
7月7日、七夕の夜。東京上空……。
大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
…………。
いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
だから、残った卵を私に頂戴。
あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
七月の初週、学校、近所の家々、あるいはデパートやホームセンター、いろいろな場所に笹が飾られ、人々はそこに願いをこめて短冊を吊るす。
それはささやかな夢。
そんな小さな願望を求め、それは彷徨う。
直径一メートルほどのモザイクの卵。気づけば一つ、二つ、短冊が消え、そんなこともあるさと、誰も気になど留めはしない。
今年も一年健康でありますように。
風邪が早く治りますように。
あの人の怪我が早くよくなりますように。
卵が集めるのはそんなありふれた願い。
やがて卵は何十という短冊を体内に取り込み、小さな病院の前で孵る。
その見た目は悪夢と呼ぶに相応しい。
中心になっているのは大きなベッドと、そこに横たわる中性的な人型の何か。元は真っ白であっただろう赤い跡の散る服を着るその人影の胸元に、はまるでお札のようにモザイクと化した無数の短冊が乱雑に敷き詰められている。
ベッドからは大きなメスを握る右腕と、点滴を握る左腕が伸び、蜘蛛のような八本の脚を忙しなく蠢かせつつ、周囲を警戒し続ける。
「七夕、風流ですね。皆さんは何か願う予定はありますか、ニアはそうですね、日本の人々と皆さんがゆっくりと七夕を過ごせることを願いましょうかね」
ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はケルベロス達がやってきたのを確認すると、冗談めかしながらそんなことを言う。
「さて、この七夕を利用してドリームイーターがなにやら大掛かりな作戦を目論んでいるようで、ですね……」
唸りながら、ニアは軽く髪をかきあげながら、ケルベロス達に詳しい説明を始めた。
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、沢山のケルベロス達の協力の下、どうやらドリームイーターは鎌倉での戦いで失敗に終わった『モザイク落とし』を再び行おうとしていること。
そのために日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、それらを生贄にすることでモザイク落としのエネルギーを確保しようとしていることをニアは簡潔に説明した。
「皆さんに今回倒してもらいたいのはいわゆる無病息災の願いから生まれたドリームイーターです。蜘蛛のような脚と点滴とメスを持つ腕の生えたベッドに腰掛ける中性的な人間、といった見た目をしており、どれも血濡れで古びている為、少々見た目はホラーチックですね……」
目を細め、いかにも嫌なものを見てしまったといった感じでニアは表情を歪ませながら端末を操作する。
「その願いからか、このドリームイーターは防御力を高めたり、自らの傷を癒す行動をとってきます。攻撃力自体は然程高くないのですが……」
ニアは困ったように言いよどみながらも、一つ息を吐いて続ける。
「このドリームイーターは七分以内に撃破できないとその場で消滅して、モザイク落としの為のエネルギーになってしまうんですね、これが……つまるところ、このドリームイーターの特性は、今作戦において非常に厄介な障害になることが予想されます、何かしらの対策を考えていく必要があるでしょう」
こちらでもささやかですが皆さんの助けになるよう、事前に周囲の人払いは済まして起きますので周辺の被害については考えずに、全力で戦ってくださいとニアは伝えたあと、真剣な表情でケルベロス達に頭を下げる。
