七夕モザイク落とし作戦~ドーナツがいっぱい

作者:りん


 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」


「ドリームイーターが七夕を利用した大規模作戦を行うことが判明しました」
 千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)の声に、ケルベロスたちの注目が集まった。
 この作戦はローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、多数のケルベロスが予測して調査してくれた事で事前に知る事ができた情報で、ドリームイーターは鎌倉争奪戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こすつもりなのだという。
「モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下して大量のドリームイーターが出現してしまいます。そうなれば日本中が大混乱に陥ってしまうでしょう」
 この時期に夢に関することといえば七夕。
 ドリームイーターは残存するモザイクの卵を使って日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、それを生贄に捧げることでモザイク落としのエネルギー源にしようとしているらしい。
「この七夕の願いから生まれたドリームイーターですが、出現してから7分間で自動的に消滅してモザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまいます。ですので、皆さんはドリームイーターが現れる地点に向かっていただき、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいのです」
 そして最大の特徴は何もしなければ攻撃をしてこないということ。
 現れたドリームイーターはただただ7分その場に立っているだけで、そのまま消えてしまうのだという。
 しかしそれでは生贄としてモザイク落としのエネルギーになってしまうので、やはりその場で倒してしまわねばならないだろう。
「向かってもらいたいのはある小学校です」
 この小学校では毎年校庭に笹を何本か用意して全校生徒の短冊を釣り下げるのだという。
 そのたくさんの願いの中から今回ドリームイーターになるのは、一年生の男の子の願い事。
「『ドーナツをたくさんたべたい』という願い事です」
 両手にいっぱいのドーナツを抱えたドリームイーターは具現化するとその場に留まるのだが、ケルベロスたちに攻撃されて反撃をしないわけがない。
 攻撃方法はドーナツを量産して投げつけてくるという攻撃になるという。
「先ほども言いましたが、7分以内に撃破できなかった場合は消滅し、倒すことができなくなります。また、今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければモザイク落としが実現してしまうでしょう」
 そして逆にほぼすべてのドリームイーターの撃破に成功すればモザイクの卵による事件は今後発生しなくなるだろうという予測がなされている。
「完全に阻止することができれば、現在起きているモザイクの卵による事件は発生しなくなります。それを目指して頑張りましょう」
 そう言って、尚樹はケルベロスたちをヘリオンの中に促したのだった。


参加者
癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)
白神・楓(魔術狩猟者・e01132)
ジルベルタ・トゥーリオ(紫銀の騰蛇・e03599)
九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)
パンプティ・パンプキン(トリックントリート・e13571)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)
フォンセ・グングニル(元戦乙女の一本槍・e24796)
浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)

■リプレイ

●笹のはさらさら
 とある郊外にある小学校の校庭でケルベロスたちはドリームイーターを迎え撃つ準備を進めていた。
 時刻は夜。
 事前に用意してきた置き型ライトを配置したジルベルタ・トゥーリオ(紫銀の騰蛇・e03599)はふっと息を吐く。
「こんなものかしら?」
 ある程度の明るさを確保しつつ、しかし戦闘の邪魔にならない場所となるとなかなかに難しい。
「こいつもあるし、大丈夫だと思うぜ」
 腰につけたライトを指さしジルベルタに相槌を打ったのは火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)。
 なぜだか胸元に視線を感じる気がするが気のせいにしてジルベルタは辺りを見回した。
 地外の他にも置き型ライトや体につけるタイプのライトを持参しており、多少置き型が倒れたとしても十分な明るさは確保できるだろう。
 となればあとはドリームイーターが生まれるのを待つばかり。
 ドーナツと織姫と彦星は一体何の関係があるのだろうか。
 そう考えていたフォンセ・グングニル(元戦乙女の一本槍・e24796)だが、最終的にドーナツは大好きだからまぁいいかという結論に達していた。
「さぁ、仕事の時間だぜ、エレナ」
 そういってビハインドのエレオノーラに話しかければ彼女はこくりと頷いた。
「ドーナツとかあまーいスイーツ食べたいお願いは、私も気持ちが分かりますです。だからこそ、悪いことに利用させないようにしないとなのです!」
 そういって拳を握りしめる癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)に白神・楓(魔術狩猟者・e01132)も頷く。
「ドーナツはいいよな。私も好きだ。もちもちしたヤツよりはサクサクとしたクッキータイプのものが1番好きだなー」
 ドーナツと言えど色々な種類がある。
 油で揚げて粉砂糖をかけたシンプルなものからもっちもちしたもの、サクサクのクッキータイプのもの、チョコレートがかかったものなど様々だ。
 それぞれにどんなドーナツが好きかを口にしているとパンプティ・パンプキン(トリックントリート・e13571)は気配を感じて空を見上げる。
 きらり、と何かが光ったように感じ、そしてそれはこの校庭にまっすぐに落ちて来たのだった。

