七夕モザイク落とし作戦～大きなわんこ

■リプレイ

●夏夜の夢
　色とりどりの短冊に提げられた願い。
　それらを喰らって具現化した夢の姿は愛らしいふわもこのわんこの姿をしていた。
　短冊を飾った笹と笹の間を自由に行き来する夢喰い。
　その出現地点には、予知により依頼を受諾したケルベロス達が待ち構えていた。
　所々モザイクで覆われた大きなわんこは、ぺたんと寝た耳を一度ぴるりと震わせて、ケルベロス達を見つけるとふっさふさのしっぽを元気よく動かした。
　笹竹の周囲に居た一般人は、水守・蒼月（四ツ辻ノ黒猫・e00393）による凜とした風で対処され避難済みで、既にこの場にはケルベロスしか居ない。
「人の願い事を利用するなんて本当許せないよね」
　蒼月が見上げた笹の短冊に、子供の文字で願いが綴られている。
「七夕の願いをこんな形で利用されるのは嫌だなあ……阻止、しないとだね……！」
　鬼屋敷・ハクア（雪やこんこ・e00632）が頷く。
　念のために、殺界形成で人払いをする。
　エスカ・ヴァーチェス（黒鎖の銃弾・e01490）の用意した固定式LEDライトが笹竹の周囲を十分な明度で照らしている。
　エルザート・ロッソ（ファントムソード・e24318）も灯籠型のライトを地面に立てて明かりを確保済みだ。下から照らされた笹は風情のある眺めとなっていた。
　それぞれ用意した光源を身につけた仲間もいる為、明るさは十分に確保されている。
「素敵な夜に短冊に書かれた、かわいらしい皆の願いと思いを奪わせない！」
「わんっ！」
　かわいい姿をしていても、３ｍ程もある大きさである。そのわんこが向かって来た。
「……でも大きいわんこ、かわいいなぁ」
　わんこは遊んで遊んでと強請るみたいに、エルザートにモザイクを飛ばして来た。
「かわいい、けれど……！」
　エルザートはロッドでモザイクの攻撃を受け止めんとするも、目の前で形を変えたモザイクの口にぱくりと噛みつかれる。
　光の翼を広げて少し後ろへ飛び退いた。
「７分以内、……だったねっ」
　エルザートの言葉に、クーリン・レンフォード（紫苑一輪・e01408）が答える。
「うん。７分だけの命。……その命から沢山の命が奪われる。いくら可愛くても奪う行為、だけはさせないよ」
　クーリンはいつものようにフードを深く被った。
　ハクアがドラゴニックミラージュで掌から「ドラゴンの幻影」を放ち、わんこを焼く。
「きゃうん！」
「？！　可愛いわんこな外見にだまされないんだから！」
　熱そうにもだえるわんこ。ハクアは騙されまいと武器を握りしめる。
「わたしも昔、ペットを飼いたいなって思ったこと、あったな……今はドラゴンくんがいるから寂しくないもの」
　ボクスドラゴン『ドラゴンくん』がブレスを放ってハクアに連携する。
「時間制限もあるし、早く倒しちゃわないと」
　蒼月の紙兵散布が縛霊手の祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布し、仲間達を守護する。
「可愛いな……モザイクあるけど……。いやいや……！　私にはキィ始め、いろんな子がお友達だから！　浮気ダメ絶対」
　クーリンはきゅっと口元を引き締め、至近距離で自分と同じ大きさのコヨーテを呼び出す。
「Destruction on my summons―！」
　破獣召喚、現れたコヨーテがわんこを追いかけていく。
「……私の可愛いカジュラと勝負しようよ」
　クーリンのコヨーテがわんこを捉え、食らい付いた。
「子どもたちの純粋な夢を利用するドリームイーター……許せぬ！」
　メリッサ・ニュートン（世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007）がズタズタラッシュを仕掛ける。無慈悲な斬撃がわんこのふわふわ毛並みを斬り破る。
　きゃうん、きゃうんとわんこが鳴いた。
　エルザートの破鎧衝が構造的弱点を見抜き、痛烈な正拳突きを放つ。
「紅の名に懸けてボクは……立ちはだかるすべてを討つ！」
　つぶらな瞳をまんまるにした夢喰いわんこが拳を喰らう。その目でエルザートを見つめながら、攻撃を受けた箇所からはモザイク片が散った。
「制限時間のある戦い、速攻が必要ですね」
　エスカはバスターライフルから魔法光線を発射する。光線が敵を貫いた。
　撫子桜・千夜姫（双刃一体・e12219）は雷刃突で神速の突きを繰り出す。
「可愛いですけれど、人様に迷惑をかけるのなら仕方ないですよね……」
　空の霊力を帯びた武器がわんこを斬る。刈られたふわもこが散ってモザイクとなり、大きな体はタンと地面を蹴って飛び退いた。
　シャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）はロッドを構える。
「わたしはヴァルキュリアとしてたたかっていたので、ペットのわんちゃんってあんまり見た事がなかったんですよ、ね。みんながここまで大事に思ってるのなら、きっと、とっても素敵なものだと、思うんです」
　シャウラは広げた光の翼を暴走させ、全身を「光の粒子」に変えて敵に突撃する。
「だからこそ、悪用させちゃいけませんよ、ね」
　光が。シャウラがわんこに突撃する。
　きゃん、とわんこが鳴いた。
　そのわんこにウイングキャット『オライオン』もキャットリングを放つ。

