七夕モザイク落とし作戦～星空への願いを喰らうモノ

■リプレイ

●星空から降り来る
　多くの人々が星空を見上げる今宵、幸いな事に天候にも恵まれ、夜空には星々が煌めいている。絶好の七夕日和と言えるだろう。
　そんな七夕の夜を迎えたとある市街地。
「まったく、こんな七夕の夜だってのに、風情も何もありゃしないぜ」
　綺麗に着地し、鵺咬・シズク（黒鵺・e00464）はそうぼやいた。全くもって、無粋な話だと。
「鵺咬殿の憤りは尤もだな。風流を解さないどころか、野暮の極みだろう」
　シズクの呟きを耳にした吉柳・泰明（青嵐・e01433）も、それに同意する。
「ヒヒヒヒ……。夢喰み共に粋を理解しろというのも、無理じゃないかねぇ」
　夜の市街地にケルベロス達が急遽到来した理由は、出現すると予知されたドリームイーターへの対処だ。武器・商人（闇之雲・e04806）の言う通り、デウスエクスであるドリームイーターに七夕などの季節行事を愛でる感性を期待することなど出来はしない。
「さて、予知ではここに出現するということじゃったが……」
　周囲を油断無く見回すアクライム・サンダークラップ（ドラゴニアンのウィッチドクター・e20296）は、路地に設置された笹を見据えた。地域の子ども達が願いを書き記した短冊が吊るされたそれこそが、予知されたドリームイーター出現の糧である。
「あれがモザイクの卵か……。出現するようだな」
　笹の傍らの奇妙な物質は、ティーシャ・マグノリア（殲滅の末妹・e05827）の言う通り、ドリームイーターを生み出すモザイクの卵だ。
　モザイクの卵はある共通した願いを記した短冊を吸収し、変化した。
「自己利益のためだけに、望まぬ形で叶えようと人の夢を食うとは、許せませんね」
　卵から生まれた精悍な体つきの青年といった形状のドリームイーターに、ジュリアス・カールスバーグ（山葵の心の牧羊剣士・e15205）は丁寧ながらも断固とした口調で撃破を誓う。この個体そのものにそうした意志があるかどうかは不明だが、だからと言って見逃す道理は無く、それが許される状況でもない。
「子供の夢を元に尖兵を作るとは、下衆な連中よ。子供等には知られぬようにせねばな。自分の夢が元でデウスエクスが生まれたとは酷だ」
　日本刀の鯉口を切る竜峨・一刀（龍顔禅者・e07436）は、全身に必殺の気合いが満ちている。
　このドリームイーターは、強くなり地球を守りたいという子ども達の願いを糧として誕生した存在だ。それ故に、こうした見た目なのだろう。
　人の夢を喰らい利用するのがドリームイーターの生態なのだろうが、誰かの願いを踏みにじるような所業には、多くのケルベロスが怒りを禁じ得ない。ジュリアスや一刀もまた、その例に漏れず怒りを胸に湛えている。
「それでも、子供の夢から生まれた相手を倒すっていうのは、少しね……」
　ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）の微かな呟きは、双子の姉であったビハインド以外には届かなかっただろう。
　ほんの少しだけ、躊躇ってしまいそうになる。だけれども、白雪と紅薔薇の銘を持つ鉄塊剣を両手に携えるロベリアに、ドリームイーターの跋扈を許す気は欠片も無い。
　戦意高く気合いも充実したケルベロス達。
　それに気付いた戦士ドリームイーターは、雄々しく拳を天に掲げ、己の存在意義であるとばかりに戦いを挑んだ。

●願いより生まれし戦士
　今回の戦いは、ドリームイーターの作戦によって戦いの時間が７分と限られている。
「地球を守りたい想いに反して地球を傷付けてしまう哀れな戦士……」
　戦士ドリームイーターに肉薄するジュリアスの目には、敵の姿が自分達とさしたる違いの無い存在に映っている。
