七夕モザイク落とし作戦~永久の交響曲

作者:彩取

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」

●願い
 ――心に残る音楽が、出来ますように。

 音楽を愛する、人達の願い。
 その短冊を取り込んだモザイクの卵から、ドリームイーターが生まれた。
 空の天の川を映したかのように、星の煌めきに染まったグランドピアノ。
 その椅子に座っているのは、青い瞳の少年だった。小さな声で紡ぎあげた旋律を、ピアノの鍵盤で再現して、次々と美しい音楽を奏でる少年。
 しかし、彼の音楽に耳を傾ける者は、誰もいない。
 卵から生まれた少年は独り、誰もいない夜空の下で、七分間の演奏を続けた。
 
●永久のシンフォニア
 ドリームイーターが、七夕を利用してある作戦を行う。
 ジルダ・ゼニス(レプリカントのヘリオライダー・en0029)はそう前置くと、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、多数のケルベロスが予測し調査した結果知り得た情報を、集まったケルベロス達に話し始めた。
「ドリームイーターの作戦というのは、『モザイク落とし』です」
 モザイク落としは、鎌倉奪還戦時に失敗している。奴らは、それを再び起こそうとしているらしい。実行されれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する為、大量のドリームイーターが出現し、日本中が混乱する。その為に、敵は残存するモザイクの卵を利用した。
「日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしています」
 このドリームイーターは、出現してから七分間で、自動的に掃滅する。
 よって、モザイク落としを阻止する為に、この敵を七分以内に倒して欲しい。
 
「皆さんが向かうのは、とある音楽学校です」
 敵がいるのは、正門から真っ直ぐ行った先にある学校の校庭。そこにいるのは、ピアノを弾いているドリームイーターだ。音符や楽譜を飛ばす攻撃は、決して侮れないだろう。
「重要なのは、七分以内の撃破です。倒せずとも、時間が経てば敵は消滅しますが」
 今回現れたドリームイーターの過半数を撃破する事が出来なければ、モザイク落としが実現されてしまう。だが、ほぼ全てのドリームイーター撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は、今後発生しなくなると考えられる。 
「私からは以上です。――どうか、よろしくお願いします」
 人々の願いを、音楽を愛する人の心を、踏み躙らせない為に。


参加者
花道・リリ(失せモノ探し・e00200)
銀冠・あかり(夢花火・e00312)
ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
鮫洲・蓮華(ころころ・e09420)
星廻・十輪子(惑いの一等星・e15395)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)

■リプレイ

●永久に
 音楽学校の庭に浮かんだ、モザイクの卵。
 その中から現れたのは、美しい少年だった。
 短く切り揃えられた金の髪に、綺麗な青い瞳を持つドリームイーター。彼の指先が確かな輪郭を得て、やがて星の輝きに染まったピアノの鍵盤に触れようとした時である。
「お星様が、ピアノに、写ってるの」
「――? ああ、いらっしゃいませ」
 ころりと零れた星廻・十輪子(惑いの一等星・e15395)の声。
 それに気が付くと、少年は微笑んだ。
 視線の先には、駆け付けた八人のケルベロス達。
 その一人、芥川・辰乃(終われない物語・e00816)は速やかに後列に立ち、口で左手の白手袋を装着した。少年を見つめたまま、決意を込めた右手をホルスターに伸ばす辰乃。
 その間も笑んだままの少年に、銀冠・あかり(夢花火・e00312)は呟いた。
「ぁ、あの、俺っ。ここに来る前に……願いを込めてきたんです」
 少年と、仲間達の耳に届いたあかりの言葉。
 彼が家の短冊に込めた願いは、儚く遠い夢ではなく、
「夢を守れますように、って――」
 自分の力で成し遂げたい、確かな決意。
 そう紡がれた瞬間、双方の戦いの火蓋は切られた。
 開幕を告げたのは花道・リリ(失せモノ探し・e00200)が両手に構えたガトリングガンの猛連射。そこにあかりがウイルスカプセルを投射し、辰乃が技量の限りを込めた一撃で斬り込んだ直後、戦場に美しい音楽が響き渡った。
 奏者はひとり、星のピアノに触れた少年。
 その音楽は単なるピアノ曲ではなかった。
 軽く鍵盤を叩いた瞬間、ピアノの音と共に溢れた数多の音色。
 しなやかに響く弦楽器や、煌めく管楽器のファンファーレ。それはまるで、舞台上を埋め尽くすオーケストラが奏でる交響曲のように、彼らの戦場を包んでいく。
「一つ、一つ、が、お星様みたいに、キラキラしてるの、ね」
「素敵な音楽。ちがうかたちで出逢いたかったわ」
 十輪子の囁きを継ぐように、星符の輝きを受けながら紡ぐリリ。
 そうして星廻る音を奏でる少年へと迫ったのは、リリと同じ火力を担う二人――鮫洲・蓮華(ころころ・e09420)と小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)だった。祈りを捧げるように瞳を閉じた瞬間、インド風の衣装を纏った姿に変化した蓮華。その後ろから漂うオーラは、さながら金のもふもふにわとり菩薩の後光だ。
「――もう戦わなくて、ええんやで」
 常とは異なる口調で、諭すように話す蓮華。
 その光が包む場所へと、優雨は疾風の如く直進した。
 モザイクの卵に、誰かの夢を喰らわせる気は欠片もない。
 故に、心通わせたオウガメタルの力を以って、鋼の拳を繰り出す優雨。
「きっちりと、七分以内に終わらせましょう」
 どの道七分経てば、少年は世界から消滅する。
 自分達の介入に関わらず、彼が音楽を奏でる時間は決められている。だが、ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)は影の如き斬撃を繰り出した後、柔らかく囁いた。
「最初で最期の演奏に水をさして悪いけれど――ごめんねぇ、仕事なんだ」
 定められた刻限までに、この演奏に終止符を刻み込む。
 そう宣告するルーチェの横、高らかな発射音と共に放出されたのは、十輪子の構えたバスターライフルの凍結光線。そこに、同じ凍結の一撃を放ったツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)は、朗々と唄を紡ぎあげた。
「汝を彩るは幻想凍花の氷結華。氷片と散りて零れ落ちし花弁は悪夢が残滓」
 災厄を落とす糧とされた、星に託せし数多の願い。
 その清き願いにより顕現した、青い瞳の少年奏者。
 ならば、彼が奏でる旋律に合わせて、今宵この身は舞い踊ろう。
 悪夢による思惑を阻止する事こそ、地獄の番犬たる我らが役目。
 そうしてツェツィーリアは狂々と舞い踊り、白銀の髪を揺らして彼に問うた。
「待ち受けるは氷結地獄。身を裂き責め苛む多量の氷に――何処まで耐えられて?」
 悪夢を幻想と見紛う程に、絢爛なるステップを刻みながら。

