七夕モザイク落とし作戦~煌めきの夢星

作者:犬塚ひなこ

●モザイク落とし
 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
 
●ゆめのたまご
 ――大好きな人とずっと一緒にいられますように。
 ささやかで切なる夢が記された短冊が優しい風に吹かれてさやさやと揺れる。
 街の広場に設置された木に飾られた願いの形は微笑ましく、たくさんの短冊からはあたたかな想いが感じ取れた。
 だが、突如として広場に異質なモノが現れる。
 その正体は七夕とはまったく関係のない大きなモザイクの卵。それは願いが書かれた短冊に宿った想いを取り込みながら形を変え、夢の力を具現化していく。
 そして、一瞬後。其処に手を繋いだ恋人めいた姿をしたモザイクの塊が出現する。
 薄く透き通ったそれの中には吸収された短冊が見えたが、それらもまた不明瞭なモザイクに包まれていた。
 
●七夕の夜に
「たたた、たいへんです、皆様っ!」
 珍しく慌てた様子で皆に異変を報せた雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)はドリームイーターの大規模な動きが判明したと語る。
 来る七夕、7月7日。
 どうやら敵は鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているらしい。この作戦はローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、多数のケルベロスが予測したお陰で事前に知ることができた。
「でもでも、大変なのはここからです。もし作戦が実行されてしまうと日本に巨大なモザイクの塊が落下してしまうのでございます」
 そうなれば大量のドリームイーターが出現し、日本中が大混乱となる。
 敵は残存するモザイクの卵を使用して日本中の七夕の願いをドリームイーター化する。そして、その存在を生贄に捧げることでモザイク落としのエネルギー源にしようとしているらしい。更に七夕の願いから生まれた夢喰いは出現してから7分間で自動的に消滅し、儀式のエネルギーに変換されてしまう。
「皆様、お願いです。どうか7分以内にドリームイーターを撃破してください!」
 今回は夢喰いだけではなく、時間との戦いにもなる。
 難しい戦いと予想されるがケルベロス達ならば成してくれると信じ、リルリカは敵が現れる地点について語っていく。
「短冊の夢を奪って具現化した敵は街の広場にいますです。そこにいた人達は異変に気付いて逃げたので周囲のことは気にしなくて平気みたいですっ」
 後は現場に向かい、敵に戦いを仕掛けるだけでいい。
 ただし、夢喰いを時間制限内に撃破できなかった場合はドリームイーターの目論見が現実になってしまう。敵はこちらを倒すことよりも耐えることを選ぶので、策を練って戦いに挑まなければ勝利は見込めない。
 また、同時発生しているほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、今後はモザイクの卵による事件は発生しなくなるだろう。
「七夕のお願いは悪い夢ではないはずです。それを利用するなんて……」
 リルリカは悲しげに瞳を伏せ、首を横に振る。
 そして、凛と顔をあげた少女は仲間達を真っ直ぐに見つめた。夢を喰い物にするなど許せるはずがない。そう語るかのような眼差しには揺らぎない信頼が込められていた。


参加者
シロン・バルザック(彗星少年・e02083)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
角行・刹助(モータル・e04304)
海野・元隆(海刀・e04312)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
鬼更津・榮(灰燼・e25157)

