七夕モザイク落とし作戦~ケルベロスにお願い!

作者:神南深紅

 7月7日、七夕の夜。東京上空……。
 大きな鍵を手にした『赤い頭巾のドリームイーター』が、ひとり、空を漂っていた。
「綺麗……短冊に込めた人々の願い事が、まるで宝石のよう。
 あの輝きが欲しくて、あなたは『モザイクの卵』を降らせたのね。
 でも、鎌倉の戦いでこしらえてもらった卵も、あと少ししか残っていないのね。
 …………。
 いいわ、あなたの夢、私が手伝いましょう。
 だって、あなたの夢は、きっと私と同じだから。
 だから、残った卵を私に頂戴。
 あなたをこの星に呼んであげるわ……ジュエルジグラット」
●ケルベロスへの切なる願い
 砂浜には誰もいない。

 夏休みにはまだ日数があるが、昼間は期末試験が終わって半日授業となった高校生たちがワイワイと騒いでいた。彼らが戯れに立てていったのか、短冊で重そうな笹が砂に斜めに立っている。そこへ1メートルほどのモザイクの塊が降下し、幾枚かの短冊が笹から引きちぎられてモザイクへ引き寄せられてゆく。どれもつたない走り書きのサインペンで願い事を書いている。
『早く平和になりますように』
『ケルベロスさん、かっけーマジヤバイ! 俺もケルベロスになりてー』
『デウスエクスきえろー』
『ケルベロスのみなさん、早く地球を平和にしてください』
 一瞬にして孵化したかのように、モザイクの卵は消えドリームイーターが出現した。
「皆の願い、あいわかった。我がケルベロスの役となりてデウスエクスの代わりにケルベロスを消して見せようぞ」
 武まるで刀剣士のようにモザイクの鎧をまとい長い髪を後頭部で結んだ大柄なドリームイーターは、腰に佩いたモザイクの刀をすらりと抜きはなって言った。その胴の内側には取り込んだたくさんの短冊がモザイクとなって取り込まれている。
●偽物に居場所はない
「バッタものを処分してきてもらいたい」
 ヴォルヴァ・ヴォルドン(ドワーフのヘリオライダー・en0093)は不機嫌そうに言った。
「迷惑このうえないが、ドリームイーターが七夕を利用して大作戦を行う事が判明した」
 これは、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)他、数多くのケルベロス達が予測して調査してくれた事で事前に知る事ができたものだ。
「あいつらは学習能力というものが欠如しているのか、鎌倉奪還戦時に失敗した『モザイク落とし』作戦を再び起こそうとしているらしい」
 苦虫を噛み潰したような顔でヴォルヴァは吐き捨てる。
 もしモザイク落としが行われれば、日本に巨大なモザイクの塊が落下する。そこから出現した大量のドリームイーターは日本を大混乱にしてゆくだろう。敵は、残存するモザイクの卵を使用して日本中の七夕の願いをドリームイーター化し、そのドリームイーターを生贄に捧げる事で、モザイク落としのエネルギー源にしようとしているのだろう。
「七夕の願いから生まれたドリームイーターは出現してから7分間で自動的に消滅し、モザイク落としの儀式のエネルギーに変換されてしまう。そうなる前に倒さなくてはならないんだ」
 7分の攻防ですべてが決まる……ヴォルヴァは厳しい表情のままで言う。
「七夕の短冊に書かれた願いから出現したドリームイーターはケルベロスに寄せる願いを揶揄したものだ。図体はデカいが見た目は地球人の刀剣士に似せているし、武器も斬霊刀に似ているものだ。『恒久平和に身を捧げろ』やら『ケルベロスに終焉を』とか言って攻撃してくるだろうが、内容は近接攻撃でトラウマを見せたり、遠距離攻撃で平常心を失わせるようなものだ」
 必殺技っぽいことをいうだけで、実際は普通のドリームイーターらしい攻撃しかしかけてくることはない。
「きっかり7分だ」
 ヴォルヴァは両手を使って指で7を作る。
「それまでに撃破出来なければ敵は消滅する。今回出現したドリームイーターの過半数を撃破出来なければ近い未来にモザイク落としをされてしまう」
 その先にあるのは混乱しかない。だが、ほぼ全てのドリームイーターの撃破に成功すれば、モザイクの卵による事件は今後発生しなくなるだろう。
「つまり、ここがターニングポイントというやつだ」
 ヴォルヴァはようやくにやりと笑う。

