七夕モザイク落とし作戦~ゆずのゆめ

作者:狩井テオ

●壱
 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

 笹に括りつけられた短冊が風に乗り、ゆらゆらと揺れる。
 ファミリー層が中心となったイベントで願い事を書こう! とされたイベント広場に飾られた笹には、幼い少年少女やその親たちの願いが込められていた。
『おかあさんがしあわせになりますように ゆず』
 たどたどしい字で、恐らくクレヨンで書かれたひとつの短冊。
 その短冊がつるされた笹を中心に黒くドリームイーターが生まれる。
 体長は1mちょっと、人影だが小さめだ。
 モザイク化した沢山の短冊を、多くの願いを丸ごと飲み込んでしまった。

●弐
 集まったケルベロス達を見ると、マシェリス・モールアンジュ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0157)はどこかほっとした表情を浮かべた。
「皆、集まってくれてありがとう。
 ドリームイーターが七夕を利用して大作戦を行う事が判明したんだ。
 この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)さん他、多数のケルベロスが予測して調査してくれた事で事前に知る事ができたけど、どうやら、ドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているみたい。
 モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下するため、大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事が予測されてるよ。
 敵は、残存するモザイクの卵を使用して、日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしているんだ。

 七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現してから7分間で、自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまう。
 皆には、ドリームイーターが現れる地点に向かい、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいんだ」
 発生したドリームイーターはその場に留まり、7分間待つという行動をするため、周囲に被害が出ることはない。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは、『おかあさんのえがお』、『おとうさんのどなりごえ』、『ゆずのゆめ』など、トラウマや夢を食べるような攻撃をしてくるよ」
 ぱらり、と持っていた資料をめくるマシェリス。
「このドリームイーターを7分以内に撃破できなかった場合は、消滅してしまい倒すことができなくなっちゃうから注意してね。今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としが実現してしまうよ」
 皆の活躍にかかってるからね、と期待を込めた視線をケルベロス達に向ける。
「だけど、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるかも!」
 ぱっと花を散らした笑顔を浮かべるマシェリス。
「皆なら倒してくれるって信じてるよ! 完全阻止、頑張ろう!」


参加者
大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
八岐・叢雲(静かな闘志・e06781)
ハインツ・エクハルト(ねこ派・e12606)
天目・宗玄(一目連・e18326)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
ダイアン・ヤマトナデシコ(自宅警備員希望天使・e29479)

■リプレイ

●壱
 『ゆずのゆめ』は幼い少女の強い希望。小さな願い。
 ドリームイーターには関係ない。他の願いと共に全て飲み込むだけ。モザイクを落として沢山のグラビティ・チェインを取り込めれば。
 夢は砕ける。天の川に流されることなく、短冊は飲み込まれる。
 デパート。閉店時間を過ぎ、時間の経ったそこは静寂に包まれていた。
 人気のないデパートに緊急避難口の緑の灯りがチカチカと光る。しかしその直後、ぱっと煌々と灯りが灯った。人の気配がない閑散としている店内、開店している間と同じ灯りに、違和感を覚える。
 開けたホールの中心。
 イベント用に設えた短冊を書くコーナーに、黒い小さな影が現れる。
 1m弱の小さな少女を模った影。ドリームイーターだ。
 入り口から現れたケルベロス達は、ゆらりと揺れる影に向かって駆け付けていく。
「短冊に込めた皆の願いや夢、想いをモザイク落としに悪用するのは許せない……必ず止めてみせる。戦える時間は限られている……だけど皆と一緒なら大丈夫」
 八岐・叢雲(静かな闘志・e06781)は短冊に込められた数多の願いへの怒りを静かに闘志とする。叢雲自身は無表情だが、尻尾が緊張したようにゆらりとぎこちなく揺れた。
「何とも悲しいドリームイーターよ! 込められた悲しき願い……貴様にゆがめさせるわけにはいかん!」
 鋭い視線をドリームイーターへと向けるコクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)。
「子供の姿をとろうってのが、何と無く胸糞悪いんだぜ……直接子供が被害に遭ってる訳じゃないけど、純粋な願いを盗られるわけにはいかないな」
 ハインツ・エクハルト(ねこ派・e12606)は複雑な思いで黒い影を見つめる。ドリームイーターからはもちろん、答えも反応もない。
 目の前に現れたケルベロス達を敵と認識して、攻撃態勢に入るだけだ。
「モザイクの卵の事件はここで終わらせるであります!」
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は前衛に立つ。隣に立った同じく前衛の天目・宗玄(一目連・e18326)は無言で武器を構える。視線はドリームイーターへ油断なく注がれる。
 にたぁっと笑みを浮かべたのはダイアン・ヤマトナデシコ(自宅警備員希望天使・e29479)。
「……いいじゃん。七夕の願いを具現化したドリームイーターね。その夢と希望をあんたら共々堂々と粉々に叩き潰す」
 ゲシュペンスト・オーラを纏い、青白い光を体から放つレーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)。気にかかるのは短冊に書かれた『ゆず』の願い。
「短冊にかいてあった『ゆずのゆめ』の内容が気にかかりますわね。でもまず、目の前のドリームイーターを倒すことに集中しないと」
 目の前の敵を睨み付け、武器を構える大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)。視線は強く。
「モザイク落としは、阻止させてもらうぞ! 大神凛! 推して参る!」
 ダイアンのセットした時計が時を刻む。限れた時間は7分。それまでにドリームイーターを倒しきらなければ、モザイク落としのエネルギー源となってしまう。
 素早く、しかし確実な戦略が必要とされる。
 その手はケルベロス達は持っていた。だからこそ、今、ここで決着をつける。