●重なる音
 時間制限は僅かに七分。
 対する一同の編成は、非常に前のめりなものだった。
 火力と精度を重視する六人と、攻撃を重視したジャマーのツェツィーリア。唯一治癒に特化していたのはあかりのみで、盾役を担う辰乃のボクスドラゴンの棗と、優雨のボクスドラゴンのイチイが、彼らの負担を軽減しようと、治癒役としても懸命に立ち回っていた。
 植物に纏わる名を持つ、白と緑の彩りを持つ二匹の竜。
 その時、自らに迫った流星を防いだイチイに、優雨は訊ねた。
 否、確認と言った方が正しいだろうか。
「イチイ、敵の弱点は何だと思います?」
 自分達の手順も、次で四度目。
 その中で、より手応えを感じたのは初撃の一撃だ。
 無論、精度を考慮すれば立て続けには放てないが、
「指針になり得るのなら、狙わない理由などありませんね」
 残り僅かな手数の中、この手応えは一つの鍵となる。それを伝える優雨の声に、ルーチェはブラックスライムではなくリボルバー銃を手に構えた。
 皆の夢を守る。そんな正義感、自分には更々ない。けれど、
「夢を見ることに命の危険が伴う世界には……できないなぁ」
 描いた夢が自然と実る世界なんてない。
 ただ、夢を見るくらいは自由であって欲しいから。
「――原罪の口付けを、どうぞ躯で味わって?」
 瞬間、ルーチェの銃口より飛来した一閃は、獄炎の紅を纏う蛇の如し。
 それが少年に絡み付き、極上の葡萄酒のように甘い毒を細い身体に巡らせた時、
「動くが度に責め苛むは乱れ咲く凍結華――」
 ツェツィーリアが軽く地面を蹴り、駆けた。
 愛用のハティを構え、少年へと迫るツェツィーリア。しかし、少年が彼女の軌道を見切る事はなかった。気付いた時には既にブレードが突き立てられ、彼の傷口は大きく横へ。
「さぁ、汝を狩り立てし狼牙からいつ迄逃げ延びられて?」
 対し、少年は笑顔で音楽を奏で続けた。
 瞳を伏して、口遊みながら鍵盤上を滑る白い指。
 それは悪夢の糧にされてもなお、皆の想いが一つ一つ輝いているような、星が瞬くように美しい音楽だった。その音色に、自然と旋律を紡ぎ重ねる十輪子。
 しかし、音をかよわせたが故に十輪子は言った。
「あなたの曲、嫌いじゃ、ない。でも――」
 彼の音楽には、何かが足りない。
 それが何かは、十輪子にも分からない。
 きっと少年に欠けていて、自分が知らない大切なもの。ただ、
「ここで、みんなが奏でる音は、もっと、キラキラしてるはず、だから」
 皆の夢を守る為に、自分がすべきことは分かっている。その思いを胸に、十輪子は勝利の女神の名を冠した歌を、輝く戦場に響かせた。
「誇らしく、翼広げ、勝利の祝賀を」
 勇壮で力強く、天高く舞う鷹の如く翔ける魔力の一閃。
 その時再び照準を定めたのは、前方のリリだった。標的は、星と幻想で創造されたかのようなピアノを弾く、綺麗な瞳の少年奏者。耳に溶ける幻想の調べに、密かに浮き立つ心の片隅。それを決して醸さずに、リリはこう思いを馳せた。
 自分は七夕を意識した事も、願う夢も持っていない。
 しかし――否、だからこそ他者の夢を尊く思い、連綿と続く七夕の日を、悪事に利用する事など許せないと思うのだと。そんなリリが、今宵の風習に準え祈った事がある。
(「――今日の依頼が成功するように」)
 口にはせずとも、その願いはまことのもの。
 瞬間、言葉に代わって轟いたのはガトリングガンの連撃音だ。
 横殴りの雨のような銃弾を浴びた少年。そこに辰乃は銃口を合わせた。
 だが、この弾道では掠りもしまい――そう少年が思った瞬間、辰乃の弾丸は地面に着弾し、弾むように跳ね返った勢いまで上乗せして、死角から少年に直撃した。
「相手がデウスエクスなれば、撃つのに躊躇いは要りませんね……」
 辰乃にとってはいつもと違う、攻撃に徹する役回り。幾分か緊張したように見えるのも、気のせいではないのだろう。けれど、成すべき事は明白だった。
「命を守るだけでなく、願いを守るのも私たちの仕事」
 七夕に集う人々の願いは、正しく輝く宝石だ。
 それが盗まれるのを知りながら、黙って見過ごす事は出来ない。
 故に戦い、故に決意を込めたこの一撃は外さない。
「――非常に、わかりやすいお話です」
 そう語る辰乃の前方で、再び金色の光が輝いた。
 光の中央には、羽毛を思わせる柔らかいオーラで少年を包み込む蓮華の姿。すると、蓮華は祈るように両手を重ねたまま、ぱちりと瞳を開いて少年を見つめた。
 柔らかな表情と共に、重なり合う二人の視線。
 そこに、蓮華はもう一度、この言葉を送り届けた。
「もう争いをやめて、元の祈りに戻るとえぇんやで」
 星の輝きとも異なる光が少年の力を奪い取る中、慈愛の言葉を紡ぐ蓮華。その光が薄れると共に、いつもの姿に戻った蓮華ははつらつとした口調で言った。
「それに、こんな形で願いを利用するなんて許せないからね!」
 その言葉に、小さく頷いたのはあかりだった。
 大切な想いを夜空に願う、夢に溢れた七夕祭り。今宵に限らず、あかりは四季折々の祭りをとても好いていた。幼き頃は無縁だった心躍る街の喧騒や、小気味良い祭り囃子。
 そんな日の一つが、哀しくも怖い悪事に使われるなんて、
「いや、だな……。でも、だ……だか、らっ……」
 だからあかりは願いを胸に、小さな竜達と共に治癒のオーラを放ち続けた。
 心に浮かぶのは、家の短冊に込めた願い。自分が本当に守りたいと思うのは、星の数程いる人々の願いではなくて、己の手が汚れる事さえ厭わない程大切な、心に想う人の夢。そんな風に思う自分が嫌で、嫌と言う程理解している。
 それでも、あかりは思う。哀しいのが嫌なのも、本当だから。
「自分の力で、できることを……やり、ます――!」
 思いが巡る中で展開される、両者の攻防。
 その時、十輪子の元からアラーム音が響き渡った。
「残り二分……皆さん、此処からが正念場です!」
「ここから一気に畳み掛けるわよ。転調ってやつ」
 瞬間、声を張って鼓舞する辰乃に応じるように、リリは踊るように踏み込んだ。
 身体の痛みも、脚の重さも感じさせない程軽やかに。
 全ては勝負となる追い込み――最後の二分間の、先陣を切る為に。

