七夕モザイク落とし作戦～キラキラ光る夢を守って

■リプレイ

●歪められた願い　
　七夕――それは年に一度の、彦星と織姫に纏わる天の川の伝説。今宵、それを利用しようというドリームイーターの企みを阻止するべく、ケルベロス達の戦いが始まろうとしていた。
「全くドリームイーターめ、厄介なことしてくれるぜ……」
　ペーター・ボールド（ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938）がヘリオンから下降する寸前、タイマーによるアラームをセットしながら小さく呟いた。それは今回の敵が７分以内に倒さなくてはいけないと聞かされていたからだ。
「こっちも設定できたよ」
　リョウ・カリン（蓮華・e29534）が同じくタイマーを合わせてると、頷いたケルベロス達が次々とヘリオンから飛び降りて、ドリームイーターが現れると予知された小学校の屋上へと着地していく。
「ただでさえ他の勢力の相手で忙しいって時に、空気読んでほしいとはさすがに言わないけど…厄介だね」
　眞月・戒李（ストレイダンス・e00383）が屋上に飾られた笹の葉を一瞥し、折角の七夕なのに無粋なものだと目を細める。
「美味しいお菓子の甘い夢……そんな可愛らしい純粋な願いを利用なんてさせません」
　携帯ライトで辺りを照らしながら、ロゼ・アウランジェ（時空詩う黎明の薔薇姫・e00275）がそう言うと、伊佐・心遙（ポケットに入れた飛行機雲・e11765）が背中の小さな翼を揺らしてぴょんと跳ねながら、
「パティシエさんはおいしいお菓子で皆を笑顔にする素敵なおしごとなんだよ！　そんな夢を糧にして人を傷つけるようなこと、絶対にさせないんだから！」
　と、その手をぐっと握って決意を口にした。
「パティシエ……うん、私もお菓子は大好きだよ。皆がその夢を叶えられる未来の為に何としても倒さないとね」
　リョウの言葉に、君影・リリィ（すずらんの君・e00891）も頷いて静かに唇を開く。
「小学生の無垢な願い事を悪意で歪めた上に利用するだなんて……そんな事、させない。微力ながら今持てる全力で臨みます！」
　相棒であるウィングキャットのレオナールも気合十分といった風にその尻尾をパタパタと動かしている。
「人様の願い事ででかくなるとか相変わらず意地汚いモザイク野郎ですね。検閲削除してやるです！」
　ね！　とボクスドラゴンのアルゴルに叢雲・紗綾（無邪気な兇弾・e05565）が言えば、現役パティシエでもある天矢・恵（武装花屋・e01330）が眼光鋭くガサリと動いた一際大きな笹を睨み付ける。
「そろそろ……みたいだぜ」
　その言葉と共に、願いの短冊が沢山吊るされた笹から全長３ｍ程のドリームイーターが星の光に惹かれるかの如く、夜空の下……ケルベロス達の前に姿を現した。
「タイマースタート、抜かりはないぜ！」
　地獄化した頭髪を燃え盛らせペーターが叫ぶと、ライドキャリバーのボルが負けじとエンジンを回していく。
　その音は４２０秒の死闘を告げるかのように、夜の屋上へと響き渡った。

●タイムリミットは、７分
　パティシエの姿をしたドリームイーターが現れた瞬間から、ケルベロス達は瞬時に戦闘態勢を取り敵へと向かっていく。それは制限時間内に必ず倒してみせるという気持ちの現れのようだった。
「人の願いを食いものにするんだ、どんな目にあっても文句は言えないよ？」
「願いは、ドリームイーターではなく天の星に届けなければでしょう？」
　戒李とロゼがドリームイーターに向かってそう告げると、２人は夜空に流れる星の煌めきをその足に宿し重力に引かれるままドリームイーターへとその蹴りを叩き込む。連続した２人の動きにドリームイーターがたたらを踏むと、飾られた笹の葉を背に庇うようにした心遙が真っ直ぐな眼差しを敵へと向ける。