■リプレイ

●標す願い
 夜風が短冊を揺らし、綴られた想いがひらひらと舞う。
 振り仰いだ空には小さな星の光。其処には今、夢を喰らう存在が潜んでいる。
「モザイクの塊ねぇ……空から落ちてくるとはどういうわけだ?」
 角行・刹助(モータル・e04304)は瞳に星空を映し、小さく呟いた。予測された未来は恐ろしいが、故事曰く杞憂ということもある。否、杞憂にさせてしまえば良い。
 願いが集まる処にドリームイーター在り。
 街の広場に現れたモザイクの塊を見遣った長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)はあれは元々がそういうものなのだと感じて、獣耳を軽く伏せる。とはいえ、ささやかな催しすら餌食にされてしまうのは堪ったものではない。
「平和にイベントを過ごす為にも一仕事と行くか!」
 智十瀬達の視線の先には『そのとき』を待つ夢喰いの姿がある。敵は手を繋ぎあった恋人らしき姿を取っており、二つ分の人影を包むモザイクが揺れていた。
 倒せるか否か、刻限は七分。
「行くニャ! 人の恋路を邪魔するヤツはケルベロスにやられて死んじまえ、って言葉知らない? なら、オレ達が身をもって教えてやるニャ!」
 シロン・バルザック(彗星少年・e02083)は皆に呼び掛け、白い尻尾を逆立てた。同時に爆破スイッチを押し、シロンは仲間達に援護の力を巡らせる。ボクスドラゴンのメテオも親友と同じ思いを抱き、竜の力を刹助に放った。
 仲間から決意めいた思いを感じ取り、鬼更津・榮(灰燼・e25157)は片眸を眇める。
「ァア――、この類の、本気、の仕事は久しぶり、だ」
 紡がれた錆声は幽かな音にしかならなかったが、榮が言葉に込めた戦いへの思いは決して小さくはなかった。
 そして、榮は縛霊手を掲げてひといきに敵へと向かう。敵の目的はケルベロスを倒す事ではない故に、先手を取るのは容易だった。
「一緒にいたいという願いか。他人の願いを潰すような真似はしたくないんだがな」
 やれやれ、と敵を見遣った海野・元隆(海刀・e04312)も仲間に続き、高速演算からの鋭い一閃を夢喰いに見舞った。
 智十瀬も鋼の鬼を迸らせ、元隆と共に攻勢に移る。
 想いが形になった存在とはいえ、夢喰いと化したそれは本来の在り方ではない。藍染・夜(蒼風聲・e20064)は首を振り、鋭い視線を敵に向けた。
「短冊に籠められた希望は斯様に好き勝手に操られる為にあるのではない」
 迅速に夢喰いを討ち、願いの短冊を星々に還すのが今の自分達の役目。
「願い事を捻じ曲げられちゃうのはダメだよね」
 マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)も頷き、ボクスドラゴンのラーシュに視線を向ける。きっと、皆が持っている本物の夢のたまごはドリームイーターが成す形よりも素敵なもののはずだ。
 夜が放った鋼拳がモザイクを穿ち、続いたマイヤとラーシュが蹴りと体当たりを見舞ってゆく。リミットが有るが故に一分一秒も無駄には出来ない。
 野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)は気を引き締め、地面を蹴った。振り上げた腕の機械部位から起動音を響かせ、イチカは最初から全力の一撃を解き放つ。
「ずっと一緒の約束なんか、わたしには……不確かすぎて、できないけど、」
 敵と擦れ違い様に少女は小さく呟いた。自分には遠く手を伸ばせない事だけれど、だれかがそう願って望みをかけた。願ったからこそ、其の形がある。
 だから――望んだ今くらいは、守ってみせよう。