●１分経過
「わんっ、わんっ、わんっ！」
　騒がしく吠えた夢喰いわんこは、たんっと地面を蹴って跳躍する。
　千夜姫めがけて飛び掛かった。
　視界いっぱいに大きなふわもこが接近し、巨体が千夜姫に伸し掛かる。
　千夜姫がわんこに押しつぶされたかのように見えたが、一瞬先に割って入ったオライオンが身を挺して彼女を守っていた。
「わんっ、わんっ！！」
　わんこはオライオンを組み敷いて、しっぽをぱたぱたと振っている。
「シャウラさんの猫さん大丈夫かな？」
　蒼月が気力溜めで即座に回復する。オライオンはまだ動けるようで、わんこの下から這い出てきた。
「がんばって、オライオン。ここで格好いいとこをみせれば、猫さんのよさにも、きづくかもしれない、から」
　シャウラの声に、蒼月のヒールで元気を取り戻したオライオンが翼をぱたぱたする。
　ハクアは惨劇の鏡像で攻撃する。
　ナイフの刀身に映し出された恐怖が具現化して、わんこに襲いかかる。
「くぅん……」
　わんこはしっぽをだらりと下げて怯んだ。
「あー、もう……可愛いな！　みんなの願いから生まれた……か」
　クーリンはロッドを握りしめると、破鎧衝を繰り出す。
　痛烈な一撃がふわふわわんこの構造的弱点を突く。
「きゃうん！」
　わんこを甚振っているわけではない。
　これは夢喰いで、敵で、倒すべき存在。
　それでも過去の記憶を過ぎらせるには、充分な光景である。
「……少しでも早く終わらせるためにも、頑張らなきゃ」
　気を引き締めようと、なんどかロッドを握り直した。
「赤ずきんはいずれ脳天に眼鏡するとして、今は目の前の脅威に立ち向かわなければなりません――気を引き締めて戦いましょう！」
　メリッサはきりりと宣言する。その手に構えているのは『挽殺剣・砕き眼鏡』だ。
「とは言えわんちゃんを叩くのは気が引けますね」
　メリッサのチェーンソー斬りはふわもこの毛を削って敵の負傷を広げる。
「早く終わらせた方がそのわんこも痛い思いしなくてすむ……だよね？」
　エルザートのライトニングボルトが稲妻を放出してわんこを撃つ。
　ふわもこの巨体は大きく仰け反った。
　びりりと電撃を纏うわんこへと、エスカのガトリング連射が追撃する。
「うぅ……モザイクさえ無ければ愛らしいワンコ……もふりたいけど許されないジレンマなのです……」
　エスカはもふりたいけれどもふれない気持ちに葛藤しつつも連射する。
　千夜姫は戦術超鋼拳で全身を覆うオウガメタルを「鋼の鬼」と化し、拳で装甲を砕く。
　きゃうん、とわんこは笹竹の下に飛び退いた。
「わんちゃんもいいです、けど、オライオンみたいな猫さんも、いいですよ、ね」
　シャウラは静かに歌を紡ぐ。
　――＜其は昏き場所＞＜其は静寂なる場所＞＜凍れる大地に命は無く＞＜凍った時間は動かない＞＜氷の国に、生ける者は踏み込むべからず＞……氷の詩（ニヴル・エッダ）。
　それは、ヴァルキュリアに伝わる、古い詩（エッダ）の一部。
　決して溶ける事のない氷に閉ざされた世界を歌い上げる事で、空間に働きかけ、敵の周囲を極寒の冷気で覆う。
　わんこの周囲が冷気に覆われ、表面を氷が包み始めた。