「聞こえる……風の声、空のうた。高く、高く飛んでいけっ」
　イメージするのは丘の上を吹き抜ける風、膨らむイメージに併せて小さく指を回せば掴んだ風の行方は心遙の力となってドリームイーターへと襲い掛かった。
　風の刃を受けながらも、パティシエの姿をしたドリームイーターは手にしたボウルと泡立て器を動かしてこう言った。
「いらっしゃいませ、お客様！　ホイップクリームはたっぷりに致しましょう！」
　腕のモザイクが動いたかと思うと、それはホイップクリームを纏ったような巨大な口の形になり不規則な動きを見せながら恵へと向かう。
「させない……っ！」
　その射線上に立ち塞がったのはレオナールを連れたリリィだった。その瞳は強い決意に満ち溢れ、禍々しい口を睨み付ける。飲み込まれる瞬間ですら、その瞳を閉じたりはしなかった。そんな主を気にしながらも、レオナールは清らなる羽ばたきで邪気を祓う。
「リリィ！　ドリームイーター、本当の夢を亡くさねぇよう閉じ込めなおしてやるぜ」
　恵が飲み込まれたリリィを引き剥がすかのように、手にした武器から物質の時間を凍結させる弾丸を精製しドリームイーター目掛けて撃ち放つと、リリィがモザイクの顎より解き放たれる。
「大丈夫よ、構わないでドリームイーターに集中して……！」
　ペーターがその言葉に頷いて、戒李と紗綾に向けて士気を高めるように色鮮やかな爆風を発生させると、ボルがドリームイーターの足を轢き潰していく。
　すうっと息を吸い込み、リリィが乱れた呼吸を整える。そして『聖母の涙』を自分を基点にし発動させた。
「アルゴル、皆を守ってあげるです！」
　ボクスドラゴンのアルゴルがその声に答えるように動くと、紗綾はバスターライフルを構え、敵に向かって白い冷気を纏った光線を撃ち放つ。
「わたしも、皆の力になれるよう頑張る、よ！」
　その身に纏ったオウガメタルがリョウの心に反応するかのように光り輝く粒子を前衛へと向かって放出していく。
「七夕の短冊に宿った純粋な願いを餌にして発生するなんて、本当に節操がないなぁ！」
　ドリームイーターがパティシエの格好をしていることすら冒涜に近いと、掌から勇ましいドラゴンの幻影を放ちながら戒李が零せば、ロゼが光に満ち溢れた白薔薇の絡むルーンアックスを振りかざし、
「私、お家にも笹を飾って、楽しみにしてたの！　だから皆が素敵な七夕を迎えられるように、頑張らなきゃ、です！」
　と、ドリームイーターへとその刃を振り下ろす。それはドリームイーターが企む『モザイク落とし』を阻止するという誓いにも似た宣言。
「こはる、お菓子って大好きなの！　甘くって美味しくって……笑顔になれちゃう、そんなお菓子！」
　だけどあなたの作り出すものは笑顔にはなれないでしょう？　と心遙が流星の如き残像を見せながら鋭い蹴りを放つと、ならばとでもいうようにドリームイーターがコック帽のその下にある、のっぺりとした顔に笑みを浮かべる。
「それではお客様！　夢のように甘いお菓子はいかがでしょう！」
　毒々しいまでに原色に近い色のマカロンや、恐ろしい絵が描かれたアイシングクッキーをドリームイーターが心遙へと飛ばす。それは庇おうとしたリリィをすり抜けて、心遙を傷付けていく。
「う……っなんてことないよ、これくら……い……」
　大丈夫だと微笑もうとして、心遙の顔が歪む。それは傷の痛みではなく、敵の催眠効果によるものだろうか。恵が心遙を気遣うように横に立ちつつ、それでもドリームイーターへの攻撃の手を止めることなくガトリングガンを構えると、爆炎の魔力が込められた弾丸を連射した。
「夢ってのは楽しいものだろ、悪夢なんてお呼びじゃないぜ！」
