七夕モザイク落とし作戦～死のミュージックパレード

■リプレイ

●デスパレード公演前
　７月７日、七夕。
　織姫と彦星が再開の喜びを噛みしめる中、下界のとあるショッピングモールでは慌ただしくも避難誘導が行われていた。
　ドリームイーターが到着するまでに少しだけ猶予があるようだが、それでも１分１秒が惜しい。自身の翼を用いて仲間より先に離陸した３人は、人々を避難させるべく声を張り続けている。
「みなさん、ここは戦場になります！ すみやかに避難を！」
　遠之城・鞠緒（死線上のアリア・e06166）の服装は、異国の姫の風貌を漂わせるライブ衣装。ドレープ状のドレスは天の川をイメージさせ、シルク生地に彩られる花は水色の牡丹、すなわち彼女を象徴する花片。
　七夕という年に１度のイベントを楽しんでもらうべく、戦闘に勝利した暁に七夕ライブを鞠緒たちは開催するようだ。
　幼い少女が、シマツ・ロクドウ（ナイトバード・e24895）の目の前で転倒。少女の表情は痛みや恐怖で崩れそうになるが、シマツが手を差し伸べる。
「立てますか？」
　シマツの笑顔に安心したのだろう。「うん♪」と少女は感謝を示しながらも立ち上がる。
　老若男女分け隔てなく見せるシマツの笑顔は、人々の負の感情を拭い去る。感情の起伏が乏しい彼女にとって、笑顔こそが素の表情なのだろう。例え敵であろうと笑みを崩さないのだから。
　シマツと少女の前に現れるのは、飛行部隊最後の１人、赤羽・イーシュ（ロックロッカーロッケスト・e04755）。
「ロック、安全な場所まで連れて行ってやれ」
　ボクスドラゴンのロックは主人の命令に「ぎゃお」と二つ返事で、少女のエスコートを開始。
　少女とロックを見送ったあと、自然とイーシュの視線は中央にそびえ立つ笹の木へ移る。
「七夕、か。人の願いを食いモンにするドリームイーターにゃあ、まさにお誂え向きの行事ってか。……冗談じゃねぇ」
　本日が１８歳の誕生日のイーシュにとって、ロクな誕生日ではない？
　いや、逆だろう。このような日だからこそ、破天荒でロックな彼らしい１日と言えるだろう。
　他の仲間たちも現場に到着。そのメンバーの中にも１人、本日が誕生日だという者がいる。その者の名はシヲン・コナー（清月蓮・e02018）。
「折角の誕生日だっていうのに……」
　イーシュと相反してシヲンはうなだれている、というわけではなく、うなだれているのはシヲンの後ろを歩いているルア・エレジア（まいにち通常運行・e01994）。
　シヲンの無二の親友であるルアが、本日をどれほど楽しみにしていたことか。そんな大切な１日を、ドリームイーターに食われてしまえば悲観的にもなるのも仕方がない。
　シヲンといえば、相変わらずにドライ。
「誕生日とはいっても、背中に『07/07』と入力されているだけだろう」
「えー、でもさぁ……、ん？　どうしたの、ぽらりん」
　ルアの裾を引っ張るのはボクスドラゴン『ポラリス』。
　ポラリスはこれを見て欲しいと、フロアマップの一角を指差す。
　「あ……！」、と驚いた後、ルアの表情が一気に晴れやかになる。
「スイーツショップだ♪　シヲン！　誕生日ケーキを買おう！　買い占めよう！」
　よだれを今にも垂らしそうなルアとポラリス。
　自分たちが食べたいだけではないのかと言いたくなるが、自分のためだということもシヲンは重々理解している。
「分かった分かった。七夕ライブのときに皆で食べよう」
「やったー♪」
　下がっていた士気をルアは一気に取り戻し、避難誘導を再開していく。
　不測な事態に備え、ドリームイーターが現れるであろう空調のダクト付近を警護するのは、富士野・白亜（白猫遊戯・e18883）と望月・みゐ子（雑食系草食動物・e29095）。