「ドリームイーターの撃破に失敗し、モザイク落としに必要なエネルギーを集められた場合、巨大なモザイクの塊が落下し、大量のドリームイーターの出現が予測されます。どうかそうならないよう、絶対に目標を撃破してください。
逆に完全に阻止できれば、モザイクの卵による脅威は今後なくなると思われます、ニアの七夕のお願い、皆さんが叶えてくれると信じていますよ」
参加者 | |
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![]() 九道・十至(七天八刀・e01587) |
![]() 尾守・夜野(遠き春を思ふ・e02885) |
![]() アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895) |
![]() 据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
![]() 幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515) |
![]() モニカ・カーソン(大樹の木陰で・e17843) |
![]() 京・和紗(白毛金狐・e18769) |
![]() 片桐・与市(墨染・e26979) |
●
星が輝く涼やかな夜。吹く風が小さな病院の前に飾られる大きな笹を揺らし、そこに括られたいくつもの願いの綴られた短冊もひらひらと風に舞う。
その短冊のうちいくつかが、不意にモザイクに掻き消え、虚空へと消えた。
同時に、ガタリと音を立てて、何かがその場に転がり落ちる。
それは大きなベッドだった。
ぼろぼろのシーツは破け、血に染まり、その横には、禍々しい蜘蛛のような脚と、点滴とメスを握る腕が生えている。
大きく傾いていたそれが、複数の足で勢いをつけるように体制を立て直すと、その中央には少女とも少年とも付かぬ、中性的な人影が横たわっていた。
血だらけの病衣を身に纏うその人影の目元はぼさぼさの髪に覆われ、伺うことはできず、口元は強く引き結ばれている。
それはベッドの上、遥か上空の満天の星空をふっと眺めたかと思うと、すぐに視線を下ろし、明滅を繰り返す街灯の向こう、裏路地につながる暗がりの道を指差し、寝台から映えた腕がメスを構えた。
同時に闇の中から光が閃き、ドリームイーターの構えるメスと交差する。
九道・十至(七天八刀・e01587)の振るう刀とメスがぶつかり合い暗がりに火花を散らす。
重量のある一撃ではあるが、愚直で御しやすい一刀。
「技巧もなにもないな、だが力比べに付き合う義理もないだろう」
呟くように舞いながら十至は敵の一撃を受け流し、すれ違いざまに蜘蛛の脚のうちの一つを鋭く切り裂く。あふれ出る緑色の泡立つ血液が地に落ちて、粘性の嫌な音を立てる。
「イッたァっい!」
寝台の上の人影の口はきつく結ばれたまま、どこからともなく、ドリームイーターの悲鳴が不気味に響く。
その悲鳴を止める如く、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は敵へと肉薄。
全身を覆うように展開していたオウガメタルを拳へと集中させ、拳を人型へと叩きつけた。
その感触は風船に近い。弾力のある何かを押しつぶしたかと思えば、その華奢な体はまるで漫画のように破裂し、周囲に赤い血を撒き散らし、寝台と服を鮮烈な赤に染め上げる。
「アっ、ああぁ、いたぁい、イタイよぉ……」
哀しげな声を上げながらもやはりその表情を変えないドリームイーターは不気味に自らの傷口をさすり、寝台はふらふらと足元もおぼつかない様子で揺れる。
「本当に、人の願いを直接奪わなくても発生するドリームイーターがいるのね……」
奇怪な行動を続けるドリームイーターの様子を冷静に見据えながら、アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)は周囲へとオウガ粒子を散布し、仲間達の感覚を引き上げて行く。
「星にかけた願いがデウスエクスに届くとは、皮肉な話ですな」
