七夕モザイク落とし作戦~願いは『せいぎのひーろー』

作者:柊透胡

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

 ――せいぎのひーろーになれますように。
 きっと、字を覚えたばかりなのだろう、拙いひらがなで書かれた短冊は、子供らしい夢に溢れた願い。
 そのモザイクの卵が選んだ、七夕の願いだ。
 ――――トゥッ!!
 数多の短冊をその内に取り込み、モザイクの卵は、孵る。
 既に先生も退勤した夜の幼稚園。人気の無い園庭に勇ましい掛け声と共に出現したのは、体長3mにもなるだろう、大きな人型だった。
 全身がモザイクに覆われている為、詳細は判然としないが、恐らく、派手なコスチュームを身に纏い、胸にはヒーローのシンボルマークが燦然と輝いているのだろう。
 ――正義のヒーロー見参! さあ、悪人共、この俺が相手だ!
 かっこよくポージングしたまま、『悪人』を待ち構える『正義のヒーロー』――もとい、ドリームイーター。
 襲い来る悪人はやっつける! それこそが『正義のヒーロー』なのだ!
 巨影が仁王立ちする園庭の片隅には、幾つもの七夕の笹飾りが静かにそよいでいた。

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達を見回し、都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は静かに口を開く。
「ドリームイーターによる、七夕を利用した大作戦が判明しました」
 その名も、七夕モザイク落とし作戦――ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)を始めとする、多数のケルベロスが予測・調査したお陰で、事前に察知出来たのは幸いだった。
「どうやらドリームイーターは、鎌倉奪還戦の際に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び企んでいるようです」
 モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する事になる。大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる事は予想に難くない。
「敵は、残存するモザイクの卵を利用します。日本中の七夕の願いをドリームイーター化。そのドリームイーターを生贄にして、モザイク落としのエネルギー源にしようと目論んでいます」
 七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現してから7分間で、自動的に消滅する。モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまうのだ。
「ですから、皆さんには、7分以内にドリームイーターの撃破をお願いします」
 モザイクの卵の1つが孵るのは、東京都内にある幼稚園の園庭。どうやら、『正義のヒーローになりたい』という願いを吸収したドリームイーターらしい。
「格闘が得意なヒーロー、という設定でしょうか? 超硬度の拳で敵を守りごと撃ち抜き、闘気を纏った鋭い飛び蹴りを放ちます」
 或いは、胸のシンボルマークが燦然と輝き、敵群の戦意を挫くようだ。
「万が一、ドリームイーターを7分以内に撃破できなかった場合、消滅してしまうので撃破が不可能となります。今回発生するドリームイーターは、その場に留まって7分間待機する為、周囲に被害が出る事はありませんが……各地に出現する七夕ドリームイーターの過半数を倒せなければ、モザイク落としは実現してしまうでしょう」
 逆に、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなると予測されている。
「モザイク落しは何としても阻止せねばなりませんが……これは、好機でもあると考えます」
 ドリームイーターを完全に撃破出来れば、現在起きているモザイクの卵による事件を根絶させられるのだから。
「どうせならば、完全成功を狙いたい所ですね……ケルベロスの皆さんの、健闘を祈ります」


参加者
篁・悠(黄昏の騎士・e00141)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
黒田・稔侍(ブラックホーク・e00827)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
黒岩・白(お巡りさんは働かない・e28474)

