七夕モザイク落とし作戦~世界平和の元に

作者:大府安

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

 夜、教会が併設されている小学校。教室の隅の葉竹には、生徒たちが作成した短冊が飾られている。
 生徒たちの願いは、スポーツ選手、お嫁さんになりたい、お金持ちになりたいと様々。その中でもネタか本気か、『世界平和!』と書かれた短冊が複数ある。
「その願い……聞き届けましょう……!」
 校庭にいつのまにかあったドリームイーターの卵にヒビが入り、中から女性の声が聞こえてくる。
 卵が砕け散り、中から現れたのは頭巾をかぶった美しいシスター。だが全長3メートル、心はモザイク化して露出しており、モザイク部分に無数の短冊が突き刺さっている。
「星に願いを……」
 ドリームイーターは瞳を閉じ、夜空へ祈りを捧げる。モザイク落としが完遂され、皆がドリームイーターとなった世界。
 ドリームイーターにとっての、歪んだ世界平和を実現するために。

 衣鎧・レナ(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0217)は鬼気迫った表情でブリーフィングを開始した。
「状況を説明するわ。ドリームイーターが七夕を利用した大規模作戦を行うことが判明したの。この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さん他、多数のケルベロスが予測して調査してくれた事で事前に知る事ができたわ。
 どうやらドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているようね。モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下し、大量のドリームイーターが出現して日本中が大混乱に陥るわ。
 敵は残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしているの。
 そのため七夕の願いから生まれたドリームイーターは、出現してから7分間で自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換される。
 皆はドリームイーターの出現地点に向かい、7分以内にドリームイーターを撃破。これが、今回の任務内容よ」
 スクリーンの映像には予知されたシスターの姿をしたドリームイーターと、小学校の様子が映し出される。
「場所は夜の小学校の校庭。天候は晴れ。今回のドリームイーターは、世界平和の願いから生まれたようね。教会が併設している小学校、その生徒の願いであるからか、シスターの姿をしているわ。
 気をつけなきゃいけない攻撃は、ドリームイーターが祈るようにして行う、『ヘイワノネガイ』という攻撃ね。全身の輝きと共に心臓からモザイクを飛ばし、命中した相手の動きを奪うわ。まったく、人を傷つけておいて、なにが平和なのかしら。他にもモザイクが牙と化して襲い掛かってくる近距離攻撃『アラソイヲナクシテ』と、『バンブツノスクイ』という自己回復をしてくるわ。気を付けてね」
 最後にレナは、冷静に言葉を選びながら、声色に怒りの感情を滲み込ませる。
「七夕の純粋な夢を利用するなんて……許しておけない。今回の事件の完全阻止に成功すれば、モザイクの卵による事件は発生しなくなるわ。
 事件の元凶を一つ根絶する、またとない機会よ。皆頑張ってきてっ。世界に、本当の平和をもたらしましょう!」


参加者
東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)
セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
シグルーン・ゲイルドリヴル(ソウェイルの妖精・e24695)
フィマリア・フィーネス(ウィッチドクター・e28502)