●輝き
 馥郁たる分子を昇華しながら、揺蕩い誘う蜜陽の君。
 今宵、かの君が狼藉者と定めたのは、悪意の贄となる為に生まれた少年だった。蜜陽の君が彼に与え賜うは、指先が悴んだのかと錯覚する程の激しい熱。
 その時、リリはこう言葉を添えた。
「私たちの舞踏に素敵な旋律をありがとう。――さよなら」
 間近に迫った少年の目を見て、少し早い別れの言葉を。そうしてリリが再び間合いを取る最中、代わりに直進したのはあかりだった。
「咲き誇り、舞い吹雪けっ!」
 一振りしたのは、風天の意志を宿した札。
 瞬間、生まれ出た竜巻の中で、少年は桜色の斬撃に襲われた。
 それは捨て身とも取れる、一声攻撃の始まり。対する少年が響かせたのは、高らかに響く治癒の旋律。そこに辰乃と蓮華が続いた直後、ツェツィーリアは唄うように詠唱した。
「月下の舞踏会もいよいよ終幕へ。さぁ、フィナーレと参りましょう」
 これより舞うは終幕のワルツにして、黄昏の訪れを告げし大いなる冬を招く舞踏。
 さぁ、来たれ来たれ、冬来たれ。ステップ刻みて冬来る。そして、
「我が舞踏は汝が鼓動――ご覧なさい。ピリオドはすぐ側に」
 ツェツィーリアは旋律に合わせ、ブレードライフルの引き金を引いた。
 無数の斬撃は群狼の如く、氷結の銃撃は乱舞となって戦場の中心で荒れ狂う。その中で、少年はなおも鍵盤に触れ続けるが、
「みんなの夢、守ってみせる、の。だから」
 十輪子の声に気が付き、視線を少女に向けた。
「だから……あなたはいたら、だめ、なの」
 少年の視界に溢れたのは、衰えを知らない力強い破壊の光線。
 しかし、まだ少年は倒れずに、連撃を浴びながらも再び治癒の旋律を奏で始めた。彼にとっても最後の手順。そこに、辰乃が決死の斬撃を刻み込むと、棗もブレスを放出した。
 この日一番の手応えを得て、刃を最後まで振り切る辰乃。 
「――後、少し」
「諦めないっ、行くよ――!!」
 そこに間髪を入れずに飛び込んだのは、拳に力を込めた蓮華だった。
 皆とならやり切れる。その心から溢れた魔力が少年へと繰り出される。
 すると突然、響き続けていた音楽が微かに掠れた。それを察知してすぐ、鋼の鬼と化したオウガメタルと、封印箱ごと突進するイチイと共に渾身の一撃を撃ち込む優雨。
「七分以内に終わらせる。そう言いましたから」
 それは、本当にあるべき場所へ。
 本当にあるべき人の元へ、夢を還す為の一撃。
 それでもまだ消えない少年の姿に、ルーチェは静かに思いを馳せた。
 音楽を奏でる少年。彼はまるで、奏者であった頃の自分か、弟のようだった。
 とはいえ今のルーチェにとって、その姿は郷愁が過ぎる光景であり、二度と戻れない音楽という名の途切れた夢路が、うつつに現れ出でたようなもの。
 それに終わりを与える為、ルーチェは手袋をはめた手で銃を構えた。
 放たれたのは、獄炎の紅を纏った一閃。その着弾から程なく、少年がピアノと共に溶けるように消えていく。すると、ルーチェは消えゆく彼に囁いた。
 絶やさず浮かべ続けた笑みで、光のように澄んだ声で、
「ベガとアルタイルが再び一年の旅に出るまでの間だけ、覚えているよ」
 君と、君の奏でた七分に満たずに終わった演奏を、確かに自分は覚えていると。