●希うこと
 ケルベロス達が一斉攻撃と援護に入ったことで、敵は反撃に移った。
 繋いだ手は離さず、左右で同じ動きをする人影モザイクは魔力を紡ぎ放つ。
「来るよラーシュ、お願い!」
 その動きに逸早く気付いたマイヤが相棒竜に呼び掛けると、狙われていた元隆の前にラーシュが立ち塞がった。元隆は小竜に礼を告げ、更なる攻撃に移る。
「しかし、見せ付けてくれる姿だな。こいつは飲まずにゃいられん」
 携えていた酒を軽く煽った後、元隆は高く跳躍した。星空の下、流星を思わせる蹴撃が夢喰いの体勢を揺らがせた。
 だが、敵はすぐに持ち直して防御の姿勢を取る。
 気を付けて、とイチカが皆に呼び掛ければ刹助と榮が無言のまま確りと頷いた。そして、刹助は地を蹴って鋭い回転撃を放つ。
「モザイクを晴らすための手段として、ドリームイーターには地球が必要な訳か」
 溜息にも似た言葉を落とした刹助の一閃は敵のモザイクを剥ぎ取った。敵の防御の一部が破られたと察し、智十瀬はガトリングガンを振りあげる。
「時間勝負だ、全力でぶつかるのみってな!」
 今回の戦いはまさにゴリ押し。そういうのは得意分野だと智十瀬が薄く笑んだ刹那、爆炎の魔力を込めた弾丸が宙に躍った。智十瀬は活き活きとした瞳で敵を捉え、すぐにでも次の一手に移れるよう身を翻す。
 夜も刃を振り翳し、神速で翔けるが如くモザイクの恋人達に迫った。
「恋人の仲を裂くのは無粋か。ならば祝言の白き流星を降らそう」
 幾ら流星の煌きを想わせる剣の軌跡が敵を切り裂き、まるで白い鷹の羽根が舞い散るかのような衝撃が辺りに散る。
「全力で援護するニャ!」
 シロンは仲間達が少しでも力を発揮できるよう、士気を揮わせる爆風を次々と巻き起こしていった。中衛、後衛と加護が巡っていく中、シロンはしかと戦場を見つめる。
 次の瞬間、夢喰いからの光線が戦場に奔った。
 危ねえ、と元隆が声をかけたと同時に、狙われた夜の前に榮が立ち塞がる。
「……、……――」
「すまない。助かった」
 声なき声をあげた榮が受けた痛みを抑え込む最中、夜は礼を告げた。流石、と仲間のフォローに視線を送ったイチカと榮の視線が交差する。
 そしてイチカは手にしたウイルスカプセルをひと撫ですると、ひといきに敵へと投射した。先手を打って潰しておきたいのは敵の治癒能力。
 行けるかな、と双眸を細めたイチカは標的の力が阻害されたことを確認する。敵は尚も手を繋いでおり、見た目だけは仲睦まじかった。
 その際、少女の裡に過ぎったのはいつか交わした約束のこと。
(「ずっと、じゃなくて、『少なくとも今は、きみを一人にしない』だったね」)
 臆病かな、と小さな言葉を落としたイチカは首を振り、戦いに集中しようと決める。其処へラーシュが竜の吐息を放ち、マイヤが振り上げたチェーンソー剣で斬りかかった。
「もっともっと、だよ!」
 更なる妨害効果を重ね、少しでも味方が有利になるように努めるマイヤの目は真剣そのものだ。一人と一匹の見事な連携は夢喰いの不利益を増やしてゆく。
 されど、敵も倒されぬ為にモザイクの癒しを紡いだ。
「耐えようとするか。予想済みだが厄介だな」
 刹助は今まで与えた妨害が取り払われていく様を見遣り、片目を瞑った。だが、払われたのならばまた授ければ良いだけのこと。
 異界から低級病魔を召喚した刹助は、自らの肉体にそれを憑依させた。血液を媒介に増殖させたウイルスが敵へと放たれ、痺れを与えてゆく。
 メテオがブレスを吐いて仲間を援護する中、シロンは榮に癒しを施した。
「ちゃっちゃと終わらせよう。後ろから支えるニャ!」
 意気込むシロンに笑みを返し、構えた元隆は妖精の加護を宿した矢を放つ。
「ま、二人で一人なら別にカップルでもなんでもない。射抜いちまおう」
 遠慮は要らないと語った元隆の一閃は敵に確かな衝撃を与え、力を削っていった。夜も正確かつ舞うような動作で以て敵を切り刻んでゆく。
「その手まで解く心算は欠片もない。手を取り合ったまま居れば良い」
 夜が凛と言い放った言葉の後、榮も攻撃の機を得て駆けた。
 ――七分間、仲間を護り立ち続けているのが己の仕事。
 無論、俺も攻撃するが、と胸中で呟いた榮は降魔の力を宿した拳を握り締める。痛みは鎮まらぬが、其れは拳を振るわない理由にはならない。
 榮の一撃が敵を貫く中、智十瀬は身に纏ったオウガメタルを剣の形状に変化させていく。相手は固い上に回復持ち。それなのに時間制限もあるのだから厄介極まりないとしか言えなかった。
 だが、智十瀬はそれならば、と銀刃を振りあげる。
「厄介なら厄介で回復が間に合わねぇくらい、打ち込むのみだ!」
 時が刻々と迫っていようとも浮かべた笑みは消さず、智十瀬は渾身の一撃を放った。敵が傾ぎ、モザイクが辺りにばらばらと散る。
 そのとき、残り二分を告げるアラームが鳴り響いた。