■リプレイ

 満点の星空の元、学校の校庭で一人目をつむり、空へ祈りを捧げる美しいシスター。
 ケルベロス達8人が到着すると、ドリームイーターはゆっくりと瞳を開けた。
「すべてを夢に変えて……! さあ、平和の願いを……!」
「ドリームイーター、てめーの願いにゃ重みが無いぜ」
 セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)が言葉で静寂を切り裂く。
「正義の味方、竜殺剣のセラス参上! 世界の平和は俺が守るぜ!」
 ヒーローのように剣を構えてポージングするセラスの元気一杯の声と真っすぐな意思が、ケルベロス達8人の空気を明るくした。7分の時間制限、ケルベロス達は即座に武装を展開し、両手を広げたシスターへ突撃する。
 東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)は走りながら浮かない顔をしていた。
 世界平和。綿菓子は人間が持つ醜さを知っている。デウスエクスを倒しきっても人は争う事をやめるのか自信がないし、一人本気で悩む事もある。
(「ドリームイーターだけの世界なら、人はすべからく幸福に生きることが出来るかもしれない。そんなの誰にも分からないから、あなたの望んだ平和を否定はしない」)
 綿菓子がそう思う目の前で、ダニエラ・ダールグリュン(孤影・e03661)が誰よりも前に出る。ダニエラはシールドを構え、ドリームイーターが飛ばしてきた『ヘイワノネガイ』を防御する。
「ダメージコントロールは任せろっ。削りは頼んだぞ、皆!」
「ああ! 相打ち、捨て身上等! いけいけゴーゴー、ガンガンいこうぜ! とにかく攻撃あるのみだぜ!」
 攻撃に押されて足を踏ん張るダニエラの左右を、剣に炎を纏わせるセラス、顔を振って表情を引き締めた綿菓子が駆け抜ける。
(「ただ、わたがしが想う平和とカタチが違うから」)
「こいつが俺の『平和の願い』だ!」
 ルーンアックスを構えた綿菓子と竜殺剣ラグナブレイズを振り上げたセラスが、ドリームイーター目がけて飛び上がる。
「それだけの理由であなたを殺すわ」
 綿菓子の迷いを失くしたルーンディバイド、そして、
「全部纏めて焼き尽くす! アビスフェニックス!!」
 セラスの曇りなき純粋正義の炎の斬撃。二つの幼き戦士の斬撃が、ドリームイーターを大きく後退させる。
「……何故争うのですか……? 皆に平和を……!」
 それでも笑みを絶やさず問いかけてくるドリームイーターへ、追い付いたダニエラは下に構えた剣を振り上げる。
(「願いも歪められればこうなるか。本来なら、言葉通りのたっとい願いだったろうにな」)
 ダニエラはそんな心情を感じさせない集中した表情をしている。
 攻撃を受けたドリームイーターは、滑るように校庭を移動し始めた。
 だが、シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)は、ライドキャリバー『ヨタロー』に乗って爆走、夜の小学校を駆け抜けドリームイーターに追いすがる。
「あなたたちの思い通りにはさせません。必ず撃滅して差し上げましょう! このシュテルン(星)の名にかけて! はぁあ!!」
 シュテルンはヨタローから大きくジャンプし、勢いのままスターゲイザーの飛び蹴りをドリームイーターへ炸裂させる。ヨタローも真っすぐにドリームイーターの足を轢いて駆け抜ける。
(「久しぶりの依頼だ。肩慣らしにはちょうどいい」)
 シュテルンの攻撃で足が止まったドリームイーターへ、コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)はファミリアロッドを小動物の姿に戻し、魔力を籠めて狙いをつける。過程で、ドリームイーターと目が合った。
「どうか、世界に平和をもたらすために……!」
「そうだな。お前をさっさと始末して、世界平和に貢献してやるとしよう」
 コクヨウは落ち着き払った様子でファミリアシュートを命中させ、さらに敵の足を重くした。着弾を確認するとコクヨウは横に視線をずらし、目まぐるしく状況が変わる戦場に気負っている様子のシグルーン・ゲイルドリヴル(ソウェイルの妖精・e24695)を気にしている。
「折角の七夕の日だっていうのに、無粋な連中よねぇ」
 少し距離が離れたところではフィマリア・フィーネス(ウィッチドクター・e28502)がメタリックバーストを前衛に付与。隣に魔人降臨で自己強化する淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)がいる。
「ああ……! 一度止めたモザイク落しをもう一度やろうっていっても、そうはさせない! 何度企もうが、何度だって止めてやる!」
 死狼の全身に文様が浮かび上がり、目は夜闇の中金色に光輝く。死狼の心から湧き出る感情に呼応するかのように。
「オレは自分を抑えない……この力、解き放つ!」
 手元のブラックスライムを槍の形に変え、一気にドリームイータ―へ駆け出す死狼。フィマリアは仲間の状況に気を配りながらも、死狼の背中を見てほほ笑まずにはいられなかった。経営する孤児院にも彼ぐらいの子供はいるが、あの背中はまさしく平和を守ろうとするケルベロス。信頼できる仲間に相違ない。
 シグルーンはドリームイーターの周りで戦い続ける前衛の位置を、慎重に見計らっている。
(「初依頼……この戦いにわらわの今後がかかっておるのじゃ! わらわのルーンは勝利のルーン。絶対に勝ってみせるのじゃ!」) 
「い、今じゃ!」
 シグルーンが手元の爆破スイッチを押し、前衛たちの背後でブレイブマインが炸裂する。援護を受けたセラス、シュテルン等が雄々しく叫んで攻勢を強めた。
 うまくいったと目を輝かせてコクヨウを見るシグルーンに対し、コクヨウは「集中しろ」と言わんばかりに首で前へしゃくる。
 序盤はケルベロス優勢で始まったが、本番はここからだった。