●星空へ
「どうか、音を愛する貴方方の夢が――叶いますように」
 周囲をヒールした後、輝く星に願った辰乃。
 彼女とあかりが星に願ったのは、各地で戦う仲間達の武運と無事の帰還。一方、皆が心地良い音楽を作れるように――そう願いを込めながら、風に揺れる沢山の短冊を見つめる十輪子の横には、撮り込まれていた短冊を笹の葉の元に戻し終えた蓮華の姿が。
「願いから生み出された敵は倒したけど、この願いがちゃんと届くと良いよね!」
 その時、ツェツィーリアとリリが、ふいに振り返った。
 二人の瞳に映ったのは、翼を広げて足先をふわりと浮かせた優雨。
「折角の七夕の夜ですから、行きましょう。イチイ」
 他の卵も、仲間達がきっちり倒してくれている。
 だからもう、今宵は恐ろしい事など起きはしない。
 そうして仲間達への信頼を胸に、優雨は暫しの空中散歩に飛び立った。天の川がよく見える場所まで、夜空を泳ぐように舞う優雨。それを見つめていた十輪子は、先程より少しだけ柔らかな声色で、歌詞のない歌を歌った。
 紡ぐのは、あの少年が奏でていた夢の旋律。
 その心地良い音色に耳を傾けながら、ルーチェは空を見た。
「――今宵は、洒涙雨が無い事を祈って」
 雲一つない、満天の星空。
 そこに流れる天の川を、輝きを瞳に映しながら。

作者:彩取 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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