「高校生たちが書いた短冊はその場のノリとかいう軽いものだったかもしれないが、便乗してケルベロスもどきになるのは許せない。偽物の退治は本物の義務だろう。最初から全力で蒸発するほど攻撃してこい! 頼んだぞ」
 片頬だけに渋い笑みを刻み、ヴォルヴァはケルベロス達を激励した。
 


参加者
小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
ゼファー・ルヴォイド(仇なす狂剣・e05538)
照月・朔耶(白鷲陽炎・e07837)
左野・かなめ(絶氷の鬼忍と呼ばれた娘・e08739)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
棗・葛(ウェアライダーの刀剣士・e12604)
巽・清士朗(町長・e22683)

■リプレイ

 夏は星を見るには適しているとは言えない……天文学者なら気温の低い冬の星空をお薦めするのかもしれないが、夏こそ夜空を見上げる機会が多いのではないだろうか。人々が星に願いをはせるこの夜に、夜空を流れ星のように征くのはヘリオンから飛び降りてゆくケルベロス達だ。
「夢の城が降るにはいい星空だが……すまんな。その夢破らせて貰う」
 最後に残った巽・清士朗(町長・e22683)は漆黒の長い髪や服の裾を激しく風になびかせながら、淡く不敵な微笑みを浮かべると暗い空へと身を躍らせる。
 目指す地上は真っ暗だった。人のいない浜辺にはあかりもないが、墜落するかのように地上に迫るケルベロス達の目には星明りに打ち寄せる波が白く見えてくる。その波打ち際の一か所に大きな人に似た形の何かがたたずんでいるのが視えてくる。
「いい夜だな、夢喰いの剣士よ。お前が取り込んだケルベロスへの夢、期待はそれこそ我らが力の糧。よって――」
 清士朗の身体が地獄の炎で覆い尽くされ、さながら摩擦で燃える流れ星のように落ちてゆく。
「疾く、吐き出して貰うぞ」
 龍牙刀が巨大なモザイクの剣士、その脳天を狙って振り下ろされる。
「敵の奇襲か?」
 肩まで響くような打撃の衝撃を感じつつ、反動で離脱する清士朗とは逆の方向へとドリームイーターの身体が傾ぐ。
「ん~? どうネジ曲がってケルベロス絶対殺す明王になったんじゃお主は……」
 前衛として立つ5人の仲間の背後でカラフルな爆発を発生する。左野・かなめ(絶氷の鬼忍と呼ばれた娘・e08739)の力から放たれたその爆風が仲間たちの髪や服の裾をはためかせ、それぞれの気持ちをアゲアゲにしてゆく。そのかなめの横をかすめながら小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)は正確無比の白い光のように接敵し、凍えるような冷たい光を放ってゆく。反射的に顔をかばおうとあげたドリームイーターの左腕、その表面に氷結が広がってゆく。
「何奴? なぜに我を滅ぼそうとするのか」
 鈍く昏くドリームイーターの唇から不思議そうな声が漏れる。
「理由? 偽物に暴れられちゃこっちが困るのよ」
 コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)の身体からほとばしるバトルオーラが正確無比にドリームイーターの背から腋腹を薙いでゆく。
「さぁ、本物の前でどれだけケルベロスになっていられるかしらね」
 たった今まで気配さえ殺していたコーデリアが高らかに微笑みながら言う。
「七夕に懲りずにおイタを仕掛けて来るのはあんたかいっ! ……ぱちもんのそんな悪巧み、絶対に許さないんだからっ! 覚悟しなっ!」
 照月・朔耶(白鷲陽炎・e07837)が投げつけた手裏剣は『DNA侵食毒』を帯びて敵の肩をかすめてゆく。その傷から確実に毒が体内へと侵入してゆく。
「我を否定すること許さず!」
 ひときわ大きく剣を振りかぶるとドリームイーターはうなりをあげてそれを振り下ろした。剣の真下には攻撃を放ったばかりで無防備な朔耶がいる。
「しまった」
 神速で迫る剣をかわしきれない……しかし、その剣を螺旋手裏剣とともに身代わりのように受けたのは棗・葛(ウェアライダーの刀剣士・e12604)だった。
「おじさんに任せときな」
 飄々とした軽口を戦いながら、もうもうと砂煙の向こうから葛の声がする。
「お見事なディフェンダーっぷりですね無事ですね、葛。わたし、ちょっと見直したわ」
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)の強引なる緊急手術が葛の全身から痛みやダメージを取り除いてゆく。後衛での回復役のいない完全攻撃特化のメンバーの中でリュセフィーは即座に治癒に回る。
「わるいなぁ、オルソン」
 葛は全身をはたいて砂を落とす。リュセフィーとコーデリアのミミックは主の盟友を守ろうとするのか、葛よりもさらに前に出てチームの壁役を全うしつつ攻勢に出ている。
「……是非もない。お相手致そう」
 モザイクの剣を正眼に構えたドリームイーターは時代劇の武士であるかのように重々しく言う。
「パチモンのくせに偉そうにフカすじゃねーか! 上等だぜ、せいぜい頑張って俺らを楽しませろよ!」
 雷の霊力を帯びたゼファー・ルヴォイド(仇なす狂剣・e05538)の斬甲刀・狂牙が目に留まらぬ速さでドリームイーターのモザイク模様の鎧を貫く。