■リプレイ

●正義のヒーロー?見参
 昼間は園児の歓声で賑やかな都内の幼稚園も、深夜は周辺一帯も含めてひっそりと。
「それにしてもさ、ドリームイーター相手にも7分勝負とは一体……」
 敵が園庭に出現するまで、今暫く――巨大ロボ型ダモクレスとのタイムアタックを知る霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は、苦笑混じりに呟いた。寄り添うボクスドラゴンのたいやきが、我関せずでお夜食中なのが微笑ましい。
「趣味悪いよな。ガキ共の願いまで悪用するたァ」
 それとも単に節操がないだけか?――七夕飾り揺れる一角を見やり、ぞんざいに肩を竦める志藤・巌(壊し屋・e10136)。
「……まァいい、悪夢は断ち切る。夢は夢へと還ってもらおうか」
「悪夢、か……正直、僕まで仕事が回ってくるのは予想外だったっス」
 自称『頑張らないお巡りさん』黒岩・白(お巡りさんは働かない・e28474)だが、緩い口調に反して、縛霊手はめた拳に力が篭る。
(「僕も小さい頃正義の味方に憧れて、夢が叶ってここにいるっス。今度は僕がみんなの夢を守る番っスね」)
 ――――トゥッ!!
 果たして、勇ましい掛け声と共に出現したのは、体長3mの大きな人型。
 常夜灯のみならず、ケルベロス達が用意した光源が異様を照らす。恐らく、派手なコスチュームとマスク。かっこいいポージングで大いに張る胸には、ヒーローのシンボルマークが輝く筈だろうに。
 その全身がモザイクに覆われており、詳細は判然としない。
「ヒーローを名乗るにはちょいと上っ面だけのようなやつだな」
 帽子の下から双眸を眇め、黒田・稔侍(ブラックホーク・e00827)は皮肉げに肩を竦める。
「子供の夢ならそんなものか」
「あら、子供の夢は大切にしてあげなきゃ」
(「折角の子供の欲望……願望としておくべきかしら。こんな歪に利用されるなんて、勿体無いもの」)
 本音は艶然とした微笑で隠し、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)は右腕に攻性植物、左腕にオウガメタルを籠手のように纏う。
 ――正義のヒーロー見参! さあ、悪人共、この俺が相手だ!
「笑止だな、偽りの英雄……!」
 挑発めいたドリームイーターに、白のタイを翻し、蒼いセーラー服の少女は鋭く言い放つ。
「正義を騙り姿を取り繕おうと、そこに信念が宿らなければ無価値であると知るがいい」
 見る見るタイはマフラーに、セーラー服は凛々しい戦闘服に。声高らかに見得を切る篁・悠(黄昏の騎士・e00141)
「人それを、『偽り』と言う!」
「偽ヒーローよ、本物のヒーローが相手だ!」
 鴉の意匠施された漆黒の全身装甲が、暗がりより現れる。ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)――その姿、正に黒影の重騎士。
「ああ、子供のささやかな願い、惨劇の生贄にさせてたまるかよ!」
 意気軒昂に叫び、腕時計のアラームをセットするロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)。眼前に聳え立つヒロイックな姿に思う所はあれど、子供達の夢を悪用されるのは許せない!
「ドリームイーターどもの悪巧み、オレ達がきっちり阻止してやるぜ!」