●弐
 最初に動いたのはコクマ。
 ドリームイーターの動きを油断なく見つめ、敵がどの位置にいるのか確認する。
 ドリームイーターは影を揺らすだけでまだ動きは掴めない。
 大地を断ち割る如く、強力な一撃を繰り出す。クラッシャーとしての立ち位置と攻撃補正によって、大ダメージを与えられた。
「!」
 ドリームイーターが動く。口なき黒い影から、声なきハウリングが響いた。『おとうさんのどなりごえ』。少女の辛く悲しい思い出と重ねられた影のトラウマ攻撃だ。
 直前、咄嗟に庇うように前に出たクリームヒルトによって、肩代わりされる。
「ディフェンダーがきっちり守ることで、味方が攻撃に専念できるのであります!」
 宣言するように宣うクリームヒルト。ここは通さないとばかりにドリームイーターの前に立ちはだかる。
「クラッシャーか!」
 ドリームイーターの強力な一撃に、攻撃手であることが予想される。体力が二倍になるディフェンダーでなかったのは幸いか。
「人の想いを利用する奴は許さない! 今ここでその野望、砕いてみせるぜ!」
 ハインツが放つブーツからの流星の煌めきと重力の合わせ技。確実に攻撃が当たることでドリームイーターの体力を減らす。ハインツの傍らのオルトロス、チビ助も同じ立場として戦う。口に咥えた武器でドリームイーターを切り裂いた。
「6分!」
 ダイアンからカウントダウンの声。
 瞳に宿る青い地獄の炎を手刀に纏わせるレーン。鋭い一撃としてドリームイーターへ振り払う。一撃は重くドリームイーターの体力を減らした。
 次に動くのはクリームヒルト。エアシューズから放たれる、重力と流星の煌めきでもってドリームイーターを攻撃する。運よく、ドリームイーターが足止めをくらう。これで攻撃は当たりやすくなるはずだ。
 クリームヒルトと共にディフェンダーとして動くボクスドラゴン、甲竜タングステンが傷ついた主へと属性インストールを行う。
「これで!」
 前衛の味方たちの背後にカラフルな爆発が起こる。凛の放つブレイブマインで味方の攻撃力を上げる戦法。ジャマーとして立った凛の破壊力上昇の加護は三重にも重ねられた。
「三千世界、何処であろうと逃しはしない」
 構えた日本刀で敵を確実に捉える宗玄の無間縫陽。観察眼と経験による未来予測、壱を零にする神速の踏み込みから繰り出される不可避の一撃。身を捩り逃げようとしたドリームイーターに追い縋り、捉えた。鋭い突き攻撃がドリームイーターの体を貫く。
「5分!」
 ダイアンの声に、僅かに頷いた叢雲が味方前衛へ、装備したオウガメタルの全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、命中率を高くする加護を与える。
「短冊に込められた願い……守ってみせる。私達、皆の力で!」
 ゾディアックソードを地面に突き刺し、守護星座を描くダイアン。光は前衛の仲間たちを包み込み不浄の耐性を付与する。傍らの真っ黒なシャムネコ、ウィングキャットのマックロが翼を羽ばたかせて中衛の仲間へ不浄の耐性を付与した。
「4分!」
 エンチャント、耐性共にケルベロス達を完璧なまでに包み込む。
 勢いそのまま、前衛のコクマが再び動いた。
「我が手に従うはスルードゲルミル! 天地創造を司りし巨人の身より削りだした我が神器にて果てる事こそ貴様の生まれた生涯最大の誉れと知れ!」
 『力の叫び』の意が込められた、コクマが自作した鉄塊剣。刀身に青白い水晶の刃を纏わせて巨大剣化させると、そのまま敵に突撃して真横に薙ぎ払いをしドリームイーターを両断する。
 エンチャントを重ねた攻撃はまさに一撃必殺。
 攻撃を与えながら、コクマはダイアンのカウントに耳を澄ましていた。確実に押し切れるか、否か。時間は刻々と迫ってきていたが、ケルベロス達の準備も整っていた。
 押し切れる。心のどこかでコクマは確信する。
 それは戦場を共にしている仲間たちも確信していた。

