七夕モザイク落とし作戦～黒歴史モザイク

■リプレイ

●自宅警備員居すぎだろ
　中学生の夢見がちな七夕のお願いごと――端的に言えば中二病の発露の結晶であるドリームイーターを、八人のケルベロスは見上げていた。内、五人が自宅警備員。やはり中二病的なものは自宅警備員を呼び寄せてしまうのだろうか。もはや中学校が『自宅』である。
「ハーレムだとぉ……？　中坊の分際でまぁだ早いんだよ！　その夢ぶち壊してぇぇ！」
　爆破スイッチを握りしめ、アスカ・アサッテカ（いつやるの・e28015）はがなる。
　妄想ですらリア充を許さないあたりが引き篭もり自宅警備員である。
「よろしい、二十一にもなって厨二病から脱出できないと専ら評判のこのボクが、お相手しましょう」
　全然自慢できないことを言いながら、八王子・東西南北（ヒキコモゴミニート・e00658）はガトリングガンの砲身を敵に向けた。
「しかし、モザイク落とし作戦もこんな夢取り込んで。おなか壊さないのかね……？」
　と首を傾げる熊谷・まりる（地獄の墓守・e04843）。
「……まァ、うん」
　のろりと刀を抜き、ダレン・カーティス（自堕落系刀剣士・e01435）は抑揚のない声でまとめた。
「思春期な男子は突飛な行動や妄想に奔るトコあるからね、仕方ないね。そうやって皆大人になって行くんだよ」
「あー、うん……。お年頃だしな、そういう時期あるもんな……」
　バナナを縋るように握った難駄芭・ナナコ（バナナだバナナを食べるんだ・e02032）は、ドリームイーターを直視できないらしく、チラチラと敵を見ている。自分の過去を思い出すともうなんかもう……という状態らしい。
（「こっちの黒歴史暴露される前にブチのめさねぇとな……！」）
　それはそれとして、このドリームイーターは七分以内に倒さねば、モザイク落とし作戦が進んでしまう。
「何にせよ、速攻でかたをつけなくちゃ」
　神崎・ララ（闇の森の歌うたい・e03471）はそう言うと、愛用の白いバイオレンスギターを構えた。
　パネル状のドリームイーターが動く。
　敵が突き出した夢の鍵は、ペテス・アイティオ（燻製・e01194）の胸を正確に貫いた。
　だが不思議と出血はしない。代わりに、ペテスは身も世もなく、泣き叫ぶ。
「黒歴史やめてですよ！？」
　ペテスはウガアアアと可愛い女の子とは思えない絶叫を上げながら、グラウンドをごんごろごんごろ転がり始めた。
「いくらデウスエクスだって、三日前に書いたポエムを音読される気持ちわからないんですか！？　ポエムを勝手にネットとかで晒された人の気持ち分からないですか？！」
　やめてー！　積み荷（ネタ帳とＤドライブ）を燃やしてー！　などと悲鳴を上げるペテス。
「……きついぜ……」
　ナナコは怖気を振るった。自分は後衛にいるので、あの黒歴史再臨の技をうけることはないが、恐るべし黒歴史の記憶による精神的ダメージ。
　ナナコは慌ててバナナを両手に握った。
「テメェ、アタイの黒歴史バラまいたらブッ潰してやんからなぁ！　（消滅される前に早ぇところブッ倒さねぇとな！）」
　逆ゥー！！
　焦ったあまり、ナナコは本音と建前をあべこべにしてしまいつつ、バナナの香りかぐわしきトロピカルな連撃を見舞う。飽くなきナナコのバナナへの愛が、ドリームイーターを倒すと信じて……！　ハーレムといえばバナナに囲まれること！　難駄芭・ナナコ先生の次のターンの攻撃にご期待下さい！
「ハーレム的なヤツは別に異世界に行かなくても頑張れば案外イケるかもしれないぜ。異世界と言わずに先ずはコッチで頑張ってみろ、少年」
　と少年の夢にコメントしながら、ダレンは空をまとう刃でバナナが突き刺さったパネルの穴を切り広げる。