●序盤を礎に
「ヒーロー願望でありながら、やってる事は人々を混乱に招き不幸にする事。こういうのを歪んだ欲望って言うんでしょうね」
 逸早く、デジルから放たれた弾丸は、黒き悪夢の塊。
「欲望が指針ではなく手段になっている……私としては、許せないわね、うん♪」
 ――くっ!!
 夢食いが見る悪夢とは、どんなものか。歴戦のデジルが植付けたトラウマだ。敵の体力を削ぐ大きな力となるだろう。
 だが、他のケルベロスがが動くより速く、ドリームイーターの胸のエンブレムが輝く!
 ――正義のヒーローは負けない!
 デジルの、クラッシャーの武威に脅威を覚えたか、標的は前衛の3名+サーヴァント1体。光の奔流に圧倒されながらも、ジョルディは一気に肉薄する。
「我が嘴と爪を以て……貴様を破断する!」
 ガキィッ!!
 鉄塊の如き巨大戦斧を振り下ろす。力自慢の一撃は、しかし、交差した腕のブロックに阻まれた。
「ピスケスよ輝け! 勇者の戦いに勝利を!」
 元より格上のデウスエクス。敵のプレッシャーは脅威だ。すかさず、地面に守護星座を描く悠。メディックとして前衛が被った厄を払うのみならず、星辰の加護を前衛達に齎す。
「さぁみんな、ガンガンやろうぜ!」
 同時に、ロディと稔侍の制圧射撃が火を噴いた。
「……」
 無言でバイザーを下げるカイト。命中率は、眼力で知れる。今回は実戦経験が豊富な者が多い。さして、足止めも要しない印象だった。
 しかし、制圧射撃は範囲攻撃。単体を足止めするには些か不安定だ。長期戦も叶うなら根気よく弾幕を張れば良いが、今回はタイムアタック。一撃も疎かに出来ない。
 ――――!!
 故に、支援はたいやきに任せ、カイトは地を蹴る。流星の煌めきと重力宿す飛び蹴りが炸裂すれば、愛犬の名を呼び拳を握る白。
「変身! なんて……気合入れていくっスよ、マーブル!」
 オリジナルグラビティを使えば、白も姿を変えられるが……その技は活性化していない。代わりに狙い付けた地裂撃が、文字通り大地をも割らん勢いで繰り出された。
 幾つかの足止めを経て、巌のルーンディバイトも巨躯を捉えるに至る。だが、その表情は芳しく無い。
「くっそかてぇな、おい」
 巌の呟きは、ケルベロスの誰しもが感じていた事。となれば、このドリームイーターのポジションは――ディフェンダー。ダメージ半減の構えは、時間制限ある今回は脅威となる。7分間耐え切れば、ドリームイーターの勝利なのだ。
 如何に大ダメージを短時間に叩き込むか――ロディのアームドフォート『ファイヤー炎神』の砲塔が、ドリームイーターに標準を定める。
「ターゲットロック! 奔れ、青い流星!」
 冷凍ビームが迸る。真っ向から腹を撃たれ、ビキビキと凍りつく巨躯。
「砕けぇッ!!」
 すかさず、裂帛の気合で繰り出される悠の雷刃突。肉迫したカイトが高速演算を以て痛撃すれば、息を合わせた白はスピニングドワーフを敢行。被弾する度、時にドリームイーターは氷結に苛まれる。
 『トラウマ』にしろ『氷』にしろ、与ダメージを増やすバッドステータスは、『服破り』との合わせ技で、確かに効果的だろう。
 更に巌のジグザグラッシュが奔れば、モザイク削られた全身に新たな亀裂が幾筋も入る。
 ――正義のヒーローフライングアタック!
 ドリームイーターの飛び蹴りがクラッシャーたるデジルに飛ぶも、辛うじてたいやきが阻んだ。何かあんこらしきが飛び散った気もするが……たいやき自身は、きっとまだ大丈夫。
「ありがとう、たいやきちゃん」
 デジルは舞うように右腕を一振り。蔓触手形態に変じた攻性植物は、敵を締め上げんとのたくり奔る。
 一見、無造作な稔侍の跳弾射撃は、その実、計算し尽されて戦場を巡る。ジョルディの斧刃は、彼の長身をして仰ぐ程に高いモザイクに覆われた脳天目掛けて打ち下ろされた。

