七夕モザイク落とし作戦~欲望ギラつく天の川

作者:質種剰


 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」


 住宅街の夜。
 小さい子どもがいる家のベランダには、それぞれの家庭の経済状況に見合った――中にはご近所に見栄を張って大きな笹を調達したかもしれない――七夕飾りが立てられている。
 色とりどりの折り紙で作った細工の間に、これも鮮やかな色のたんざくが、家族の人数分提げてあるのが一般的だ。
 そして、大抵は子どもの無邪気な願い事に混じって、
『宝くじが当たりますように!』
『ボーナスが出ますように』
『競馬で万馬券を当てられますように』
 お父さんやお母さん達の冗談めかした本気の神頼みが書いてあったりするのだ。
『お小遣いが増えますように』
『取り上げられたお年玉を返して欲しい』
『とにかくお金持ちになりたい!!』
 そこへ年頃のお兄ちゃんお姉ちゃんの必死な願い事が混ざれば、1本笹だけで様々な欲望渦巻くカオスの出来上がり。
 後は、天の川で逢瀬を楽しむ織姫と彦星が、皆の欲望に満ちた願いを叶えてくれると、信じて待つだけだった。
 しかし、星空を振り仰ぐ笹達の背負う短冊が――正確には短冊に込められた数多の願いが、思わぬ事態を引き起こす。
 ビキビキビキビキ……バリィン!
 モザイクの塊にしか見えぬ卵が、沢山の短冊へ込められた夢見る力を糧に、今まさに孵化してしまったのだ。
 その身の内にモザイク化した多くの短冊を取り込んだドリームイーターは、やたらとキラキラ輝いて硬貨を振り撒き、札束の頭部を持つ不思議生物と化していた。


「皆さん、大変であります。ドリームイーターが七夕を利用して大作戦を行う事が判明したであります」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が慌てた様子で語り始める。
「この作戦は、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)殿や、多数のケルベロスの方が予測して調査してくださったので、事前に予測できたでありますよ」
 どうやらドリームイーターは、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び決行せんとしているらしい。
 モザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下して大量のドリームイーターが出現、日本中が大混乱に陥ると危惧されている。
「敵は、残存するモザイクの卵を利用して日本中の七夕の願いをドリームイーター化させるや、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にするつもりなのでありましょう」
 七夕の願いから生まれたドリームイーターは、出現してから7分間で自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまう。
「ですので、皆さんにはドリームイーターが現れる地点へ向かい、7分以内にドリームイーターを撃破して欲しいでありますよ」
 そう懇願するかけら。
「今回皆さんに倒して頂きたいドリームイーターは1体でありますが、ドリームイーターを7分以内に撃破できなかった場合、消滅してしまい倒せなくなってしまうであります」
 また、時を同じくして討伐に向かう他班を含めた全体の戦果についてだが、今回現れたドリームイーターの過半数を撃破できなければ、モザイク落としが実現してしまう事になる。
「ですが、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなると思われますので、皆さんには是非とも頑張って頂きたいでありますよ!」
 かけらは続ける。
「ドリームイーターは、『一攫千金ビーム』と『お金欲しいチョップ』、『金持ち憧レーザー』を使ってくるであります」
 札束の幻影を放って相手を誘惑する一攫千金ビームは、理力に満ちた遠距離単体破壊攻撃。
 欲望塗れのお金欲しいチョップは、理力に秀でた近距離単体斬撃であり、そのイタいポーズが相手の思い出したくない過去を引き摺り出す。
 執念の権化たる金持ち憧レーザーは、敏捷に長けた近距離単体魔法攻撃で、もの凄まじい妄執が武器をも砕くという。

