窓から差し込む淡い月光。
月が雲間から出ている僅かな間だけ、古寺の闇に潜んでいるものを浮かび上がらせる。ひとりはすらりとスーツを着こなすキャリアウーマン風の黒髪の美女であり、もうひとりは螺旋の仮面をつけたくノ一であるが……身に着けた装備は忍ぶというには仰々しく、見るだけで威圧感を与えてくる。
現にキャリアウーマン風の美女は、くノ一の前にひざまづいて気を張っていた。
「随分な失態だな、夕霧さやか。言い訳があれば聞かせてもらおう」
「計画は順調よ……。月華衆は死んだとしても、ケルベロスの戦闘能力の情報は手に入っているのだから、問題ないのではなくて?」
「だが、地球での活動資金は一向に集まっておらぬ。それに、戦闘能力の収集は月華衆の功績であり、お前だけの功績とは言えぬな」
「それは……そうですが、全ての計画を防ぐなど何らかの理由があるはずです。もう少し、私に時間をください」
顔を上げぬまま、夕霧さやかは懇願する。
「聞けぬな。ケルベロスの調査は充分に果たした。あとは、お前自らが失態を償い、資金を獲得して帳尻を合わせるのだな」
「くっ……おぼえてらっしゃい」
冷ややかな顔を憎しみに歪めて、夕霧さやかは足早に去っていく。その足取りには苛立ちと焦りが混ざり合っていた。
とある銀行の地下金庫に警報が鳴り響く。
夕霧さやかは手早く貸金庫を開けると、入っている有価証券や機密書類を素早く回収していく。その動きには迷いがなく、どうやら事前に詳細を掴んでいたようだ。
だが、当人はいささかも順調に進んでいるとは思ってはおらず。
「ケルベロスたちが来る前に全てを終わらせて撤退したいところだけど……」
今まで彼女が得た情報はそれを否定する。
故に幾重もの逃走ルートを考えてはきたが……それでも彼女の不安は晴れない。
「来るのでしょうね……きっと」
その漏れたつぶやきは確信に近かった。
「大変ですの。螺旋忍軍が銀行の地下金庫に現れて現金を強奪する事件を予知しましたの」
テッサ・バーグソン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0130)は集まったケルベロスたちにそう話してから、よく聞いてくださいと更に注意を喚起する。
「今回の事件は最近騒ぎを起こしている月華衆ではなく、『夕霧さやか』という螺旋忍軍の手によるものですの。彼女は月華衆の裏で糸を引いていた人物のようでして……」
リリキス・ロイヤラスト(e01008)が月華衆の起こす事件がケルベロスに阻止された続ければ、指揮官が出てくるでしょうという予測を立てたこともあり、テッサは狙われそうな施設を調べながらアンテナを広げていたところに今回の予知が降りてきたというわけだ。
「ですが、夕霧さやかも皆様が来ることを警戒していますの」
彼女はそこそこ能力が高いものの、指揮官タイプなので戦闘はあまり得意ではない。故に4つの逃走ルートを設定し、いつでも逃げられる態勢を整えている。
「なのでここは夕霧さやかの作戦を逆に利用させてもらおうと思いますの。彼女の逃走ルートに皆様を配置して、弱らせつつ退路を絶っていきますの」
言って、テッサは地図を広げる。
まずは金庫、次に逃走ルート1、ついでルート2、ルート3、それぞれに2名ずつを配置。夕霧さやかは上記の順で逃走ルートを選択していくので、最後のルート4で合流して完全に追い詰める形となる。ルート4で追い詰める頃には夕霧さやかも余力は残ってはおらず、逃げられる心配もなくなるだろう。
なお、襲撃される銀行には事前に潜伏することが可能だ。
行員や警備員の方々にも夕霧さやかが潜入したら直ぐに避難してもらうので、危害を加えられたり、人質にされる心配はない。
「それで肝心の夕霧さやかの使うグラビティなのですが……これまで解析してきた『ケルベロスのグラビティ』を使用できるようですの。幸いなことに使用するものは分かっていますので対処は難しくないと思いますが……十分に注意してくださいの」
いかなる方法を使っているのか、夕霧さやかは、桜花剣舞、ダブルバスタービーム、マインドシールドの3つのグラビティを使ってくる。