 戦いの風に浜辺の砂が舞い上がり、ちぎれた笹の葉と短冊が飛ばされてゆく。踏み込めば深く沈む足場の悪い戦場であったが、ケルベロス達もドリームイーターもそれで速度が鈍ることはない。互いに一瞬たりとも立ち止まることなく、入れ替わり武器を振るい、限られた短い時間に全力を放って戦う者たちを見つめているのはただ夜空の星だけであった。
「何千、何万と繰り返したこの技――そうそう避けられると思うな」
 戦塵の舞う砂浜で軸足に強く力を籠めると、清士朗の得物はただ真っすぐに敵の真芯を狙って繰り出される。
「極意とは 別にきはまる事もなし たえぬ心の たしなみとぞ知る」
「それが極意なりや?」
 真っ正直なほど真っすぐに突き出された切っ先をドリームイーターは余裕の表情でかわそうとする。しかし、敵に触れるわずかに手前で清士朗の手筋が変化した。うねり、絡め、しなるように滑らかに滑る軌跡を初見のドリームイーターがかわせるはずもない。
「ぐっ……!」
 鈍い苦痛の声とともにドリームイーターの左前腕がコロリと落ちる。
「せっかく子供の願いで具象化したのじゃ。ここは純粋に願いを聞き届け、同胞に反旗を翻すもんじゃろ?」
 それがお約束じゃとブツブツ言いながらもかなめはドリームイーターの足元の砂浜ごと断ち割るほどの強烈な一撃を繰り出してゆく。一瞬、足場を失って動けなくなるドリームイーター。その隙をハクィルゥは見逃さない。
「当機は全力での攻撃の好機であると認定します」
 表情のない硬質で美しい顔で宣言したハクィルゥはおもむろに肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させ、その回転数の分だけ威力を増した攻撃を放ってゆく。さながら自らを白い弾丸であるかのように、ためらいも逡巡もなく敵へと飛ぶ。
「ほら、こっちは警戒してないじゃない。敵はハクィルゥだけじゃないのよ……って、こら!」
 達人の一撃を放ったコーデリアの背後から彼女の半身でもあるミミックが果敢に攻撃を仕掛けてゆく。防御に専念してほしいコーデリアの気持ちを知っているのか、どこか自由に武具を具象化して戦っている。
「時間がないからねっ! 最初から飛ばしていくよっ!」
 朔耶は流星の煌めきと重力を合わせ、思いっきり強く高く飛びあがると空中で反転しドリームイーターの左膝頭あたりに飛び蹴りを炸裂させる。