「本懐へと帰させるため、今宵は我々が汚れ役となりましょうか」
　雷の霊力を帯びたジュリアスの武器が、神速の刺突となって戦士ドリームイーターを貫いた。
　この敵の誕生した経緯を鑑みれば、あまりにも皮肉な存在だ。せめて、その想いを汲み取るためには、ケルベロスが勝利を収める外には無い。
「テメエが本物の戦士なのか、そういうカタチの見かけ倒しか、見せて貰うぜ」
　ジュリアスの刺突から敵が立ち直る隙を与えず、シズクが間合いを詰める。
「これがいっぱしの戦士には逆立ちしても届かねえ、一流の技ってモンだ！」
　シズクが斬霊刀で繰り出す剣撃は、言葉通りの卓越した技量からなるものであった。戦士ドリームイーターのモザイクで構成された身体であっても、その攻撃は目に見えて負傷を刻んでいく。
　低水準な力量しか有さないデウスエクスであれば、この刺突と斬撃によって斃れていただろう。しかし、戦士ドリームイーターの身体は僅かに傾いだものの、まだまだ健在であることは明白であり、一角の戦士たる資質の持ち主であることは疑いようもない。
　この敵を制限時間内に撃破するためには、終始ペースを掴み続ける必要がある。そう実感したケルベロス達は、次々に行動を開始した。
「貫き、通すっ！」
「七夕をドリームイーターの狩場にさせるわけにはいかんからな！」
　一刀の雷の霊力を帯びた突きと、ティーシャの重力を宿した煌めく飛び蹴りとが、戦士ドリームイーターを立て続けに捉える。
「……恐るべき戦士よ。此奴の素養、我が鍛錬に勝るとも劣らぬ」
　的確に戦士ドリームイーターを穿った一刀だが、今の自身が繰り出せる技にこの刺突を除いては確実に命中させられるものがない。その事実が、剣士としての矜持に称賛の言葉を紡がせた。
「まあ、こんなものだろう。でなければ、わざわざ私達が出向くまでもない」
　戦士ドリームイーターの戦闘能力は脅威ではあるが、ティーシャの冷静な思考は小揺るぎもしない。強敵を称賛したり、畏怖したりといった感情を持ち得ないわけではないのだが、それよりも勝利への道筋を見出すことが優先される性質なのだ。
「成程、相手に取って不足は無い。先ずはこの願いを守り抜けるよう、尽くすのみ」
　泰明が両手に携える日本刀が、街頭と満天の星明かりを受けて鮮やかに煌めいている。
「さぁ、短冊を返して頂こうか。代わりには、剣戟をとくとくれてやる」
　そして、その輝きを上回る雷の霊力が迸り、戦士ドリームイーターの守りを打ち崩す。
　巧みな連携によって攻勢を連ねるケルベロスだが、戦士ドリームイーターもまた、一方的に打たれ続けてはいない。
　ドリームイーターの戦士としての技量を込めた一撃が、ロベリアのビハインドであるイリスを襲う。
「姉さん」
　戦士ドリームイーターの打撃は、守りに優位な立ち位置を取ったイリスを危険な域にまで負傷させた。たった一撃であるにも関わらず。
「ほらほら、キミの相手は私だよ」
　敵の攻撃への耐性という点では、ロベリアはイリスと大差ない。つまり、敵の攻撃を惹き付けるのは同等の危険性を孕んでいるということだ。
　それでも、ロベリアはそれが自身の役割であると、重厚無比の一撃を叩き下ろす。
　ロベリアの覚悟の表れとも言うべきその重撃は、しかし地面を抉っただけに終わってしまう。軽々と躱されたその攻撃は、精々が３度に１度当たるかどうかといったところだろう。
（「それでも、頑張れるだけ頑張らないと。足手纏いには、なりたくないからね」）
　最適効率という点でのみ考えるなら、ロベリアとイリスの戦術は適切とは言い難い。しかしそれは仲間がいないのならば、だ。
「よくぞ耐えてくれたのう。治療はわしに任せて、おぬし達は存分に力を発揮するのじゃ」
　イリスの負傷を、アクライムが溜めたオーラによって癒す。万全とは言えないまでも、次の一撃は運が悪くなければまだ耐えられるだろう。それに、敵の攻撃をイリス１人が引き受ける必要も無い。