アーティアの呟きに、赤煙は視線を一時、短冊の随分と少なくなった笹へと目を向ける。
「まったくだ、裸の竹笹ってのは格好つかねぇしなァ
ま、とりあえず事が終わるまではこれで我慢してくれよ」
被っていた帽子を笹にかけながら顔をあげた十至の視線の先では、よたよたと歩いていたドリームイーターが動きを止めて、今度はガチャガチャと点滴を揺らし始めていた。
その不穏な動きに、いち早く、京・和紗(白毛金狐・e18769)と幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)が反応し、動き出している。
和紗の操る御業の守護を受けた九助は真っ直ぐにドリームイーターへと飛び込み、左腕一つで器用に杖を振り回し、その先に輝く刃で敵の胸元を深く切り裂いた。しかし、やはり、赤煙の時のように、確実な手応えを感じることはない、体が切り裂かれ、血が噴出し、声を上げるものの、ドリームイーターは動きを止めることはない。
「イタイ、いたい、いたあああぁああい!」
人型が寝台の上、頭をかきむしるように動き、それをなだめるように寝台から伸びる腕がその体を名でさするように蠢く。
「でもぉ、平気、ボクは平気。ホらァ……こんなニ血が出ても痛くナイシ平気ナのッ!」
明るく笑うような声と共に、寝台の手に握られた点滴から針と管が伸び、人型の体をいたるところから突き刺す。たちまち、その体は元のとおりにくっついて、生暖かい血のあとだけを残し、ドリームイーターは元通りの形となる。
「無病息災の願いが、斯様な姿に成り果てようとは……見るに堪えぬな」
そのドリームイーターの様子に、片桐・与市(墨染・e26979)は眉を顰めながら忌々しげに言葉を漏らし、周囲の光源を確保をかね、味方の指揮を上げるための爆風の準備をしていた尾守・夜野(遠き春を思ふ・e02885)もまた、唇を噛む。
「まったく……健康をただただ願う純粋な夢をこんな形で壊すなんて
絶対に許せないのですよぉ」
「ええ……このようなドリームイーターの企み、必ず阻止しましょう」
和紗同様、アーティアへと御業の守護を付かせたモニカ・カーソン(大樹の木陰で・e17843)はカプセルを手に、ドリームイーターを見据える。
「戦いの準備を終えたケルベロス達はドリームイーターを囲むように布陣し、各々の武器を手に、狙いを定める。七分間、互いに退くことのない、長いとも短いとも取れぬその戦い。
「さーあ、寝台の上の夢喰いよぉ、てめえに言いたい事があんだ、意識ハッキリさせてよく聞きな!」
九助の言葉にドリームイーターは寝台ごと彼のほうへと向き直り、とぼけるように首をかしげる。それを見て、お構いなしに彼は叫ぶ。
「まずその不衛生なメスだの点滴だのを器具交換だオラァ!!」
気合の叫びと共に、夜野の用意した爆炎が夜をカラフルに彩り、戦いの火蓋が切って落とされた。
●
「あはは! 皆、皆一緒だよ? そーれ!」
夜野の笑い声と笛の音が静かな夜の通りに響く。
七夕の夜、音に惹かれて現れた精霊達は踊り、遊ぶように、ケルベロス達に力を貸し、その能力を向上させる。
武器を打ち鳴らす音が、地を蹴り駆ける音が、幾重にも重なり、時に軽やかに、時に重く、笛の旋律を彩る。
互いに援護をしあうケルベロス達の攻撃は一撃一撃が重く、ドリームイーターの体を切り、砕き、傷を重ねる。ドリームイーターも、それを素直に受けるばかりではない。
モザイクによる盾を形成し、時に攻撃を防ぎ、逸らし、傷を受ければそれを点滴で回復する。ケタケタと笑いながら自らの傷を広げ、血を流しながら、攻撃に転ずることなく、防御を固めるドリームイーターを落とすのはいかにケルベロス達といえ、難しい。
とはいえ、防戦一方ではいずれ回復が追いつかず、ドリームイーターが倒れるのは明白ではあるのだが、この作戦においては事情が違う。
七分以内にこのドリームイーターを撃破できなければ、目の前の目標はモザイク落としのエネルギーとしてその役目を果たしてしまうのだから。