●２分経過
　わんこは自分のふわもこ体毛をぺろぺろと舐めて毛繕いしている。
　身を包んでいた氷なども溶かしていく。
「ふわふわなワンコで凄く可愛いけど。ごめんね、君は生まれて来ちゃいけないんだよ」
　蒼月の影から、キラキラと目を輝かせ、爪を輝かせた猫達が現れる。そして凄い勢いでわんこへと向かっていく。
　影を媒体にした幻術、『猫誘導弾』。
　犬に猫が次々と突撃する。
　大きなわんこはたくさんの猫達に激突され、地面にころんと転がった。
　ハクアが創り出すのは鹿を模した氷のサモン。
「砕け散れ、花よ舞え」
　名もなき誰かが奪い取ったとされる幻想魔術の変質した姿。
　氷のサモンは透明で触れると冷たい。春に焦がれた証だろうか、ツノには桜が咲き誇る。
　花咲く馴鹿はわんこへと駆けてゆく。
　その後は……砕けて散ってさよならおしまい。
　桜の花と砕けた氷が、夏の夜に美しく散った。
　散った後に、クーリンが召喚したカジュラが追う。
　コヨーテが食らい付いたところで、メリッサが高々と跳び上がり、敵の頭上から武器を叩き付ける。
「きゃうん！」
　エルザートの光の翼から粒子が放たれる。
「―――詩え翼、舞え剣……譜演調べる想臆の乱舞をここに……」
　紅と蒼の光が、空に星が広がるように展開されてゆく。そして地面に向けて無数の流星群が落ちるように、光の剣の雨が降る。
　幻刀奏創ファントムブレード。
　降り注いだ光の剣が、大きなわんこを次々と貫いていく。
「死に至る道筋、存在の終わり、万物に死は平等に」
　エスカの死点殺。
　複数回の攻撃により敵の脆い壊れ易い部分を正確に撃ち抜く技。経験や直感に裏打ちされた技術である。
　千夜姫の斬霊斬がわんこを斬る。
　シャウラのマジックミサイル。
　杖から一斉発射された魔法の矢が、わんこに追撃していく。
「じかんは、あまり多くありません。しっかり狙って、かくじつに行きましょう」

