七夕モザイク落とし作戦~こちらも激闘七分間!

作者:秋津透

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

 深夜。静岡県静岡市。
 小学校の校庭に大きな笹が立てられ、生徒たちの願いが書かれた短冊が吊られている。
 そこへドリームイーターの卵が降臨し、ざざっと音を立てていくつもの短冊を吸収した。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……」
 軋んだ声で唸ると、ドリームイーターの卵はたちまち巨大化し、体長3メートル前後のドリームイーターと化す。
 その姿は、黒ぶち眼鏡をかけた男の子。右手には大きなエンピツ、左手にはテスト用紙だろうか、全面にモザイクがかかった紙を持ち、服の表面には多くのモザイク化した短冊が張り付いている。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……」
 妙に可愛らしい子供の声で呟くと、ドリームイーターは、その場にちょこんと座りこむ。3メートルという体長と、頭と顔面が眼鏡を除いてモザイクに覆われているという点が不気味だが、暴れるわけでもなく、さほど害があるようには見えない。
 確かに、このドリームイーター自体は、誰かを犠牲にして誕生したわけでもなく、人を襲うわけでもない。しかし、誕生してから七分後に、このドリームイーターは消滅し、日本列島全体に無数のモザイクを落とす大災禍『モザイク落とし』のエネルギー源になってしまうのだ!

「……ドリームイーターが、七夕を利用して大作戦を行ないます」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した表情で告げる。
「この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さん他、多数のケルベロスが予測して調査してくれた事で事前に知る事ができたのですが、どうやら、ドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているようです。『モザイク落とし』が実行されれば、日本中に巨大なモザイクの塊が落下して大量のドリームイーターが出現し、大混乱状態となってしまいます」
 そう言って、康は一同を見回す。 
「敵は、残存するモザイクの卵を使用し、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にするつもりです。七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現してから7分間で、自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまいます。皆さんには、ドリームイーターが出現する地点に急行し、出現してから7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいのです」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「七夕ドリームイーターが出現する現場は、ここ、静岡県静岡市の小学校校庭です。今から急行すれば、ドリームイーター出現5分前に到着できますが、先に七夕短冊を撤去したりしてしまうと、ドリームイーターが別の場所に出現し、対処できなくなってしまうので注意してください。小学生の願いから生まれたドリームイーターは、一見子供のような姿をしていますが、体長3メートルほどあり、大きさに相応した強力な敵です。そして、七分以内に撃破できなければ、消滅してしまい倒す事ができなくなります」
 そして康は、言葉に力を籠めて続ける。
「もしも、今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としが実現して、日本は大混乱に陥るでしょう。しかし逆に、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなると思われます。ドリームイーターがいなくなるわけではありませんが、明らかな進展となるでしょう。どうか、よろしくお願いします」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
春華・桜花(さくらもち・e00325)
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
アンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)
皇・絶華(影月・e04491)
王・浩(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e23814)
苗床・七丸(日替わり戦車・e29403)

■リプレイ

●ドリームイーターを待ちながら
「ここね……」
 今回の現場に急行したメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は、多くの短冊が付けられた笹飾りを見上げて呟いた。
「子どもたちの願い事を糧に、災いを起こすなんて嫌だよ……ううん、子どもたちだけじゃない。誰の願いであっても、こんなことに利用される筋合いのものはないんだ。だから絶対、惨劇はここで止めるよ」
「ええ、まったくです」
 シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)が、決然とした表情でうなずく。
「実は、今日は私の二十歳の誕生日なのですが。世に大規模な災害を起こす企てを、放置するわけにも参りません。ちょっとゲンナリしてしまいますが、きっちりとカタをつけさせていただきます」
「うんうん、綺麗な天の川をモザイクにされても嫌だもんね~」
 やや緩い口調で、春華・桜花(さくらもち・e00325)が応じる。
「で、シアライラさん、今日成人なの? それなら、天下晴れてお酒飲めるじゃない。この事件が片付いたら、初飲みにいかない?」
「い、いえ、私、さすがに、いきなりお酒は……」
 狼狽気味に応じるシアライラを横目で見て、アンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)が小さく笑う。
「いいねぇ、一件落着後に一杯……俺でよければ、ぜひお付き合いしたいね」
「まあ、それも、きちんと仕事を片付けてからのことです」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が、やんわりと釘を刺し、皇・絶華(影月・e04491)が生真面目に応じる。
「そうだな。万一失敗したら一大事になる。全力で行くぞ」
「まったく、子供の願い事を横取りしようとは無粋な奴らだ」
 笹飾りを見上げて、王・浩(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e23814)が呟く。
「日本の七夕も独特で面白いな。俺の故郷では、縫物の上達や良縁を願う祭りだった。いつからか、男が女に花を贈るようになった……俺が贈ったのは、誰だったか」
「お……!」
 おいおい、誰に花を贈ったか忘れるなんて、故郷の恋人さんが泣くぜ、と、軽く言いかかり、アンジェラは危うく言葉を飲み込んだ。浩はデウスエクスに故郷を滅ぼされ、失った記憶を地獄で補っている、という重い事実を思い出したのだ。
 一瞬、沈黙がその場を覆ったが、苗床・七丸(日替わり戦車・e29403)が自作の超小型戦車……鉄瓶戦車『分福七号』から顔を出し、気だるい声で尋ねる。
「……眠い……寝ちゃ駄目?」
「もう少し我慢してください。敵は、すぐに出現するはずです」
 絶華が告げ、うなずいた七丸は戦車の中に引っ込むと、いくつかの照明を笹飾りを照らす位置に半円形配置する。
 メリルディと浩も、それぞれ持参の照明を点灯あるいは配置し、周囲が急に明るくなる。
(「誰か、出てくるかな?」)
 警備員とかもいるはずだし、と、絶華は周囲に気を配るが、とりあえず、一般人が出てくる様子はない。
 そして。
「来たぞ!」
 浩が力の籠った声で告げ、照明に照らされた空間にドリームイーターの卵が出現する。
 そして卵は、笹飾りと短冊を一気に吸収し、予知の通り、体長およそ3メートルのドリームイーターへと変形した。
 