●逼る刻限
「みんな、残り時間が少ないよ。一気に行こう!」
 リミットが近付いている事を報せる音と共に、マイヤが大声で皆に呼び掛ける。未だ敵の体力を削りきれておらず、焦る気持ちがない訳ではない。だが、マイヤは勝利を信じて地面を蹴り、炎を纏う蹴りを放った。
 此処からはどれだけ敵が猛攻を放って来ようとも攻撃あるのみ。
「絶対に絶対、やってやるニャ!」
 シロンはメテオと合わせて攻勢に移り、鎌を振りあげる。相棒竜がくらわせた体当たりに続けてシロンの鎌が回転しながら敵を抉った。
 夜も再び白鷹翔の剣閃を放つべく、敵との距離を詰める。敵は此方を倒そうとはしていない故に、癒しは実質の過剰回復となっていた。
 だが、夜は冷静さを崩さずに苦境を苦境とすら感じていない。そして彼はふと風に揺れる短冊のことを思い出した。
「ずっと一緒に居たい、か」
 それはきっと自らの努力で叶えられるもの。願いと言うよりは誓いに近いのかもしれぬと考えた夜は、他者を大切に想う気持ちは尊いと感じた。其処から放たれた一閃は天を統べ空を翔ける鷹が如く、無慈悲な衝撃を与える。
 多大な痛みを与えた夜に続き、元隆と智十瀬が追撃に走った。
 イチカも短冊に綴られた願いを思い返し、それを自らの心に透かしてみる。
 ――わたしは『ずっと』なんて約束はできない。だからこそ、望みをかけられることがうらやましい。
「それでも、『少なくとも今は』なんて言ったわたしを、信じてくれた人がいる」
 気が付けばイチカは思いを言の葉に変えていた。
 この望みまで、奪われたくない。だから、少なくとも今は全力を尽くすだけ。そう誓った少女が放つのは鼓動をあらわす心電図型の炎。
 焔が哭くように燃え盛る様を見つめ、榮は口をそっと開いた。
「……ァア、往こう、か」
 紡いだ言葉と共に小さな炎が散り、榮は縛霊の一閃を解き放つ。己の役割を全うすると決めた今、やるべきことはひとつ。
 刹助は呼び掛けに応える代わりに榮に続き、鋼の鬼を拳に纏った。
「モザイクの卵……欠落を埋めるために近付きたいと望む、つまりは渇望か」
 興味はあるが、それを現実に浸蝕させるわけにはいかない。刹助の放った鋼拳が夢喰いを穿ち、鋭い痛みと衝撃が巡っていく。
 だが、敵も最後の抵抗とばかりにマイヤを狙って光線を放った。わ、とマイヤが目を瞑って構えた瞬間、素早い影が攻撃を遮る。
「……ラーシュ! ありがとう、合わせて行こう!」
 心強く頼もしい相棒の名を呼び、マイヤは笑顔を浮かべた。大丈夫、一緒だから出来る。絶対に成してみせる。負けられない、と決意を抱いた少女が流星の蹴りを放てば、シロンも更なる魔力を練った。
「――まことのみんなの幸のために私のからだをおつかいください」
 イーハトーヴ・アンタレスの詠唱と共に、シロンは童話の理想郷から燃える蠍を召喚した。揺らぐ炎が戦場を焦がし、メテオも全力を振るって敵に突撃していく。
 残された時間はあと数十秒も無い。
 勝てるか、それとも逃げられてしまうのか。先のことを考える暇も与えられない程、時間は切迫していた。
 刹助は自分にとって最後となる一撃を見舞いに駆け、機械螺旋を迸らせたイチカが夢喰いを穿つ。更に榮も逆手に持ったナイフを素早く振るい、血代わりのモザイクを激しく散らすほどの一閃を見舞う。
 ドリームイーターは存在を消されかけながらも、未だ何とか耐えている様子。
 だが、仲間の誰もが勝利だけを信じていた。
「そのまま、疾く――散れ」
 翔けた夜が刃を振るえば、敵の身を覆うモザイクが次々と引き裂かれていく。智十瀬は好機を察して灰色の尾を揺らし、鞘に潜めていた鋼鬼に呼び掛けた。
「見せてやるよ、本当の絆ってやつをな!」
 閃隼牙の名に相応しく、放たれた一閃は風を断ち、空を斬る。白銀刃の一閃が夢喰いの力を奪い取ったことを確認し、智十瀬は仲間に目配せを送った。
 これで終わり。今こそが終幕を飾る時。
 合図を受けた元隆は鋭い眼差しを敵に向け、モザイクの塊を捉える。
「ほらよ、偽りの絆は終わりだ」
 元隆が銃口を差し向けた次の瞬間、海に連なるものに伝わる秘儀が発動する。
 繋がれた手を撃ち抜くかのように、奔った舟幽霊の一閃が迸る。そして――儀式の生贄となるはずだった存在は、地獄の番犬達の手によって完全に消滅した。