　ペーターが心遙へ溜めたオーラを放つと、苦しげにしていた心遙の顔がいつもの快活な彼女のものへと戻っていく。
「ありがとう！」
「気にするな、イカしてない嫌がらせなんてブチ壊すに限るぜ」
　ペーターがニカッと笑うと、ボルもテンションを上げるように炎を纏ってドリームイーターへと突撃していった。
「効果が付いたらラッキーくらいに思ってよね？」
　リリィが霊力を帯びた紙兵を大量にばら撒くとそれらは前衛の仲間達を守るように展開されていき、レオナールは紙兵の動きに合わせるように翼を羽ばたかせる。
　空気の震えを感じながら、紗綾がエアシューズに包まれた足に流星の力を集中させて跳べば、重力の宿った蹴りはドリームイーターへ吸い込まれるように炸裂していく。アルゴルは紗綾の言葉を守るように属性インストールを行っている。
「華咲き誇り、蝶舞い踊る、風香り、月が照らす」
　歌うようにリョウがそう囁けば、地獄の炎が華を形作り、あふれ出す魔力が蝶へと変貌していく。その美しき蝶は前列で戦う者達へ触れると加護の力を与えて消えていった。
　戦闘が開始されてから、２分の時間が経過していた。タイムリミットまで残り５分。ペーターとリョウが合わせたタイマーが鳴るまでは、実に４分を残していた。

●その歪んだ願いを討て
　誰もいない校舎の屋上、そこではドリームイーターとケルベロス達による激戦が繰り広げられていた。ケルベロス達が集中してダメージを与えている為、ドリームイーターが自身を癒してもそれは癒しきれないダメージ量となっていく。
「残り何分だ！？」
「あと３分と少しよ！」
　残り時間を気にした恵が問うと、リョウがすかさずそれに答える。３分、長いようで短い、そんな時間だ。
「ハッ！　３分ありゃ余裕でカップ麺が作れちまうな！」
「それなら、ドリームイーターくらい倒せちゃうよね！」
　ここが踏ん張りどころだとペーターが叫べば、戒李がひらりとその身を翻し黒い尻尾を揺らしながらスターゲイザーをドリームイーターの身体へと沈めた。
「ええ、必ず仕留めてみせましょう！」
　ドリームイーターよりも高く飛び上がり、星を背にしながらロゼがルーンアックスを勢いよく振りかぶると、叩き割るかのように振り下ろす。
「こはるの全力、見せてあげるよっ」
　それに続くように心遙も高く飛ぶと、夜空を流れる星の如き蹴りを炸裂させた。華麗に着地を決めて、ドリームイーターの様子を窺えば、それなりのダメージを蓄積させているように見えた。けれどそんな素振りは見せぬような動きをドリームイーターはしてみせる。
「困ったお客様達ですね！　ならば、甘いお菓子をたっぷりと差し上げましょう！」
　耳障りな声でそう叫ぶと、ドリームイーターのモザイクから歪なシュークリームや小振りなタルトが現れて紗綾目掛けて飛んでいく。紗綾が身構えると、その前にリリィが立ちはだかりその身体で攻撃を受け止めていく。
「皆が全力で戦う為だもの……微力でも、私も全力で……！」
　それは相棒であるレオナールと共に戦う彼女の矜持だ。強い誰かと比べて自分の非力さを思い知らされることは幾度とあった。それでも真っ直ぐに前へと進む為に彼女は目を逸らすことはないのだろう。レオナールが主の思いに同調するように軽やかにその翼を羽ばたかせた。
「願いの籠もった星を流れさせねぇ！」
　巨大なガトリングガンを構えた恵がドリームイーターにその銃身を向け、大量の弾丸を撃ち込んでいく。撃ち込まれた弾丸は爆炎を上げ、ペーターがそれに負けじとご機嫌なトサカを燃え盛らせた。
「俺の地獄ヘアーもイカしてるだろ？」
　そう言うとリリィへ気力を籠めたオーラを放ち回復を促すと、ボルがエンジン音を響かせてドリームイーターへキャリバースピンを仕掛け、リリィも自身を含む仲間へ『聖母の涙』を放つ。