「尚、おにーさんは一切の責任を負いません」
　とダレンは大人な締めをしつつ、格好良く納刀。
　ペテスの精神をなだめようとテレビウムの小金井が、彼女の前で癒やしの動画を流している。
　小金井の活躍を横目に、東西南北は一歩足を踏み出す。
「異世界俺ツエーハーレム？」
　もう一歩。
「笑止！　ちゃんちゃらおかしいですよ」
　そしてもう一歩。
「リアルだって十分ギャルゲー！　まわりを見渡せば有翼有角有尻尾の美幼女美少女がうじゃうじゃいるじゃないか！　そんな気持ちを込めて……これで、葬ってあげますよ！」
　ドガガガガガガガガ！！！　とすさまじい轟音と共に、ガトリングガンが回転し大量の爆炎を伴って弾雨がドリームイーターを撃ちぬく。
「はっはー、そう、ボクこそは新世界の神になる男。八王子東西南北だ！！」
　とキメた東西南北の背中に、ドワーフの小さな足が容赦なく乗る。
「ぎゅむっ」
「ちょいなっ！」
　見た目は幼女、実年齢は二十五歳と大人な維天・乃恵美（奉雅駆の戦巫女・e02168）が、東西南北を踏み台に空中に飛び上がり、高速回転を伴って敵に突進する。
「異界で活躍ですか、若いですねえ。でもね、この地球も十分『異界』ですけどね！　結局本願はモテたいだけでしょう！？」
　大人なコメントで辛辣にドリームイーターをバッサリしている乃恵美に、ララは真面目に頷きつつ「紅瞳覚醒」を奏でる。
「異世界や俺TUEEEな要素は、つまりハーレム形成に説得力を持たせるための理由づけってところかしら」
「異世界ってなにがいいんでしょう……？　水道とか電気とか食べ物とかトイレとか、大変なことばっかりな気がしますけど……」
　夢のないことを言いつつ、ようやく黒歴史のトラウマから逃れでたペテスは、
「ていうか異世界だろうと現世だろうと巨乳は滅びろです」
　と絶対零度の声で言いつつ、時空凍結弾で時空も凍らせた。
　その凍った時間をまりるが猫ぱんちでドリームイーターごと粉砕する。
「ボクは知った！　うっかり異世界行ったってモテるわけねーだろぉ！！　所詮自身のスペックは変わらないのだから今と何も変わる事はないんだよ！　ああ！！　かつて逆ハーレムを夢見ていたあの頃の想いが蘇る！！　ボクは薄い本だけで十分なんだよぉぉ！！」
　むっちゃ早口で言いながら、アスカが地雷をばらまき一斉に起爆させた。轟音が響き渡った。
　そのもうもうと立ち上る煙を縫って、ダレンめがけてドリームイーターはハーレムの妄想モザイクを射出。
　だが伊達男はモザイクを体に貼り付けてもなお余裕の表情で、
「ワリィな！　度々美人なおねーさんと付き合いのある俺には効かな……」
　ビクン。
　ダレンの瞳からハイライトが消え、代わりにハートマークが宿った。
「うおお！　水着美女軍団が俺を待ってるぜェェェ！！」
　どうしたダレン、何が見えているのダレン。キマっちゃってるのか！　モザイクがガンギマリなんだな！

●歴戦のケルベロスも黒歴史には勝てない
　誰しも黒歴史というものはあるものだ。ケルベロスはドリームイーターが呼び覚ますトラウマに苦戦していた。
　アスカのナノナノ工藤や東西南北のテレビウム小金井が片っ端からキュアしていくも、追いつかない。
「うう、異世界……私は神子姫……私を護る美形の王子様や騎士様達が……あああ、ダメッ……ここは私の世界を癒す歌声で……」
　ララは、うーんうーんと譫言を言いながら、ドリームイーターにヒールをしている。
　ウイングキャットのクストがこれ以上主人が黒歴史催眠で醜態を晒さぬようにと、翼をバッサバッサ羽ばたかせる。むしろ、ララの顔を羽ビンタしている。さながら『しっかりろぉお、寝るな、寝たら死ぬぞぉおお！』状態だが、ここは冬山ではない。中学校のグラウンドである。