「バンブツノスクイを……!」
「くっまた回復した!? 時間が……それでもっ!」
「構わねえ! 押せ押せだオラぁ! 願いの力、思い知れ!」
 綿菓子が歯噛みしながらも斧で薙ぎ、セラスが気勢を保ったままズタズタに切り裂く。ドリームイーターはダメージこそ負っているものの、痛みや悲しみといった表情を全く出さない。微笑んだまま自己回復と攻撃を織り交ぜ、パラライズと武器封じをケルベロス達にばら撒く。
「また攻撃が来る! シグルーン、シュテルンを庇ってくれ!」
「わかったのじゃ!」
(「猫師匠にいいところを見せるのじゃ!」)
 ダニエラの叫びへすぐにシグルーンが返答。ダニエラはジョブレスオーラとルナティックヒールを順次前衛のケルベロスにかけていたが、また攻撃にシフトしようと惨殺ナイフを握りなおす。
(「このドリームイーター、こちらの戦法を読んで露骨に時間稼ぎに来たな……」)
「なかなか……強敵と言わざるをえないか!」
 ダニエラが攻撃に切り替える中、ドリームイーターはモザイクの牙をシュテルンへ向ける。シグルーンはシュテルンを庇おうと駈けていたが、
「あっ間に合わな……!」
 シグルーン、最初の位置取りは悪くなかったが、ドリームイーターも移動することを忘れていた。突如ぶれて移動したドリームイーターの間に入れず、シュテルンへモザイクが。
「大丈夫だ!」
 シュテルンがそう叫ぶと同時に、前にヨタローが急停止して身代わりになった。シュテルンは相棒を今だけは気に止めず、自分ができる最大攻撃の準備にかかる。シュテルンは高揚していた。
(「……しかし、いいですねオウガメタル。私の意志に呼応して最適な戦闘形態を取ってくれる。実に良く馴染む。鋼の絆(フルメタルネットワーク)により、オウガメタル(ルミナ)とのアクセスもばっちり」)
「ライジングモード起動、出力全開!」
(「今宵の拳は、ちょっとやそっとじゃ止まりそうにないわ!」)
「あなたは、世界平和を望まないのですか?」
 ケルベロスの猛攻を避けたドリームイーターが、シュテルンへ近づいてくる。
(「あと色々気に入らないのですよ! その世界ってのが、星に願うっていうのも!」)
 シュテルンの従姉弟でライバルの名前が『世界』ということなのだが、この心情を理解できるのは今はシュテルンしかいない。
 シュテルンは様々な感情を込めながら、流星突拳連打(スターオラオラッシュ)をドリームイーターへ放つ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……オラァ!!!」
 連続する衝撃で殴り飛ばされたドリームイーターが、目を見開いた。笑顔も引きつり始めている。
「私は……世界平和のために……!」
「貴様の存在意義は満たしてやる。安心して死ぬがいい……影すら見せん。影すら残さん」
 姿の見えないコクヨウの声に、ドリームイーターはあたりを見回した。だが数瞬の間ステルス迷彩で姿を消すコクヨウの『絶影(ゼツエイ)』、既にドリームイーターの足元に入り込んでいる。
(「お前らデウスエクスどもを皆殺しにすればとりあえず平和にはなる。その日まで俺は止まらない」)
 姿を現したコクヨウは、下からドリームイーターの顎を打ち抜いて跳ね上げる。
「ぐひっ……まだ、まだ、まだ」
 のけぞったドリームイーターの心臓からモザイクが漏れ、笑顔が消えた。ドリームイーターはケルベロス達からひたすらに距離を取り始める。コクヨウが舌打ちする。
「ちっこれでも足りないか……だがあと一息だっ」
「ええ、もう回復はいらないわね」
 フィマリアが呼応した。魔導書を閉じ、先端に錘(おもり)が付いたワイヤーを携えてドリームイーターへ突貫する。
「ちょっと大人しくしててもらうわよ」
「んっ……!」
 フィマリアから放たれたワイヤーバインドで縛られたドリームイーターは、身をよじり声を漏らす。フィマリアは妖しく微笑み、ぺろりと自身の唇を舐めた。
「縛られるのは好きかしら」
 ドリームイーターの足が止まった。ドリームイーターへケルベロス達の攻撃が殺到する。
「ヘイワノ……タメニ!!」
「!? くっモザイクかっ!?」
 ケルベロスチェインを構え攻撃を加えようとしていた死狼へモザイクが飛ぶ。
「今度は、間に合ったのじゃ……!!」
 シグルーンが死狼の前に入り、ディフェンダーとしての責務を全うする。シグルーンの顔は苦悶に歪んだが、周りを心配させまいとすぐに笑みを浮かべる。
「ドウシテ、ヘイワノネガイヲ、ヒテイスルノ……? ミンナ、ユメニ、カワレバ」
「生憎じゃがわらわはこの一個しかない命というのを気に入っておるのでな!」
「ミンナヲ、ドリームイーター二シテ……ヘイワヲ!!」
「それが平和への願い? ふざけるな! ただ、力で相手を抑え込もうとしているだけじゃないか!」
 死狼のケルベロスチェインが、ドリームイーターの首にまとわりつく。ドリームイーターはまた祈りを捧げる姿勢。死狼は止まらない。
(「戦うことが罪なら、僕はその罪を背負ったまま戦ってやる。万物の救いなんて偉そうなことは言えない。だけど、僕にだって夢を守ることは出来るんだ!」)
「持てる力の総てをつぎ込む……!」
 死狼がケルベロスチェインに魔力を込め、ドリームイーターの首を締め上げながら、一気に鎖を引いて地面へ引き落とす。
「砕け散れ、モザイク!」
「ヘイワっぶっ!?」
 勢いよく顔面から地面に落ちたドリームイーターは、潰れたような声を出して少し痙攣する。
 次第に全身がモザイクに覆われていき、体の形を保てずに拡散。モザイクは天に上ることなく、校庭の地面へ消えた。


