七夕モザイク落とし作戦～同じ過ちを繰り返さぬために

■リプレイ

●それは、何時の時代にもある悩み
「ダイエットの悩みですか。男女問わず、何時の時代も多い悩みですね。この様な願い事すら力に変えられるとは……ドリームイーターとは恐ろしい存在ですね」
　ハンス・ガーディナー（禁猟区・e19979）の呟きに、クリスティ・ローエンシュタイン（行雲流水・e05091）が小さく頷く。
「ああ、そうだな。それにしても、七夕の願いを利用したドリームイーターか」
「おれ、きいたことがあるぞう。タナバタって、じぶんの願いを、託せる日なんだろう。願いを紙にかいて、おまじない」
　少しだけ得意げなバレンタイン・バレット（けなげ・e00669）に、クリスティは軽く頷き返した。
「その通りだ。……その願いを利用すると言うのは嫌らしい相手だな」
「そうですな。到底許容出来かねまする」
「じゃあ、張り切って行きましょう！」
　ギヨチネ・コルベーユ（ヤースミーン・e00772）の呟きに、ユーディアリア・ローズナイト（ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24651）が握り拳を作って振り上げた。
（「この世界のこと、もっと知りたい。いろいろなものをみたい」）
　其れなのに、こんなことでこの世界でまだ見たことのないものがなくなってしまうのが嫌だから。
「良かった。周囲に一般人はいない様です」
　ほっ、と安堵の息を漏らしつつ、手足を震わせているのは、結城・レオナルド（弱虫ヘラクレス・e00032）。
「レオナルド様にはあたし達がついていますから！」
　震えるレオナルドを励ますのはエピ・バラード（安全第一・e01793）。
「うん。私の愛するこの世界は壊させたりしないわ」
　上月・紫緒（テンプティマイソロジー・e01167）が相槌を打ったところで、事件現場に到着。
　程なくして、笹竹の傍で、じっと佇む全長3メートル位のふくよかな大男を発見。
　彼がボン太に違いない。
　自分に近付いて来る人影に気が付き、ボン太がユーディアリア達を顔を顰めて睨み付けた。
「なんだ、貴様たちは。俺は、願いが叶うその時が来るのを待たねばならないのだ」
　放たれる殺気を恐れながらも、レオナルドが周囲に沢山のケミカルライトをばら撒き、光源を確保。
「貴方達にはどんな夢だって奪わせません！　ぜったい、ぜったいです！」
　エピが指を突きつけ宣言すると、ボン太が、残念そうに溜息を一つ。
「俺の邪魔をするのだな」
「君達の思惑通りに、物事を進ませるわけには行かないからな」
　頷くクリスティに、それ以上何を言うでもなく、
　何処か哀愁漂うでんぐり返しからの体当たりをボン太は繰り出した。