●殲滅! 制限時間は七分間
「貴方自身に害が無いのに攻撃するのは申し訳ないですが……モザイク落としは阻止しなければなりませんので、失礼を」
 律儀に告げながら、アンクが真正面から突進する。
「クリスティ流神拳術、参ります! 壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
 この手の相手に下手に策を講じると失敗するのは学習済み、正攻法で確実に命中させ、最大のダメージを狙う、と、アンクは右腕の袖と手袋を焼きつつ地獄解放、白炎をまとった右正拳を叩きつける。
 真っ向からの痛撃に、出現したばかりのドリームイーターは、大きくよろめく。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……」 
 妙に可愛らしい子供の声で呟くと、ドリームイーターはよろよろと後退して、ぺたんと座りこむ。
 そこへ絶華が、全力の重力蹴りを叩き込む。
「夢、願い……それは己と向き合い定める作業と、私は考える」
 ほとんど言葉には出ない程度の声で、絶華は小さく独白する。
「私の願いは……やはり一族の皆との再会と……恥じぬ強さを得る事かもしれない。そういう意味で、武を以て挑む事の出来る奴は私の願いを叶えているとも言える」
 呟くと、絶華はドリームイーターの姿を鋭く見据える。
「このテストの姿を持つドリームイーターに対しても、また絶えまぬ努力の果てにそれに打ち勝つという願いが叶えられるのだろう。ならば、己の持つ力のすべてをぶつけるのみだ」
 一方、シアライラは、まず時空凍結弾を撃ち込む。
「折角の二十歳の誕生日、台無しにしてくれた代償は大きいですよ」
 誕生日は毎年来ますけど、二十歳の誕生日は生涯に一度、今日しかないんですから、と、シアライラは怒りを籠めて言い放つ。
 そして彼女のサーヴァント、ボクスドラゴン『シグナス』が強烈なブレスを吐いてダメージを与えると同時に、既に敵の巨体に張り付いている炎や氷の力を増す。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……」
 半分泣くような声で呟くと、ドリームイーターはテスト用紙だろうか、左手に持っているモザイクだらけの紙を翻す。攻撃が来るか、と、ケルベロスたちは身構えたが、ドリームイーターは自分の身体についた傷をモザイクで塞ぎ、炎や氷を払い落す。
「案の定、回復に出やがったか。通常戦なら思うツボの負けフラグだが、時間制限がかかってる以上……いちばん厄介な対応だな」
 呟きながら、アンジェラが前衛に鼓舞の爆発を送り、攻撃力上昇を図る。
 それを受け、メリルディが愛用のエアシューズ『kaleidoscope』で火炎蹴りを叩き込み、桜花も重力蹴りを打ち込む。
「とにかく攻める! 回復されても潰す! 最後まで!」
「ガンガンいきましょ~、ガンガンと~」
 両側から容赦なく蹴りを直撃され、ドリームイーターは頭を抱えるような姿勢で、再びぺたんと座りこむ。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……」
「哀れを催す姿ではあるが、お前を撃破し災禍を止めねば、お前が集めた願いは叶わぬ。容赦はせぬぞ」
 重々しく告げ、浩がバトルガントレットを突きこむ。更に七丸が、どういう構造になっているのか、戦車砲から簒奪者の鎌をどかんと撃ちだして叩きつける。
「……テストとか、なくなっちゃえばいいし」
(「確かに、どんなに本心で強く思っていたとしても、学校で皆で書いて校庭に飾る短冊に『テストがなくなりますように』とは……書けないわよね」)
 そう考えると、けっこう建前な願いなのかも、と、小さく苦笑しながら、メリルディが攻性植物『Quelque chose d'absorbe』を飛ばす。
「ケルス、頼んだよ!」
 ぎゅいん、と音をたてて無数の蔓が伸び、ドリームイーターの巨体に絡みつき締めあげる。
「とりゃあっ!」
 アンクが蹴りを放ち、ドリームイーターの肩を凍りつかせる。そこへすかさず、アンジェラが殺神ウィルスを打ち込む。
「いただきだぜ、ミズサワ。これなら、俺でも当てられる」
「ふふ、アンジーさんのアンチヒールが効けば、この勝負、悠々と勝てますからね!」
 期待してますよ、とアンクが笑いかけ、アンジェラも笑顔を返す。
 いい連携ですねぇ、と、感心とも羨ましがるともつかない呟きを洩らし、絶華が愛用のナイフ『三重臨界』で敵の傷を的確に抉る。
 そしてシアライラが、今度は巫術を使って火炎弾を放つ。
「氷攻め、火攻め……振り払われようが、何度でも!」