「うう、あ……ハッ。ち、違うの！　これはママの形見の少女漫画で！　いえ、乙女ゲームは自分のだけど……でももう卒業したの！　今はリアル恋愛で忙しいから黒歴史消え去っちゃってキュアーッ！！」
　ジャァアーーーンッ！！　中学校のグラウンドに、正気に戻った歌姫の悲鳴と共にギターの弦が震える音が響き渡った。
「若いころは黒歴史なんていくつ作ってもいいんですよ。黒歴史が痛いほど、鮮烈に青春を生きた証になるんです」
　流体金属を鬼の拳に変え、ドリームイーターを殴りつつ、したり顔でペテスは言っているが、さっき血涙流しながら大騒ぎしていたのは棚に上げているようだ。
「若いころの黒歴史ねぇ…………」
　ダレンはふと記憶の開けてはいけない引き出しをうっかり開けてしまった。
　モテたくてギターを始め、過激なロックバンドのライブパフォーマンスよろしく、まだ弾けもしないギターを床に叩きつけて、怒られ嘲笑された記憶……。
「だああああ！　今のナシ！　っていうか今は弾けるからセーフ！　セーフ！」
　攻撃もされていないのに要らぬことを思い出してしまった羞恥と怒りを、敵めがけて電撃をまとう刃を浴びせて八つ当たりする。
　アスカはダレンに真に自由なる者のオーラを与えてあげた。
「皆、モテたいんですねえ。若いですねえ」
　ルーンアックスをぶん回しながら乃恵美は、男子たちを見やってちょっと微笑んだ。

●大人の階段を登るということってどういうことかな
「異世界の妖精の要請により、罷り越した。自分こそが伝説の戦士――新緑から深緑を司る春夏の御使い！　喰らえ、マラカイトピースフルスリープ！」
　黒歴史ノートの記憶を呼び起こされたまりるが、妄言を吐きながらドリームイーターに矢を放った。
「緑色の支援系キャラは女児に人気薄いけど、推したい！」
　なにかメタなことも言っているまりる。
「うう、もう制限時間が近づいてきてしまいましたね……、でも向こうの損傷も激しそうです。全力でいきましょう。――アクセス：エクリプスセレネ！」
　そう言いながらペテスは、等身大スマホをいじってアプリを起動。アプリのプログラムがなんやかんやで――自宅警備員はなんやかんやでいろんな奇跡を起こし過ぎであるが、なんやかんやはなんやかんやである――月のコピーをドリームイーターに叩き落とした。
「そろそろ落ち着いてバナナ食いたいからな。こっちもダブルバナナだぜぇ、ブッ刺さりやがれぇ！」
　バナナ大好きナナコさん、バナナを思わせるゲシュタルトグレイブを両手に持ち、目にも留まらぬ無数の突きを繰り出す。
「行けるもんなら、ボクだって異世界行きてぇよ！！」
　アスカの夢が叶わぬことに対する憤りやそれをピュアに願っちゃう中学生へのいら立ち、当然ながらデウスエクスへのケルベロス的な憤りなどが溜まりに溜まって頂点に達した。
「いつやるかだって……？ そんなの……！　明日か、明後日か……いや、今やるに決まってんでしょー！！！」
　天に向かい、アスカの大絶叫と共に、憤怒が爆発となって発露し、ドリームイーターを砕いた。
　半壊したドリームイーターを、
「ボクはもう子供じゃない。夢見る時間は終わったんです。これからリアルを生きていく。そう、三次元のロリ貧乳が踏んでくれるリアルを……」
　東西南北はバチバチと全身に電気を走らせ、力をためながら、キッと真剣な表情で睨めつけた。シリアスモードのところ申し訳ないが、東西南北の言っていることはかなり残念である。
　先程、彼を踏んだ恵美（見た目は幼女）がすっごく白けた目で見ているが、それもある意味彼にはご褒美であろう。多分。