「かなり厄介な相手のようですの……。それにだけにこれ以上の情報は与えたくありませんの。だからこのチャンスで何としても倒してきてくださいの」
参加者 | |
---|---|
日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793) |
リリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008) |
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027) |
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592) |
八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465) |
ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485) |
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) |
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069) |
●地下金庫
重く閉ざされた地下金庫の扉。
内部の壁には無数の引き戸があり、それぞれにナンバーが刻まれている。この中に夕霧さやかの狙う有価証券や機密文書が収められているのだろう。
(「それにしても活動資金を集めてるってことは、地球の人間社会の中にそのカネで動かされてる輩がいるってことだよな。何とか手がかり掴めねえものか……」)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)がそれを見つめながら考え込み、東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)は対照的に扉の方に目を遣っている。
(「いままで月華衆の背後にいたさやかさんに会うのでどきどきするのですよ。でも、前にお会いした時はこういう事をする人ではないとおもってたのに……」)
何が彼女を変えたのか。
面識がある菜々乃が考えても推し量ることすらできない。
だが、決着のときはもう間近で――金庫の扉が音を立ててゆっくりと開いていく。
その先に居たのは鋭い視線を向ける夕霧さやかであり、彼女は金庫の中に人が居ることを視認すると慌てて飛び退る。
「……っ、待ち伏せ?!」
「わ、やっぱ来た。タレコミ通りだっぺ☆」
ほしこは誤情報を与えようと驚いた声を上げるが、夕霧さやかは僅かに眉を曇らせただけで状況把握を始める。
「歌って踊って祈っちゃうノマドご当地アイドル『山彦のメモリーズ』のほしこです☆ 夕霧さやかさん、あなたが来るのを待ってました♪」
そんな余裕を与えはしないと、ほしこがエアシューズを駆る。少し遅れて、菜々乃が迫り、その後ろではウイングキャットが支援するべく動き出している。対して夕霧さやかのの反応は遅く、戦闘経験の不足が目に見えるようだ。
次いで、ほしこの飛び蹴りが直撃。
「……くっ」
勢いに押されてノックバックしながらも、夕霧さやかは体勢を立て直そうとして、目の前に迫る菜々乃の姿を捉え慌てて防御姿勢を取った。
されど、来たのは追撃ではなく、
「どうしてしまったんですか? あなたはこんな事をする人ではなかったはずです」
「……何を?!」
突然の言葉に、夕霧さやかは驚いて飛び退るとケルベロスたちを一瞥してから逃走を始める。後を追って炎が爆ぜるも有効打には届かず、彼女の姿は通路の陰に消えていく。
残された2人は見えなくなってからも通路を見続け、
「すいません……どうしても話してみたかったんです」
「ああ、いいって。因縁があるんでしょ? 菜々乃ちゃんの好きにやるといいんだべさ」
「すいません……」
菜々乃は重ねて頭を下げると再び不安そうな瞳を通路へと向けた。
●ルート1
耳に届くのは足早に駆けてくる音。