 機動力を大幅に失い、左腕も切断されたドリームイーターは、だが右手にすらりと抜き身の剣をだらりと持つ。そして死んだふりをしていた虫が突然あがき出すように、いきなり剣を振り回した。
「恒久平和に身を捧げろ」
 剣は心の深淵をえぐるかのようにリュセフィーの胸を貫いた。ディフェンダーを務めるミミックが主をかばおうと身を躍らせるが、ごくわずか、あと少しだけ届かない。
「あっ……」
 リュセフィーの双眸から光が消える。一体、どのような恐ろしいトラウマを見せつけられているのだろうか。両手からも力が抜け、手にした武器が砂浜に落ちる。がっくりと膝から崩れ落ちてしまったことをリュセフィーの意識は感じているのだろうか。
「しょうがない。たまには俺も真面目に働くかね」
 葛は意識のなさそうなリュセフィーを連れて後退するミミックの壁になるよう敵に向かって移動してゆく。毒をはらんだ手裏剣をドリームイーターに向かって投げつける。
「このわたしになんてひどい! ゆるせない、ゆるさないわ」
 乱れた金色の髪に隠れて表情まではわからないけれど、ミミックにぐったりと寄りかかったリュセフィーはうわごとのように何かを言っている。
「やっぱトラウマ攻撃をしてきたか。読み通りだぜっ」
 勝ち誇ったように笑いながら、ゼファーはバスターライフルの狙いを定める。そこから放たれるのは敵の熱を奪い、分子の振動さえ止めようとする凍結の光だ。しかし、これはドリームイーターの頬をかすめただけで当たらない。
「ちっ!」
 悔しそうに舌打ちするゼファーの音がやけに響く。

