七夕モザイク落とし作戦～天の川に祈りを

■リプレイ

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　全身フリルまみれにピンクのリボンをかけた３mのドリームイーターを見つけ、サラ・エクレール（銀雷閃・e05901）は呟く。
「七夕で短冊に夢を書き込み願いを込める。素敵なお話ですよね」
　その言葉の後、声色が変わった。
「ですが、それをモザイクの卵で歪めドリームイーターを生み出すとは……その様な行為は決して許す事は出来ません。その悪辣な所業は潰させて頂きます」
　ざわり、と殺界を形成する。重ね掛けするように、羽丘・結衣菜（マジシャンエルフ・e04954）の殺界もあたりを包んだ。
（「七夕の無垢なる祈り……かわいくなりたいって健気じゃない」）
　見つめる先のドリームイーターの頭に乗ったティアラ。取り込まれた短冊は今は読むことはできないが、きっとその願いの裏には色々な努力もあったのだろう。そう思った結衣菜はドリームイーターをなおさら許せなかった。――汚されるわけにはいかない。
「ええ、私たちケルベロスに任せなさい！　こんな不届きなドリームイーター、ぶっ飛ばしてあげるわ！！」
　残った短冊を見つめながら、犬江・親之丞（仁一文字・e00095）はギュッと拳を握りしめる。
（「僕は強くなりたい。その願いときっと少し似てる。だから……」）
「放っておけないよ！」
　商店街にいる一般人に向けて、フェリス・ジルヴィルト（白雪子狐の道標・e02395）が叫ぶ。
「デウスエクスがいるですのです！　ケルベロスが倒しますです！！」
　逃げるように促すと、すぐにそれに従って人々は避難を始めた。
「天音一刀流師範代・如月椿、参ります！　……なーんてね」
　斬霊刀を手に、天音一刀・如月椿（めすらいおんの刀剣士・e26012）は気合いを入れなおす。ケルベロスとして初めての実戦。人々を守る番犬として、つつがなく任務をこなしたい、と如月椿は口を引き結ぶ。そして、己の後ろに控えるビハインドのジェファーソンへと笑いかけた。
「一緒にがんばりましょう、ジェファーソンさんっ」
　ゆらり、と彼が頷いたのを確認し、如月椿はドリームイーターへと体を向ける。
　地球の行事として、七夕は願いを短冊に書いて笹にかけるものと聞いてきたユークリウッド・アレクシオン（トロイメライ・e29037）は少し冷めた目でドリームイーターの背後にある笹を見つめる。
（「……くだらない。けど、願うのは自由……か」）

