七夕モザイク落とし作戦～空に煌めく数多の願いを

■リプレイ

●みんなの夢
　ショッピングモールを客を装って歩くのは早乙女・スピカ（星屑協奏曲・e12638）。広場の前にあるＣＤショップの陳列棚を見てふっと息を吐く。
　キラキラとした夢の空間。ペンライトの海。アイドルとオーディエンスの一体感。
「コンサートに行きたいってささやかで素敵な願いを利用するなんて……」
　スピカはこぶしをぎゅっと握って、広場の短冊を見た。
　彼女から少し離れた場所にいるのは黄瀬川・夜藍（夜を渡る瑠璃・e27905）と赤堀・いちご（ないしょのお嬢様・e00103）。
「アイドルのコンサートか。僕も似たようなことはやってるけど、ね？」
　夜藍は穏和な口調で、しかし皮肉っぽく言う。
「私も……今はまだですけれども、いつかは単独でできるように、そして行きたいって思ってもらえる歌手になりたいです。ですから」
　例え自分のファンでなくとも、純粋な願いを利用するのは許せない。
　夜藍もいちごも芸の世界に身を置くものとして思うところはあるようで。じっとドリームイーターの出現を待つ。
　スピカとは逆方面の店の前で待機している御崎・勇護（蒼き虎哮の拳士・e00655）はじっと広場を見る。
「なんともはた迷惑な話だし碌でもない。やれやれ……」
　短期決戦で仕留めなければ大変なことになるだろう。勇護は気合を入れ直して広場を監視する。
　勇護の近くには長篠・樹（紋章技工師・e01937）とウィゼ・ヘキシリエン（髭っ娘ドワーフ・e05426）。ウィゼは笹へクリスマスツリーに飾る綿を飾りつけていた。
「それで、何か効果があるのか？」
「綿は雲じゃ。天の川を覆う雲のようじゃろう？　これでドリームイーターが弱体化すればよいのじゃが」
　付け髭を撫でながらウィゼは自信満々に答える。樹はそうか、とだけ返して眼鏡のつるを押し上げた。
「ふむふむ、なるほどー。七夕ってみんなの願いが一挙に集まるイベントって感じなんだね」
　スマホで七夕の何たるかを検索した最上川・モエ（人生は辛く短い・e28882）は感心したように声を上げた。
　真剣に願いを託した人々のためにも短冊をドリームイーターの餌にさせるわけにはいかない。
　離れた場所から広場を見る面々。すると七夕飾りの上にモザイクが出現した。
　それこそまさにドリームイーター。その体内にあるのはコンサートに行きたいという切実な願いの短冊ばかり。
　外見は髪形から若い女性であると推測ができる。全身がモザイクであることと全長は３ｍほどのため、実際のところはよくわからない。
　ここから７分後。ドリームイーターは消滅してしまう。
「Attends！　そこまでだ！」
　勇護が叫びつつ広場へダッシュをするのを皮切りに、皆が広場へ集う。
　紅音・魅霧（ナンデモイーター・e26487）も駆け付け、戦いの火蓋は切って落とされた。