●参
「3分」
 ダイアンのカウントは続く。
 ドリームイーターは一体。こちらは8人、それにサーヴァント達。
 戦況はケルベロス達に有利だった。
 ドリームイーターが動く。自らを癒す行動。モザイクと散らし傷を癒した。『ゆずのゆめ』。優しい記憶の中で、優しい思い出を蘇らせて。
 その行動でドリームイーターが傷ついて瀕死であることは明白。あとは押し切るだけだ。
「破っ!!」
 レーンのパイルバンカー・テスタロッサが放たれる。腕部に内蔵された超合金製のパイルを50mm火薬カートリッジで射出する、シンプルだが非常に強力な一撃。
 その一撃でドリームイーターはぐしゃぐしゃにされた短冊と笹を残し、塵となって消え去った。
 後に残るのは静寂。
 モザイク落としの一旦を担う作戦はここに阻止された。

●四
 ドリームイーターに飲み込まれた笹と短冊を片付けながら、ハインツは過去を思い出す。かつてデウスエクスから救えなかった少女とその家族のことを。
「どうか、君と君の大切な人が幸せでありますように」
 ここにはいない『ゆず』とその母が幸せであるように。
 隣でヒールグラビティをかけるダイアンはさっさと終わらせたい一心。傍らに浮かぶマックロは、ダイアンに寄り添うように飛ぶ。
「ボクにはマックロがいるから」
 ふっと浮かべた笑顔は安らかなものだった。
 ヒールを終え、備え付けられた短冊を書くためのテーブルで一人願い事を書く叢雲。
「旅団の皆や友達と一緒にいられる時間がいつまでも続きますように」
 大切な人達とずっと一緒にいられるように、苦楽を共にできるように。
 凛もライドキャリバーと共に建物をヒールして回る。
 ここにはいない『ゆず』と母親のためを思うのは、レーンとコクマだ。どうにかして『ゆず』の身元を確認できれば、と思ったが、元々イベントで訪れた家族が書き残した短冊の微かな願い。住所録などはなく、『ゆず』がどこの家の子かはわからない。
(「きっと『おねがい』かなうから」」)
 レーンはここに『ゆず』がいれば、豊かな胸に抱き寄せ安心させたかった。コクマも同じ、『ゆず』をどうにかして救いたかった。
 叢雲が飾った短冊が風に揺れる。
 短冊の願いは天の川にのせて、いつか願った者に届くのだろうか。

作者:狩井テオ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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