●緒戦
　ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……！
　見かけによらぬ、機敏な体当たり。
　それは、バレンタインの軽やかなステップにも反応できるほどの速度だったがギヨチネが割込み、ガッチリとした体格で受け止めている。
「ゴハッ！　ですが、この程度で倒れたりはしませんぞ……！」
　直撃を受けて喀血しつつも堪えて幻想の花園を展開させる。
「詩人の後胤よ、我が見るは、我が母なり」
　詠唱と同時に、展開された花園の至る所に蔓延る蔓植物たちが一斉にボン太を絡め取り、更に咲き乱れている花々の官能的な芳香が彼の精神を搔き乱す。
「グッ……グゥゥゥゥ！」
「効いている様ですね。しかし、かなりの攻撃力ですな」
　ルナティックヒールをギヨチネに施しながら、ハンスが小さく息をつく。
　フリージアがハンスに合わせて羽ばたき、紫緒達を守る風の結界を生み出した。
「私はアナタも愛するよ？　だから、アナタも私を愛して？」
　その瞳に狂気の色を浮かべ、愛おしそうに、謳う様に紫緒が愛を語り口づけようとするが、反射的にバックステップを行うボン太。
「止まってください！」
　だが、その時には放出しているグラビティを体内に帰還させ、一瞬身体能力を向上させたユーディアリアが懐に飛び込み、拳を叩きつけている。
「ユー、いまいくぞう！」
　腹部に強烈な一撃を受けた足を止めたボン太に、バレンタインが軽快なステップと共に宙を舞い、炎を纏った踵落としを叩きつけている。
　肩を強打され、蝕む火傷による痛みに僅かにたじろぐボン太へと、エピが接近して縛霊撃。
　霊力の網でボン太を締め上げているところに、レオナルドが大上段から鉄塊剣を振り下ろし、袈裟懸けに斬り裂く。
　初撃としては其れなりの手応えだったがｇ、同時に相手の強さも剣を通して感じ、恐怖に心を蝕まれ、手足が震えた。
「こ、こんなものですか！　もっと激しく動けば、痩せるかも知れませんよ。さ、さあ、来い！」
　それを振り払う様に挑発する彼の脇を氷結の槍騎兵が疾駆し、ボン太の脇腹を貫く。
　そこにチャンネルがチカッ、とフラッシュを放つ。
「おのれ……！　だが、まだだ、まだ俺は必ず痩せられる……痩せて見せる……！」
　怒りに我を忘れそうになりながらも、自己暗示で回復するボン太。
　だが、バレンタインの炎による影響か、傷が完全に塞がらない。
「意外に冷静ですね。ですが、そうはさせませんよ」
　回復のついでに体を鋼化させようとするボン太にハンスに命じられたフリージアが接近、ガリガリと伸長した爪でその体を引っ掻く。
「その程度では、私達の攻撃を防御などできますまい」
　続けざまに放たれたギヨチネの竜爪撃が、フリージアによって傷だらけの鋼化した体を砕く。
「グヌゥ……？！」
「私の愛でアナタを包むから、勝手に消滅なんてさせないわよ♪」
　ブレイクと凍傷に唇を歪めるボン太の両肩に紫緒が高々と掲げた二刀のルーンアックスを振り下ろす。
　衝撃に耐えきれなかったか膝をつくボン太の死角から、クリスティが時空凍結弾。
　武器の先端から放たれた氷弾が、時を止め、彼の脇腹を凍てつかせた。
「レオナルド様！」
「わ、分かりました！」
　凍傷と衝撃で動きに鈍りを見せるボン太に洗脳電波を放出するエピに合わせて、レオナルドが鉄塊剣による雷刃突。
「まだまだだぞう！」
　幅跳びで距離を詰めたバレンタインが全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』化。
　その力の全てを拳に籠めてボン太の顔を殴り飛ばす。
「やあっ！」
　殴り飛ばされ、踏鞴を踏むボン太に星の力を籠めた膝蹴りを叩きつけるユーディアリア。
　勢い余って転びそうになるものの蹴りは確かにボン太の右足の骨にひびを入れている。
　すかさずチャンネルが手に持つ凶器でボコボコと右足を殴りつけた。
「確実に当てていきましょう」
　ハンスがエピ達の足元に陣術・α種を起動。
　より的確に攻撃を当てて貰う為、ユーディアリア達の集中力を高めた。
「思ったよりもやるようだな、貴様達。だが……あの御方に夢を叶えて頂く為にも、俺は絶対に負けられん！」
　裂帛の気合いと共にそう言い放つが、それにしても、と呟き、不意に顔を鬼のような形相へと変えるボン太。
「どうしてその夢が叶うまで、美味しいものを食べてはいけないんだ～！」
　ボン太を生み出した願いに籠められた想いが暴発し、殺意を含んだ絶叫が周辺一帯を吹き飛ばした。