●制限下の戦い
　あと７分。
　ドリームイーターは振り被ってモエへと星型と丸型のペンライトをまとめて投げつけた。しかしそれは壁となるように立ちはだかった勇護が庇って受ける。
「うわっ、何か投げてきたけどあれ何！」
　モエが言えばスピカは一歩踏み出して答える。
「ペンライトです！　ですが、攻撃に使うものではありません！」
　タイムリミット付きとは厄介ですね、とこぼしつつスピカのペトリフィケイションがドリームイーターへと直撃した。
　光線を喰らって少し仰け反るドリームイーターに続けて直撃するのはいちごの放ったトラウマボール。
　黒い魔力弾の後ろに隠れるように接近したボクスドラゴンのアリカが箱ごと体当たりをする。
　重ねるように樹が距離を詰めて破鎧衝を喰らわせる。高速演算で見抜いた弱点に脚蹴りを入れれば、怯んだところに魅霧が鬼神手甲で殴り付けた。
　そこへ勇護がローラーダッシュの摩擦を利用した激しい蹴りを放つ。グラインドファイアによって一瞬だけ着火したが、すぐに消えてしまった。
「勇護おにいはまだ耐えられるかのう？」
　ウィゼは治癒力を高めてから回復させるようで攻撃直後の勇護に声を掛けた。うなずくのを見届け、アームドフォートの技術を応用した携帯用医療設備（メディカルシステム）で自身の癒しの力を向上させた。
「若者ではないけれど、一夜限りの夢をあげよう。――さあ、ヘル・ブロッケンの世紀の大奇術出張サービス、間もなく開演だ！」
　夜藍は朗々と宣言した。そして鎖をドリームイーターへ見せつけるように掲げると、精神操作によって放つ。それはドリームイーターをぎりぎりと締め上げた。
　良い標的となったドリームイーターへ向けてモエが手裏剣を投げた。毒手裏剣は深々とドリームイーターへ突き刺さる。
　鎖に絞められ手裏剣が刺さったドリームイーターは力任せに鎖を引きちぎり、刺さった手裏剣を引き抜いて投げ捨てた。そしてバラ型や球体型のペンライトを複数持つと、狙いを定めるはウィゼ。
「そんな物でやらせるか！」
　ペンライトとウィゼの間に入る勇護。数本は叩き落とすが、落とせなかった分は喰らってしまう。
「今回は攻めていきますよ！」
　スピカはペンライトを投げて隙ができたドリームイーターの懐に潜り込み、超音速の稲妻突きを繰り出した。
　バランスを崩してよろけるドリームイーターを襲うのは、いちごが放ったケイオスランサー。鋭利な槍のように変形したブラックスライムはドリームイーターを刺し貫く。
　槍が消えれば樹がダブルクレセントファングで攻撃をする。三日月の軌跡を描く超高速の二連サマーソルトキックはドリームイーターの体力を大きく削ぐ。
　ドリームイーターが翻弄されている間にウィゼが勇護へとウィッチオペレーションを施して、ペンライトの投擲によって与えられた傷を癒した。
　敵が体勢を立て直すよりわずかに早く、魅霧が旋刃脚で蹴り付けた。
「強襲槌撃脚！」
　勇護は宙返りをし、スターゲイザーの要領でその勢いのまま肩口へと踵落としを見舞わせた。
　肩口へ攻撃を重ねる夜藍。興行に利用する球さながらの黒い魔力弾を肩口へと撃ち込んだ。
　すかさずモエは螺旋の軌跡を描く手裏剣を放つ。螺旋力を纏ったそれはドリームイーターのモザイクを抉るように突き刺さる。