「もうすぐここは危ないから誘導に従って逃げろ」
　白亜の声は割り込みヴォイスによって、フロア全体へと響き渡る。
　好奇心旺盛ながらも気まぐれな白亜は、短冊に願い事が書けるブースを遠目で眺める。
　そんな白亜の背中に、みゐ子は尋ねてしまう。
「白亜ちゃんは願い事になんて書くの？」
　少し耳をヒクつかせながらも白亜は振り向き、一考。
　そして、
「煮干しが食べたい、かしらね」
　気まぐれだからこそ、ギャグなのか真面目な発言なのかは読めないものの、さすがは猫のウェアライダーと言ったところだろう。
　サバ缶が大好物のみゐ子も思わず、願い事を「世界平和」から「サバ缶が食べたい」に変更してしまいたくなってしまう。
　悩んでいるみゐ子に、白亜は
「好きなだけ書けばいいんじゃないのか？」
　まさに目から鱗と言ったところだろう。
「なるほど……！　そうするの！」
　胸のつっかえが無くなり満足するみゐ子の周りに、避難誘導を完了させたメンバーが続々と集まってくる。
　駐車場の避難誘導を完了させた黒鳥・氷雨（何でも屋・e00942）は半分以上吸い終わったタバコを、さらに大きくも吸い込む。
　そして、呼吸とともに細くも長い煙を空調へと吹きつけると、煙は真っ直ぐと上がり続け、そのまま空気へと溶け込んでしまう。
　空調が作動していないのは明白だった。
「既に入り込んでいるようですね」
　氷雨の行動を理解した鞠緒が呟いたときだった。
　鞠緒のウイングキャット『ヴェクサシオン』が総毛立ち、臨戦態勢。
　その理由は、ダクトからモザイクが染み出てきたから。
　床一面にダラー……、とゲル状の半固体が広がっていき、意思を持った化物、３メートル級のドリームイーターへと姿を変える。
　氷雨は新しいタバコを加え終わると、愛銃のリボルバーを握り締める。
「人の欲の写し身といったところになるのかね。ま、どんな存在にしろ、害をなすならば排除させてもらう」
　ドリームイーターの咆哮とともに、７分間の攻防が開幕する。

●開幕
　先手を打つのはドリームイーター。
　射出された刃状のモザイクは、不協和音を奏でながらもケルベロスへと襲いかかる。
　仲間を守るべく、イーシュが斬撃の全てを己の身体にて受け持つ。傷口からも尚、悲鳴を上げるモザイクがイーシュの鼓膜を刺激。それでもイーシュは退かない。
　それどころか、自身のバイオレンスギターにオウガメタルを纏わせ、ドリームイーターへと叩きつける。
「利かねぇよ！　そんな悲鳴は音楽じゃねぇからな！」
　イーシュに賛同するかのように、ルアもドリームイーターの頭部目掛けて跳躍。
「ホントだよ、雑音じゃないか！」
　鉤爪状に構えた手を、ブラックスライムによって巨躯な得物に変化させ、
「火力重視でぶっ潰す！」
　怒りに身を任せた一撃が、ドリームイーターの頭部を吹き飛ばす。
　ベチャ、、、とモザイクの頭が床へと落下。そのモザイクの破片はまだ意識があるらしく、叫びながらも後衛陣へと襲いかかる。
　ドリームイーター本体に意識がいっていた氷雨は、ワンテンポ攻撃が遅れてしまう。
　にも関わらず、氷雨は冷静。
「遅ぇな」
　早撃ち。氷雨のクイックドロウが、敵の攻撃速度を上回る。
　ドリームイーター頭部の額に突き刺さる弾丸が、頭部をただのモザイクへと変えることに成功。
　奇襲に失敗したモザイクは本体に戻ろうとするが、氷雨のライドキャリバー『宵桜』が許してはくれない。
　車体を高速回転させ、モザイクは本体に帰ることなくすり潰され蒸発。
　やむを得ないと、ドリームイーター本体からは不快な音を立てながらも新たな頭が形成されていく。
「もう少しそのままでいてくれないか？」
　シヲンが手榴弾のピンを外すと、そのままに上空へと投擲。
「ポラリス頼んだよ」
「ぷきゅー！」