「ガウッ!」
 猛攻を放つマスターに応じ、『シグナス』が果敢にアタックを決める。
 そしてドリームイーターは、再びテスト用紙のモザイクで身を覆う。炎や氷が再び振り払われるが、幾分かは落としきれずに残る。
(「アンチヒールが効いてるならしめたものだけど……でもまあ、そう簡単には潰れそうにないわね」)
 ガンガンいきましょ、ガンガン、と、桜花はブラックスライムを放ち、敵の巨体を丸呑みにしようとする。さすがに完全な丸呑みはできなかったものの、要所要所にスライムが絡んで締めあげ、ドリームイーターは泣くような声を上げる。
「……勉強ガ……デキル……ヨウニ……ナリタイ……ダケ……ナノニ……」
「怨むなら、お前を他の企みの贄にする、それだけのために創造した、上位のドリームイーターを怨むことだ」
 言い放って、浩がバトルガントレットを振るい、光と闇の強烈なコンビネーションパンチを放つ。
 そして七丸は、戦車砲から必殺の『鹵獲魔法弾(熱因子)(ポカポカ)』を撃ち込む。
「……ぽかぽか、頂戴」
 呟きとともに放たれる鹵獲弾が容赦なく熱を奪い、炸裂痕を凍りつかせる。
「時間、二分経過。三分目に突入」
 タイムキーパー役のアンジェラが告げ、メリルディが流体金属型武装生命体オウガメタルを発現させる。
「頼むね!」
 心からの信頼を示す一声とともにオウガメタルは「鋼の鬼」と化し、超鋼の拳をドリームイーターに叩きつける。
(「敵は……防御に徹して動きが鈍い! ここは、威力重視だ!」)
 言葉にはせず呟くと、アンクは両の拳を打ち合わせ両腕に白炎を纏わせる。そして渾身の気合とともに、超高速の乱打を叩き込む。
「これが今の私に出来る全力……! クリスティ流神拳術壱拾六式……極焔乱撃(ギガントフレイム)!!!」
「グハアッ!」
 アンクのオリジナル最大必殺技『クリスティ流神拳術壱拾六式「極焔乱撃」(ギガントフレイム)』が炸裂し、モザイク化した短冊に覆われていたドリームイーターの胴体が大きく裂ける。
「ここはっ! 狙いどころかっ!」
 絶華が叫び、こちらも最大必殺技を繰り出す。
「我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……! ……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 絶華の両眼に狂気の光が宿り、四肢が不自然な痙攣をおこす。そして次の瞬間、古代の魔獣『窮奇』の力を身に宿した絶華は、人間を越えた速度で敵に襲いかかり、ナイフ『三重臨界』を猛然と振るう。いや、あれはナイフなのか、それとも絶華自身の爪が変化しているのか。あまりの高速に判然としないが、ドリームイーターが、その巨体を真っ二つにされそうな大ダメージを負ったことは間違いない。
「しぶとい! でも、これで……」
 胴をほとんど両断され、大量のモザイクを血のように溢れさせながら、しかし倒れないドリームイーターに、シアライラが冷凍弾を叩き込み『シグナス』がブレスを放射する。
 しかしドリームーイーターは、ぎりぎり耐えたのか、あるいは精神力で肉体限界を凌駕したのか、倒れることなく全身のモザイクを飛ばし、両断寸前の胴を繋ぎとめる。
「おのれ!」
「なぁに、まだ時間は半分以上ある。そして、奴は既に瀕死だ」
 アンジェラが嘯き、真っ赤に塗った弾丸を指で弾いて飛ばす。普通、指で弾いた弾丸が殺傷力を発揮することはないが、魔力でも籠められているのか、真っ赤な弾丸はドリームイーターが塞いだ胴の傷のすぐ上、普通の生物なら心臓のある位置に命中し、喰い込む。
「運が良けりゃ、天国で会おうぜ」
 オリジナルグラビティ技『RED(レッド)』、巨大なデウスエクス相手に必殺と言えるほどの威力はないが、確実にダメージを与え、破滅へと導く。
 そして桜花が、敵が塞いだばかりの傷口に、斬りつけるような蹴りを入れ、続いて浩も同じ位置に刃のような蹴りを叩き込む。
 更に、七丸は戦車砲から小動物らしきものを撃ちだし、ドリームイーターに痛撃を加える。
(「同じ技を続けると、見切られて命中率が悪くなるから、どんな強力な技でも連続して出すのは得策じゃない……もちろん、ここで仕留めなきゃ相手が逃げちまうなんて時は、そうも言っちゃられないが」)
 言葉には出さずに呟き、アンジェラは自分の時計に目を向ける。
(「ミズサワとスメラギが、もう一度揃って必殺技を出せば、いくら敵がタフでも、潰せないわけがねぇ……二分後には、ケリがつく」) 
 もちろん油断は禁物だが、この勝負九分通りもらったぜ、と、アンジェラはにやりと笑った。