「回復するというのなら、この殺神ウイルスでどうでしょうか?」
モニカの放ったカプセルから噴出するのは対デウスエクス用に製作された回復を阻害するウイルスなのだが、それすらもドリームイーターの点滴薬は治癒し、癒してしまう。
「痛いのも、ツメタいのも痺れるのもぉ、平気、ヘイキぃ! ボクこんなに元気だよぉ!?」
力をためるように屈んだドリームイーターが、言葉の通りまるで平気な様を示すかのように大きく飛び上がり、与市の放った斬撃をひょいと避ける。
「仕方がねぇ。ちょいと本気で付き合うぜ。……但し、一分だけ、な」
高く跳ねた目標を視界の端に収めながら、十至は力強く地を蹴った。
その背に白い翼と地獄で補った燃え盛る翼、三対六枚の翼が顕現し、上空へと向けその体を強く押し出す。
ドリームイーターの体を追い抜き、反転した十至は敵の防御を掻い潜り人型の頭を掴み、落下の勢いに翼による加速を足して、地面へと向かい、真っ逆さまに落ちて行く。
軋むのは体か心か、険しい表情を浮かべ、舌打ちをしながらも、十至はドリームイーターの体を地面へと力強く叩き付けた。
「今ドンぐらいだ? あァ!?」
「開戦から三分ほどだ」
「まだ三分かよ。オッサンの体が先に参っちまわぁ」
与市の言葉に音を上げるような言葉を吐きつつ、も十至はステップ一つでドリームイーターの元を離れる。
先程まで彼がいた場所を点滴の針がなぎ払い、その勢いのまま、砕け、飛び散った頭らしきものが乗っかっていた首へと突き刺さると、肉片が盛り上がり、再び表情の読めない不気味な頭がそこに現れる。
すぐさまその体を赤煙の放った鋭い蹴りが寝台ごとその体を貫き、続くアーティア稲妻を纏う槍の一撃がその奇妙な足を貫き切り飛ばすものの、それは傷ついたからだまのまま動きを止めることなく、ただ血濡れで蠢く。
「やれやれ、ここまでタフとは骨が折れますな」
「どうにかしてあの回復を打ち破れないものかしら」
赤煙とアーティアの言葉を他所に、再び再生を始めるドリームイーターに対し、夜野とモニカの二人が同時に仕掛ける。
「もう一度この殺神ウイルスで」
「一人分でダメなら二人分ですよぉ」
二人の放ったカプセルから噴出したウイルスが、ドリームイーターの体を蝕む。先程までとは打って変わって、ドリームイーターの傷の癒える速度は目に見えて落ち、あふれ出す血が止まらないまま、ドリームイーターはガタガタと音を立てて暴れまわる。
「おかしい、オカシイ、ナンデ、何で治らないノ!?」
「――そんな痛みだ重病の苦しみだのに重きを置いた見た目でよぉ!
そんな悲観じゃ治るモンも治らんわ、医者に喧嘩売ってんのか?」
ドスを効かせ、敵を睨み付けながら、九助の振るう杖の先から電撃が迸る。
寝台に横たわる人影の体が焼け焦げ、嫌なにおいがあたりに充満する。
「患者自身が健康である努力をする事、そして何より幸福である事が、最大の無病息災特効薬なんだよ!」
「あっぁ、やだ、イヤダ、こんなの! 治せ、なおせぇ!」
駄々をこねる子供のように寝台から生える腕が点滴を、メスを振り回し、脚は前後左右でたらめに走り回り、暴走するドリームイーターは周囲に破壊をばら撒いていく。
●
回復阻害の効果もあり、寝台から伸びる左腕、そして数本の脚はもはや再生することもなく地に落ちたままピクリとも動かなくなっていた。
蓄積したダメージはドリームイーターの動きを目に見えて鈍らせ、がむしゃらに暴れまわるその動きを見切り、十至の抜き放った刀の一閃がドリームイーターの脚をまた一つ切り落とす。
だが、時も刻一刻と過ぎて行く。既に戦闘が始まってから五分の時が流れ、ケルベロス達の顔にも僅かながら焦りの色が見て取れる。敵の消耗は目に見えてわかるものの、その底が一体どれほどなのか、それを見極めることができない。
「リス君お願いなのです」
夜野の指先から魔力を受け取ったリスが飛び立ち、敵へと向かいその身を丸め飛び掛る。その攻撃をドリームイーターはモザイクの盾で瞬時に受け、そのままぐるりと身を回し、夜野へとメスの一撃を見舞う。