　――残り時間、後5分

●負けられない戦いだから
「……グゥ……この程度で倒れる私ではありませんぞ……！」
　ボン太の魂の奥底から放たれた絶叫が、バレンタインを庇ったギヨチネを打ちのめす。
　ハンスのルナティックヒールと、フリージアの羽ばたきに傷を癒されながらも苦しげな表情を浮かべつつ、ボン太の体を蔓で巻き取り、官能的な芳香を嗅がせるギヨチネ。
　法悦の殉教女の濃厚な香りに、ボン太が顔を赤く染めあげて彼に体当たり。
「それはさせられないな」
　クリスティが【氷結の槍騎兵】。
　氷でできた甲冑を纏った槍騎兵が突撃し、勢いづいているボン太を串刺しにした。
「が……グハァ！」
　貫かれ、凍傷を拡げるボン太の懐に、レオナルドに庇われ無傷だったユーディアリアが自らの身体能力を無理矢理引き上げ、全身を地獄の炎に包んで正拳突き。
　足にきていたボン太にそれを避けられる筈もなく喀血する。
「ともだちを傷つけた、おかえしだぞう！」
　ウサギの脚力を生かした跳躍で、ボン太の遥か高みに至ったバレンタインが、拳銃の形を取った攻性植物を彼に向けた。
「燃えろ、太陽！」
　叫びと共に、太陽のかけら、ほのおの魔弾を撃ち出す。
　ギリギリ体捌きを行うことで、辛うじて心臓への直撃こそ免れるが、体の一部を射抜かれてそれがまるで灼熱を纏う太陽の様な熱を伴ってボン太の体力を奪っていく。
「愛する対象に区別は無いけど、愛に、憎しみに耐えきれないならそのまま滅ぼすよ♪」
　謳いながら、ボン太の手の甲にキスをする紫緒。
　歌声によって呼び出された紫緒の地獄がボン太の手の甲から全身を駆け巡り、彼を内側から崩壊させる。
「ガハッ！」
「レオナルド様！」
　エピが縛霊撃でボン太を締め上げ、チャンネルがレオナルドを応援する動画を流す。
「ま……まだまだ！」
　戦いへの本能的な恐怖が重圧と重なり合い、足元が覚束無かった彼がそれに勇気付けられ、フレイムグリード。
　そのまま臆病な自分を押し殺す為に叫ぶ。
「皆さん！　後、4分です！」
　彼の号令は、ギヨチネたちの心を奮い立たせるに十分だった。

