七夕モザイク落とし作戦~髪は私の命!?

作者:如月せりあ

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

●下町の境内
 東京下町の寺に、ひっそりと七夕の短冊が飾られていた。
 短冊には、人々の願いが記されている。ささやかな願いもあれば、非常に深刻な願いもあった。
 その中の、いくつかの短冊が舞い上がった。
『薄毛が治りますように』
『髪が生えますように』
『髪・髪・髪! 発毛大成功!』
 人々の深刻な願いが書かれたその短冊は、直径1mほどのモザイクの塊のような物体に取り込まれていった。
 そして、その物体――ドリームイーターの卵から、落ち武者のような姿のドリームイーターが誕生したのだった。
 体長およそ3m。体内にはモザイク化した沢山の短冊が取り込まれていた。

●とある食堂
 食堂の片隅で、ひじき定食を食べながら黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が集まったケルベロス達に説明をしていた。
「ドリームイーターが七夕を利用して大作戦を行う事が判明したっす」
 これはローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、多数のケルベロスが予測して調査したことで判明した作戦だ。
「どうやら、ドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしてるみたいっす」
 モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下するため、大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事が予測されている。
「敵は、残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしてるっす」
 ダンテはわかめたっぷりのわかめスープを飲み、わかめの酢の物を食べながら説明を続けていく。
「7分っす。七夕から生まれたドリームイーターは出現してから、7分で自動的に消滅するっす。そして、モザイク落しの儀式のエネルギーに変換されるっすよ!」
 だから、ドリームイーターが出現する場所に向かい、現れてから7分以内に倒す必要がある。
「7分以内に倒せば、儀式のエネルギーにされることはないっすよ。それで、そのドリームイーターの特徴なんすが」
 体長はおよそ3m。落ち武者のような外見をしており両手に巨大な日本剃刀を持っている。
「このドリームイーターは髪に執着してるっす。攻撃を受けると、髪と精神がやられるっすよ!」
 言いながら、ダンテはひじきとわかめを貪り食っていた。兎にも角にも髪が危険な相手らしい。
「完全に阻止すれば、もうモザイクの卵による事件は発生しなくなるっす。ケルベロスの皆さん、完全阻止、期待してるっす! うぐ、げほごほっ」
 ダンテはわかめを喉に詰まらせながら言うのだった。


参加者
シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)
真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
イルリカ・アイアリス(さんはたまにけだるげ・e08690)
成瀬・涙(死に損ない・e20411)
ウルトゥラ・ヴィオレット(はぴねすおふぃさー・e21486)
南條・劔(夜の静寂・e25571)
フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)

■リプレイ

●ドリームイーター出現
 東京下町に存在する無住寺の境内に、ひっそりと七夕の短冊が飾られていた。
 そのいくつかの短冊が舞い上がり、直径1mほどのモザイクの塊のような物体に取り込まれていった。
 取り込まれたのは、薄毛、脱毛に悩む人々の深刻な願いだった――。

「七夕の願いを悪用しようなんて許せないっすよね」
 現場に到着したシルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)は、境内を見守りながら時を待っていた。
「しっかしよりによって、取り込まれた願いがこれかよ……」
 木の陰に潜み、南條・劔(夜の静寂・e25571)はため息をついた。
「髪……大切ですよね。少し髪型変えるだけでも印象変わったりしますし、わたしも最近伸ばそうかどうか悩んでたり……」
 はああと、イルリカ・アイアリス(さんはたまにけだるげ・e08690)もため息をつく。
「いや、そういう問題じゃねぇし」
「え、そう言う悩みじゃないのですか? と、ともかく、早々とお引き取り願います……!」
 ドリームイーターが生まれた直後に、イルリカは殺界形成で付近を歩く一般人を遠ざけた。
「こんな不毛な願いもドリームイーターとまとめて天の川までぶっとばしてやるか」
 劔、そしてケルベロス達が境内へと駆け込む。
 決して生えることのない不毛な戦いが始まろうとしていた。