日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793)は持っていたトランシーバーをしまって斬霊刀を手にする。隣の天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)もいつでも戦闘に入れる態勢へと。そして通路の角から人の姿が見えるなり、不敵な笑みを浮かべて矜棲が声を掛ける。
「ようお姉さん、ここから先は通行止めだぜ?」
「……っ?!」
夕霧さやかが慌てて足を止めると、矜棲が急速に間合いを詰める。
懐に飛び込んで一閃。
剣が綺麗に弧を描き、鮮血を飛び散らせながら夕霧さやかは後退する。すると、いつの間に入れ替わったのか、矜棲が後ろへ、代わりに蒼眞が前へと。
(「さて、どうくる?」)
刀を正眼に構えて、蒼眞はどう動かれても対応できる態勢を取った。夕霧さやかの僅かな動き、呼吸、更には己の直感も動員して次の動きを読もうとする。
睨みあって、先に動いたのは夕霧さやかの方。
通路の角に隠れようとサイドステップ、それに合わせて蒼眞が肉薄。緩やかな弧を描いた斬撃が腕を捉え、矜棲のサイコフォースが逃げようとした先を爆破する。されど、攻撃を受けながらも夕霧さやかは空中で向きを変えて逃走を続行。
急ぎ2人が後を追おうとするが、瞬く間にその姿は消えて行った。
「さすがに螺旋忍軍というわけか……。まあ、一つ目の脱出経路で無理はしないよな」
「しかし、後が無くなって現場に駆り出されたんだ。もう半分見放されたようなものだな。ああいう手合いは何をするかわからないぜ?」
蒼眞の言葉に、矜棲が注意を促す。
「同情はしても、容赦はするな」
「ああ、わかっているよ」
●ルート2
通信を終えると同時に足音が耳に届いた。
リリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)が前方の、ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)に視線を送ると首肯が返ってくる。
2人とも得物を構え、ボクスドラゴンはいつでも飛び出せる態勢へと。
(「中間管理職として組織の為に動いているのでしたね……」)
通路を睨んだ、リリキスの心中に複雑な思いが去来する。雑念を振り払おうと意識をより五感に向けたところで、足音がぱたりと途絶えた。
距離はそうなかったはずだが……もしかするとルートを変えたのか?
ミハイルが警戒を続けながら、リリキスに視線を送る。
言葉は交わさず、むしろ呼吸すら殺すような沈黙を持って2人は視線を交わした。
そして、目を前に向けて待ち構える。
10秒が1分以上にも感じる時の流れ。
僅かな足音、次いでリリキスが飛び出すと呼応してミハイルとボクスドラゴンも走り出す。通路の角に飛び込めば驚きを浮かべる夕霧さやかの姿があり、
「行くぜ、ニオー」
ボクスドラゴンがブレスを吐き出し、ミハイルが長槍を突き出す。穂先からは稲妻が走り、繰り出される超高速の突きが夕霧さやかを襲う。初撃、二撃目までは危うくかわすも三度目の雷光が肩を貫いた。
傷口を押さえ慌てて後退しようとする夕霧さやかの顔には苦悶が浮かび、それは横合いから起きた衝撃によって更なる歪みへと変わる。
「簡単には逃がしはしませんよ」
先ほどまで立っていた場所にはメイド服を着た女性の姿があり、地獄の炎を得物に纏わせながら追撃の態勢に入っている。
「ちっ……ここもダメ」
夕霧さやかは見切りをつけて逃走を開始。
後を追ってミハイルが追走し、後方からはブレスと簒奪者の鎌が投げつけられ――夕霧さやかは手傷を増やしながらも強引にそれらを振り切っていった。
●ルート3
通路の先を見据えて、八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)はゆっくりとチェーンソー剣を手に取る。仲間からの連絡から鑑みるにもうそろそろ来る頃合だろう。
(「やっと、少しは歯ごたえのあるやつが現れたって、とこか」)
月華衆を使っていた黒幕。
連絡ではいささか姦計に走っているようだが、やるげきことは決まっている。
(「俺の役目はいつもどおり、絶対にここを通さないってとこだ」)