「七夕の夢を食い物にして、モザイク落としをしようなんて、許せないでありますよ。皆さん、完全阻止を宜しくお願いしますー!」
 と、かけらは彼女なりにケルベロス達を激励して、説明を締め括った。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)
永代・久遠(小さな先生・e04240)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)
ユグゴト・ツァン(擁愛アディクト・e23397)

■リプレイ


 七夕の夜。
 東京某所に駆けつけたケルベロス達は、急いでドリームイーターを捜索する。
 折しも、住宅地内の細路地で、全長1メートル程のモザイクの塊に無数の亀裂が入り、中から金色に輝く札束と硬貨の化け物が出てきたばかりであった。
「お……?」
 その3メートルはゆうに越そうかというギラギラをいち早くみつけたのは、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)。
 ツヤツヤした金髪と大きな赤い瞳を持つ狐のウェアライダーで、そのゴスロリチックな装いも含め、黙っていればお人形のような可愛らしさだ。
 その実、口を開けば元気一杯、多少天然めいた性格の明るい少女である。
「よくわからないけど7分以内に倒せば良いっすね! 楓さん全力で切り刻んでやるっすよー!」
 常に笑顔を絶やさず皆が幸せであれと芯から思う楓だから、戦闘狂な一面以上に一般人の平穏を守りたい気持ちから、果敢にドリームイーターへ立ち向かっていく。
「金寄越せやぁあぁあぁ!!」
 ドリームイーターは醜い咆哮を上げて一攫千金ビームを撃ってきた。
「お金? 興味ないっすねー。甘いお菓子とかだと楓さん危なかったかも!」
 だが、楓は札束の幻影やそれが齎す痛みなど物ともせずに、氷結の螺旋を見舞う。
 狙いすました螺旋氷縛波は数多の短冊を内包したドル袋へ命中、ビキビキと凍てつかせた。
「なんだか知った顔が多い感じだけど、今日も元気にドリーム退治」
 次いで機敏な動きでドリームイーターの懐へ飛び込むのは、藤・小梢丸(カレーの人・e02656)。
「終わったら先生の奢りで祝勝会だー! カレー食べ放題のあるお店でよろしくお願いします」
 いつも以上にやる気を見せて、蔓草の繁みの如く変形させた芳醇をけしかけるのには、やはりカレー絡みの理由があったようだ。
「あ、あはは……。え、えっと……手加減してくれたら嬉しいかなーってね……?」
 ヘリオンの中で奢り宣言をした永代・久遠(小さな先生・e04240)が、人当たり良い笑顔はそのままに冷や汗をかく。
「おぉっと、すでに勝った気分になっているけど時間少ないし、短期決戦でうぉーうぉー」
 そんな困惑など気づかぬ振りで、カレー食べ放題を夢見る小梢丸は、張り切ってドリームイーターのパンパンに膨らんだ腹を芳醇で締め上げる。
 久遠は久遠で、小梢丸の戦う様子に気を取り直し自らも銃を向けるが。
「あ、あはは……、即物的と言うか、何と言いますか……これも立派な夢、なのですかねー?」
 ドリームイーターの見た目が見た目なので、気を取り直すどころが戦闘意欲を削がれそうになった。
「ともあれ、パパっと倒しちゃって七夕を楽しみましょうっ!」
 と、久遠はアンダーバレルレーザーを装着したライフルから、凍結光線を発射した。
「久方ぶりの叫ばなくていい依頼だと思ったら、随分大事になってんな」
 しかしまぁ、よく燃えそうなドリームイーターでいらっしゃる。
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は、相変わらずの冷静さでドリームイーターへ対峙しているように見えたが。
(「……速攻で片付けないとな。天罰砲に巻き込まれない為にも」)
 その実、今回はドリームイーター以上の恐怖の対象が味方側にいる為、もはや感覚的にドリームイーターを脅威と思わなくなっているのかもしれない。
「あの頭部の札束ばらしたら現金にならねぇかなー」
 とにかく航は普段通りを装い、空の霊力を帯びた斬霊刀で斬りかかる。
 札束ドリームイーターの凍傷を正確に斬り広げ、激痛を与えた。
 一方。
「その短冊はね、誰かの願い、誰かの祈りであって、君のものじゃないだろ? 一つ余さず返却願おう」