●タイムリミット
　あと５分。
　ドリームイーターは手裏剣が刺さったまま、ペンライトを取り出した。
　それは先程までとは形が異なる、すらっとしたもの。強いて言えば生姜のよう。
「……あれが心を抉る鍵相当の攻撃みたいだね」
　動きを観察していた夜藍が見抜くのとスピカへ向けてそれを突き立てようとするのはほぼ同時。だがそれはスピカを襲うことはなく、ぴょこんと庇うように飛び込んだアリカを斬る。
　スピカはルーンを発動させて振り被ると光り輝く重力と共に振り下ろし、ペンライトを持つ腕を斬り落とした。
　悲鳴のようなものを発するドリームイーター。樹は破鎧衝で演算によって導き出した構造的弱点へと確実に蹴りを撃ち込んだ。
　よろりとふらつくドリームイーターを襲うアリカのブレスといちごのトラウマボール。
　連撃を喰らうドリームイーターをさらに追撃するのは魅霧の魍魎吹雪。
「蠢き彷徨う亡者共、我が意のままに従属し、その冷たき腕で敵を呪え！」
　己の内に捕らえ溜め込んできたエクスデウスの怨念を解き放ち、呪いを纏った吹雪はドリームイーターを包み込む。
　今のうちとばかりにウィゼは前衛を護る小型治療無人機を射出、展開した。
　ドローンに護られつつ、勇護はナイフを煌めかせる。刀身に映るはドリームイーターにとっての悪夢。ドリームイーターは腕を斬り落とされた時とはまた違う叫び声をあげる。
「――ヘル・ブロッケンの世紀の大奇術、今回はゲストに頑張って貰おうかな？」
　夜藍はぱちん、と指を鳴らして透明な棺桶を模した箱をドリームイーターの背後に形成した。中に蠢く無数の荊はドリームイーターを絡め取り、閉じ込める。しかし『ゲスト』であるところのドリームイーターに無理はさせられない。脱出不能と判ればすぐに解放されるが、荊の棘に貫かれ続ける痛みは消えることがない。
　これが奇術師である黄瀬川・夜藍の大奇術、荊姫（ドルンレースヒェン）。
　棘の激痛に悶えるドリームイーターは良い的だった。モエは傷を目掛けて毒手裏剣を投げつけた。
　毒を塗り込むにモザイクを切り裂く手裏剣。それが地に落ちるとドリームイーターはそこを補修するようにモザイクを広げた。傷がモザイクに浸食されて塞がれていく。
　そこへスピカがブラックスライムを槍の如く伸ばして変形させて未補修部分のモザイクを貫いた。
　同じくいちごもブラックスライムを捕食モードに変形させるとドリームイーターを丸呑みにした。
　この隙にアリカを回復させようとしているウィゼへいちごは声を掛ける。
「アリカさんの回復はいりません」
「わかったのじゃ」
　ウィゼはモザイクを分解し、ヒール力を低下させるため対デウスエクス用の殺神ウイルスが入ったカプセルを投射した。それはモザイクに飲み込まれ、そしてモザイクを浸食していく。
「悪いな、これはただの月ではなく――双月なんだ」
　樹はダブルクレセントファングでウイルスに浸食されているモザイクを蹴り付ける。
　二連のサマーソルトを喰らったドリームイーターを捉える光線。
　魅霧の放ったペトリフィケイションに重ねるように勇護は炎を纏った激しい蹴りを何度も入れる。
　ドリームイーターはまだ解放されない。夜藍は攻性植物を蔓触手形態へ変形させると絡め取り、締め上げる。
　ぎりぎりと締め上げられるドリームイーターへモエの螺旋手裏剣が刺さった。それは螺旋の軌跡を描き、絡みつく蔓と一緒にモザイクを斬り刻む。
　あと３分。
　ドリームイーターは再度モザイクで補修をするが、治りは遅い。
　スピカはそんなドリームイーターをルーンディバイドで叩き斬る。
　肩口に落とされた斧はそのまま斬り落として、刃は床に突き刺さった。
　断面目掛けて放たれるのはいちごのトラウマボール。黒色の魔力弾が撃ち込まれ、アリカもぼわりとブレスを吐いて支援する。
　ブレスが消えれば高く飛び上がったウィゼの姿。スターゲイザーで蹴りつけて機動力を奪う。
　棒立ちのドリームイーターへと、樹は左手で引き寄せて漆黒を纏った右手で粉砕するセイクリッドダークネスで大ダメージを与えた。
　ふらりとよろけるドリームイーターを魅霧の旋刃脚が捉える。
　恐らく、倒しきるまであと少し。
　勇護はスターゲイザーを喰らわせた。流星の煌めきと重力を宿したそれはドリームイーターの動きを止めるには十分なものであり。
　攻性植物をまるでハエトリグサのように変形させた夜藍は、動きを止めたドリームイーターへと向ける。攻性植物はかじりつくようにそれを喰らう。
「穿て、クロイカヅチ！」
　モエは漆黒の雷を纏った飛苦無をドリームイーターへと投擲した。
　それをまともに受け、痺れたように痙攣を起こしたかと思えばドリームイーターは地に伏せる。
　しばらく小刻みに震えていたが、それがおさまればその姿はすっと消えていく。
　残り２分を切ったところで、ケルベロス達は七夕に生みだされたドリームイーターを無事に倒しきる事ができた。

●七夕に願いを
　戦闘が終わり、損傷した箇所を直す面々。
　夜藍は損傷の酷い箇所がないかどうかをチェックしている。だが幸いにそのような場所は見当たらず、夜藍はほっとしたように小さく笑みを浮かべた。
　広場の勇護はウィゼと魅霧、樹とともに原状へと戻すべく片付けをしている。
　あまり損傷がなかったこともあって作業自体はすぐに終わりそうだが、勇護は他の場所に出現したモザイクの卵を気に掛ける。
「きっと上手くいく」
　勇護の心を見透かしたかのように樹は言い、ちぎれた短冊を拾い上げた。幻想化覚悟で直せば、短冊には星が散りばめられたものへと変化して。
　樹がそれを笹へと付け直すとモエは安堵したようにそれを見る。
「わたしのお願いごとは……健康で過ごせますように、かなあ」
　そう言うとモエは青い短冊をそっと笹に飾り付けた。
　同じく短冊に穏やかな日々が続くようにと願いを記したスピカはそれを飾る。
　飾り付けたところで視界に飛び込んでくるのはいちごの姿。
「いつか私の歌も、聴きたいって思ってもらえたら――」
「一緒に、ここでコンサート的なものをやってみませんか？」
　驚いたように振り返るいちごにスピカは笑顔を向ける。ピアノで伴奏しますよ、と付け加えればいちごはこくりとうなずく。
　そして鳴り響くピアノと歌声。
　これによって、閑散としていた広場は再び活気を取り戻すこととなる。

作者：香住あおい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。