●願い事を叶えましょう
 光が集まり子どもの形を模っていく。
「モザイク落とし、阻止シマス」
 九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)が言葉と共に掌からドラゴンの幻影を呼び出していく。
 それと同時に浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)はスマートフォンのアラームをスタートさせていた。
 炎がドリームイーターを包み込み、ゆゆこのライトニングロッド……病魔祓の御幣が雷を呼び寄せたかと思うとそれは七七式の体を走り抜け、彼女の戦闘能力を向上させていく。
「このエレキぱわー、使ってくださいです!」
 ウイングキャットのネロが前衛のメンバーに清い風を送れば、その主人であるジルベルタの口から力ある言葉が紡がれる。
「海の底に横たわり世界を喰らうミズガルズの大蛇よ、我が命に応え、偉大なる力を現せ……」
 幾筋もの紫色の太鎖が彼女の足元から現れたかと思うと、それは地を這いまっすぐにドリームイーターへと這っていく。
 ぎちぎちと締め付けられる姿はまるで紫色の大蛇だ。
 その大蛇が霧散すると同時に近くまで迫っていた楓が惨殺ナイフを繰り出していた。
「職業柄、解剖は得意な方なんでね。私の事を甘く見てると切り分けるぞ」
 ざしゅ、と血が噴き出てのけ反るドリームイーターに向け、アルメリアとフォンセは同時に地を蹴っていた。
 流星の煌きを宿したフォンセの蹴りを何とか避けたドリームイーターだがアルメリアのそれまでは避けられず、そこにエレオノーラがポルターガイストを引き起こす。
「ちっ、外したか」
「すあま、今よ」
 アルメリアの声に応えるようにウイングキャットのすあまも清浄の翼を羽ばたかせてこれから攻撃を受けるだろう面々に耐性を付けていく。
 その風を身に受けながら、地外は不敵に微笑んだ。
「ほい、時間もねぇ。覚悟しなドーナツ小僧!」
 地外はウィングキャットのおむちーと共に駆け出すと縛霊手を力任せに振う。
 鈍い音が響いたかと思うとドリームイーターの体には霊力の網が纏わりつき、そこにおむちーの爪が立てられた。
 びくりと体を震わせたドリームイーターだったがただそれだけ。
 一通りの攻撃が終わったことを確認んしたドリームイーターは両手に抱えたドーナツをケルベロスに向けてばら撒いたのだった。