●一進一退
 ――正義のヒーローは負けない!
 戦況は序盤からケルベロスの優勢と言えた。だが、ドリームイーターはまだまだ余力が有りそうだ。
 胸のエンブレムが再び輝き、眩い光が前衛達を圧倒する。
「この痛みも、悲しみも、俺が壊してやる」
 迷砕の氷華――カイト自ら、重い圧力が凍り付き粉砕される感触を覚えた。クラッシャー達を窺えば、同じくホッとした風情か。更に、悠がルナテッィクヒールでダメージ嵩むたいやきを癒している。
「今回はスピード勝負だからな。お前はそこで足踏みしていろ」
 これ以上、プレッシャーを掛けられるのも面倒だ。稔侍が再び弾幕を張れば、白も地裂撃を叩き付ける。同時に爆ぜるロディのサイコフォース――敵の火力を封じれば、その分ヒールの一手を攻撃に回せるようになる。
 バッドステータスを丁寧に積み上げ、じわりじわりと、ドリームイーターを封殺していくケルベロス達。それでも、ドリームイーターの鉄壁の守りは圧倒的だった。
(「守りは、重騎士の本分であろうに」)
 内心で歯噛みするジョルディ。ダメージの程は眼力をしても見抜けない。だが、悠然とポージングするドリームイーターは、ケルベロスの猛攻にも然したる痛痒を感じていないように見えた。
 クラッシャー2人はけして少ないとは言えぬ編成。だが、今回の編成で最多のスナイパーの火力は命中率の高さからの痛打に因る所が大きい。バッドステータスは常に発動するとは限らない。戦線崩壊しない限り、敵のブレイク技も後衛に届かないとなれば。狙アップにしろ壊アップにしろ、ジャマーである巌は範囲エンチャントも考慮に入れて良かったかもしれない。
 一撃も無駄に出来ぬタイムアタック――効率を突き詰める余地はまだ有りそうか。
 デジルの戦術超鋼拳が炸裂し、たいやきのボクスブレスがその軌跡を正確に辿る。
 心なしかあんこの甘い匂い漂う中――デジルは悠然と挑発を投げる。
「ほら、かかってきなさい、ヒーローさん……尤も、願った子にしてみれば、今の貴方は間違いなく悪役でしょうけどね!」
 ――正義のヒーローフライングアタック!(どうでもいいけど、いちいち技名を叫ぶのである意味判り易かった)
 応酬の飛び蹴りは今度こそデジルに突き刺さった。応酬の応酬にデジルより鬼気帯びた銀の蛇髪が迸るも些かパンチが足りぬ感触。
「今、気力を!」
「キュアはメディックに任せろ! カイト君は出来るだけ攻撃を!」
 カイトに先んじて、再びルナティックヒールを編む悠。中盤に来て、ヒール支援に2人も回っていては、恐らく間に合うまい――過った嫌な見立てが現実とならぬよう、ケルベロス達は可能な限り、ドリームイーターを穿ち続けた。
 縦横無尽に奔る稔侍の跳弾射撃。ロディのブリザードストームが荒れ狂い、巌のルーンディバイトが唸りを上げる。白のスピニングドワーフが巨躯に突き刺されば、クラッシャー2人のジグザグ技が交錯し、傷口を抉り広げた。
 それでも、まだドリームイーターは怯む素振りすらない。
 ――正義のヒーローパンチ!
 敵の火力を嫌うドリームイーターは案の定、ルナティックヒールに力付けられたデジルを狙うが、今度はカイトが庇い受けた。
 ――――ピピピピッ!
 カイトの遠隔爆破が爆ぜた瞬間、響き渡るアラーム音。ハッと碧眼を見開いたロディは、咄嗟に腕時計を探る。
 ――タイムリミットまで、残り2分。