 校庭に立つ8人のケルベロスの頭上には、澄み切った夜空。光をちりばめた七夕の天の川。 
「今日は晴れていて良く星が見えるわね」
 シュテルンがヨタローのハンドルを撫でながら、平時のゴスロリ服に戻る。ダニエラも汚れた服に顔をしかめながら武器をしまい、夜空を見上げる。
「星も夜の森では珍しくない。街は明かりが多すぎる……だが」
 ダニエラの表情も綻んでいる。シュテルンも釣られて笑みをこぼす。
「いい七夕日和だ」
「ふふっ……やれやれ、だわ」
 硬い表情を解いたシュテルンとダニエラとは裏腹に、シグルーンは隅っこでうずくまってうじうじとしていた。
「……うう、これじゃ……ダメなのじゃ……」
 シグルーンの脳裏には、モザイクからシュテルンを庇えなかった光景が焼き付いている。防御役の失態で攻撃役が倒れれば、時間制限任務では命取りになる。シグルーンはそれがわかっていたから、自分を責めていた。
 理由はもう一つある。コクヨウと約束していた、戦闘で足を引っ張らなかったら保護者になってくれると。
 シグルーンへ足音が近づいてくる。
「立てるか?」
 シグルーンははっとして顔を上げた。聞き間違うはずがない、コクヨウの渋みのある呼びかけ。
「なんて顔してやがる。たくっ……変わってねえな」
 シグルーンはごしごしと目元の涙を拭った。だが、表情は変わらずしょんぼりとしている。
「わ、わらわは……」
「見ろよ」
 コクヨウが横を向き、シグルーンも見る。シュテルンがスカートのすそを持って2人へ優雅に礼をし、ダニエラも笑顔で一度うなずく。
「いいガッツだったぜ! シグルーン!!」
 セラスがビシッと親指を立てる。コクヨウが言葉を続ける。
「とはいえ、まだまだ粗削りで放っておけん。しばらく鍛えてやる」
「それって……! こっ……これからよろしくお願いするのじゃ、猫師匠!」
「……猫は余計だ」
 ケルベロス達の中でセラスだけは、まだ武装を解かずに背の翼を広げた。
「じゃ! 俺は他に飛び散ったモザイクがないか調査に行ってくるぜ! こんだけ大規模な作戦だからな! まだあるかもしれねえ! 行ってくるぜえ!!」
「無理はしないでねーっ」
「おうよ!」
 フィマリアに見送られ、セラスは再び空へ舞い上がる。
(「それじゃあ、改めて……」)
 綿菓子が夜空を見て微笑み、懐から短冊を取り出す。書き綴る願いは……。
「何書いてるんだ?」
「へっ!?」
 死狼が不思議そうな表情で、綿菓子の短冊に視線を向ける。短冊に書かれているのは『世界が平和になりますように』。
「まあほら、わたがしは平和主義者というヤツだもの。当たり前の事だわ」
「そっか」
 綿菓子は驚いた表情を慌ててクールに変え、当然といったていで宣言する。
「願い事、か。本当にこれといった願い事なんてないや」
 死狼の瞳からは鋭さが消え、無意識の憂いが浮かんでいる。
「別にいいんじゃない? 無理やり見つけなくても……願いってそういうものよ」
 フィマリアが孤児院で『お母さん』と言われている時と同じ雰囲気で、死狼へ微笑みかける。死郎は一度瞬きした。
「いつか、僕も自分の願い事は持てるのかな?」
「ええ……きっと。慌てずに、ね?」
「……」
 会話を聞いていた綿菓子は短冊を軽く握り、空へ祈りを捧げる。ドリームイーターのような歪んだ願いではない。純粋で清廉な、短冊に綴られた願いと同じ祈りを。
 祈りを捧げられた夜空を泳ぐセラスの翼は、七夕だけでなく、世界全ての守護者の象徴のようだった。

作者:大府安 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。