●ドーナツ乱舞
 ばら撒かれたドーナツがケルベロスたちの武器を包み込む。
 だがそのドーナツはそれぞれの行動時には掻き消えて彼らの行動を阻害するには至っていない。
 足に嵌っていたドーナツがぱぁっと掻き消えたのを確認し、七七式は走り出す。
「ふっ……」
 短く息を吐いてと、と軽く地を蹴って飛び空中へ。そして空中を蹴ってさらに上へ。
 高く舞い上がった彼女の身体はかかる重力に逆らわず、まっすぐに下に落ちていく。
 流星の煌きを宿した蹴りはドリームイーターの頭を的確に捉え、ごきりと鈍い音が校庭に響いた。
 七七式の体が空中に舞い上がったころ、ゆゆこは前衛の面々の傷を確認していた。
 前衛全体への攻撃は徐々に彼らの体にダメージを蓄積させていたが、サーヴァントたちが幾度か肩代わりをしてくれているおかげで大事には至っていない。
 七七式、地外、楓と強化と回復を行ってきたがこの後はどうするか。
 残り時間はあと3分。回復か、それとも攻撃か。
「……いきます!」
 ゆゆこは心を決めると前衛の面々の目の前に、雷の壁を築いたのだった。
 ジルベルタの投げた螺旋手裏剣が空を切り、ドリームイーターの体に突き刺さる。
「小さな子に手を上げるのは…あまり良い気がしないわね」
 小学生の男の子の姿をしたドリームイーターの胴体を薙いで手元に戻ってきた手裏剣を振りそう言うが、見た目は子供でもその力は舐めてかかれるものではない。
 現に自身のサーヴァントのネロは先ほどの攻撃から前衛を守って姿を消している。
 その前衛である楓は今回ドリームイーターに選ばれた可愛らしい願い事を思い出し、くすりと笑みを浮かべていた。
(「ドーナツがたくさん食べたいなんて、純粋なかわいい願い事だね」)
 そんなかわいい願いをこうして利用しようとするのはいただけないし、情緒にかける。
 ならばさっさと退治するまで。
「歓迎しよう! 我が子達の世界へ!」
 力ある言葉を解き放てば楓の横の空間がぐにゃりと歪みそこから彼女の生み出した人造魔物たちが這い出てきていた。
 群がるその人造魔物たちの上からすあまがキャットリングでドリームイーターの動きを封じれば、それをアルメリアがじっと狙う。
「この子の夢を守るわ。……悪夢になんかさせない」
 想いと共に放たれたのは凍結光線。
 ドリームイーターのつま先に当たったそれはぱきぱきと音を立てながら膝までを凍り付かせて体の自由を奪っていった。
 動きが鈍ったドリームイーターの背後に現れたエレオノーラが背中を斬りつけ注意がそちらに向いた瞬間、フォンセはバスターライフルのトリガーを引いていた。
「もらった!」
 言葉と共に放たれたエネルギー光弾が浮き上がっていたドーナツたちを霧散させれば、そこに地外が突っ込んでいく。
「占いによればこっちの方角にパンチすれば当たるって聞いたぜ!」
 ぶん、と振るわれた拳を避けようとしたドリームイーターだったが、しかしその体はおむちーの放ったキャットリングで固定され、残骸を纏った拳がドリームイーターの顔にヒットした。
 かなりの力でぶん殴られたドリームイーターは体をよろめかせたものの倒すにはまだ足りないらしい。
 再び無数のドーナツが浮かび上がり、それは前衛の面々に降り注いだのだった。

 武器を封じられずにここまで来たのは行幸だった。
 きちんと予測し、行動できていたことが大きいだろう。
 そして相手の回避率を下げたことにより後半に行くにつれて命中率が低い攻撃でも当たるようになってきている。
 ケルベロスたちは確実にドリームイーターの体力は削っていっていた。
 そして運命を分けるアラームが小学校の校庭に鳴り響く。
「7ターン目入ります!」
 ゆゆこの声にケルベロスたちは覚悟を決める。
 各々これが最後の攻撃となることを自覚し、武器を持つ手に力が込もった。
「終ワリにしマショウ」
 肘から先を内臓モーターでドリルのように回転させながら七七式が走り出せば、それを追うようにゆゆこが投げた簒奪者の鎌が飛んでいく。
 七七式の手がドリームイーターの体をえぐり鎌が肉を斬ればその傷口にジルベルタの放った螺旋手裏剣と楓の惨殺ナイフが突き立てられた。
「あと、少し………!!」
 血しぶきが上がる中繰り出されたのはオウガメタルを全身に纏い鋼の鬼となったアルメリアの拳。
 殴られたその衝撃で地面に一度バウンドしたその体をフォンセの放ったダメ押しの凍結光線が貫けば、ドリームイーターの体は貫かれた場所から凍り付き……やがてぱきぱきと音を立てて崩れ去ったのだった。

●ドーナツの誘惑
 何とかぎりぎり、敵を倒し終えたケルベロスたちはほっと息を吐きだしていた。
 攻撃手を一人欠きながらもこうして無事に倒せたのは状態異常対策をしっかりとしていたこと、相手の動きを早い段階で制限していたことが大きいだろう。
 息を吸い込めば先ほどまで漂っていたドーナツの甘い香りが鼻を刺激して、アルメリアはぽつりと呟いた。
「……ドーナツ、食べたい。コンビニのでもいい」
「いいですね、早速買いにいきましょう!」
「私は明日にしようかな」
 ゆゆこの元気な声とどうせならば美味しいドーナツが食べたいと言う楓に辺りからはくすくすと笑いが漏れた。
 明るい声に混じって笹の葉のこすれる音が校庭に響く。
 さらさらというその音を聞きながら、ケルベロスたちは少年の願いが無事に叶うよう祈ったのだった。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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