●願いは『せいぎのひーろー』
「叩き込むぜ、オレ達のありったけ!」
 敵は必ず倒す、そんな決意を込めたロディのサイコフォースに続き、得物を構え直すケルベロス達。
(「時間制限がある以上、私の役目は攻撃する事ね♪」)
 只管に、攻撃のみに集中する――再び、デジルの銀髪がうねり波立つ。
「これ以上、逃がさない♪ 降魔拳が秘技、鬼気一髪!」
 稔侍の降魔真拳を縫うように、死角に逃げようとするのも許さず、デジルの秘技は確実に巨躯を貫く。
 ジョルディのスカルブレイカーに僅かなりともよろけながら、この期に及んで、ドリームイーターのエンブレムが燦然と輝く。放出した光は懲りずに前衛を呑み込んだが、すかさず、突き刺さったカイトのスターゲイザーと白の地裂撃が、命中率低下を相殺した。
 幾重にも積んできた厄を、悠の絶空斬と巌のジグザグスラッシュ、たいやきのボクスブレスを以て、これでもかと重ねていく。
 いよいよラスト1分――ここまで来て、ヒールの手は無い。全力でドリームイーターへぶつかっていくケルベロス達。
(「正義の味方……今でも大好きだけど、こいつは違うんだ」)
 ふと物問いたげに口を開くも言葉にならず、思い切るようにアームドフォートを構えるロディ。冷凍ビームをぶっ放す。
「よくも僕に仕事をさせたな!」
 平和であれば警官としてもケルベロスとしても、仕事は必要ない。だから、白は自身が仕事せずに済めば至上と考えている。
 故に、スピニングドワーフの切れ味は積もり積もった怒りで何割か増しているよう。
「さ、元の願いに還りなさい。そして、それが実現する日を待ちなさい……どんな形になりにせよ、ね?」
 艶然と微笑むデジルはさながら「鋼の鬼」。その拳で容赦なく敵の装甲を砕く。カイトも無言のまま、真摯な面持ちで破鎧衝を繰り出す。息を合わせたたいやきのボクスブレスは、とって置きの甘いカスタードの香りがした。
「覚悟を決めろ。この弾丸は必ずお前を撃ち抜く!」
 両手でしっかり銃を構え、狙い撃つ。シンプル故に卓越した技量が如実に顕れる稔侍の一射は、吸い込まれるようにドリームイーターを撃ち抜く。
「はあぁぁッ!! 討魔轟雷! 歯を食いしばれッ! 我が雷を其の身に刻むがいい!」
 神雷舞闘・改――全身に雷気を纏う悠。その一撃は迅雷の速さにて悪鬼を討たんと。
 ぐらりと巨躯が傾ぐ。だが片膝突いて尚、ドリームイーターはまだ倒れない。
「薄っぺらいんだよ、テメエの正義はなァッ!」
 巌の怒声が轟く。ただ構えて、突く。たったそれだけの愚直な拳――だが、金剛砕拳の呼び名に違わぬ一撃は、『正義の味方』という外見のみをなぞった空虚な人型に風穴を開ける。
「ソゥォォォル……エクスプロォォォジョォォォン!」
 そうして――満を持してジョルディの全身より地獄の方が噴き上がる。漆黒の体躯が纏うのは、コアエネルギーと地獄の炎を融合させたという『ソウルフレイム』。一気に肉迫するや、両腕をドリームイーターの巨躯に突き刺す。
 ――正義のヒーローパ……。
「ソウル……オーバー!」
 ドリームイーターが拳を振り上げた刹那を逃さず、ジョルディは持ち得る全エネルギーを注ぎ込む。
 ――――!!
 ドリームイーターの拳が叩き付けられんとした瞬間。内から爆ぜるように巨躯が粉砕される。
 数多の短冊が夜闇に渦を巻き、地に落ちる前に塵と化して消え失せる。その直後――ロディの腕時計が8分経過を告げる。シンプルなアラームは紙一重の凱歌となって、七夕の夜空に響き渡った。

 ――以下、戦い終わって夜も更けて。
「みんなの願いはかなうんスかね? 正義のヒーローなんて必要ないのが一番っスけど」
「……(皮肉ぽく肩を竦める仕草)」
「形だけじゃ、ダメなんだ。見えないモノを……僕たちは見て、其の場所を目指すのだから」
「ま、願いは兎も角、短冊や飾りは作り直しておくか……折角作ったのに、壊れていては嫌だろうし」
「子供達の大切な夢だもんな。取り込まれた短冊が回収出来なかったのは残念だけど」
「ふふ、ドリームイーターはどんな欲望を解放したいのかしら?」
「……降ってくるもの、星だけにして欲しいんだがなぁ(たいやきの代筆に「お腹いっぱい食べたい」という願いを書き付けながら)」
「皆の願い……叶うと良いな(『子供達の願いが叶います様に』という短冊を笹飾りに紛れ込ませて)」

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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