　こう見えても乃恵美は、今回のパーティで最年長。神社の巫女という職業上、酸いも甘いも噛み分けた姐さんである。広い心で、若人の妄言をスルーするとルーンアックスを太刀と鎧に分解。鎧をまとうと、光の刃を閃かせ、奔る。
「奉雅駆の巫女・乃恵美が推して参ります！　御業よ！　神言に従い、あたしに浄福の剣を！　そして討ち祓え、維天(ソラ)ごと凶星(ヤツ)を！」
　命中度外視の大技のため、かする程度であったが、光はドリームイーターを焦がした。
　そして東西南北の準備が整う。
「ロリ貧乳の理想郷は異世界じゃなくここに在る！！　僕の背骨は避雷針、きたれ臨界／破れ限界！」
　轟く雷鳴！　東西南北の指を発射台に、彼の中で凝縮されていた雷エネルギーが一条の稲妻となってドリームイーターを貫く――爆・散！
　くるり、と東西南北は爆炎をあげるデウスエクスに背を向けた。
「人はいずれ大人になる……踏まれた背中の痛みがその証です」
　フッと格好つけているが、彼の服の背には乃恵美の足型がくっきりついているし、そんないい証でもない。

●見上げれば七夕の夜空、そして生まれる黒歴史
「はふー。なんとか七分以内に倒せましたねえ」
　ペテスはホッと胸をなでおろし、どこから取り出したか二リットルペットボトル烏龍茶をゴキュゴキュ飲み干した。
「はぁぁ、終わった終わった。バナナだ！」
　ナナコもどこから取り出したかバナナを貪っている。彼女のバナナ好きは昔からであり、以前は学校にもバナナバッグを持って行ってはそれでも足りず、発狂してバナナを探しさまよい……。
「やめろおお！　それ以上はやめるんだああ！　なんでデウスエクスに黒歴史暴かれなくて済んだのにわざわざ地の文で暴露する！！」
「何かデウスエクスじゃない奴と戦ってる人がいますねえ」
　メタと戦うナナコを温かい目で見やり、乃恵美は冷えた玄米茶とおむすびを仲間に勧めて回る。
「やー、お疲れ様です。どうです？　玄米茶片手に星見でも」
「そうね、日本の七夕って初めて！」
　茶を受け取り、ララは満天の星空を見上げた。
「七夕って短冊を飾ったり、織姫と彦星の伝説に思いを馳せたり……私もいつか王子様と……」
　目を閉じうっとりしていたが、クストがジトと見上げているのに気づいたララはハッと赤面しながら、慌てて口を押さえた。
「こ、これは黒歴史じゃないわよね？」
　まりるは茶を飲み干すと、星座早見盤を取り出し、天を見上げた。
「せっかくの星空だし……そういえば、星座を守護に持つ戦士達が……って黒歴史追加発生させるな自分！」
　ぼーっと妄想を展開させかけ、まりるはセルフツッコミで妄想をぶった切る。
「異世界俺ツエーハーレムの黒歴史などまっピンクに塗り替えてやります。このサキュバスフェロモンでね！　リアルだってギャルゲーです！」
　と東西南北が拳を握って決意を固めているのを、
「やっぱり女のコにモテたいってのが思春期男子の原動力なワケだ。多少の失敗は経験値だと思って少年には頑張って欲しいぜ」
　とダレンは煙草片手に微笑ましく見守る――が、実はこの二人同い年である。これがリア充と非リア充の差なのだろうか。
「……夢は夢だからこそ楽しいもの。だから薄い本でいいんだよ。この本があるだけでボクは最強になれる！」
　アスカはそう頷くと、再び引き篭もるべく、工藤を引き連れて家路につくのだった。

作者：あき缶	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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