 持ち前のニヒルさを損なわずに、ドリームイーターへクールに――それでいて噛んで含めるように語りかけるのは、レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)。
 普段はそのやる気のない言動の印象的なレオンだが、依頼となれば違うらしく、この日はストップウォッチを持参。
 時間経過を仲間へ逐一報せるべく、ドリームイーターの初手から計測を始めている。
 時折年長者らしい気遣いを覗かせる事もあるレオンならではの密かな心配りであろう。
「キミはもう何処へも行けない。ここで腐れて沈んでいけ、塵でしかない我が身のように」
 そんなレオンは、実に身勝手な願いの数々を具現化した簒奪術式を展開。
 ――僕はお前が羨ましい。
 ――だから其処で永遠に止まっていろ。
 黯く鋭利な願いが、嫌な重みを宿した鎖へと姿を成していく。
 かくして地を這いずる影という影から伸びてきた鎖は、ドリームイーターを執拗に殴りつけ縛り上げて、その機動力の一部を奪い去った。
 他方。
「欲望とは生の糧よ。されど玩具とは違う。思考感情を冒涜する輩は壊すべきだ。屠るべきだ。夢を貪る愚物は不要と説く」
 もはやクールを通り越して無機質なユグゴト・ツァン(擁愛アディクト・e23397)が、抑揚の無い声で淡々と喋る。
 尤も、これはユグゴトが素面でいるからこその話で、一度蜂蜜酒が入ればそれはもう感情豊かに酩酊しては恋人に介抱されていたりするのだが。
 それとて、当人に言わせれば、
「酔いとは恍惚で在る」
 眩暈も嘔吐も頭痛も『快楽』。
「真と虚を混濁させ、夢幻の世界を魅せる『悦』よ」
 となる訳だが。
「欲望の利用。素敵な思考だ。されど赦せぬ。私の愉悦を奪うなど」
 言い終わるや否や、ユグゴトの肉体を濡らす銀色の液体金属が解き放たれ、その力で黒太陽を顕現させる。
「愉悦。ああ、愉悦は永久に膨張と説く。されど莫迦な輩は必ず『愉悦』を齎すのだ」
 絶望の黒光を浴びせ掛けられて、ドリームイーターの短足が言い知れぬ煩慮と苦痛に竦んだ。
「モザイク落としが齎す被害がどれ程のものか……想像したくはないのです。罪のない方々が悲しい思いをしない為にも、ドリームイーターさんの企みは阻止してみせるのですっ」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)は、真面目な彼女らしく発奮して、ライドキャリバーのトライザヴォーガーから颯爽と降り立つ。
「それにしても……人々の夢見る力を取り組んで生まれたとは言え、もう少し品のある出で立ちにはならなかったのでしょうか?」
 また、真面目で純粋であるが故に、今のドリームイーターの姿を見て溜め息を禁じ得ないニルスだ。
 ムチムチギチギチと縛られるドル袋を模した丸腹から零れ落ちる硬貨、その隙間からチラチラ見える短冊……決して見ていて気持ちの良い物ではない。
「お金の亡者……人の悪い面を露骨に見せられてるようで、何だか嫌なのです」
 そんな暗い気持ちになるのを抑えるべく頭を振って、ニルスは大地をも断ち割るような攻撃を繰り出す。
 強烈な破壊力を秘めた一撃が、ドリームイーターの頭部の札束へ風穴をぶち開けた。
 その傍らでは、トライザヴォーガーも渾身の突撃をかまして、ドリームイーターの丸太のような足を轢き潰している。
 舞い散る紙屑の幻影の奥、取り込んだ短冊がモザイクに混じってはためいている光景が複雑な思いをニルスへ抱かせて――あの短冊を取り戻さなければ、との決意を新たにさせる。
 反対に、
「執着しているだけでなく他力本願では結局お金は手に入り難く貯め辛いと思いますのよね」
 トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)の言いようなどは、実におっとり、嫋嫋としていた。
「使う時は使う、使わない時は使わないで、使うべき時を見定めて使うようにすればお金は貯まると思うんですの」
 それでいて涼やかに響く声音も精神的なゆとりに満ち、彼女の育ちの良さを伺わせる。
 何分裕福な家庭に育った故か、トウコは七夕に金銭的な願いをするという事が、根本的にピンと来ないようだ。
「え、敵? 倒せばいいんですのよね??」
 今も小首を傾げつつ、彷徨える蒼き稲妻を呼び寄せて、
 ピシャァァン!
