前へと踏み出す。その体に纏うはオウガメタル。銀色に輝く鋭い拳はドリームイーターを叩き潰す。
 ゲッペルはフラーヴェンの攻撃を見届けてから、前衛達へ邪気への耐性を与える。
 だが敵も攻撃を受けてばかりではない。ドリームイーターは凹んだ体のまま立ち上がると、原稿用紙にペンで少年の絵を描き、完成した少年を握りしめ具現化させるとフラーヴェンへと投げつける。
 白黒の線でできた絵の少年が向かってくるシュールな光景。
 フラーヴェンは痛みを覚悟したが、それは訪れなかった。ディフェンダーであるゲッペルが庇ったのだ。
「ゲッペル君!」
 攻撃を受け、地に落ちるゲッペルにフラーヴェンが叫ぶ。
「皆さん、お待たせしました!」
 戦闘範囲をキープアウトテープで隔離していたエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)と一后・鈴蘭(君影草・e00183)の登場だ。
「時間制限付の戦闘とは緊張しますね。みんなのキラキラしたお願い事を悲劇になんて使わせません!」
 エイダはファミリアロッドを手にマジックミサイルを放つ。魔法により作られた大量の矢はドリームイーターへと降り注ぎ針山のように突き刺さる。
「まっすぐな想いを持つ人たちの願いをよろしくないことに使うなんて困りもんだよなー。全く! 七夕さんに謝って頂きたい!!」
 鈴蘭は口を膨らませ、ぷんぷんと怒った様子でその拳を構える。
「おーし、決めるぜ 7分☆ いくぜぇ、ミミィちゃん!」
 オウガメタルの力を借り、鈴蘭は銀色を纏った鬼のようなその腕で敵の脇腹を殴り飛ばす。
 と、同時にミミックのミミィがドリームイーターへと食らいついた。ドリームイーターは腕に噛み付いたミミィを振り解こうと必死であるが、ミミィはより深く牙を沈める。

●アラームは残酷に
 やっとミミィを振り解いたドリームイーターは己にヒールを施すと共に自身を奮い立たせる。
「ガンガン行きますよ!」
 エイダは前へと躍り出る。
「結婚するは我にあり! 邪魔しちゃ、めっ! ですよ」
 彼女はそうウィンクすると、その強き結婚願望を胸に強力なパンチを敵のみぞおちへとお見舞した。
 パンチが敵にめり込むと同時にパキパキとペンや筆の折れる音が聞こえた。もしも相手が骨を持つ生き物であったなら、骨折に相当するだろう。
「七夕のお願いは、己の目標とするものじゃ。貴様らに利用されるようなものではないわ!!」
 アーティラリィは対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射する。
 その針は見事ドリームイーターの腕へと刺さり、ウイルスがドリームイーターの体内へと流れ込む。
「いくぞ、アカ」
 ヒノトは相棒のファミリアロッドにそう声をかけると、ファミリアロッドの核とも言える赤水晶へと両手を翳す。
「猛ろ! 灼灼たる朱き炎!」
 赤水晶に魔力を籠めたその瞬間、灼熱の炎が生まれた。2つに分かれたその炎玉は左右から同時にドリームイーターへと襲いかかった。
 シャルロッテはゲッペルへと溜めたオーラを流し込み、心配してるであろうフラーヴェンへ「大丈夫よ」と声をかける。
 ふぅ、と深く一呼吸し敵の懐に入り込んだのは恵だ。
「断ち―――――――斬る!!」
 その言葉と共に振るう刀。それはあらゆる物を斬り裂く意志と霊力が込められた渾身の一撃であった。その鋭い切れ味に、ドリームイーターは声なき叫びをあげ、反撃に迫る。
 恵へトラウマを植え付けようとその魔の手を伸ばしたのだ。
「っぐっ!」
 苦しさに、恵は自身の胸を掴み黒いシャツに皺を作る。
 アルベリクはバスターライフルを構えエネルギー光弾を射出する。敵のグラビティを中和するゼログラビトンだ。
「えいっ!」
 そこへ、鈴蘭の指天殺が炸裂した。たった1本の指で気脈を断たれたドリームイーターはその動きを鈍くする。
「ガンガン攻めるよ!」
 フラーヴェンがケルベロスチェインを放つ。黒き鎖に締め上げられたドリームイーターは鎖を解こうともがき苦しむ。
 そんな中、時間は刻々と過ぎていく。
 3ターン目が終わり、残り4分を知らせるアラームが鳴る。尚もケルベロス達は猛攻を続けるがドリームイーターは倒れない。
 そして、次のアラームが鳴る時刻がやってきたのだ。