「強くなりたいという子供達の夢が、そのままその強さを形作ったのじゃろうか？　じゃが、わしの救命のための医療術も、負けはせぬぞ」
　強さとは、他者を破り打ち負かすものばかりではない。アクライムのような強さもまた確かに存在する。短冊に願いを綴った子ども達には、まだそれを理解するのは難しかったのだろう。戦士ドリームイーターの性質からは、そう窺い知れる。
「ヒヒヒヒ……キミと戦うのは久々だなぁ。いいよ、いいよ。好きに暴れようじゃないか、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……！」
　手にした簒奪者の鎌へと奇異は発言を掛け、商人は戦士ドリームイーターへと投擲した。
「いいね、なかなか好調じゃないか。ヒヒ……ヒヒヒヒヒ……」
　敵を切り裂き戻ってきた鎌を掴み、満足気に奇怪な笑いを零す。特異な存在という点では、商人も戦士ドリームイーターに匹敵するものがあった。
　互いに初手を繰り出し、その力量を比べ合ったケルベロスと戦士ドリームイーター。どちらも勝算を導き出すには至らなかったが、残された時間は着実に減っている。

●制限時間内の攻防
　戦士ドリームイーターの殴打が、裂帛の気合が、ケルベロス達を排除しようと襲い来る。それは長年の修練の末に得られる熟練の技と比して、遜色無い威力と精度を誇る攻撃であった。
　対するケルベロス達もまた、己の役割を全うすべく仲間達と共に全力で戦闘を遂行する。
　激しい攻防が展開される夜の市街地は、熾烈な戦場と化していた。
　数度に渡るケルベロス達の猛攻を受けてなお、戦士ドリームイーターは怯んでいない。だが、平気であるはずもない。
「ヒヒヒ……。カースルバーグの旦那、一つ強烈なのをお見舞いしてやってくださいよ。ヒヒヒヒ……」
　商人の詠唱が、ジュリアスの脳細胞を強化する。
　支援を受けたジュリアスが繰り出した空の霊力を帯びた武器での一撃は、戦士ドリームイーターに刻まれた傷を斬り広げる。確実に、負傷は蓄積しているのだ。
「む、半分を切りましたか。焦らず急いで倒しましょう」
　この時点で、戦闘開始から４分が経過した。残された時間は、後３分。ジュリアスはその事実を仲間達に伝えつつも、焦りは禁物であると戒める。
「元々出し惜しんではいないが……畳み掛けるか」
　ティーシャの全身を覆うオウガメタルが鋼の鬼と化し、その拳が戦士ドリームイーターを打ち砕く。
　さすがに負傷を看過できなくなったのか、戦士ドリームイーターは自身の傷をその不屈の闘志で以って癒した。同時に、ケルベロス達の攻撃によって蓄積していた負荷も打ち消してしまう。
「此処は譲れぬ、正念場だ。……覚悟！」
　不利な状態を解除されてしまったものの、どちらにせよ攻勢を緩めなければ同じ事だ。逆にそれを一手の浪費にさせようとする、泰明の神速を誇る刺突。
「さあ、一気に決めてやるぜ！」
　戦いが激化する程に、シズクの眼光はより鋭く思考は冷静さを増していく。冷徹な戦術眼は、泰明の突きによって生じた綻びを見逃さず、両手の斬霊刀から放った霊体のみを斬る衝撃波はその威力は絶大なものとなる。
　残された時間の減少に伴い、戦士ドリームイーターの余力も消耗している。ケルベロス達はそう確信していた。
　一方で、ケルベロス達の高揚した戦意に呼応するかのように、戦士ドリームイーターの攻撃も強まっていく。
「効くのう。ここの子供達は良い夢を見ているようじゃ。……だからこそ、貴様等に奪われたままにはせん。返してもらうぞ！」
　強かな打撃に折れそうになった膝を気力で支え、一刀は反撃に転じるが、避けられてしまった。