 ドリームイーターの卵から生まれたのは、落ち武者のような姿のドリームイーターだった。体長はおよそ3m。
 ケルベロス達の2倍ほど大きい。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 ひらひらのミニスカドレスを纏ったシルフィリアスが、ドリームイーターの前で、可愛らしくポーズを決めた。
「ハーッハッハッハ! 我は正義のピロー究極寝具マクライダー!」
 そしてもう一人正義のヒーロー……ではなく、ピローの真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)が、ドリームイーターの前に立ち、びしっとポーズを決めた。
「七夕の願いを悪用しようなんて許せないっす!」
 シルフィリアスはくるっと杖を振りエレキブーストで攻撃力を上げた。
「はるか星空に住む彦星と織姫の逢瀬にこのような事件を起こすとは無粋な! こらしめてくれる! ――汝、輝かぬ瞳よ、我に従え。三つ首の魔犬に光を捧げよ」
 抱は三対の魔眼で防御力を上げる。
「7分以内……時間、あまりない」
 成瀬・涙(死に損ない・e20411)は、ウイングキャットのスノーベルと共に、ドリームイーターの側面へ走った。
「願いと髪を守り抜きます」
 朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)は更に先へ、ドリームイーターの背後へと回り込む。
「髪は女の命、無粋に斬られるなんて冗談じゃない! 絶対にここで仕留めるわよ!」
 フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)は、電気ショックを飛ばし、ボクスドラゴンのコンピューターの戦闘能力を上げる。コンピューターは即座に、ドリームイーターにボクスタックル。
「たたかうしかないのですね」
 ウルトゥラ・ヴィオレット(はぴねすおふぃさー・e21486)は、ドリームイーターが持つ巨大な剃刀を警戒しながら、ディフェンダーとして保護者であるコンピューターに続き、グラインドファイア。
 体当たりと、炎を纏った激しい蹴りを受け、ドリームイーターの巨体がぐらりと揺れた。
 即座に、涙がドリームイーターに飛び掛かり、霊力を放射し縛する。
「竜の吐息を」
 涙に合せて、ほのかがドラゴンの幻影を放ち、ドリームイーターの身体を焼いた。
 ブンッ!
 ドリームイーターが両手に持つ剃刀を振るった。シルフィリアスの紫色の髪がひと房落ちた。
「喰らいつくせっすー」
 シルフィリアスは怯まず髪を操る。先端部分に生えた口が、ドリームイーターのもう1つの腕に噛みついて攻撃を阻んだ。
「ほのかさん、髪、無理しないでください……っ!」
 イルリカが、空の霊力を帯びた武器でドリームイーターの傷を斬り広げる。
「年に一度の逢瀬の邪魔だ」
 金色の綺麗な髪を見せつけるかのように手の甲で払いのけ、劔が跳ぶ。
「その未練がましく残ってる髪の毛も全部俺が剃ってやるよ!」
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをドリームイーターの腹に決めた。そして、ルーンアックスを振り上げる。
「しみんつるぎ、じぶんのかみ、おとりですか?」
 ウルトゥラが肘から先をドリルのように回転させ攻撃。ドリームイーターの胴を傷つける。
「グアアアアアアッ」
 攻撃を受けながらもドリームイーターは雄叫びを上げ、劔に剃りかかる。
 剃刀は緩やかな弧を描き、劔の頭皮を襲い、捕縛する。
 金色の髪が宙を舞い、劔の頭は虎刈りになってしまった。
「好きにはさせないわよ!」
 フィニスが気力溜めで劔を癒し、ドリームイーターから解放する。
「ハーッハッハッハ! 果たして我の髪を剃れるかな!?」
 美少女イラストの抱き枕カバーを被った抱が、降魔の一撃でドリームイーターの体力を奪う。
 ちらりと抱を見たドリームイーターだが、地毛の見えない抱を狙うことはせず、別の方向に二つの巨大剃刀を大きく振るった。
「えっ、きゃーっ!」
 途端、後方のフィニスの髪がひと房、はらりと落ちた。
 二剃刀斬空閃――遠方の敵の髪を空間ごと斬り捨てる奥義だ。