●夢と儚さ
 大規模なモザイク落としの一端は潰え、仲間達は一先ずの安堵を覚える。
 後には何も残らず、砂埃と夜風が待っているのみ。そんな中、元隆は消えていった夢喰いが居た場所を見下ろし、一枚の短冊を拾いあげた。
「ま、別にあいつを倒したからって叶わんわけじゃないだろ」
 記された願いが叶うかは本人達次第。元隆の言葉に、そうだな、と頷いた智十瀬が周囲を見渡すと、シロンとメテオが落ちた短冊を拾い集めている姿が見えた。
「良かった、被害は少ないニャ!」
 シロンは短冊を笹に飾り直し、自分達も願い事を書いてこうと思い立つ。夜も修復を手伝い、少年からの提案を受けて五色の短冊を手に取った。
 ――願い事をした人が、大切な人とずっと一緒にいられますように。
 ――この木に託された沢山の希望がどうか叶いますように。
 夜達によって新たに飾られた願いを眺め、マイヤはラーシュをぎゅっと抱きしめる。夜空を見上げ、そっと祈った少女は願いを守りきった達成感を感じていた。
「なんだかいつもより星が光って見えるね、ラーシュ」
「全く……今夜は騒がしい七夕になったものだ」
 刹助は笹が揺れる様をちらと見遣り、空が崩れ落ちてたまるかよ、と呟く。
 地球の定命者やドリームイーターの区別も無く願い事が叶うような、今宵は不思議とそんな夜のように思えた。
 イチカもそっと空を見つめ、銀の眸に遠い星の光を映す。何かを想い耽る少女に敢えて声は掛けず、榮も倣って夜空を見つめた。
「……願いか。俺には、もゥ、縁のなィもの、だがな」
  閑靜な焔を纏うその声は何処か物憂げだったが、同時に自分以外の他の願いや希望を尊ぶような色が含まれていた。
 夢は、夢へ――願いもまた、同じこと。
 幽かに煌めく星の瞬きは今、ささやかな願いを聞き届けている途中なのだろうか。振り仰いだ星の海はただ粛然と、穏やかな平穏と静寂の彩に染まっていた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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