「私の大切な……もう誰も、倒れさせたりは、しないわ」
　仕舞っていた翼と花を開けば、鈴蘭の香りが辺りへと広がっていく。
「いい香りです、ドリームイーターの放つお菓子の香りと比べるのもあれですけどね」
　その身体よりも大きなバスターライフルを軽々と操って、紗綾が凍結光線を発射すると、アルゴルが属性インストールを恵へと飛ばす。
「もうすぐ、残り２分です！」
　リョウが再び前衛に向けてキラキラと輝くオウガ粒子を放出すると、セットされていたタイマーがピピピと鳴った。ここからは回復を捨てた総攻撃だと、全員がドリームイーターへ向かっていく。戒李とロゼがタイミングを合わせるように攻撃を放てば、心遙もそれに続く。ドリームイーターが回復を行うと、
「その体その魂その全てを…斬る！」
　と、恵が赤いバーテン服のエプロンを翻し接近すると回復した分を削り取るように『斬*華++』を叩き込み、ペーターとボル、リリィとレオナールも想いをのせた攻撃を叩き込む。
「遠慮は要らないです、全弾纏めて持っていけですー！」
　一瞬の精神集中の後、紗綾が超高速の指捌きを見せると無数の弾丸がドリームイーターへと吸い込まれていく。アルゴルもそれを援護するかのようにボクスブレスを放つ。
「ここは……こっちだね！」
　咄嗟の判断でより命中率の高い黒影弾を選択し、リョウが色濃い影を纏う弾丸を撃ち込んだ。
「残りは１分だ！　美味しいところはイカしたお前らに任せたぜ！」
　ペーターが叫ぶ。ドリームイーターは既にそのパティシエの衣装をボロボロにして、モザイクを蠢かせている。
「ご指名かな？　それじゃいいとこ見せなくっちゃだね！」
　猫のようにしなやかに戒李が笑って、意識を集中させた。
「逃げてもいいよ　ボクの間合いから、逃れられるものなら」
　一瞬だけ現界した魔力の薄刃で、虚空からの抜刀術をドリームイーターへと浴びせると、ロゼがそっと両手を胸の前で重ねる。それは祈りを捧げるような仕草でもあった。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌ーーあなたに終焉を」
　ロゼの一族に伝わる時空の伝承の詩。空気を震わせたそれは、光纏う終焉の大鎌を喚びだし何もかもを断ち切るようにドリームイーターへとその刃を閃かせた。ドリームイーターは断末魔の悲鳴を上げながら、それでも自らに課せられた役目を果たそうとするかのように夜空へと手を伸ばし――崩れ落ちた。
　残り時間、およそ４０秒。ケルベロス達の勝利であった。

●瞬く星の下で
「ふぅ……お疲れ様でした」
　ロゼがほっと息を吐いて夜空を見上げれば、そこには満点の星空が広がっていた。
「集中してて気が付かなかったけど、天の川だよ！」
　戒李が空を指差せば、全員がその指の先を仰ぎ見る。
「なんて綺麗……！」
　レオナールを抱いたリリィが思わずそう零すと、リョウと心遙も同ずるように頷く。
「空の星もですけど、地上の星も綺麗です」
　紗綾が空から地上へ視線を移し、自分達が守った光を眺めた。ヒールを終えたペーターと、壊れた物がないか見ていた恵が仲間の元へ戻って街の灯りを眺める。
「帰ったら親父に七夕の菓子作ってやらねぇと」
　恵が思い出したように呟いた。
「私もお菓子の攻撃を受けていたら、お菓子が食べたくなってしまいました」
　ロゼが帰ったらフルーツたっぷりのケーキを焼きましょうと笑みを浮かべる。
　夜空の星と地上の星の光を見つめるケルベロス達の表情は、とても穏やかだった。

作者：波多蜜花	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 1
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