　宙高く舞った手榴弾を、ポラリスが尻尾によるサマーソルトにてスパイク。手榴弾の軌道が大きくも変更され、ドリームイーターの生えかけの頭部へと突き刺さる。
　そして、爆発。
『！？　ぁぁぁ……！』
　シヲンのグラビティと火薬が化学反応を示し、けたたましい雷撃、『雷神の弾丸』がモザイクの身体中へと迸る。
　死後硬直するかのように、ドリームイーターの時間だけが止まる。
　中衛陣は一斉に動き始める。
「どうも、ドリームイーターさん。シマツです」
　頭部の欠損したドリームイーターに聞こえているのか分からない。それでも律儀にも笑顔にて挨拶を交わすシマツが、チェーンソーを高鳴らせる。
「ズタズタにします」
　異様な光景だろう。敵であろうと、笑顔のままにチェーンソーを振り乱す少女の姿は。
『ぁぁぁ～～～！』
　ようやく頭を再生させたドリームイーターが、声にもならぬ声で叫ぶ。
　呼応するかのように、四方八方に散らばったモザイクが礫へと姿を変化。これ以上は身体を削らせないと、モザイクの多弾砲がシマツを後方へと弾き飛ばす。
　吹き飛びながらも、シマツは笑顔を崩さずに仲間へ合図。
「今です」
「グラインドファイアなのっ！」「燃え尽きるといい」
　みゐ子と白亜が同時にグラビティを発動。そして、地面に散らばったモザイクへ炎の塊を浴びせていく。
　モザイクは嫌がるように本体に戻ろうとするが、奔流する灼熱の海によって行き場を失い、そのままに炎へと飲み込まれていく。
　ドリームイーターの大きさは、明らかに邂逅時よりも小さくなっていた。
　それでも油断はできない。制限時間以内に倒せなければ、モザイク落としの資源になってしまうのだから。
　戦闘態勢を整える一同の聴覚に届くメロディは、鞠緒によるもの。
　洗練されたソプラノが、どこまでもどこまでも伸びていく。
「鞠緒、本当の音楽を教えてやろうぜ」
　イーシュも自然とバイオレンスギターを動かしてしまう。
　命を題材にした歌詞の１フレーズ１フレーズに魂が込められ、大広場というホールに、純白な羽が降り注ぐ。
　鞠緒の美声とヴェクサシオンが降らす羽は、仲間たちの心を平穏にしていくだけではなく、ダメージまでもを塞いでいく。
　歌い終えた鞠緒に、スタンディングオベーションはない。
　その代わり、英気を養った仲間たちはドリームイーターとの戦闘を再開していた。

●終幕
　みゐ子はスマートフォンにて冷気を帯びたエネルギーを放射。放射後、すぐさまディスプレイを確認し、仲間に報告。
「残り２分なの！」
　ケルベロスが焦っているのに対し、ドリームイーターも逃げ切るために必死だった。そして、間近にいるルアにターゲットを絞る。最も攻撃力の高いルアを始末すれば、後はタイムアップまで粘れると判断したのだろう。
　特大のモザイクを叩きつけるべく、ドリームイーターの両腕が振り上げられる。
　ルアは１度下がろうとしたが、ドリームイーターの両腕が突如爆破したのを確認。
　それは氷雨のサイコフォースによるもの。丸太のようなドリームイーターの腕を、枯れ枝のように細くさせることに成功する。
　短くなったタバコを吐き捨てながらも氷雨は叫ぶ。
「突っ込め！」
　ルアは後ろに傾けていた重心を、一気に前へ。
　ドリームイーターは弱体化しようとも両腕にかき集めたモザイクを、ルア目掛けて叩きつける。
　ルアの全身がモザイクに包まれる。が、重力を一点集中させたルアの拳が、放たれたモザイク、さらにはドリームイーターの身体へと迫る。
「皆の夢を返せぇぇぇ！」
　拳の勢いは止まらない。ついに、ドリームイーターの身体へ巨大な風穴をこじ開けた。
『っぁぁぁ～～～！』
　防御体制だったロックとポラリスはすかさず攻撃体制へシフト。散らばったモザイクをブレスにて焼き払っていく。