「ちょっと! 遠距離攻撃あるなんて聞いてないんだけど!?」
 フィニスは青くなって後ずさる。
 今回は後衛だし、敵の剃刀攻撃は飛んでこないだろうと高を括っていたけれど。
「じょ、冗談じゃない! 早く、早く仕留めないと! 皆、頑張って!!」
 刈られていく仲間達を見ながら、必死にヒールで援護!
「ガードしてても、ちかづいてきますか」
 ウルトゥラも、ドリームイーターの奥義に驚き、コンピューターに尋ねる。
 散髪……というより、冷たい刃物が肌に近づくことに抵抗があり、ウルトゥラは剃刀に異常なまでに警戒をしているのだ。
 コンピューターは何も言わずに、ドリームイーターに体当たりをしていく。
「怯んでる暇はないっす。いくっすよ。ライトニングボルトー!」
 かわいくポーズを決めて、シルフィリアスは杖から雷を放った。
「ええ、もんだいありません、しみん。いのちのかみ、まもります」
 ウルトゥラは、フィニスとドリームイーターの間に立ち、スイッチを押して爆弾を爆発させる。
 衝撃を受けたドリームイーターがウルトゥラに顔を向けた。
「恐れることはない! 奴の攻撃は全て我が受けよう。さあ、かかってくるが良い!」
 抱が間に走り込み、ドリームイーターに電光石火の蹴りを放つ! 同時にライドキャリバーの黒雷も炎を纏い突撃。
 ドリームイーターは腹部に大きなダメージを受けながらも反撃。しかし刃の向かう先は抱き枕カバーを纏った抱ではなく、劔だった。
 劔のヘアースタイルが五分刈りに!
「だから、どうした」
 眉一つ動かさず、劔はルーンディバイドで反撃し、肩に深い傷を負わせる。
「劔さん、その髪型もステキ! とっても素敵よ! 引き続きお願いっ」
 フィニスはC9H11NO4を用いて劔を回復し、彼の能力を上げ、力の限り応援する。
「今がチャンスっす」
 ドリームイーターは片腕をまともに振れなくなっていた。
 シルフィリアスは自らの髪を操り、ドリームイーターを襲う。
 そしてバサッ、バサッと次々に髪を剃り落とすドリームイーターの手に噛みついて動きを阻む。
「復活の光よ、断罪の刃よ。我に力を貸し穿ち、切り裂け――ッ!!」
 イルリカが虹彩術符を発動。異空間から放たれた剣閃の雨が、ドリームイーターへ降り注ぐ。ドリームイーターが回避しようとしたその先に――。
「成瀬さん、スノーベルさん、コンビネーションです」
 ほのかが待ち構え、禁縄禁縛呪でドリームイーターを鷲掴みにした。
 次の瞬間、涙が飛び蹴りをドリームイーターの足に決める。
 膝をついたドリームイーターにほのかが斬り込もうとした。途端、ほのかの頭がぶわっと揺れ、嫌な音が響いた。
 そしてばさっと、地に彼女の美しい黒髪が落ちた。
「ああああっ、ほのかさん、しっかり! トゥードゥルス、お願い!」
 フィニスは回復を施しながら、ウイングキャットのトゥードゥルスにほのかを守らせる。
「どうした、まだ俺の髪は残っているぞ!」
 劔が惨殺ナイフでドリームイーターを斬り裂き、自分に注意を向ける。
「私はまだ戦えます、これくらいで倒れたりしません!」
 時間がない。気にしている暇はない。
 ほのかもドリームイーターに斬り込んだ。
 ドリームイーターは、剃刀を振り回して応戦。
「あ……」
 フィニスを庇ったウルトゥラの頭上を、剃刀が通過した。ばさりとウルトゥラの白い髪が落ちた。
 即座に涙はウイングキャットのスノーベルに回復を頼んだ。
 ズサッ!
 翼を広げたスノーベルの体を撫でるように剃刀が通過。
 ふわふわと、剃られた毛が舞い飛んだ。
 涙は思わず目を見開いた。スノーベルのふわふわとした雪のような毛並が、大好きだ――。
 目を潤ませながら、涙はドリームイーターに炎を纏った激しい蹴りを浴びせた。
「もう動けないっす、早くっす!」
 髪の毛を操りドリームイーターを捕縛しながら、シルフィリアスが叫ぶ。
「任せろ、おりゃーッ!」
 抱はオウガメタルを鋼の鬼と化し、拳をドリームイーターに叩き込む。
 ドリームイーターは倒れ込んでもまだ、剃刀を振るい続ける。
 ばさり、ばさり……。シルフィリアスの髪が、ドリームイーターに剃られていく。
「や、やめて、もうやめて……いい加減にしてください!!」
 イルリカが跳び、ギロチンフィニッシュ。
 ドリームイーターの首を斬り落とした。