　残された時間を考慮すれば、少しでも攻撃を避けられたくはない。そう考えたロベリアは、イリスに目配せをする。
「やらせないって。地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
　イリスの念による周囲の物品による攻撃に阻害され、戦士ドリームイーターはロベリアの地獄化した腕が変形した刃を回避することができなかった。
　舞い散る花のような刃は、その儚くも優美な外見とは裏腹に敵の傷口を蝕み続ける。
「わしの修めた技術は、治癒のみではないぞ。争いは好まぬが、必要であればこういう事も出来るのじゃ」
　アクライムの杖は、殴打と共に莫大な雷を流し込む。殴打と電撃による負傷は、戦士ドリームイーターの精悍な身体にも耐えがたい苦痛となったようだ。
　決死とすら表現できる程にケルベロス達に攻め寄せられた、戦士ドリームイーター。生まれたばかりの戦士にこの劣勢を覆す術など有りはしない。

●星空を見上げる
　泰明が戦いの始まりに合わせて設定したアラームが鳴り響く。残された時間が２分であることを告げるものだ。
　ケルベロス達はこれが最後と、各々の全力での攻撃を連ねた。
　ロベリアが鉄塊剣を叩き下ろし、泰明の一閃は黒狼の影となり駆け抜け、商人の光弾が牽制し、ティーシャは近接斬撃から零距離射撃で必殺のエネルギー光線を放ち、一刀の目にも止まらぬ剣技が引き裂き、ジュリアスは地を裂き３つのグラビティチェインを発生させ絡め捕り、アクライムが投射した対デウスエクス用のウイルスカプセルが蝕む。
「最後に喰われるのは、テメエの方だ！」
　シズクの修得した剣術の歴史においても幻とされた奥義。限界まで研ぎ澄まされた剣気が鵺を形作り、大気中の電気を吸収し雷獣の如く襲い掛る。
　断末魔の声も無く、戦士ドリームイーターは力尽きその身体は塵となり夜風に舞い散り消えていった。
　的確な作戦と連携で常に優勢を保ち続けたケルベロス達は、制限時間を１分残し勝利した。結果を見れば、圧勝と言えるだろう。
「どんな夢でも構いやしないと言った風だねぇ。ヒヒヒヒ……」
　鎌を収める商人は、ドリームイーターの作戦に余裕が無く追い詰められているのだと分析した。実に興味深い事態だ。
「さて、そこかしこを壊してしまった事じゃし、直しておくかのう」
「そうだな。私も手伝おう」
　破損した街路や器物をヒールするアクライムに習い、ティーシャも散乱した破片などを片付ける作業を買って出た。
「他のグループは、巧くやっているでしょうか……？」
　自分達は勝利を収めたとは言え、ドリームイーターの活動はこの一カ所だけではない。ジュリアスは他のケルベロス達の作戦成功を願うばかりだ。
「短冊は……。せめてこの願いが再び歪められることのないよう、降り掛かる火の粉は何度でも払い守ってみせよう」
　ドリームイーターが消えた後には、吸収されていた短冊が細切れになって残されていた。回収できれば飾り直そうと思っていた泰明は、せめてその想いを守ると誓う。
「では、帰るとするかのう」
　後処理も終えたと帰路に着く一刀の背後では、彼が笹に吊るした短冊が風に揺れている。それには、『お主らの夢に助けられた。ありがとう、良い夢を』と記されていた。
「さてと、仕事も終わったし、帰ったら望遠鏡でも引っ張り出して来ようかな……」
　夜空を見上げるロベリアの視線の先には、満天の星空が広がっている。
　星々の輝きは、地球の人々の願いを映し煌めいているのだろうか。そんな想いを抱いてしまうのは、今日が七夕だからだろう。

作者：流水清風	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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