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「寄越セェェェェ！　可愛サヲ、寄越セエェェッ！」
　ドリームイーターが上げた叫びに、フェリスはきょとん、と首を傾げた。
「可愛いってあげられるもの、ですのですか？」
　同時にユークリウッドは片眉をつり上げて不快感をあらわにする。
「かわいいを寄越せだと？　僕を馬鹿にしてるのか？」
　身長が低く、実年齢より幼く見られるその容姿を気にしている彼にとっては地雷発言かもしれない。可愛さが欲しい、とぶつぶつ呟きながらこちらへ向かってる来るドリームイーターに、吐き捨てるようにユークリウッドは言い放った。
「つくづく度し難いな。お前らが何を企んでるかなんて知りもしないし興味もないが、一応この星の人間には恩があるからね」
　キッと見据え、付け足す。
「とっとと失せろ、夢喰い共が」
　その言葉に続くように、サラが前方へと躍り出る。手にした兼定十文字槍を振りかざすと、ドリームイーターのど真ん中目がけて稲妻突きを繰り出した。薄桃色のリボンが、ぶつん、と一か所切れる。
「ひぃいあぁぁっ！　リボンがあぁぁ」
　引き攣った悲鳴をあげるドリームイーター。如月・環（プライドバウト・e29408）は今とばかりに声を上げた。
「俺のケルベロスとしての初仕事だ、行くぜ！　へばんじゃねーぞ、シハンッ！　カード、オープンッ！」
　バッ、とシャーマンズカードを掲げると、戦陣術符―雷煌輪―を放つ。勢いよくドリームイーター目がけて飛んで行った光輪は激しい電流をその身へと流し込んだ。
「ガアアァアッ！」
　とても可愛いとは言えない声を上げるドリームイーター。来る。環はウイングキャットへと呼びかける。
「シハン！」
　ふわり、舞うようにして清浄の翼を前衛のケルベロスへ施し、シハンはそっと環の元へ戻った。失ったリボンの可愛さを取り戻すかのように、ドリームイーターはモザイクを勢いよくフェリスへと飛ばす。
「っ！」
　肩にモザイクを喰らいながら、相打つようにフェリスは跳弾射撃を放った。
「グッ……」
　低く呻くドリームイーターへと、肩を抑えながら告げた。
「いくら可愛くても、デウスエクスは敵ですのです」
「あっ僕には可愛さ奪いが飛んでこないね。僕も少しは可愛いから格好良いになれたのかな！」
　男子であるのに可愛いと言われることの方が多い事を気にしていた親之丞はご機嫌で禁縄禁縛呪を放つ。――君は後衛だからドリームイーターの攻撃が届いてないだけだよ、とは誰も言わないし、本人も気づいていないのはある意味幸せだったかもしれない。
「可愛イッテ……言ッテヨォオオオ！」
　ヴィヴィアン・ウェストエイト（バーンダウンザメモリーズ・e00159）を狙い放たれるモザイクを、環が受ける。
「……ッ、俺が先輩達をフォローするッス！」
「恩に着る……ッ」
　仲間を傷つけられたヴィヴィアンは静かにオウガメタルであるGolden Gooseを鋼の鬼と化すと、大きく振りかぶった。
「来る場所を間違えたな」
　そして、勢いよく振り降ろす。
「ギャアアァッ！」
「……ここにはお前に『かわいい』なんて言う奴はいないぜ」
　結衣菜はニッと口の端を釣り上げる。
「さあ、私のマジックショーをご堪能あれ。剣と炎できりきり舞いさせてあげるわ」
　無明凶襲、まるで姿が消えたかと思わせるほどに音と気配を殺し、結衣菜は凶悪な一撃をドリームイーターへと叩き込む。ひらりと地に降りると、静かに冷たい声色で付け足した。
「料金は……あなたの命だ、ドリームイーター」
　ドリームイーターが痛みに悶えている間に、ユークリウッドはブレイブマインを前衛の仲間へと施す。ボクスドラゴンのヘルは、続くようにして属性インストールを同じメンバーに施した。雷刃突を繰り出そうと斬霊刀を振りかざした如月椿に、ドリームイーターは叫ぶ。
「可愛イ……羨マシ、ィ！」
　ひゅんっ、と飛来するモザイクに如月椿はしまった、と歯を食いしばる。もとより童顔なうえに今日は地味なメイクで来たから狙われにくいと思っていたが、ドリームイーターの琴線に触れるものがあったのだろうか。雷刃突を身に受けながらも、ドリームイーターはケタケタと笑い声を上げる。更に攻撃を続けようとするドリームイーターへポルターガイストを引き起こして妨害したのは、彼女の夫であったジェファーソンだった。
「ギィイッ！」
「ジェファーソンさん……ッ、ありがとうございます……」
　
●
　サラのグラインドファイアを避けて、ドリームイーターは鍵を振りかざす。滑り込んだ環が、その腕に鍵を受けた。
「っつ……」
　がくん、と膝を付く彼にサラの声が響く。
「環さんっ！！」
　首を緩く横に振り、視線で『行ってくれ』と促す。肩で息をする環をシハンが癒すも、回復量が追い付かない。再度鍵を振り上げようとしたドリームイーターに、フェリスのガトリングガンが火を噴いた。
「させないですのですっ！」
　飛び散る薬莢、無数の弾丸に貫かれるフリルのボディはわなわなと震える。３分が経過しようとしていた。
「我らに勝利を――犬江流二刀術、金赤反魂煌――！！」