●夢を奪う者、滅ぶべし 
「時間、四分経過。五分目に突入」
 満身創痍のドリームイーターを見据え、アンジェラが告げる。
「さあ、ここで引導渡すぜ!」
「そうね、決めるわ!」
 後に凄い技出せる人が二人もいるから、気が楽~、と呟いて、メリルディが満を持してオリジナル必殺技を放つ。
「金平糖だと思った? 残念、これは流れ星!」
 軽い口調とは裏腹に、天空から本物の流れ星……隕石(メテオ)が飛来し、轟音とともに標的へと激突する。まさに圧倒的なグラビティに直撃され、ドリームイーターは凌駕も何もできず、文字通り雲散霧消した。
「決まりましたね」
「……見事です」
 それぞれ必殺技を用意していたアンクと絶華が、穏やかに呟いて構えを解く。
 すると。
 いきなり、ぼんと爆発音をあげ、七丸の鉄瓶戦車が自爆する。
「……え?」
「興奮しすぎたみたいね」
 桜花が呟き、残骸から素っ裸でふらふら出てきたサキュバス少女に、浩が即座にヒールをかける。
「わけありのようだが、ちょっとそれは目の毒だ。戦車の残骸を補修するから、身を隠しなさい」
「え? あ、は、きゃー!」
 ヒールを受けて我に返ったのか、七丸は慌てて、少し中国風に改修された鉄瓶戦車に飛び込んで身を隠す。
「み、見られた? 見られてない? ……とにかく、引き篭もる……」
「そっちはともかく……笹飾りや短冊のヒールは無理でしょうか?」
 アンクが尋ねたが、浩は首を傾げる。
「破片も残っていないからな……たとえ再生できても、短冊の字などは、まず変わってしまうだろう」
「そうでしょうね。ならば学校には、ここでケルベロスとデウスエクスの戦闘があり、笹飾りと短冊は巻き添えで消えてしまったけれど、皆の願いを受けてケルベロスは勝てました、と伝えておきましょう」
 呟いたアンクが、アンジェラを見やって苦笑混じりに告げる。
「吸いたい気分は分かりますが、今日だけは止めておきましょうよ、アンジーさん。ここ、学校ですしね?」
「あ、そか……」
 煙草を取り出したアンジェラが苦い表情になったが、そこへ桜花が声をかける。
「分煙だけど、煙草吸える店、知ってるわ。お酒もご飯もおいしいところだし、シアライラさんの成人祝い兼ねて、都合つく人は行って宴会しない?」
「え、えと……そうですね、御厚意に甘えます」
 勝てましたし、記念すべき誕生日が一度くらいこうなってもいいでしょうかね、とシアライラは自分を納得させるように呟く。マスターを慰めるように『シグナス』がスリスリと身をすりよせた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。