そう思って剣を持つ手に力を篭めると、不規則な足音が聞こえてきた。
傍らの軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)と視線を交わし、2人は物音を立てることなく敵の出現を待ち構える。
そして、物音の主――夕霧さやかは足を引きずるようにして姿を見せる。
「よう、ずいぶんとボロボロじゃねぇか。くくっ、眼鏡でも似合いそうな美人なのにもったいねぇ。泥棒らしく番犬にでもやられたか?」
双吉が話し掛けると、返答の代わりに怜悧な視線が向けられる。
「やっと現れたね。待ちくたびれたってもんだよ。あんたには悪いけど、こっから先は通すわけには行かないね!」
情けは無用と、要が動き出すと同時に夕霧さやかが疾走。
僅かに目を見張るも、こういうことをしてくる相手であることは分かっている。2人とボクスドラゴンは進路を阻んで止めようとするが――報告以上に攻勢が強い。
「……ちっ、こらまた気合が入ってんじゃねえか」
動きを少しでも止めようと、双吉がブラックスライムを捕食モードにしながら肉薄。チェーンソー剣を打ち交わしていた要とスイッチして攻撃を打ち込めば、夕霧さやかの具現化した光の盾がそれを阻んだ。
その攻防に要は口角を上げ、
「そうこなくちゃね」
チェーンソー剣を強引に叩きつけて力押しに持ち込むが、向こうはそれを嫌って下がりながら巨大な魔力の奔流をぶつけてくる。
「はっ! この程度で俺を倒そうなんて思わないことだね!」
強がる要も、対する夕霧さやかも瞬く間に傷は深くなって流れる血が通路を汚す。絶え間なく攻守を入れ替えて、互いに必殺を打ち込みあった。
が、終わりは唐突に。
短時間で要を切り崩せぬと見た夕霧さやかはあっさりと身を翻す。おそらくは増援を考えて戦闘に費やせる時間を予め決めていたのだろう。
姿が完全に見えなってから、2人は短く言葉を交わす。
「さて、追いかけるとするか?」
「そうね。傷を癒している間も無いのが辛いところだけど」
●夕霧さやか
最後の逃走ルートはそれ自体を含め、繋がる通路もひとつを残してケルベロスたちによって封鎖されていた。後は夕霧さやかと、最後の通路を封鎖する仲間が来るのを待つだけで、蒼眞はその時間にこれから真に相対することになるであろう敵のことを考えていた。
(「指揮官としての優秀さと一兵卒としての有能さは別の話だな。……まあ、御大自ら一人で前線に出なければならなくなるよりも前に計画を修正するなり他の手段を講じるなりしなかった辺り、臨機応変に動けるタイプではなさそうだし、多数の手駒を失う指揮官が優秀だとも思えないけど……」)
気配を感じて、通路の先に目を向ける。
そこには夕霧さやかの姿があり、ケルベロスたちの姿を見つけると彼女は走るのを止めて、ゆっくりと歩み寄ることに切り替えた。後ろからは別の足音も聞こえ、仲間たちの到着も間もなくだろう。
近づいて来る夕霧さやかは諦めたようにも見えるが、ケルベロスたちは油断せずに動向を見守る。そうしているうちに、要と双吉が到着して包囲は完全に整った。
逃げ道は無く、戦意を喪失しているようにも見える夕霧さやか。
ならばと、リリキスが声を掛ける。
「気になりますか? 必ず私達ケルベロスが貴女達を阻止しに来ることを。もし、螺旋忍軍の中に貴女方の情報の流している者がいるとするならば、どうしますか?」
「……そう」
つぶやいて、夕霧さやかは顔を上げ、
「悪いけど、答えならもう分かっています」
放たれた言葉と共に悪寒が走る。
「高精度の予知能力、もしくはそれに似た能力を持つ者があなたたちの中に居るのでしょう? それも複数ってところかしら?」
何故それをという疑問が脳裏に浮かび、それすらも答えになりかねないと蒼眞が曖昧な笑みを浮かべようとしたときには、既に夕霧さやかは駆けていた。
狙いは最後の逃走ルートの突破。
立ち塞がるのは奇しくも最初に会敵した者たちで。
短刀を抜いて斬りかかる夕霧さやかを、菜々乃が縛霊手で受け止める。勢いに押されて足が下がれば、空いた間合いを更に詰めてくる。
「あれだけ手の内を見せてもらえば、これぐらいの予想はつきます。そして、あなたたちは私の頭の中にしかない脱出ルートをすべて阻んで見せたのですよ」