●ケルベロス達の願い
 ドリームイーターに止めを刺すと同時に、ほのかがセットしていたアラームが鳴り響いた。
「間に合ったようですね」
 ほのかはほっと、息をついた。
 辺りにはケルベロス達の髪が散乱していた。……ほのかも半分くらい髪を失っていた。
「皆さんの綺麗な髪が……」
 無残に斬られた髪の海の中で、イルリカは嘆いた。
 長くて綺麗な髪に淡い憧れの感情を抱いていたから。
「だいじょうぶです、しみん。すぐになおします」
 ウルトゥラがほのかをヒールした。
「かみはヒールしても ファンタジックにはならないのですね。きたいはずれです」
「ん?」
「……いえ、なにもいってませんよ、しみんほのか」
 ウルトゥラは目をそむけて、回復を続ける。
「それにしても……尊敬するわ。ありがとう!」
 フィニスはつるつるの丸刈りになってしまった劔を真っ先に癒した。
「元々髪にこだわりはなかったからな。女性の皆も果敢に挑んでくれたおかげで、素早く倒す事が出来た。礼を言う」
 仏頂面ながら、口元に笑みを浮かべて劔が言うと、皆の顔に笑顔が広がった。
「その通りだ! これは皆の協力で得た完全勝利なのだ! ハーッハッハッハッ!」
 美少女抱き枕カバーを纏ったまま、何故か胸を張る抱。
「結局抱さんは、一度も狙われなかったわね!」
 笑いながら、フィニスが抱の抱き枕カバーをえいっとはぎ取って、怪我がないことを確認した。
「は、はい……全て、皆さんのお陰です……」
 抱き枕カバーを外された途端、抱は赤くなり普段のもごもごとした口調に戻った。
「ふふ、ありがとう。良い連携プレーだったわ」
 笑い合いながら、ケルベロス達は自分達と周囲の回復をしていく。
「みなさん、お疲れ様です。ハーブティーをどうぞ」
 回復が終わった後、イルリカはセージの葉で入れたハーブティーを皆に振る舞った。
 セージはホルモンバランスを整えて、育毛に効果があるという。
「ありがとうっす! いただくっす」
 シルフィリアスがハーブティーを飲んでほっと息をつく様子を、イルリカはにこにこ眺めていた。
「みなさんの綺麗な髪、元通りになってよかったです。ほんと、わたしも伸ばそうかな……」
 イルリカ自身も皆と一緒にハーブティーを飲み、仲間と共に一時の休息を楽しむのだった。

「スノーベル、よかった、よかった……」
 涙は元に戻ったスノーベルを大切に撫でながら、七夕飾りの方ヘ向った。
「……えっと……強くて頼れる男になれますように……」
 それから、と言葉を続けていく。
「スノーベルと一緒にいられますように……」
 ぶんぶんと、涙の手の中でスノーベルが動いた。
「えぇっ……ひとつ……?」
 しばらく考えた後、強くて頼れる男になれますようにと、涙は自分の願いを書き、涙とスノーベルが一緒にいられますようにと2人の願いとしてもう一枚書いて、2枚の短冊を飾った。

 笹飾りの裏側。
 人の目につきにくい場所に、新たな短冊が一枚飾られていた。
『……が幸せに過ごせますように』
 他の短冊の裏に隠れた名が、誰の名であるのか。
 それを知っているのは、記した人物――劔だけである。

作者:如月せりあ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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