　親之丞が交差させた小月像と斬霊刀から発せられた光が、ドリームイーターを灼く。可愛いって言ってよ、とうわ言のように繰り返すドリームイーターへ、ヴィヴィアンはリボルバー銃を構えた。
「ガキの夢なんて食ってもうまくねえだろ、それよりいいものがあるぜ」
　ダァン、と一つ、銃声。跳弾射撃がドリームイーターへと命中する。続けて、結衣菜の熾炎業炎砲がドリームイーターを焦がした。
「ア、アァァアア！」
　ドリームイーターから放たれたモザイクが、結衣菜へと襲い掛かる。
「っ……！」
「アナタモ、可愛イ、キヒヒッ、寄越セ！」
　苦しげに呼吸を繰り返す結衣菜と環へ、ユークリウッドのメディカルレインが降り注いだ。
「だらしないな。ほら、まだ頑張れるだろう」
　何とか立てるまでには回復するものの、回復の手が足りない。結衣菜は小さく頷きつつも、次の攻撃を喰らわぬためにどうすべきか思考を巡らせた。如月椿は、天音一刀流・剛剣『払い蜂』で先刻受けたダメージを癒し、再度刀を構え直す。
　――五分が、経過しようとしていた。こちらの消耗も激しいが、ドリームイーターの動きにも変化がみられる。行ける。サラは伯耆安綱に手をかけると、目にもとまらぬ動きでドリームイーターへ斬りかかる。
「我が閃光、その身に刻め！」
　切り捨てた後、突き刺せば、ドリームイーターのフリルがどす黒い色に染まった。
（「七分以内……」）
　その時間制限が正常な判断を鈍らせることは無い。サラは大きく息を吐き、ドリームイーターの上から飛び退く。ゆらりと半身を起こしたドリームイーターが、モザイクを放った。環が叫ぶ。
「気張れよシハンッ！　ここが正念場だぜ！」
　サラを狙って放たれたモザイクを代わりに受け、シハンはスッと消えてしまった。
「籠目等角、呪術に似る。千古の織り目に其は宿る。金穂の可見、銀輪の日暈、重陽の菊其れ凡て黒陽の天恵也」
　フェリスの銃口に展開された六芒星の陣が光った。蒼い狐火を帯びた天の逆手に黒陽の壇を受けたドリームイーターは頭のティアラを弾き飛ばされながらも、吼え、
「邪魔、ヲ、スルナアアァァ！！」
　立ち上がって勢いよくフェリスへと襲い掛かる。
「！！」
　躱し切れない。そう思った時に、彼女の前に立ったのは環だった。彼の太ももに突き刺さる鍵。
「環お兄さんっ……！」
「っ、無事ッスか……？」
　こくこくとフェリスが頷いたのを確認すると、ふらりと膝を付き、倒れ込む。
「環さんッ！！」
　親之丞は倒れた彼の名を呼ぶと、迫るリミットを思ってドリームイーターへと向き直った。両手に握った斬霊刀から、衝撃波を放つ。
「我が剣は狼の牙――悪夢を、打ち砕くっ！！」
「ギャアァァッ！」
　それでもなお、ドリームイーターは退かない。結衣菜は飛んできたモザイクを片手に受けながら叫ぶ。
「相討ち上等よ！」
　こいつを許すわけにはいかない。低く呟いた声は、無明凶襲を放つ最中にはよく聞こえた。
「歪めてやるよ、お前の願い事」
　ヴィヴィアンは静かにドリームイーターに近寄り、その額に銃を突きつける。Burn Down The Memoriesを受け、ドリームイーターは泣き叫んだ。
「アアッ、ア！　可愛ク、ナルノ……！」
　這って移動しようとするドリームイーターへと、ユークリウッドが迫る。
「そう逃げるなよ。殺せないだろう」
　エスケープマインが起爆され、ドリームイーターはその爆炎に包まれた。七分が、経過しようとしている。――早く！　そこへ、飛び込んでいく如月椿。どす、と鈍い音が響き、雷刃突がドリームイーターに通ったことをその感触で悟った。音もなく、ドリームイーターは砂のようになって風に舞い上がり消えてゆく。その後に、体内に取り込まれていた短冊がヒラヒラと舞い落ちた。

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「終わったな……、大丈夫？」
　ユークリッドは消耗しきっている環へと、ヒールを施す。
「あぁ、気が付いたですのですね！　よかった……」
「は……俺、伸びてたんッスか……申し訳ないッス」
　仲間たちは、一様に首を横に振る。苦笑するも、仲間を守り抜けたことに少しの安堵が湧き上がってきた。
　フェリスは、この後は甘い物でも買って帰ろう、なんて考えていたが仲間が怪我を追っていたことで気が気ではなかった。ひとまず、安心だ。親之丞は、倒れていた笹の葉を立て、落ちていた短冊をそっと笹にかけなおす。
「ヒールは今持ってないけど、せめて、ね」
　夏の風が、サァッと優しく吹いて親之丞に答えるように優しく笹を揺らした。ヴィヴィアンは、ふと自分の足もとを見る。ドリームイーターが落とした短冊の残骸だ。それをそっと拾い上げると、手のひらを上に向けて開いた。
「今度は変なやつに捕まるなよ、ちゃんと天の川を目指すんだ」
　先刻よりも、少し強めの風が吹く。その風に攫われて、短冊は高く、高く何処かへと舞い上がっていくのであった……。

作者：狐路ユッカ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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