 天空より雷を鋭く降り注がせ、前衛陣の攻撃の精度を高めた。


「2分経過。時は金なり。あまり浪費せずにいきたいね」
 レオンの言う通り、一分一秒が貴重であるが為の緊張感に苛まれた戦いは続く。
「金が欲しいんじゃぁああッ!!」
 ドリームイーターは、その短い手足を浮かせて片足立ちをし、円記号のようなシルエットのまま倒れ込むように『お金欲しいチョップ』を仕掛けてきた。
 ガツッ!
 その硬貨塗れの手刀をまともに腕で受け止めたのは航。
「ちぃっ、早く射線から退避を………?」
 刹那、眼前へ笑顔――それは普段と同じに見えて何か含みのある――を向けた久遠が天罰砲を向けているように見えて、肝が冷えた。
 すぐに気づく。
「ってまだ3分で天罰砲な訳ねーよな! トラウマかよ……」
「コーく〜ん……? 一体コー君には今何が見えてるのかな〜?」
 気づいたところでもう遅いが、それでも時間は待ってくれない。
 本当なら何を見たかバレないように言葉には気をつけたかったが到底無理だった。
「あらあら、お顔の色が大分お悪いようですけれど、大丈夫ですの?」
 すぐにトウコが雷を落として、航を怯えさせる幻影を消し去ってくれた。
 善なる者を護り助ける蒼い稲光が、彼には殊更目映く感じられた事だろう。
「それじゃあ、楓さんと踊るっすよ!」
 楓は持ち前の素早さを活かして戦場を縦横無尽に駆け抜けつつ、無数の刃を宙空へと放り投げる。
 自分自身は道路を滑るようにドリームイーターの懐へ飛び込んだが、これは奴の意識を引きつける囮に過ぎない。
 刹那、螺旋の力纏いし刃が、複雑な軌道を描いて降下、ドリームイーターを切り裂かんと自在に動いた。
「お肉はしっかり叩いて柔らかくしないとねー」
 一方、小梢丸はどこまでもカレーに結びついた思考を展開しながら、しっかりと高速演算でドリームイーターの弱点を見抜く。
「……まずはそのふざけた欲望をぶち殺す!」
 そして、痛烈な一撃をぶつけて腹を破壊する際、何故か妙にキレのある構えの後、運命の赤い糸すら無効化しそうな手刀で破鎧衝を見舞っていたそうな。
(「気のせいか、背後からすげぇプレッシャーが……! いや気のせいじゃないか」)
 他方、後ろから来る威圧感に気づかぬ態の航。
「くっそ、間に合え、間に合え……!」
 紋章の力を借りて、神速の突きを繰り出した。
 さて、無常にも止まってなどくれない時間は、刻一刻と過ぎていく。
「さあ、気兼ねなくじゃんじゃんぶちかますといい前衛諸君。敵の動きはこっちで抑えるから、さ」
 既に4分経過を宣言したレオンは、全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼へ変えて、重い拳をドリームイーターの顔――ひしゃげて穴の空いた巨大札束へ減り込ませる。
「こう見えてもステゴロは好きな部類でね。――殴るから、殴り返せよ」
 いよいよ帯封も千切れて無様な見た目となった元札束を見やり、珍しく好戦的に聞こえるセリフを吐くレオン。
 飛び散った札束の幻の数が増えるにつれ、ドリームイーターの強固だった筈の守りが揺らいだ。
「6分経過」
「狡猾な輩は滑稽たる滅を辿る。蛮勇な輩は残酷な真を知る」
 ユグゴトは、残り時間がいかに少なかろうと冷静さを失わず、ただただドリームイーターの末路を論じると同時に炎の儀式を行う。
「風に乗り、歩むもの。人を攫い、嗤うもの」
 風の神を謳いて、ドリームイーターの巨体を軽々と天へ飛ばした。
 上空で強烈に吹き交う風は刃と成り、ドリームイーターの肉体の何割かを刻み墜とした。
「豊穣なる大地の恵みを受けてほんわか辛い、御出でませい華麗魔神、召・喚!」
 小梢丸は満を持して華麗魔神を喚び出し、そのムキムキ逞しい腕でドリームイーターのドル袋の一部を粉砕して貰う。
「相手も弱ってるはずですっ。何とか先生久遠様へお繋ぎしたいところですね」
 と、必死の思いで光弾を射出するのはニルス。
 ドンッ――!