●残り2分 
 戦場に鳴り響くアラームにケルベロス達の顔色が変わる。
「残り――2分!」
「時間が……早く倒さないとまずいぞ!」
 シャルロッテの声にヒノトが叫ぶ。
「多少強引になりますが……ヒマワリさん、行きますよ!」
 ケルベロス達は回復を捨て、攻撃に専念する作戦へと移行する。
 エイダが敵をスターゲイザーで蹴り飛ばしたその先に、眩しいほどの圧倒的な熱が集中していた。
「至天に煌く陽光よ、余の元に集え。森羅万象一切の区別無く、その光の中へと還るがよい!」
 ヒマワリさんこと、アーティラリィは光熱球を投擲する。
 炎に飲み込まれるドリームイーター。そこへ、ヒノトのフェルカエンテクスが加わり、まぶしいばかりの火柱があがった。
 ドリームイーターの表面は高温で溶け、黒い煙に吐き気を催す異臭が周囲に漂う。まだ熱が残っているそれを鈴蘭はセイクリッドダークネスで握りしめ、粉砕する。
 セイクリッドダークネスから解放された敵へ狙いを定め、光の翼を暴走させたフラーヴェンは全身を光の粒子に変え、突撃する。
 キラキラとした光の突撃に、黒焦げた部品が地面に落下した。と同時に恵が傷を抉るように絶空斬を放った。
 地面に両膝をつくドリームイーター。その痛々しいまで変貌した姿に、ケルベロス達は終りが近い事を確信していた。
「みんなの願い事、返してもらうよ」
 アルベリクが敵に向けるはMangeur de memoire。――振る者の記憶を喰らう、呪われた大剣。
「おまえの色を、ぼくに見せて」
 手に持つ大剣を振るった瞬間、巨大な衝撃波がドリームイーターを薙ぎ払った。
「シャルロッテ」
「ええ!」 
 アルベリクの声に応え、シャルロッテは黒いステッキを振るう。
「怠惰な王に、わたしは傅く」
 冒涜なる叙唱は静かにある者を呼び寄せる。
 どろり、とした黒いものがドリームイーターの視界を遮った。
 それは形をなさずとも、脅威であると一目で伝わってくる異様な存在。黒の中の、赤い、赤い沢山の目が滅ぼすべき標的を凝視する。
「食事の時間にしちゃいましょ――」
 シャルロッテのいただきます、という言葉と共に出来損ないのドラゴンは、哀れドリームイーターを食い千切る。
 取り込んだ短冊を残し、崩れ去るドリームイーターの姿に、誰もが安堵した。全てが終わったのだ。
 恵は煌翼を黒い鞘へと戻し、フラーヴェンはケガをしたゲッペルを労わる。
「おかあさん……」
 勝利に喜ぶケルベロス達の中で、アルベリクは大剣へ小さくそう呟いた。

●天の川の眺めて
 戦闘を終えたケルベロス達はそこでやっと、初めて空を見上げた。
「年に一度の逢瀬だというのに、騒がしくてすまぬのぅ」
 苦笑する織姫と彦星を幻視して、アーティラリィはひっそりと詫びを入れる。地上で騒ぎが起これば2人も静かに愛し合うどころではなかったに違いない。
(「年に一度の逢瀬、か……」)
 自分の口にした言葉を改めて心の中で繰り返す。
 アーティラリィにとって、年に一度でも会えるという織姫と彦星が少々羨ましくもあった。何故ならば、彼女は旦那と子供に二度と会えぬのだから。 
「うっすらとしかわからないけど、あれ天の川かな……すげえ綺麗な星空!」
 ヒノトはネズミのアカを肩に乗せ、空を仰ぐ。
「おお~! 本当に川みたいなんだなあ!」
 鈴蘭の記憶の中にある七夕はいつも雨だった。それ故に今日の星空に鈴蘭はある種の感動を覚えていた。
「立つ鳥後を濁さず、なあんて」
 ドリームイーターとの戦いで壊れたヵ所をパパッとヒールし終えたシャルロッテは背筋をぐっと伸ばす。その隣には戦いに疲れた様子のアースガルズも一緒だ。
「これでよしっ……みんなの願い事、叶うといいなぁ」
 取り込まれた短冊を元の位置へと吊るし、アルベリクはこっそりと自分の願い事を書いた短冊も追加する。その願いは『もっと絵を描くのがうまくなれますように』だ。
「どれもこれもすっげぇ願いだなぁ! みんなも何か願い事とかあったりする?」
 元に戻った七夕飾りを前に、鈴蘭が振り返り尋ねる。そんな何気ない問いに、エイダのスイッチが入った。
「私も来年こそは素敵な彦星を見つけてロマンスな七夕を……! あ、石油王な彦星もいいですけどハリウッドスターな彦星も素敵ですね」
 エイダの脳内には既に高級スーツを着こなしたイケメンが、エイダの前で跪き、赤いバラの花束を手に白い歯を見せ微笑みかけている姿が見えているに違いない。
「某賞を受賞した暁には、私もあの劇場へ……!」
 両手を組み、夢を語るいつも通りの彼女の姿にアーティラリィは微笑ましく苦笑をする。
「願い事かー。『ここに飾られている短冊の願いが全て叶いますように』全ては贅沢か? まー今日ぐらい、贅沢言ってもいいよな!」
 笹に飾られた願いの数々を見て、ヒノトは夜空の星に願いをかける。
 フラーヴェンはゲッペルを撫でながら空を見上げ、恵は刀の柄を握り決心を新たにする。
 そんなケルベロス達の頭上で、星々はいつまでも優しく輝いていた。

作者:中尾 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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