●決着
　レオナルドの叫びに真っ先に応じたのは、エピ。
「いきますよ！」
　ニートヴォルケイノによる足元からの溶岩がボン太を飲みこみ、その隙を逃さず、クリスティが時空凍結弾で、今度は左肩を凍てつかせた。
「この困難を乗り越えられれば俺は痩せられるのだ……！」
　執着、ともいえる自己暗示を行おうとするボン太だったが、それよりも先に、チェーンソー剣でユーディアリアが斬りかかった。
　振り回す、というよりは振り回されるような形で振るわれたチェーンソー剣が、ボン太の自己暗示が完成するよりも早くその喉の一部を斬り裂き、喉の周囲へと凍傷を拡げる。
　ハンスの陣術・αによって更に集中力を高めたバレンタインがスターゲイザーでその右足を蹴り砕いた。
「いまだぞう！」
「ねぇ、アナタは痩せたいって願いから生まれたんだよね？　でもさ、何で痩せたいって思ったのかな？」
　バレンタインの掛け声に応じてダブルディバイドでその両肩を砕き、ボン太の凍傷を更に拡げながら、紫緒が軽く小首を傾げる。
「その願いに籠められたホントの願いを教えてよ」
「俺の願いは……痩せる為に、あの方と……！」
「でも、あなたはその為に沢山の人の夢を奪いました。それは、ゆ、許せません！」
　答えるボン太を、怯えながらもフリージアの羽ばたきを受けたレオナルドが雷刃突でその胸を貫く。
「確かに、人々の善き願いは美しいものでございましょう。ですからこそ、その夢をあなたの餌とするわけには行かないのです」
　お覚悟を、と告げつつギヨチネが降魔神拳。
　まだ倒れない彼に業を煮やしたか、ボン太が、ゴロゴロと回転しながら襲い掛かった。
「グハ！」
　強烈な体当たりに全身の骨が軋むのを感じながらもギヨチネが、チャンネルの応援を受けながら殺神ウイルス。
　対デウスエクス用のウイルスの一撃と、火傷と凍傷に蝕まれ息を荒げるボン太。
「ともだちをこれ以上傷つけたら、許さないぞう！」
　バレンタインがうさぎ跳びで一息にボン太に接敵、ほのおの魔弾を銃化させた攻性植物から射出する。
　心臓を狙って放たれた其れを、咄嗟に身を捻って躱そうとするボン太だったが、心臓と言う急所を辛うじて外すことが出来ただけで魔弾そのものは直撃し、体を炎で焼かれる。
「ぐ……グゥゥゥゥ……！」
「熱いのなら、冷ますべきだな」
　クリスティが氷結の槍騎兵で深手を与え、エピが縛霊撃で締め上げる間にレオナルドが肉薄する。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ！」
　居合の構えを取り、鉄塊剣で一閃。
　黒い閃光、としか形容できない程の疾さで放たれた自らの心の裡の畏れの炎を纏った鉄塊剣が一瞬でボン太の胸板を斬り裂き鮮血を飛び散らせ、更にカゲロウの様に姿を揺らめかせ瞬く間に懐に潜ったユーディアリアの拳がボン太の顎を砕き、紫緒の狂愛葬奏がボン太の全身を地獄で焼く。
　――その時、レオナルドのアラームが鳴った。
「皆様！　おねがいします！」
　アイズフォンで時報を繋ぎっぱなしにしていたエピがアラームに合わせる様に号令を出しながら、気咬弾でボン太の急所を射抜き。
　チャンネルが閃光フラッシュでボン太の目を奪い。
「参りましょうか」
　ハンスがスターゲイザーでボン太の足を払い、転んだ彼をフリージアが自分の爪で引き裂いた。
「まだ……やらせは……！」
　負傷によって溜め込まれたストレスを力に変えて叩きつけようとするボン太の攻撃から、バレンタインをチャンネルが、エピをレオナルドが、紫緒をギヨチネが其々に庇う。
「ぐ……まだ……まだですぞ……！」
　ギヨチネが踏み込み竜爪撃で斬り裂きつつも、限界がきたか膝をつく。
「守ってくれたアナタのことも、愛するわよ。勿論……アナタのことも」
　膝をついたギヨチネを飛び越え、ダブルディバイドでボン太の両肩を紫緒が完全に破壊して。
「今度こそ、止まってください！」
　ユーディアリアがチェーンソー剣に振り回されつつボン太の身を切り裂き。
「もう、絶対にゆるさないんだぞう！」
　バレンタインがウサギの脚力に星々の力を載せた強烈な回し蹴りを叩きつけ、其の左足を完全に砕いて。
「はっ……ハァっ！」
　一時的に鎮めた恐怖が再び擡げて来たのに震えながら、レオナルドが雷刃突でボン太の急所を刺し貫いた。
　そのレオナルドによってボン太の死角となっていたその場所から。
「これで、終わりだ」
　急所を貫かれても尚、彼に体当たりで反撃を試みるボン太に合わせる様に、クリスティが護符を取り出す。
　――その動きは、まるで流水の様に滑らかで。
「流れに身を任せるのみ」
　呪を紡ぎ、護符をボン太に撃ち込んだ。
　それに籠められた光の奔流がボン太を押し潰し……。
「ぐ……グァァァァァァァァ！」
　その絶叫を最期に。
　ボン太は、光となって消え去って行った。
　
　――作戦完了時間、6分。

●短冊に願いを
「意外と早く終わりましたね」
　周囲の木々や境内が損傷しているのを、サキュバスミストで修復しながら紫緒が呟く。
「太っていたから、きっと足腰が弱かったんですよ！」
「かも知れないな。まあ、早く終わったのならば、それに越したことはない」
　ユーディアリアの言葉に苦笑を零しつつ、クリスティが頷いた。
　と……戦闘不能に追い込まれつつも仲間達を守り抜いたギヨチネが顔を上げて笹竹を見つめている。
「折角ですし、短冊を書いて吊るしていきましょうか」
「おまじないだな。いいぞう」
　レオナルドの提案にバレンタインが頷き、其々に短冊に願い事を書いて、笹竹に吊るす。
　新しい8枚の短冊を吊るした、修復によりファンタジックな外見になってしまった笹竹に何となくほっこりさせられつつ、ハンス達は、その場を後にしたのだった。

作者：長野聖夜	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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