夕霧さやかの動きに沿って桜吹雪が舞い、剣閃に導かれるように広がっていく。
次いで吹き出る血しぶき。
不意打ちの成功に夕霧さやかが口元を僅かに緩め、追撃に移ろうとしてた瞬間、横から切り込んできた矜棲に気付いて大きくバックステップ。
「おっと、鬼ごっこは終わりだ! 錨を上げるぜ!」
追いかけて、矜棲が切り結ぶ。
見れば、双吉とウイングキャットが早くも仲間の傷を癒している。もう少し隙が出来ると思っていただけに、今度は夕霧さやかの方が意表を突かれた。
「……なぜ? 真相は違うのですか?」
「そんなことを気にしている余裕があるのかな?」
間隙を作らず、蒼眞が回り込んで居合いを放つ。たまらず逃げた先にもリリキスが立ち塞がって巨大な鉄塊剣を振るって包囲の輪を狭めてきた。
「まずは逃げられないようにしましょう」
呼び掛けに応じて包囲が更に厳重なものになっていく。だが、上手く対応できたもののケルベロスたちとて内心では冷や汗をかいていた。事前に出来るだけ情報を与えないように決めていたこと、これまで夕霧さやかと戦って得た情報を全員が共有していなければ、もっと対応は遅れただろう。
今、それが結実して夕霧さやかを追い詰める。
「月華衆の命を使い潰してきたんだろうけど、今回はあなたがその番にされちまったみてえだな」
「……そうですね」
更なる策を秘めていないか探りながら、ほしこが揺さぶりをかけると返ってきたのは諦観を感じるような声。
「なら、命にはそんな使い方以外もあるって想像してみねえか?」
「私に裏切れとでも?」
そして向けられる氷のような視線。
真っ向からそれを受け止めて、今度は菜々乃が思いを語る。
「組織があってその中で命令があったとしても簡単に死を選ぶのは間違ってると思うのです。前にお会いした時はこういう事をする人ではないとおもっていましたのに……」
「……前に?」
僅かに考えるような仕草の後、夕霧さやかの表情が一瞬だけ変化した。
「できれば降伏して欲しいものですが無理なのでしょうか?」
沈黙した後にゆっくりと首が横に振られ、
「私にも螺旋忍軍として誇りがあります。あれだけ部下を死なせておいて、私が敵に下るわけには………いきません」
答えながら、夕霧さやかは思い至る。
螺旋忍軍で成り上がっていくために零してしまったものを。自らが元はどういう人であったのかを。そして、この状況になってしまった理由を。
「決死の策を用いても真相に至れないとは三流もいいところです。まあ、信用できる部下も居ない私には当然のことでしょう」
ゆるりと短刀を構えて、腰を低くする。
もう戦いは避けられぬと幾人かが戦闘態勢を取り、諦めずに呼び掛けを続けている者もいる。だが、すべては遅すぎた……。
「――ペレスヴェート!!!」
ミハイルが顕現させた四基十二門の主砲が再開の合図。
双方のグラビティが交錯して激しく火花を散らす。戦いは苛烈なれど、切なく、あっけなく――要のゲシュタルトグレイブが深く突き刺さって終止符を迎える。そして槍を引き抜くと、遺体をそっと横たえた。
「なかなか手強かったよ。安らかに眠りな」
目を閉じさせてから仲間に視線を送ると、双吉が声を掛けた。
「たぶん通信機とかがあると思うんだが、女の体まさぐんのは気が引けっし、そのままやってくんねーか?」
肯定して要が探している間に、矜棲と菜々乃が周囲の警戒を始める。
敵の目がどこかにあるのではないかと探ってみるが得られたものはなく、どうやってケルベロスたちの技を再現しているかも謎のままだ。また、夕霧さやかの持っていた通信機器にもがっちりとロックが掛けらていた。
こうしてひとつの決着がついたものの、謎は残ったまま。
ただ、この邂逅に救いがあったと思えるだけの、何かがあった――。
作者:キジトラ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年7月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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