 グラビティを中和し弱体化するエネルギーの塊がドリームイーターを呑み込み、巨体から溢れる硬貨の幻影を、斬り伏せるような強い衝撃で吹き飛ばした。
「たった七分しか持たない敵ならこの程度っすね! 楓さんの攻撃……避けられるものなら避けてみるが良いっすよ!」
 笑顔の楓も未だ諦めず、倒せるという自信も失う事なく、全身全霊を込めた絶空斬を放つ。
 ザクゥッ!
 空の霊力を帯びた形見のナイフで、ドリームイーターの裂けた腹を更に抉り広げ、凍傷の激痛を強めた。
 さて。
「コード:DPC、アクティベート! ガンナーモード、起動っ!」
 1分前、時空凍結弾をぶち込んだ直後から、久遠は取り出した機械式魔導杖を砲戦形態に整え、腰溜めに構えていた。
「四大属性並びに上位三属性をセット、チャージ開始しますっ!」
 試製品故の問題点を様々抱えていようとも、久遠の宣言を聞いた航とレオンの背筋が伸びる程、信頼されている天罰砲。
「チャージ完了っ! 射線上から退避をっ!」
 久遠も自身でその威力を把握している為か、これは言わずにいられない台詞らしい。
「グラビティドライバー、出力最大……エレメンタル、バスター!」
 撃ち出された特大の光の奔流はドリームイーターを飲み込み、消えるまでの数秒の間にその巨体を焦がし尽くして、遂に息の根を止めた。
 七夕に掛ける人々の――たとえ金銭欲に塗れていたとしても大切な願い――夢の力を、モザイク落としのエネルギーへ転化させずに済んだ。
 その安堵が皆の表情を明るくさせる。
「欲望は人間を愉快に成す。生きた状態で脳を摘出し、永久に保管するのだ。反応過敏な個体が好い。彼等は全。私の肴と説く」
 ユグゴトはドリームイーターの消し飛んだ地面を見下ろし、哄笑した。
 欲望の力をモザイク落としなどに使うのは頂けないと、理由はともあれ言っている。
「無事に片付きましたわね?」
 戦場になった道路のヒールを終えたのはトウコ。
「さあ皆様、肉! お肉を食べに参りましょうですの!」
 と、彼女行きつけのステーキハウスを皆へ薦めて、楽しそうに食事へ誘う。
「あ、それなら、ご褒美と言ってはなんですが、約束通り、ここはわたしが奢りますよー?」
 久遠は年長者らしく宣言。
「うっし、飯食いに行こうぜ、久遠姉の奢りで! 俺特上カルビな!」
 航が楽しそうに言い足した。
「モリモリ食べて背を伸ばすのですっ……ハラミ10皿ぐらいおかわりしたいです」
 追従するニルスも満面の笑み。
「ああちょうどいいね。お腹減ってたんだ、みんなで楽しくお食事といこう」
 なに、安心するといい。大概のケルベロスは大食いだけど僕は小食だから。三人前くらいあれば十分だ。
 レオンも調子を合わせたので、永代の笑顔が微かに引きつる。
「というのは冗談。常識の範囲内に済ませるよ」
「ああ、カレーが食べたい……いっぱい働いたから、この後食べるカレーはきっと美味しい事だろう」
 皆で盛り上がる中、小梢丸ひとりが既にトリップしているのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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