 戦況は揺らぐことないケルベロス側の有利であった。しかし、この戦いには制限時間がある。7分以内に倒さなくては意味がない。防具を劣化させられ、移動にも支障をきたし左腕を失っていても、それでもまだ刀剣士風のドリームイーターは端然とし、不意に繰り出される攻撃はそれなりに強烈だった。治癒も必要だがリュセフィーも戦線に復帰できずにいる今、それに手を取られていては倒しきれない。
 3分、4分、そして5分……敵の身体は攻撃の度に激しく傷つく。けれどドリームイーターは自らの力を治癒に使おうとはしなかった。ただ、強烈なる攻撃を目の前のケルベロス達に惜しみなく放つ。それがドリームイーターの存在意義だとでもいうかのように。そして、互いが傷を癒すこともせず、互いを食い合う様に戦い続け……そして戦場には不釣り合いな電子音が鳴り響いた。目覚まし時計のようなピっピっという短い音が続いてゆく。
「5分経過! ラストダンスの時間だ。皆の衆」
 地獄の炎がともる目にも凄絶な笑みが浮かび、清士朗が言う。
「我が刃は一本だけに非ず」
 連斬刀の刃で斬り裂いた傷口は容易には塞がらない。だらだらとその傷からエネルギーが漏れてゆく。
「昔の力とは言え……まだ劣っては居ない……。さぁ凍て付け! 貴様に絶氷を見せてやろう」
 かなめは虚空に両爪を立て、凍える大気を掻き出すようにすると、10本の氷柱がドリームイーターを切り裂いてゆく。
「当機の目的は一貫して最大出力の攻撃による敵の殲滅排除です。いきます」
 ハクィルゥのガトリングガンからの連続攻撃が容赦なくドリームイーターの身体を蜂の巣のように穴だらけにする。
「全員で全力攻撃よね!」
 血色の瞳が敵をねめつける。ロングコートの裾をなびかせ達人の域に達した凄腕の攻撃を仕掛けてゆくコーデリア。
「……幾度も同じ攻撃とは、我を愚弄するつもりか?」
 ドリームイーターはコーデリアの攻撃をごくわずかな所作だけでかわす。
「全力総攻撃だよっ! いい加減やられちゃいなさいっ!!」
 朔耶の身体を追おうバトルオーラは拳へと力を集め、音速を超える速さでドリームイーターの腹を撃つ。
「否! ケルベロスにこそ終焉を」
 短く答えたドリームイーターのモザイク輝く刀剣が、攻撃を仕掛けようとしていたゼファーを襲う。
「て、てめぇ……きたねぇ、ぞっ」
 2分前の合図に攻勢を強めようとしていたゼファーは隙を突かれた。飛び散るモザイクのキラキラとした破片の乱舞を最後に視界がブラックアウトする。
「いいや、何があっても終焉を迎えるのはてめぇだ。」
 葛は雷の闘気を帯びた螺旋手裏剣を投げつける。ぱっくりと割れていたドリームイーターの膝がさらに破砕され、とうとうバランスを崩し砂に沈む。それでもドリームイーターはまだ絶命していない。のろのろと顔を左右に振り敵を探す。
「どこを見ている」
 力を失った右手に残るモザイクの剣に飛び乗り走る清士朗が大きくジャンプする。ふりかざした得物から魂を喰らう降魔の一撃が放たれる。
「どうせ死しても肥しにもならぬ厄介者らしく、消えるがいいのじゃ!」
 かなめの攻撃がまたしても大地ごとドリームイーターを真上から地面のさらに下へと切り付けてゆく。もはや、敵には放たれた攻撃を避けることも、耐えることもできそうにない。
「攻勢に出ます……システムチェンジ、モード・アクィラ起動。突貫します、周囲の味方は巻き込まれないよう退避を推奨致します」
 ハクィルゥのエネルギーが背の翼と戦闘機能に優先的に回される。それは彼女に一時的に高速飛行を可能とさせ、周囲の空気は刃のように鋭くなってドリームイーターの身体を切り裂く。あと少し、もう少しなのにコーデリアの攻撃はまたしても敵を捉えることが出来ない。ミミックが具現化した武装で戦うがそれも終焉を与えるほどの効果はない。
「私としたことが失敗してしまったわね」
 コーデリアは悔しそうに唇を噛む。
「いい加減倒れなさい! このぱちもん!」
 朔耶のきらめく軌跡と重力を宿した両足がドリームイーターのでかい顎を正確にとらえて蹴りあげる。ぐらぁりと敵がのけぞり、一瞬止まる。
「是非も……ない」
 満身創痍の右手が上がり、刃こぼれしたかのようにボロボロになったモザイクの剣が空中で姿勢を立て直す前の朔耶ごと空間を薙ぎ払った。猛スピードで激突した朔耶の身体は砂にめり込んですっかり見えない。
「くそったれがぁ」
 葛が最後の攻撃へと身構えた瞬間、のけぞったままだったドリームイーターの全身はモザイクとなって、はらはらと崩壊してゆく。最後まであきらめなかったケルベロス達の攻撃、その積み重ねがぎりぎりでドリームイーターを倒すことが出来たのだ。
「任務は完了されました」
 まだ関節部から蒸気を放ちつつ、冷静で抑揚のない声でハクィルゥが言う。たった今まで激しい戦いを繰り広げてきた砂浜はあちこちデコボコしてしまっているが、ヒールが必要というほどではない。
「パチモンの大根役者が、てめぇの『終わり』はここだ」
 大きなダメージを負わされ、砂に腰を下ろしたままのゼファーは小さくつぶやく。
「連中も懲りないね。少しは懲りなさいっ! でも、何回来たって全部叩きのめしてやるんだからね!」
 ゼファーと同じく立っていられないほどの深い傷を負った朔耶だが、舌鋒はいささかも衰えてないらしい。
「致し方なし。あれらはそういうモノじゃからのぉ」
 かなめは身体についた砂を払いながら言う。心地のよい海風が長い銀色の髪を揺らす。
「お疲れ様だったわね」
 コーデリアは珍しく口に出して相棒をねぎらう。ミミックの感情はよくわからないが、きっと同じように嬉しく思ってくれているのだろう。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
 葛に手を貸してもらって立ち上がったリュセフィーは丁寧に礼を言うが、その葛の身体が不意にバランスを崩す
「大丈夫ですか?」。
「ははっ……こ、腰が、ちょ、ちょっとな」
 二人は互いに助け合いながら砂浜を去ってゆく。寄せては返す波がすべてを洗い流し、海からの風がここを元通りの砂浜にしてくれるだろう。
「速やかな帰還を推奨します」
 ハクィルゥの進言にケルベロス達が戦場を去ってゆく。
「悪戯に生み出されし哀れなる魂へ。安寧あらんことを」
 神前で行う時のように、清士朗はドリームイーターが消えた場所に正式の拝礼をし、この場を後にした。

作者:神南深紅 重傷:ゼファー・ルヴォイド(孤高の西風・e05538) 照月・朔耶(白鷲陽炎・e07837) リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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