甲高い金属音と共に、ドリームイーターの手にしていたメスが宙を舞う。
敵の振りぬいた刃を和紗の御業の力を借りた、与市の刀が絡めとり、勢いを殺さぬまま転化された力により、その巨大なメスはドリームイーターの手を離れ、地へと突き立った。
踏み込みの音はその長く響く音に消え、与市が右の刀を振りぬく。空を裂く一撃をドリームイーターは咄嗟に再び展開したモザイクの盾で受ける。
瞬間、和紗がその手に握る符に力をこめる。
御業を通じ与市へと力を送ることで、その攻撃を力強く、後押しする。
一度は止まった刃はまるで熱したナイフでバターを切るかのように、その防御を切り捨てる。そうして防御を掻い潜った左腕の斬劇が、寝台の上の体を両断する。
そして戦場に響き渡る、アラームの音。
防御を破られたドリームイーターへ対しケルベロス達は残る全力を注ぎ攻撃へと集中する。
持ちうる手を全て破られたドリームイーターはもはや残る時間をなんとしても耐えるべく、寝台を丸め、残った右腕と脚で庇うかのようにその場にうずくまり、攻撃を受けきろうとする。
「天つの風を纏い、彩る想いを迸れ。唸れ、夢想の刃」
風が轟と唸りを上げ、螺旋の力に吸い寄せられるようにアーティアの元へと集う。
彼女の繰るオウガメタルがその右腕の指先から肩までをその体で覆いつくし、禍々しい手甲を形成、さらに渦巻く風がその腕部の周りを荒れ狂い、風の爪を纏わせる。
左腕で右の肩を抑えながらアーティアはオウガメタルを心配そうに見つめてから、彼女は視線をあげる。
赤煙の振るう拳が、敵の腕部を破壊し、十至の振るう刀が寝台を切り裂く、開かれた突破口の先に見える敵へと向け、アーティアは風を纏う右腕を叩きつける。
「――風螺旋龍哭刃!」
風の爪が、脚を、腕の残骸を、寝台を、人型を、バラバラに引き裂いていく。
荒れ狂う風が引き裂いた敵を逃がすことなく、引き寄せ、際限なく、ドリームイーターの体を切り刻む。万が一にも微かな再生も許さぬほどに微塵に散ったその体は虚空へと溶ける様に消えていった。
吹き荒れる風が収まると同時、ハラハラと空らは無数の短冊が降り注ぎ始めた。
●
夜風に揺れる笹に代わりにとかけられた十至の帽子は無く、代わりに取り戻された短冊がかけられている。
「なんとか阻止できて一安心、ですね」
周辺の修復を一通り終えたモニカの語りかけに、一緒に修復に回っていた和紗は小さく頷きながら。すっと、一枚の短冊をモニカへと差し出す。
「あら、ありがとうございます、和紗さん」
モニカが快く受け取ってくれたのを確認すると、和紗は色の違うそれらを他のケルベロス達にも配って行く。
十至と九助、息を上げ、座り込んでいた二人もそれを受け取ると、ふっと笑みを浮かべ、短冊を見つめながら、願うべきことを頭に思い浮かべる。
いち早く腰を上げた与市は、短冊と、持参した折鶴を笹へと飾る。
「折鶴も吊るすものなんですねぇ?」
その様子に同じように短冊を書き終えた夜野がものめずらしそうにそう、たずねる。
「心ばかりだが……健康長寿の意味があるらしいので、な」
「それならボクも折ってくればよかったですよぉ」
残念そうにいいながらも、人々の健康を願う短冊を吊るす夜野に、与市は懐から一枚の折り紙を差し出す。
小さな笹は元よりも沢山の願いと思いを抱え、その穂先を垂れる。
やがて遠い空に、星とはちがうヘリオンのきらめきが近づいてくるのを、ケルベロス達は見あげる。
「あの星のどれか一つくらいは、人の願いをかなえてくれると信じたいですね」
「一つといわず、みんなの願いが無事叶うように、祈らないとね?」
オウガメタルを気遣うように撫でながら、笑うアーティアの言葉に、赤煙は苦笑を浮かべ、周りの仲間達と同じ満天の星空を見上げる。
願いが叶うように、思いを乗せて。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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