●３分経過
　わんこはクーリンを狙って飛び掛かった。
　『置いてかないで』と甘える飼い犬のようにじゃれついてくる大きなわんこ。
　体中に傷を受けながらも、つぶらな瞳が見つめてくる。
　そんなわんこの姿を見てクーリンが思い出すのは、宿敵ホランダが起こした事件で犠牲になった犬や動物たちのことだった。
　忘れられないトラウマでもある。
　忘れたような過去の記憶……昔の自分の姿、回りの同族の記憶までもが薄らとボンヤリと微かに甦る。
（「いろんな人に支えられて立ち直ったつもり、だけど……」）
　夢喰いわんこは、しっぽを振って飛びついた。
　クーリンはハッとして、巨体を振り払う。
「……乗り越えて見せるよ」
　――無事に帰ってこいよ、って言われた、からね。
　小さくつぶやき、わんこから逃れる。
「倒れさせたりなんかさせないからね」
　蒼月の気力溜めのオーラが、クーリンを癒やした。
　ハクアの血襖斬りがわんこを切り裂く。
　クーリンはファミリアシュートで豆柴の子犬の姿に戻ったキィを放つ。
　大きなわんこに小さな豆柴は、まっすぐに向かっていく。
「いつも通り、キィの力でみんなの力を倍増だよ」
　わんこはカクリとよろけてバランスを欠いた。
「眼鏡の力で夢を浄化し、天に還すのです」
　メリッサは身長よりも大きな巨大眼鏡によるフルスイングを敵に食らわせる。
「これが、私の眼鏡だあああああああああ！！！」
　メリッサのファイナルアタック。その眼鏡の大きさに相応しい莫大な眼鏡力を一気に叩きつける事で敵を完膚無きまで叩きのめす。
　この一撃を受けたものは何人たりとも立ち上がる事はできない。まさしく必殺必滅の攻撃、眼鏡天墜（メガネス）。
「くぅぅん……っ」
　わんこが甘える鳴き声をこぼし立ち上がろうとしたが、巨大眼鏡の一撃は強烈で、よろり、よろりとその場に倒れた。
「眼鏡の光で、星へ還れ！」
　そして短冊を提げた笹竹の下、ゆっくりとモザイクとなって散っていく。
　やがてそのモザイクさえも、夏夜の風に吹かれて消え去った。
「聖地鯖江から世界と眼鏡を見守る眼鏡如来の導きで、子どもたちの願いは正しく星に届くでしょう。敵を倒すだけでなく、子どもたちの夢も守る……それが私達の使命なのです！」
　メリッサは鯖江謹製・七徳眼鏡を指で押し上げる。
「この世界に鯖江と眼鏡が有る限り、敗北は有りません！」

●星に願いを
　ケルベロス達は周辺をヒールして修復すると、静かに笹を見上げた。
「ボクも短冊に願いを書いて飾ろうかな……お願い事は……」
　子供達の短冊が提げられた笹に、エルザートの短冊が追加される。
　短冊には『楽しい日々が続きますように』と書かれていた。
「えっと、この紙にお願いをかくんですよ、ね」
　６歳のシャウラは、書き方をエルザートに訪ねる。
「うん、そうだよ」
　シャウラは短冊に、『これからもずっと自由に歌えますように』と書いて、これでいいですかとエルザートに渡した。シャウラの分の短冊もエルザートが笹に結んで提げる。
「僕も願い事書こうかな。……何にしようかな」
　蒼月は、いざ書こうとして短冊を手に、悩み始める。
　夢喰いわんこが今までに喰らった短冊は、跡形もなく無くなっていた。
「大切な願い事ですから再び笹に吊るしておければと思いましたが……」
　エスカは笹と夜空を見上げた。
「ドリームイーター……彼らの願いとは何でしょうか……」
　笹の周囲はヒールの効果でほんのすこし幻想的な雰囲気になっていた。
　ハクアは笹に提げられた短冊を眺める。
　みんなの短冊と願いが其処にある。
「この願いは、天の川の織姫と彦星に届けるものなのだから……」
　ここにある短冊の願いは、守られたのだ。
　ふと、ハクアは夜空を見上げた。
「天の川は見えるかな？」
　七夕の願いを守ったあとの夜空は、きっと格別に綺麗だろう。

作者：藤宮忍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。