　敵の野望を燃やしていく。
『……オレノ、夢ガ、……』
　ぼっかりと穴の空いたドリームイーターに、身体を治す余力は残ってはいない。ただうわごとを吐くことしかできない。
　だからこそ、白亜に攻撃されたことにも気づかない。
「モザイク落としなんかさせない」
『ぁぁぁ……！』
　ドリームイーターの全身が炎に包まれ、狂い続ける。
　ついには消し炭へと姿を変えてしまい、７分間の攻防が終了した瞬間だった。
　大広場が静まり返る中、白亜は足元にてあるモノを発見する。
　それは半分以上が灰になってしまった短冊。ドリームイーターに取り込まれていたものだろう。
　今日という日が特別な１日でなければ、気まぐれな彼女は何もしなかったかもしれない。
　灰となって散っていく短冊に、白亜は黄金色の炎を注いでいく。『燃やす』のではなく『癒す』力を帯びる炎は、みるみるうちに短冊を元の状態に戻していく。
『びあのこんくーるでじょうずにえんそうしたい』
　そう書かれた短冊を掴みながらも、白亜は笹の木に向かって歩きだす。
　
●天の川ラプソディ
　ショッピングモールは完全に修復され、施設内には多くの人々が戻りつつある。
　七夕ライブの特設ステージ前。笹の木の周りにはテーブルや椅子が並べられ、カップルや家族、友人などが今か今かとライブを待ちわびていた。
　既にオーディエンスの１人である氷雨は、ベンチに腰掛けながらも店で購入したウイスキーを嗜む。
「仕事のあとはやはりこいつに限る」
　ゆっくりとアルコールを身体に染みこませていく氷雨に対し、とあるテーブルが騒がしい。
「シヲン誕生部おめでとー♪」
「ありがとう。……それにしても買い過ぎだよね？」
　テーブルに敷き詰められたケーキは満漢全席と言わんばかり。カットタイプのケーキからタルト、ババロア、ムース……。おまけに他店のカップアイスまでも取り揃えているようだ。
　ルアとポラリスとしてはペロリと平らげられるようで、
「平気、平気！　な、ぽらりん？」
「ぷきゅー♪」
　シヲンはルアに付いたクリームを拭いながらもため息づく。
　そして、微笑んでしまう。
　どっちの誕生日か分からないな、と。
　笹の木の裏にて。イーシュ・鞠緒・みゐ子たちは、今からどんな曲を披露するか話し合っていた。
　三者三様の意見は粗方まとまったものの、何を演奏するかまでは決まっていない。
　音楽系統が異なるだけでなく、即席チーム。各々に何ができるかを完璧に把握できていないのが原因だろう。
　時間は刻々と迫ってしまう。
　思わぬ救いの手が後方から差し伸べられる。
　その正体はシマツ。
「皆さんで即興を奏でられてはいかがでしょうか？」
　３人が首を傾げようとした刹那、笹の短冊たちが突如輝きを発する。その原因はシマツが召喚した、情報の妖精さんによるもの。
　妖精は何十、何百とある願いをコンパクトに凝縮し、小さな小さなギフトとして３人へとプレゼントする。
　受け取った３人へと一瞬で入り込んでくる人々の願い。短冊に込められた１つ１つの願い、文字に込められた１つ１つの意味を噛み締めるように理解してしまう。
　全ての情報が入り込んだ３人は、顔を見合わせながらも何も話し合わない。それでも自信に満ちた表情で大きく頷けば、相棒である楽器やマイクを握りしめ、観衆の前で演奏を開始する。
　観衆の反応は言うまでもない。
　笹の木の頂上では、みゐ子の願い『たくさんの人を救えますように』と書かれた短冊が揺れていた。

作者：凪木エコ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 6／キャラが大事にされていた 1
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